α1,3−フコシルトランスフェラーゼ
【課題】タンパク質の糖鎖付加に関わる、鱗翅目及びナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定すること、並びに鱗翅目及びナス目において前記α1,3−フコシルトランスフェラーゼの発現を抑制することによって、本来非ヒト型糖鎖を付加する動植物タンパク質生産系においてヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産する方法を提供する。
【解決手段】 α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを細胞内に導入する工程と、当該細胞内で前記DNAを発現させる工程とを有する方法。
【解決手段】 α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを細胞内に導入する工程と、当該細胞内で前記DNAを発現させる工程とを有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA及び、前記α1,3−フコシルトランスフェラーゼを利用した、動植物においてヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生命科学分野において、遺伝子組換え技術を始めとする遺伝子操作技術が大きな役割を果たしている。例えば、遺伝子組換えマウスや遺伝子組換えイネ等、遺伝子操作により種々の細胞を改変し、新たな形質若しくは有用形質を付加することが可能となっている。
【0003】
このような遺伝子操作技術を用いて、ヒト以外の生物を生産宿主としてヒトに用いる糖タンパク質を生産することが以前から検討されている。まず、その生産宿主としては、管理面、発現体確立の容易性の観点から、従来から大腸菌が用いられてきたが、原核生物である大腸菌は、タンパク質に糖鎖を付加する機能を有していないため、ヒト型の糖鎖を付加したタンパク質を生産できないという根本的な問題があった。そのため現在では、タンパク質に糖鎖を付加する機能を備えている植物体若しくは植物細胞又は昆虫細胞等が生産宿主として検討されるに至っている。
【0004】
しかし、植物若しくは昆虫によって生産された糖タンパク質は、ヒト体内において、その糖タンパク質本来の活性・機能を示さない場合が多い。これは、植物及び昆虫の糖鎖付加機構がヒトと異なり、それに応じて、糖タンパク質の糖鎖構造が植物及び昆虫とヒトとで異なるためである。例えば、植物及び昆虫を生産宿主として糖タンパク質を生産させた場合、このタンパク質がヒトに対して抗原性を有する場合が多い。
【0005】
この抗原性は、糖タンパク質のα1,3−コアフコースを含む糖鎖部分に起因する。このα1,3−結合は、植物や昆虫に由来するα1,3−フコシルトランスフェラーゼによってフコースが糖タンパク質に付加されることにより形成される。そこで、このような抗原性を回避するために、α1,3−フコシルトランスフェラーゼの不活性化が望まれる。
【0006】
具体的には、糖タンパク質の糖鎖部分は、コア構造に糖が付加された構造となっており、生物種に依存して異なる。コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースの結合は、糖鎖付加の1つの様式であり、植物ではα1,3−結合、ヒトやマウスなどの哺乳類ではα1,6−結合、昆虫ではα1,3−結合及びα1,6−結合の両方が見出されている。
【0007】
このうち植物では、リョクトウ(Vigna radiata)でα1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定すること、及びその発現を抑制する方法が非特許文献1及び特許文献1に開示されている。
【0008】
また、昆虫では、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)でα1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定することが非特許文献2に開示されている。
【0009】
【特許文献1】特表2002−536978号公報
【非特許文献1】J Biol Chem 1999 Jul 30;274(31):21830−9
【非特許文献2】J Biol Chem 2001 Jul 27;276(30):28058−67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、タンパク質の糖鎖付加に関わる、鱗翅目及びナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定すること、並びに鱗翅目及びナス目において前記α1,3−フコシルトランスフェラーゼの発現を抑制することによって、本来非ヒト型糖鎖を付加する動植物タンパク質生産系においてヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鱗翅目及びナス目のタンパク質生産系における糖タンパク質の生産に関与する遺伝子に関する。α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、鱗翅目及びナス目のタンパク質生産系においてN−アセチルグルコサミン残基にフコースを付加する酵素をコードする遺伝子として、染色体のいずれかの場所に存在すると予測されている。本発明者らは、その存在領域を解明し、単一の遺伝子として単離することを試みた。
【0012】
まず、本発明者らは、ショウジョウバエ由来のα−1,3−フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフを含むアミノ酸配列をソースに、カイコのゲノムデータベース検索を行った。また、この検索結果から候補となるゲノム配列を選定し、さらにエキソンを含む領域のクローニングを行い、カイコα−1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子を取得した。
【0013】
また本発明者らは、シロイヌナズナα−1,3−フコシルトランスフェラーゼの遺伝子配列をソースに、トマトcDNAから相同性の高いゲノム配列を同定し、トマトα−1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子とした。
【0014】
その後、本発明者らは、鋭意検討の結果、鱗翅目動物若しくはナス目植物を用いてヒト用糖タンパク質を生産する際、鱗翅目及びナス目が有するα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制することにより、ヒト型糖鎖を付加したタンパク質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下の構成からなる。
【0015】
〔1〕鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
〔2〕〔1〕のDNAにおいて、前記DNAは、カイコのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
〔3〕〔1〕のDNAであって、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔4〕ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
〔5〕〔4〕のDNAにおいて、前記DNAは、トマトのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
〔6〕〔4〕のDNAであって、以下(e)〜(h)のいずれかに記載のDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔7〕鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(i)〜(iii)のいずれかに記載のDNA;
(i)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
〔8〕ナス目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(iv)〜(vi)のいずれかに記載のDNA;
(iv)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
〔9〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
〔10〕〔9〕の組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞。
〔11〕〔10〕の形質転換細胞から得られる形質転換体。
〔12〕〔11〕の形質転換体の子孫またはクローンである、形質転換体。
〔13〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の繁殖材料。
〔14〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、〔7〕のDNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程と、当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、形質転換動物を選択する工程とを有する方法。
〔15〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、〔8〕のDNAをナス目由来の細胞に導入する工程と、当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程とを有する方法。
〔16〕α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを細胞内に導入する工程と、当該細胞内で前記DNAを発現させる工程とを有する方法。
〔17〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られる組換えタンパク質。
〔18〕〔17〕のタンパク質を製造する方法であって、〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体を培養する工程と、当該形質転換細胞または形質転換体若しくはそれらの培養上清から組換えタンパク質を回収する工程とを有する方法。
〔19〕〔7〕記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られる組換えタンパク質。
〔20〕〔19〕のタンパク質を製造する方法であって、〔7〕記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程と、当該形質転換細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程とを有する方法。
〔21〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動植物体から得られる組換えタンパク質。
〔22〕〔17〕、〔19〕、または〔21〕のいずれか記載のタンパク質と、薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼは、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基にα1,3−結合によりフコースを付加する酵素である。前記酵素をコードする遺伝子を単離・同定し、更に、前記遺伝子の発現を抑制することにより、ヒト型糖鎖を付加した糖タンパク質を安定的に生産できるようになった。この新手法により、鱗翅目動物若しくはナス目植物を用いて、ヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
まず鱗翅目に係る本発明の実施形態を説明する。
【0018】
ここで鱗翅目動物の例としては、アゲハチョウ科(Papilionidae)、タテハチョウ科(Nymphalidae)、ヤガ科(Noctuidae)、スズメガ科(Sphingidae)、カイコガ科(Bombycidae)等が挙げられ、ギフチョウ、オオムラサキ、スズメガ、カイコガ等が含まれる。また、タンパク質生産の際には、Spodoptera frugiperda、Tichoplusia ni等の鱗翅目動物細胞が宿主として用いられる。
【0019】
以下においては、この中のカイコガの幼虫であるカイコの例を説明する。
【0020】
(1)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA
本明細書において「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」とは、糖タンパク質のタンパク質部分の合成後、糖鎖付加の際に生じる還元末端アセチルグルコサミン残基にフコース残基を付加する酵素である。この酵素は、GDP−フコースを糖供与体として、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖の最もペプチド鎖に近いN−アセチルグルコサミンにα1,3−結合でフコースを連結させる機能を有する。
【0021】
本発明は、タンパク質の糖鎖構造に関与するα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAを提供する。
【0022】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAは、具体的には、
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0023】
ここで、本明細書における「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が所望の機能を失わない限り、その置換等されるアミノ酸数は限定されるものではない。例えば、置換等されるアミノ酸の数は、30個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特により好ましくは3個以下である。
【0024】
また、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、相同遺伝子をコードするDNAを単離するために行うハイブリダイゼーション反応条件を指し、このハイブリダイゼーション反応は、当業者に既知の方法に準じて行うことができる。
【0025】
「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」としては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0026】
本明細書に係る「α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA」は、「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」をコードするものであれば、その形態に制限はなく、cDNA,ゲノムDNA、化学合成DNAや、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNA等を含む。
【0027】
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、カイコからゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号:2に記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、カイコから抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをプラスミド、ファージ等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0028】
このDNAを利用することにより、鱗翅目においてヒト型糖鎖が付加された糖タンパク質を生産することが可能となる。ここで「ヒト型糖鎖」とは、糖鎖コア構造の還元末端部分に存在するN−アセチルグルコサミン残基に、α1,3−結合によるフコース残基が存在しない糖鎖を意味する。
【0029】
(2)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNA
本発明はまた、鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを提供する。このようなDNAには、具体的には、
(i)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA、
が含まれる。
【0030】
(i)のDNAは、アンチセンスRNAをコードするDNAであり、(ii)のDNAは、触媒活性を有するDNAであり、(iii)のDNAは、内因性のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。
【0031】
また「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制」には、DNAの転写の抑制及びタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0032】
このDNAにより、鱗翅目において、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を抑制することができる。
【0033】
(3)本発明の組換えベクター
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを含む組換えベクターを提供する。
【0034】
抑制用DNAを導入するベクターは、細胞内で導入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、昆虫細胞内で恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、アクチンプロモーター)を有するベクターや、外的刺激によって活性が誘導されるプロモーター(例えば、ヒートショックプロモーター)を有するベクターであっても良い。ベクターへの本発明の抑制用DNAの挿入は、既知の方法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0035】
上記ベクターには、導入遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、若しくは宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いても良い。例えば、宿主細胞としてカイコを用いる場合には、クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)等のマーカー遺伝子を組み込んでいても良い。この場合、マーカー遺伝子の上流に3xP3等のプロモーター配列を組み込み、その作用によりマーカー遺伝子を発現させるようにする。また、大腸菌を用いる場合には、カナマイシン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として組み込んでいても良い。
【0036】
抑制用DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって細胞に導入することができる。
【0037】
本発明のベクターが導入される宿主細胞は特に制限されるものではなく、目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。例えば、細菌細胞(大腸菌等)、真菌細胞(酵母等)、昆虫細胞(カイコ等)、動物細胞(CHO等)、植物細胞等である。
【0038】
この組換えベクターにより、抑制用DNAを細胞内で効率的に発現させることができる。
【0039】
(4)本発明の形質転換細胞、形質転換体、繁殖材料、及びこの形質転換体の製造方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNA若しくは(3)で説明した組換えベクターが導入された形質転換細胞、前記形質転換細胞から作り出された形質転換体、前記形質転換体の子孫若しくはクローンである形質転換体、これら形質転換体の繁殖材料、並びにこれら形質転換体を製造する方法を提供する。この方法は、具体的には、
(A1)抑制用DNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程、
(A2)当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、トランスジェニック動物を選択する工程
とからなる。
【0040】
ここで、本発明の形質転換細胞は、抑制用DNA若しくは組換えベクターが導入された細胞若しくは細胞の集合であって形質転換体である動物を再生し得るものであれば特に制限はない。本発明の形質転換細胞は、例えば卵等である。
【0041】
組換えベクターを導入した形質転換細胞は、ベクターに導入されている所定のマーカー遺伝子に応じて、種々の方法を用いて選抜することができる。例えば、マーカー遺伝子としてGFPが導入されている場合には、発現したGFPタンパク質の蛍光を検出することによって形質転換細胞の選抜ができる。また、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子が導入されている場合には、適した選抜用薬剤を有する既知の選抜用培地で培養しても良い。
【0042】
また、形質転換細胞及び形質転換体に導入されたDNAは、ハイブリダイゼーションやPCR法等の当業者に公知の方法によって、若しくは昆虫のDNA塩基配列を解析することによって確認できる。
【0043】
また、上述の形質転換体の染色体内に抑制用DNAを導入することで、この形質転換体から有性生殖若しくは無性生殖により子孫を得ることが可能となる。更に、この形質転換体若しくはその子孫又はクローンから繁殖材料(例えば、卵)を得ることで、前記形質転換体を量産することが可能となる。
【0044】
(5)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを用いてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法を提供する。具体的には、この方法は、
(B1)抑制用DNAを細胞内に導入する工程、
(B2)当該細胞内で抑制用DNAを発現させる工程、
とからなる。
【0045】
「DNAを細胞内に導入する工程」は、例えば、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法等の当業者にとって既知の種々の方法を用いて行うことができる。上記のような(5)の方法により、抑制用DNAを発現可能な状態で含むベクターが細胞に導入され、従って、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
(6)本発明の組換えタンパク質及びその製造方法
本発明はまた、ヒト型糖鎖を付加した組換えタンパク質を提供する。このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られるものである。また、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られるものであっても良い。更に、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質であっても良い。
【0047】
本発明はまた、上記組換えタンパク質の製造方法を提供する。この方法は、具体的には、
(C1)抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞若しくは形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程、
(C2)当該細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程
とからなる。更に、この方法は、
(D1)(2)で説明した抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞を培養する工程、
(D2)当該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程
とからなっても良い。
【0048】
この方法によって得られる組換えタンパク質は、ヒト型糖鎖を付加された任意のタンパク質である。即ち、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を有さないタンパク質である。
【0049】
(7)本発明の薬学的組成物
本発明はまた、(6)で説明した組換えタンパク質と薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物を提供する。この担体は、動物体内における送達に適したものであり、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、弛緩剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤等を含むが、これらに限定されるものではなく、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、乳糖、デンプン、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、白糖、コーンスターチ等である。
【実施例1】
【0050】
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0051】
実施例1.1 カイコα1,3−フコース転移酵素のクローニング
独立行政法人 農業生物資源研究所のKAIKOBLASTデータベースを用い、相同性検索を行った。検索にはショウジョウバエ由来α−1,3−フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフを含むアミノ酸配列(Asp354−Met390)をソースとした。
【0052】
データベース検索により高い相同性を示した塩基配列について、GENSCANプログラム(http://genes.mit.edu/GENSCAN.html)解析により、エキソン領域を推定した。
【0053】
ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、エキソンを含む領域を増幅及びクローニングした。PCRにはKOD Plus polymerase(TOYOBO)を用い、図1に示す条件で反応した。
【0054】
KAIKOBLAST データベース検索の結果、ショウジョウバエ由来FucTA活性モチーフ領域と高い相同性を示すゲノム配列が見出され(図2)、更に、GENSCAN解析から、完全長FucTに相当するエキソンをコードしている事が示された。
