説明

α−オレフィン低重合体の製造方法及びピロール化合物の保管方法

【課題】ピロール化合物が成分であるクロム系触媒を使用するα−オレフィン低重合体の製造方法等を提供する。
【解決手段】エチレン等のα−オレフィンを原料とし、1−ヘキセン等のα−オレフィン低重合体を製造する際に、重合触媒としてクロム化合物(a)と、ピロール化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)とから構成されるクロム系触媒を用い、ピロール化合物(b)に含まれるピロール二量体の濃度が、ピロール化合物(b)に対し2重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−オレフィン低重合体の製造方法等に関し、より詳しくは、1−ヘキセン等のα−オレフィン低重合体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン等のα−オレフィンを原料として、クロム系触媒を用いて1−ヘキセン等のα−オレフィン低重合体が選択的に得られる製造方法が知られている。
例えば、特許文献1においては、クロム化合物、アミン等の窒素含有化合物、アルキルアルミニウム化合物及びハロゲン含有化合物からなるクロム系触媒を用いて、1−ヘキセンを主体とするα−オレフィン低重合体を高収率及び高選択率に得られる製造方法が報告されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平08−003216号公報
【特許文献2】特開平10−109946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クロム系触媒は、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート等のクロム化合物とアミン等の窒素含有化合物とを組み合わせ、さらに、他の成分を加えて調製される。
クロム化合物と組み合わせて用いられる窒素含有化合物の中でも2級アミンが好ましく、特に、ピロール及びピロール誘導体が好適である。
しかし、ピロール類は容易に二量体、三量体等の重合物を生成することが知られている。このため、精製直後を除き、通常の保存条件下では微量のこれら重合物が含まれていることが多い。
【0005】
ピロール類中に含まれるこのような重合物は、特にヘキセン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の非極性溶媒に対する溶解度が低いため、触媒調製液あるいは反応液等の液中から付着性を有した物質へ変化し、液中に固形物として触媒成分、α−オレフィンの低重合反応で副生したポリマー重合物、あるいは触媒失活成分等が存在する場合、固形物を取り込み、触媒調製槽や、α−オレフィン低重合体を得るための反応器の壁や撹拌機やノズル等に付着することがある。このような付着物が生じると、触媒の損失による経済的な損失に加えて、反応器の触媒濃度を変動させる、あるいは反応器等の汚れを生起させ除熱等運転操作を不安定にする要因となる。
【0006】
本発明は、このようなα−オレフィン低重合体の製造方法における技術的な問題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、ピロール化合物を含有するクロム系触媒を使用するα−オレフィン低重合体の製造において、より工業的に有利なα−オレフィンの製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を達成するに至った。
かくして本発明によれば、クロム系触媒の存在下、α−オレフィンを重合するα−オレフィン低重合体の製造方法であって、クロム系触媒は、少なくとも、クロム化合物(a)と、ピロール化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)とから構成され、クロム系触媒のピロール化合物(b)に含まれるピロール二量体の濃度が、ピロール化合物(b)に対し2重量%以下であることを特徴とするα−オレフィン低重合体の製造方法が提供される。
【0008】
ここで、本発明が適用されるα−オレフィン低重合体の製造方法において、クロム系触媒を構成する成分として使用するピロール化合物(b)は、精製後に酸素濃度1%以下の不活性ガスによりシールされ、保存されたものであることが好ましい。
また、ピロール化合物(b)は、ステンレス製容器中又はカーボンスチール製容器中で遮光下に保存されたものであることが好ましい。
さらに、ピロール化合物(b)として、炭素数1乃至20のアルキル置換基を1または複数有したジメチルピロールを用いることが好ましい。
【0009】
ここで、本発明が適用されるα−オレフィン低重合体の製造方法において使用するクロム系触媒は、クロム化合物(a)と、ピロール化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)及びハロゲン含有化合物(d)との組み合わせから構成されることが好ましい。
また、α−オレフィンが、エチレンであることが好ましい。
