説明

β−カロテン高含有ドナリエラ粉末の製造方法

【課題】
培養されたドナリエラ(Dunaliella)属藻類の総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量が夏場に高い数値を示しているとしても、その乾燥粉末品を製造する工程において、それらのフェオホルバイド量を所定の数値以下にしながらも有効成分であるβ−カロテンの分解を抑制することにより、β−カロテンを高い濃度で含有するドナリエラ(Dunaliella)乾燥粉末品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ドナリエラ(Dunaliella)属藻類の粉末品を製造する工程において、ドナリエラ属藻類がpH9.5以上の塩基性の状態にされるpH調整工程を有することにより解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−カロテンを高い濃度で含有するドナリエラ藻類の粉末状固形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、β−カロテンは、ニンジンなどの緑黄色野菜等に含有されているカロテノイドの代表的な油溶性有機化合物であり、体内で酵素によりレチナールに分解された後、酸化されビタミンA(レチノール)となることが知られており、人体にとって有用な化合物である。また、レチノールがさらに酸化されて得られるレチノイン酸は、抗がん作用もあるとの発表もなされており、β−カロテンの注目度はさらに高まっている。
【0003】
β−カロテンの製造方法として、β−ヨノンから化学合成により製造される方法や、ドナリエラ藻類、スピルリナ藻類、クロレラ藻類などの藻類を培養することにより製造する方法が知られる。昨今の需要者の自然志向から、化学合成由来のβ−カロテンは敬遠されることもあり、藻類の培養になどにより得られる天然物由来のβ−カロテンが望まれることが多くなっている。
【0004】
天然物由来のβ−カロテンの含有量が多い微細藻類として、ドナリエラ(Dunaliella)が知られている。このドナリエラ属藻類は、緑色植物門、緑藻網、オオヒゲマワリ目、ドナリエラ属に属する耐塩性の単細胞緑藻で、イスラエルの死海や米国ユタ州のグレートソルトレイクに生息していることが知られている。
【0005】
そして、需要者がそれらβ−カロテンを摂取し易いように、又は保存し易いように、ドナリエラ藻類を乾燥粉末としたもの、それら乾燥粉末を押し固めてタブレット錠としたもの、又はそれら乾燥粉末をカプセルに格納したものなどが知られており、何れの形態においてもまずドナリエラ藻類の培養液から乾燥して粉末化する必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、ドナリエラ属藻類の乾燥粉末品は、培養したドナリエラ藻体の培養液を、予め乾燥し易いように遠心分離機などで水分を、好ましくは50%程度に逓減させてから、噴霧乾燥、真空乾燥または凍結乾燥することにより得られることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、クロレラ属藻類の乾燥粉末品は、大量培養されたクロレラの懸濁液が遠心分離により脱水され、酵素や多糖類を含むpH5.5の溶液に入れて処理された後に加熱・冷却処理を経て凍結乾燥され得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−203号公報
【特許文献2】特開2001−161348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ドナリエラ属藻類の乾燥粉末品は食品として販売されているが、収穫したドナリエラ属藻類はその乾燥粉末品を製造する過程において所定の安全基準を満たすため人体に危害を及ぼし得る化合物の低減等の工程を経る必要がある。
【0010】
その中でも、ドナリエラ属藻類などの一部藻類では、フェオホルバイドが含有されている。フェオホルバイドは、皮膚障害を呈する衛生上の危害を発生するものである。具体的には、上記の厚生省環境衛生局長通知の別添に記載されているように、これまで春のアワビの内臓、クロレラ加工品の喫食による光過敏症の発生が知られている。これは、フェオホルバイド等が血液を介して生体内各組織細胞に運ばれこの物質の存在かで光により活性化された酸素が細胞膜を構成している脂肪酸(アラキド酸)等を酸化して過酸化脂質をつくり、この過酸化脂質が生体膜の組織細胞の破壊その他の各種の障害を誘発し、又は毛細管の透過性を高めて皮膚の掻痒感を起こさせるためと考えられている。
