説明

α−シヌクレイン関連疾患についての治療および診断方法における使用のための抗体およびワクチン

個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するためのワクチンは、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、単離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーの治療有効量を含有する。個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための抗体は、可溶性α−シヌクレインに結合する。α−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患の治療もしくは予防のための方法は、前記ワクチンまたは抗体を使用する。α−シヌクレインオリゴマーを検出する方法は、前記抗体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体およびワクチン、ならびにα−シヌクレイン関連疾患、すなわちレビー小体および/またはレビー神経突起の形態で凝集した不溶性α−シヌクレインの蓄積が脳内に存在する、α−シヌクレイン病についての治療および診断方法におけるそれらの使用に関する。そのような疾患は、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レビー小体型のアルツハイマー病、多系統委縮症およびα−シヌクレイン病変を有する他の神経変性疾患などの神経変性疾患を含むが、これらに限定されない。
【0002】
より具体的には、本発明は、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、単離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含有するワクチンに関する。安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーは、例えば、プロトフィブリルと称される大型オリゴマーの形態であり得る。本発明はまた、可溶性α−シヌクレインに結合する抗体に関する。
【0003】
本発明はまた、インビトロまたはインビボでα−シヌクレインを検出する方法、ならびにパーキンソン病、レビー小体型認知症、レビー小体型のアルツハイマー病および多系統委縮症などの、しかしこれらに限定されないα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させる、α−シヌクレイン関連疾患を治療するまたは予防するための方法を対象とする。能動免疫および受動免疫の両方法が開示される。
【背景技術】
【0004】
パーキンソン病(PD)およびレビー小体型認知症(DLB)は、α−シヌクレイン脳病変を有する神経変性疾患の2つの最も一般的な例である。
【0005】
PDは最も一般的な運動障害であり、硬直、運動低下、振せんおよび姿勢保持障害によって特徴づけられる。世界中でおよそ4百万から6百万人がPDに罹患していると考えられる。
【0006】
DLBはすべての認知症の5〜15%を占める。健忘症およびしばしば変動する他の認知症症状に加えて、DLB患者は、典型的には転倒再発および幻視を経験する。
【0007】
α−シヌクレインの神経細胞内蓄積は、円形の10〜20μmの大型好酸性ヒアリン封入体であるレビー小体、または細長い糸状のジストロフィ軸索および樹状突起であるレビー神経突起の形成を生じさせる。PDの脳では、レビー小体およびレビー神経突起の沈着は、黒質と線条体を連絡する神経細胞に限定される。これらの細胞は運動と姿勢制御機能の遂行のために極めて重要であり、PD症状の特質を説明する。DLBの脳では、レビー小体とレビー神経突起の広範囲な沈着が中脳および皮質領域の両方で認められる。
【0008】
α−シヌクレインは、主として神経細胞内で認められるタンパク質である。神経細胞内で、α−シヌクレインは主にシナプス前部に位置し、それ故、シナプス活動の調節に関与すると推測されてきた。α−シヌクレインの3つの主要アイソフォームが同定されており、そのうちで最も長く、最も一般的な形態は140アミノ酸を含む。
【0009】
α−シヌクレインに加えて、レビー小体は広範囲にわたる分子から成り、その1つは、α,β−不飽和ヒドロキシアルケナールである、4−ヒドロキシ−2−ノネナール(HNE)である(Qinら、2007)。HNEはα−シヌクレインを修飾することができ、それによってα−シヌクレインのオリゴマー化を促進し得ることがインビトロで示された。特に、HNEは、プロトフィブリル、すなわち可溶性の大型オリゴマー形態のα−シヌクレインの形成を増大させ、安定化することが示された(Qinら、2007)。同様に、α,β−不飽和アルケナールである4−オキソ−2−ノネナール(ONE)も、α−シヌクレインを修飾し、それによってα−シヌクレインのオリゴマー化を誘導することが示された(Nasstromら、2009)。
【0010】
HNEはシステイン、ヒスチジンおよびリシンの側鎖と反応して修飾し、一方ONEはシステイン、ヒスチジン、リシンおよびアルギニンの側鎖と反応し、修飾する。HNEおよびONEはどちらも、これらの側鎖の構造と物理的性質を実質的に変化させる。従って、HNEおよびONEは、C−3炭素またはアルデヒド基と、またはそれらの組合せと反応し得る。それ故、HNEは、分子間または分子内でタンパク質を共有結合的に修飾することができる。
【0011】
酸化ストレスは、誤って折りたたまれたα−シヌクレインの病的蓄積を特徴とする多くの神経変性疾患に関係づけられてきた。様々な反応性酸素種が、細胞膜またはリポタンパク質などの脂質の過酸化を誘導することができ、同時に多不飽和脂肪酸からの高反応性アルデヒドの生成も生じさせ得る(Yoritakaら、1996)。
【0012】
アルツハイマー病(AD)の徴候である脳病変、すなわちアミロイド斑および神経原線維変化は、DLBを有する症例の約50%で認められる。並行する病変の存在は、2つの異なる疾患を意味するのかまたは各々それぞれの疾患の変形であるのかは不明である。時として、そのような同時病変を有する症例は、ADのレビー小体型を有すると表される(Hansenら、1990)。
【0013】
PDおよびDLBのまれな優性遺伝形態は、α−シヌクレイン遺伝子の点突然変異または重複によって引き起こされ得る。病原性突然変異、A30PおよびA53T(Krugerら、1998)(Polymeropoulosら、1998)ならびにこの遺伝子の重複(Chartier−Harlinら、2004)は、家族性PDを引き起こすことが記述されているが、もう1つのα−シヌクレイン突然変異、E46K(Zarranzら、2004)ならびにα−シヌクレイン遺伝子の三重複(Singletonら、2003)は、PDまたはDLBのいずれかを引き起こすことが報告された。
【0014】
α−シヌクレイン突然変異の病的影響は部分的にしか理解されていない。しかし、インビトロデータは、A30PおよびA53T突然変異が凝集の割合を高めることを示した(Conwayら、2000)。広範囲にわたる異なる構成のα−シヌクレイン種が凝集過程で形成され、そのすべてが異なる毒性を有し得る。α−シヌクレイン病における神経病理学的変化を別にして、脳の罹患領域では一般にα−シヌクレインタンパク質のレベルが上昇する(Kluckenら、2006)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
α−シヌクレイン病変を伴う神経変性疾患の危険性および/または初期段階を同定するための改善された診断ツールおよび方法が求められている。現在、より進行した症候性疾患段階が明らかになるまでは、臨床医による患者の診断を助ける生化学的方法は存在せず、その段階では脳への実質的な損傷が既に起こっている。新しい、初期段階での治療の可能性が出現すると共に、正確な診断アッセイの重要性がより大きくなりつつある。現在、PD患者に対しては対症療法(例えば脳内の活性ドーパミンの喪失を置き換えることによる)だけが使用可能である。DLBについては、使用できる治療の選択肢はさらに一層少ない。それでもなお、臨床医はしばしば、ADのための標準的な治療、すなわちコリンエステラーゼ阻害剤によるDLB患者への有益な作用の可能性を評価しているが、実質的な改善は一般に認められない。α−シヌクレイン病に対する既存の治療法のいずれもが、それぞれの根底にある疾患過程を対象としていない。加えて、疾患の進行と治療効果を観測する必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、α−シヌクレイン関連疾患、すなわちレビー小体および/またはレビー神経突起の形態で凝集した不溶性α−シヌクレインの蓄積が脳内に存在するα−シヌクレイン病のための治療および/または診断方法における使用のための抗体およびワクチンを提供することが本発明の目的である。そのような疾患は、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レビー小体型のアルツハイマー病、多系統委縮症およびα−シヌクレイン病変を伴う他の神経変性疾患などの1またはそれ以上の神経変性疾患を含むが、これらに限定されない。
【0017】
1つの実施形態では、本発明は、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するためのワクチンであって、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、単離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーの治療有効量を含有するワクチンを対象とする。もう1つの実施形態では、本発明は、本発明によるワクチンを個体に投与することを含む、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための方法を対象とする。さらなる実施形態では、本発明は、可溶性α−シヌクレインに対する抗体を作製するための、本発明によるワクチンの使用を対象とする。
【0018】
もう1つの実施形態では、本発明は、可溶性α−シヌクレインに結合する、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための抗体を対象とする。もう1つの実施形態では、本発明は、本発明による抗体を個体に投与することを含む、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための方法を対象とする。
【0019】
もう1つの実施形態では、本発明は、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための抗体を作製する方法であって、前記抗体またはそのフラグメントが可溶性α−シヌクレインに結合する、前記方法を対象とする。前記方法は、抗原を非ヒト動物に投与すること、および抗原に対して形成された抗体を収集することを含み、前記抗原は、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、安定化された可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含有する。
【0020】
さらなる実施形態では、本発明は、それぞれ本発明による抗体またはワクチン、ならびにヒトおよび/または動物での使用のために医薬的に許容される抗菌剤、アジュバント、緩衝剤、塩、pH調整剤、界面活性剤およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される1またはそれ以上の賦形剤を含有する、抗体組成物およびワクチン組成物を対象とする。
【0021】
