黒色染料組成物
【課題】物性や色相等にばらつきがなく、黄色成分の含有量が少なく、溶解性及び経時安定性に優れている黒色染料組成物を提供すること。
【解決手段】テトラキスアゾ体(I)、10〜30%、トリスアゾ体40〜60%(II)、及びジスアゾ体2〜15%、を含有する黒色染料組成物。
【解決手段】テトラキスアゾ体(I)、10〜30%、トリスアゾ体40〜60%(II)、及びジスアゾ体2〜15%、を含有する黒色染料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンやサインペンなどの筆記具用インキまたはインクジェット記録用インキに用いられる水性黒色染料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
C.I.ダイレクトブラック19は合成染料であり、黒色染料として広く用いられている。この染料は、一般にはテトラキスアゾ化合物とされている(カラーインデックス構造番号35255参照)。しかしながら、市販されているC.I.ダイレクトブラック19は、テトラキスアゾ化合物以外にも、テトラキス以上のポリアゾ化合物や、トリスアゾ、ジスアゾ、モノアゾの化合物等の低級アゾ化合物を含んでいる。市販品では染料の物性や色相を調節するために意図的に副生成物を含有させているのである。
【0003】
例えば特開昭57−115468号公報(特許文献1)には、テトラキスアゾ化合物20〜60%、及び副生成物であるトリスアゾ化合物80〜40%を含有する水性黒色インキ組成物が記載されている。また、特開2002−3740号公報(特許文献2)には、テトラキスアゾ化合物及びジスアゾ化合物を含有する黒色染料組成物、及び更にトリスアゾ化合物をも含有する黒色染料組成物が記載されている。特開昭56−22370号公報(特許文献3)には、C.I.ダイレクトブラック19タイプの直接染料について、液体クロマトグラフィーによりそのピーク比を測定し、このピーク比の測定値が1.0以下である染料について記載されている。
【0004】
C.I.ダイレクトブラック19は、一般に、以下のような方法で製造される。まず、p−ニトロアニリンをジアゾ化し、これにH酸をカップリングさせて、式
【0005】
【化1】
【0006】
で表されるニトロアゾ化合物を得る。このニトロアゾ化合物を還元して、式
【0007】
【化2】
【0008】
で表されるジスアゾ化合物を得る。亜硝酸塩を用いて、ジスアゾ化合物の末端アミノ基をジアゾ化する。そして、フェニレンジアミンをジアゾ化されたジスアゾ化合物にカップリングさせて、式
【0009】
【化3】
【0010】
で表されるテトラキスアゾ化合物を得る。
【0011】
特許文献1及び2では、下記スキーム1に示されるように、ニトロアゾ化合物(化合物1)の還元を不完全に行うことにより未反応のニトロ基を残し、そのことによって最終的にジスアゾ化合物(化合物2)やトリスアゾ化合物(化合物3)等の低級アゾ化合物を生成させている。
【0012】
【化4】
スキーム1
【0013】
しかし、このような還元反応は進行を制御することが困難であり、還元剤量、反応時間、温度を管理したとしても、ニトロ基の一部還元を再現性よく行うことはできない。その結果、還元後混合物の組成が一定にならないため、最終生成物の組成も一定にならず、黒色染料組成物の物性や色相等にばらつきが生じる。
【0014】
また、従来の製造方法では黄色成分が生成しやすく、これが染料の溶解性や溶解安定性を左右するのみならず、筆記具や記録機器の樹脂部分を黄化させたり、ボールペンなどに用いられる液栓を黄色に着色するなど外観の点からも問題視されている。特にインクジェット記録に使用する場合は、ヘッドの部分にこの黄色成分が堆積することでインク滴の飛行経路・着弾点が徐々に変化し、記録精度が悪化するという不具合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭57−115468号公報
【特許文献2】特開2002−3740号公報
【特許文献3】特開昭56−22370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、物性や色相等にばらつきがなく、黄色成分の含有量が少なく、溶解性及び経時安定性に優れている黒色染料組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、式
【0018】
【化5】
【0019】
で表されるテトラキスアゾ体10〜30%、式
【0020】
【化6】
【0021】
及び式
【0022】
【化7】
【0023】
で表されるトリスアゾ体40〜60%、及び式
【0024】
【化8】
【0025】
で表されるジスアゾ体2〜15%、を含有する黒色染料組成物を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0026】
本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有していない。
【0027】
なお、本明細書において単に「%」と表示された割合は高速液体クロマトグラフィー分析結果のピーク面積から計算された面積%を意味する。高速液体クロマトグラフィー分析は実施例に記載の条件に準じて行えばよい。また、ニトロアゾ化合物とは芳香環上の置換基としてニトロ基を有するアゾ化合物をいう。
【発明の効果】
【0028】
本発明の黒色染料組成物は従来の染料組成物と比べて、トリスアゾ体およびジスアゾ体に対するテトラキスアゾ体の含有量が少なく、更にニトロアゾ化合物を実質上含有しないため、水性媒体に対して高い溶解性を示し、かつ溶解安定性にも優れている。
【0029】
また、本発明の製造方法を用いることにより、ジスアゾ体(IV)のジアゾ化率を制御することができ、安定した物性及び色相の染料組成物を再現性よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の黒色染料組成物では、テトラキスアゾ体(I)は10〜30%、好ましくは13〜25%の量で含有される。テトラキスアゾ体(I)の量が10%未満であると染色物や記録物の耐水性が低下するおそれがあり、30%を超えると水に対する溶解性および安定性が低下することがある。
【0031】
トリスアゾ体(II)は40〜60%、好ましくは45〜55%の量で含有される。トリスアゾ体(II)の量が40%未満である場合は、テトラキスアゾ体の量が30%以上となることが多くなり、それにより水に対する溶解性および安定性が低下する恐れが生じる。また、トリスアゾ体が60%を超える場合は、テトラキスアゾ体およびジスアゾ体の生成が少なくなり、所望の性能が得られないことがある。
【0032】
ジスアゾ体(III)は通常2〜15%、好ましくは4〜12%の量で含有される。ジスアゾ体(III)の量が15%を超えると、色相が赤味に偏るため、ダイレクトブラック19に期待される色相から外れる原因となる。また、記録物の耐水性が低下する。
【0033】
また、本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有しないか、例えば高速液体クロマトグラフィーなどの機器分析において検知されない。
【0034】
本発明の黒色染料組成物は、例えば、以下のような工程を包含する方法によって調製される。
【0035】
工程1):p−ニトロアニリンとH酸の反応
式
【0036】
【化9】
【0037】
で表されるp−ニトロアニリンをジアゾ化し、これに、式
【0038】
【化10】
【0039】
で表されるH酸をカップリングさせて、式
【0040】
【化11】
【0041】
で表されるニトロアゾ化合物を得る。
【0042】
この反応において、p−ニトロアニリンをH酸の2.0〜2.3倍モル量仕込むことでニトロアゾ化合物(V)の生成純度が最も良くなる。また、ジアゾ化したp−ニトロアニリンは、H酸の溶解液に20〜60分、好ましくは30〜45分かけて投入することが望ましい。投入に要する時間がこれ以上であっても、これ以下であっても生成するニトロアゾ化合物(V)の純度は低下する。