【0011】
そして、当該分野における健康食品に係る指導として、「フェオホルバイド等クロロフィル分解物を含有するクロレラによる衛生上の危害防止について」(昭和56年5月8日付け環食第99号 厚生省環境衛生局長通知)が知られており、その中で既存フェオホルバイド量が100mg%を超え、又は、総フェオホルバイド量(既存フェオホルバイド量とクロロフィラーゼ活性度の和をいう。)が160mg%を超えるものではあってはならない旨が記載されている。
【0012】
しかしながら、この総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量を低減させる手段として上記の厚生省環境衛生局長通知には加熱処理が記載されているものの、そのような加熱処理を行うと、含有されるβ−カロテンは酸化されやすいため分解し、乾燥粉末製品中に含有されるβ−カロテンが減少するという品質管理上の課題があった。
【0013】
特に、商業用に大量にドナリエラ属藻類を培養するために屋外で用いられる培養設備では、夏場の温度上昇により培養液の液温も上昇するため、夏場の総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量が冬場のそれらよりも高い数値になる傾向がある。そして、冬場より夏場の方が充分な加熱処理が必要とされるため、乾燥粉末製品中に含有されるβ−カロテンがより減少するという品質管理上の重大な課題があった。
【0014】
上述した特許文献1では、確かにドナリエラ属藻類の乾燥粉末品については言及されてはいるものの、上述したフェオホルバイドに関する品質管理上の問題点には何ら言及されていない。
【0015】
また、特許文献2では、クロレラ属藻類について、乾燥粉末品の製造方法について具体的に言及されているが、やはり上述したフェオホルバイドに関する品質管理上の問題点には何ら言及されていない
【0016】
そこで、本発明では、培養されたドナリエラ(Dunaliella)属藻類の総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量が夏場に高い数値を示しているとしても、その乾燥粉末品を製造する工程において、それらのフェオホルバイド量を所定の数値以下にしながらも有効成分であるβ−カロテンの分解を抑制することにより、β−カロテンを高い濃度で含有するドナリエラ(Dunaliella)乾燥粉末品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、ドナリエラ(Dunaliella)属藻類の粉末品を製造する工程において、ドナリエラ属藻類がpH9.5以上の塩基性の状態にされるpH調整工程を有するドナリエラ粉末の製造方法である。
【0018】
そして、ドナリエラ(Dunaliella)属藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)であっても良い。
【0019】
そして、上述した製造方法により製造されたドナリエラ粉末であって、総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、ドナリエラ粉末100g中にβ−カロテンが3〜20g含有されることを特徴とするドナリエラ粉末あっても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るドナリエラ属藻類の粉末品を製造する工程において、ドナリエラ属藻類がpH9.5以上の塩基性の状態にされるpH調整工程を有するドナリエラ粉末の製造方法によれば、総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量を所定の数値以下にしながらも有効成分であるβ−カロテンの分解を抑制することにより、β−カロテンを高い濃度で含有するドナリエラ乾燥粉末を提供することができる。
【0021】
そして、ドナリエラ属藻類がドナリエラ・バーダウィルであれば、β−カロテンをさらに高い濃度で含有するドナリエラ乾燥粉末を得ることができる。
【0022】