さらなる実施形態では、本発明は検出方法を対象とする。1つの実施形態では、α−シヌクレインオリゴマーをインビトロで検出する方法は、本発明による抗体を、可溶性α−シヌクレインを含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料に添加すること、および前記抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体を検出し、その濃度を測定することを含む。もう1つの実施形態では、α−シヌクレインオリゴマーをインビボで検出する方法は、検出可能なマーカで標識されている、本発明による抗体を、可溶性α−シヌクレインを保持することが疑われる個体に投与すること、および前記マーカの検出によって抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体の存在を検出することを含む。
【0022】
本発明のワクチン、抗体および方法は、α−シヌクレイン関連疾患を対象とする診断および治療技術のために有益である。本発明のさらなる実施形態および態様は「詳細な説明」に示されており、本発明のさらなる利点はそれより明らかである。
【0023】
図面を参照して本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1で述べる、ThT(チオフラビンT)アッセイによって測定した野生型および突然変異型α−シヌクレインの凝集率の比較を示す。チオフラビンTは、凝集形態のα−シヌクレイン、すなわちβシート構造に結合する試薬である。種々のα−シヌクレイン種は以下の凝集傾向を示す:E46K>A30P/A53T>A53T> wt(野生型)>A30P。最も速く凝集するα−シヌクレイン種は、従ってE46Kであり、一方A30P突然変異型は、野生型α−シヌクレインよりもさらに一層緩やかな凝集速度を示す。
【0025】
【図2A】図2Aは、24時間および41時間インキュベートしたα−シヌクレインE46K製剤で処置したヒト胚腎(HEK−293)細胞における生存率の低下を示す。約24時間インキュベートしたα−シヌクレインE46K製剤が最も高い毒性を示した。インキュベートしていない(ゼロ時間)α−シヌクレインをHEK293細胞に添加した場合、毒性作用を認めなかった。
【0026】
【図2B】図2Bは、α−シヌクレインE46K製剤が24時間のインキュベーション後に中等度のThTシグナルを示した、すなわち線維化の程度が中等度であることを示す。これに対し、原線維形態のα−シヌクレインを含有し、高いThTシグナルを示す、41時間インキュベートした試料は、ほとんど毒性作用を示さなかった。
【0027】
【図3】図3は、ONEおよびHNEで安定化した野生型α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーをヒト胚腎(HEK−293)細胞に外因的に添加し、48時間インキュベートして処置したヒト胚腎細胞における生存率の低下を示す。対照のパーセントとして、細胞生存率の有意の低下が、3μM ONE修飾α−シヌクレインで処置した細胞(p<0.001)および3μM HNE修飾α−シヌクレインで処置した細胞(p<0.0001)に関して検出された。データはビヒクル対照のパーセンテージとして表しており、3つの別々の実験についての平均値±SEMを示す。
【0028】
【図4】図4は、HNEとα−シヌクレインの間で30:1の化学量論を使用して37℃で20時間インキュベートしたHNE修飾α−シヌクレイン製剤のSEC−HPLCクロマトグラムを示す。19分で溶出する主要ピーク(P/O)は、可溶性α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーに対応する。37分で溶出する2番目のピーク(M)は、α−シヌクレインモノマーに対応する。
【0029】
【図5】図5は、ONEとα−シヌクレインの間で30:1の化学量論を使用して37℃で20時間インキュベートしたONE修飾野生型α−シヌクレインのSEC−HPLCクロマトグラムを示す。1つの主要ピーク(P/O)が19分で認められ、これは可溶性α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーに対応する。37分で溶出する付加的なピーク(M)が認められ、これはα−シヌクレインモノマーに対応する。
【0030】
【図6】図6は、HNEで修飾した、単離された可溶性α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの原子間力顕微鏡検査(AFM)の画像を示す。例えば、中空コアを有する直径約50〜300nmのリング様構造を示すプロトフィブリル/オリゴマーが認められる。スケールバーは100nmを示す。
【0031】
【図7】図7は、ONEで修飾した、単離された可溶性α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーのAFM分析を示す。典型的な試料では、無定形外観を有する直径約30〜150nmのプロトフィブリル/オリゴマーが認められる。スケールバーは100nmを示す。
【0032】
【図8】図8は、HNEで修飾した野生型ヒトα−シヌクレインの可溶性プロトフィブリル/オリゴマー製剤で免疫したマウスからの血清(1/10000〜1/270000希釈)に関するELISAを示す。HNE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーを認識する抗体が血清中で検出される。
【0033】
【図9】図9は、可溶性のONE修飾野生型α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーで免疫したマウスからの血清(1/10000〜1/300000希釈)に関する間接ELISAを示す。α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーを認識する抗体が血清中で検出される。
【0034】
【図10】図10は、α−シヌクレインプロトフィブリル反応性モノクローナル抗体のELISAを示す。ONEで修飾した野生型α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーを抗原として使用した場合、ハイブリドーマ40:2からの細胞培地の3つの希釈(1/9、1/27および1/82)すべてに関して陽性シグナルが得られた。バックグラウンドシグナルをすべてのOD値から推定した。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レビー小体型のアルツハイマー病、多系統委縮症(MSA)およびα−シヌクレイン病変を有する他の神経変性疾患の1またはそれ以上のようなα−シヌクレイン関連疾患を診断し、対抗する(前記疾患の発症の遅延化、治療および/または予防を含む)ための様々な方法における使用のための抗体(受動免疫)およびワクチン(能動免疫)を提供する。加えて、前記抗体およびワクチンは、アルツハイマー病、ダウン症候群、筋委縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、プリオン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー症候群、クールー、致死性家族性不眠症、脳血管アミロイドーシス、緑内障、加齢性黄斑変性、精神症候群、統合失調症および/または統合失調症様障害などの他の神経変性疾患の発症の遅延化、治療および/または予防において使用し得る。抗体およびワクチンはまた、中でも特に、診断、観測または治療目的のための検出方法においても使用し得る。
【0036】
α−シヌクレイン病における主要病変は細胞内であり、これは免疫治療アプローチに難しい課題を課す。しかし、能動的に誘導されたまたは受動的に投与された抗体の分画が神経細胞内でもそれらの標的抗原に結合し得る可能性がある。さらに、血漿および脳脊髄液の両方でのα−シヌクレインの同定(El−Agnafら、2006)は、このタンパク質が排他的に神経細胞内で認められるわけではないことを明らかにする。理論に束縛されるものではないが、細胞外α−シヌクレインを低減することは、細胞内と細胞外のタンパク質プールの間の平衡をシフトさせ、同時に細胞内α−シヌクレインの低下を生じさせ得る。溶液中のα−シヌクレインが細胞膜内の脂質二重層に浸透し、それによってインターナライズされるかまたは細胞から外に輸送され得ることが証拠によって示唆されている。最後に、α−シヌクレインが細胞外間隙においても毒性作用を及ぼし得る可能性は排除できない。
【0037】
本発明は、α−シヌクレインの安定化された可溶性オリゴマーの使用に基づく。ヒトα−シヌクレインモノマーの分子量は14kDaである。2またはそれ以上のα−シヌクレインモノマーが凝集して、広い範囲の分子量を有する可溶性α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーを形成し得る。支配的なオリゴマーは約2000kDの分子量を有し、プロトフィブリルと称される。しかし、これらの可溶性α−シヌクレイン形態は不安定であり、自然発生的に不溶性フィブリルへと重合する。本発明は、α−シヌクレインの可溶性オリゴマー形態を安定化し、安定化された可溶性オリゴマーを、好ましくは高度に精製された形態で、抗体およびワクチン開発のために単離する。本発明による安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーは、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも低い、非可溶性凝集形態、すなわちフィブリルへの形成率を示す。これらの形態は、高い毒性を示すため、特に興味深い。
【0038】
本発明は、α−シヌクレインの誘導体などの、しかしそれらに限定されない、様々な形態のα−シヌクレインならびに選択されたα−シヌクレインペプチドフラグメントを使用する。1つの実施形態では、α−シヌクレインオリゴマーは、合成もしくは野生型ヒトα−シヌクレイン(配列番号1)またはその突然変異体から作製される。ヒトα−シヌクレインの突然変異体の例として、A30P(配列番号2)、E46K(配列番号3)、A53T(配列番号4)突然変異のいずれか、または(A30P/E46K(配列番号5)、A30P/A53T(配列番号6)、E46K/A53T(配列番号7)またはA30P/E46K/A53T(配列番号8))を含む、それらの任意の組合せが使用できる。
【0039】
配列番号1
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAA GKTKEGVLYV GSKTKEGVVH
GVATVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0040】
配列番号2
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAP GKTKEGVLYV GSKTKEGVVH
GVATVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0041】
配列番号3
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAA GKTKEGVLYV GSKTKKGVVH
GVATVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0042】
配列番号4
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAA GKTKEGVLYV GSKTKEGVVH
GVTTVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0043】
配列番号5
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAP GKTKEGVLYV GSKTKKGVVH
GVATVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0044】
配列番号6
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAP GKTKEGVLYV GSKTKEGVVH
GVTTVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0045】
配列番号7
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAA GKTKEGVLYV GSKTKKGVVH
GVTTVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0046】
配列番号8
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAP GKTKEGVLYV GSKTKKGVVH
GVTTVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL
GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA
【0047】
加えて、野生型配列から逸脱した配列を有する他のα−シヌクレイン形態も利用できる。例えば、野生型α−シヌクレインを、例えば部位指定突然変異誘発によって、Ser/AlaをCysで置換することによって修飾できる。そのような一例が、参照により本明細書に組み込まれる、Changの米国特許出願公開第2006/0018918A1号によって記述されている。
【0048】
さらに、α−シヌクレインタンパク質のN末端、中央部分および/またはC末端からのフラグメントも、安定化α−シヌクレインオリゴマーを作製するために使用できる。加えて、1〜10、1〜25、1〜35、1〜45、1〜79または1〜95アミノ酸長を有する野生型または突然変異型α−シヌクレインのフラグメントが、オリゴマーを作製するために任意の組合せで使用できる。そのようなペプチドは、以下の位置番号のアミノ酸配列、1〜95、61〜140、95〜140、95〜130、95〜120、90〜100、100〜110、110〜120、120〜130および130〜140に対応し得るが、これらに限定されない。フラグメントはまた、完全長α−シヌクレインと組み合わせることもできる。フラグメントはまた、オリゴマーを作製する前には分枝または環状であってもよい。
【0049】
組換えタンパク質または合成ペプチドを使用することに加えて、α−シヌクレインは、α−シヌクレイン病の症例から死後剖検で採取されたヒト脳組織中に存在するレビー小体から直接取り出すことができる。可溶性(すなわちTris緩衝液食塩水に可溶性の標本)および不溶性(すなわちTris緩衝液食塩水に不溶性の標本)の両方のα−シヌクレイン分画を精製する。これらの試料標本は、そのままマウスに注射されるかまたは注射の前にクロマトグラフィ法によって分画される。生成された抗体は、本明細書でさらに詳細に述べるように受動ワクチン接種スキームにおいてまたは診断的免疫検定法において患者の治療のために使用される。
【0050】
あるいは、α−シヌクレインは、レビー小体を視覚化して標的する、免疫組織化学とレーザー捕捉顕微鏡検査の組合せによって単離することができる。例えば、レビー小体含有神経細胞を、レーザー捕捉顕微鏡検査と非変性ゲル系の併用によってα−シヌクレインを含む死後脳組織から入手する。この適用のために、α−シヌクレイン種をポリアクリルアミドゲルから抽出する(実施例3参照)。より具体的には、クロマトグラフィ法および非変性ゲル系を使用して、捕捉した組織材料からα−シヌクレインを精製し、モノクローナル抗体の産生のためにマウスに注入する抗原標本として使用する。このアプローチにより、マウスにおける非常に多様な免疫原性応答が得られ、多くの異なる抗原親和性および特異性を有する抗体が生成される。後者の方法を用いた場合の多様な応答にもかかわらず、このアプローチは、合成α−シヌクレインに対して標的される抗体では標的されない可能性が高い、パーキンソン患者の脳内に存在するα−シヌクレインオリゴマー高次構造(レビー小体)を標的する場合に有利であると考えられる。これらのマウスは、α−シヌクレインオリゴマー特異的モノクローナル抗体を得るために使用できる。
【0051】
さらに、マウスの免疫およびモノクローナル抗体開発のために使用されるα−シヌクレインはまた、健常個体またはα−シヌクレイン病を有する患者からの生体組織または、血液、脳脊髄液、尿もしくは唾液などの生体液からも単離することができる。
【0052】
可溶性オリゴマー形態のα−シヌクレインの安定化は、例えば構造修飾などの、様々な方法で達成され得る。1つの実施形態では、構造修飾は安定化剤に結合することによって達成される。結合は架橋の形態であり得る。安定化剤は、非可溶性フィブリル高次構造へのさらなる凝集を防止するように可溶性オリゴマー形態を安定化する。特定の実施形態では、可溶性オリゴマーはプロトフィブリルであり、より特定の実施形態では、プロトフィブリルは約2000kDまたはそれ以上の分子量を有する。
【0053】
特定の実施形態では、安定化剤は疎水性有機物質である。様々な実施形態において、疎水性有機物質は、飽和、不飽和もしくは多不飽和脂肪酸、またはそれらの誘導体、またはそれらの任意の組合せ、すなわちそれらの任意の2またはそれ以上の組合せを含む。さらなる実施形態では、疎水性有機物質は反応性アルデヒドを含む。アルデヒドは、例えば、α,β−不飽和アルデヒドなどのアルケナールであり得る。適切な反応性アルデヒドは、4−ヒドロキシ−2−ノネナール、4−オキソ−2−ノネナール(ONE)、マロンジアルデヒドおよびアクロレインを含むが、これらに限定されない。アルデヒドはまた、アルデヒド基を連結する2〜25個の炭素原子の一不飽和または多不飽和炭素鎖を有するジアルデヒドであり得る。疎水性有機物質は、非可溶性フィブリル構造へのさらなる凝集を防止するように可溶性オリゴマー構造を安定化する。
【0054】
さらなる実施形態では、α−シヌクレインは、非イオン性および両性イオン性界面活性剤などの、しかしこれらに限定されない疎水性界面活性剤によって修飾され得る。そのような界面活性剤の例としては、Triton X−100(ポリエチレングリコールp−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニルエーテル)、Tween−20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、Tween−80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)およびBrij界面活性剤(脂肪族アルコールのポリオキシエチレンエーテル)などの非イオン性界面活性剤、ならびにCHAPS(3−[(3−コルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)などの両性イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。
【0055】
他の適切な安定化剤は胆汁酸誘導体を含み、その例としては、コール酸塩、デオキシコール酸塩およびタウロコール酸塩、ならびにそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0056】
安定化剤はまた、天然の生物学的分子の群からも選択でき、その例としては、トリグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質、ガングリオシド、コレステロール、コレステロールエステル、長鎖(例えば約6〜30個の炭素原子を含む)アルコールおよび前記物質の任意の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0057】
安定化はまた、酒石酸ジスクシンイミジル、スベリイミド酸ビススルホスクシンイミジル、3,3−ジチオビス−スルホスクシンイミジルプロピオネートおよびそれらの任意の組合せなどの、しかしこれらに限定されないタンパク質架橋剤を使用して達成され得る。
【0058】
もう1つの実施形態では、安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーは、1−α−ヒドロキシ−セコステロールを安定化剤として含有する。
【0059】
安定化剤は、安定化された可溶性オリゴマーを形成するために、架橋による場合を含めて、α−シヌクレインのモノマーおよび/またはオリゴマーまたはそれらの組合せに結合され得る。例えば、HNEおよび/またはONEなどの反応性アルデヒドは、アルデヒド基または二重結合またはその両方によってオリゴマーに結合し得る。後者は、その結果オリゴマーの架橋を生じさせる。HNEは、例えば、オリゴマーのヒスチジンおよびリシンに共有結合的に結合し得る。同様に、ONEはヒスチジンおよびリシンに共有結合的に結合し得る。アルデヒドがシッフ塩基を介してリシンに結合し得るか、またはヒスチジンが、不飽和炭素鎖内の二重結合の炭素原子への求核攻撃を介して結合し得る。安定化剤、例えばHNEおよびONEなどの反応性アルデヒドとα−シヌクレインの間の化学量論は、2:1〜50:1またはそれ以上の広い範囲内で変動し得る。特定の実施形態では、20:1を上回る、例えば25:1、30:1、35:1、40:1、45:1、50:1およびさらに一層高いHNE修飾値(modification values)は、望ましい高プロトフィブリル形成を有する生成物を提供する。加えて、ONEに関しては、なお一層低い比率が使用でき、例えば5:1から、例えば10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、45:1、50:1およびさらに高い比率が使用できる。
【0060】
特に明記しない場合は、上述した安定化剤はすべて、α−シヌクレインに結合することによってそれらの安定化作用を及ぼし、安定化反応は、実施例に示すように、例えばインキュベーションによって実施され得る。安定化剤はまた、所望に応じて2またはそれ以上の組合せでも使用され得る。
【0061】
本発明のさらにもう1つの実施形態では、安定化された可溶性α−シヌクレインオリゴマーは、β−アミロイド(Aβ)、タウまたはホスホ−タウの1またはそれ以上を含み得る。これらのα−シヌクレインオリゴマーは、Aβ40および/またはAβ42から作られるβ−アミロイド(Aβ)オリゴマー、例えばプロトフィブリルとα−シヌクレインオリゴマーを組み合わせることによって作製され得る。本発明のさらにもう1つの実施形態では、これらのα−シヌクレインオリゴマーは、β−アミロイドプロトフィブリルおよびタウおよび/またはホスホ−タウとα−シヌクレインオリゴマーを任意の組合せで組み合わせることによって作製され得る。もう1つの実施形態では、これらのα−シヌクレインオリゴマーは、α−シヌクレイン、Aβ40、Aβ42、タウおよび/またはホスホ−タウの個々のモノマーの任意の組合せを組み合わせること、任意の組合せでこれらのタンパク質をそれらのオリゴマー形態で組み合わせること、または任意のオリゴマーをモノマーと組み合わせることによって作製される。これらの混合物は、付加的な成分が、例えばレビー小体型のアルツハイマー病などの、しかしこれらに限定されない認知症を有する患者において認められ、それ故これらの疾患の抗体またはワクチン治療のために治療上重要なネオエピトープを提供するという点で有利である(Tsigelnyら、2008)。もう1つの利点は、付加的な成分がα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの安定性を高めることである。
【0062】
