説明

電子レンジ加熱に適したパン類

【課題】電子レンジ加熱後のパン硬化を抑制し、かつ口どけ感が良好なパン類を提供する。
【解決手段】小麦粉を主成分として粗蛋白量が9質量%以上、かつ11.5質量%未満である穀粉類100質量部に対して、
(A)油脂1〜67質量部
(B)保湿剤0.001〜2質量部
(C)乳化剤0.1〜7質量部
を含有する電子レンジ加熱に適したパン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温保存状態、冷蔵保存状態又は冷凍保存状態にあるものを電子レンジ加熱後、喫食をするパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストア、ファーストフード等の店頭において、パン類、特にホットドックやハンバーガーを中心とした調理パンを電子レンジにて加熱してから消費者に供する場面が増加している。また、一般家庭にあっても、購入してきたパンを自宅の電子レンジにて加熱し、温かい状態で喫食することも増加してきている。ところが、電子レンジにより加熱されたパンは急速に硬くなり、ヒキを感じ、著しく食感が損ねられる。更に、近年コンビニエンスストア等では短時間での加熱を可能とするため出力1000Wを超える高出力の電子レンジが使用されており、上記電子レンジ加熱による食感の低下は更に促進されているのが現状である。
【0003】
上記のような背景の中で、電子レンジ加熱、特に高出力電子レンジ加熱を行っても加熱後の硬化を抑制し、更に口どけの良い食べ易いパンが求められている。従来の技術として、油脂、乳化剤配合により食感の改善が提案されてきた(特許文献1、2)。また、電子レンジ加熱を前提としたパンに増粘剤を用いた技術があり、例えば、アルギン酸エステルを用いる技術(特許文献3)、澱粉α化物と保水性を有する食物繊維を使用する技術(特許文献4)、食用油脂、乳化剤及びα化澱粉を使用する技術(特許文献5)、乳化剤、油脂及び卵白を使用する技術(特許文献6)等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−287435号公報
【特許文献2】特開平2−222639号公報
【特許文献3】特開2002−281915号公報
【特許文献4】特開平4−36140号公報
【特許文献5】特開平11−262356号公報
【特許文献6】特開平2−222639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子レンジ加熱によるパン類の食感低下という問題を解決しようとした場合、前記、油脂や乳化剤を配合する技術によれば、その添加量を通常のパンと比較して多くすることが必要である。すると、ある程度のレンジ加熱による食感低下抑制効果は得られるものの、結果として過剰に添加した乳化剤自身の影響等が出ることにより、パンとしての風味・食感が良好とならない場合があった。
【0006】
また、増粘剤やα化澱粉等を用いる技術においては、増粘剤、α化澱粉等を保水剤として作用させ、電子レンジ加熱に伴う急激な過熱においても、パン類の水分保持能を向上させることにより、上記条件下でパン類が、硬化等により品質低下するのを防ぐことが目的である。即ち、上記作用を効果的に発現させるためには、パン生地調製中に、増粘剤又はα化澱粉を十分に分散させる必要がある。ところが、当該物質は一旦吸水すると凝集し易く分散性が低下するため、焼成して得られたパン類は、電子レンジ加熱した場合に食感低下抑制効果があまり発揮されない上、凝集した増粘剤により良好な食感が得られ難い場合があった。
【0007】
従って、本発明は、常温保存状態、冷蔵保存状態又は冷凍保存状態にあるパン類を電子レンジで加熱しても、加熱後の急激な硬化、ヒキの発生を抑制し、かつ口どけ感の良好な食感を有するパン類を提供することを目的とする。特に、業務用高出力(1000W以上)の電子レンジを用いて加熱をした場合でも食感が良好なパン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、小麦粉を主成分として粗蛋白量が9質量%以上、かつ11.5質量%未満である穀粉類100質量部に対して、
(A)油脂1〜67質量部
(B)保湿剤0.001〜2質量部
(C)乳化剤0.1〜7質量部