【0043】
工程2):還元反応
このニトロアゾ化合物(V)を完全に還元して、式
【0044】
【化12】
【0045】
で表されるジスアゾ体を得る。
【0046】
ニトロアゾ化合物(V)の還元においては、投入したp−ニトロアニリンを完全に還元するのに必要とされる量、例えば硫化ナトリウムの場合は1.2〜1.8倍モル量の還元剤を用いて反応させる。還元剤としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、及び多硫化ナトリウムのような硫化塩、好ましくは硫化ナトリウム(Na2S)を用いる。反応温度及び反応時間は、全てのニトロ基が還元され且つ過剰反応が生じないように制御する。
【0047】
すなわち、この時点で、ニトロアゾ化合物(V)や、式
【0048】
【化13】
【0049】
【化14】
【0050】
で表されるニトロアゾ化合物のような、未反応のニトロ基を有するアゾ化合物は反応液中に存在しない。そのため、その後の反応工程においても、例えば、式
【0051】
【化15】
【0052】
【化16】
【0053】
で表されるようなニトロアゾ化合物は生成しない。従って、本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有しない。
【0054】
工程3):ジアゾ化反応
ジスアゾ体(IV)の末端アミノ基の一部をジアゾ化する。そのために、ジアゾ化に用いる亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ソーダ)の量を、工程1で使用したH酸に対し0.8〜1.4倍モル、好ましくは1.0〜1.2倍モルとする。その結果、反応液中には、以下の(Xa)〜(Xc)で表されるアゾ体及び未反応のジスアゾ体(IV)が含有される。
【0055】
【化17】
【0056】
【化18】
【0057】
【化19】
【0058】
ジアゾ化に用いる亜硝酸塩の使用量が、使用した(仕込み時の)H酸のモル量に対して1.4倍モル以上ではテトラゾ体(Xa)の生成量が多くなり、その結果、次工程でのm−フェニレンジアミンとのカップリング反応の後、テトラキスアゾ染料(I)の生成量が30重量%を越えることが多く、得られた染料組成物の水に対する溶解性及び安定性が低下する。また、亜硝酸塩の使用量が0.8倍モル以下では、テトラゾキスアゾ染料(I)の生成量が少なくなり、水性インキにした場合の印字の耐水性が低下すると共に色相も青色となり、黒色染料として好ましくない。
【0059】
工程4):反応液のpH調整
塩基性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ソーダ水溶液)を用いて、得られた反応液のpHを1〜4に調整する。これにより、この後カップリングのために投入されるm−フェニレンジアミン(第2カップリング成分)が、テトラゾ液中でジアゾ化されることを防ぎ、m−フェニレンジアミン同士の自己カップリングを抑えることができる。
【0060】
尚、m−フェニレンジアミン同士が自己カップリングすると、モノアゾ化合物が生成する。このようなモノアゾ化合物は、従来から問題であった黄色成分の発生源と考えられている。
【0061】
反応液のpHが1未満であると、反応液中に微量に残存する亜硝酸塩によりフェニレンジアミンがジアゾ化され、これが他のフェニレンジアミンとカップリングすることにより、不純物となるモノアゾ成分が生成する原因となる。また、4を超えると、ジアゾニウム塩が分解されるため、生成物の純度が低下する原因となる。
【0062】
工程5):カップリング
式
【0063】
【化20】
【0064】
で表されるフェニレンジアミンを、ジアゾ化されたジスアゾ体にカップリングさせる。すなわち、pHを調整した反応液に対して、工程3)で仕込んだ亜硝酸塩の1.0〜1.3倍モルのフェニレンジアミンを反応させる。その結果、テトラキスアゾ体(I)、トリスアゾ体(II)及び(III)、及びジスアゾ体(IV)を所定量含有する本発明の黒色染料組成物が得られる。フェニレンジアミンの量が多くても少なくても、生成する染料の純度が低下する原因となる。
【0065】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化
その後、反応液を活性炭に接触させて、黄色成分の含有量を更に低減させてもよい。例えば、染料の水溶液を調整する際に、水溶液全量に対して1.0〜10.0%(w/v)の活性炭を投入し、加熱処理を行うことで染料混合物内の黄色成分をほぼ除去することができる。
【0066】
得られた染料組成物は、例えば、15〜30重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤を含むイオン交換水、等)と混合して溶解安定性及び経時安定性のよい濃厚溶液とすることができる。
【0067】
また、染料組成物を、例えば、1〜15重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤や界面活性剤を含むイオン交換水、等)と混合してボールペンやサインペンなどの筆記具用インキとすることができる。
【0068】
また、染料組成物を、例えば、1〜10重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤や界面活性剤を含むイオン交換水、等)と混合してインクジェット記録用インキとすることができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の記載において「部」は、「重量部」を意味する。
【0070】
実施例1
工程1)ニトロアゾ化合物(V)の合成
22.0部の炭酸ナトリウムを水1000部に溶解し、H酸(1−アミノ−8−ナフトール−3,6−ジスルホン酸)117.0部を投入した。60℃に加熱してH酸が溶解したことを確認した後、0℃以下まで冷却しておいた。この時の反応混合物のpHは6.8であった。一方で、水300部に290部の濃塩酸(35%)を加え、p−ニトロアニリン107.6部を投入し60℃に加熱して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、50℃以下に冷却し、更に40部の濃塩酸を加えた後、放冷しまたは氷を投入して−5℃に冷却した。これに36%亜硝酸ナトリウム水溶液153.2部を一度に加えた後、液温を0〜5℃に保って20分撹拌し、ジアゾ化した。スルファミン酸5部を加えて亜硝酸を除去した後、このジアゾ液を先に調整したH酸溶液に40分かけて滴下し、全てのジアゾ液を滴下後0〜5℃を保ちながら更に90分撹拌した。20%水酸化ナトリウム水溶液470部を徐々に投入しpHを9.1とした後、10℃で3時間撹拌し、更に室温で一晩撹拌した。
【0071】
この反応液に関してHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析したところ、ニトロアゾ化合物(V)のHPLC純度はピーク面積の割合で75.5%を示した(図1)。
【0072】
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の測定は、下記の分析条件で行なった。高速液体クロマトグラフ分析装置は、日立製作所社製、商品名LaChrom7000シリーズHPLCを使用した。
【0073】
分析条件
カラム(固定相)
充填剤:ODS−Lカラム
サイズ:4.6×250mm
溶出液(移動相)
溶出液A:アセトニトリル:THF:H2O=31:13:56、Pic A reagentを15ml/Lで添加。
測定条件
流速:1ml/分
温度:45℃
検出波長:313nm
この測定条件ではグラジエントをかけずに行なった。
【0074】
工程2)ニトロアゾ化合物(V)の還元
反応混合物を15℃に調整し、強撹拌しながら硫化ナトリウム水和物(Na2S・nH2O、Na2Sとして含量60%)141.9部を徐々に投入して30℃以下で1時間撹拌した。反応液が完全に溶解していることを確認した後、濃塩酸320部を15分かけて滴下し、60℃に加熱して更に30分撹拌した。析出物を熱時濾過し、ヌッチェ上において濾液の色が紫色に変化するまで希塩酸(0.4%)で洗浄した後、圧搾してジスアゾ体(IV)のプレスケーキAを得た。