1つの実施形態では、本発明は、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するためのワクチンを対象とする。本開示において、ワクチンという用語は、能動免疫のためにヒトまたは動物に投与するための生理的に許容される形態である組成物を指すために使用される。ワクチンは、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、単離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーの治療有効量を含有する。単離されたという用語は、α−シヌクレインモノマーおよび未反応安定化剤を含む、調製培地、反応物等から分離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーを指す。ヒトへの投与を意図されるワクチンに関しては、α−シヌクレインはヒトα−シヌクレインである。動物での使用を意図されるワクチンに関しては、α−シヌクレインは、意図される受容者の動物種、すなわちイヌのためのワクチンについてはイヌα−シヌクレインである。特定の実施形態では、ワクチンは、約10〜500μg/用量の安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含有する。より特定の実施形態では、ワクチンは、約50〜250μg/用量の安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含有する。
【0063】
能動免疫のためのワクチンは、ワクチン技術分野において従来使用される1またはそれ以上の賦形剤を含有してもよく、その例としては、1またはそれ以上の抗菌剤、アジュバント、緩衝剤、塩、pH調整剤、界面活性剤またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されず、但し賦形剤は、意図されるワクチン受容者に依存して、ヒトおよび/または動物での使用のために医薬的に許容される。ワクチンはまた、例えば、凍結乾燥の間および/または凍結乾燥後のワクチンの安定性を高めるために単独でまたは1もしくはそれ以上の賦形剤と共に、凍結乾燥され得る。適切な賦形剤の具体的な例としては、マンニトールおよび/またはトレハロースを含むが、これらに限定されない。
【0064】
本発明はまた、可溶性α−シヌクレインモノマーおよび可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含む、可溶性α−シヌクレインに結合する抗体を対象とする。安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーは、そのような抗体を作製するための抗原として使用でき、α−シヌクレインの毒性形態に対する特異的抗体の開発を最適化する。そのような方法では、抗原を非ヒト動物に投与し、該抗原に対して産生された抗体を収集する。治療効果を最大にするために、本発明による安定化α−シヌクレイン抗原に対して惹起される抗体は、好都合には、体内に存在する天然形態の可溶性α−シヌクレイン、特にプロトフィブリルを含む凝集可溶性形態に対して高い反応性を有するが、同時に可溶性α−シヌクレインモノマーに対しても高い反応性を有する。そのような抗体を選択する1つの方法は、最初に、修飾され、安定化されたα−シヌクレイン(特にオリゴマー、中でもプロトフィブリル)に良好に結合する抗体をスクリーニングし、その後、これらの抗体の中で野生型α−シヌクレインに良好に結合する抗体をスクリーニングすることである。
【0065】
生じる抗体は、可溶性α−シヌクレイン、特にα−シヌクレインがフィブリルに凝集し得る前の可溶性α−シヌクレインに結合するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、またはその活性フラグメントであり得る。特定の実施形態では、安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマー抗原は、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、またはその活性フラグメントを作製するおよび/または発生させるために、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイおよび細菌ディスプレイなどの方法において使用し得る。より具体的には、モノクローナルα−シヌクレイン抗体の生成のために、ハイブリドーマ技術および/またはファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイまたは細菌ディスプレイなどの従来の手法を使用し得る。そのような抗体は、マウス、ハムスターまたはラットなどのげっ歯動物において作製され得る。ひとたび生成されれば、クローンを単離し、それらのそれぞれの抗原特異性に関してスクリーニングする。スクリーニングのために、2つの原則が使用される。第一に、抗体を精製α−シヌクレインモノマー、プロトフィブリル/オリゴマーおよびフィブリルに対してプローブする。α−シヌクレインのこれらの異なる高次構造形態は、安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマー、例えばHNE修飾および/またはONE修飾α−シヌクレインをインキュベートし、その後HPLCによってまたは遠心ろ過装置を使用して分画することによって作製され得る。フィブリルは、インキュベーション混合物を5,000×g以上で遠心分離することによって単離し得る(実施例1参照)。スクリーニングは、固相酵素免疫検定法(ELISA)によってまたは同様の方法によって実施し得る。第二に、抗体を、α−シヌクレイントランスジェニック動物からの組織切片および/またはレビー小体およびレビー神経突起を含有する病的ヒト脳組織切片に関して評価する。
【0066】
付加的な実施形態では、抗体は、修飾され、安定化されたα−シヌクレイン、およびモノマーまたは凝集可溶性α−シヌクレインの突然変異型または野生型形態の非修飾α−シヌクレインの両方、またはその任意の組合せと反応する。
【0067】
1つの実施形態では、本発明による抗体は、特にα−シヌクレインモノマーおよび不溶性フィブリルへの結合強度と比較した場合、可溶性α−シヌクレインオリゴマーへのより高い結合強度を有し、より特定の実施形態では、α−シヌクレインプロトフィブリルへのより高い結合強度を有する。より特定の実施形態では、α−シヌクレインモノマーと比較したα−シヌクレインプロトフィブリルに対する結合強度(IC50)は、例えば約1:50〜2000の範囲内である。もう1つの特定の実施形態では、α−シヌクレインフィブリルと比較したα−シヌクレインプロトフィブリルに対する結合強度(IC50)は、例えば約1:2〜2000の範囲内である。
【0068】
抗体は、ヒト、ヒト化であり得るか、またはヒト患者における抗原性を低減するように修飾され得る。抗原性の低減は、例えば抗体のT細胞エピトープを修飾するまたは排除することによって為され得る。1つの実施形態では、抗体は、IgGクラスから、またはより好ましくはIgG1またはIgG4サブクラス(ヒト抗体)から選択される。
【0069】
付加的な実施形態では、抗体はまた、低い補体活性および/または変化したFc受容体結合特性を有し得る。これは、例えば、重鎖(ヒト)のアミノ酸配列の297位、322位または331位で抗体のFc部分を突然変異させる、または、例えばマウスIgGにおいて対応するアミノ酸配列を突然変異させることによって達成され得る。低い補体活性はまた、当技術分野において公知の技術に従って、抗体を酵素的に脱グリコシル化することによってまたは他の手段によっても達成され得る。抗体の変化したFc受容体結合特性は、糖タンパク質に結合したオリゴ糖構造を変化させることによって達成され得る(Jeffries, Nature, 2009, 8:226-234)。抗体は、例えば血液脳関門の通過および神経細胞取込みを改善するために、例えばF(ab)、F(ab)およびダイアボディから選択されるFabフラグメント、または、例えばscFv−FcおよびscFabから選択される一本鎖抗体であり得る。それ故、本明細書で使用される抗体が、抗原によって惹起される完全長タンパク質またはその活性フラグメントを指すことは明白である。
【0070】
より特定の実施形態では、α−シヌクレインオリゴマー抗原をSEC−HPLCによって分画し、単離する。分画を、細胞培養モデルにおいてそれらのそれぞれの毒性に関して評価し、最も強い毒性を有する抗原分画を抗体作製のためまたは能動免疫のための抗原として選択する。試料標本を、毒性を評価するために直接使用することもでき、最も顕著な毒性を示す試料を、抗体選択および/もしくは作製のための抗原としてまたは能動免疫のための抗原として好都合に使用し得る。
【0071】
α−シヌクレイン抗体は、本発明による安定化可溶性α−シヌクレインを、直接患者に対して投与すること(能動免疫)、またはα−シヌクレイン病変を有する神経変性疾患、例えば少し例を挙げるとPDおよびDLBを治療するための受動免疫プロトコールにおいて適用される、抗原に対するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体を惹起するために、げっ歯動物、例えばマウスもしくはウサギを免疫することによって投与することに対する応答として形成される。受動免疫の場合、抗体は、ヒト患者に投与される前にヒト化される。
【0072】
凝集形態のα−シヌクレインの毒性は、様々な細胞毒性アッセイによって測定され得る(図2〜3および実施例5参照)。簡単に述べると、ある細胞培養モデルは、ミトコンドリア機能不全の指標であるMTTの評価に基づく。他の毒性アッセイ、例えば細胞死またはアポトーシスマーカを測定することも使用し得る。その例としては、アデニル酸キナーゼ分析、乳酸デヒドロゲナーゼ分析、アネキシンV染色、カスパーゼ活性、PARP切断およびDNAラダリングを含むが、これらに限定されない。
【0073】
能動免疫プロトコール後、選択した安定化α−シヌクレイン抗原を投与して、著明な毒性を有するα−シヌクレイン種、特に可溶性プロトフィブリルおよび他のオリゴマーα−シヌクレインおよびα−シヌクレインモノマーに対する高次構造特異的抗体を生成する。受動免疫プロトコールに従って、そのようなα−シヌクレイン種に対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体は、抗体の反復注射後にその作用を及ぼす。
【0074】
選択的な実施形態では、可溶性α−シヌクレインに結合する抗体は、対照ヒト被験者またはα−シヌクレイン病を有する患者からの白血球に由来するヒト抗α−シヌクレインモノクローナル抗体であり得る。確立された技術に従って白血球からハイブリドーマを作製し、α−シヌクレインおよび安定化α−シヌクレイン(例えば可溶性オリゴマー)に結合するものに関してスクリーニングする。ヒト抗α−シヌクレインモノクローナル抗体はまた、ヒト抗体ライブラリーを安定化α−シヌクレイン(例えば可溶性オリゴマー)への結合に関してスクリーニングすることによっても入手できる。ヒト対照被験者またはα−シヌクレイン病を有する患者からの血液中に存在する可溶性α−シヌクレインまたはα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーに対する自己抗体も、使用のために単離し得る。自己抗体は、収率および経済性を改善するために、配列決定し、例えばCHO細胞における組換えDNA技術によって作製し得る。
【0075】
特定の実施形態では、前述した抗体は、例えば投与に適する、組成物中で提供される。そのような組成物は、本明細書で述べる抗体および医薬組成物において従来使用される1またはそれ以上の賦形剤を含有し得る。抗体は治療有効量で含有される。特定の実施形態では、組成物は、意図される受容者の体重に対して約0.1〜5mg/kg、より具体的には約0.5〜2mg/kgの量で抗体を含有する。
【0076】
適切な賦形剤は、1またはそれ以上の抗菌剤、アジュバント、緩衝剤、塩、pH調整剤、界面活性剤またはそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されず、但しそのような賦形剤は、意図されるワクチン受容者に依存して、ヒトおよび/または動物での使用のために医薬的に許容される。組成物は、例えば、凍結乾燥の間および/または凍結乾燥後の抗体の安定性を高めるために単独でまたは賦形剤と共に、凍結乾燥され得る。マンニトールおよび/またはトレハロースは、凍結乾燥に適する賦形剤の非限定的な例である。
【0077】