を含有する電子レンジ加熱に適したパン類を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、常温保存状態、冷蔵保存状態又は冷凍保存状態にあるパン類を電子レンジで加熱しても、加熱後の急激な硬化、ヒキの発生を抑制し、かつ口どけ感の良好な食感を有するパン類とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する穀粉類は、小麦粉を主成分として粗蛋白量が9質量%(以下、単に「%」で示す)以上、かつ11.5%未満であることが必要である。通常、パンは強力粉のみで調製され、一般に、強力粉中の粗蛋白量は11.5〜13.0%の範囲にあるが(田中康夫,松本博編,製パンの科学II 製パン材料の科学,光琳(1992))、穀粉類中の粗蛋白量を9%以上、かつ11.5%未満とすることにより、電子レンジ加熱におけるパン硬化の原因の1つである、小麦粉中の蛋白質が熱変性することによる凝集を防止し、電子レンジを用いて加熱をした場合でも食感が良好なパン類を得ることができる。なお、本発明において「パンの硬化」とは、パンを食した時に「ヒキを感じる(即ち、パンに歯応えがあり、切れ難くなる)」現象をいう。
【0011】
本発明における穀粉類中の粗蛋白量を調整する方法としては、強力粉の他に、強力粉よりも粗蛋白量が少ない準強力粉、中力粉、薄力粉、澱粉又は加工澱粉のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、強力粉以外の上記穀粉のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。この場合、穀粉類中の粗蛋白量は9%以上、かつ11.5%未満であることが必要であるため、少ない場合はバイタルグルテン等により粗蛋白量を調整する必要がある。
【0012】
更に、小麦粉中の蛋白は粉の種類により、量だけではなく質も異なる。即ち、水と混捏した際の物理的性状(レオロジー特性)を比較した場合、強力粉、準強力粉は弾力性が高く、薄力粉は弾力性が低いという性質を有しており、熱変性後の強度についても薄力粉の方が弾力性が低い。よって、電子レンジ加熱後のパン硬化を抑制する観点から、物理的性状において弾力性が低い薄力粉、蛋白質をほとんど含まない澱粉及び加工澱粉と強力粉の組合せにより、穀粉類中の粗蛋白量を調整することがより好ましい。
【0013】
また、粗蛋白量が少なすぎるとパン類製造の際に生地粘弾性が低減し、生地がべたつく、パンのボリュームが出ない等の問題が生じるため、製パン作業性の観点から一定以上の粗蛋白量があることが必要である。穀粉類中の粗蛋白量は9%以上であることが必要である。以上より、電子レンジ加熱後のパン硬化抑制、製パン作業性の観点から、本発明で使用する小麦粉を主成分とした穀粉類中の粗蛋白量は9%以上、かつ11.5%未満であることが必要であり、更に9.5〜11%、特に9.8〜10.7%であることが好ましい。
【0014】
本発明に使用する小麦粉を主成分とした穀粉類は、強力粉と薄力粉を組み合わせる場合は、穀粉類中の強力粉と薄力粉の比率が90:10〜50:50、更に80:20〜60:40であることが、電子レンジ加熱後のパン硬化抑制、製パン作業性の観点から好ましい。また、強力粉と澱粉又は加工澱粉を組み合わせる場合は、穀粉類中の強力粉と澱粉又は加工澱粉の比率が95:5〜76:24、更に85:15〜80:20であることが、電子レンジ加熱後のパン硬化抑制、製パン作業性の観点から好ましい。
【0015】
加工澱粉の具体例としては、アセチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、オクテニルコハク酸化澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、酢酸澱粉、酸化澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等が挙げられる。電子レンジ加熱後のパンの硬化を抑制し、食感の低下を抑制する観点から、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸、エピクロルヒドリン等、常用の架橋剤を用いた架橋化処理、特にリン酸架橋処理が好ましい。リン酸化処理の程度としては、結合リン含量が0.0001〜2%の範囲が挙げられるが、0.0001〜0.5%、更に0.0001〜0.2%であるものが風味、食感(口どけ感)を向上させる点から好ましい。
【0016】
また、前記加工澱粉は、それぞれ他の加工処理を組み合わせることにより別の加工澱粉としても良い。組み合わせることのできる加工処理としては酢酸、リン酸等のエステル化処理やヒドロキシプロピル化、カルボキシメチルエーテル化等によるエーテル化処理、アセチル化処理、酸化処理、酸処理、漂白処理、湿熱処理、熱処理、酵素処理等が挙げられ、その内1種又は2種以上の加工を組み合わせても良い。
【0017】