【0075】
このケーキAについてHPLC分析したところ、ジスアゾ体(IV)のHPLC純度はピーク面積の割合で79.0%を示した(図2)。
【0076】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
水300部に上記ジスアゾ体(IV)のプレスケーキAを入れ、20%水酸化ナトリウム水溶液90部を加えた後、更に水を添加して全量を1200部とし、50〜60℃で1時間撹拌した。更に水酸化ナトリウム水溶液を追加して溶液のpHを9.5に調整した後、同温度で1時間撹拌して濾紙濾過を行ない、ジスアゾ体(IV)を含む反応混合物を得た。
【0077】
この反応混合物に濃塩酸220部を徐々に添加した後、氷を加えて液温を5℃とした。36%亜硝酸ナトリウム水溶液78.0部を30分かけて滴下した後、5℃以下で3時間撹拌した。スルファミン酸を添加して過剰の亜硝酸を除去した。これに20%炭酸ナトリウム水溶液596部を30分かけて滴下し、反応混合物のpHを3.0に調整した。
【0078】
一方で水600部にm-フェニレンジアミン52部を入れ、40℃に加熱して完全に溶解させた後、氷を投入して20℃とした。これを反応混合物へ添加し、適宜氷を加えて5℃以下の調整した後、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.5〜9.5に調整しつつ、13℃で一晩反応させた。濃硫酸を氷に投入して希釈したものを用意しておき、反応混合物へ滴下してpH酸性とした。60℃に加熱した後、熱時濾過を行ない、ヌッチェ上において水で濾液の色が青味に変化するまで洗浄した後、圧搾して、目的とする混合物のプレスケーキBを得た。
【0079】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化
水600部を55℃に加熱し、これにプレスケーキB全量を投入し、20%水酸化ナトリウム水溶液60部を添加して50〜60℃で30分撹拌した。水酸化ナトリウム水溶液を追加してpHを10.3とし完全に溶解させた後、活性炭30部を加えて同温度で1時間撹拌した。珪藻土15部を加えてしばらく撹拌した後、40℃以下に冷却して一晩静置した。pHが10.3であることを確認した後、濾紙を用いて固形分を除去し、濾液の染料濃度を20%に調整して目的とする染料水溶液(濃厚溶液)を得た。濃厚溶液の収量は1430部であった。
【0080】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.6%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)15.3%、ジスアゾ体10.9%であった(図3)。
【0081】
また、可視吸収スペクトルを測定したところ、λmax=652nm(水)であった(図4)。
【0082】
実施例2
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0083】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体を溶解するために水酸化ナトリウム水溶液を追加投入する際、活性炭12部を加え同温度で1時間撹拌した他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0084】
以下に記す黄色成分の確認試験を行ったところ、黄色成分の極めて少ないものであることを確認した。
【0085】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については実施例1と同様な方法で行なった。
【0086】
得られた水溶液に関しHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.4%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)14.4%、ジスアゾ体6.3%であった(図5)。
【0087】
実施例3
第1カップリング工程のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び還元工程のニトロアゾ化合物の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0088】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体のジアゾ化において、20%炭酸ナトリウム水溶液の代わりに、10%水酸化ナトリウム水溶液584部を滴下してpHを3.0に調整したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0089】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については実施例1と同様な方法で行なった。
【0090】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.3%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)15.9%、ジスアゾ体4.9%であった(図6)。
【0091】
実施例4
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行った。
【0092】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体(IV)のジアゾ化において、36%亜硝酸ナトリウム水溶液85部を使用したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0093】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については、実施例1と同様な方法で行った。
【0094】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体43.5%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)26.9%、ジスアゾ体2.55%であった(図7)。
【0095】
比較例1
テトラキスアゾリッチなダイレクトブラック19の合成法
【0096】
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0097】
ジアゾ化反応、フェニレンジアミンとのカップリング
水300部に、還元工程で得られたジスアゾ体のプレスケーキAを入れ、20%水酸化ナトリウム水溶液90部を加えた後、更に水を添加して全量を1200部とし、50〜60℃で1時間撹拌した。更に水酸化ナトリウム水溶液を追加して溶液のpHを9.5に調整した後、同温度で1時間撹拌して濾紙濾過を行ないジスアゾ体の水溶液を得た。この水溶液に氷を加えて液温を0℃以下とし、36%亜硝酸ナトリウム水溶液140.4部を投入した後、濃塩酸345部を一度に投入して、10℃以下で3時間撹拌した。スルファミン酸を添加して、亜硝酸を除去した。
【0098】
一方で水600部にm-フェニレンジアミン75.0部を入れ、40℃に加熱して完全に溶解させた後、氷を投入して20℃とした。これをテトラゾ液へ添加し、適宜氷を加えて5℃以下に調整した後、同温度で約1時間撹拌した。20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.5〜9.5に調整しつつ、13℃で一晩反応させた。
【0099】
濃硫酸36部を氷に投入して希釈したものを用意しておき、テトラキスアゾ溶液へ滴下して溶液のpHを酸性(pH3.0)とした。60℃に加熱した後、熱時濾過を行ない、ヌッチェ上において水で濾液の色が青味に変化するまで洗浄した後、圧搾して目的とする混合物のプレスケーキBを得た。