本明細書で述べるワクチンおよび抗体は、個体においてα−シヌクレイン関連疾患を予防する、その発症を遅延させるまたは治療するための1またはそれ以上の方法において使用され得る。そのような方法は、本明細書で述べる抗体またはワクチンを個体に投与することを含む。個体は、例えば、α−シヌクレイン関連疾患を獲得していることが疑われるまたは獲得する危険性が高い被験者である。被験者は、以下の特徴のいずれかを示すことによってそのような疾患を有することが疑われ得る:疾患の初期症状、陽性脳イメージング結果、および/またはα−シヌクレインもしくはα−シヌクレインオリゴマーのレベル上昇(例えば本明細書で述べる検出方法において、例えば本明細書で述べる抗体を利用することによって測定される)。脳イメージング方法の例としては、本明細書で述べるモノクローナル抗体を使用することによるDaTscan(123I−イオフルパン)または陽電子放射断層撮影法(PET)イメージングを含むが、これらに限定されない。
【0078】
α−シヌクレイン関連疾患を有する危険性があるまたは有することが疑われる被験者を同定することにより、本明細書で述べる本発明の治療によって、すなわちワクチン/抗原または抗体による能動または受動免疫を使用することによって、疾患のさらなる進展が防止される、または発症もしくは進行が遅延される。α−シヌクレイン関連疾患は、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レビー小体型のアルツハイマー病、多系統委縮症(MSA)または、アルツハイマー病、ダウン症候群、筋委縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、プリオン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー症候群、クールー、致死性家族性不眠症、脳血管アミロイドーシス、緑内障、加齢性黄斑変性、精神症候群、統合失調症および/または統合失調症様障害などの他の神経変性疾患を含む、α−シヌクレイン病変を有する他の神経変性疾患であり得る。
【0079】
本明細書で述べる本発明の抗体はまた、検出方法においても使用でき、その具体的な例としては、インビトロおよびインビボでα−シヌクレイン種のレベルの変化を検出するために抗体が使用される、診断的免疫検定法を含む。標的される形態のα−シヌクレインのレベルは、種々のα−シヌクレイン病または他の神経変性疾患を有する患者からの種々の組織および体液中で特異的に変化すると考えられ、それ故パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レビー小体型のアルツハイマー病、多系統委縮症(MSA)またはα−シヌクレイン病変を有する他の神経変性疾患についての初期生化学的マーカとして役立つ。
【0080】
より具体的には、インビトロでα−シヌクレインオリゴマーを検出する方法は、本発明による抗体を、可溶性α−シヌクレインを含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料に添加すること、および前記抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体を検出し、その濃度を測定することを含む。生物学的試料は、例えば血漿、脳脊髄液(CSF)または脳生検試料であり得る。もう1つの実施形態では、インビボでα−シヌクレインオリゴマーを検出する方法は、検出可能なマーカで標識されている、本発明による抗体を、脳内に健常でない可溶性α−シヌクレインオリゴマーレベルまたは種を保持することが疑われる個体に投与すること、およびマーカの検出によって抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体の存在を検出することを含む。
【0081】
オリゴマー特異的抗体の標識のために、当業者は、検出方法、例えば少し例を挙げると131I、14C、Hまたは58Gaなどの放射性リガンドの選択に依存して、様々な選択的技術を使用し得ることを認識する。特に、放射性標識オリゴマー特異的抗体によるPETは、診断、治療観測等のために極めて重要であると考えられる。従って、本発明は、診断および治療観測のための様々な方法における使用のための、従来の技術を使用して当業者によって容易に標識される抗体を提供する。
【0082】
前述した方法および技術に従って、本明細書で述べる抗原および抗体を、細胞培養法および/またはα−シヌクレイン病変についてのトランスジェニック動物モデルにおいてそれらの潜在的治療能に関して評価し得る。α−シヌクレイン病についての2つの細胞培養モデルの例が使用できる。第一に、野生型または突然変異型のα−シヌクレインDNAを神経芽細胞腫または神経膠腫細胞にトランスフェクトする。一過性および安定なトランスフェクションの両方を、レチン酸によって神経細胞様形態に分化される細胞で実施する。このようにして、細胞内α−シヌクレイン凝集体の形成を誘導することが可能である。第二に、α−シヌクレインDNAベクターを担持するレンチウイルスおよび/またはアデノ関連ウイルス(AAV)を神経芽細胞腫、神経膠腫の培養物および/または胚腎細胞培養物に形質導入する。ウイルスベクターによる形質導入は、一般により効率的であり、より多くの細胞にα−シヌクレイン凝集体を形成させるので、伝統的なトランスフェクション技術にとって好都合である。
【0083】
生成されたα−シヌクレイン抗体はまた、PD、DLBまたは他のα−シヌクレイン病を診断するために、患者の試料中のα−シヌクレイン(特にプロトフィブリル/オリゴマー)レベルを測定するための免疫ベースのアッセイにおいても利用される。診断アッセイにおいて適用される検出方法は、主として、固相酵素免疫検定法(ELISA)および/またはウエスタンブロット法などの免疫検定法に基づく。α−シヌクレイン病の初期徴候を有する患者またはこれらの疾患を発症する危険性が高い個体からの広い範囲の組織を、それらのα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーのレベル、または高次構造が変化した可溶性α−シヌクレインの他の形態のレベルに関して検討する。そのような組織は、血漿、脳脊髄液(CSF)および脳生検試料を含むが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の様々な態様を以下の実施例において説明する。
【実施例】
【0085】
[実施例1]野生型および突然変異型α−シヌクレインの凝集動態
種々のα−シヌクレイン突然変異の影響をインビトロで検討する。野生型α−シヌクレインに加えて、以下の突然変異体:A30P、E46K、A53TおよびA30P/A53T、A30P/E46K、E46K/A53TおよびA30P/E46K/A53Tを試験する。IMPACT〔親和性キチン結合タグによるインテイン媒介精製(Intein Mediated Purification with an Affinity Chitin-binding Tag)、New England Biolabs社、Ipswich、マサチューセッツ州、米国)〕システムを製造者の指示に従って使用することにより、組換えα−シヌクレインを発現させる。すべての組換えタンパク質を、0.05M〜0.3Mの濃度範囲のNaClを含むまたは含まない、10mM〜50mMにわたる濃度のTris緩衝液またはリン酸緩衝液に溶解する。すべての組換えα−シヌクレインタンパク質を使用時まで−80℃で保存する。
【0086】
さらなる試験のために、組換えタンパク質を、0.05M〜0.3Mの濃度のNaClを含むまたは含まない、3〜6のpH範囲内の酢酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム緩衝液に溶解する。初期タンパク質濃度は35μM〜750μMにわたり、各々の実験においてすべてのタイプのα−シヌクレイン種に関して同様である。一部の実験では、チオフラビンT(5〜20μM)を、10μMの最終α−シヌクレイン濃度で初期反応混合物に添加する。
【0087】
凝集動態を試験する場合、α−シヌクレイン試料を平底または丸底ポリプロピレン96穴プレート(Greiner Bio-One社、Frickenhausen、ドイツ)または平底非結合ポリスチレン96穴プレート(Greiner Bio-One社、Frickenhausen、ドイツ)に保持し、撹拌しながらまたは撹拌せずに4℃〜65℃でインキュベートする。同じ実験において、シリコンで被覆していないまたは被覆した、ポリプロピレンマイクロチューブ(500〜2000μl)を、撹拌しながらまたは撹拌せずに4℃〜65℃でインキュベートする。撹拌を用いる場合の試験については、ポリプロピレン96穴プレートまたは水平に置いたマイクロチューブ(500〜2000μl)を、300rpm〜900rpmにわたる速度でLabnet P4軌道振とう器(Labnet社、Edison、ニュージャージー州、米国)またはTitramax 101(Heidolph Instruments GMBH & Co. KG社、Schwabach、ドイツ)でインキュベートする。すべての凝集試験において、各穴につき100〜300μlの最終容量を使用する。マイクロチューブを使用する凝集実験では、最終容量は100〜2000μlの範囲である。ThT測定のために、ポリスチレンまたはポリプロピレン96穴プレートを、445nmの励起フィルタと485nmの発光フィルタを備えたWallac Victor 2(PerkinElmer社、Waltham、マサチューセッツ州、米国)で読み取る。これらの突然変異の一部を特徴とするα−シヌクレインからの結果を図1に示す。
【0088】
[実施例2]α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの合成
α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー抗原(すなわちプロトフィブリルおよび他のオリゴマーを含む抗原)を作製するため、前述したように、それぞれの野生型、突然変異型または断片化α−シヌクレインを35〜750μMの濃度で使用する。α−シヌクレインがHNEおよび/またはONE(Cayman Chemical社、Ann Arbor、ミシガン州、米国)に結合している試料では、これらの化合物を0.01〜65mMの濃度で使用する。典型的な実験では、HNEおよび/またはONEとα−シヌクレインのモル比は、1:1〜100:1の範囲にわたるが、それぞれの化合物の割合はこの化学量論に限定されない。一部の実験では、HNE修飾および/またはONE修飾試料を還元するために水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を0.1〜100mMの濃度で使用する。一部の場合には、α−シヌクレインアミノ酸は、HNE修飾の間に、HNEと結合する不安定で可逆性のシッフ塩基を形成するアミノ酸(リシンなど)を含み得る。また別の場合には、α−シヌクレインアミノ酸は、ONE修飾の間に、ONEと結合する不安定で可逆性のシッフ塩基を形成するアミノ酸(リシンなど)を含み得る。水素化ホウ素ナトリウム還元はシッフ塩基結合を安定化する。試料を、撹拌しながらまたは撹拌せずに37℃で30分間から30日間インキュベートする。試料の分子組成を確認するため、いくつかの方法を利用する。非修飾α−シヌクレインまたはHNE修飾および/もしくはONE修飾α−シヌクレインまたは他の反応性アルデヒドで修飾されたα−シヌクレインを、任意の不溶性フィブリルを除去するために21℃にて16,900×gで5分間遠心分離する。その後、α−シヌクレインプロトフィブリルオリゴマーおよびモノマーを単離するために214nm〜280nmのUV検出を伴うSEC−HPLCシステムを用いて上清を分画する(以下で詳細に述べる)。もう1つの実験では、5〜1000kDaの分子量カットオフ値を有する遠心ろ過装置を使用してα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーおよびモノマーを分離する。典型的実験では、試料であるHNEおよび/またはONE修飾α−シヌクレイン500μlを、100kDaのカットオフ値を有するMicrocon遠心ろ過装置(Millipore社、Billerica、マサチューセッツ州)またはVivaspin500遠心分離装置(Sartorius社、Goettingen、ドイツ)のいずれかを用いて遠心する。試料を1000〜15000×gにわたる速度で5〜30分間遠心して、保持液を収集し、この保持液はα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの大部分を含有する。