さらに、α−オレフィン低重合体が、1−ヘキセンであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、ピロール化合物の保管方法であって、ピロール化合物中に含まれるピロール二量体の濃度が、ピロール化合物に対し2重量%以下であることを特徴とするピロール化合物の保管方法が提供される。
ここで、ピロール化合物は、精製後に、遮光下で、酸素濃度1%以下の不活性ガスによりシールされることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、α−オレフィン低重合体の製造において、触媒調製槽や反応器に付着する付着物が低減し、運転操作を安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
(α−オレフィン)
本実施の形態が適用されるα−オレフィン低重合体の製造方法において、原料として使用するα−オレフィンとしては、例えば、炭素数2〜炭素数30の置換又は非置換のα−オレフィンが挙げられる。このようなα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。特に、原料のα−オレフィンとしてはエチレンが好適であり、エチレンを原料とした場合、エチレンの三量体である1−ヘキセンが高収率かつ高選択率で得られる。また、エチレンを原料として用いる場合、原料中にエチレン以外の不純物成分を含んでいても構わない。具体的な成分としては、メタン、エタン、アセチレン、二酸化炭素等が挙げられる。これらの成分は、原料のエチレンに対して0.1mol%以下であることが好ましい。
【0014】
(クロム系触媒)
次に、クロム系触媒について説明する。本実施の形態において使用するクロム系触媒としては、少なくとも、クロム化合物(a)、ピロール化合物(b)、アルミニウム含有化合物(c)との組み合わせから構成される触媒が挙げられる。
さらに、本実施の形態において使用するクロム系触媒には、必要に応じて、第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。以下、各成分について説明する。
【0015】
(クロム化合物(a))
本実施の形態で使用するクロム化合物(a)は、一般式CrXで表される1種以上の化合物が挙げられる。ここで、一般式中、Xは、任意の有機基又は無機基もしくは陰性原子、nは1から6の整数を表し、2以上が好ましい。nが2以上の場合、Xは同一又は相互に異なっていても良い。
有機基としては、炭素数1〜炭素数30の炭化水素基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、β−ジケトナート基、β−ケトカルボキシル基、β−ケトエステル基、アミド基等が例示される。
また、無機基としては、硝酸基、硫酸基等のクロム塩形成基が挙げられる。また、陰性原子としては、酸素、ハロゲン等が挙げられる。(ここで、ハロゲン含有クロム化合物は、後述するハロゲン含有化合物(d)には含まれない。)
【0016】
クロム(Cr)の価数は0価乃至6価である。好ましいクロム化合物(a)としては、クロム(Cr)のカルボン酸塩が挙げられる。クロムのカルボン酸塩の具体例としては、例えば、クロム(II)アセテート、クロム(III)アセテート、クロム(III)−n−オクタノエート、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート、クロム(III)ベンゾエート、クロム(III)ナフテネート等が挙げられる。これらの中でも、クロム(III)−2−エチルヘキサノエートが特に好ましい。
【0017】
(ピロール化合物(b))
本実施の形態で使用するピロール化合物(b)の具体例としては、例えば、ピロール、2,4−ジメチルピロール、2,5−ジメチルピロール、2−メチル−5−エチルピロール、2,5−ジメチル−3−エチルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジクロロピロール、2,3,4,5−テトラクロロピロール、2−アセチルピロール、2つのピロール環が置換基を介して結合したジピロール等のピロール、又はこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、例えば、金属ピロライド誘導体が挙げられ、具体例としては、例えば、ジエチルアルミニウムピロライド、エチルアルミニウムジピロライド、アルミニウムトリピロライド、ナトリウムピロライド、リチウムピロライド、カリウムピロライド、ジエチルアルミニウム(2,5−ジメチルピロライド)、エチルアルミニウムビス(2,5−ジメチルピロライド)、アルミニウムトリス(2,5−ジメチルピロライド)、ナトリウム(2,5−ジメチルピロライド)、リチウム(2,5−ジメチルピロライド)、カリウム(2,5−ジメチルピロライド)等が挙げられる。これらの中でも、特に、2,5−ジメチルピロール、ジエチルアルミニウム(2,5−ジメチルピロライド)が好ましい。(ここで、アルミニウムピロライド類は、アルミニウム含有化合物(c)には含まれない。また、ハロゲンを含有するピロール化合物(b)は、ハロゲン含有化合物(d)には含まれない。)
【0018】
(ピロール二量体)
本実施の形態におけるピロール二量体とは、下記一般式(I)で表されるように、2個のピロール環が直接カップリングした構造を有するジピロールである。尚、一般式(I)は、ピロール環のみを記載したものであり、それぞれの環に、水素基、または炭素数1乃至20の炭化水素置換基を、少なくとも1個有していても良い。