【0100】
得られたプレスケーキBについてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体7.3%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)56.1%、ジスアゾ体2.4%であった(図8)。
【0101】
比較例2
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行った。
【0102】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体(IV)のジアゾ化において、36%亜硝酸ナトリウム水溶液90部を使用したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0103】
工程6)について、活性炭処理および珪藻土処理を行なわない他は実施例1とほぼ同様に処理して、リキッド化を行なった。
【0104】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体44.8%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)31.7%、ジスアゾ体2.9%であった(図9)。
【0105】
比較例3
特開2002−3740号、実施例1記載の方法による染料組成物の調製
p−ニトロアニリン22.1g(0.16mol)を常法に従って塩酸酸性でジアゾ化し、水酸化ナトリウムを用いて中性に調整したH酸31.9g(0.1mol)を含む水溶液と混合し、先ず酸性でカップリングさせた。次いで、無水炭酸ナトリウム14gの水溶液を加えて、アルカリ性でカップリングさせた。こうして得られた調製物のHPLCスペクトルを図10に示す。
【0106】
図10のHPLCスペクトル:保持時間4.88分にモノニトロ化合物(式A)のピークが観測され、11.04分にニトロアゾ化合物(式B、これは上記式Vで表わされるニトロアゾ化合物と同じである)のピークが観測された。なお、HPLCにおける面積割合は、A成分が44.4%であり、B成分が49.7%であった。
【0107】
【化21】
(式A)
【0108】
【化22】
(式B)
【0109】
この後、水硫化ナトリウム34.4g(0.61mol)を添加して還元し、生成した染料中間体を塩・酸析した後、濾過して取り出した。得られた濾過物のHPLCスペクトルを図11に示す。
【0110】
図11のHPLCスペクトル:保持時間3.47分にモノニトロ化合物(A)の還元物(式C)のピークが観測され、3.89分にニトロアゾ化合物(B)の還元物(式D、これは上記式IVで表わされる本発明のジスアゾ体と同じである)のピークが観測された。HPLCにおける面積割合は、C成分が44.7%であり、D成分が53.9%であった。
【0111】
【化23】
(式C)
【0112】
【化24】
(式D)
【0113】
この濾過ケーキを中性で水に溶解し、ジアゾ化し、m−フェニレンジアミン16.8g(0.16mol)を含む水溶液を添加してカップリングさせ、染料成分を塩・酸析して結晶化させ、濾過して取り出した。取り出した濾過物のHPLCスペクトルを図12に示す。
【0114】
図12のHPLCスペクトル:保持時間4.96分に(式E)で表されるジスアゾ体のピークが観測され、9.48分に(式F)で表されるテトラキスアゾ体のピークが観測された。なお、式Fのテトラキスアゾ体は、上記式Iで表わされる本発明のテトラキスアゾ体と同じである。HPLCにおける面積割合は、F成分が40.1%であり、E成分が42.1%であった。
【0115】
【化25】
(式E)
【0116】
【化26】
(式F)
【0117】
評価方法
【0118】
1.初期溶解性試験
評価の方法は、染料組成物(ナトリウム塩)の20重量%染料水溶液を室温で作成して、
完全に溶解したもの:○
不溶解分が認められるもの:×
とした。
【0119】
2.再溶解試験
最初に、得られた20重量%染料水溶液100mlの1μm-メンブレンフィルター(cellurose nitrate)における濾過時間を計測した。一方で、20重量%染料水溶液を冷凍庫で一晩凍結させておき、翌朝これを室温に放置し1日かけて解凍した。この解凍したものを軽く振り混ぜた後、100mlを取って、1μm-メンブレンフィルターを用いて同様に濾過速度を測定した。
【0120】
評価の方法は
F=(解凍前の染料水溶液の濾過時間)/(解凍後の染料水溶液の濾過時間)
で表し、測定値Fが0.7以上のものをA、0.7〜0.5のものをB、0.5〜0.35のものをC、0.35以下のものをDとした。また凍結・解凍後の濾過試験において、濾紙上に残渣が確認された場合は不可とした。
【0121】
実施例1〜4で合成したものについての評価は全てにおいてAであり、フィルター上に濾過残渣は確認されなかった。一方、比較例1および3のものの評価は不可であり、比較例2のものでは評価はBであった。
【0122】
3.黄色成分の確認
得られた10重量%染料水溶液を25℃に調整し、これにマルチファイバークロス(色染社製)を適当な大きさに切り分けたものを60秒間浸漬した。60秒後染色したクロスを大量の水にて洗った後、更に5分間水にさらして余分な染料を洗い出した後、クロスを自然乾燥して、アセテート生地部分の着色度合いを目視にて判定した。
【0123】
着色が殆ど確認されない:○
着色が確認される :×
【0124】
実施例1〜4について黄色成分の着色はほとんど確認できなかった。一方、比較例1〜3については黄色成分の着色が確認された。
【0125】
表1に実施例及び比較例の結果をまとめた。
【0126】
【表1】
*比較例3のジスアゾ体の欄に記載される面積割合(42.1)%は、上記比較例3中の式Eで示される化合物の面積割合である。この式Eで示される化合物は上記式Eに示すとおり、上記式IVで表わされる本発明のジスアゾ体とは異なる化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】ニトロアゾ化合物(V)のHPLCスペクトルを示す。
【図2】ジスアゾ体(IV)のHPLCスペクトルを示す。
【図3】実施例1の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図4】実施例1の染料水溶液の可視吸収スペクトルを示す。
【図5】実施例2の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図6】実施例3の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図7】実施例4の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図8】比較例1の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図9】比較例2の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図10】比較例3の調製物のHPLCスペクトルを示す。
【図11】比較例3の濾過物のHPLCスペクトルを示す。
【図12】比較例3の濾過物のHPLCスペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンやサインペンなどの筆記具用インキまたはインクジェット記録用インキに用いられる水性黒色染料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
C.I.ダイレクトブラック19は合成染料であり、黒色染料として広く用いられている。この染料は、一般にはテトラキスアゾ化合物とされている(カラーインデックス構造番号35255参照)。しかしながら、市販されているC.I.ダイレクトブラック19は、テトラキスアゾ化合物以外にも、テトラキス以上のポリアゾ化合物や、トリスアゾ、ジスアゾ、モノアゾの化合物等の低級アゾ化合物を含んでいる。市販品では染料の物性や色相を調節するために意図的に副生成物を含有させているのである。
