説明

あと施工アンカーの施工方法

【課題】施工現場に水や水槽を準備することなく、セメント充填体に清浄な水を吸水させてアンカーを固定できるあと施工アンカーの施工方法の提供を目的とする。
【解決手段】水硬化性セメント組成物を透水性容器に充填してセメント充填体10とし、セメント充填体収容部3と水収容部4とを一体的に形成した収容容器1内へ、セメント充填体10と水12とを予め別々に収容し密封しておき、収容容器1内で、セメント充填体10を水12に浸漬させて吸水させ、吸水したセメント充填体10を収容容器1から取り出して、アンカー41を固着すべき被施工体に穿孔した固定孔40へ挿入してから、セメント充填体10にアンカー41を突刺し、水硬化性セメント組成物を硬化させて、アンカー41を固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬化性セメント組成物を透水性容器に充填したセメント充填体を用いて、穿孔した固定孔にアンカーを固着させるあと施工アンカーの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に固定するアンカー(アンカーボルト)の施工方法には、コンクリート打設前にアンカーを固定位置に予め配置してコンクリートの打設と共に固定する先付けアンカー工法と、コンクリートを打設して硬化後に固定孔を穿孔し、アンカーを孔内に固着するあと施工アンカー工法に大別される。
【0003】
あと施工アンカー工法には、細長いカプセルに固着剤を収容し、穿孔した固定孔にこのカプセルを挿入した後に、アンカーを打ち込んで固着させる方法がある。カプセルに収容される固着剤には、ポリエステル系、エポキシアクリレート系などの有機系の固着剤やセメントを用いた無機系の固着剤がある。
【0004】
有機系の固着剤の場合には、カプセル内に主剤と硬化剤とを分離させて封入しておき、アンカーの打ち込みで主剤と硬化剤とが混合されて固着する。
【0005】
セメントを用いた無機系の固着剤の場合には、不織布などで袋状に形成された透水性容器(カプセル)にセメントモルタル等のセメント組成物を収容してセメント充填体とする。このセメント充填体をアンカーの施工前に、水を入れた水槽内に浸漬させて吸水させ、この吸水したセメント充填体を固定用の孔に挿入する。吸水したセメント組成物が硬化することでアンカーが固着される。このようなセメント充填体やあと施工アンカーの施工方法が、例えば特許文献1や特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−174599号公報
【特許文献2】特開昭59−220600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のような、あと施工アンカーの施工方法では、セメント充填体に吸水させるための水や水槽を施工現場に準備する必要があり煩雑であった。特に水は清浄なものが必要であるので水道水や純水を準備する必要があるが、水道が近くに無い場合や交通不便な場合には、水道水や純水以外の例えば汚水や海水などの質の悪い水が代用される可能性があった。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、施工現場に水や水槽を準備することなく、セメント充填体に清浄な水を吸水させてアンカーを固定できるあと施工アンカーの施工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたあと施工アンカーの施工方法は、水硬化性セメント組成物を透水性容器に充填してセメント充填体とし、該セメント充填体の収容部と水の収容部とを一体的に形成した収容容器内へ、該セメント充填体と水とを予め別々に収容し密封しておき、該収容容器内で、該セメント充填体を該水に浸漬させて吸水させ、吸水した該セメント充填体を該収容容器から取り出して、アンカーを固着すべき被施工体に穿孔した固定孔へ挿入してから、該セメント充填体に前記アンカーを突刺し、水硬化性セメント組成物を硬化させて、該アンカーを固着させることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記両収容部を区分する仕切部に栓部材を付して前記収容容器を形成しておき、該栓部材を開栓して該仕切部に水路を形成し、該水路を流れて前記水の収容部から前記セメント充填体の収容部に前記水が移動して、前記セメント充填体を該水に浸漬させて吸水させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項2に記載されたもので、袋状の前記収容容器の内面同士で前記栓部材を挟み込んで帯状にヒートシールして前記仕切部を形成しておき、該収容容器の外側から該栓部材に力を加えて該栓部材を開栓することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項3に記載されたもので、管路の一端に脆弱部を介して封緘部を設けて前記栓部材を形成しておき、前記収容容器の外側から該封緘部に力を加えて該脆弱部から折ることで該栓部材を開栓し、該管路を前記水路にすることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項3に記載されたもので、平坦面を一側面