説明

α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法

【課題】1,4−付加反応と[3+2]付加環化反応との選択性が高い生成物を得ることが出来るα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと、電子不足オレフィンとを反応させるα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。一般式[I]


(但し、Rは置換基を有していても良い炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは炭化水素基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法が提案されている。
【非特許文献1】Jaszay, Z. M.; Nemeth, G.; Pham, T. S.; Petnehazy, I.; Grun, A.; Toke, L. Tetrahedron: Asymmetry 2005, 16, 3837-3840.
【非特許文献2】Kim, D. Y.; Suh, K. H.; Huh, S. C.; Lee, K. Synth. Commun. 2001, 31, 3315.
【非特許文献3】Dondas, H. A.; Durust, Y.; Grigg, R.; Slater, M. J.; Sarker, M. A. B. Tetrahedron 2005, 61, 10667.
【非特許文献4】Dehnel, A.; Kanabus-Kaminska, J. M.; Lavielle, G. Can. J. Chem. 1988, 66, 310.
【非特許文献5】Dehnel, A.; Lavielle, G. Tetrahedron Lett. 1980, 21, 1315.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
さて、これまでの提案になるものでは、塩基を化学量論量以上用いる必要が有った。又、これ等の反応系では、しはしば、1,4−付加反応と[3+2]付加環化反応とが同時に起こってしまい、選択性が十分とは言えない。
【0004】
従って、本発明が解決しようとする課題は、触媒量の塩基を用いて1,4−付加反応と[3+2]付加環化反応との選択性が高い生成物を得ることが出来るα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題は、α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと、下記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法によって解決される。
一般式[I]

(但し、Rは炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは炭化水素基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。)
一般式[II]

(但し、Wは電子求引性基、R10,R11は水素原子あるいは炭化水素基、R12は水素原子、炭化水素基または電子求引性基である。)
【0006】
特に、下記一般式[III]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
上記一般式[I]で表されるイミノホスホネート(一般式[I]におけるRは水素原子)と、上記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法によって解決される。
一般式[III]

【0007】
又は、下記一般式[IV]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
上記一般式[I]で表されるイミノホスホネート(一般式[I]におけるRは置換基を有していても良い炭化水素基)と、上記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法によって解決される。
一般式[IV]

【0008】
又、上記α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、アルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオンである。)から構成される触媒が用いられることを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法によって解決される。又、上記α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、アルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオンである。)および配位子から構成される触媒が用いられることを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法によって解決される。尚、配位子は、例えば下記一般式[V]或いは[VI]で表される化合物である。
一般式[V]

(但し、Rは水素原子あるいは炭化水素基、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基である。)
一般式[VI]

(但し、R,R,Rは水素原子または炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒量の塩基を用いて高選択的に生成物を得ることが出来る。すなわち、α−アミノホスホン酸エステルから誘導されるSchiff塩基のα,β−不飽和カルボニル化合物への1,4−付加反応や[3+2]付加環化反応は、グルタミン酸やプロリンのホスホン酸アナログを容易に合成できる有用な反応である。従って、グルタミン酸のホスホン酸アナログやプロリンのホスホン酸アナログを効率的に合成できる。
【0010】
尚、本発明の反応に際しては、例えばアルカリ土類金属アルコキシドが触媒として有効に機能する。中でも、バリウムアルコキシドが用いられた場合には高活性を示し、ビスオキサゾリン配位子存在下で、アミノ基上の置換基の選択によって、1,4−付加体と[3+2]付加環化体を、各々、高収率・高選択的に得ることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法である。そして、下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと下記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる工程を具備する。
一般式[I]

一般式[II]