本発明で使用する油脂(A)は、動物性、植物性のいずれでも良く、バター、ラード、マーガリン、ショートニングなどの可塑性を持ったもの、液状油、又はそれらに水素添加をした硬化油(固体脂)、エステル交換油等幅広く用いることができる。配合量は、穀粉類100質量部(以下、単に「部」で示す)に対し1〜67部であるが、好ましくは3〜60部、更に5〜55部とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明で使用する油脂(A)は、融点25〜50℃の油脂(A1)と融点20℃以下の液体油(A2)を併用することが好ましい。
融点25〜50℃の油脂(A1)は、パン製造の面から見るとパンの内相組織の改良や容積の増大、機械耐性の向上等の機能を持ち、一般的にはバター、ラード、マーガリン、ショートニングなどの可塑性を持ったものが一般的に用いられる。J.C.Baker等は添加された油脂がパン生地の成型醗酵工程中で固形であることが有効に働くための必要条件であることを確認している。液状油や醗酵温度で融解してしまう油脂を練り込んだパン生地は、油脂を使用しないパン生地と同様、オーブン内での膨張が早期に停止し、容積の小さいパンしか得られていない。この理由は液状油の生地の場合、澱粉の糊化やグルテンの熱凝固が起こらない低い温度で生じる水蒸気、空気などによって膨張する力を保持できず、これらが生地外に蒸散してしまうためであると述べている(田中康夫,松本博編,製パンの科学II 製パン材料の科学,光琳(1992)/J.C.Baker,M.D.Mize,Cereal Chem.,19,84(1942))。
よって、好ましい油脂の特性としては、融点として25〜50℃が必要であるが、好ましくは27〜45℃、更に好ましくは30〜40℃であり、室温における性状は、半固体又は固体状態である。油脂(A)中のSFC(25℃)は、5〜40%、好ましくは10〜35%、更に好ましくは15〜30%である。
【0019】
上記油脂には動植物油及びそれらに水素添加をした硬化油(固体脂)、エステル交換油が用いられる。具体的な油脂(A1)としては、動物油としては牛脂、豚脂、魚油が用いられ、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油等が挙げられる。油脂(A1)の穀粉類100部に対する配合量は、0.5〜50部であるが、更に2.5 〜43部、特に4.5〜38部とすることが製パン作業性及び風味の点から好ましい。
【0020】
融点20℃以下の液体油(A2)は、ナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、米油、魚油等の食用油脂の内、融点が20℃以下のものである。好ましくは融点が10℃以下の液状油が好ましく、中でもナタネ油、コーン油、大豆油及び米油が好ましい。更に、液状油としてはジアシルグリセロール及び中鎖脂肪酸を含有したトリグリセライド及びジグリセライドも上記融点条件を満たすものであれば使用できる。融点20℃以下の液体油(A2)の最適な配合量としては、穀粉類100部に対して0.5〜17部であり、更に1〜10部であることが、電子レンジ加熱後のパン硬化抑制、製パン作業性の点から好ましい。
【0021】
本発明における(B)保湿剤としては、蛋白質、増粘多糖類等が挙げられる。
保湿剤の添加量は穀粉類100部に対して0.001〜2部、好ましくは0.01〜1.5部、更に0.05〜1部であることが、電子レンジ加熱後の充分なパン硬化抑制効果と良好な食感の両立の点から好ましい。
【0022】
蛋白質としては水に溶解した時、粘性を呈する物質であれば良く、乳蛋白質及び植物性蛋白質等が挙げられる。乳蛋白質としてはナトリウムカゼイン、カルシウムカゼイン、レンネットカゼイン、ミルクカゼイン、ミルクホエー、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン等が挙げられる。
【0023】
また、増粘多糖類としては、ジェランガム、カラヤガム、タマリンド種子ガム、タラガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、プルラン、グアーガム、イオタカラギナン、HMペクチン、LMペクチン、トラガントガム、結晶性セルロース、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、SSHC(水溶性大豆多糖類)、ガティガム、メチルセルロース、サイリウムシード及びカシヤガム等が挙げられる。これら蛋白質及び増粘多糖類の中から1種を単独で用いても良いし、また異なる2種以上を組み合わせて用いても良い。中でも風味及び食感の点よりキサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガムが好ましく、更に好ましくはキサンタンガムである。