【0055】
FucT候補遺伝子について、エキソンを含む領域をゲノムDNAからPCR増幅した結果、目的配列と一致するDNA断片の増幅が確認できた(図3)。
【0056】
実施例1.2 RNAi用カイコ形質転換ベクターの作製
(1)RNAi用のプラスミドpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]の構築
P50系統のカイコのゲノムDNAをテンプレートとし、プライマーにA3 short2−RE(5'−GGGGTCTAGAGCTAGCCGGTCCGGGCCAACAGGTGAGCTCATCGATTCTGGACTATGCACTTCGTCTCTCGGCCGGTGGGCCGTTATCGACCGTTATCTG−3')とA3 short2r−ER(5'−GGGGTCTAGAGTCGACGGCCTACATGGCCACTAGTCTTCTCTCTGAAACAGAACAAAGTCATTCGTCAGATAACGGTCGATAACGGCCCACCGGCCGAGA−3')とを用いたPCRにより、カイコのアクチン3遺伝子の第1と第2エキソンの一部を含む第1イントロン領域を増幅した。得られたDNA断片をXba1で処理し、プラスミドpBlue(UAS)(Sakudoh et al.,Proc Natl Acad Sci USA 104,8941−8946,2007)のBln1サイトに挿入した(図4A)。得られたプラスミドを精製し、Xho1とBamH1とで処理することによってUASとA3イントロン、S40のポリAシグナルを含む領域を切り出し、プラスミドpBacMCS(Uchino et al.,J.Insect Biotechnol,Sericol.75,89−97,2006)の同じ制限酵素の認識配列部位に挿入した(図4A)。このプラスミドのEcoR1サイトにプラスミドpBac[3xP3−EGFP](Horn et al.,2000)をテンプレートとし、3xP3−EGFP.13U19−EcoRI(5'−ggggaattcGCTTCGGTTTATATGAGAC−3')と3xP3−EGFP.1352L21−EcoRI(5'−ggggaattcTGAGTTTGGACAAACCACAAC−3')とをプライマーとするPCRによって増幅した3xP3−EGFP断片をEcoR1で処理したものを挿入することによって、pBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]を作出した(図4B)。得られた各プラスミドの塩基配列はABI自動シークエンサーによって決定した。
【0057】
(2)フコース転移酵素RNAi用配列のpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]への挿入
実施例1.1でクローニングしたフコース転移酵素遺伝子を鋳型とし、以下のプライマーの組み合わせによるPCRで得られたDNA断片を、RNAi用のプラスミドpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]に逆方向に挿入したベクターを作出した。
Fut1f(NheI):5'−gaGCTAGCTTAATGTTCATTCATTATTTTGTTATATATATTA−3'
Fut1r(CpoI):5'−aaaCGGaCGGATGTTTTATGTAATGACAGTTATGTTTT−3'
Fut2f(SpeI):5'−ggACTAGTATGTTTTATGTAATGACAGTTATGTTTT−3'
Fut2r(SfiI):5'−aaGGCCtacatGGCCTTAATGTTCATTCATTATTTTGTTATATATATTA−3'
Fut3f(NheI):5'−gaGCTAGCTTATTTAAACAAGCCCCATAAGAATCAATC−3'
Fut3r(CpoI):5'−aaaCGGaCCGTGGGGCTTGTTTAAATAATAAACATTTACC−3'
Fut4f(SpeI):5'−ggACTAGTTGGGGCTTGTTTAAATAATAAACATTTACC−3'
Fut4r(SfiI):5'−aaGGCCtacatGGCCTAAACAAGCCCCATAAGAATCAATC−3'
すなわち、pBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]のNheI−CpoI間およびSpeI−SfiI間に以下の表1のようにPCR増幅DNA断片を挿入し、転写産物がヘアピン構造をとるようなコンストラクトを3種類作出した(図5)。
【0058】
【表1】
【0059】
得られた各プラスミドの塩基配列はABI自動シークエンサーによって決定した。
【0060】
実施例1.3 トランスジェニックカイコの作製
実施例1.2で得たプラスミドを精製し、ヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura et al.,Nature Biotechnology 18,81−84,2000)と一緒に注射用の緩衝液(5mM KCl/0.5mMリン酸緩衝液pH7.0)に溶かし、各プラスミドDNAが200μg/mlになるように注射液を調製した。この液を産卵後8時間以内のw1−pnd系統のカイコの卵に注射した。その結果、3種類のコンストラクトのうち2種類についてはトランスジェニックカイコが得られた(表2)。このうち、フコース転移酵素の全長が逆方向に挿入されたものについて系統化を行った。その結果、3系統が作出された。これらの系統にカイコの細胞質アクチン遺伝子の上流をプロモーターとするGAL4系統(Tan et al.,Proc.Nati.Acad.Sci.USA 102,11751−711756,2005)を交配し、F1の卵を採種し5℃で保存した。卵を25℃に移した後、GFP及びDsRedの検出用のフィルターを装備した蛍光実体顕微鏡で胚を観察することによって、フコース転移酵素のヘアピンRNAとGAL4の遺伝子を持つ個体を選抜した。得られた個体を5令まで飼育し、RNAi用の幼虫としてNPVの感染に用いた。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1.4 トランスジェニックカイコでの糖タンパク質の発現と精製
(1)糖タンパク質の発現
糖タンパク質であるインフルエンザヘマグルチニン(HA)を発現する組換えバキュロウイルスを、既存の方法(J.Virol.Methods.98(1):1−8,2001)で作製した。5齢2日目の、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ抑制トランスジェニックカイコ及び非トランスジェニックコントロールカイコに、PBSで100倍に希釈したHA発現バキュロウイルス(4.77×106PFU/ml)を50μlずつ注射した。各々にエサとして蚕用人工飼料を与え23℃で飼育をおこない、感染後5日後に、虫体を回収した。
【0063】
(2)糖タンパク質の精製
感染回収カイコ(20頭)に、300mlの磨砕バッファー(40mlの500mM Tris pH8.0にEDTA・2Naを0.75g、ベンズアミジンを1.6g、過硫酸ナトリウムを0.5g加え、1000mlにメスアップしたもの)を加え、ホモジェネート及び超音波処理をおこなった。磨砕バッファーをさらに加え、液量を360mlとし、これに40mlの20% Triton X100を加え、室温で30分攪拌した。次に0.1%になるようにプロタミン硫酸を加え攪拌し、4℃で15分静置した。3,000rpmで15分遠心し、上清を濾紙でろ過し、HA抽出試料とした。
【0064】
CNBr−Sepharose FF(GEヘルスケアバイオサイエンス)に、Fetuin(SIGMA)を添付の説明書に従って結合させた。約20mlのFetuinを結合させたSepharose FFをカラムにパッキングし、0.1%のTriton X100を含む20mM Tris pH8.0で平衡化した。これにHA抽出試料を0.8ml/minの流速でカラムにアプライし、その後、平衡化バッファーで非吸着成分を洗い流した。0.1%のTriton X100を含む10mMのホウ酸バッファーpH10.0で洗浄し、0.1%のTriton X100を含む100mMのホウ酸バッファーpH10.0でHAの溶出をおこない、280nmの吸光度でのピークを回収した。
【0065】
カラム溶出物に、15%量のPEG6000を加え15分攪拌し、10000×g 10分の遠心をおこない、上清を捨てた。20mM Tris pH8.0,150mM NaClを加え沈殿を溶解し、精製試料とした。
【0066】
実施例1.5 トランスジェニックカイコ発現糖タンパク質の糖鎖構造の解析
1.5.1 精製糖タンパク質からの糖鎖の切り出し
(1)脱塩したHAタンパク質を凍結乾燥し、完全に乾燥させた。
【0067】
(2)1.0mlの無水ヒドラジン(東京化成工業)を加え、100℃で10時間加熱した。
【0068】
(3)反応後、アセトン中に反応液を移し、20分静置した後、4℃、15分、12,000rpmで遠心分離した。
【0069】
(4)上清を捨て、得られたペレットを凍結乾燥し、完全にアセトンを取り除いた。
【0070】
(5)乾燥したペレットに3mlの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と120μlの無水酢酸(Wako)を加えて十分に混合し、室温で20分静置した。
【0071】
(6)あらかじめpH2.0に調整しておいたDOWEX50×2(室町化学工業)を、試料のpHが2.0になるまでpH試験紙で確認しながら加えた。ガラスウールを軽くつめたカラムを用いて樹脂と溶液を分離し、5倍容量のdH2Oで洗浄して溶出液をナス型フラスコに全て集めた。
【0072】
(7)この溶出液に適量の1−ブタノールを加えてエバポレータで濃縮し、あらかじめ0.1Nアンモニア水で平衡化しておいたTSK gel TOYO PERAL HW−40(TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)に通し、溶出液を80滴(約4ml)ずつ40フラクションまで分画した。分画は、2128 Fraction collector(Bio−Rad)で行った。
(8)各フラクションをよく攪拌した後、100μlをとり、100μlの5%フェノールとよく混ぜた後、400μlの濃硫酸と混合し、糖鎖が存在するフラクションを回収し、適量の1−ブタノールを加え、エバポレータで濃縮した後、更に凍結乾燥で濃縮した。
【0073】
1.5.2 糖鎖のピリジルアミノ(PA)化
(1)凍結乾燥した試料にPA化試薬(2.76g/ml 2−アミノピリジン酢酸溶液)をサンプルが十分浸るように加え、90℃で1時間加熱した。
【0074】
(2)室温まで冷却した試料にジメチルアミン−ボラン溶液(195 mg/ml ホウ酸ジメチルアミン(Wako)酢酸溶液)を前項で加えたPA化試薬と等量加えてよく混合し、80℃で40分加熱した。
【0075】
(3)室温で冷却後、試料と等量のdH2Oを加えて十分混合し、あらかじめ0.1Nのアンモニア水で平衡化しておいたTSK gel TOYO PERAL HW−40(TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)に通し、溶出液を80滴(約4ml)ずつ40フラクションまで分画した。分画は、2128 Fraction collector (Bio−Rad)で行った。
【0076】
(4)各フラクションの蛍光強度(Ex:320nm,Em:400nm)をF−2000形蛍光分光光度計(HITACHI)で測定し、糖鎖が含まれるフラクションを回収し、1−ブタノールを適量加えてエバポレータで濃縮した。
【0077】
1.5.3 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるPA化糖鎖の分析
(1)精製した糖鎖をODSカラムによるHPLCで分画を行ない、さらに各フラクションについてアミドカラムによるHPLCで分画を行った。
【0078】
(2)分析にはHITACHI FL Detector L−7480を持つHITACHI HPLCシステム、及び蛍光検出器を持つNANOSPACE SI−1(SHISEIDO)を用いた。
【0079】
(3)HITACHI HPLCシステムでのODSカラムによる精製及び分析には、カラムはCosmosil 5C18−AR−II(6.0×250 mm, nakalai tesque)カラムを用いた。調製したPA化糖鎖や市販のPA化糖鎖を試料として用いた。分析条件を以下に示す。
Solvent A :0.02%TFA(trifluoroacetic acid)
Solvent B :20%acetonitrile/0.02%TFA
Gradient :0%→4%acetonitrile(5min→40min)
[0%→20%solvent B]
Flow rate :1.2ml/min
Analysis time:50min
Detection :fluorescence(Ex:310nm,Em:380nm)
Column temp.:30℃
【0080】
(4)アミドカラムによる精製及び分析カラムには、Asahipak NH2P−50(4.6×250mm,昭和電工)カラムを用いた。調製したPA化糖鎖や市販のPA化糖鎖に等量のアセトニトリルを加えて試料とした。分析条件を以下に示す。
Solvent A :80%acetonitrile
Solvent B :20%acetonitrile
Gradient :74%→50%acetonitrile(5min→25min)
[10%→50%solvent B]
Flow rate :0.7ml/min
Analysis time:40min
Detection :fluorescence(Ex:310nm,Em:380nm)
Column temp :30℃
1.5.4 MALDI−TOF−MSによる質量分析
(1)HPLCで分画したそれぞれのフラクションに含まれる糖鎖の質量分析をMALDI−TOF−MSを用いて行い、得られた分子量から糖鎖構造を推定した。なお、糖鎖の分子量は全てNa付加型と判断した。また、それぞれのフラクションごとに前述したODSカラムによるHPLCを行い、現れたピークを質量分析で推定された構造のスタンダード糖鎖のものと比較した。
【0081】
(2)MALDI−TOF−MS分析はautoflex(BRUKER DALTONICS)を用いた。リフレクターポヂティブモードに設定し、N2ガスの圧力は、1800〜2000mbar程度、3.0×e−6以下の真空下で測定を行った。10mgの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(Sigma)をdH2O:アセトニトリル=1:1の割合で混合した溶液1mlに溶かしマトリックス試薬とした。dH2Oに溶解したPA化糖鎖と等量のマトリックス試薬と混合した。このうち2μlをターゲットにスポットし室温で乾燥させて結晶化させた後分析を行った。
【0082】
1.5.5 エキソグリコシダーゼ処理
(1)糖鎖構造をより正確に解析するために、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを持つものはN−アセチルグルコサミニダーゼで、マンノースをもつものはα−D−マンノシダーゼで処理した後、アミドカラム又はODSカラムによるHPLCにより解析し、推定される酵素反応後の構造のスタンダード糖鎖と比較し、一致したものを糖鎖と同定した。
【0083】
(2)スタンダード糖鎖である高マンノース型糖鎖(Man9〜Man5)に関してはTaKaRaにおいて販売されている構造既知のPA化糖鎖を用いた。
【0084】
(3)α−D−マンノシダーゼ(Jack bean;Sigma)処理は、10mMのZn(COOH)2と120mUのα−D−マンノシダーゼを含む、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)の下で、37℃で3日間行った。酵素反応の停止は3分間煮沸することで停止させ、4℃、12000rpmで10分間遠心分離した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知のスタンダード糖鎖の溶出時間と比較し、糖鎖構造を同定した。
【0085】
(4)N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae;生化学工業)処理は、1mUのN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼを含む、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)の下で、37℃で3日間行った。酵素反応の停止は3分間煮沸することで停止させ、4℃、12,000rpmで10分間遠心分離した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知のスタンダード糖鎖の溶出時間と比較し、糖鎖構造を同定した。
【0086】
1.5.6 コントロール(非トランスジェニック)カイコで発現させたHAタンパク質の糖鎖構造解析
PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図6)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図7)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した(表3)。
【0087】
【表3】
なお、表中に記していないフラクションにはMALDI−TOF−MSによる糖鎖の存在を示すピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないためにN−結合型糖鎖が存在しないと判断した。表3中に記したフラクションでは、その質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖と各フラクションのピークの位置を比較した。更に、非還元末端が、N−アセチルグルコサミンのものは、N−アセチルグルコサミニダーゼにより、マンノースのものはマンノシダーゼで消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した(表4)。
【0088】
【表4】
フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(表4)。
【0089】
1.5.7 FucT抑制トランスジェニックカイコで発現させたHAタンパク質の糖鎖構造解析
PA化した糖鎖をODSカラムにより9フラクションに分画し(図8)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図9)。分取した各フラクションを前項と同様の方法で解析し、糖鎖構造の同定(表5)と、糖鎖の種類ごとの存在率を算出した(表6)。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
実験の結果、コントロールでは43.9%がフコシル化されているのに対し、FucT抑制カイコでは16.02%と、顕著にフコシル化が抑制されている、かつα1,6のフコシル化に比べてもα1,3のフコシル化の割合が低くなっていることが分かった。
【0093】
実施例1.6 dsRNAを用いたカイコα1,3−フコース転移酵素に対するRNAi
(1)dsRNAの作製
フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の配列を大まかに6つに区切り、各々を増幅させるためのプライマーを設計した(図10)。これに加え、5'側にT7 RNAポリメラーゼプロモータ(TAATACGACTCACTATAGG)を付加させた物も同時に設計した。フコシルトランスフェラーゼをクローニングしたベクターをテンプレートにし、KOD plus(東洋紡)を用いて、PCRをおこなった。組成、反応条件は以下のように設定した。
組成
×10 Buffer 5μl
2mM dNTPs 5μl
25mM MgSO4 2μl
プライマーMix 3μl(各15pmol)
テンプレート 1μl(10ngベクター)
KOD+ 1μl
DW 33μl
計 50μl
反応条件
1、94℃ 2min
2、94℃ 15sec
3、45℃ 30sec
4、68℃ 30sec
30サイクル反応
【0094】
PCR産物に対し、T7 RiboMAX Express RNAi System(Promega)を用いてdsRNAを作製した。方法はこのキットに添付の使用説明書に従った。
【0095】
(2)カイコ培養細胞へのトランスフェクション
20μlのdsRNAに、80μlのTC−100を加え希釈した。これに、TC−100で50倍希釈し、攪拌後5分静置したLipofectamine2000を各々100μl加え、混和後20分静置した。その後、800μlのTC−100を加えてdsRNA溶液とした。5.1×105cellのBmNを4日培養し、培地を捨て、TC−100で1回リンス後、dsRNA溶液を加え、27℃で培養を開始した。ネガティブコントロールとして、dsRNAを使用しない実験区も作製した。5時間後、培地をTC−100(FBS+)に交換し、トランスフェクションから44時間後に細胞を回収した。
【0096】
(3)リアルタイムPCR法によるα1,3−フコシルトランスフェラーゼRNA量の測定
回収した細胞からIsogen−LS(ニッポンジーン)を用いて、Total RNAを抽出した。方法は使用説明書に従った。抽出したRNAを42μlのDWで溶解し、これに3μlのCloned DNaseI(TaKaRa)及び5μlの添付10×Bufferを加え、37℃で30分反応させた。その後、フェノール・クロロホルム処理、イソプロ沈をおこない、乾燥後のRNAを50μlのDWで溶解した。これを1μl取り、iScript cDNA Synthesis Kit(BIO−RAD)のReaction Mixを8μl、酵素2μl加え、さらにDWにより総液量を40μlとした。25℃5分→42℃30分→85℃5分の反応をおこないcDNAを作製した。リアルタイムPCRには、iQ SYBR Green Supermix(BIO−RAD)を用いた。内部標準として、アクチンA3遺伝子を用い、これを増幅させるプライマー(TCACTGAGGCTCCCCTGAAC、TACAGCGAGAGCACGGCTTG)及びフコシルトランスフェラーゼ遺伝子を増幅させるプライマー(GCTTGTTGAAGAATTCCGTTCG、GGGCAGTTGTAATGCTTTTTGG)を実験に用いた。逆転写済みのサンプルをDWで10倍に希釈していき、100%〜0.01%(×1〜×10000)の希釈系列を作製した。1実験区当たり、40μlのSupermixと4μlの10pmol/μl プライマー、2μlのサンプルを加え、DWで総液量80μlとした。攪拌後、20μlずつ反応プレートに分注した。反応プレートをChromo4リアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD)にセットし、以下の条件で反応及び蛍光測定をおこなった。
1、95℃ 3min
2、95℃ 15sec
3、60℃ 45sec
4、Read
50サイクル反応
【0097】
実験の結果、効果にばらつきはあるものの、複数のdsRNAで阻害効果が見られ、200bp程度の短い遺伝子配列でも、RNAiが起きることが示された(図11)。
【0098】
(実施形態2)
次にナス目に係る本発明の実施形態を説明する。
【0099】
ナス目植物の例としては、ナス科(Solanaceae)、ハナシノブ科(Polemoniaceae)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)、ミツガシワ科(Menyanthaceae)等が挙げられ、タバコ、トマト、シバザクラ、サツマイモ、アサザ等が含まれる。
【0100】
以下においては、この中のトマト(Solanum lycopersicum)の例を説明する。
【0101】
(1)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA
本明細書において「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」とは、糖タンパク質のタンパク質部分の合成後、糖鎖付加の際に生じる還元末端アセチルグルコサミン残基にフコース残基を付加する酵素である。この酵素は、GDP−フコースを糖供与体として、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖の最もペプチド鎖に近いN−アセチルグルコサミンにα1,3−結合でフコースを連結させる機能を有する。
【0102】
本発明は、タンパク質の糖鎖構造に関与するα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAを提供する。
【0103】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAは、具体的には、
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0104】
ここで、本明細書における「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が所望の機能を失わない限り、その置換等されるアミノ酸数は限定されるものではない。例えば、置換等されるアミノ酸の数は、30個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特により好ましくは3個以下である。
【0105】
また、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、相同遺伝子をコードするDNAを単離するために行うハイブリダイゼーション反応条件を指し、このハイブリダイゼーション反応は、当業者に既知の方法に準じて行うことができる。
【0106】
「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」としては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0107】
本明細書に係る「α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA」は、「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」をコードするものであれば、その形態に制限はなく、cDNA,ゲノムDNA、化学合成DNAや、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNA等を含む。
【0108】
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号:4に記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをプラスミド、ファージ等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0109】