【0089】
HNE修飾α−シヌクレイン
典型的な実験では、140μMのヒト野生型α−シヌクレインを5.6mMのHNEと共に(すなわちHNEとα−シヌクレインは40:1の比率)37℃で20時間インキュベートし、その後過剰の非結合HNEを、Zeba脱塩スピンカラム(Pierce Biotechnology社、Rockford、イリノイ州、米国)、Vivaspin500遠心分離装置(Sartorius社、Goettingen、ドイツ)またはMicrocon遠心ろ過装置(Millipore社、Billerica、マサチューセッツ州)のいずれかを製造者の指示に従って使用して除去する。この初期HNE修飾工程後、試料を直接分析する。SEC−HPLC分析の前に、すべての試料を22℃にて16,900×gで5分間の遠心分離に供し、可溶性分画だけを、Superose 6 PC3.2/30カラムを使用したSEC−HPLCによって分析する。α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーは19分でピーク中に溶出し、一方α−シヌクレインモノマーは37分で溶出する(図4)。
【0090】
ONE修飾α−シヌクレイン
典型的な実験では、ヒト野生型α−シヌクレイン(140μM)を4.2mMのONEと共に(すなわちONEとα−シヌクレインは40:1の比率)37℃で20時間インキュベートし、過剰の非結合ONEを、Zeba脱塩スピンカラム(Pierce Biotechnology社、Rockford、イリノイ州、米国)、Vivaspin500遠心分離装置(Sartorius社、Goettingen、ドイツ)またはMicrocon遠心ろ過装置(Millipore社、Billerica、マサチューセッツ州)を製造者の指示に従って使用して除去する。SEC−HPLC分析の前に、すべての試料を22℃にて16,900×gで5分間の遠心分離に供し、可溶性分画だけを、Superose 6 PC3.2/30カラムを使用したSEC−HPLCによって分析する。α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーは20分で主要ピークとして溶出し、一方少量のα−シヌクレインモノマーは37分で溶出する(図5)。
【0091】
HNEおよびONE修飾α−シヌクレイン
典型的な実験では、ヒト野生型α−シヌクレイン(140μM)を4.2mMのHNEおよび4.2mMのONEと共に37℃で20時間インキュベートし、過剰の非結合HNEおよびONEを、Zeba脱塩スピンカラム(Pierce Biotechnology社、Rockford、イリノイ州、米国)、Vivaspin500遠心分離装置(Sartorius社、Goettingen、ドイツ)またはMicrocon遠心ろ過装置(Millipore社、Billerica、マサチューセッツ州)を製造者の指示に従って使用して除去する。すべての試料を22℃にて16,900×gで5分間の遠心分離に供し、可溶性分画だけを、Superose 6 PC3.2/30カラムを使用したSEC−HPLCによって分析する。
【0092】
[実施例3]α−シヌクレイン種のHPLC分離
α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー、モノマーおよびフィブリルを単離するため、α−シヌクレインを前述したようにインキュベートする。Superdex 75 PC3.2/30、Superdex 200 PC3.2/30またはSuperose 6 PC3.2/30カラム(GE Healthcare社、Uppsala、スウェーデン)に連結した、ダイオードアレイ検出器L−7455型、L−7200型オートサンプラーおよびL−7100型ポンプを有するMerck Hitachi D−7000 LaChrom HPLCシステムをクロマトグラフィ分離および純度分析のために使用する。試料を、20〜50mMのTris(pH6.0〜8.0)、0.15MのNaClまたは20〜50mMのリン酸ナトリウム(pH6.0〜8.0)、0.15MのNaClのいずれかを使用して0.02ml/分〜0.08ml/分にわたる流速で溶出する。あるいは、Superose 6 10/300 GL、Superdex 200 100/300 GLまたはSuperdex 75 100/300 GLに連結した、L−2130型ポンプ、ダイオードアレイ検出器L−7450型、L−2200型オートサンプラーを有するHitachi LaChrome Elite HPLCシステムを使用する。試料を、20〜50mMのTris(pH6.0〜8.0)、0.15MのNaClまたは20〜50mMのリン酸ナトリウム(pH6.0〜8.0)、0.15MのNaClのいずれかを使用して0.1ml/分〜0.5ml/分にわたる流速で溶出する。さらに、試料は、0.15MのNaClを含むpH3〜6の酢酸ナトリウム緩衝液またはクエン酸ナトリウム緩衝液で溶出することができる。一部のSEC−HPLC分析では、α−シヌクレインプロトフィブリルオリゴマーのカラムマトリックスへの非特異的付着を低減するため、0.1%〜2.0%Tween−20またはTween−80を溶出緩衝液に添加する。214nm〜280nmのUV吸収を測定することによってクロマトグラムを得る。20〜100μlの分画をAdvantec SF−3120(Advantec社、柏、日本)フラクションコレクターで収集する。50〜500μlの分画もBio−Rad 2128型(Bio-Rad社、Hercules、カリフォルニア州)フラクションコレクターで収集できる。球状分子量標準品(Globular molecular weight standards)を使用して標準曲線を得、その標準曲線から様々なα−シヌクレイン種の保持時間を分子量に相関させる。
【0093】
[実施例4]α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの特徴づけ
単離したα−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーの形態をさらに特徴づけるため、低温電子顕微鏡検査および原子間力顕微鏡検査(AFM)を実施する。1〜100μlのタンパク質アリコートを10μM〜350μMにわたる最終濃度に希釈し、雲母表面またはHOPG表面(Veeco instruments SAS社、Dourdan cedex、フランス)に添加して、標準プロトコールに従って分析する。HNE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーのAFM分析は、直径50〜300nmにわたるリング様構造およびより線状で丸い構造の両方の不均質な集団を明らかにする。例えば、50〜300nmの直径を有するリング様構造の環状分子種が観測できる(図6)。ONE修飾α−シヌクレインのAFM分析は、幅で約30〜150nmの直径を有する不定形構造を明らかにする(図7)。
【0094】
[実施例5]α−シヌクレインの毒性評価
インビトロで凝集した非修飾α−シヌクレインならびにHNEおよび/もしくはONE修飾α−シヌクレインオリゴマーの作用を、一般に使用されるMTT(Sigma-Aldrich社、St. Louis、ミズーリ州、米国)生存能アッセイを使用して細胞培養モデルで分析する。試験で使用される細胞型は、HEK−293、SH−SY5Y細胞およびH4細胞を含む。試験で使用される細胞死およびアポトーシスマーカを測定する他のアッセイは、ToxiLight(Lonza社、Basel、スイス)および乳酸デヒドロゲナーゼアッセイ(Cayman Chemical社、Ann Arbor、ミシガン州、米国)を含む。野生型α−シヌクレインを以下の突然変異体:A30P、E46K、A53T、A30P/E46K、A30P/A53T、A30P/E46KおよびA30P/E46K/A53Tと比較する。細胞を、10%胎仔ウシ血清(Cambrex社、Charles City、アイオワ州、米国)を添加したDMEM(Invitrogen社、La Jolla、カリフォルニア州、米国)中で増殖させる。1つのタイプの実験では、細胞を37℃、5%COでインキュベータに保持する。毒性アッセイを開始する前日、HEK−293細胞を96穴ポリスチレン被覆プレート(Sarstedt社、ノースカロライナ州、米国)に10000細胞/穴の密度で接種する。次に、細胞培地を取り出し、3μM〜6μMの範囲の最終濃度で新鮮馴化培地に希釈した凝集形態の非修飾α−シヌクレインで細胞を処理する。もうひと組の実験では、ONEおよび/またはHNE修飾α−シヌクレインオリゴマーを3μM〜6μMの範囲の最終濃度で新鮮馴化培地に希釈する。48時間のインキュベーション後、リン酸緩衝食塩水(Invitrogen社、La Jolla、カリフォルニア州、米国)に希釈したMTTを35μMの最終濃度で細胞に添加する。4時間半のインキュベーション後、細胞を50%DMFと20%SDSの混合物(Sigma-Aldrich社、St Louis、ミズーリ州、米国)で処理し、この混合物をさらに24時間インキュベートする。最後に、代謝された基質の測定のために、Spectra Max 190分光光度計(Molecular Devices Corporation社、カリフォルニア州、米国)を使用し、570nmで検出を実施する。
【0095】
[実施例6]α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーで免疫したマウスにおけるα−シヌクレイン抗体
【0096】
免疫/ポリクローナル抗体
免疫スキームにおいてBalb/Cマウスを使用する。初回免疫のために、フロイント完全アジュバント50μlならびにHNE修飾および/またはONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤(最終濃度35μM)50μlをマウスに注射する。初期免疫(例えば3〜6回)のために、フロイント不完全アジュバント50μlならびにHNE修飾および/またはONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤(最終濃度35μM)50μlをマウスに注射する。その後の免疫(例えば1〜3回)のために、Tris緩衝食塩水またはリン酸緩衝食塩水、pH7.4に希釈したHNE修飾および/またはONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤(最終濃度35μM)50μlをマウスに注射する。HNE修飾および/またはONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤(最終濃度70μM)50μlを含有する2回のブースター注射を実施した後、マウスを犠死させる。
【0097】
免疫マウスからの血液を、HNE修飾(図8)およびONE修飾(図9)α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーに対する反応性に関して分析する。ポリクローナル抗体応答の特異性をELISAによって分析する。典型的な実験では、平底高結合96穴ポリスチレンマイクロタイタープレートを、モノマーα−シヌクレイン(非修飾、またはHNEおよび/もしくはONEまたは他のアルデヒドで修飾)、プロトフィブリル/オリゴマーα−シヌクレイン(非修飾、またはHNEおよび/もしくはONEまたは他のアルデヒドで修飾)、またはフィブリルα−シヌクレインにより400ng/穴の最終濃度で被覆する。穴を2%BSAでブロックし、0.05%Tween−20/PBSで洗浄して、検討するポリクローナル抗体からの細胞培地上清(未希釈またはリン酸緩衝食塩水で1:1希釈)を一次抗体として穴に添加する。アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG/IgM抗体(Pierce Biotechnology社、Rockford、イリノイ州、米国)を1/1000の希釈で二次抗体として使用する。p−ニトロフェニルホスフェート(Sigma-Aldrich社、ミズーリ州、米国)を使用して免疫反応性を視覚化する。