そして、上述した製造方法により得られた、ドナリエラ粉末であって総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、ドナリエラ粉末100g中にβ−カロテンが3〜20g含有されれば、健康食品又は健康補助食品として、さらには有用な医薬品の原材料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る製造方法を実施するために使用される原料としては、微細藻類であって、緑藻類の1種であるドナリエラ(Dunaliella)属の藻類が用いられることが好ましい。ドナリエラ属藻類は、β−カロテンを多量に産生し、藻体内に蓄積していることが知られており、殊にドナリエラ・バーウイル(Dunaliella bardawil)、及びドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)の藻体中には、β−カロテンが多く含有されているので、これらを使用することがさらに好ましい。
【0024】
ドナリエラ属藻類は、培養タンク又は培養プールなど培養装置において屋外又は屋内で所定の期間培養された後に、ポンプなどの汲み上げ手段によってそれら培養施設から汲み上げられる。そして、汲み上げられた培養液は、培養装置内に混入した異物を除去するために所定のメッシュの網を通過させられる。
【0025】
異物が除去された培養液は、遠心分離機により脱水され、所定の濃度にまで培養液中の固形分が濃縮される。遠心分離された後、培養液中の固形分の濃度は、濃縮されながらも流動性を保つという観点から10〜30重量%となることが好ましい。なお、遠心分離機は、培養液をバッチで又は連続して遠心分離できる装置が好ましく、作業性及び生産性の観点から連続して遠心分離できる装置がさらに好ましい。また、遠心分離機は、一般に入手可能な装置が使用され、そして遠心分離機内の回転子の回転数は、前述した培養液中の固形分の濃度になるように使用される遠心分離機ごとに設定されるものであり、特に限定されるものではない。
【0026】
そして、本発明において、所定の濃度に濃縮された培養液が塩基性の状態で処理されるpH調整工程が行われる。該pH調整工程において、所定の濃度に濃縮された培養液に塩基性化合物又はその水溶液などが添加され、25℃で水素イオン指数であるpHが9.5以上の高塩基性の状態で攪拌機などの攪拌装置で攪拌混合されることが好ましく、pHが10.0以上の高塩基性の状態で攪拌混合されることがさらに好ましく、pHが11.0以上の高塩基性の状態で攪拌混合されることが最も好ましい。pHが9.5未満であると、年間を通じて安定的にドナリエラ粉末における総フェオホルバイド量を160mg%以下に、既存フェオホルバイド量を100mg%以下に管理することが困難であり好ましくない。
【0027】
なお、一般的にドナリエラ粉末の製造工程において、中性乃至弱塩基性の状態で種々の工程を経ることが通常であり、仮に本発明のようにpH調整処理工程を加えると、工程が一つ増えることに留まらず、後述するように中和処理工程も必要に応じて行われることから生産性等への影響が懸念されるため、従来所定の濃度に濃縮された培養液を上記の強塩基性の状態とする発想はなかった。
【0028】
該pH調整工程において使用される塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化タリウム、グアニジンなどが好ましく、汎用に使用される水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムがさらに好ましい。また、これらのうち2種以上が併用されても良い。さらに、これらの任意の濃度の水溶液を使用することもできる。
【0029】
そして、必要であるならばpH調整処理が行われた後に、液性を25℃でpH7付近の中性領域にするために、中和処理工程が行われる。得られるドナリエラ粉末を健康食品として販売するために、又は加工食品として販売するためになど、pHが高すぎるためにそのpHのままではドナリエラ粉末を流通することが難しい場合には必要な工程となる。なお、ドナリエラ粉末を用いて加工食品を製造する際に別途中和の工程を経るのであれば、必ずしも本発明において該中和処理工程を行う必要はない。
【0030】
該中和処理工程において使用される化合物としては、無機酸又は有機酸が使用される。無機酸として、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などが使用され、有機酸として、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸などが使用され、またはこれらのうち2種以上が併用されても良い。さらに、これらの任意の濃度の水溶液を使用することもできる。
【0031】