このDNAを利用することにより、ナス目においてヒト型糖鎖が付加された糖タンパク質を生産することが可能となる。ここで「ヒト型糖鎖」とは、糖鎖コア構造の還元末端部分に存在するN−アセチルグルコサミン残基に、α1,3−結合によるフコース残基が存在しない糖鎖を意味する。
【0110】
(2)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNA
本発明はまた、ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを提供する。このようなDNAには、具体的には、
(iv)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA、
が含まれる。
【0111】
(iv)のDNAは、アンチセンスRNAをコードするDNAであり、(v)のDNAは、触媒作用を有するDNAであり、(vi)のDNAは、内因性のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。
【0112】
また「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制」には、DNAの転写の抑制及びタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0113】
このDNAにより、ナス目において、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を抑制することができる。
【0114】
(3)本発明の組換えベクター
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを含む組換えベクターを提供する。
【0115】
抑制用DNAを挿入するベクターは、細胞内で導入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内で恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター)を有するベクターや、若しくは外的刺激によって活性が誘導されるプロモーターを有するベクターであっても良い。ベクターへの本発明の抑制用DNAの挿入は、既知の方法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0116】
上記ベクターには、導入遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、若しくは宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いても良い。例えば、宿主細胞として大腸菌を用いる場合には、形質転換された大腸菌を選抜するための遺伝子(例えば、カナマイシン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子)をマーカー遺伝子として組み込んでいても良い。また、大腸菌以外のベクターとしては、昆虫細胞由来の発現ベクター、植物由来の発現ベクター、レトロウイルス由来の発現ベクター等が挙げられる。
【0117】
抑制用DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の当業者に既知の方法によって細胞に導入されることができる。
【0118】
本発明のベクターが導入される宿主細胞は特に制限されるものではなく、目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。例えば、細菌細胞(大腸菌等)、真菌細胞(酵母等)、昆虫細胞(カイコ等)、動物細胞(CHO等)、植物細胞等である。
【0119】
この組換えベクターにより、抑制用DNAを細胞内で効率的に発現させることができる。
【0120】
(4)本発明の形質転換細胞、形質転換体、繁殖材料、及びこの形質転換体の製造方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNA若しくは(3)で説明した組換えベクターが導入された形質転換細胞、前記形質転換細胞から作り出された形質転換体、前記形質転換体の子孫若しくはクローンである形質転換体、これら形質転換体の繁殖材料、並びにこれら形質転換体を製造する方法を提供する。この方法は、具体的には、
(E1)抑制用DNAをナス目由来の細胞に導入する工程、
(E2)当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程
とからなる。
【0121】
ここで、本発明の形質転換細胞は、抑制用DNA若しくは組換えベクターが導入された細胞若しくは細胞の集合であって形質転換体である植物を再生し得るものであれば特に制限はない。本発明の形質転換細胞には、例えば、カルス、葉切片、プロトプラスト等が含まれる。
【0122】
組換えベクターを導入した形質転換細胞は、ベクターに導入されている所定のマーカー遺伝子に応じて、種々の方法を用いて選抜することができる。例えば、マーカー遺伝子として、薬剤耐性遺伝子が導入されている場合には、ベクターに導入されている所定の薬剤耐性遺伝子に応じて、適した選抜用薬剤を有する既知の選抜用培地で培養する必要がある。これにより形質転換された培養細胞を得ることができる。
【0123】
形質転換細胞から形質転換体を作り出す方法には、細胞の種類に応じて当業者に公知の種々の方法を採用できる。例えばトマトであれば、所定の薬剤を含む培地でカルスを形成させ、発根を確認した後に、培養土に順化させても良い。
【0124】
また、形質転換細胞及び形質転換体に導入されたDNAは、ハイブリダイゼーションやPCR法等の当業者に公知の方法によって、若しくは植物体のDNA塩基配列を解析することによって確認できる。
【0125】
また、上述の形質転換体の染色体内に抑制用DNAを導入することで、この形質転換体から有性生殖若しくは無性生殖により子孫を得ることが可能である。更に、この形質転換体若しくはその子孫又はクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、株、カルス等)を得ることで、前記形質転換体を量産することが可能である。
【0126】
(5)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを用いてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法を提供する。具体的には、この方法は、
(F1)抑制用DNAを細胞内に導入する工程、
(F2)当該細胞内で抑制用DNAを発現させる工程
とからなる。
【0127】
「DNAを細胞内に導入する工程」は、例えば、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法等の当業者にとって既知の種々の方法を用いて行うことができる。上記のような(5)の方法により、抑制用DNAを発現可能な状態で含むベクターが細胞に導入され、従って、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を効果的に抑制することが可能となる。
【0128】
(6)本発明の組換えタンパク質並びにその製造方法
本発明はまた、ヒト型糖鎖を付加した組換えタンパク質を提供する。このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られるものである。また、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質であっても良い。
【0129】
本発明はまた、上記組換えタンパク質の製造方法を提供する。この方法は、具体的には、
(G1)(2)で説明した抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞を培養する工程、
(G2)当該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程
とからなる。
【0130】
この方法によって得られる組換えタンパク質は、ヒト型糖鎖を付加された任意のタンパク質である。即ち、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を有さないタンパク質である。
【0131】
(7)本発明の薬学的組成物
本発明はまた、(6)で説明した組換えタンパク質と薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物を提供する。この担体は、動物体内における送達に適したものであり、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、弛緩剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤等を含むが、これらに限定されるものではなく、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、乳糖、デンプン、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、白糖、コーンスターチ等である。
【実施例2】
【0132】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0133】
実施例2.1 トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼのクローニング
2.1.1 cDNA作製およびRACE(rapid amplification of cDNA ends)
トマト品種「タイムリー」(タキイ種苗)の自殖固定系統の本葉0.5gを液体窒素で凍らせ、乳鉢と乳棒により粉砕し、EASYPrep RNA(タカラバイオ)を用いてプロトコールに従い、全RNAの抽出を行った。このうち全RNA100ngをSMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)へ供試し、添付のプロトコールに従い、cDNAを作製した。また、作製後のcDNAを鋳型として3'−RACE PCRおよび5'−RACE PCRを行った。
【0134】
3'−RACE PCRのプライマーには、キットに添付されたUniversal Promers A Mixおよびyama1を用いて、また5'−RACE PCRのプライマーには、キットに添付されたUniversal Promers A Mixおよびyama2を用いて、プロトコールに従い、PCR反応を行った。
これら全ての反応にはTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)を使用した。
Universal Promers A Mix :
Long5'−CTAATACGACTCACTATAGGGCAAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT−3'
Short5'−CTAATACGACTCACTATAGGGC−3'
yama1:5'−CCATGGGGCTGTGAGGAGTGGTT−3'
yama2:5'−AACCACTCCTCACAGCCCCATGG−3'
yama1およびyama2は、Lycopersicon pennelliiから単離された部分配列AW618836を参考に作製した。
【0135】
2.1.2 RACE PCR産物のクローニングと大腸菌の形質転換
RACE PCR産物のクローニングには、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試し、プロトコールに従いpCR2.1−TOPOベクターとPCR反応液を混合し、ライゲーション反応を行った。次に、同キットに付属の大腸菌TOP10(遺伝子型:F−mcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBC)φ80lacZΔM15 ΔlacX74 recA1 araD139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR)endA1 nupG)を溶解し、クローニング反応液2μlを加え、5分間氷上で静置した後、42℃の温湯に40秒間浸漬し、大腸菌TOP10の形質転換処理を行った。キットに添付のSOC培地を500μl加え、37℃で1時間静置した後、直径9cm滅菌シャーレに分注したLB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)の表面に塗布し、乾燥後37℃で16〜24時間培養した。培地上に形成されたシングルコロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/lカナマイシン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0136】
2.1.3プラスミドDNAの抽出
LB液体培地で増殖させた大腸菌培養液を1.5ml遠心チューブに移し、卓上遠心機MTX−150(TOMY)を使い、15,000rpmで2回に分けて集菌した。その後Wizard Plus SV Miniprep(Promega)を供試して、プロトコールに従いプラスミドDNAの抽出を行った。
【0137】
2.1.4 シークエンス
クローニングしたPCR産物の遺伝子配列については、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を供試し、各プラスミドDNA1μgを鋳型にしてM13FWまたはM13RVをプライマーとして用い、プロトコールに従いサイクルシークエンス反応を行った。また、反応液をエタノール沈殿した後、10μlホルムアミドを加え、チューブを煮沸処理して、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)またはABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で遺伝子配列の決定を行った。
M13FW:5'−TGTAAAACGACGGCCAGT−3'
M13RV:5'−CAGGAAACAGCTATGACC−3'
【0138】
2.1.5 Nested PCR
トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の全長をクローニングするため、5'−RACE PCRと3'−RACE PCRで得られた遺伝子配列から類推された読み枠(Open Reading Frame)の末端側にyama3、yama4、yama5、yama6の4種類のプライマーを作製し、1st PCRにはyama3とyama4を、2nd PCRにはyama5とyama6をそれぞれ供試した。
【0139】
2.1.1の項で前述のSMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)で作製したcDNA反応液1μlをテンプレートとして1st PCRを行った後、この反応液を100倍希釈した液1μlをテンプレートとして2nd PCRを行った。
【0140】
1st PCR、2nd PCRともにポリメラーゼにはKOD−Plus−(TOYOBO)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。PCRの反応条件は1st PCR、2nd PCRともにプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−54℃30秒−68℃3分を30サイクルとした。
yama3:5'−GATACGCCAAAACCCCTCTCCAGTATCCT−3'
yama4:5'−GAACCACACAAAAACTACTATAGTCATAGC−3'
yama5:5'−CCAAGAAATTCAAGAATCCGCTTGTCTC−3'
yama6:5'−GCTAGAAACTTATATTCATGAGTATGGAAG−3'
【0141】
2.1.6 Nested PCR産物のクローニングと大腸菌の形質転換
Nested PCR産物のクローニングには、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試し、プロトコールに従いpCR−BluntII−TOPOベクターとPCR反応液を混合し、ライゲーション反応を行った。次に、同キットに付属の大腸菌TOP10(遺伝子型:F−mcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBC)φ80lacZΔM15 ΔlacX74 recA1 araD139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR)endA1 nupG)を溶解し、クローニング反応液2μlを加え、5分間氷上で静置した後、42℃の温湯に40秒間浸漬し、大腸菌TOP10の形質転換処理を行った。キットに添付のSOC培地を500μl加え、37℃で1時間静置した後、直径9cm滅菌シャーレに分注したLB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)の表面に塗布し、乾燥後37℃で16〜24時間培養した。培地上に形成された単一コロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/l カナマイシン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0142】
2.1.7 トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子のシークエンス
2.1.3および2.1.4の項で前述のとおりプラスミドの抽出ならびにシークエンスを行い、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子のシークエンスを行った。トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子の配列を図12に示す。またその際、前述M13FWとM13RVの2種類のプライマーに加え、プライマーウォーキングにより作製したyama7、yama8、yama9およびyama10の4種類のプライマーを供試した。
yama7:5'−CAATCTTGTTAATTCTTGG−3'
yama8:5'−GATATCATGGCTCCAGTAC−3'
yama9:5'−CATCTGATGCCTTCAAAGC−3'
yama10:5'−CATTTTCGTATAGTTGAAG−3'
【0143】
実施例2.2 RNAi用トマトトランスジェニックベクターの作製
2.2.1 RNAi誘導ベクターの作製
トマトの内性α1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制するために、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の逆方向反復塩基配列を有するRNAi誘導ベクターの作製を行った。
【0144】
(1)ベクター構築用配列のサブクローニング
逆方向反復塩基配列の鋳型にはトマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子を供試し、ATG500はyama11、yama12の両プライマーで、ATG600の断片はyama13、yama14の両プライマーでPCRにより増幅した。ポリメラーゼにはKOD−Plus−(TOYOBO)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。PCRの反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−68℃1分を30サイクルとした。
【0145】
2.1.6の項で前述のZero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試してATG500とATG600のPCR産物をクローニングし、2.1.3および2.1.4の項で前述のとおりプラスミドの抽出ならびにシークエンスの確認を行った。
yama11:5'−GTCTAGACCAAGAAATTCAAGAATCCGCT−3'
yama12:5'−GGAATTCGAAATTGGTTCCAAACTTACAT−3'
yama13:5'−GGAATTCTGTTGTTCTCAGCATAGTATTG−3'
yama14:5'−GGAGCTCCCAAGAAATTCAAGAATCCGCT−3'
【0146】
(2)逆方向反復塩基配列の作製
ATG600断片をEcoRIとXbaIで消化するとともに、pUC19(Accesion No.M77789)をEcoRIとXbaIで消化した後、両断片をDNA Ligation Kit(タカラバイオ)でプロトコールに従いライゲーションし、1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。また、LB固形培地(50mg/lアンピシリン添加)上に形成されたシングルコロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/lアンピシリン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0147】
次に、ATG500断片をEcoRIで消化するとともにATG600断片を挿入したpUC19を EcoRIで消化した後、両断片をDNA Ligation Kit(タカラバイオ)でライゲーションし、1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。
【0148】
さらに、目的の断片が形成されたコロニーを選抜するため、LB固形培地(50mg/lアンピシリン添加)上のシングルコロニーを爪楊枝の先で掻き取り、PCR反応液に直接浸けてPCRの鋳型とし、コロニーダイレクトPCRを行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−72℃1分を35サイクルとした。前述yama11とyama14の両プライマーを供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約1100bpのバンドが確認されるコロニーを選抜し、プラスミドの抽出を行った。
【0149】
(3)トランスジェニック用RNAi誘導ベクター、pBI121−FucTRNAiの作製
トマトの内性α1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の逆方向反復塩基配列(約1100bp)と、pBI121(Accesion No.AF485783)のGUS遺伝子を置換することにより、トランスジェニック用RNAi誘導ベクター、pBI121−FucTRNAiの作製を行った(図13)。
【0150】
ATG500断片とATG600断片を挿入したpUC19をXbaI、SacIおよびHindIIIで消化し、pBI121をXbaI、SacIおよびSnaBIで消化した後、両反応液をエタノール沈殿させ、DNA Ligation Kit(タカラバイオ)でライゲーションし、2.1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。LB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)上のシングルコロニーを爪楊枝の先で掻き取り、PCR反応液に直接浸けてPCRの鋳型とし、コロニーダイレクトPCRを行った。前述(2)の項と同様にyama11とyama14の両プライマーを供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約1100bpのバンドが確認されるコロニーを選抜し、RNAi誘導ベクター(pBI121−FucTRNAi)の抽出を行った。
【0151】
2.2.2 アグロバクテリウムの形質転換
植物へ目的の遺伝子断片を導入するため、Agrobacterium tumefaciens LBA4404株(Clontech)にpBI121−FucTRNAiを導入し、形質転換を行った。
【0152】
10mg/lリファンピシン、250mg/lストレプトマイシン添加LB液体培地3mlで30℃48時間培養したLBA4404を2.1.3の項と同様に集菌し、上清を取り除いた後、pBI121−FucTRNAiの抽出液15μlで懸濁し、すぐにチューブを液体窒素で5分間処理した。その後、37℃の温湯で15分間、液体窒素で5分間の処理を3回繰り返し、500μlのLB培地を加え、30℃で3時間静置した。処理後の液体を10mg/lリファンピシン、250mg/lストレプトマイシンおよび50mg/lカナマイシンを添加したLB固形培地上に塗布し、30℃で3日間培養し、シングルコロニーを確認した。
【0153】
実施例2.3 トランスジェニックトマトの作製
2.3.1 トマトの無菌播種
トマト品種「タイムリー」(タキイ種苗)の自殖固定系統を供試し、不織布で作った袋(3cm×3cm)にトマト種子25粒を小分けし、ホッチキスでとめ、tween20を1滴添加した1%アンチホルミン50mlとともに滅菌済みプラントボックス(Wako)内で15分間滅菌処理を行った。その後、滅菌水100mlで3回洗浄し、袋から取り出した種子をプラントボックス(Wako)内に分注した30ml 1/2MS培地上に並べ、25℃16時間日長の培養室で9〜10日間静置した。
1/2MS培地:
2.2g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
15g/l Sucrose、
0.8%Agar
pH5.8
【0154】
2.3.2 前培養
無菌播種後9〜10日目の幼苗の子葉を約5mm角に切り分け、深さ2cm、直径9cmの滅菌シャーレに30ml程度分注したST−1培地上に裏返しで切片を置床した。蓋をパラフィルム(ハイテック)で固定し、25℃16時間日長の培養室で24時間静置した。
ST−1培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、
1mg/l trans−Zeatin
0.8%Agar
pH5.8
【0155】
2.3.3 共存培養
pBI121−FucTRNAiを導入したLBA4404の培養液をOD600=0.1に水またはLB培地で調整し、前培養したトマト切片を浸積した。その後、約2mlフィーダーセルを前培養で用いたST−1培地上に塗布し、その上から滅菌濾紙を置き、裏返しで切片を置床した。アルミホイルで包み、25℃暗黒下で3日間共存培養を行った。
フィーダーセル:タバコ懸濁細胞BY−2をTS−1培地で懸濁培養(約100rpm)し、1週間毎に新しいTS−1培地40mlに懸濁細胞0.5mlを加えて継代したもの。
TS−1培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、0.01mg/lチアミンHCl、1mg/lミオイノシトール、1.7mg/l KH2PO4、