【0024】
本発明で使用する乳化剤(C)としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、レシチン誘導体等が挙げられ、2種以上の混合系で用いられることが好ましい。乳化剤(C)の添加量は穀粉類100部に対して0.1〜7部、好ましくは0.1〜5部とすることが、(1)乳化剤自身によりパン硬化を抑制する点から好ましく、また、液体油(A2)を用いた場合には、(2)粉体状態にある保湿剤(B)を液体油(A2)中に固定分散化させ、結果としてパンの食感(口どけ性)を向上させる点から好ましい。
【0025】
更に、(C)乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルを用いることが、上記(1)の点から好ましい。本発明のグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンと脂肪酸のエステル又はその誘導体であり、グリセリン脂肪酸モノエステル(通常モノグリセリド)、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等を示す。また、本発明のプロピレングリコール脂肪酸エステルとは、プロピレングリコールと脂肪酸のエステルであり、モノエステル型、ジエステル型のものが用いられる。中でも、グリセリン脂肪酸モノエステル、プロピレングリコール脂肪酸モノエステルが上記(1)の点から好ましく、特に、これらを併用することが好ましい。即ち、グリセリン脂肪酸モノエステルとプロピレングリコール脂肪酸モノエステルの合計が乳化剤中80重量%以上であり、かつ、グリセリン脂肪酸エステル/プロピレングリコール脂肪酸モノエステル=1/0.5〜2.0の重量比率で、好ましくはほぼ1/1の重量比率であることが好ましい。また、融点20℃以下の液体油(A2)/乳化剤(C)の重量比率が6.5以下(液体油配合量を乳化剤配合量で割った値)、更に1.7〜6.5、特に2.0〜6.5、殊更3.0〜6.5とすることが、上記(2)の点から好ましい。即ち、液体油(A2)を流動性が無い状態まで硬化することが可能となり、かつ、同じ液体油中に分散されている粉体状態の保湿剤(B)を均一に、かつ、沈澱すること無く固定分散化できる。
【0026】
本発明において、液体油が流動性が無く硬化した状態の尺度として、針入度を定めることができる。ここで、針入度とは、ASTM−D217(「ASTM針入度の測定方法」Annual Book of Standards 1994.Section 5,Volume 05.01内のD217)に記載された針入度の測定に準じて次のように測定される値である。即ち、縦115mm×横115mm×深さ90mmの容器に油脂組成物を詰め、表面を平らにする。これを測定温度(20℃)に30分間放置した後、102.5gの円錐形の荷重を装着した針(Penetrometer Cone)を、表面を接して静置し、5秒後の進入距離を0.1mm単位で表示する。ここで、針入度は一般に数値が小さいほど、測定試料が硬いことを表す。本発明において、油脂組成物が流動性が無く硬化した状態にあるためには、針入度が200以下、特に100以下にすることが好ましい。
【0027】
また、前記(1)の点から、グリセリン脂肪酸モノエステルが有効である。より効果的に電子レンジ加熱後のパンの硬化防止効果を発現するためには、グリセリン脂肪酸モノエステルを5〜20部、更に7〜15部配合することが好ましい。グリセリン脂肪酸モノエステルがこの範囲にあると他の乳化剤に比べて電子レンジ加熱後のパンの硬化防止効果が高くなる。また、前記(2)の点から、プロピレングリコール脂肪酸モノエステルの配合量は、5〜20部、更に7〜15部とすることが好ましい。
【0028】
本発明におけるグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルの構成成分としての脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の炭素数12〜22の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸が挙げられ、特に飽和脂肪酸が好ましく、炭素数14〜22の飽和脂肪酸が最も好ましい。これら脂肪酸は単一で構成されていても良いが、2種以上の混合系で構成されていてもよい。
【0029】