そして、ドナリエラ培養液に含まれる溶解塩又は析出塩、並びに中和処理工程によって生成した塩を除去するために、脱塩処理工程を行うことができる。脱塩処理工程については公知の方法を使用することができる。例えば、特開平07−000147に記載されているキトサン溶液を用いて脱塩処理することもできる。
【0032】
そして、本発明において、脱塩処理が行われた所定の濃度に濃縮された培養液中に含まれる人体にとって有害なフェオホルバイドをさらに低減するため又は一般細菌を死滅させるために、所定の温度及び時間で実施される加熱処理工程が行われても良い。上述したpH調整処理と組み合わせることにより、さらに効果的に種々フェオホルバイド量を低減することができる。該加熱処理工程において、70〜140℃の温度範囲で行われることが好ましく、80〜130℃の温度範囲で行われることがさらに好ましい。70℃未満の加熱処理で各種フェオホルバイド量の低減又は滅菌するためには時間を要するため、酸化分解によりドナリエラ粉末中におけるβ―カロテンの含有量が低下することとなり好ましくない。また、140℃より高い温度で加熱処理を行うと、ごく短時間で種々フェオホルバイド量の低減又は滅菌はできるものの、やはり酸化分解によりドナリエラ粉末中におけるβ―カロテンの含有量が低下することとなり好ましくない。また、加熱処理工程に要する時間は2〜80分の範囲が好ましく、5〜60分以下がさらに好ましい。2分未満の加熱処理では健康食品等として販売するための十分な種々フェオホルバイド量の低減又は滅菌を行うことができず好ましくなく、80分よりも長い加熱処理では、β―カロテンの酸化による分解のためβ―カロテンを高い含有量で得られることができず好ましくない。なお、加熱処理工程は、必ずしも脱塩処理工程の後に行わなければならないわけではなく、pH調整処理工程の前に行うなど任意の順序で行うことができる。
【0033】
そして、中和処理工程、場合によっては加熱処理工程を経た後のペーストを、スプレードライ法による乾燥、又は減圧下で凍結による乾燥など公知の方法により、これらペーストから水分を除去し、乾燥粉末品とする。
【0034】
上記の一連の方法で得られたドナリエラ粉末は、総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、ドナリエラ粉末100g中にβ−カロテンが3〜20g含有される。また、ドナリエラ粉末100g中に含有されるβ−カロテンの量は、原料として使用するドナリエラ属藻類により異なることがあるが、5〜15gであることがさらに好ましく、6〜10gであることが最も好ましい。ドナリエラ粉末100g中に含有されるβ−カロテンの量が、3g未満であると商品価値が低くなり好ましくない。また、20gより多い含有量とするためには、原材料であるドナリエラ属藻類にそれ以上のβ−カロテンが含有されている必要があるが、そのような品種は出願時に知られておらず現実的でなく好ましくない。
【実施例】
【0035】
次に、本発明に係る実施例、比較例及び参考例について、さらに具体的に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
培養プールで培養したドナリエラ・バーダウィルは、電動ポンプによって汲み上げ、1mmの目開きがあるステンレス金網を通され、異物が取り除かれる。そして、異物が除去されドナリエラ・バーダウィルを含む培養液は、4200rpmで回転子が回転する遠心分離機により連続的に分離され、固形分が15重量%であるペースト状態に濃縮された。
【0037】
その後、その濃縮されたペーストに25℃でpH9.5となるように10重量%の水酸化ナトリウム水溶液が添加された。そして、その塩基性の培養液は、25〜30℃で1時間攪拌機により攪拌されるpH調整処理が行われた。
【0038】
そして、pH調整処理が行われた培養液に、25℃でpH6.5〜7.0となるように10重量%の塩酸水溶液が添加された。そして、その塩基性の培養液は、25〜30℃で20分攪拌機により攪拌される中和処理が行われた。
【0039】
そして、中和処理された培養液100重量部に対し、0.5重量%のキトサン水溶液が徐々に添加されながら、その培養液は25〜30℃で攪拌され、そして、添加した後に攪拌速度を3分の1ほどに低下して攪拌された後に攪拌が停止される。そして、ドナリエラが沈澱してから、上層液を除去して沈澱物を取り出して脱塩処理が行われた。
【0040】
そして、その水を含むペースト状態の沈殿物は、スプレードライヤー法というスプレーを用いて霧状の微粒子にされ加熱されることにより乾燥される方法により、挿入口温度190℃、排出口温度90℃の条件で乾燥され粉末とされた。
【0041】