0.2mg/l 2,4−D、pH5.8
【0156】
2.3.4 選抜培養
200mg/lカルベニシリン、50mg/lカナマイシン添加ST−1培地上に共存培養後の切片を移植し、蓋をサージカルテープで固定し、25℃16時間日長の培養室で2週間静置した。
【0157】
2.3.5 継代培養
新しい200mg/lカルベニシリン、50mg/lカナマイシン添加ST−1培地上へ選抜培養した切片を移植し、25℃16時間日長の培養室で静置した。その後、培養中にカルスが形成され、シュートが伸長してきた切片をプラントボックスに50ml程度分注した100mg/lリラシリン、50mg/lカナマイシン添加MS培地上に移植した。
【0158】
また、プラントボックス内で2cm以上伸長したシュートを切り取り、100mg/lリラシリン、50mg/lカナマイシン添加MS培地上に移植し、発根の有無を確認した。
MS培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、0.8% Agar、pH5.8
【0159】
2.3.6 導入遺伝子の確認
カナマイシン添加培地中に発根したシュートが10cm程度まで伸長した場合、Edwardsら(1991)Nucleic Acids Research 19(6): 1349に従い全DNAを抽出し、PCRの鋳型とした。yama15とyama16を選抜マーカー検出用のプライマーとして供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−72℃1分を35サイクルとした。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約800bpのバンドが確認された株については、順化を行った。
yama15:5'−GGGATCCATGATTGAACAAGATG−3'
yama16:5'−GGGATCCTCAGAAGAACTCGTC−3'
【0160】
2.3.7 順化
PCRにより遺伝子の導入が確認されたシュートについては、組換え植物用温室内でバーミキュライトとニッピ園芸培土を入れた10.5 cmビニールポットに鉢上げし、半透明のケース内で湿度を徐々に下げて順化を行った。また、順化後、旺盛に成長する株については18cmビニールポットに移植した。
【0161】
実施例2.4 RT−PCR法によるトマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の検出
組換え植物用温室内で栽培した形質転換体22株からサンプリングを行い、2.1.1の項と同様に全RNAを抽出し、Cloned AMV First−Strand cDNA Synthesis kit(Invitrogen life technologies)を供試してcDNAを作製した。
【0162】
各サンプルとも100ng全RNAを鋳型とし、キットに添付のRandom Hexamersおよびα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に相補的なyama17をそれぞれ50ng、1ng添加し、プロトコールに従い逆転写反応を行った。温度条件は50℃30分−55℃15分−60℃15分−65℃15分とし、この反応液1μlをPCRの鋳型とし、yama3とyama12を供試してα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の転写量を確認した。ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−62℃30秒−72℃1分を40サイクルとした。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果(図14)、約560bpのバンドが確認されなかった株または薄かった株については、全タンパク質の糖鎖解析へ供試した。
yama17:5'−TGTTGTTCTCAGCATAGTATTG−3'
【0163】
実施例2.5 トランスジェニックトマトからの糖鎖の調製
野生型トマト及び、形質転換体トマトのうちNo.1,9,14の葉、約40gを液体窒素で凍結させた後、乳鉢上で破砕し、その試料を融解後、4℃,12,000rpm,15分遠心した。上清に十分量の氷冷したアセトンを加え、氷中で静置後4℃,12,000rpm,20分遠心することで糖タンパク質(約500mg)を沈殿させた。得られたペレットを凍結乾燥後、十分量の無水ヒドラジン(Nacalai tesque)を加え混合し、100℃で10時間インキュベートすることで糖鎖の切り出しを行った。
【0164】
反応後のヒドラジン分解産物を過剰の氷冷したアセトン中に加え、静置後4℃,12,000rpm,20分遠心し得られたペレットを乾燥した。ペレットに飽和炭酸水素ナトリウム(Wako)を2ml、及び80μlの無水酢酸(Wako)を添加混合し、室温でN−アセチル化を行った。次に、試料に1N HClで平衡化したイオン交換樹脂Dowex 50×2(室町化学工業)を試料のpHが2付近になるまで加え脱塩処理を行った。樹脂と溶液をガラスウール上で濾過分離し、エバポレータを用いて試料を濃縮した。濃縮した試料を0.1Nアンモニア水で平衡化したTSK gel Toyopearl HW−40(Tosoh)カラム(2.5×30cm)を用いてカラムクロマトグラフィーに供した。Model 2128 Fraction Collector(Bio−Rad)により4mlずつに分取した試料の各フラクションについてフェノール・硫酸法を利用して糖を含む画分を選抜した。糖を含む画分を回収し、エバポレータを用いて濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0165】
凍結乾燥後試料にPA化試薬(2−アミノピリジン(Wako)552mgに対し酢酸(Wako)200μlを混合し調製)を適量加え、90℃で1時間インキュベートした。室温で冷却後、等量の還元試薬(ジメチルアミノボラン(Wako)39mgに対して200μlの酢酸を混合し調製)を加えて80℃,40分インキュベートした。反応停止の際、等量のdH2Oを添加した。得られたPA化試料を0.1Nアンモニア水で平衡化したTSK gel Toyopearl HW−40(Tosoh)カラム(2.5×30cm)を用いてカラムクロマトグラフィーに供した。Model 2128 Fraction Collector(Bio−Rad)により4mlずつに分取した試料の各フラクションについて、蛍光分光光度計(F−2000 Fluorescence Spectrophotometer,Hitachi)を用いて励起320nm,蛍光400nmの波長で蛍光強度を測定した。蛍光強度測定後の結果よりPA化糖鎖を含むフラクションを回収し、エバポレータを用いて濃縮した。各PA化糖鎖はさらにCelluloseをカラムに充填したCellulose Cartridgeを用いて精製し1)、精製画分はさらに遠心乾燥に供し、濃縮、乾燥させた。
1)Shimizu Y,Nakata M,Kuroda Y,Tsutsumi F,Kojima N,and Mizuochi T(2001)Rapid and simple preparation of N−linked oligosaccharides by cellulose−column chromatography Carbohydrate Research 332,381−388
【0166】
実施例2.6 トランスジェニックトマトの糖タンパク質糖鎖の解析
2.6.1 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析
分析器はHITACHI FL Detector L−7480を持つHITACHI HPLCシステムを用いて分析を行った。逆相HPLC(RP−HPLC)解析の際、カラムはCosmosil 5C18−P(6×250mm;Nacalai tespue)カラムを用いた。逆相HPLCに用いたsolventおよび各時間におけるグラジエントを以下に示す。
solventA:0.02% Trifluoroacetic Acid
solventB:20% Acetenitorile/0.2% Trifluoroacetic Acid
Gradient:0→20→0% solventB(5→40→41min)
Flow rate:1.2ml/min
Detection:fluorescence(Ex;310nm,Em;380nm)
Column temp.:30℃
【0167】
順相HPLC(SF−HLC)解析の際、カラムはAsahipak NH2P−50(4.6×250mm;Showa denko)カラムを用いた。順相HPLCに用いたsolventおよび各時間におけるグラジエントを以下に示す。
solventA:80% Acetenitorile
solventB:20% Acetenitorile
Gradient:10→50→10% solventB(5→25→26min)
Flow rate:0.7ml/min
Detection:fluorescence(Ex;310nm,Em;380nm)
Column temp.:30℃
【0168】
各peakを回収しMALDI−TOF−MS解析により分子量を測定、各peakの推定糖鎖構造を解析した。
【0169】
2.6.2 MALDI−TOF−MSによる質量分析
MALDI−TOF MS分析はautoflex(BRUKER DALTONICS)を用いて行った。レーザー強度は1800〜2000mbarで使用した。また、データは3.0×e−7以下の真空下で得た。10mgの2,5−dihydroxybenzoic acid(Sigma)をdH2O:Acetonitrile=1:1の割合で混合した溶液に溶かしマトリックス試薬とし、dH2Oに溶解したPA化糖鎖と等量のマトリックス試薬を混合し、この内2μlをターゲットに置き室温で乾燥し結晶化させた後、Reflector mode分析を行った。
【0170】
2.6.3 グリコシダーゼ消化
N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae,Roche Diagnostics K.K.)消化は、50μlの酵素溶液(10pmolのPA化糖鎖、3mUのN−アセチル−β−グルコサミニダーゼを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0))を37℃で3日間インキュベートすることで行った。またα−マンノシダーゼ(jack bean,Sigma)消化は、50μlの酵素溶液(10pmolのPA化糖鎖、10μUのα−マンノシダーゼ、10mMの酢酸亜鉛を含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0))を37℃で3日間インキュベートすることで行った。各酵素反応は5分間煮沸することで停止させ、4℃,12,000rpm,5分間遠心後、上清をSF−HPLCに供した。さらに消化が確認されたPA化糖鎖はRP−HPLCに供し、酵素反応産物の溶出位置を既知PA化糖鎖(Takara)と比較し、各構造を決定した。
【0171】
2.6.4 形質転換体No.1
形質転換体No.1の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.1の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図16)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,2−d,3−1,3−2,3−3,3−a,3−b,4−c,5−a,5−b,5−d,5−e,5−f,5−g,6−d,7−a,7−b,7−d)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、非還元末端が、N−アセチルグルコサミンのものは、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)により、マンノースのものはα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。2−b,2−c,8−aはM3X、5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−bはGnM3FX、7−c,8−bはGnM3X(A)、9−aはGn2M3X、10−bはGnM3X(B)を含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[4−a(M3FX),4−d(M9),6−c(M6B),8−a(M3X)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−e,4−b,7−e,8−b,10−a)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(図17)。
【0172】
2.6.5 形質転換体No.9
形質転換体No.9の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.9の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図18)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,1−d,1−e,2−d,2−f,3−1,3−2,3−c,3−d,4−b,4−c,4−d,4−e,5−a,5−b,5−e,5−f,5−g,6−b,6−f,7−a,7−d,8−c,9−b,9−c,10−a,10−c,10−d)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−dはGnM3FX、9−aはGn2M3X、10−bはGnM3Xを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[2−a(M3X),2−b(M3X),4−a(M3FX),6−e(M6B),8−d(M5A)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−e,2−f,3−a,3−b,5−d,6−c,7−b,7−c,7−e)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した。(図17)
【0173】
2.6.6 形質転換体No.14
形質転換体No.1の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.1の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより7フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図19)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−d,2−c,3−b,4−1,4−d,4−e,5−a,5−b,5−e,5−f,5−g,6−e,6−f,7−a,7−e,7−f)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean 由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。3−aはGnM3FX、5−cはGn2M3FX、6−bはM2FX、6−cはGnM3FX、7−bはM3Xを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[3−c(M8A),4−a(M3FX),4−c(M7A),5−d(M7B),6−d(M6B),7−d(M5A)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(1−b,1−c,2−a,2−b,2−d,4−b,6−a,7−c)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した。(図17)
【0174】
2.6.7 野生型トマト
野生型トマトの葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。野生型トマトの葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより9フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図20)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,2−a,3−a,3−c,4−c,4−d,5−b,5−d,5−e,5−f,5−g,6−c,6−d,6−e,7,8−a,8−c,8−d,9)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−bはGnM3FXを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[4−a(M3FX),5−a(M3FX),8−b(M3X)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−b,2−c,3−b,4−b)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(図17)。
【0175】
実験の結果、野生型トマトでは93.2%、転写抑制を示さなかった形質転換体No
.14では78.2%の糖鎖にフコースが付加していたのに対し、転写抑制を示した形質転換体No1.では23.4%、No.9では31.4%と、顕著にフコース付加の抑制を示すことが分かった(図21)。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】図1は、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのクローニング条件を示す図である。
【図2】図2は、ショウジョウバエ由来フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフ領域と高い相同性を示すカイコゲノム配列を示す図である。
【図3】図3は、カイコゲノムDNAを鋳型とした、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子のエキソン領域のPCR増幅を示す図である。
【図4A】図4Aは、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用プラスミドの作成方法を示す図である。
【図4B】図4Bは、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用プラスミドの作成方法を示す図である。
【図5】図5は、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用ベクターを示す図である。
【図6】図6は、コントロールカイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖の逆相カラムを用いた精製を示す図である。
【図7】図7は、コントロールカイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖のアミドカラムを用いた精製を示す図である。
【図8】図8は、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ抑制カイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖の逆相カラムを用いた精製を示す図である。
【図9】図9は、フコシルトランスフェラーゼ抑制カイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖のアミドカラムを用いた精製を示す図である。
【図10】図10は、カイコフコシルトランスフェラーゼ遺伝子を増幅させるためのプライマーを示す図である。
【図11】図11は、カイコにおける各dsRNAによるRNAi効果の比較を示す図である。
【図12】図12は、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子配列を示す図である。
【図13】図13は、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用ベクターを示す図である。
【図14】図14は、RT−PCRによる形質転換トマトからのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の検出を示す図である。
【図15】図15は、形質転換体及び野生型のPA化糖鎖の逆相HPLCによる分析を示す図である。
【図16】図16は、形質転換体No.1由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図17】図17は、糖鎖構造解析の結果を示す図である。
【図18】図18は、形質転換体No.9由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図19】図19は、形質転換体No.14由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図20】図20は、野生型トマト由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図21】図21は、糖鎖構造解析の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA及び、前記α1,3−フコシルトランスフェラーゼを利用した、動植物においてヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生命科学分野において、遺伝子組換え技術を始めとする遺伝子操作技術が大きな役割を果たしている。例えば、遺伝子組換えマウスや遺伝子組換えイネ等、遺伝子操作により種々の細胞を改変し、新たな形質若しくは有用形質を付加することが可能となっている。
【0003】
このような遺伝子操作技術を用いて、ヒト以外の生物を生産宿主としてヒトに用いる糖タンパク質を生産することが以前から検討されている。まず、その生産宿主としては、管理面、発現体確立の容易性の観点から、従来から大腸菌が用いられてきたが、原核生物である大腸菌は、タンパク質に糖鎖を付加する機能を有していないため、ヒト型の糖鎖を付加したタンパク質を生産できないという根本的な問題があった。そのため現在では、タンパク質に糖鎖を付加する機能を備えている植物体若しくは植物細胞又は昆虫細胞等が生産宿主として検討されるに至っている。
【0004】
しかし、植物若しくは昆虫によって生産された糖タンパク質は、ヒト体内において、その糖タンパク質本来の活性・機能を示さない場合が多い。これは、植物及び昆虫の糖鎖付加機構がヒトと異なり、それに応じて、糖タンパク質の糖鎖構造が植物及び昆虫とヒトとで異なるためである。例えば、植物及び昆虫を生産宿主として糖タンパク質を生産させた場合、このタンパク質がヒトに対して抗原性を有する場合が多い。
【0005】
この抗原性は、糖タンパク質のα1,3−コアフコースを含む糖鎖部分に起因する。このα1,3−結合は、植物や昆虫に由来するα1,3−フコシルトランスフェラーゼによってフコースが糖タンパク質に付加されることにより形成される。そこで、このような抗原性を回避するために、α1,3−フコシルトランスフェラーゼの不活性化が望まれる。
【0006】
具体的には、糖タンパク質の糖鎖部分は、コア構造に糖が付加された構造となっており、生物種に依存して異なる。コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースの結合は、糖鎖付加の1つの様式であり、植物ではα1,3−結合、ヒトやマウスなどの哺乳類ではα1,6−結合、昆虫ではα1,3−結合及びα1,6−結合の両方が見出されている。
【0007】
このうち植物では、リョクトウ(Vigna radiata)でα1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定すること、及びその発現を抑制する方法が非特許文献1及び特許文献1に開示されている。
【0008】
また、昆虫では、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)でα1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定することが非特許文献2に開示されている。
【0009】
【特許文献1】特表2002−536978号公報
【非特許文献1】J Biol Chem 1999 Jul 30;274(31):21830−9
【非特許文献2】J Biol Chem 2001 Jul 27;276(30):28058−67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、タンパク質の糖鎖付加に関わる、鱗翅目及びナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼを単離・同定すること、並びに鱗翅目及びナス目において前記α1,3−フコシルトランスフェラーゼの発現を抑制することによって、本来非ヒト型糖鎖を付加する動植物タンパク質生産系においてヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鱗翅目及びナス目のタンパク質生産系における糖タンパク質の生産に関与する遺伝子に関する。α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、鱗翅目及びナス目のタンパク質生産系においてN−アセチルグルコサミン残基にフコースを付加する酵素をコードする遺伝子として、染色体のいずれかの場所に存在すると予測されている。本発明者らは、その存在領域を解明し、単一の遺伝子として単離することを試みた。
【0012】
まず、本発明者らは、ショウジョウバエ由来のα−1,3−フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフを含むアミノ酸配列をソースに、カイコのゲノムデータベース検索を行った。また、この検索結果から候補となるゲノム配列を選定し、さらにエキソンを含む領域のクローニングを行い、カイコα−1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子を取得した。
【0013】
また本発明者らは、シロイヌナズナα−1,3−フコシルトランスフェラーゼの遺伝子配列をソースに、トマトcDNAから相同性の高いゲノム配列を同定し、トマトα−1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子とした。
【0014】