【0098】
血清中で、α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーを特異的に認識する抗体が検出される(図8および9)。
【0099】
ハイブリドーマ/モノクローナル抗体
脾細胞を単離し、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)中で摩砕して、1200×gで10分間遠心分離し、細胞に富むペレットを収集する。細胞をPBSでさらに洗浄し、1200×gで10分間遠心分離する。細胞ペレットを、1%抗生物質を添加したダルベッコ最小必須培地(DMEM、Invitrogen社、La Jolla、カリフォルニア州、米国)に再懸濁する。脾細胞をDMEM中でSp2/0細胞(マウス骨髄腫細胞株)と1:1の比率で混合する。細胞融合を促進するため、ポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社、St. Louis、ミズーリ州、米国)1mlを細胞混合物に添加し、DMEMを添加して反応を停止させる。細胞を採集し、10%(v/v)胎仔ウシ血清(Cambrex社、Charles City、アイオワ州、米国)を添加した、同時に1%(v/v)ピルビン酸ナトリウム(Cambrex社、Charles City、アイオワ州、米国)、1%(v/v)抗生物質(Sigma-Aldrich社、St. Louis、ミズーリ州、米国)および1%(v/v)L−グルタミン(Cambrex社、Charles City、アイオワ州、米国)を含有する、DMEM中にペレットを再懸濁する。遠心分離後、最終細胞ペレットを再懸濁する。生成されたハイブリドーマによって産生される抗体を検討するため、ELISAプロトコールを使用する。典型的な実験では、平底高結合96穴ポリスチレンマイクロタイタープレートを、モノマーα−シヌクレイン(非修飾、またはHNEおよび/もしくはONEまたは他のアルデヒドで修飾)、オリゴマー/プロトフィブリルα−シヌクレイン(非修飾、またはHNEおよび/もしくはONEまたは他のアルデヒドで修飾)、またはフィブリルα−シヌクレインにより400ng/穴の最終濃度で被覆する。穴を2%BSAでブロックし、0.05%Tween−20/PBSで洗浄して、検討するハイブリドーマからの細胞培地上清(未希釈またはリン酸緩衝食塩水で1:1希釈)を一次抗体として穴に添加する。ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG/IgM抗体(Pierce Biotechnology社、Rockford、イリノイ州、米国)を1/5000の希釈で二次抗体として使用する。強化K−Blue(登録商標)基質(TMB)を使用して免疫反応性を視覚化し、2MのHSOで反応を停止させる。10%ウシ胎仔血清を添加した、同時に5%(v/v)BM馴化培地(Roche Diagnostics Scandinavia社、Bromma、スウェーデン)および2%(v/v)HAT培地添加物(Sigma-Aldrich社、St. Louis、ミズーリ州、米国)を含有するDMEMと細胞を96穴細胞培養プレートに塗布する。
【0100】
先に述べたようにONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤を注射することによってハイブリドーマを生成した。具体的には、ハイブリドーマ40:2はELISAプロトコールにおいてONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマー製剤を認識した。ハイブリドーマ40:2からの細胞培地上清を1/9、1/27および1/82に希釈し、400ng/穴のONE修飾α−シヌクレインプロトフィブリル/オリゴマーで被覆した平底高結合96穴ポリスチレンマイクロタイタープレートで前述のように分析した(図10)。
【0101】
本明細書で述べる特定の実施例および実施形態は、本質的に単なる例示であり、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定することを意図しない。さらなる実施形態および実施例ならびにそれらの利点は、本明細書を考慮して当業者に明白であり、特許請求される本発明の範囲内である。
【0102】
[参考文献]
Bieschke,J.ら、2006、「低分子酸化産物は疾患関連タンパク質のミスフォールディングを引き起こす(Small molecule oxidation products trigger disease-associated protein misfolding.)」、Ace Chem Res 39、611−619
Chartier−Harlin,MC.ら、2004、「家族性パーキンソン病の原因としてのα−シヌクレイン遺伝子座重複(Alpha-synuclein locus duplication as a cause of familial Parkinson's disease)」、Lancet 1、364、1167−9
Conway,K.ら、2000、「フィブリル化ではなくオリゴマー化の促進が、早期発症パーキンソン病に結びつく両方のα−シヌクレイン突然変異の共通の性質である:病因および治療に対する影響(Acceleration of oligomerization, not fibrillization, is a shared property of both a-synuclein mutations linked to early-onset Parkinson's disease: Implications for pathogenesis and therapy.)」、Proc Natl Acad Sci USA 97、571−576
El−Agnaf,O.M.ら、2006、「パーキンソン病に関する潜在的バイオマーカとしてのヒト血漿中のオリゴマー形態のα−シヌクレインタンパク質の検出(Detection of oligomeric forms of α-synuclein protein in human plasma as a potential biomarker for Parkinson's disease.)」、Faseb J 20、419−425
Hansen,L.ら、1990、「レビー小体型のアルツハイマー病。臨床および病理学的実体(The Lewy body variant of Alzheimer's disease. A clinical and pathologic entity.)」、Neurology 40、1−8
Jeffries,R.、2009、「抗体に基づく治療を改善するための方策としてのグリコシル化(Glycosylation as a strategy to improve antibody-based therepeutics)」、Nature 8、226−234
Klucken,J.ら、2006、「レビー小体型認知症における不溶性α−シヌクレインの臨床および生化学的関連性(Clinical and biochemical correlates of insoluble α-synuclein in dementia with Lewy bodies.)」、Acta Neuropathol(Berl)111、101−108
Kruger,R.ら、1998、「パーキンソン病におけるα−シヌクレインをコードする遺伝子のAla30Pro突然変異(Ala30Pro mutation in the gene encoding a α-synuclein in Parkinson's disease.)」、Nat Genet 18、106−108
Nasstrom,Tら、2009、「脂質過酸化代謝産物である4−オキソ−2−ノネナールはα−シヌクレインに架橋して安定なオリゴマーの迅速な形成を生じさせる(The lipid peroxidation metabolite 4-oxo-2-nonenal cross-links α-synuclein causing rapid formation of stable oligomers.)」、Biochem Biophys Res Commun 378、872−876
Polymeropoulos,M.H.ら、1997、「パーキンソン病を有する家族において同定されたα−シヌクレイン遺伝子の突然変異(Mutation in the a-Synuclein Gene Identified in Families with Parkinson's Disease. )」、Science 276、2045−47
Qin,Z.ら、2007、「α−シヌクレイン凝集への4−ヒドロキシ−2−ノネナール修飾の影響(Effect of 4-hydroxy-2-nonenal modification on α-synuclein aggregation.)」、J Biol Chem 282、5862−5870
Shamoto−Nagai,M.ら、2007、「パーキンソン病患者の黒質において、α−シヌクレインは脂質過酸化産物であるアクロレインによって修飾され、プロテアソーム活性の阻害を伴ってドーパミン神経細胞に蓄積する(In parkinsonian substantia nigra, α-synuclein is modified by acrolein, a lipid-peroxidation product, and accumulates in the dopamine neurons with inhibition of proteasome activity.)」、J Neural Transm 144、1559−1567
Singleton,AB.ら、2003、「α−シヌクレイン遺伝子座三重複はパーキンソン病を引き起こす(alpha-Synuclein locus triplication causes Parkinson's disease.)」Science 302:841
Tsigelny,IF.ら、「アルツハイマー病とパーキンソン病の併発の病因におけるハイブリッドオリゴマーの形成機構(Mechanism of hybrid oligomer formation in the pathogenesis of combined Alzheimer's and Parkinson's Diseases.)」、PloS ONE、2008年9月、第3巻、第9号、e3135、p1−15、www.plosone.org
Yoritaka,A.ら、1996、「パーキンソン病における4−ヒドロキシノネナールタンパク質付加物の免疫組織化学的検出(Immunohistochemical detection of 4-hydroxynonenal protein adducts in Parkinson disease.)」、Proc Natl Acad Sci USA 93、2696−2701
Zarranz,J.ら、2004、「α−シヌクレインの新しい突然変異、E46Kはパーキンソン病およびレビー小体型認知症を引き起こす(The new mutation, E46K, of α-synuclein causes Parkinson and Lewy body dementia.)」、Ann Neurol.55、164−173

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するためのワクチンであって、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、単離された安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーの治療有効量を含有するワクチン。
【請求項2】
前記安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーが、疎水性有機物質で修飾されたα−シヌクレインを含む請求項1記載のワクチン。