【0019】
【化1】

【0020】
具体的には、一般式(II)で表される、窒素原子−窒素原子でカップリングした1,1’−ジピロール;窒素原子−炭素原子でカップリングした1,2’−ジピロール、1,3’−ジピロール;炭素−炭素でカップリングした2,2’−ジピロール、3,3’−ジピロール、2,3’−ジピロール等が挙げられる。尚、一般式(II)は、ピロール環のみを記載したものであり、それぞれの環に、水素基、または炭素数1乃至20の炭化水素置換基を、少なくとも1個有していても良い。
ピロール化合物分子の置換基の結合位置や種類によっては、ピロール環上に、4位、5位の原子が存在するが、それらの化合物も、一般式(II)で表されるピロール二量体に含まれる。
【0021】
【化2】

【0022】
α−オレフィン低重合体の製造に用いるピロール化合物は、一般に、ピロール化合物触媒調製中、反応中、あるいは保存中に、系内に存在する酸化性物質によって、上記ピロール二量体を生成すると考えられる。この生成したピロール二量体が、系内の溶媒の溶解度を越えて存在する場合、ピロール二量体は、溶液中からオイル成分となって分離し、反応器壁やインペラやノズル等に付着すると考えられる。
さらに、副生ポリマーや触媒成分が固形物として系内に存在する場合、その固形物を取り込み、槽壁や管壁やインペラや内部コイル等の汚れを促進する恐れがある。その結果、熱交換器や反応器の熱交換効率を悪化させる。
また、触媒調製槽から反応器への触媒供給が、触媒調製槽に触媒が付着することによって安定して行われない等の問題となりうる。また、高頻度の洗浄作業や、触媒損失が大きい等、経済的な問題も起こりうることが考えられる。
【0023】
本実施の形態において、クロム系触媒の調製には、ピロール二量体の濃度が2重量%以下、好ましくは、1重量%以下であるピロール化合物が使用される。ピロール二量体の濃度が過度に大きいと、触媒調製が行われる触媒槽や、α−オレフィン低重合体を得るための反応器に付着する付着物量が増大する傾向がある。
【0024】
ピロール化合物中のピロール二量体の濃度は、ピロール化合物を精製することにより調整することができる。通常は、蒸留、カラム精製、吸着分離等より精製することができるが、煩雑な操作が少なく、ピロールとその二量体には比較的大きな沸点差があり、分離が容易であるため、蒸留で精製することが好ましい。
ピロール化合物が金属ピロライド誘導体の場合は、誘導前のピロールを上記方法にて精製後、金属ピロライド誘導体を調整することが好ましい。
蒸留条件としては、使用できる熱源の温度によって加圧から減圧まで任意に圧力を調整すればよいが、減圧蒸留を行う場合は、通常、1Torr〜300Torrで蒸留することが好ましい。減圧する場合は、装置のジョイント部を窒素等でシールしたり、僅かな空気でも引き込む可能性を排除することが好ましい。また、蒸留装置内に水素化カルシウム等の還元剤を共存させて二量体、三量体等のピロール重合物を単量体に分解させながら蒸留することも可能である。
【0025】
精製されたピロール化合物は、精製後に酸素濃度1%以下の不活性ガスによりシールされ、遮光下に保存されることが好ましい。
不活性ガスとしては、窒素やアルゴンが挙げられるが、不活性ガスを大量に使用する場合は窒素ガスが好ましい。また、不活性ガスは、公知の手段により脱酸素したものを使用することが好ましい。
また、精製されたピロール化合物を保管する場合は、ステンレス製容器中又はカーボンスチール製容器中に遮光下に保存することが好ましい。
【0026】
本実施の形態において、精製したピロール化合物を、α−オレフィンの低重合反応の触媒調整槽に供給する際には、貯槽や付帯する配管や計器伝送配管等をすべて不活性ガスで予め置換した後、供給配管を通じて供給することが好ましい。供給後は、不活性ガスで微加圧下にしておくことが好ましい。
通常、ピロール化合物中の不純物としては、それらの二量体、三量体、或いはそれ以上の多量体、及びこれらの混合物として存在していると推測される。不純物の中でも二量体が多く生成しており、不純物の主成分とみなされる。定量分析は通常、水素炎イオン化検出器を有したガスクロマトグラフィーによる内部標準法で行うことができる。定量値は、二量体の場合、複数の構造体からなるため、二量体ピークの合計値で計算する。クロマトチャート上の二量体ピークの特定は、一般的なガスクロマトグラフ質量分析計、必要に応じて原子発光検出器(窒素原子)を組み合わせて行なうことができる。
【0027】
(アルミニウム含有化合物(c))
本実施の形態で使用するアルミニウム含有化合物(c)は、トリアルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルキルアルミニウム化合物、水素化アルキルアルミニウム化合物等の1種以上の化合物が挙げられる。例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムヒドリド等が挙げられる。中でも特に、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0028】
(ハロゲン含有化合物(d))