その後、本発明者らは、鋭意検討の結果、鱗翅目動物若しくはナス目植物を用いてヒト用糖タンパク質を生産する際、鱗翅目及びナス目が有するα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制することにより、ヒト型糖鎖を付加したタンパク質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下の構成からなる。
【0015】
〔1〕鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
〔2〕〔1〕のDNAにおいて、前記DNAは、カイコのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
〔3〕〔1〕のDNAであって、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔4〕ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
〔5〕〔4〕のDNAにおいて、前記DNAは、トマトのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
〔6〕〔4〕のDNAであって、以下(e)〜(h)のいずれかに記載のDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
〔7〕鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(i)〜(iii)のいずれかに記載のDNA;
(i)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)〔1〕〜〔3〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
〔8〕ナス目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(iv)〜(vi)のいずれかに記載のDNA;
(iv)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)〔4〕〜〔6〕のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
〔9〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
〔10〕〔9〕の組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞。
〔11〕〔10〕の形質転換細胞から得られる形質転換体。
〔12〕〔11〕の形質転換体の子孫またはクローンである、形質転換体。
〔13〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の繁殖材料。
〔14〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、〔7〕のDNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程と、当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、形質転換動物を選択する工程とを有する方法。
〔15〕〔11〕または〔12〕のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、〔8〕のDNAをナス目由来の細胞に導入する工程と、当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程とを有する方法。
〔16〕α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを細胞内に導入する工程と、当該細胞内で前記DNAを発現させる工程とを有する方法。
〔17〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られる組換えタンパク質。
〔18〕〔17〕のタンパク質を製造する方法であって、〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体を培養する工程と、当該形質転換細胞または形質転換体若しくはそれらの培養上清から組換えタンパク質を回収する工程とを有する方法。
〔19〕〔7〕記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られる組換えタンパク質。
〔20〕〔19〕のタンパク質を製造する方法であって、〔7〕記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程と、当該形質転換細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程とを有する方法。
〔21〕〔7〕または〔8〕のいずれか記載のDNAを含む形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動植物体から得られる組換えタンパク質。
〔22〕〔17〕、〔19〕、または〔21〕のいずれか記載のタンパク質と、薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼは、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基にα1,3−結合によりフコースを付加する酵素である。前記酵素をコードする遺伝子を単離・同定し、更に、前記遺伝子の発現を抑制することにより、ヒト型糖鎖を付加した糖タンパク質を安定的に生産できるようになった。この新手法により、鱗翅目動物若しくはナス目植物を用いて、ヒト型糖鎖を付加したタンパク質を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
まず鱗翅目に係る本発明の実施形態を説明する。
【0018】
ここで鱗翅目動物の例としては、アゲハチョウ科(Papilionidae)、タテハチョウ科(Nymphalidae)、ヤガ科(Noctuidae)、スズメガ科(Sphingidae)、カイコガ科(Bombycidae)等が挙げられ、ギフチョウ、オオムラサキ、スズメガ、カイコガ等が含まれる。また、タンパク質生産の際には、Spodoptera frugiperda、Tichoplusia ni等の鱗翅目動物細胞が宿主として用いられる。
【0019】
以下においては、この中のカイコガの幼虫であるカイコの例を説明する。
【0020】
(1)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA
本明細書において「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」とは、糖タンパク質のタンパク質部分の合成後、糖鎖付加の際に生じる還元末端アセチルグルコサミン残基にフコース残基を付加する酵素である。この酵素は、GDP−フコースを糖供与体として、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖の最もペプチド鎖に近いN−アセチルグルコサミンにα1,3−結合でフコースを連結させる機能を有する。
【0021】
本発明は、タンパク質の糖鎖構造に関与するα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAを提供する。
【0022】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAは、具体的には、
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0023】
ここで、本明細書における「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が所望の機能を失わない限り、その置換等されるアミノ酸数は限定されるものではない。例えば、置換等されるアミノ酸の数は、30個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特により好ましくは3個以下である。
【0024】
また、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、相同遺伝子をコードするDNAを単離するために行うハイブリダイゼーション反応条件を指し、このハイブリダイゼーション反応は、当業者に既知の方法に準じて行うことができる。
【0025】
「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」としては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0026】
本明細書に係る「α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA」は、「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」をコードするものであれば、その形態に制限はなく、cDNA,ゲノムDNA、化学合成DNAや、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNA等を含む。
【0027】
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、カイコからゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号:2に記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、カイコから抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをプラスミド、ファージ等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0028】
このDNAを利用することにより、鱗翅目においてヒト型糖鎖が付加された糖タンパク質を生産することが可能となる。ここで「ヒト型糖鎖」とは、糖鎖コア構造の還元末端部分に存在するN−アセチルグルコサミン残基に、α1,3−結合によるフコース残基が存在しない糖鎖を意味する。
【0029】
(2)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNA
本発明はまた、鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを提供する。このようなDNAには、具体的には、
(i)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)鱗翅目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA、
が含まれる。
【0030】
(i)のDNAは、アンチセンスRNAをコードするDNAであり、(ii)のDNAは、触媒活性を有するDNAであり、(iii)のDNAは、内因性のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。
【0031】
また「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制」には、DNAの転写の抑制及びタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0032】
このDNAにより、鱗翅目において、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を抑制することができる。
【0033】
(3)本発明の組換えベクター
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを含む組換えベクターを提供する。
【0034】
抑制用DNAを導入するベクターは、細胞内で導入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、昆虫細胞内で恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、アクチンプロモーター)を有するベクターや、外的刺激によって活性が誘導されるプロモーター(例えば、ヒートショックプロモーター)を有するベクターであっても良い。ベクターへの本発明の抑制用DNAの挿入は、既知の方法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0035】
上記ベクターには、導入遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、若しくは宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いても良い。例えば、宿主細胞としてカイコを用いる場合には、クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)等のマーカー遺伝子を組み込んでいても良い。この場合、マーカー遺伝子の上流に3xP3等のプロモーター配列を組み込み、その作用によりマーカー遺伝子を発現させるようにする。また、大腸菌を用いる場合には、カナマイシン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として組み込んでいても良い。
【0036】
抑制用DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって細胞に導入することができる。
【0037】
本発明のベクターが導入される宿主細胞は特に制限されるものではなく、目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。例えば、細菌細胞(大腸菌等)、真菌細胞(酵母等)、昆虫細胞(カイコ等)、動物細胞(CHO等)、植物細胞等である。
【0038】
この組換えベクターにより、抑制用DNAを細胞内で効率的に発現させることができる。
【0039】
(4)本発明の形質転換細胞、形質転換体、繁殖材料、及びこの形質転換体の製造方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNA若しくは(3)で説明した組換えベクターが導入された形質転換細胞、前記形質転換細胞から作り出された形質転換体、前記形質転換体の子孫若しくはクローンである形質転換体、これら形質転換体の繁殖材料、並びにこれら形質転換体を製造する方法を提供する。この方法は、具体的には、
(A1)抑制用DNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程、
(A2)当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、トランスジェニック動物を選択する工程
とからなる。
【0040】
ここで、本発明の形質転換細胞は、抑制用DNA若しくは組換えベクターが導入された細胞若しくは細胞の集合であって形質転換体である動物を再生し得るものであれば特に制限はない。本発明の形質転換細胞は、例えば卵等である。
【0041】
組換えベクターを導入した形質転換細胞は、ベクターに導入されている所定のマーカー遺伝子に応じて、種々の方法を用いて選抜することができる。例えば、マーカー遺伝子としてGFPが導入されている場合には、発現したGFPタンパク質の蛍光を検出することによって形質転換細胞の選抜ができる。また、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子が導入されている場合には、適した選抜用薬剤を有する既知の選抜用培地で培養しても良い。
【0042】
また、形質転換細胞及び形質転換体に導入されたDNAは、ハイブリダイゼーションやPCR法等の当業者に公知の方法によって、若しくは昆虫のDNA塩基配列を解析することによって確認できる。
【0043】
また、上述の形質転換体の染色体内に抑制用DNAを導入することで、この形質転換体から有性生殖若しくは無性生殖により子孫を得ることが可能となる。更に、この形質転換体若しくはその子孫又はクローンから繁殖材料(例えば、卵)を得ることで、前記形質転換体を量産することが可能となる。
【0044】
(5)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを用いてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法を提供する。具体的には、この方法は、
(B1)抑制用DNAを細胞内に導入する工程、
(B2)当該細胞内で抑制用DNAを発現させる工程、
とからなる。
【0045】
「DNAを細胞内に導入する工程」は、例えば、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法等の当業者にとって既知の種々の方法を用いて行うことができる。上記のような(5)の方法により、抑制用DNAを発現可能な状態で含むベクターが細胞に導入され、従って、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
(6)本発明の組換えタンパク質及びその製造方法
本発明はまた、ヒト型糖鎖を付加した組換えタンパク質を提供する。このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られるものである。また、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られるものであっても良い。更に、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質であっても良い。
【0047】
本発明はまた、上記組換えタンパク質の製造方法を提供する。この方法は、具体的には、
(C1)抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞若しくは形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程、
(C2)当該細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程
とからなる。更に、この方法は、
(D1)(2)で説明した抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞を培養する工程、
(D2)当該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程
とからなっても良い。
【0048】
この方法によって得られる組換えタンパク質は、ヒト型糖鎖を付加された任意のタンパク質である。即ち、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を有さないタンパク質である。
【0049】
(7)本発明の薬学的組成物
本発明はまた、(6)で説明した組換えタンパク質と薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物を提供する。この担体は、動物体内における送達に適したものであり、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、弛緩剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤等を含むが、これらに限定されるものではなく、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、乳糖、デンプン、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、白糖、コーンスターチ等である。
【実施例1】
【0050】
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0051】
実施例1.1 カイコα1,3−フコース転移酵素のクローニング
独立行政法人 農業生物資源研究所のKAIKOBLASTデータベースを用い、相同性検索を行った。検索にはショウジョウバエ由来α−1,3−フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフを含むアミノ酸配列(Asp354−Met390)をソースとした。
【0052】
データベース検索により高い相同性を示した塩基配列について、GENSCANプログラム(http://genes.mit.edu/GENSCAN.html)解析により、エキソン領域を推定した。
【0053】
ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、エキソンを含む領域を増幅及びクローニングした。PCRにはKOD Plus polymerase(TOYOBO)を用い、図1に示す条件で反応した。
【0054】
KAIKOBLAST データベース検索の結果、ショウジョウバエ由来FucTA活性モチーフ領域と高い相同性を示すゲノム配列が見出され(図2)、更に、GENSCAN解析から、完全長FucTに相当するエキソンをコードしている事が示された。
【0055】
FucT候補遺伝子について、エキソンを含む領域をゲノムDNAからPCR増幅した結果、目的配列と一致するDNA断片の増幅が確認できた(図3)。
【0056】
実施例1.2 RNAi用カイコ形質転換ベクターの作製
(1)RNAi用のプラスミドpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]の構築
P50系統のカイコのゲノムDNAをテンプレートとし、プライマーにA3 short2−RE(5'−GGGGTCTAGAGCTAGCCGGTCCGGGCCAACAGGTGAGCTCATCGATTCTGGACTATGCACTTCGTCTCTCGGCCGGTGGGCCGTTATCGACCGTTATCTG−3')とA3 short2r−ER(5'−GGGGTCTAGAGTCGACGGCCTACATGGCCACTAGTCTTCTCTCTGAAACAGAACAAAGTCATTCGTCAGATAACGGTCGATAACGGCCCACCGGCCGAGA−3')とを用いたPCRにより、カイコのアクチン3遺伝子の第1と第2エキソンの一部を含む第1イントロン領域を増幅した。得られたDNA断片をXba1で処理し、プラスミドpBlue(UAS)(Sakudoh et al.,Proc Natl Acad Sci USA 104,8941−8946,2007)のBln1サイトに挿入した(図4A)。得られたプラスミドを精製し、Xho1とBamH1とで処理することによってUASとA3イントロン、S40のポリAシグナルを含む領域を切り出し、プラスミドpBacMCS(Uchino et al.,J.Insect Biotechnol,Sericol.75,89−97,2006)の同じ制限酵素の認識配列部位に挿入した(図4A)。このプラスミドのEcoR1サイトにプラスミドpBac[3xP3−EGFP](Horn et al.,2000)をテンプレートとし、3xP3−EGFP.13U19−EcoRI(5'−ggggaattcGCTTCGGTTTATATGAGAC−3')と3xP3−EGFP.1352L21−EcoRI(5'−ggggaattcTGAGTTTGGACAAACCACAAC−3')とをプライマーとするPCRによって増幅した3xP3−EGFP断片をEcoR1で処理したものを挿入することによって、pBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]を作出した(図4B)。得られた各プラスミドの塩基配列はABI自動シークエンサーによって決定した。
【0057】
(2)フコース転移酵素RNAi用配列のpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]への挿入
実施例1.1でクローニングしたフコース転移酵素遺伝子を鋳型とし、以下のプライマーの組み合わせによるPCRで得られたDNA断片を、RNAi用のプラスミドpBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]に逆方向に挿入したベクターを作出した。
Fut1f(NheI):5'−gaGCTAGCTTAATGTTCATTCATTATTTTGTTATATATATTA−3'
Fut1r(CpoI):5'−aaaCGGaCGGATGTTTTATGTAATGACAGTTATGTTTT−3'
Fut2f(SpeI):5'−ggACTAGTATGTTTTATGTAATGACAGTTATGTTTT−3'
Fut2r(SfiI):5'−aaGGCCtacatGGCCTTAATGTTCATTCATTATTTTGTTATATATATTA−3'
Fut3f(NheI):5'−gaGCTAGCTTATTTAAACAAGCCCCATAAGAATCAATC−3'
Fut3r(CpoI):5'−aaaCGGaCCGTGGGGCTTGTTTAAATAATAAACATTTACC−3'
Fut4f(SpeI):5'−ggACTAGTTGGGGCTTGTTTAAATAATAAACATTTACC−3'
Fut4r(SfiI):5'−aaGGCCtacatGGCCTAAACAAGCCCCATAAGAATCAATC−3'
すなわち、pBac[UAS−A3i−SV40,3xP3egfp]のNheI−CpoI間およびSpeI−SfiI間に以下の表1のようにPCR増幅DNA断片を挿入し、転写産物がヘアピン構造をとるようなコンストラクトを3種類作出した(図5)。
【0058】
【表1】
【0059】
得られた各プラスミドの塩基配列はABI自動シークエンサーによって決定した。
【0060】
実施例1.3 トランスジェニックカイコの作製
実施例1.2で得たプラスミドを精製し、ヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura et al.,Nature Biotechnology 18,81−84,2000)と一緒に注射用の緩衝液(5mM KCl/0.5mMリン酸緩衝液pH7.0)に溶かし、各プラスミドDNAが200μg/mlになるように注射液を調製した。この液を産卵後8時間以内のw1−pnd系統のカイコの卵に注射した。その結果、3種類のコンストラクトのうち2種類についてはトランスジェニックカイコが得られた(表2)。このうち、フコース転移酵素の全長が逆方向に挿入されたものについて系統化を行った。その結果、3系統が作出された。これらの系統にカイコの細胞質アクチン遺伝子の上流をプロモーターとするGAL4系統(Tan et al.,Proc.Nati.Acad.Sci.USA 102,11751−711756,2005)を交配し、F1の卵を採種し5℃で保存した。卵を25℃に移した後、GFP及びDsRedの検出用のフィルターを装備した蛍光実体顕微鏡で胚を観察することによって、フコース転移酵素のヘアピンRNAとGAL4の遺伝子を持つ個体を選抜した。得られた個体を5令まで飼育し、RNAi用の幼虫としてNPVの感染に用いた。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1.4 トランスジェニックカイコでの糖タンパク質の発現と精製