【請求項3】
前記疎水性有機物質が、飽和、不飽和もしくは多不飽和脂肪酸、またはそれらの誘導体もしくは組合せを含む請求項2記載のワクチン。
【請求項4】
前記疎水性有機物質がアルデヒドを含む請求項2記載のワクチン。
【請求項5】
前記アルデヒドがアルケナールを含む請求項4記載のワクチン。
【請求項6】
前記アルケナールがα,β−不飽和である請求項5記載のワクチン。
【請求項7】
前記アルデヒドが、4−ヒドロキシ−2−ノネナール、マロンジアルデヒド、4−オキソ−2−ノネナールおよびアクロレイン、ならびにそれらの任意の組合せからなる群より選択される請求項4記載のワクチン。
【請求項8】
前記アルデヒドが、2つのアルデヒド基を連結する2〜25個の炭素原子の一不飽和または多不飽和炭素鎖を有するジアルデヒドである請求項4記載のワクチン。
【請求項9】
前記疎水性有機物質が、非イオン性界面活性剤もしくは両性イオン性界面活性剤、またはそれらの任意の組合せを含む請求項3記載のワクチン。
【請求項10】
前記界面活性剤が、ポリエチレングリコールp−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、脂肪族アルコールの非イオン性ポリオキシエチレンエーテルおよび(3−[(3−コルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)(CHAPS)、ならびにそれらの任意の組合せからなる群より選択される請求項9記載のワクチン。
【請求項11】
前記疎水性有機物質が、トリグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質、ガングリオシド、コレステロール、コレステロールエステル、長鎖アルコールおよびそれらの任意の組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項2記載のワクチン。
【請求項12】
前記疎水性有機物質が、デオキシコール酸塩、コール酸塩およびタウロコール酸塩、ならびにそれらの任意の組合せからなる群より選択される胆汁酸誘導体を含む請求項2記載のワクチン。
【請求項13】
前記安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーが、1−α−ヒドロキシ−セコステロールで修飾されたα−シヌクレインを含む請求項1記載のワクチン。
【請求項14】
前記安定化可溶性α−シヌクレインオリゴマーが、酒石酸ジスクシンイミジル、スベリイミド酸ビススルホスクシンイミジルおよび3,3−ジチオビス−スルホスクシンイミジルプロピオネート、ならびにそれらの任意の組合せからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質架橋剤で架橋されたα−シヌクレインを含む請求項1記載のワクチン。
【請求項15】
前記α−シヌクレインが野生型α−シヌクレイン(配列番号1)を含む請求項1乃至14のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項16】
前記α−シヌクレインが、A30P(配列番号2)、E46K(配列番号3)およびA53T(配列番号4)、ならびにそれらの任意の組合せからなる群より選択される突然変異体を含む請求項1乃至15のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項17】
前記α−シヌクレインが、1またはそれ以上のSerおよび/またはAlaアミノ酸が部位指定突然変異誘発によってCysで置換された野生型α−シヌクレインを含む請求項1乃至16のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項18】
前記ワクチンが、ヒトまたは動物での使用のために医薬的に許容される抗菌剤、アジュバント、緩衝剤、塩、pH調整剤、界面活性剤およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される1またはそれ以上の賦形剤を含有する請求項1乃至17のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項19】
前記ワクチンが凍結乾燥されている請求項18記載のワクチン。
【請求項20】
前記ワクチンが、凍結乾燥の間および/または凍結乾燥後の抗原の安定性を高めるために賦形剤と共に凍結乾燥されている請求項18または19記載のワクチン。
【請求項21】
前記賦形剤がマンニトールおよび/またはトレハロースを含む請求項18乃至20のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項22】
β−アミロイド、タウおよび/またはホスホ−タウの1またはそれ以上をさらに含有する請求項1記載のワクチン。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載のワクチンを個体に投与することを含む、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための方法。
【請求項24】
前記α−シヌクレイン関連疾患が、パーキンソン病、レビー小体および/またはレビー神経突起を伴う認知症、アルツハイマー病、ダウン症候群、多系統委縮症(MSA)、レビー小体病変を有する他の疾患、アルツハイマー病症候群、筋委縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、プリオン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー症候群、クールー、致死性家族性不眠症、脳血管アミロイドーシス、緑内障、加齢性黄斑変性、精神症候群、統合失調症および統合失調症様障害からなる群より選択される請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記α−シヌクレイン疾患がパーキンソン病である請求項23記載の方法。
【請求項26】
可溶性α−シヌクレインに対する抗体を作製するための請求項1乃至22のいずれか1項に記載のワクチンの使用。
【請求項27】
可溶性α−シヌクレインに結合する、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための抗体。
【請求項28】
前記抗体がモノクローナルである請求項27記載の抗体。
【請求項29】
前記抗体が、ヒト、ヒト化である、またはヒトにおける抗原性を低減するように修飾されている請求項27または28記載の抗体。
【請求項30】
前記抗原性の低減が、抗体のT細胞エピトープを修飾するまたは排除することによって為された請求項29記載の抗体。
【請求項31】
前記抗体がIgGクラスである請求項27乃至30のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項32】
前記抗体がIgG1またはIgG4サブクラスである請求項31記載の抗体。
【請求項33】
前記抗体が低い補体活性を有する請求項32記載の抗体。
【請求項34】
前記の低い補体活性が、重鎖のアミノ酸配列の297位または331位で抗体のFc部分を突然変異させることによって達成された請求項33記載の抗体。
【請求項35】
前記の低い補体活性が、抗体を酵素的に脱グリコシル化することによって達成された請求項33記載の抗体。
【請求項36】
前記抗体がFabフラグメントである請求項28記載の抗体。
【請求項37】
前記抗体が、F(ab)、F(ab)およびダイアボディから選択される請求項36記載の抗体。
【請求項38】
前記抗体がポリクローナルである請求項27記載の抗体。
【請求項39】
前記抗体が一本鎖抗体である請求項38記載の抗体。
【請求項40】
前記一本鎖抗体が、scFv−FcおよびscFabから選択される請求項39記載の抗体。
【請求項41】
前記抗体がFabフラグメントである請求項38記載の抗体。
【請求項42】
前記Fabフラグメントが、F(ab)、F(ab)およびダイアボディから選択される請求項41記載の抗体。
【請求項43】
個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための抗体を作製する方法であって、該抗体またはそのフラグメントが可溶性α−シヌクレインに結合し、該方法が、抗原を非ヒト動物に投与すること、および抗原に対して形成された抗体を収集することを含み、該抗原が、α−シヌクレインの非安定化オリゴマーよりも非可溶性凝集形態への形成率が低い、安定化された可溶性α−シヌクレインオリゴマーを含む方法。
【請求項44】
請求項27乃至42のいずれか1項に記載の抗体、ならびにヒトまたは動物での使用のために医薬的に許容される抗菌剤、アジュバント、緩衝剤、塩、pH調整剤、界面活性剤およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される1またはそれ以上の賦形剤を含有する抗体組成物。
【請求項45】
前記組成物が凍結乾燥されている請求項44記載の組成物。
【請求項46】
前記組成物が、凍結乾燥の間および/または凍結乾燥後の抗体の安定性を高めるために賦形剤と共に凍結乾燥されている請求項44または45記載の組成物。
【請求項47】
前記賦形剤がマンニトールおよび/またはトレハロースである請求項46記載の組成物。
【請求項48】
請求項27乃至42のいずれか1項に記載の抗体を、可溶性α−シヌクレインを含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料に添加すること、および該抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体を検出し、その濃度を測定することを含む、インビトロでα−シヌクレインオリゴマーを検出する方法。
【請求項49】
検出可能なマーカで標識されている、請求項27乃至42のいずれか1項に記載の抗体を、可溶性α−シヌクレインを保持することが疑われる個体に投与すること、および前記マーカの検出によって抗体と可溶性α−シヌクレインの間で形成された任意の複合体の存在を検出することを含む、インビボでα−シヌクレインオリゴマーを検出する方法。
【請求項50】
請求項27乃至42のいずれか1項に記載の抗体を個体に投与することを含む、個体においてα−シヌクレイン関連疾患の発症を遅延させるためまたはα−シヌクレイン関連疾患を治療するための方法。
【請求項51】
前記α−シヌクレイン関連疾患が、パーキンソン病、レビー小体および/またはレビー神経突起を伴う認知症、アルツハイマー病、ダウン症候群、多系統委縮症(MSA)、レビー小体病変を有する他の疾患、アルツハイマー病症候群、筋委縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、プリオン病、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー症候群、クールー、致死性家族性不眠症、脳血管アミロイドーシス、緑内障、加齢性黄斑変性、精神症候群、統合失調症および統合失調症様障害からなる群より選択される請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記α−シヌクレイン疾患がパーキンソン病である請求項51記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2011−518874(P2011−518874A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506815(P2011−506815)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051731
【国際公開番号】WO2009/133521
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(510287142)バイオアーティック ニューロサイエンス アーベー (1)
【Fターム(参考)】