本実施の形態で使用するクロム系触媒には、必要に応じて、第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。ハロゲン含有化合物(d)としては、例えば、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数2以上の直鎖状ハロ炭化水素、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数3以上の環状ハロ炭化水素の1種以上の化合物が挙げられる。(ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物は、アルミニウム含有化合物(c)には、含まない。)例えば、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、四塩化炭素、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,2,3−トリクロロシクロプロパン、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン、1,4−ビス(トリクロロメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン等が挙げられる。
【0029】
本実施の形態において、α−オレフィンの重合は、クロム化合物(a)と、アルミニウム含有化合物(c)と、が予め接触しない、又は予めの接触時間が短い態様で、α−オレフィンとクロム系触媒とを接触させるのが好ましい。このような接触態様により、選択的にエチレンの三量化反応を行わせ、原料のエチレンから1−ヘキセンを高収率で得ることができる。
【0030】
上記の連続反応形式における接触態様は、例えば、具体的には、下記(1)〜(9)が挙げられる。
(1)触媒成分(a)、(b)及び(d)の混合物、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器に導入する方法。
(2)触媒成分(b)〜(d)の混合物、触媒成分(a)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(3)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)及び(d)の混合物をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(4)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)及び(c)の混合物をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(5)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(6)触媒成分(c)及び(d)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(b)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(7)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(8)触媒成分(b)及び(c)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(9)各触媒成分(a)〜(d)をそれぞれ同時かつ独立に反応器に供給する方法。
上述した各触媒成分は、通常、反応に使用される溶媒に溶解して反応器に供給される。
【0031】
ここで、「クロム化合物(a)とアルミニウム含有化合物(c)とが予め接触しない態様」とは、反応の開始時に限定されず、その後の追加的なα−オレフィン及び触媒成分の反応器への供給においても、このような態様が維持されることを意味する。
また、バッチ反応形式についても同様の態様を利用するのが望ましい。
【0032】
本実施の形態で使用するクロム系触媒の各構成成分の比率は、通常、クロム化合物(a)1モルに対し、ピロール化合物(b)1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルであり、アルミニウム含有化合物(c)1モル〜200モル、好ましくは10モル〜150モルである。又はハロゲン含有化合物(d)を含む場合は、クロム化合物(a)1モルに対し、ハロゲン含有化合物(d)は1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルである。
【0033】
本実施の形態において、クロム系触媒の使用量は特に限定されないが、通常、後述する溶媒1リットルあたり、クロム化合物(a)のクロム1原子あたり1.0×10−7モル〜0.5モル、好ましくは5.0×10−7モル〜0.2モル、更に好ましくは1.0×10−6モル〜0.05モルとなる量である。
このようなクロム系触媒を用いることにより、例えば、エチレンを原料とした場合、選択率90%以上でエチレンの三量体であるヘキセンを得ることができる。さらに、この場合、ヘキセンに占める1−ヘキセンの比率を99%以上にすることができる。
【0034】
(溶媒)
本実施の形態が適用されるα−オレフィン低重合体の製造方法では、α−オレフィンの反応を溶媒中で行うことができる。