(1)糖タンパク質の発現
糖タンパク質であるインフルエンザヘマグルチニン(HA)を発現する組換えバキュロウイルスを、既存の方法(J.Virol.Methods.98(1):1−8,2001)で作製した。5齢2日目の、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ抑制トランスジェニックカイコ及び非トランスジェニックコントロールカイコに、PBSで100倍に希釈したHA発現バキュロウイルス(4.77×106PFU/ml)を50μlずつ注射した。各々にエサとして蚕用人工飼料を与え23℃で飼育をおこない、感染後5日後に、虫体を回収した。
【0063】
(2)糖タンパク質の精製
感染回収カイコ(20頭)に、300mlの磨砕バッファー(40mlの500mM Tris pH8.0にEDTA・2Naを0.75g、ベンズアミジンを1.6g、過硫酸ナトリウムを0.5g加え、1000mlにメスアップしたもの)を加え、ホモジェネート及び超音波処理をおこなった。磨砕バッファーをさらに加え、液量を360mlとし、これに40mlの20% Triton X100を加え、室温で30分攪拌した。次に0.1%になるようにプロタミン硫酸を加え攪拌し、4℃で15分静置した。3,000rpmで15分遠心し、上清を濾紙でろ過し、HA抽出試料とした。
【0064】
CNBr−Sepharose FF(GEヘルスケアバイオサイエンス)に、Fetuin(SIGMA)を添付の説明書に従って結合させた。約20mlのFetuinを結合させたSepharose FFをカラムにパッキングし、0.1%のTriton X100を含む20mM Tris pH8.0で平衡化した。これにHA抽出試料を0.8ml/minの流速でカラムにアプライし、その後、平衡化バッファーで非吸着成分を洗い流した。0.1%のTriton X100を含む10mMのホウ酸バッファーpH10.0で洗浄し、0.1%のTriton X100を含む100mMのホウ酸バッファーpH10.0でHAの溶出をおこない、280nmの吸光度でのピークを回収した。
【0065】
カラム溶出物に、15%量のPEG6000を加え15分攪拌し、10000×g 10分の遠心をおこない、上清を捨てた。20mM Tris pH8.0,150mM NaClを加え沈殿を溶解し、精製試料とした。
【0066】
実施例1.5 トランスジェニックカイコ発現糖タンパク質の糖鎖構造の解析
1.5.1 精製糖タンパク質からの糖鎖の切り出し
(1)脱塩したHAタンパク質を凍結乾燥し、完全に乾燥させた。
【0067】
(2)1.0mlの無水ヒドラジン(東京化成工業)を加え、100℃で10時間加熱した。
【0068】
(3)反応後、アセトン中に反応液を移し、20分静置した後、4℃、15分、12,000rpmで遠心分離した。
【0069】
(4)上清を捨て、得られたペレットを凍結乾燥し、完全にアセトンを取り除いた。
【0070】
(5)乾燥したペレットに3mlの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と120μlの無水酢酸(Wako)を加えて十分に混合し、室温で20分静置した。
【0071】
(6)あらかじめpH2.0に調整しておいたDOWEX50×2(室町化学工業)を、試料のpHが2.0になるまでpH試験紙で確認しながら加えた。ガラスウールを軽くつめたカラムを用いて樹脂と溶液を分離し、5倍容量のdH2Oで洗浄して溶出液をナス型フラスコに全て集めた。
【0072】
(7)この溶出液に適量の1−ブタノールを加えてエバポレータで濃縮し、あらかじめ0.1Nアンモニア水で平衡化しておいたTSK gel TOYO PERAL HW−40(TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)に通し、溶出液を80滴(約4ml)ずつ40フラクションまで分画した。分画は、2128 Fraction collector(Bio−Rad)で行った。
(8)各フラクションをよく攪拌した後、100μlをとり、100μlの5%フェノールとよく混ぜた後、400μlの濃硫酸と混合し、糖鎖が存在するフラクションを回収し、適量の1−ブタノールを加え、エバポレータで濃縮した後、更に凍結乾燥で濃縮した。
【0073】
1.5.2 糖鎖のピリジルアミノ(PA)化
(1)凍結乾燥した試料にPA化試薬(2.76g/ml 2−アミノピリジン酢酸溶液)をサンプルが十分浸るように加え、90℃で1時間加熱した。
【0074】
(2)室温まで冷却した試料にジメチルアミン−ボラン溶液(195 mg/ml ホウ酸ジメチルアミン(Wako)酢酸溶液)を前項で加えたPA化試薬と等量加えてよく混合し、80℃で40分加熱した。
【0075】
(3)室温で冷却後、試料と等量のdH2Oを加えて十分混合し、あらかじめ0.1Nのアンモニア水で平衡化しておいたTSK gel TOYO PERAL HW−40(TOSOH)ゲル濾過カラム(2.5×30cm)に通し、溶出液を80滴(約4ml)ずつ40フラクションまで分画した。分画は、2128 Fraction collector (Bio−Rad)で行った。
【0076】
(4)各フラクションの蛍光強度(Ex:320nm,Em:400nm)をF−2000形蛍光分光光度計(HITACHI)で測定し、糖鎖が含まれるフラクションを回収し、1−ブタノールを適量加えてエバポレータで濃縮した。
【0077】
1.5.3 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるPA化糖鎖の分析
(1)精製した糖鎖をODSカラムによるHPLCで分画を行ない、さらに各フラクションについてアミドカラムによるHPLCで分画を行った。
【0078】
(2)分析にはHITACHI FL Detector L−7480を持つHITACHI HPLCシステム、及び蛍光検出器を持つNANOSPACE SI−1(SHISEIDO)を用いた。
【0079】
(3)HITACHI HPLCシステムでのODSカラムによる精製及び分析には、カラムはCosmosil 5C18−AR−II(6.0×250 mm, nakalai tesque)カラムを用いた。調製したPA化糖鎖や市販のPA化糖鎖を試料として用いた。分析条件を以下に示す。
Solvent A :0.02%TFA(trifluoroacetic acid)
Solvent B :20%acetonitrile/0.02%TFA
Gradient :0%→4%acetonitrile(5min→40min)
[0%→20%solvent B]
Flow rate :1.2ml/min
Analysis time:50min
Detection :fluorescence(Ex:310nm,Em:380nm)
Column temp.:30℃
【0080】
(4)アミドカラムによる精製及び分析カラムには、Asahipak NH2P−50(4.6×250mm,昭和電工)カラムを用いた。調製したPA化糖鎖や市販のPA化糖鎖に等量のアセトニトリルを加えて試料とした。分析条件を以下に示す。
Solvent A :80%acetonitrile
Solvent B :20%acetonitrile
Gradient :74%→50%acetonitrile(5min→25min)
[10%→50%solvent B]
Flow rate :0.7ml/min
Analysis time:40min
Detection :fluorescence(Ex:310nm,Em:380nm)
Column temp :30℃
1.5.4 MALDI−TOF−MSによる質量分析
(1)HPLCで分画したそれぞれのフラクションに含まれる糖鎖の質量分析をMALDI−TOF−MSを用いて行い、得られた分子量から糖鎖構造を推定した。なお、糖鎖の分子量は全てNa付加型と判断した。また、それぞれのフラクションごとに前述したODSカラムによるHPLCを行い、現れたピークを質量分析で推定された構造のスタンダード糖鎖のものと比較した。
【0081】
(2)MALDI−TOF−MS分析はautoflex(BRUKER DALTONICS)を用いた。リフレクターポヂティブモードに設定し、N2ガスの圧力は、1800〜2000mbar程度、3.0×e−6以下の真空下で測定を行った。10mgの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(Sigma)をdH2O:アセトニトリル=1:1の割合で混合した溶液1mlに溶かしマトリックス試薬とした。dH2Oに溶解したPA化糖鎖と等量のマトリックス試薬と混合した。このうち2μlをターゲットにスポットし室温で乾燥させて結晶化させた後分析を行った。
【0082】
1.5.5 エキソグリコシダーゼ処理
(1)糖鎖構造をより正確に解析するために、非還元末端にN−アセチルグルコサミンを持つものはN−アセチルグルコサミニダーゼで、マンノースをもつものはα−D−マンノシダーゼで処理した後、アミドカラム又はODSカラムによるHPLCにより解析し、推定される酵素反応後の構造のスタンダード糖鎖と比較し、一致したものを糖鎖と同定した。
【0083】
(2)スタンダード糖鎖である高マンノース型糖鎖(Man9〜Man5)に関してはTaKaRaにおいて販売されている構造既知のPA化糖鎖を用いた。
【0084】
(3)α−D−マンノシダーゼ(Jack bean;Sigma)処理は、10mMのZn(COOH)2と120mUのα−D−マンノシダーゼを含む、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)の下で、37℃で3日間行った。酵素反応の停止は3分間煮沸することで停止させ、4℃、12000rpmで10分間遠心分離した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知のスタンダード糖鎖の溶出時間と比較し、糖鎖構造を同定した。
【0085】
(4)N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae;生化学工業)処理は、1mUのN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼを含む、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)の下で、37℃で3日間行った。酵素反応の停止は3分間煮沸することで停止させ、4℃、12,000rpmで10分間遠心分離した後、上清をHPLCに供した。試料糖鎖の溶出時間は既知のスタンダード糖鎖の溶出時間と比較し、糖鎖構造を同定した。
【0086】
1.5.6 コントロール(非トランスジェニック)カイコで発現させたHAタンパク質の糖鎖構造解析
PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図6)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図7)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した(表3)。
【0087】
【表3】
なお、表中に記していないフラクションにはMALDI−TOF−MSによる糖鎖の存在を示すピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないためにN−結合型糖鎖が存在しないと判断した。表3中に記したフラクションでは、その質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖と各フラクションのピークの位置を比較した。更に、非還元末端が、N−アセチルグルコサミンのものは、N−アセチルグルコサミニダーゼにより、マンノースのものはマンノシダーゼで消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した(表4)。
【0088】
【表4】
フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(表4)。
【0089】
1.5.7 FucT抑制トランスジェニックカイコで発現させたHAタンパク質の糖鎖構造解析
PA化した糖鎖をODSカラムにより9フラクションに分画し(図8)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図9)。分取した各フラクションを前項と同様の方法で解析し、糖鎖構造の同定(表5)と、糖鎖の種類ごとの存在率を算出した(表6)。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
実験の結果、コントロールでは43.9%がフコシル化されているのに対し、FucT抑制カイコでは16.02%と、顕著にフコシル化が抑制されている、かつα1,6のフコシル化に比べてもα1,3のフコシル化の割合が低くなっていることが分かった。
【0093】
実施例1.6 dsRNAを用いたカイコα1,3−フコース転移酵素に対するRNAi
(1)dsRNAの作製
フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の配列を大まかに6つに区切り、各々を増幅させるためのプライマーを設計した(図10)。これに加え、5'側にT7 RNAポリメラーゼプロモータ(TAATACGACTCACTATAGG)を付加させた物も同時に設計した。フコシルトランスフェラーゼをクローニングしたベクターをテンプレートにし、KOD plus(東洋紡)を用いて、PCRをおこなった。組成、反応条件は以下のように設定した。
組成
×10 Buffer 5μl
2mM dNTPs 5μl
25mM MgSO4 2μl
プライマーMix 3μl(各15pmol)
テンプレート 1μl(10ngベクター)
KOD+ 1μl
DW 33μl
計 50μl
反応条件
1、94℃ 2min
2、94℃ 15sec
3、45℃ 30sec
4、68℃ 30sec
30サイクル反応
【0094】
PCR産物に対し、T7 RiboMAX Express RNAi System(Promega)を用いてdsRNAを作製した。方法はこのキットに添付の使用説明書に従った。
【0095】
(2)カイコ培養細胞へのトランスフェクション
20μlのdsRNAに、80μlのTC−100を加え希釈した。これに、TC−100で50倍希釈し、攪拌後5分静置したLipofectamine2000を各々100μl加え、混和後20分静置した。その後、800μlのTC−100を加えてdsRNA溶液とした。5.1×105cellのBmNを4日培養し、培地を捨て、TC−100で1回リンス後、dsRNA溶液を加え、27℃で培養を開始した。ネガティブコントロールとして、dsRNAを使用しない実験区も作製した。5時間後、培地をTC−100(FBS+)に交換し、トランスフェクションから44時間後に細胞を回収した。
【0096】
(3)リアルタイムPCR法によるα1,3−フコシルトランスフェラーゼRNA量の測定
回収した細胞からIsogen−LS(ニッポンジーン)を用いて、Total RNAを抽出した。方法は使用説明書に従った。抽出したRNAを42μlのDWで溶解し、これに3μlのCloned DNaseI(TaKaRa)及び5μlの添付10×Bufferを加え、37℃で30分反応させた。その後、フェノール・クロロホルム処理、イソプロ沈をおこない、乾燥後のRNAを50μlのDWで溶解した。これを1μl取り、iScript cDNA Synthesis Kit(BIO−RAD)のReaction Mixを8μl、酵素2μl加え、さらにDWにより総液量を40μlとした。25℃5分→42℃30分→85℃5分の反応をおこないcDNAを作製した。リアルタイムPCRには、iQ SYBR Green Supermix(BIO−RAD)を用いた。内部標準として、アクチンA3遺伝子を用い、これを増幅させるプライマー(TCACTGAGGCTCCCCTGAAC、TACAGCGAGAGCACGGCTTG)及びフコシルトランスフェラーゼ遺伝子を増幅させるプライマー(GCTTGTTGAAGAATTCCGTTCG、GGGCAGTTGTAATGCTTTTTGG)を実験に用いた。逆転写済みのサンプルをDWで10倍に希釈していき、100%〜0.01%(×1〜×10000)の希釈系列を作製した。1実験区当たり、40μlのSupermixと4μlの10pmol/μl プライマー、2μlのサンプルを加え、DWで総液量80μlとした。攪拌後、20μlずつ反応プレートに分注した。反応プレートをChromo4リアルタイムPCR解析システム(BIO−RAD)にセットし、以下の条件で反応及び蛍光測定をおこなった。
1、95℃ 3min
2、95℃ 15sec
3、60℃ 45sec
4、Read
50サイクル反応
【0097】
実験の結果、効果にばらつきはあるものの、複数のdsRNAで阻害効果が見られ、200bp程度の短い遺伝子配列でも、RNAiが起きることが示された(図11)。
【0098】
(実施形態2)
次にナス目に係る本発明の実施形態を説明する。
【0099】
ナス目植物の例としては、ナス科(Solanaceae)、ハナシノブ科(Polemoniaceae)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)、ミツガシワ科(Menyanthaceae)等が挙げられ、タバコ、トマト、シバザクラ、サツマイモ、アサザ等が含まれる。
【0100】
以下においては、この中のトマト(Solanum lycopersicum)の例を説明する。
【0101】
(1)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA
本明細書において「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」とは、糖タンパク質のタンパク質部分の合成後、糖鎖付加の際に生じる還元末端アセチルグルコサミン残基にフコース残基を付加する酵素である。この酵素は、GDP−フコースを糖供与体として、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖の最もペプチド鎖に近いN−アセチルグルコサミンにα1,3−結合でフコースを連結させる機能を有する。
【0102】
本発明は、タンパク質の糖鎖構造に関与するα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAを提供する。
【0103】
本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAは、具体的には、
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
が含まれる。
【0104】
ここで、本明細書における「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が所望の機能を失わない限り、その置換等されるアミノ酸数は限定されるものではない。例えば、置換等されるアミノ酸の数は、30個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特により好ましくは3個以下である。
【0105】
また、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、相同遺伝子をコードするDNAを単離するために行うハイブリダイゼーション反応条件を指し、このハイブリダイゼーション反応は、当業者に既知の方法に準じて行うことができる。
【0106】
「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」としては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0107】
本明細書に係る「α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA」は、「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ」をコードするものであれば、その形態に制限はなく、cDNA,ゲノムDNA、化学合成DNAや、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNA等を含む。
【0108】
ゲノムDNA及びcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号:4に記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをプラスミド、ファージ等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーション若しくはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0109】
このDNAを利用することにより、ナス目においてヒト型糖鎖が付加された糖タンパク質を生産することが可能となる。ここで「ヒト型糖鎖」とは、糖鎖コア構造の還元末端部分に存在するN−アセチルグルコサミン残基に、α1,3−結合によるフコース残基が存在しない糖鎖を意味する。
【0110】
(2)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNA
本発明はまた、ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制するDNAを提供する。このようなDNAには、具体的には、
(iv)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)ナス目α1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA、
が含まれる。
【0111】
(iv)のDNAは、アンチセンスRNAをコードするDNAであり、(v)のDNAは、触媒作用を有するDNAであり、(vi)のDNAは、内因性のα1,3−フコシルトランスフェラーゼをコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。
【0112】
また「α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制」には、DNAの転写の抑制及びタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNA発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0113】
このDNAにより、ナス目において、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を抑制することができる。
【0114】
(3)本発明の組換えベクター
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを含む組換えベクターを提供する。
【0115】
抑制用DNAを挿入するベクターは、細胞内で導入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内で恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター)を有するベクターや、若しくは外的刺激によって活性が誘導されるプロモーターを有するベクターであっても良い。ベクターへの本発明の抑制用DNAの挿入は、既知の方法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0116】
上記ベクターには、導入遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、若しくは宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いても良い。例えば、宿主細胞として大腸菌を用いる場合には、形質転換された大腸菌を選抜するための遺伝子(例えば、カナマイシン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子)をマーカー遺伝子として組み込んでいても良い。また、大腸菌以外のベクターとしては、昆虫細胞由来の発現ベクター、植物由来の発現ベクター、レトロウイルス由来の発現ベクター等が挙げられる。
【0117】
抑制用DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の当業者に既知の方法によって細胞に導入されることができる。
【0118】
本発明のベクターが導入される宿主細胞は特に制限されるものではなく、目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。例えば、細菌細胞(大腸菌等)、真菌細胞(酵母等)、昆虫細胞(カイコ等)、動物細胞(CHO等)、植物細胞等である。
【0119】
この組換えベクターにより、抑制用DNAを細胞内で効率的に発現させることができる。
【0120】
(4)本発明の形質転換細胞、形質転換体、繁殖材料、及びこの形質転換体の製造方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNA若しくは(3)で説明した組換えベクターが導入された形質転換細胞、前記形質転換細胞から作り出された形質転換体、前記形質転換体の子孫若しくはクローンである形質転換体、これら形質転換体の繁殖材料、並びにこれら形質転換体を製造する方法を提供する。この方法は、具体的には、
(E1)抑制用DNAをナス目由来の細胞に導入する工程、
(E2)当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程
とからなる。
【0121】
ここで、本発明の形質転換細胞は、抑制用DNA若しくは組換えベクターが導入された細胞若しくは細胞の集合であって形質転換体である植物を再生し得るものであれば特に制限はない。本発明の形質転換細胞には、例えば、カルス、葉切片、プロトプラスト等が含まれる。
【0122】
組換えベクターを導入した形質転換細胞は、ベクターに導入されている所定のマーカー遺伝子に応じて、種々の方法を用いて選抜することができる。例えば、マーカー遺伝子として、薬剤耐性遺伝子が導入されている場合には、ベクターに導入されている所定の薬剤耐性遺伝子に応じて、適した選抜用薬剤を有する既知の選抜用培地で培養する必要がある。これにより形質転換された培養細胞を得ることができる。
【0123】
形質転換細胞から形質転換体を作り出す方法には、細胞の種類に応じて当業者に公知の種々の方法を採用できる。例えばトマトであれば、所定の薬剤を含む培地でカルスを形成させ、発根を確認した後に、培養土に順化させても良い。
【0124】
また、形質転換細胞及び形質転換体に導入されたDNAは、ハイブリダイゼーションやPCR法等の当業者に公知の方法によって、若しくは植物体のDNA塩基配列を解析することによって確認できる。