他の使用できる乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステルの1形態として記載されているグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルとは、グリセリン脂肪酸モノエステルの3位のOH基を有機酸でエステル化した化合物である。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸で構成される脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、コハク酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸等のオキシ酸、及びグリシン、アスパラギン酸等のアミノ酸が例示される。特に、クエン酸、コハク酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸が好適で、HLBは4〜14のものが好適である。
【0030】
また、市販のグリセリン有機酸エステルは、未反応の有機酸やグリセリン脂肪酸モノエステルを一部含むが、このような市販のグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルも本発明に適用できる。
更に、ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成するポリグリセリンの具体例としては、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、ナノグリセリン、デカグリセリンなどからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。特にグリセロールの重合度が1〜9のものが好ましい。
【0031】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノレイン酸とのエステルであり、通常、グリセリングリセリン重合度2〜3のポリグリセリンとリシノレイン酸の3〜5の縮合リシノレイン酸とのモノもしくはジエステルの混合物が用いられる。
【0032】
本発明に用いられるショ糖脂肪酸エステルとは、ショ糖と脂肪酸のエステルであり、モノ、ジ、トリ及びポリエステル等を含み、構成脂肪酸としては炭素数12〜24の脂肪酸の単一又は2種以上の混合系が好ましい。また、HLBは5〜15のものが好適である。
【0033】
本発明に用いられるソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビタンと脂肪酸のエステルであり、構成脂肪酸としては炭素数12〜24の脂肪酸の単一又は2種以上の混合系が好ましい、ソルビタン脂肪酸エステルにはモノエステル型とトリエステル型のものがあるが、本発明ではモノエステル型のものが好適である。
本発明に用いられるレシチンは、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸等によりなるリン脂質混合物であって、大豆あるいは、卵黄等から得られるレシチンが代表的なものである。また、レシチン誘導体としてはリゾレシチン、リゾフォスファチジン酸等が挙げられる。
【0034】
本発明においては、通常パンに用いられる全ての糖類を用いることができる。具体的にはグルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、マルトース、ショ糖、麦芽糖、水飴、異性化糖、転化糖、サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン、デキストリンなどの多糖類、澱粉加水分解物などの還元糖、ソルビトール、マルチトール、キシリトールなどの糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウムなどを使用することができ、これらは1種又は2種以上の混合系で使用することができる。糖類の配合量は、穀粉類を100部とした時のパン生地中で3〜50部であることが好ましく、更に5〜45部、特に10〜35部とすることが製パン作業性及びパン風味の点から好ましい。
【0035】
本発明においては、(A2)融点20℃以下の液体油、(B)保湿剤、(C)乳化剤を事前に混合し、油脂組成物(E)を調製し、穀粉類に配合することが好ましい。油脂組成物(E)としては、(A2)融点20℃以下の液体油50〜85部、(B)保湿剤0.1〜10部、(C)乳化剤10〜35部を含有し、(A2)/(C)の重量比率が6.5以下であるように調製したものが、上記(1)及び(2)の効果の点から好ましい。
また、油脂組成物中の(C)乳化剤の配合量は、(A2)/(C)の重量比率が6.5以下を満たした上で、更に14〜26部とすることが、上記(2)の点から好ましい。尚、このように(C)乳化剤を油脂組成物(E)としてパン中に配合する場合、更に必要量の(C)乳化剤を、油脂組成物(E)とは別個にパン中に配合することもできる。