このような溶媒としては特に限定されないが、例えば、ブタン、ペンタン、3−メチルペンタン、ヘキサン、へプタン、2−メチルヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、デカリン等の炭素数1〜炭素数20の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が使用される。また、α−オレフィン低重合体を溶媒として用いてもよい。これらは、単独で使用する他、混合溶媒として使用することもできる。
【0035】
特に、溶媒としては、炭素数4〜炭素数10の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素が好ましい。これらの溶媒を使用することにより、ポリエチレン等の副生ポリマーを抑制することができ、更に、脂環式炭化水素を使用した場合は、高い触媒活性が得られる傾向がある。
【0036】
(α−オレフィン低重合体の製造方法)
本発明におけるα−オレフィン低重合体とは、モノマーであるα−オレフィンが数個結合したオリゴマーを意味する。具体的には、モノマーであるα−オレフィンが2個〜10個結合した重合体のことである。
次に、α−オレフィンとしてエチレンを用い、α−オレフィン低重合体としてエチレンの三量体である1−ヘキセンへの低重合を例に挙げ、α−オレフィン低重合体の製造方法について説明する。
【0037】
図1は、本実施の形態におけるα−オレフィン低重合体の製造フロー例を説明する図である。図1に示すエチレンを原料とする1−ヘキセンの製造フロー例には、エチレンをクロム系触媒存在下で重合させる完全混合撹拌型の反応器10と、反応器10から抜き出された反応液から未反応エチレンガスを分離する脱ガス槽20と、脱ガス槽20から抜き出された反応液中のエチレンを溜出させるエチレン分離塔30と、エチレン分離塔30から抜き出された反応液中の高沸点物質(以下、HB(ハイボイラー)と記すことがある。)を分離する高沸分離塔40と、高沸分離塔40の塔頂から抜き出された反応液を蒸留し、1−ヘキセンを溜出させるヘキセン分離塔50とが示されている。
また、脱ガス槽20及びコンデンサー16において分離された未反応エチレンを循環配管21を介して反応器10に循環させる圧縮機17が設けられている。
【0038】
図1において、反応器10としては、例えば、撹拌機10a、バッフル、ジャケット等が付設された従来周知の形式のものが挙げられる。撹拌機10aとしては、パドル、ファウドラー、プロぺラ、タービン等の形式の撹拌翼が、平板、円筒、ヘアピンコイル等のバッフルとの組み合わせで用いられる。
【0039】
図1に示すように、エチレン供給配管12aから圧縮機17及び第1供給配管12を介して、反応器10にエチレンが連続的に供給される。ここで、圧縮機17が、例えば、2段圧縮方式の場合、1段目に循環配管31を接続し、2段目に循環配管21を接続することにより、電気代の低減が可能である。また、第2供給配管13からは、エチレンの低重合反応に使用する溶媒が反応器10に供給される。
【0040】
他方、予め、触媒槽1cで調製されたクロム化合物(a)及びピロール化合物(b)が、触媒供給配管13aを介して第2供給配管13から反応器10に供給され、第3供給配管14からアルミニウム含有化合物(c)が供給され、第4供給配管15からハロゲン含有化合物(d)が供給される。ここで、ハロゲン含有化合物(d)は、供給管を介して第2供給配管13から反応器10に供給してもよい。また、アルミニウム含有化合物(c)もクロム化合物(a)との接触時間が数分以内で反応器10に供給されるのであれば、供給管を介して第2供給配管13から反応器10に供給してもよい。この方式の際には、第2供給配管13と反応器10の間にスタティックミキサー等を設置すれば、各触媒成分の均一混合液を反応器10に供給できる為、反応器10の撹拌動力が低減される。
【0041】
本実施の形態では、反応器10における反応温度としては、通常、0℃〜250℃、好ましくは50℃〜200℃、更に好ましくは80℃〜170℃である。
また、反応圧力としては、通常、常圧〜250kgf/cm、好ましくは、5kgf/cm〜150kgf/cm、さらに好ましくは、10kgf/cm〜100kgf/cmの範囲である。
【0042】
さらに、エチレンの三量化反応は、反応液中のエチレンに対する1−ヘキセンのモル比((反応液中の1−ヘキセンのモル濃度)/(反応液中のエチレンのモル濃度))が0.05〜1.5、特に0.10〜1.0となるように行うのが好ましい。即ち、連続反応の場合には、反応液中のエチレンと1−ヘキセンとのモル比が上記の範囲になるように、触媒濃度、反応圧力その他の条件を調節することが好ましい。また、回分反応の場合には、モル比が、上記の範囲にある時点において、エチレンの三量化反応を中止させることが好ましい。
このような条件でエチレンの三量化反応を行うことにより、1−ヘキセンよりも沸点の高い成分の副生が抑制されて、1−ヘキセンの選択率が更に高められる傾向がある。
【0043】