【0125】
また、上述の形質転換体の染色体内に抑制用DNAを導入することで、この形質転換体から有性生殖若しくは無性生殖により子孫を得ることが可能である。更に、この形質転換体若しくはその子孫又はクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、株、カルス等)を得ることで、前記形質転換体を量産することが可能である。
【0126】
(5)本発明のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法
本発明はまた、(2)で説明した抑制用DNAを用いてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法を提供する。具体的には、この方法は、
(F1)抑制用DNAを細胞内に導入する工程、
(F2)当該細胞内で抑制用DNAを発現させる工程
とからなる。
【0127】
「DNAを細胞内に導入する工程」は、例えば、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法等の当業者にとって既知の種々の方法を用いて行うことができる。上記のような(5)の方法により、抑制用DNAを発現可能な状態で含むベクターが細胞に導入され、従って、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を効果的に抑制することが可能となる。
【0128】
(6)本発明の組換えタンパク質並びにその製造方法
本発明はまた、ヒト型糖鎖を付加した組換えタンパク質を提供する。このタンパク質は、(4)で説明した形質転換細胞に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られるものである。また、このタンパク質は、(4)で説明した形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質であっても良い。
【0129】
本発明はまた、上記組換えタンパク質の製造方法を提供する。この方法は、具体的には、
(G1)(2)で説明した抑制用DNAを含むベクターを含む形質転換細胞を培養する工程、
(G2)当該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程
とからなる。
【0130】
この方法によって得られる組換えタンパク質は、ヒト型糖鎖を付加された任意のタンパク質である。即ち、糖鎖コア構造の還元末端部位に存在するN−アセチルグルコサミン残基へのフコースのα1,3−結合を有さないタンパク質である。
【0131】
(7)本発明の薬学的組成物
本発明はまた、(6)で説明した組換えタンパク質と薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物を提供する。この担体は、動物体内における送達に適したものであり、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、弛緩剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤等を含むが、これらに限定されるものではなく、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、乳糖、デンプン、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、白糖、コーンスターチ等である。
【実施例2】
【0132】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0133】
実施例2.1 トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼのクローニング
2.1.1 cDNA作製およびRACE(rapid amplification of cDNA ends)
トマト品種「タイムリー」(タキイ種苗)の自殖固定系統の本葉0.5gを液体窒素で凍らせ、乳鉢と乳棒により粉砕し、EASYPrep RNA(タカラバイオ)を用いてプロトコールに従い、全RNAの抽出を行った。このうち全RNA100ngをSMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)へ供試し、添付のプロトコールに従い、cDNAを作製した。また、作製後のcDNAを鋳型として3'−RACE PCRおよび5'−RACE PCRを行った。
【0134】
3'−RACE PCRのプライマーには、キットに添付されたUniversal Promers A Mixおよびyama1を用いて、また5'−RACE PCRのプライマーには、キットに添付されたUniversal Promers A Mixおよびyama2を用いて、プロトコールに従い、PCR反応を行った。
これら全ての反応にはTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)を使用した。
Universal Promers A Mix :
Long5'−CTAATACGACTCACTATAGGGCAAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT−3'
Short5'−CTAATACGACTCACTATAGGGC−3'
yama1:5'−CCATGGGGCTGTGAGGAGTGGTT−3'
yama2:5'−AACCACTCCTCACAGCCCCATGG−3'
yama1およびyama2は、Lycopersicon pennelliiから単離された部分配列AW618836を参考に作製した。
【0135】
2.1.2 RACE PCR産物のクローニングと大腸菌の形質転換
RACE PCR産物のクローニングには、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試し、プロトコールに従いpCR2.1−TOPOベクターとPCR反応液を混合し、ライゲーション反応を行った。次に、同キットに付属の大腸菌TOP10(遺伝子型:F−mcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBC)φ80lacZΔM15 ΔlacX74 recA1 araD139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR)endA1 nupG)を溶解し、クローニング反応液2μlを加え、5分間氷上で静置した後、42℃の温湯に40秒間浸漬し、大腸菌TOP10の形質転換処理を行った。キットに添付のSOC培地を500μl加え、37℃で1時間静置した後、直径9cm滅菌シャーレに分注したLB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)の表面に塗布し、乾燥後37℃で16〜24時間培養した。培地上に形成されたシングルコロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/lカナマイシン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0136】
2.1.3プラスミドDNAの抽出
LB液体培地で増殖させた大腸菌培養液を1.5ml遠心チューブに移し、卓上遠心機MTX−150(TOMY)を使い、15,000rpmで2回に分けて集菌した。その後Wizard Plus SV Miniprep(Promega)を供試して、プロトコールに従いプラスミドDNAの抽出を行った。
【0137】
2.1.4 シークエンス
クローニングしたPCR産物の遺伝子配列については、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を供試し、各プラスミドDNA1μgを鋳型にしてM13FWまたはM13RVをプライマーとして用い、プロトコールに従いサイクルシークエンス反応を行った。また、反応液をエタノール沈殿した後、10μlホルムアミドを加え、チューブを煮沸処理して、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)またはABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で遺伝子配列の決定を行った。
M13FW:5'−TGTAAAACGACGGCCAGT−3'
M13RV:5'−CAGGAAACAGCTATGACC−3'
【0138】
2.1.5 Nested PCR
トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の全長をクローニングするため、5'−RACE PCRと3'−RACE PCRで得られた遺伝子配列から類推された読み枠(Open Reading Frame)の末端側にyama3、yama4、yama5、yama6の4種類のプライマーを作製し、1st PCRにはyama3とyama4を、2nd PCRにはyama5とyama6をそれぞれ供試した。
【0139】
2.1.1の項で前述のSMART RACE cDNA Amplification Kit(Clontech)で作製したcDNA反応液1μlをテンプレートとして1st PCRを行った後、この反応液を100倍希釈した液1μlをテンプレートとして2nd PCRを行った。
【0140】
1st PCR、2nd PCRともにポリメラーゼにはKOD−Plus−(TOYOBO)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。PCRの反応条件は1st PCR、2nd PCRともにプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−54℃30秒−68℃3分を30サイクルとした。
yama3:5'−GATACGCCAAAACCCCTCTCCAGTATCCT−3'
yama4:5'−GAACCACACAAAAACTACTATAGTCATAGC−3'
yama5:5'−CCAAGAAATTCAAGAATCCGCTTGTCTC−3'
yama6:5'−GCTAGAAACTTATATTCATGAGTATGGAAG−3'
【0141】
2.1.6 Nested PCR産物のクローニングと大腸菌の形質転換
Nested PCR産物のクローニングには、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試し、プロトコールに従いpCR−BluntII−TOPOベクターとPCR反応液を混合し、ライゲーション反応を行った。次に、同キットに付属の大腸菌TOP10(遺伝子型:F−mcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBC)φ80lacZΔM15 ΔlacX74 recA1 araD139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR)endA1 nupG)を溶解し、クローニング反応液2μlを加え、5分間氷上で静置した後、42℃の温湯に40秒間浸漬し、大腸菌TOP10の形質転換処理を行った。キットに添付のSOC培地を500μl加え、37℃で1時間静置した後、直径9cm滅菌シャーレに分注したLB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)の表面に塗布し、乾燥後37℃で16〜24時間培養した。培地上に形成された単一コロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/l カナマイシン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0142】
2.1.7 トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子のシークエンス
2.1.3および2.1.4の項で前述のとおりプラスミドの抽出ならびにシークエンスを行い、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子のシークエンスを行った。トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子の配列を図12に示す。またその際、前述M13FWとM13RVの2種類のプライマーに加え、プライマーウォーキングにより作製したyama7、yama8、yama9およびyama10の4種類のプライマーを供試した。
yama7:5'−CAATCTTGTTAATTCTTGG−3'
yama8:5'−GATATCATGGCTCCAGTAC−3'
yama9:5'−CATCTGATGCCTTCAAAGC−3'
yama10:5'−CATTTTCGTATAGTTGAAG−3'
【0143】
実施例2.2 RNAi用トマトトランスジェニックベクターの作製
2.2.1 RNAi誘導ベクターの作製
トマトの内性α1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制するために、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の逆方向反復塩基配列を有するRNAi誘導ベクターの作製を行った。
【0144】
(1)ベクター構築用配列のサブクローニング
逆方向反復塩基配列の鋳型にはトマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子を供試し、ATG500はyama11、yama12の両プライマーで、ATG600の断片はyama13、yama14の両プライマーでPCRにより増幅した。ポリメラーゼにはKOD−Plus−(TOYOBO)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。PCRの反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−68℃1分を30サイクルとした。
【0145】
2.1.6の項で前述のZero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen life technologies)を供試してATG500とATG600のPCR産物をクローニングし、2.1.3および2.1.4の項で前述のとおりプラスミドの抽出ならびにシークエンスの確認を行った。
yama11:5'−GTCTAGACCAAGAAATTCAAGAATCCGCT−3'
yama12:5'−GGAATTCGAAATTGGTTCCAAACTTACAT−3'
yama13:5'−GGAATTCTGTTGTTCTCAGCATAGTATTG−3'
yama14:5'−GGAGCTCCCAAGAAATTCAAGAATCCGCT−3'
【0146】
(2)逆方向反復塩基配列の作製
ATG600断片をEcoRIとXbaIで消化するとともに、pUC19(Accesion No.M77789)をEcoRIとXbaIで消化した後、両断片をDNA Ligation Kit(タカラバイオ)でプロトコールに従いライゲーションし、1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。また、LB固形培地(50mg/lアンピシリン添加)上に形成されたシングルコロニーを爪楊枝で3ml LB液体培地(50mg/lアンピシリン添加)に移植し、37℃で16時間培養した。
【0147】
次に、ATG500断片をEcoRIで消化するとともにATG600断片を挿入したpUC19を EcoRIで消化した後、両断片をDNA Ligation Kit(タカラバイオ)でライゲーションし、1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。
【0148】
さらに、目的の断片が形成されたコロニーを選抜するため、LB固形培地(50mg/lアンピシリン添加)上のシングルコロニーを爪楊枝の先で掻き取り、PCR反応液に直接浸けてPCRの鋳型とし、コロニーダイレクトPCRを行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−72℃1分を35サイクルとした。前述yama11とyama14の両プライマーを供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約1100bpのバンドが確認されるコロニーを選抜し、プラスミドの抽出を行った。
【0149】
(3)トランスジェニック用RNAi誘導ベクター、pBI121−FucTRNAiの作製
トマトの内性α1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の逆方向反復塩基配列(約1100bp)と、pBI121(Accesion No.AF485783)のGUS遺伝子を置換することにより、トランスジェニック用RNAi誘導ベクター、pBI121−FucTRNAiの作製を行った(図13)。
【0150】
ATG500断片とATG600断片を挿入したpUC19をXbaI、SacIおよびHindIIIで消化し、pBI121をXbaI、SacIおよびSnaBIで消化した後、両反応液をエタノール沈殿させ、DNA Ligation Kit(タカラバイオ)でライゲーションし、2.1.2の項と同様に大腸菌TOP10の形質転換を行った。LB固形培地(50mg/lカナマイシン添加)上のシングルコロニーを爪楊枝の先で掻き取り、PCR反応液に直接浸けてPCRの鋳型とし、コロニーダイレクトPCRを行った。前述(2)の項と同様にyama11とyama14の両プライマーを供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約1100bpのバンドが確認されるコロニーを選抜し、RNAi誘導ベクター(pBI121−FucTRNAi)の抽出を行った。
【0151】
2.2.2 アグロバクテリウムの形質転換
植物へ目的の遺伝子断片を導入するため、Agrobacterium tumefaciens LBA4404株(Clontech)にpBI121−FucTRNAiを導入し、形質転換を行った。
【0152】
10mg/lリファンピシン、250mg/lストレプトマイシン添加LB液体培地3mlで30℃48時間培養したLBA4404を2.1.3の項と同様に集菌し、上清を取り除いた後、pBI121−FucTRNAiの抽出液15μlで懸濁し、すぐにチューブを液体窒素で5分間処理した。その後、37℃の温湯で15分間、液体窒素で5分間の処理を3回繰り返し、500μlのLB培地を加え、30℃で3時間静置した。処理後の液体を10mg/lリファンピシン、250mg/lストレプトマイシンおよび50mg/lカナマイシンを添加したLB固形培地上に塗布し、30℃で3日間培養し、シングルコロニーを確認した。
【0153】
実施例2.3 トランスジェニックトマトの作製
2.3.1 トマトの無菌播種
トマト品種「タイムリー」(タキイ種苗)の自殖固定系統を供試し、不織布で作った袋(3cm×3cm)にトマト種子25粒を小分けし、ホッチキスでとめ、tween20を1滴添加した1%アンチホルミン50mlとともに滅菌済みプラントボックス(Wako)内で15分間滅菌処理を行った。その後、滅菌水100mlで3回洗浄し、袋から取り出した種子をプラントボックス(Wako)内に分注した30ml 1/2MS培地上に並べ、25℃16時間日長の培養室で9〜10日間静置した。
1/2MS培地:
2.2g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
15g/l Sucrose、
0.8%Agar
pH5.8
【0154】
2.3.2 前培養
無菌播種後9〜10日目の幼苗の子葉を約5mm角に切り分け、深さ2cm、直径9cmの滅菌シャーレに30ml程度分注したST−1培地上に裏返しで切片を置床した。蓋をパラフィルム(ハイテック)で固定し、25℃16時間日長の培養室で24時間静置した。
ST−1培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、
1mg/l trans−Zeatin
0.8%Agar
pH5.8
【0155】
2.3.3 共存培養
pBI121−FucTRNAiを導入したLBA4404の培養液をOD600=0.1に水またはLB培地で調整し、前培養したトマト切片を浸積した。その後、約2mlフィーダーセルを前培養で用いたST−1培地上に塗布し、その上から滅菌濾紙を置き、裏返しで切片を置床した。アルミホイルで包み、25℃暗黒下で3日間共存培養を行った。
フィーダーセル:タバコ懸濁細胞BY−2をTS−1培地で懸濁培養(約100rpm)し、1週間毎に新しいTS−1培地40mlに懸濁細胞0.5mlを加えて継代したもの。
TS−1培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、0.01mg/lチアミンHCl、1mg/lミオイノシトール、1.7mg/l KH2PO4、
0.2mg/l 2,4−D、pH5.8
【0156】
2.3.4 選抜培養
200mg/lカルベニシリン、50mg/lカナマイシン添加ST−1培地上に共存培養後の切片を移植し、蓋をサージカルテープで固定し、25℃16時間日長の培養室で2週間静置した。
【0157】
2.3.5 継代培養
新しい200mg/lカルベニシリン、50mg/lカナマイシン添加ST−1培地上へ選抜培養した切片を移植し、25℃16時間日長の培養室で静置した。その後、培養中にカルスが形成され、シュートが伸長してきた切片をプラントボックスに50ml程度分注した100mg/lリラシリン、50mg/lカナマイシン添加MS培地上に移植した。
【0158】
また、プラントボックス内で2cm以上伸長したシュートを切り取り、100mg/lリラシリン、50mg/lカナマイシン添加MS培地上に移植し、発根の有無を確認した。
MS培地:
4.4g/l MURASHIGE AND SKOOG BASAL MADIUM (SIGMA Cat.No.M5519)、
30g/l Sucrose、0.8% Agar、pH5.8
【0159】
2.3.6 導入遺伝子の確認
カナマイシン添加培地中に発根したシュートが10cm程度まで伸長した場合、Edwardsら(1991)Nucleic Acids Research 19(6): 1349に従い全DNAを抽出し、PCRの鋳型とした。yama15とyama16を選抜マーカー検出用のプライマーとして供試し、ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−60℃30秒−72℃1分を35サイクルとした。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果、約800bpのバンドが確認された株については、順化を行った。
yama15:5'−GGGATCCATGATTGAACAAGATG−3'
yama16:5'−GGGATCCTCAGAAGAACTCGTC−3'
【0160】
2.3.7 順化
PCRにより遺伝子の導入が確認されたシュートについては、組換え植物用温室内でバーミキュライトとニッピ園芸培土を入れた10.5 cmビニールポットに鉢上げし、半透明のケース内で湿度を徐々に下げて順化を行った。また、順化後、旺盛に成長する株については18cmビニールポットに移植した。
【0161】
実施例2.4 RT−PCR法によるトマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の検出
組換え植物用温室内で栽培した形質転換体22株からサンプリングを行い、2.1.1の項と同様に全RNAを抽出し、Cloned AMV First−Strand cDNA Synthesis kit(Invitrogen life technologies)を供試してcDNAを作製した。
【0162】
各サンプルとも100ng全RNAを鋳型とし、キットに添付のRandom Hexamersおよびα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に相補的なyama17をそれぞれ50ng、1ng添加し、プロトコールに従い逆転写反応を行った。温度条件は50℃30分−55℃15分−60℃15分−65℃15分とし、この反応液1μlをPCRの鋳型とし、yama3とyama12を供試してα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の転写量を確認した。ポリメラーゼにはTaKaRa EX Taq(タカラバイオ)を0.2μl、20μMに調整したプライマーをそれぞれ1μlずつ、さらにポリメラーゼに添付されたバッファー、dNTPsを所定の濃度に調整し、最終的な反応液量を20μlとしてTaKaRa PCR Thermal Cycler GP(タカラバイオ)で反応を行った。反応条件はプリヒート96℃3分の後,96℃10秒−62℃30秒−72℃1分を40サイクルとした。その後、1%アガロースゲル電気泳動の結果(図14)、約560bpのバンドが確認されなかった株または薄かった株については、全タンパク質の糖鎖解析へ供試した。
yama17:5'−TGTTGTTCTCAGCATAGTATTG−3'
【0163】
実施例2.5 トランスジェニックトマトからの糖鎖の調製
野生型トマト及び、形質転換体トマトのうちNo.1,9,14の葉、約40gを液体窒素で凍結させた後、乳鉢上で破砕し、その試料を融解後、4℃,12,000rpm,15分遠心した。上清に十分量の氷冷したアセトンを加え、氷中で静置後4℃,12,000rpm,20分遠心することで糖タンパク質(約500mg)を沈殿させた。得られたペレットを凍結乾燥後、十分量の無水ヒドラジン(Nacalai tesque)を加え混合し、100℃で10時間インキュベートすることで糖鎖の切り出しを行った。
【0164】
反応後のヒドラジン分解産物を過剰の氷冷したアセトン中に加え、静置後4℃,12,000rpm,20分遠心し得られたペレットを乾燥した。ペレットに飽和炭酸水素ナトリウム(Wako)を2ml、及び80μlの無水酢酸(Wako)を添加混合し、室温でN−アセチル化を行った。次に、試料に1N HClで平衡化したイオン交換樹脂Dowex 50×2(室町化学工業)を試料のpHが2付近になるまで加え脱塩処理を行った。樹脂と溶液をガラスウール上で濾過分離し、エバポレータを用いて試料を濃縮した。濃縮した試料を0.1Nアンモニア水で平衡化したTSK gel Toyopearl HW−40(Tosoh)カラム(2.5×30cm)を用いてカラムクロマトグラフィーに供した。Model 2128 Fraction Collector(Bio−Rad)により4mlずつに分取した試料の各フラクションについてフェノール・硫酸法を利用して糖を含む画分を選抜した。糖を含む画分を回収し、エバポレータを用いて濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0165】