【0036】
なお、本発明における油脂組成物(E)には、その他の成分として、保存料、pH調製剤、色素、香料等を適宜使用してもよい。
具体的な油脂組成物(E)の製造方法としては、まず成分(A2)及び(C)を各成分の融点温度以上の温度で加熱し、均一溶解させた後、成分(B)を添加し、均一に混合撹拌する。上記均一になったものを上記各成分の融点以下の温度、好ましくは30℃以下まで冷却することにより目的の油脂組成物を得る。上記、冷却速度は速いほうが好ましい。即ち、冷却により乳化剤が結晶化する際、徐冷よりも急冷の方がより結晶が粗大化しないことより乳化剤自身の分散性を向上させ、電子レンジ加熱後のパンの硬化防止効果を促進する点より好ましい。上記製造において、高温状態にある均一混合物を冷却するの際には均一混合物を入れている容器自身を外部から冷却しても良いが、一般的にショートニング、マーガリン製造に用いられるチラー、ボテーター、コンビネーター等を用いて急冷する方が性能上好ましい。
【0037】
本発明において、パン調製時に添加する油脂組成物(E)の配合量は、パンに使用する穀粉類100部に対して、1〜20部、更に3〜10部であることが、前記(1)及び(2)の効果を発現する点から好ましい。
【0038】
本発明におけるパンの原料としては、主原料としての小麦粉を主成分とする穀粉類の他に、イーストフード、水、乳製品、食塩、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー等が挙げられる。更に、一般に原料として用いると老化しやすくなる、レーズン等の乾燥果実、小麦ふすま、全粒粉等を使用することができる。
【0039】
パン類の製造方法としては、ストレート法(直捏法)、中種製法、液種製法、湯種製法などが挙げられる。
【0040】
本発明のパン類としては、フィリングなどの詰め物をしたパンも含まれ、食パン、特殊パン、調理パン、菓子パンなどが挙げられる。具体的には、食パンとしては白パン、黒パン、フランスパン、バラエティーブレッド、ロール(テーブルロール、バンズ、バターロールなど)が挙げられる。特殊パンとしてはマフィンなど、調理パンとしてはホットドッグ、ハンバーガーなど、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、リッチグッズ(クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュペストリー)などが挙げられる。
【0041】
本発明のパン類は、焼成後、電子レンジ加熱前に冷蔵または冷凍状態にて保管することが、常温保存と比較して長期間保存が可能となり、パン生産効率を上げ、低コスト化が可能となる点から好ましい。
【実施例】
【0042】
本発明における試験例1〜6、及び9〜13に使用した油脂組成物(a〜f)の組成を表1に示した。また、油脂組成物a〜eの調製方法を次に示した。なお、油脂組成物dについては下記(A2)に替えて(A1)に該当する油脂を用いた。
【0043】
〔油脂組成物の調製方法〕
1)容量2リットルのステンレス製ビーカーに成分(A2)及び(B)を秤量する。
2)上記1)を85℃水浴中にて均一溶解し、30分間放置する。
この際、アンカー型フックを用い、スリーワンモータ(HIDON社製TYPE60G)を用いて撹拌を行った。
3)上記2)に予め秤量しておいた成分(C)を撹拌しながら添加し、均一になったことを確認後、30分放置する。
4)上記3)において、水浴中に大量の氷を入れて、30℃まで冷却し、30℃に温度を維持したまま、撹拌を行い、所定の容器に移す。
5)上記4)を15℃恒温槽にて1晩(約12時間)放置し、針入度測定及び製パン評価を行った。
【0044】
油脂組成物a〜fについての、(A2)融点20℃以下の液体油又は(A1)融点25〜50℃の油脂と、乳化剤(C)の配合比率及び針入度の測定結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記油脂組成物a〜fを配合した試験例1〜13のパン生地を調製し、これを焼成した後、製パン評価を行った。評価を行ったパン配合を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
<パン調製条件>
(製パン)
1.中種生地調製条件
縦型ミキサー(関東ミキサー、5コート)、フックを用い、表2記載の中種配合材料をミキサーに入れ、低速3分、中高速2分で混捏し、捏上温度を25℃とし、中種生地とした。次に、これを発酵(中種発酵)させた。この時の条件は下記の通りである。
中種発酵温度 28.0℃
中種発酵相対湿度 80%
