説明

管内推進装置および管内推進装置を備えた内視鏡

【課題】内視鏡のような小型の装置を小腸のようなルーメンまたは管内で連続的に推進する管内推進装置を提供すること。
【解決手段】管内推進装置が、複数のチューブを互いに螺旋状に巻きつけ、各チューブの一端を密閉して形成した管集成体を具備し、該管集成体の前記複数のチューブの各々の前記密閉した端部とは反対側の端部を流体圧源に接続し、(1)前記複数のチューブのうち1本のチューブに前記流体圧源から圧力を印加し、(2)該チューブを減圧すると共に他の1本のチューブを加圧し、(3)上記(1)(2)の工程を最初のチューブに戻るまで重複することなく全てのチューブについて順次に行い、(4)上記(1)〜(3)の工程を繰り返すことによって前記管集成体が管内において該管の軸方向に移動するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管内で推進力を発生し移動する管内推進装置に関する。本発明は、また該管内推進装置を備えた内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、医療や工業分野で広く用いられており、診断または観察対象部の近傍へ画像を捉える光学装置や照明装置、診断装置、サンプル採取装置等を先端部に取付けた光ファイバー、ケーブル、チューブ、チャンネル等を束ねた柔軟な細長い紐状の集成体を具備している。
【0003】
こうした内視鏡を管やルーメン、特に人の小腸内を移動させるために、駆動装置または推進装置を備えた内視鏡が開発されている。例えば、特許文献1には、内視鏡先端に二つのバルーンと、その間にある伸縮部とから成る推進装置が取付けられ、バルーンを交互に膨らませながら伸縮させて内視鏡を駆動するバルーン式推進装置を備えた内視鏡が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、前後に逆向きの螺旋状の鍔をもつ筒を取付け、該筒をモータで回転させて、鍔を腸壁にこすり付けて移動する逆ねじ式の推進装置を備えた内視鏡が開示されている。
【0005】
非特許文献2には、内部が複数に仕切られたチューブに圧力をかけ、内視鏡の表面に表面波を作り出して推進力を得るラバーアクチュエータ式の推進装置を備えた内視鏡が開示されている。
【0006】
更に、非特許文献3には、ダブルバルーン式を長くし、節数を増やして自動化した蠕動運動式の推進装置を備えた内視鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−358222号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鵜川源也 他:"逆ねじ型推進機構を用いた内視鏡ロボットに関する研究 -推進力を最大化させるためのフィン・リードおよびモータ配置の検討-",第28回日本ロボット学会学術講演会(DVD-ROM),3K1-4,名古屋,2010年
【非特許文献2】尾崎健 他:"大腸内視鏡誘導ラバーアクチュエータの新断面形状の導出と基礎実験",第28回日本ロボット学会学術講演会(DVD-ROM),1N3-2,名古屋,2010年
【非特許文献3】安達和紀 他:"蠕動運動を規範とした小腸検査用多段式内視鏡ロボットの開発",ロボティクス・メカトロニクス講演会2011(DVD-ROM),2P1-A02,岡山,2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のバルーン式推進装置は、手動による操作が複雑であるだけでなく、内視鏡先端部でしか推進力が発生できない問題がある。
【0010】
非特許文献1の逆ねじ式の推進装置は腸壁に対して強い摩擦動作を起こすため人体で用いる場合には安全性に問題があり、非特許文献2に記載のラバーアクチュエータ式の推進装置は動きが小刻みなため推進速度が遅い問題があり、更に、非特許文献3に記載の蠕動運動式の推進装置は、速度が遅く、流路を塞ぎ、腸壁等に対して摩擦も生じるといった問題がある。
【0011】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、特に内視鏡のような小型の装置を小腸のようなルーメンまたは管内で連続的に推進する管内推進装置を提供することを目的としている。また、本発明は、こうした推進装置を備えた内視鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明によれば、柔軟で内部に圧力を加えることによって伸縮可能な複数のチューブを互いに螺旋状に巻きつけ、各チューブの一端を密閉して形成した管集成体を具備し、
該管集成体の前記複数のチューブの各々の前記密閉した端部とは反対側の端部を流体圧源に接続するようにした管内推進装置において、
(1)前記複数のチューブのうち1本のチューブに前記流体圧源から圧力を印加し、
(2)該チューブを減圧すると共に他の1本のチューブを加圧し、