尚、上記一般式において、Rは炭化水素基である。この炭化水素基は、置換基(例えば、ハロゲンやアルコキシ基)を有していても良い炭化水素基(好ましくは、芳香族炭化水素基。更には、炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基。中でも、フェニル基。)である。Rは水素原子または炭化水素基である。この炭化水素基は、置換基を有していても良い炭化水素基(好ましくは、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基。)である。Rは、水素原子または炭化水素基(好ましくは、炭素数が1〜8の脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基。)である。Rは、炭化水素基(好ましくは、炭素数が1〜8の脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基。)である。Wは、電子求引性基である。例えば、アミド基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、スルホニル基、或いはCONR(OR)基(Rは炭素数が1〜10の飽和炭化水素基)等の電子求引性基である。R10,R11は、水素原子または炭化水素基である。この炭化水素基は、好ましくは、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基である。R12は、水素原子、炭化水素基、又は電子求引性基である。この炭化水素基は、好ましくは、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基である。電子求引性基は、好ましくは、アミド基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、スルホニル基、或いはCONR(OR)基(Rは炭素数が1〜10の飽和炭化水素基)である。
【0012】
上記において、Rが水素原子の場合には、[3+2]付加環化反応が優先的に起こり、上記一般式[III]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体が得られる。そして、Rが炭化水素基の場合には、1,4−付加反応が優先的に起こり、上記一般式[IV]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体が得られる。
【0013】
本発明の反応には好ましくは触媒が用いられる。この触媒は、好ましくはアルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオン(例えば、ハロゲンイオンやアルコキシドイオン)である。中でも、バリウムアルコキシド。)で構成される。尚、反応性が高い基質の場合には、この触媒には、上記一般式[V]或いは[VI]で表される化合物の如きの配位子は無くても良い。

しかしながら、反応性が低い基質(例えば、上記の[A],[B]の如きの化合物)の場合には、上記一般式[V]或いは[VI]で表される化合物の如きの配位子が用いられると好ましい。すなわち、反応性が低い基質の場合には、用いられる触媒は、好ましくは、アルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオン(例えば、ハロゲンイオンやアルコキシドイオン)である。中でも、バリウムアルコキシド。)および配位子から構成される。上記配位子は、例えば上記一般式[V]或いは[VI]で表される化合物である。そして、このような触媒が用いられた場合、反応性(B、1,4−付加)や選択性(A、[3+2]付加環化)が向上する。
【0014】
以下、更に詳しく説明する。
[[3+2]付加環化反応]

減圧下で加熱乾燥した反応容器をアルゴン置換し、この反応容器をグローブボックス中に持ち込み、そしてBa(OtBu)2 (0.015mmol),bis(2-benzoxazolyl)methane (0.0165mmol)及びMS 4A (100 mg)を秤量して中に入れた。グローブボックスから取り出した反応容器に、塩化メチレン(0.5mL)を加え、30℃で2時間撹拌した。2時間の撹拌後、α−アミノホスホン酸エステルから誘導されるSchiff塩基(0.45 mmol)の塩化メチレン溶液(0.5mL)と、α,β−不飽和カルボニル化合物(0.30 mmol)の塩化メチレン溶液(0.5mL)とを順次加えた。そして、このままの温度で2時間撹拌後、飽和塩化アンモニウム溶液(10mL)を加え、反応を停止させた。
ここに、塩化メチレン(10mL)を加え分液し、塩化メチレン(20mL)で三回抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥した。このようにして得られた粗生成物を濾過、減圧濃縮後、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Hexane:Acetone = 1:2)にて精製し、目的物を得た。
この目的物(5)の特徴は下記に示す通りのものであり、上記反応式で示された構造式のものであった。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.28-7.11(m, 5H), 4.54(d, 1H, J=9.2 Hz), 4.25-4.15 (m, 4H,), 3.63-3.54(m, 1H,), 3.54(s, 3H), 3.09(s, 3H), 3.47-3.41(m, 1H), 2.65-2.52(m, 1H), 2.56(s, 3H), 2.32(br s, 1H), 2.14-2.08(m, 1H), 1.32(t, 6H, J=9.2 Hz).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ 173.3, 140.6, 127.9, 127.8, 127.5, 127.1, 65.0 (d, JPC = 17.2 Hz), 62.7 (dd, JPC = 27.8 Hz, JPC = 6.7 Hz), 61.3, 55.7, 54.1, 46.8 (d, JPC = 14.4 Hz), 32.2, 30.1, 16.73, 16.68.
31P-NMR(161.8 MHz, CDCl3): δ 26.6.
【0015】
[1,4−付加反応]