【0003】
例えば特開昭57−115468号公報(特許文献1)には、テトラキスアゾ化合物20〜60%、及び副生成物であるトリスアゾ化合物80〜40%を含有する水性黒色インキ組成物が記載されている。また、特開2002−3740号公報(特許文献2)には、テトラキスアゾ化合物及びジスアゾ化合物を含有する黒色染料組成物、及び更にトリスアゾ化合物をも含有する黒色染料組成物が記載されている。特開昭56−22370号公報(特許文献3)には、C.I.ダイレクトブラック19タイプの直接染料について、液体クロマトグラフィーによりそのピーク比を測定し、このピーク比の測定値が1.0以下である染料について記載されている。
【0004】
C.I.ダイレクトブラック19は、一般に、以下のような方法で製造される。まず、p−ニトロアニリンをジアゾ化し、これにH酸をカップリングさせて、式
【0005】
【化1】
【0006】
で表されるニトロアゾ化合物を得る。このニトロアゾ化合物を還元して、式
【0007】
【化2】
【0008】
で表されるジスアゾ化合物を得る。亜硝酸塩を用いて、ジスアゾ化合物の末端アミノ基をジアゾ化する。そして、フェニレンジアミンをジアゾ化されたジスアゾ化合物にカップリングさせて、式
【0009】
【化3】
【0010】
で表されるテトラキスアゾ化合物を得る。
【0011】
特許文献1及び2では、下記スキーム1に示されるように、ニトロアゾ化合物(化合物1)の還元を不完全に行うことにより未反応のニトロ基を残し、そのことによって最終的にジスアゾ化合物(化合物2)やトリスアゾ化合物(化合物3)等の低級アゾ化合物を生成させている。
【0012】
【化4】
スキーム1
【0013】
しかし、このような還元反応は進行を制御することが困難であり、還元剤量、反応時間、温度を管理したとしても、ニトロ基の一部還元を再現性よく行うことはできない。その結果、還元後混合物の組成が一定にならないため、最終生成物の組成も一定にならず、黒色染料組成物の物性や色相等にばらつきが生じる。
【0014】
また、従来の製造方法では黄色成分が生成しやすく、これが染料の溶解性や溶解安定性を左右するのみならず、筆記具や記録機器の樹脂部分を黄化させたり、ボールペンなどに用いられる液栓を黄色に着色するなど外観の点からも問題視されている。特にインクジェット記録に使用する場合は、ヘッドの部分にこの黄色成分が堆積することでインク滴の飛行経路・着弾点が徐々に変化し、記録精度が悪化するという不具合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭57−115468号公報
【特許文献2】特開2002−3740号公報
【特許文献3】特開昭56−22370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、物性や色相等にばらつきがなく、黄色成分の含有量が少なく、溶解性及び経時安定性に優れている黒色染料組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、式
【0018】
【化5】
【0019】
で表されるテトラキスアゾ体10〜30%、式
【0020】
【化6】
【0021】
及び式
【0022】
【化7】
【0023】
で表されるトリスアゾ体40〜60%、及び式
【0024】
【化8】
【0025】
で表されるジスアゾ体2〜15%、を含有する黒色染料組成物を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0026】
本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有していない。
【0027】
なお、本明細書において単に「%」と表示された割合は高速液体クロマトグラフィー分析結果のピーク面積から計算された面積%を意味する。高速液体クロマトグラフィー分析は実施例に記載の条件に準じて行えばよい。また、ニトロアゾ化合物とは芳香環上の置換基としてニトロ基を有するアゾ化合物をいう。
【発明の効果】
【0028】
本発明の黒色染料組成物は従来の染料組成物と比べて、トリスアゾ体およびジスアゾ体に対するテトラキスアゾ体の含有量が少なく、更にニトロアゾ化合物を実質上含有しないため、水性媒体に対して高い溶解性を示し、かつ溶解安定性にも優れている。
【0029】
また、本発明の製造方法を用いることにより、ジスアゾ体(IV)のジアゾ化率を制御することができ、安定した物性及び色相の染料組成物を再現性よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の黒色染料組成物では、テトラキスアゾ体(I)は10〜30%、好ましくは13〜25%の量で含有される。テトラキスアゾ体(I)の量が10%未満であると染色物や記録物の耐水性が低下するおそれがあり、30%を超えると水に対する溶解性および安定性が低下することがある。
【0031】
トリスアゾ体(II)は40〜60%、好ましくは45〜55%の量で含有される。トリスアゾ体(II)の量が40%未満である場合は、テトラキスアゾ体の量が30%以上となることが多くなり、それにより水に対する溶解性および安定性が低下する恐れが生じる。また、トリスアゾ体が60%を超える場合は、テトラキスアゾ体およびジスアゾ体の生成が少なくなり、所望の性能が得られないことがある。
【0032】
ジスアゾ体(III)は通常2〜15%、好ましくは4〜12%の量で含有される。ジスアゾ体(III)の量が15%を超えると、色相が赤味に偏るため、ダイレクトブラック19に期待される色相から外れる原因となる。また、記録物の耐水性が低下する。
【0033】
また、本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有しないか、例えば高速液体クロマトグラフィーなどの機器分析において検知されない。
【0034】
本発明の黒色染料組成物は、例えば、以下のような工程を包含する方法によって調製される。
【0035】
工程1):p−ニトロアニリンとH酸の反応
式
【0036】
【化9】
【0037】
で表されるp−ニトロアニリンをジアゾ化し、これに、式
【0038】
【化10】
【0039】
で表されるH酸をカップリングさせて、式
【0040】
【化11】
【0041】
で表されるニトロアゾ化合物を得る。
【0042】
この反応において、p−ニトロアニリンをH酸の2.0〜2.3倍モル量仕込むことでニトロアゾ化合物(V)の生成純度が最も良くなる。また、ジアゾ化したp−ニトロアニリンは、H酸の溶解液に20〜60分、好ましくは30〜45分かけて投入することが望ましい。投入に要する時間がこれ以上であっても、これ以下であっても生成するニトロアゾ化合物(V)の純度は低下する。
【0043】
工程2):還元反応
このニトロアゾ化合物(V)を完全に還元して、式
【0044】
【化12】
【0045】
で表されるジスアゾ体を得る。
【0046】
ニトロアゾ化合物(V)の還元においては、投入したp−ニトロアニリンを完全に還元するのに必要とされる量、例えば硫化ナトリウムの場合は1.2〜1.8倍モル量の還元剤を用いて反応させる。還元剤としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、及び多硫化ナトリウムのような硫化塩、好ましくは硫化ナトリウム(Na2S)を用いる。反応温度及び反応時間は、全てのニトロ基が還元され且つ過剰反応が生じないように制御する。
【0047】
すなわち、この時点で、ニトロアゾ化合物(V)や、式
【0048】
【化13】
【0049】
【化14】
【0050】
で表されるニトロアゾ化合物のような、未反応のニトロ基を有するアゾ化合物は反応液中に存在しない。そのため、その後の反応工程においても、例えば、式
【0051】
【化15】
【0052】
【化16】
【0053】
で表されるようなニトロアゾ化合物は生成しない。従って、本発明の黒色染料組成物はニトロアゾ化合物を実質上含有しない。
【0054】
工程3):ジアゾ化反応