凍結乾燥後試料にPA化試薬(2−アミノピリジン(Wako)552mgに対し酢酸(Wako)200μlを混合し調製)を適量加え、90℃で1時間インキュベートした。室温で冷却後、等量の還元試薬(ジメチルアミノボラン(Wako)39mgに対して200μlの酢酸を混合し調製)を加えて80℃,40分インキュベートした。反応停止の際、等量のdH2Oを添加した。得られたPA化試料を0.1Nアンモニア水で平衡化したTSK gel Toyopearl HW−40(Tosoh)カラム(2.5×30cm)を用いてカラムクロマトグラフィーに供した。Model 2128 Fraction Collector(Bio−Rad)により4mlずつに分取した試料の各フラクションについて、蛍光分光光度計(F−2000 Fluorescence Spectrophotometer,Hitachi)を用いて励起320nm,蛍光400nmの波長で蛍光強度を測定した。蛍光強度測定後の結果よりPA化糖鎖を含むフラクションを回収し、エバポレータを用いて濃縮した。各PA化糖鎖はさらにCelluloseをカラムに充填したCellulose Cartridgeを用いて精製し1)、精製画分はさらに遠心乾燥に供し、濃縮、乾燥させた。
1)Shimizu Y,Nakata M,Kuroda Y,Tsutsumi F,Kojima N,and Mizuochi T(2001)Rapid and simple preparation of N−linked oligosaccharides by cellulose−column chromatography Carbohydrate Research 332,381−388
【0166】
実施例2.6 トランスジェニックトマトの糖タンパク質糖鎖の解析
2.6.1 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析
分析器はHITACHI FL Detector L−7480を持つHITACHI HPLCシステムを用いて分析を行った。逆相HPLC(RP−HPLC)解析の際、カラムはCosmosil 5C18−P(6×250mm;Nacalai tespue)カラムを用いた。逆相HPLCに用いたsolventおよび各時間におけるグラジエントを以下に示す。
solventA:0.02% Trifluoroacetic Acid
solventB:20% Acetenitorile/0.2% Trifluoroacetic Acid
Gradient:0→20→0% solventB(5→40→41min)
Flow rate:1.2ml/min
Detection:fluorescence(Ex;310nm,Em;380nm)
Column temp.:30℃
【0167】
順相HPLC(SF−HLC)解析の際、カラムはAsahipak NH2P−50(4.6×250mm;Showa denko)カラムを用いた。順相HPLCに用いたsolventおよび各時間におけるグラジエントを以下に示す。
solventA:80% Acetenitorile
solventB:20% Acetenitorile
Gradient:10→50→10% solventB(5→25→26min)
Flow rate:0.7ml/min
Detection:fluorescence(Ex;310nm,Em;380nm)
Column temp.:30℃
【0168】
各peakを回収しMALDI−TOF−MS解析により分子量を測定、各peakの推定糖鎖構造を解析した。
【0169】
2.6.2 MALDI−TOF−MSによる質量分析
MALDI−TOF MS分析はautoflex(BRUKER DALTONICS)を用いて行った。レーザー強度は1800〜2000mbarで使用した。また、データは3.0×e−7以下の真空下で得た。10mgの2,5−dihydroxybenzoic acid(Sigma)をdH2O:Acetonitrile=1:1の割合で混合した溶液に溶かしマトリックス試薬とし、dH2Oに溶解したPA化糖鎖と等量のマトリックス試薬を混合し、この内2μlをターゲットに置き室温で乾燥し結晶化させた後、Reflector mode分析を行った。
【0170】
2.6.3 グリコシダーゼ消化
N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumoniae,Roche Diagnostics K.K.)消化は、50μlの酵素溶液(10pmolのPA化糖鎖、3mUのN−アセチル−β−グルコサミニダーゼを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0))を37℃で3日間インキュベートすることで行った。またα−マンノシダーゼ(jack bean,Sigma)消化は、50μlの酵素溶液(10pmolのPA化糖鎖、10μUのα−マンノシダーゼ、10mMの酢酸亜鉛を含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0))を37℃で3日間インキュベートすることで行った。各酵素反応は5分間煮沸することで停止させ、4℃,12,000rpm,5分間遠心後、上清をSF−HPLCに供した。さらに消化が確認されたPA化糖鎖はRP−HPLCに供し、酵素反応産物の溶出位置を既知PA化糖鎖(Takara)と比較し、各構造を決定した。
【0171】
2.6.4 形質転換体No.1
形質転換体No.1の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.1の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図16)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,2−d,3−1,3−2,3−3,3−a,3−b,4−c,5−a,5−b,5−d,5−e,5−f,5−g,6−d,7−a,7−b,7−d)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、非還元末端が、N−アセチルグルコサミンのものは、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)により、マンノースのものはα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。2−b,2−c,8−aはM3X、5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−bはGnM3FX、7−c,8−bはGnM3X(A)、9−aはGn2M3X、10−bはGnM3X(B)を含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[4−a(M3FX),4−d(M9),6−c(M6B),8−a(M3X)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−e,4−b,7−e,8−b,10−a)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(図17)。
【0172】
2.6.5 形質転換体No.9
形質転換体No.9の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.9の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより10フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図18)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,1−d,1−e,2−d,2−f,3−1,3−2,3−c,3−d,4−b,4−c,4−d,4−e,5−a,5−b,5−e,5−f,5−g,6−b,6−f,7−a,7−d,8−c,9−b,9−c,10−a,10−c,10−d)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−dはGnM3FX、9−aはGn2M3X、10−bはGnM3Xを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[2−a(M3X),2−b(M3X),4−a(M3FX),6−e(M6B),8−d(M5A)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−e,2−f,3−a,3−b,5−d,6−c,7−b,7−c,7−e)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した。(図17)
【0173】
2.6.6 形質転換体No.14
形質転換体No.1の葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。形質転換体No.1の葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより7フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図19)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−d,2−c,3−b,4−1,4−d,4−e,5−a,5−b,5−e,5−f,5−g,6−e,6−f,7−a,7−e,7−f)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean 由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。3−aはGnM3FX、5−cはGn2M3FX、6−bはM2FX、6−cはGnM3FX、7−bはM3Xを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[3−c(M8A),4−a(M3FX),4−c(M7A),5−d(M7B),6−d(M6B),7−d(M5A)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(1−b,1−c,2−a,2−b,2−d,4−b,6−a,7−c)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した。(図17)
【0174】
2.6.7 野生型トマト
野生型トマトの葉の可溶性タンパク質の糖鎖構造を行った。野生型トマトの葉より分離し、PA化した糖鎖をODSカラムにより9フラクションに分画し(図15)、各フラクションについてアミドカラムにより分画した(図20)。分取した各フラクションをMALDI−TOF−MSによる質量分析を行い、それぞれのフラクションに含まれる糖鎖構造を推定した。なお、表中に記していないフラクション(1−a,1−b,1−c,2−a,3−a,3−c,4−c,4−d,5−b,5−d,5−e,5−f,5−g,6−c,6−d,6−e,7,8−a,8−c,8−d,9)にはMALDI−TOF−MSによるピークが存在しない、又は、考えられる糖鎖の分子量と一致していないために糖鎖が存在しないと判断した。質量分析結果から予想された糖鎖構造をもとに、ODSカラムを用いたHPLCによりスタンダード糖鎖とピークの位置を比較した。更に、上記同様に、N−アセチルグルコサミニダーゼ(Diplococcus pneumomoae由来)及びα−マンノシダーゼ(jack bean由来)で消化を行い、ODSカラム、アミドカラムによりピークの溶出位置をスタンダード糖鎖と比較し、ピークが一致したものを糖鎖として構造を同定した。5−cはGn2M3FX、6−aはM2FX、6−bはGnM3FXを含むと判断した。また、Man3FucXylGclNAc2型糖鎖(M3FX)、Man3XylGclNAc2型糖鎖(M3X)、高マンノース型と考えられる糖鎖については、ODSカラム、アミドカラムの溶出位置について、対応する標準糖鎖と比較した[4−a(M3FX),5−a(M3FX),8−b(M3X)]。分子量から推定した糖鎖構造を持つ糖鎖のピークと一致しなかったフラクションには、N−結合型糖鎖が含まれていないものと判断した(2−b,2−c,3−b,4−b)。フラクションごとのアミドカラムを用いたHPLCによるピーク面積を基にして、糖鎖の構造ごとの存在率を算出した(図17)。
【0175】
実験の結果、野生型トマトでは93.2%、転写抑制を示さなかった形質転換体No
.14では78.2%の糖鎖にフコースが付加していたのに対し、転写抑制を示した形質転換体No1.では23.4%、No.9では31.4%と、顕著にフコース付加の抑制を示すことが分かった(図21)。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】図1は、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのクローニング条件を示す図である。
【図2】図2は、ショウジョウバエ由来フコシルトランスフェラーゼAの活性モチーフ領域と高い相同性を示すカイコゲノム配列を示す図である。
【図3】図3は、カイコゲノムDNAを鋳型とした、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼ候補遺伝子のエキソン領域のPCR増幅を示す図である。
【図4A】図4Aは、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用プラスミドの作成方法を示す図である。
【図4B】図4Bは、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用プラスミドの作成方法を示す図である。
【図5】図5は、カイコα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用ベクターを示す図である。
【図6】図6は、コントロールカイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖の逆相カラムを用いた精製を示す図である。
【図7】図7は、コントロールカイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖のアミドカラムを用いた精製を示す図である。
【図8】図8は、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ抑制カイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖の逆相カラムを用いた精製を示す図である。
【図9】図9は、フコシルトランスフェラーゼ抑制カイコで発現させたHAタンパク質由来PA化糖鎖のアミドカラムを用いた精製を示す図である。
【図10】図10は、カイコフコシルトランスフェラーゼ遺伝子を増幅させるためのプライマーを示す図である。
【図11】図11は、カイコにおける各dsRNAによるRNAi効果の比較を示す図である。
【図12】図12は、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼ全長遺伝子配列を示す図である。
【図13】図13は、トマトα1,3−フコシルトランスフェラーゼのRNAi用ベクターを示す図である。
【図14】図14は、RT−PCRによる形質転換トマトからのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の検出を示す図である。
【図15】図15は、形質転換体及び野生型のPA化糖鎖の逆相HPLCによる分析を示す図である。
【図16】図16は、形質転換体No.1由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図17】図17は、糖鎖構造解析の結果を示す図である。
【図18】図18は、形質転換体No.9由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図19】図19は、形質転換体No.14由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図20】図20は、野生型トマト由来のPA化糖鎖の順相HPLCによる分析を示す図である。
【図21】図21は、糖鎖構造解析の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1記載のDNAにおいて、
前記DNAは、カイコのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
【請求項3】
請求項1記載のDNAであって、
以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項4記載のDNAにおいて、
前記DNAは、トマトのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
【請求項6】
請求項4記載のDNAであって、
以下(e)〜(h)のいずれかに記載のDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(i)〜(iii)のいずれかに記載のDNA;
(i)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
【請求項8】
ナス目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(iv)〜(vi)のいずれかに記載のDNA;
(iv)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
【請求項9】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項9記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞。
【請求項11】
請求項10記載の形質転換細胞から得られる形質転換体。
【請求項12】
請求項11記載の形質転換体の子孫またはクローンである、形質転換体。
【請求項13】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の繁殖材料。
【請求項14】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、
請求項7記載のDNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程と、
当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、形質転換動物を選択する工程と
を有する方法。
【請求項15】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、
請求項8記載のDNAをナス目由来の細胞に導入する工程と、
当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程と
を有する方法。
【請求項16】
α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、
請求項7または8のいずれか記載のDNAを細胞内に導入する工程と、
当該細胞内で前記DNAを発現させる工程と
を有する方法。
【請求項17】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られる組換えタンパク質。
【請求項18】
請求項17記載のタンパク質を製造する方法であって、
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体を培養する工程と、
当該形質転換細胞または形質転換体若しくはそれらの培養上清から組換えタンパク質を回収する工程と
を有する方法。
【請求項19】
請求項7記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られる組換えタンパク質。
【請求項20】
請求項19記載のタンパク質を製造する方法であって、
請求項7記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程と、
当該形質転換細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程と
を有する方法。
【請求項21】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質。
【請求項22】
請求項17、19、または21のいずれか記載のタンパク質と、薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物。
【請求項1】
鱗翅目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1記載のDNAにおいて、
前記DNAは、カイコのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
【請求項3】
請求項1記載のDNAであって、
以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
ナス目のα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項4記載のDNAにおいて、
前記DNAは、トマトのα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。
【請求項6】
請求項4記載のDNAであって、
以下(e)〜(h)のいずれかに記載のDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号:4に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(h)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
鱗翅目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(i)〜(iii)のいずれかに記載のDNA;
(i)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(ii)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(iii)請求項1〜3のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
【請求項8】
ナス目においてα1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する、以下(iv)〜(vi)のいずれかに記載のDNA;
(iv)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、
(v)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、
(vi)請求項4〜6のいずれか記載のDNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNA。
【請求項9】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項9記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞。
【請求項11】
請求項10記載の形質転換細胞から得られる形質転換体。
【請求項12】
請求項11記載の形質転換体の子孫またはクローンである、形質転換体。
【請求項13】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の繁殖材料。
【請求項14】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、
請求項7記載のDNAを鱗翅目由来の卵に導入する工程と、
当該DNAが導入された卵から生じた動物体の中から、形質転換動物を選択する工程と
を有する方法。
【請求項15】
請求項11または12のいずれか記載の形質転換体の製造方法であって、
請求項8記載のDNAをナス目由来の細胞に導入する工程と、
当該細胞を有する植物体から、形質転換植物を選択する工程と
を有する方法。
【請求項16】
α1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性を抑制する方法であって、
請求項7または8のいずれか記載のDNAを細胞内に導入する工程と、
当該細胞内で前記DNAを発現させる工程と
を有する方法。
【請求項17】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入し発現させて得られる組換えタンパク質。
【請求項18】
請求項17記載のタンパク質を製造する方法であって、
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体を培養する工程と、
当該形質転換細胞または形質転換体若しくはそれらの培養上清から組換えタンパク質を回収する工程と
を有する方法。
【請求項19】
請求項7記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させて得られる組換えタンパク質。
【請求項20】
請求項19記載のタンパク質を製造する方法であって、
請求項7記載のDNAを含む形質転換細胞または形質転換体に、目的のタンパク質をコードするDNAを組み込んだバキュロウイルスを感染させる工程と、
当該形質転換細胞または形質転換体において発現した組換えタンパク質を回収する工程と
を有する方法。
【請求項21】
請求項7または8のいずれか記載のDNAを含む形質転換体と、目的のタンパク質をコードするDNAを含む形質転換体とを交配させて得られる動物体若しくは植物体から得られる組換えタンパク質。
【請求項22】
請求項17、19、または21のいずれか記載のタンパク質と、薬学的に許容可能な担体とからなる薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−29102(P2010−29102A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194338(P2008−194338)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(591048520)片倉工業株式会社 (3)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(591048520)片倉工業株式会社 (3)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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