次に、反応器10の底から配管11を介して連続的に抜き出された反応液は、失活剤供給配管11aから供給された失活剤によりエチレンの三量化反応が停止され、脱ガス槽20に供給される。脱ガス槽20では上部から未反応エチレンが脱ガスされ循環配管21、コンデンサー16、圧縮機17及び第1供給配管12を介して反応器10に循環供給される。また、脱ガス槽20の槽底から未反応エチレンが脱ガスされた反応液が抜き出される。
脱ガス槽20の運転条件は、通常、温度0℃〜250℃、好ましくは、50℃〜200℃であり、圧力は常圧〜150kgf/cm、好ましくは、常圧〜90kgf/cmである。
【0044】
続いて、脱ガス槽20において未反応エチレンが脱ガスされた反応液は、脱ガス槽20の槽底から抜き出され、配管22によりエチレン分離塔30に供給される。エチレン分離塔30では蒸留により塔頂部からエチレンが溜出され、循環配管31及び第1供給配管12を介して反応器10に循環供給される。また、塔底部からエチレンが除去された反応液が抜き出される。
エチレン分離塔30の運転条件は、通常、塔頂部圧力は常圧〜30kgf/cm、好ましくは、常圧〜20kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜500、好ましくは、0.1〜100である。
【0045】
次に、エチレン分離塔30においてエチレンを溜出した反応液は、エチレン分離塔30の塔底から抜き出され、配管32により高沸分離塔40に供給される。高沸分離塔40では、塔底から高沸点成分(HB:ハイボイラー)が抜き出される。また、塔頂から配管42により高沸点成分が分離された溜出物が抜き出される。
高沸分離塔40の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kgf/cm〜10kgf/cm、好ましくは、0.5kgf/cm〜5kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは、0.1〜20である。
【0046】
続いて、高沸分離塔40の塔頂部から溜出物として抜き出された反応液は、配管41によりヘキセン分離塔50に供給される。ヘキセン分離塔50では塔頂部から蒸留による1−ヘキセンが配管51により溜出される。また、ヘキセン分離塔50の塔底部からヘプタンが抜き出され、溶媒循環配管52を介して溶媒ドラム60に貯留され、さらに、第2供給配管13を介して反応溶媒として反応器10に循環供給される。
ヘキセン分離塔50の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kgf/cm〜10kgf/cm、好ましくは、0.5kgf/cm〜5kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは0.1〜20である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜実施例3、比較例1)
表1に示す所定の濃度のピロール二量体を含むピロール(2,5−ジメチルピロール)を用いてクロム系触媒を調製した。
先ず、撹拌機を有したガラス製3つ口フラスコ中に脱水したヘプタン(150ml)を仕込み、表1に示す所定の純度の2,5−ジメチルピロール(0.016mol)とトリエチルアルミニウム(0.016mol)とを加えた。
次に、フラスコを昇温し、常圧下、ヘプタンのリフラックスを3時間行ない、その後、80℃迄に冷却した。
続いて、2−エチルヘキサン酸クロム0.0027molを加え、80℃で30分間加熱した。
その後、室温迄に冷却し、フラスコ内の溶液をデカンテーションで分離し、フラスコを150℃、8時間で乾燥した。
次いで、触媒調製に用いたフラスコ内の付着物量を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
尚、付着量は、クロム系触媒の調製に使用した2−エチルヘキサン酸クロム、トリエチルエチルアルミニウム及び2,5−ジメチルピロールの重量和に対する付着物の重量の割合として表している。
また、ピロール二量体濃度は、GC(ガスクロマトグラフィー)分析を行い、内部標準法(p−キシレン)により求めた。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示す結果から、ピロール二量体の濃度が2重量%以下である2,5−ジメチルピロールを用いてクロム系触媒を調製した場合(実施例1〜実施例3)は、触媒調製に用いたフラスコ内の付着物量が少ないことが分かる。従って、これらのピロール化合物をα−オレフィン低重合体の製造の際に、触媒成分として用いれば、反応器壁やインペラやノズル等に付着する付着物が軽減され、槽壁や管壁やインペラや内部コイル等の汚れを防止することができる効果が期待される。また、熱交換器や反応器10の熱交換効率の低下の防止、あるいは触媒調製槽からの反応器10への触媒フィードが安定して行うことができる効果が期待できる。
一方、ピロール二量体の濃度が2重量%を超える(比較例1)と、触媒調製に用いたフラスコ内の付着物量が増大することが分かる。
【0052】
(実施例4〜実施例6、参考例1)
購入した試薬を蒸留精製し、純度99.80%の2,5−ジメチルピロールを得た。残りの成分はピロール二量体(濃度:0.2重量%)である。
次に、表2に示す酸素濃度下で2,5−ジメチルピロールを所定の条件で保存し、ピロール二量体の濃度変化を測定した。
尚、2,5−ジメチルピロールは以下の操作により保存した。