(実施例2〜4)
実施例2〜4の実施例では、pH調整処理工程のpHを表1に記載の条件に変更する以外は実施例1と同様に、培養したドナリエラ・バーダウィルからその粉末が得られた。
【0042】
(比較例1〜6)
比較例1〜6の比較例では、pH調整処理工程のpHを表1に記載の条件に変更する以外は実施例1と同様に、培養したドナリエラ・バーダウィルからその粉末が得られた。
【0043】
(参考例)
参考例では、培養したドナリエラ・バーダウィルは、pH調整処理工程及び中和処理工程を行われずに前述した脱塩処理工程が行われ、そして加熱処理工程が行われずに凍結乾燥され粉末とされた。この方法により得られた粉末は、健康食品等として販売するには種々フェオホルバイド量等の観点から必ずしも好ましくはないが、この方法は、培養したドナリエラ・バーダウィル中のβ―カロテンの含有量を最も損なうことがない方法として挙げている。
【0044】
<ドナリエラ粉末中の総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量の測定>
上記の厚生省環境衛生局長通知の別紙に記載されている試験方法に準じてドナリエラ粉末中の総フェオホルバイド量及び既存フェオホルバイド量を測定した。
【0045】
具体的には、既存フェオホルバイド量について、以下の方法により分析した。ドナリエラ粉末100mgに85体積%アセトン水20mlを加え、すりつぶし後に上澄みを遠心管に移し、さらに残渣にアセトン10ml、10mlずつで同様に操作し、それぞれの上澄みを遠心管に移す。ついで、遠心分離し、その上澄みにエチルエーテル30mlを入れた分液ロートに移す。そして、このエーテル・アセトン混合液に5%硫酸ナトリウム50mlを加え、緩やかに振とうし、硫酸ナトリウム層を除去する。さらにこの洗浄操作を3回繰り返した後に、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、エーテル層を取り出し、エチルエーテルで全量を50mlとし、色素原液とする。この色素原液を20ml取り、17%塩酸20ml、10mlずつで順次振とう抽出後、塩酸層を飽和硫酸ナトリウム溶液150ml及びエチルエーテル20mlを入れた文型ロート中に移す。これを振とう抽出し、エーテル層を分取し、これにエチルエーテルを加え全量20mlとしたものを分解物抽出液とする。この分解物抽出液をエチルエーテルで必要な濃度にまで正確に希釈して紫外可視分光光度計で667nmの吸光度を測定する。標準品のフェオホルバイドaの吸光度からクロロフィル分解物量を算出し、既存フェオホルバイド量(mg%)とする。
【0046】
総フェオホルバイド量は、既存フェオホルバイド量とクロロフィラーゼ活性度の和として算出される。クロロフィラーゼ活性度について以下の方法により分析した。ドナリエラ粉末100mgを精秤し、これにpH8.0のリン酸緩衝液、70体積%アセトン水10mlを加え、37℃で3時間インキュベートする。その後、10重量%塩酸で弱酸性として、上述の既存フェオホルバイド量の定量法に準じてフェオホルバイド量を測定し、その測定値から既存フェオホルバイド量を差し引いた増加量を算出し、その増加量をクロロフィラーゼ活性度とした。
【0047】
<ドナリエラ粉末中のβ―カロテンの含有量の測定>
実施例、比較例及び参考例で得られたドナリエラ粉末中のβ―カロテンの含有量を、ドナリエラ粉末の一般的な抽出作業を行った後に高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)により分析した。
【0048】
具体的には、以下の方法により分析した。ドナリエラ粉末50mgにジクロロメタン、アセトンを各5ml加え、抽出後に遠心分離を行い、その上層を取り出した。残渣にヘキサン10mlを加え、振とう抽出した。この上層を先ほどの上層と混合し、この操作を色がなくなるまで繰り返した。そして、エバポレーターにて濃縮した後、ヘキサンを加え、全量を100mlとした。これをHPLCによるピーク面積比から、試薬のβ−カロテンから事前に得られた検量線をもとに定量した。そして、得られたβ−カロテンの量からドナリエラ粉末100gあたりの含有量に換算した。なお、本発明のβ−カロテンは、全ての二重結合がtrans型の異性体であるall−trans−β−カロテンだけでなく、9位のみがcis型の異性体である9−cis−β−カロテンを含むものである。
【0049】
HPLCの条件は下記のとおりである。
検出器:紫外-可視分光光度検出器(SPD−6AV, Shimadzu corp.)