(3)上記(1)(2)の工程を最初のチューブに戻るまで重複することなく全てのチューブについて順次に行い、
(4)上記(1)〜(3)の工程を繰り返すことによって前記管集成体が管内において該管の軸方向に移動するようにした管内推進装置を要旨とする。
【0013】
また、本発明の他の特徴によれば、前記推進装置の管集成体の先端部に取付けられたCCDのようなイメージセンサと対物レンズを含む光学装置、LEDのような照明装置、診断装置、ハサミやクリップのようなサンプル採取装置或いはこれらを組合せた先端デバイスを備えた内視鏡が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のチューブを捻って接着して細長い紐状の本体を形成し、該本体を管内に配して、チューブ内を1本ずつ順番に加圧すれば、本体全体が螺旋捻転運動して、本体を管内で推進することができる。複数のチューブが少なくとも3本のチューブを具備する場合、加圧する順序を逆にすることによって螺旋捻転運動の方向も逆転し推進方向が逆転する。また体軸に沿った長さは常に変わらないので、ここに柔軟な中空管やケーブルを通せば、軟性内視鏡としても利用できる。また元来柔軟なチューブを束ねただけなので柔軟で、屈曲部も容易に通過可能である。
【0015】
本発明を内視鏡の推進装置として用いる場合、従来の内視鏡、例えばダブルバルーン式の推進装置を備えた内視鏡と比較して、格段に容易に内視鏡を操作可能となる。また逆ねじ式の推進装置は直径17mmで速度1.7mm/s、ラバーアクチュエータ式の推進装置は直径12mm程度で速度は3.1mm/s、蠕動運動式の推進装置は直径15mmで17mm/sであるのに対して、本発明によれば、直径5mm程度で速度は40mm/s程度と圧倒的に小型で高速な推進装置を製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施形態による内視鏡の概略ブロック図である。
【図2】管集成体としての本体の挙動を示す略図である。
【図3】管内における本体の挙動を説明する略示斜視図である。
【図4】管内における本体の移動態様を説明するための略示斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1において、本発明の好ましい実施形態による内視鏡10は、中心チャンネル16の周囲に複数の本実施形態では、第1、第2、第3チューブ14a、14b、14cを互いに螺旋状に巻き付け或いは撚り合わせて形成された細長い紐状の管集成体から成る本体14と、該本体14の先端に取付けられたCCDのようなイメージセンサと対物レンズを含む光学装置、LEDのような照明装置、診断装置、ハサミやクリップのようなサンプル採取装置或いはこれらを組合せた先端デバイス12とを具備している。中心チャンネル16には、参照番号16aで示すような先端デバイス12からの光信号を伝達するための光ファイバー、先端デバイス12へ電力を供給するためのケーブル、先端デバイス12を操作するためのワイヤー等を通すことができる。こうして、先端デバイス12を、その制御装置、処理装置、表示装置17等に接続可能となる。第1、第2、第3チューブ14a、14b、14cは柔軟な材料、例えばシリコーン樹脂やシリコーンゴムから形成されている。本体14は、第1、第2、第3チューブ14a、14b、14cを互いに螺旋状に巻き付け或いは撚りあわせた後に、その表面をシリコーンゴムを塗布、被覆して第1、第2、第3チューブ14a、14b、14cを互いに接着して形成することができる。
【0018】
第1、第2、第3のチューブ14a、14b、14cは、夫々第1空圧供給管路20a、第2空圧供給管路20b、第3空圧供給管路20cを介して空圧源20に接続されている。第1、第2、第3空圧供給管路20a、20b、20cには、制御装置28によって制御される夫々第1、第2、第3制御弁24a、24b、24cが配設されている。第1、第2、第3制御弁24a、24b、24cは例えば2位置3ポートのソレノイド弁とすることができ、制御装置28によって各々のソレノイドを付勢、消勢することによって、第1、第2、第3のチューブ14a、14b、14cを独立に空圧源20に連通させたり大気に開放することができる。空圧源20は、コンプレッサーや病院内のサービスエアとすることができる。制御装置28は、第1、第2、第3制御弁24a、24b、24cのソレノイドへ電位を供給する電源、電位を供すべきソレノイドを切り換えるためのリレー、切換のタイミングをとるためのタイマー、全体を制御するためのマイクロコンピューター等を含むことができる。
【0019】
本体14の3本のチューブのうち1本のチューブ、例えば第1チューブ14a内に圧力を印加すると、図2に示すように、本体14は全体が螺旋状に変形して螺旋体14′となる。以下、この螺旋体14′の中心を螺旋体中心軸Ah、第1、第2、第3のチューブ14a、14b、14cの中心を体軸Abと定義する。本体14を管内で図3に示すように螺旋体14′変形させると、加圧されたチューブ、図3では第1チューブ14aが、螺旋体中心軸Ah沿いにすべての箇所で管18の内壁に密着した形態となる。