中種発酵時間 2時間30分
中種発酵終了温度 29.0℃
2.本捏生地調製条件
縦型ミキサー(関東ミキサー、10コート)に、中種配合生地を入れ、本捏配合材料(マーガリン、油脂組成物、キサンタンガム以外の材料)を添加し、低速3分、中高速3分で混捏後、残った材料(マーガリン、油脂組成物、キサンタンガム)を添加し、低速3分、中高速2分、高速2分で混捏し、本捏生地とした。本捏生地の捏上温度は26.5℃とした。
次に、混捏でダメージを受けた生地を回復させるために、28.0℃にてフロアータイムを20分とり、この後60gの生地に分割した。分割での生地ダメージをとるために、ベンチタイムを27.0℃で20分とり、モルダーで成型した。天板に成型した生地をのせ、発酵(ホイロ)を行った。ホイロの条件は下記の通りである。
ホイロ温度 38℃
相対湿度 80%
ホイロ時間 50分
上記条件にて調製したパン生地を190℃のオーブンで12分間焼成した。焼成後、室温(20℃)において45分間冷却後、ビニール袋に入れ、密閉し、以下の保存条件にて、保存を行い、パンサンプルとした。
(1) 20℃ ・ 1日保存
(2) 5℃ ・ 1日保存
(3) −20℃ ・ 12日間保存
【0049】
<電子レンジ加熱評価>
1)電子レンジ加熱後のパン貫通力試験方法
上記(1)〜(3)の3条件のパンサンプルについてシャープ社製電子レンジ RE−6200(出力1600W)を用いて、(1)及び(2)のパンサンプルは20秒加熱を行い、(3)のパンサンプルは25秒加熱を行った。加熱後、パンを室温にて5分間放置し、パン上面より高さ(厚み)方向に2cmの部分を切り取り、測定サンプルとした。上記切り取った厚み2cmの測定サンプルを島津製作所製「テクスチャーアナライザー EZ Test」を用いて貫通力を測定した。具体的には試料台に円形のパン固定台を設置し、その上に測定サンプルをパン上部(上面)を上として静置した。更に、上記測定サンプル上部より、直径5mmの針状の棒を300mm/minの速度にて貫通させ、その際の最大荷重を貫通力とした。
2)電子レンジ加熱後のパン官能評価
上記(1)〜(3)の3条件のパンサンプルについてシャープ社製電子レンジ RE−6200(出力1600W)を用いて、(1)及び(2)のパンサンプルは20秒加熱を行い、(3)のパンサンプルは25秒加熱を行った。加熱後、5分間放置したパンを喫食した際のヒキのなさ、口どけ感について10名のパネラーによるモナディック評価を行った。ヒキのなさは電子レンジ加熱後のパン硬化抑制効果を示す。これらの結果を表3に示す。
◎;10名中8名以上が良好であると判断した。
○;10名中5〜7名が良好であると判断した。
△;10名中3〜4名が良好であると判断した。
×;10名中8名以上が良好ではないと判断した。
【0050】
【表3】

【0051】
上記のように、本発明のパンは、電子レンジによる加熱後もパンの硬化が抑制され、ヒキが無く、かつ口どけ感の良好なパンが得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主成分として粗蛋白量が9質量%以上、かつ11.5質量%未満である穀粉類100質量部に対して、
(A)油脂1〜67質量部
(B)保湿剤0.001〜2質量部
(C)乳化剤0.1〜7質量部
を含有する電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項2】
(A)油脂が、(A1)融点25〜50℃の油脂0.5〜50質量部、及び(A2)融点20℃以下の液体油0.5〜17質量部を配合するものである請求項1に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項3】
(A2)融点20℃以下の液体油50〜85質量部、(B)保湿剤0.1〜10質量部、(C)乳化剤10〜35質量部を含有し、(A2)/(C)の比率が6.5以下である(E)油脂組成物を予め調製し、小麦粉100質量部に対して、
(A1)融点25〜50℃の油脂0.5〜50質量部
(E)油脂組成物1〜20質量部
を配合するものである請求項1又は2に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項4】
穀粉類が強力粉と、薄力粉、澱粉又は加工澱粉から選択される1種又は2種以上との組合せである請求項1〜3の何れか1項に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項5】
更に、電子レンジ加熱前にパンを冷蔵または冷凍状態にて保管する請求項1〜4の何れか1項に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。