ジスアゾ体(IV)の末端アミノ基の一部をジアゾ化する。そのために、ジアゾ化に用いる亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ソーダ)の量を、工程1で使用したH酸に対し0.8〜1.4倍モル、好ましくは1.0〜1.2倍モルとする。その結果、反応液中には、以下の(Xa)〜(Xc)で表されるアゾ体及び未反応のジスアゾ体(IV)が含有される。
【0055】
【化17】
【0056】
【化18】
【0057】
【化19】
【0058】
ジアゾ化に用いる亜硝酸塩の使用量が、使用した(仕込み時の)H酸のモル量に対して1.4倍モル以上ではテトラゾ体(Xa)の生成量が多くなり、その結果、次工程でのm−フェニレンジアミンとのカップリング反応の後、テトラキスアゾ染料(I)の生成量が30重量%を越えることが多く、得られた染料組成物の水に対する溶解性及び安定性が低下する。また、亜硝酸塩の使用量が0.8倍モル以下では、テトラゾキスアゾ染料(I)の生成量が少なくなり、水性インキにした場合の印字の耐水性が低下すると共に色相も青色となり、黒色染料として好ましくない。
【0059】
工程4):反応液のpH調整
塩基性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ソーダ水溶液)を用いて、得られた反応液のpHを1〜4に調整する。これにより、この後カップリングのために投入されるm−フェニレンジアミン(第2カップリング成分)が、テトラゾ液中でジアゾ化されることを防ぎ、m−フェニレンジアミン同士の自己カップリングを抑えることができる。
【0060】
尚、m−フェニレンジアミン同士が自己カップリングすると、モノアゾ化合物が生成する。このようなモノアゾ化合物は、従来から問題であった黄色成分の発生源と考えられている。
【0061】
反応液のpHが1未満であると、反応液中に微量に残存する亜硝酸塩によりフェニレンジアミンがジアゾ化され、これが他のフェニレンジアミンとカップリングすることにより、不純物となるモノアゾ成分が生成する原因となる。また、4を超えると、ジアゾニウム塩が分解されるため、生成物の純度が低下する原因となる。
【0062】
工程5):カップリング
式
【0063】
【化20】
【0064】
で表されるフェニレンジアミンを、ジアゾ化されたジスアゾ体にカップリングさせる。すなわち、pHを調整した反応液に対して、工程3)で仕込んだ亜硝酸塩の1.0〜1.3倍モルのフェニレンジアミンを反応させる。その結果、テトラキスアゾ体(I)、トリスアゾ体(II)及び(III)、及びジスアゾ体(IV)を所定量含有する本発明の黒色染料組成物が得られる。フェニレンジアミンの量が多くても少なくても、生成する染料の純度が低下する原因となる。
【0065】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化
その後、反応液を活性炭に接触させて、黄色成分の含有量を更に低減させてもよい。例えば、染料の水溶液を調整する際に、水溶液全量に対して1.0〜10.0%(w/v)の活性炭を投入し、加熱処理を行うことで染料混合物内の黄色成分をほぼ除去することができる。
【0066】
得られた染料組成物は、例えば、15〜30重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤を含むイオン交換水、等)と混合して溶解安定性及び経時安定性のよい濃厚溶液とすることができる。
【0067】
また、染料組成物を、例えば、1〜15重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤や界面活性剤を含むイオン交換水、等)と混合してボールペンやサインペンなどの筆記具用インキとすることができる。
【0068】
また、染料組成物を、例えば、1〜10重量%の量で水性媒体(例えば、水、イオン交換水、防腐剤を含むイオン交換水、アルコール系溶剤や界面活性剤を含むイオン交換水、等)と混合してインクジェット記録用インキとすることができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の記載において「部」は、「重量部」を意味する。
【0070】
実施例1
工程1)ニトロアゾ化合物(V)の合成
22.0部の炭酸ナトリウムを水1000部に溶解し、H酸(1−アミノ−8−ナフトール−3,6−ジスルホン酸)117.0部を投入した。60℃に加熱してH酸が溶解したことを確認した後、0℃以下まで冷却しておいた。この時の反応混合物のpHは6.8であった。一方で、水300部に290部の濃塩酸(35%)を加え、p−ニトロアニリン107.6部を投入し60℃に加熱して溶解した。完全に溶解したことを確認した後、50℃以下に冷却し、更に40部の濃塩酸を加えた後、放冷しまたは氷を投入して−5℃に冷却した。これに36%亜硝酸ナトリウム水溶液153.2部を一度に加えた後、液温を0〜5℃に保って20分撹拌し、ジアゾ化した。スルファミン酸5部を加えて亜硝酸を除去した後、このジアゾ液を先に調整したH酸溶液に40分かけて滴下し、全てのジアゾ液を滴下後0〜5℃を保ちながら更に90分撹拌した。20%水酸化ナトリウム水溶液470部を徐々に投入しpHを9.1とした後、10℃で3時間撹拌し、更に室温で一晩撹拌した。
【0071】
この反応液に関してHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析したところ、ニトロアゾ化合物(V)のHPLC純度はピーク面積の割合で75.5%を示した(図1)。
【0072】
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の測定は、下記の分析条件で行なった。高速液体クロマトグラフ分析装置は、日立製作所社製、商品名LaChrom7000シリーズHPLCを使用した。
【0073】
分析条件
カラム(固定相)
充填剤:ODS−Lカラム
サイズ:4.6×250mm
溶出液(移動相)
溶出液A:アセトニトリル:THF:H2O=31:13:56、Pic A reagentを15ml/Lで添加。
測定条件
流速:1ml/分
温度:45℃
検出波長:313nm
この測定条件ではグラジエントをかけずに行なった。
【0074】
工程2)ニトロアゾ化合物(V)の還元
反応混合物を15℃に調整し、強撹拌しながら硫化ナトリウム水和物(Na2S・nH2O、Na2Sとして含量60%)141.9部を徐々に投入して30℃以下で1時間撹拌した。反応液が完全に溶解していることを確認した後、濃塩酸320部を15分かけて滴下し、60℃に加熱して更に30分撹拌した。析出物を熱時濾過し、ヌッチェ上において濾液の色が紫色に変化するまで希塩酸(0.4%)で洗浄した後、圧搾してジスアゾ体(IV)のプレスケーキAを得た。
【0075】
このケーキAについてHPLC分析したところ、ジスアゾ体(IV)のHPLC純度はピーク面積の割合で79.0%を示した(図2)。
【0076】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
水300部に上記ジスアゾ体(IV)のプレスケーキAを入れ、20%水酸化ナトリウム水溶液90部を加えた後、更に水を添加して全量を1200部とし、50〜60℃で1時間撹拌した。更に水酸化ナトリウム水溶液を追加して溶液のpHを9.5に調整した後、同温度で1時間撹拌して濾紙濾過を行ない、ジスアゾ体(IV)を含む反応混合物を得た。
【0077】
この反応混合物に濃塩酸220部を徐々に添加した後、氷を加えて液温を5℃とした。36%亜硝酸ナトリウム水溶液78.0部を30分かけて滴下した後、5℃以下で3時間撹拌した。スルファミン酸を添加して過剰の亜硝酸を除去した。これに20%炭酸ナトリウム水溶液596部を30分かけて滴下し、反応混合物のpHを3.0に調整した。
【0078】