【0020】
図3では第1チューブ14aが加圧された状態であり、この状態から第1チューブ14aを減圧すると共に第2チューブ14bを加圧すると、第2チューブ14bが従前の第1チューブ14aの位置に移動する。すなわち、本体14が体軸Abを中心として反時計回りに回転する。そして第2チューブ14bが従前の第1チューブ14aの位置に移動した後、該第2チューブ14bを減圧すると共に第3チューブ14cを加圧することによって、上述の回転運動を行うことができ、第1、第2、第3のチューブ14a、14b、14c間でこのような加圧、減圧を順次繰り返すことによって、螺旋体14′が連続的に回転運動を続けることができる。このように体軸Abを中心として螺旋体14′が回転運動を行うことを螺旋捻転運動と称する。螺旋捻転運動を管内で行うと、螺旋体14′の体軸Abは管18、例えば小腸の内壁に対して傾いているため螺旋体14′は、螺旋体14′の体軸Abに垂直な方向に転がり、螺旋体14′が、図4に示すように、螺旋軌道を描いて移動する。
【0021】
本実施形態によれば、第1、第2、第3のチューブ14a、14b、14cの間で加圧する管を順次に変更することによって、周期運動の形態で推進力が生成される。周期的な連続運動を生成するには、構成する複数の要素を周期的に配置して、それらを順番に変更すればよい。
【0022】
既述の実施形態では、本体14は3本のチューブ14a〜14cを備えている。然しながら、本発明は、この形態に限定されず、4本またはそれ以上のチューブを備えていてもよい。チューブが3本以上であれば周期を決定することができ、前進と後退の二つの動作を切り替えられる。但し、本体14が2本のチューブしか備えていない場合、周期的な回転運動とはならず移動することはできない。
【0023】
また、既述の実施形態では、流体圧源として空圧源20を示したが、本発明は、これに限定されず、作動流体として生理食塩水を用いてもよい。
【0024】
更に、内視鏡10がカメラによる観察専用の内視鏡の場合、中心チャンネル16を用いることなく、電線の周囲に直接チューブを螺旋状に巻きつけるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
10 内視鏡
12 先端デバイス
14 本体
14′ 螺旋体
14a 第1チューブ
14b 第2チューブ
14c 第3のチューブ
16 中心チャンネル
18 管
20 空圧源
20a 第1空圧供給管路
20b 第2空圧供給管路
20c 第3空圧供給管路
24a 第1制御弁
24b 第2制御弁
24c 第3制御弁
28 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟で内部に圧力を加えることによって伸縮可能な複数のチューブを互いに螺旋状に巻きつけ、各チューブの一端を密閉して形成した管集成体を具備し、
該管集成体の前記複数のチューブの各々の前記密閉した端部とは反対側の端部を流体圧源に接続するようにした管内推進装置において、
(1)前記複数のチューブのうち1本のチューブに前記流体圧源から圧力を印加し、
(2)該チューブを減圧すると共に他の1本のチューブを加圧し、
(3)上記(1)(2)の工程を最初のチューブに戻るまで重複することなく全てのチューブについて順次に行い、
(4)上記(1)〜(3)の工程を繰り返すことによって前記管集成体が管内において該管の軸方向に移動するようにした管内推進装置。
【請求項2】
前記管集成体は少なくとも3本のチューブを具備する請求項1に記載の管内推進装置。
【請求項3】
前記少なくとも3本のチューブは中空チャンネルまたは電線を中心として互いに螺旋状に巻きつけられている請求項2に記載の管内推進装置。
【請求項4】
前記少なくとも3本のチューブはシリコーンゴムより成り、前記中空チャンネルと共にシリコーンゴムによって被覆され一体化している請求項1〜3の何れか1項に記載の管内推進装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の管内推進装置を備えた内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111110(P2013−111110A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257613(P2011−257613)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ロボティクス・メカトロニクス講演会2011講演論文集(発行所:一般社団法人 日本機械学会 発行日:平成23年5月26日) 日本コンピュータ外科学会誌 第13巻第3号(発行所:日本コンピュータ外科学会 発行日:平成23年11月22日)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】