まず、窒素と空気を混合し、所定の酸素濃度の窒素ガスをメーキャップした。次に、窒素置換した三方コックつき試験管に蒸留後(純度99.80%)の2,5−ジメチルピロールを5mlを仕込んだ。
【0053】
続いて、所定の酸素濃度に予め調製したメーキャップ窒素ガスをサンプリングし、テレダイン酸素分析計(微量酸素計)を用いて所定濃度であることを確認した後、三方コックを通じて試験管に注入し、気相部(50ml)をメーキャップガスで置換し、試験管をそのまま室温、暗所で放置した。
放置中は、12時間毎に試験管の気相部のガス置換を繰り返した。また、表2に示した所定時間毎に2,5−ジメチルピロールをサンプリングし、ピロール二量体濃度をGC分析した。尚、濃度は内部標準法(pキシレン)によって求めた。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示す結果から、2,5−ジメチルピロールは、精製後に酸素濃度1%以下の窒素ガスによりシールされ、遮光下に保存された場合(実施例4〜実施例6)は、ピロール二量体の濃度が2重量%以下に保たれることが分かる。従って、これらのピロール化合物をα−オレフィン低重合体の製造の際に、触媒成分として用いれば、反応器壁やインペラやノズル等に付着する付着物が軽減され、槽壁や管壁やインペラや内部コイル等の汚れを防止することができる効果が期待される。また、熱交換器や反応器10の熱交換効率の低下の防止、あるいは触媒調製槽からの反応器10への触媒フィードが安定して行うことができる効果が期待できる。
一方、精製後に酸素濃度21%の窒素ガス(空気)によりシールされた場合(参考例1)は、ピロール二量体が増大することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施の形態におけるα−オレフィン低重合体の製造フロー例を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1c…触媒槽、10…反応器、10a…撹拌機、11,22,32,41,42,51…配管、11a…失活剤供給配管、12…第1供給配管、12a…エチレン供給配管、13…第2供給配管、13a…触媒供給配管、14…第3供給配管、15…第4供給配管、21,31…循環配管、16…コンデンサー、17…圧縮機、20…脱ガス槽、30…エチレン分離塔、40…高沸分離塔、50…ヘキセン分離塔、52…溶媒循環配管、60…溶媒ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム系触媒の存在下、α−オレフィンを重合するα−オレフィン低重合体の製造方法であって、
前記クロム系触媒は、少なくとも、クロム化合物(a)と、ピロール化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)とから構成され、
α−オレフィンの低重合反応に供するクロム系触媒のピロール化合物(b)に含まれるピロール二量体の濃度が、当該ピロール化合物(b)に対し2重量%以下である
ことを特徴とするα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ピロール化合物(b)は、精製後に酸素濃度1%以下の不活性ガスによりシールされ、遮光下に保存されたものであることを特徴とする請求項1に記載のα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ピロール化合物(b)が、炭素数1乃至4のアルキル基を1または複数有したピロールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項4】
前記クロム系触媒は、クロム化合物(a)と、ピロール化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)及びハロゲン含有化合物(d)との組み合わせから構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項5】
前記α−オレフィンが、エチレンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項6】
前記α−オレフィン低重合体が、1−ヘキセンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のα−オレフィン低重合体の製造方法。
【請求項7】
ピロール化合物の保管方法であって、
ピロール化合物中に含まれるピロール二量体の濃度が、当該ピロール化合物に対し2重量%以下であることを特徴とするピロール化合物の保管方法。
【請求項8】
前記ピロール化合物は、精製後に、遮光下で、酸素濃度1%以下の不活性ガスによりシールされることを特徴とする請求項7に記載のピロール化合物の保管方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−179817(P2008−179817A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341278(P2007−341278)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】