一方で水600部にm-フェニレンジアミン52部を入れ、40℃に加熱して完全に溶解させた後、氷を投入して20℃とした。これを反応混合物へ添加し、適宜氷を加えて5℃以下の調整した後、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.5〜9.5に調整しつつ、13℃で一晩反応させた。濃硫酸を氷に投入して希釈したものを用意しておき、反応混合物へ滴下してpH酸性とした。60℃に加熱した後、熱時濾過を行ない、ヌッチェ上において水で濾液の色が青味に変化するまで洗浄した後、圧搾して、目的とする混合物のプレスケーキBを得た。
【0079】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化
水600部を55℃に加熱し、これにプレスケーキB全量を投入し、20%水酸化ナトリウム水溶液60部を添加して50〜60℃で30分撹拌した。水酸化ナトリウム水溶液を追加してpHを10.3とし完全に溶解させた後、活性炭30部を加えて同温度で1時間撹拌した。珪藻土15部を加えてしばらく撹拌した後、40℃以下に冷却して一晩静置した。pHが10.3であることを確認した後、濾紙を用いて固形分を除去し、濾液の染料濃度を20%に調整して目的とする染料水溶液(濃厚溶液)を得た。濃厚溶液の収量は1430部であった。
【0080】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.6%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)15.3%、ジスアゾ体10.9%であった(図3)。
【0081】
また、可視吸収スペクトルを測定したところ、λmax=652nm(水)であった(図4)。
【0082】
実施例2
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0083】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体を溶解するために水酸化ナトリウム水溶液を追加投入する際、活性炭12部を加え同温度で1時間撹拌した他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0084】
以下に記す黄色成分の確認試験を行ったところ、黄色成分の極めて少ないものであることを確認した。
【0085】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については実施例1と同様な方法で行なった。
【0086】
得られた水溶液に関しHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.4%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)14.4%、ジスアゾ体6.3%であった(図5)。
【0087】
実施例3
第1カップリング工程のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び還元工程のニトロアゾ化合物の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0088】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体のジアゾ化において、20%炭酸ナトリウム水溶液の代わりに、10%水酸化ナトリウム水溶液584部を滴下してpHを3.0に調整したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0089】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については実施例1と同様な方法で行なった。
【0090】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体52.3%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)15.9%、ジスアゾ体4.9%であった(図6)。
【0091】
実施例4
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行った。
【0092】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体(IV)のジアゾ化において、36%亜硝酸ナトリウム水溶液85部を使用したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0093】
工程6)活性炭処理を含むリキッド化については、実施例1と同様な方法で行った。
【0094】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体43.5%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)26.9%、ジスアゾ体2.55%であった(図7)。
【0095】
比較例1
テトラキスアゾリッチなダイレクトブラック19の合成法
【0096】
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行なった。
【0097】
ジアゾ化反応、フェニレンジアミンとのカップリング
水300部に、還元工程で得られたジスアゾ体のプレスケーキAを入れ、20%水酸化ナトリウム水溶液90部を加えた後、更に水を添加して全量を1200部とし、50〜60℃で1時間撹拌した。更に水酸化ナトリウム水溶液を追加して溶液のpHを9.5に調整した後、同温度で1時間撹拌して濾紙濾過を行ないジスアゾ体の水溶液を得た。この水溶液に氷を加えて液温を0℃以下とし、36%亜硝酸ナトリウム水溶液140.4部を投入した後、濃塩酸345部を一度に投入して、10℃以下で3時間撹拌した。スルファミン酸を添加して、亜硝酸を除去した。
【0098】
一方で水600部にm-フェニレンジアミン75.0部を入れ、40℃に加熱して完全に溶解させた後、氷を投入して20℃とした。これをテトラゾ液へ添加し、適宜氷を加えて5℃以下に調整した後、同温度で約1時間撹拌した。20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.5〜9.5に調整しつつ、13℃で一晩反応させた。
【0099】
濃硫酸36部を氷に投入して希釈したものを用意しておき、テトラキスアゾ溶液へ滴下して溶液のpHを酸性(pH3.0)とした。60℃に加熱した後、熱時濾過を行ない、ヌッチェ上において水で濾液の色が青味に変化するまで洗浄した後、圧搾して目的とする混合物のプレスケーキBを得た。
【0100】
得られたプレスケーキBについてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体7.3%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)56.1%、ジスアゾ体2.4%であった(図8)。
【0101】
比較例2
工程1)のニトロアゾ化合物(V)の合成、及び工程2)のニトロアゾ化合物(V)の還元については、実施例1とほぼ同様な方法で行った。
【0102】
工程3)〜5)ジアゾ化反応、pH調整およびカップリング:ジスアゾ体(IV)のジアゾ化およびフェニレンジアミンとのカップリング
ジスアゾ体(IV)のジアゾ化において、36%亜硝酸ナトリウム水溶液90部を使用したことの他は、実施例1とほぼ同様な処方で合成した。
【0103】
工程6)について、活性炭処理および珪藻土処理を行なわない他は実施例1とほぼ同様に処理して、リキッド化を行なった。
【0104】
得られた水溶液についてHPLC分析したところ、染料組成物中の各成分のピーク面積の割合は、トリスアゾ体44.8%、テトラキスアゾ体(C.I.ダイレクトブラック19)31.7%、ジスアゾ体2.9%であった(図9)。
【0105】
比較例3
特開2002−3740号、実施例1記載の方法による染料組成物の調製