減圧下で加熱乾燥した反応容器をアルゴン置換し、この反応容器をグローブボックス中に持ち込み、そしてBa(OtBu)2 (0.015mmol),bis(2-benzoxazolyl)methane (0.0165mmol)及びMS 5A (100 mg)を秤量して中に入れた。グローブボックスから取り出した反応容器に、ジメチルスルホキシド(0.5mL)を加え、30℃で2時間撹拌した。2時間の撹拌後、α−アミノホスホン酸エステルから誘導されるSchiff塩基(0.45 mmol)のジメチルスルホキシド溶液(0.5mL)と、α,β−不飽和カルボニル化合物(0.30 mmol)のジメチルスルホキシド溶液(0.5mL)を順次加えた。そして、このままの温度で2時間撹拌後、飽和塩化アンモニウム溶液(10mL)を加え、反応を停止させた。
ここに、塩化メチレン(10mL)を加えて分液し、塩化メチレン(20mL)で三回抽出した。水(100mL)を加えて洗浄し、有機層に無水硫酸ナトリウム(Na2SO4)を加え、乾燥した。このようにして得られた粗生成物を濾過、減圧濃縮後、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Hexane:Acetone = 1:2)にて精製し、目的物を得た。
この目的物(3)の特徴は下記に示す通りのものであり、上記反応式で示された構造式のものであった。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.32-7.24(m, 3H), 7.08(d, 2H, J=6.4 Hz), 4.15-3.99 (m, 4H,), 3.66-3.57(m, 1H,), 3.60(s, 3H), 3.09(s, 3H), 2.78-2.72(m, 1H), 2.36-2.01(m, 4H), 1.29-1.21(m, 6H), 1.07-1.01(q, 4H).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ 180.1, 180.0, 137.3, 128.3, 128.2, 127.1, 62.4 (d, JPC = 40.3 Hz), 61.2, 59.8 (d, JPC = 159 Hz), 39.6, 32.3, 28.9, 25.9, 20.29, 20.27, 20.0, 16.6, 16.5.
31P-NMR(161.8 MHz, CDCl3): δ 25.0.

代 理 人 宇 高 克 己


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと、下記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
一般式[I]

(但し、Rは炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは炭化水素基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。)
一般式[II]

(但し、Wは電子求引性基、R10,R11は水素原子あるいは炭化水素基、R12は水素原子、炭化水素基または電子求引性基である。)
【請求項2】
下記一般式[III]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと、下記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
一般式[I]

(但し、Rは炭化水素基、Rは水素原子、Rは水素原子または炭化水素基、Rは炭化水素基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。)
一般式[II]

(但し、Wは電子求引性基、R10,R11は水素原子あるいは炭化水素基、R12は水素原子、炭化水素基または電子求引性基である。)
一般式[III]

【請求項3】
下記一般式[IV]で表されるα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法であって、
下記一般式[I]で表されるイミノホスホネートと、下記一般式[II]で表される電子不足オレフィンとを反応させる
ことを特徴とするα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
一般式[I]

(但し、Rは炭化水素基、Rは炭化水素基、Rは水素原子または炭化水素基、Rは炭化水素基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。)
一般式[II]

(但し、Wは電子求引性基、R10,R11は水素原子あるいは炭化水素基、R12は水素原子、炭化水素基または電子求引性基である。)
一般式[IV]

【請求項4】
アルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオンである。)から構成される触媒が用いられる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項5】
アルカリ土類金属塩MX(但し、MはCa,Ba,Srの群の中から選ばれるアルカリ土類金属であり、Xは陰イオンである。)および配位子から構成される触媒が用いられる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項6】
配位子が下記一般式[V]で表される化合物である
ことを特徴とする請求項5のα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
一般式[V]

(但し、Rは水素原子あるいは炭化水素基、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基である。)
【請求項7】
配位子が下記一般式[VI]で表される化合物である
ことを特徴とする請求項5のα−アミノホスホン酸エステル誘導体の製造方法。
一般式[VI]

(但し、R,R,Rは水素原子または炭化水素基である。)


【公開番号】特開2009−215214(P2009−215214A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60123(P2008−60123)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】