カラム:YMC−Pack AM−301 120A (4.6mmi.d.kakeru100mm)
移動層:ヘキサン:ベンゼン:メタノール(15:25.5:59.5)
流速:1.0ml/min
波長:UV−453nm
【0050】
ドナリエラ粉末中のβ―カロテンの含有量及びβ―カロテンの含有量を、実施例、比較例及び参考例のpH調整処理工程の条件と併せて表1に記載した。なお、表1において、総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、ドナリエラ粉末100中におけるβ―カロテンの含有量が7重量%以上の製造方法を良好と評価とした。
【0051】
【表1】

【0052】
これらの結果から、培養したドナリエラ(Dunaliella)属藻類から総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、健康食品又は健康補助食品として、さらに有用な医薬品の原材料として用いることができるβ−カロテン高含有の粉末品を製造するために、pH調整処理工程を導入し、そのpHを20℃でのpHが9.5以上にすることが好ましいことが分かった。
【0053】
(実施例5〜8)
実施例5〜8の実施例では、pH調整処理工程のpHを表2に記載の条件で行い、中和処理、脱塩処理を行った後に、オートクレーブ内において105℃で5分間の加熱処理を行い、そして、スプレードライ法による乾燥を行い粉末が得られた。
【0054】
この得られた粉末について、総フェオホルバイド、既存フェオホルバイド、ドナリエラ粉末中におけるβ−カロテンの含有量を分析するとともに、さらに、上述した液体クロマトグラフィーの分析結果から、β−カロテン中における9−cis−β−カロテンの含有量を算出した。それらの結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
一般に、天然に存在するβ−カロテンは、主として全ての二重結合がtrans型であるオールtrans−β−カロテンの幾何構造を有する。しかし、その中でも、9位の位置にcis型の幾何構造を有する9−cis−β―カロテンは、cis型の炭素−炭素二重結合がtrans型のそれよりも酸化されやすいことに起因して、オールtrans−β−カロテンよりも早く酸化分解され、ビタミンA(レチノール)が得られるので有用な化合物である。
【0057】
ドナリエラの乾燥粉末製品において、9−cis−β−カロテンの含有量を向上させる製造方法については知られていなかったが、表2の結果より、総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、しかも、9−cis−β−カロテンの分解を抑制することにより、β−カロテンに対して9−cis−β−カロテンを40重量%以上という高い濃度で含有するドナリエラの乾燥粉末品を提供することができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナリエラ(Dunaliella)属藻類の粉末品を製造する工程において、ドナリエラ属藻類がpH9.5以上の塩基性の状態にされるpH調整工程を有することを特徴とするドナリエラ粉末の製造方法。
【請求項2】
ドナリエラ(Dunaliella)属藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)であることを特徴とする請求項1に記載のドナリエラ粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法により製造されたドナリエラ粉末であって、総フェオホルバイド量が160mg%以下、既存フェオホルバイド量が100mg%以下であり、ドナリエラ粉末100g中にβ−カロテンが3〜20g含有されることを特徴とするドナリエラ粉末。


【公開番号】特開2012−249631(P2012−249631A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96379(P2012−96379)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【Fターム(参考)】