p−ニトロアニリン22.1g(0.16mol)を常法に従って塩酸酸性でジアゾ化し、水酸化ナトリウムを用いて中性に調整したH酸31.9g(0.1mol)を含む水溶液と混合し、先ず酸性でカップリングさせた。次いで、無水炭酸ナトリウム14gの水溶液を加えて、アルカリ性でカップリングさせた。こうして得られた調製物のHPLCスペクトルを図10に示す。
【0106】
図10のHPLCスペクトル:保持時間4.88分にモノニトロ化合物(式A)のピークが観測され、11.04分にニトロアゾ化合物(式B、これは上記式Vで表わされるニトロアゾ化合物と同じである)のピークが観測された。なお、HPLCにおける面積割合は、A成分が44.4%であり、B成分が49.7%であった。
【0107】
【化21】
(式A)
【0108】
【化22】
(式B)
【0109】
この後、水硫化ナトリウム34.4g(0.61mol)を添加して還元し、生成した染料中間体を塩・酸析した後、濾過して取り出した。得られた濾過物のHPLCスペクトルを図11に示す。
【0110】
図11のHPLCスペクトル:保持時間3.47分にモノニトロ化合物(A)の還元物(式C)のピークが観測され、3.89分にニトロアゾ化合物(B)の還元物(式D、これは上記式IVで表わされる本発明のジスアゾ体と同じである)のピークが観測された。HPLCにおける面積割合は、C成分が44.7%であり、D成分が53.9%であった。
【0111】
【化23】
(式C)
【0112】
【化24】
(式D)
【0113】
この濾過ケーキを中性で水に溶解し、ジアゾ化し、m−フェニレンジアミン16.8g(0.16mol)を含む水溶液を添加してカップリングさせ、染料成分を塩・酸析して結晶化させ、濾過して取り出した。取り出した濾過物のHPLCスペクトルを図12に示す。
【0114】
図12のHPLCスペクトル:保持時間4.96分に(式E)で表されるジスアゾ体のピークが観測され、9.48分に(式F)で表されるテトラキスアゾ体のピークが観測された。なお、式Fのテトラキスアゾ体は、上記式Iで表わされる本発明のテトラキスアゾ体と同じである。HPLCにおける面積割合は、F成分が40.1%であり、E成分が42.1%であった。
【0115】
【化25】
(式E)
【0116】
【化26】
(式F)
【0117】
評価方法
【0118】
1.初期溶解性試験
評価の方法は、染料組成物(ナトリウム塩)の20重量%染料水溶液を室温で作成して、
完全に溶解したもの:○
不溶解分が認められるもの:×
とした。
【0119】
2.再溶解試験
最初に、得られた20重量%染料水溶液100mlの1μm-メンブレンフィルター(cellurose nitrate)における濾過時間を計測した。一方で、20重量%染料水溶液を冷凍庫で一晩凍結させておき、翌朝これを室温に放置し1日かけて解凍した。この解凍したものを軽く振り混ぜた後、100mlを取って、1μm-メンブレンフィルターを用いて同様に濾過速度を測定した。
【0120】
評価の方法は
F=(解凍前の染料水溶液の濾過時間)/(解凍後の染料水溶液の濾過時間)
で表し、測定値Fが0.7以上のものをA、0.7〜0.5のものをB、0.5〜0.35のものをC、0.35以下のものをDとした。また凍結・解凍後の濾過試験において、濾紙上に残渣が確認された場合は不可とした。
【0121】
実施例1〜4で合成したものについての評価は全てにおいてAであり、フィルター上に濾過残渣は確認されなかった。一方、比較例1および3のものの評価は不可であり、比較例2のものでは評価はBであった。
【0122】
3.黄色成分の確認
得られた10重量%染料水溶液を25℃に調整し、これにマルチファイバークロス(色染社製)を適当な大きさに切り分けたものを60秒間浸漬した。60秒後染色したクロスを大量の水にて洗った後、更に5分間水にさらして余分な染料を洗い出した後、クロスを自然乾燥して、アセテート生地部分の着色度合いを目視にて判定した。
【0123】
着色が殆ど確認されない:○
着色が確認される :×
【0124】
実施例1〜4について黄色成分の着色はほとんど確認できなかった。一方、比較例1〜3については黄色成分の着色が確認された。
【0125】
表1に実施例及び比較例の結果をまとめた。
【0126】
【表1】
*比較例3のジスアゾ体の欄に記載される面積割合(42.1)%は、上記比較例3中の式Eで示される化合物の面積割合である。この式Eで示される化合物は上記式Eに示すとおり、上記式IVで表わされる本発明のジスアゾ体とは異なる化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】ニトロアゾ化合物(V)のHPLCスペクトルを示す。
【図2】ジスアゾ体(IV)のHPLCスペクトルを示す。
【図3】実施例1の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図4】実施例1の染料水溶液の可視吸収スペクトルを示す。
【図5】実施例2の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図6】実施例3の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図7】実施例4の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図8】比較例1の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図9】比較例2の染料水溶液のHPLCスペクトルを示す。
【図10】比較例3の調製物のHPLCスペクトルを示す。
【図11】比較例3の濾過物のHPLCスペクトルを示す。
【図12】比較例3の濾過物のHPLCスペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
で表されるテトラキスアゾ体10〜30%、式
【化2】
及び式
【化3】
で表されるトリスアゾ体40〜60%、及び式
【化4】
で表されるジスアゾ体2〜15%(尚、%は高速液体クロマトグラフィー分析結果のピーク面積から計算された面積%を表す。)、を含有し、
式(V)〜(IX)で表されるニトロアゾ化合物を含まない黒色染料組成物:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項2】
水性媒体中に請求項1記載の黒色染料組成物を15〜30重量%含有する濃厚溶液。
【請求項3】
水性媒体中に請求項1記載の黒色染料組成物を0.5〜15重量%含有する水性インキ組成物。
【請求項1】
式
【化1】
で表されるテトラキスアゾ体10〜30%、式
【化2】
及び式
【化3】
で表されるトリスアゾ体40〜60%、及び式
【化4】
で表されるジスアゾ体2〜15%(尚、%は高速液体クロマトグラフィー分析結果のピーク面積から計算された面積%を表す。)、を含有し、
式(V)〜(IX)で表されるニトロアゾ化合物を含まない黒色染料組成物:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項2】
水性媒体中に請求項1記載の黒色染料組成物を15〜30重量%含有する濃厚溶液。
【請求項3】
水性媒体中に請求項1記載の黒色染料組成物を0.5〜15重量%含有する水性インキ組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−215563(P2009−215563A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111896(P2009−111896)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2003−335494(P2003−335494)の分割
【原出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2003−335494(P2003−335494)の分割
【原出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】
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