とする保持部材に、該一側面の縁端にその対面側に向かって屈曲させて突設させた突設板を付して前記栓部材を形成しておき、前記収容容器の外側から該突設板に力を加えて該一側面と略平行に伸長させることで該栓部材を開栓し、該突説板および保持部材にヒートシールされた前記収容容器の内面が剥がれて前記仕切部に前記水路が形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項2から5のいずれかに記載されたもので、透明性を有して収容物を視認可能な材質で前記収容容器を形成しておき、前記栓部材を該収容容器の外側から開栓することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項2から6のいずれかに記載されたもので、前記セメント充填体を吸水させた後に、前記水路を通して前記セメント充填体の収容部から前記水の収容部に前記水を排出し、この排出後に該セメント充填体を該セメント充填体の収容部から取り出すことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項7に記載されたもので、前記セメント充填体を前記セメント充填体の収容部から取り出した後に、前記水の収容部に前記水を入れたまま、前記収容容器を水廃棄場所まで運搬することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項8に記載されたもので、
前記収容容器を折り曲げ可能な柔軟な材質で形成しておき、前記セメント充填体を前記セメント充填体の収容部から取り出した後に、該セメント充填体の収容部を折り曲げてから、前記運搬することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記両収容部を各々槽状に形成し、併置された該両収容部の上部の両開口部に樹脂製フィルムを架け渡し被覆し密封して前記収容容器を形成しておき、該樹脂製フィルムを剥がし、前記セメント充填体の収容部から前記セメント充填体を取り出し、前記水の収容部に入れて該セメント充填体を前記水で浸漬させて吸水させることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、槽状の前記水の収容部の上部の開口部を樹脂製フィルムで被覆し密封し、該樹脂製フィルム上に前記セメント充填体を載せてその上から外壁部で覆って該外壁部を該樹脂製フィルムに固着して前記セメント充填体の収容部を形成しておき、該樹脂製フィルムを剥がすと共に、前記外壁部を剥がして該セメント充填体を取り出し、該水の収容部に入れて該セメント充填体を前記水で浸漬させて吸水させることを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記水は殺菌処理されていることを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記セメント充填体を収容した前記セメント充填体の収容部を脱気して減圧状態に密封しておき、脱気状態の該セメント充填体に前記水を浸漬させて吸水させることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記セメント充填体と共に吸水により発熱する発熱体を前記セメント充填体の収容部に密封しておき、該発熱体を前記水に浸漬させて水温を上昇させることを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記水の収容部に前記水を注入可能な水注入部を付しておき、前記収容容器の使用前に該水注入部から該水収容部に前記水を注入することを特徴とする。
【0024】
請求項16に記載のあと施工アンカーの施工方法は、請求項1に記載されたもので、前記収容容器を使用前に予め所定温度範囲内に暖めてから使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体の収容部と水の収容部とを一体的に形成した収容容器内へ、セメント充填体と水と別々に収容し密封しておき、収容容器内で、セメント充填体を水に浸漬させて吸水させ、吸水したセメント充填体を収容容器から取り出して、被施工体の固定孔へ挿入してから、セメント充填体にアンカーを突刺し、水硬化性セメント組成物を硬化させて、アンカーを固着させることにより、水や水槽を施工現場に準備する必要が無く、しかもセメント充填体に簡易に吸水させることができるため、施工作業を迅速かつ簡易に行うことができる。また、水を別に準備する必要が無いため、質の悪い不適切な水が代用されることを確実に防止することができる。このため、交通不便な場所、水槽を持っていくことのできない柱の中間部など、どのような場所でもあと施工アンカーを施工することができる。固定孔の近くまで収容容器を持っていくことができるため、従来のように吸水したセメント充填体を水槽から固定孔まで運搬する必要が無く、作業の効率性を高くすることができる。運搬途中の水垂れも無くなるので衛生上も好ましい。
【0026】
請求項2に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、両収容部を区分する仕切部に栓部材を付して収容容器を形成しておき、栓部材を開栓して仕切部に水路を形成し、水路を流れて水の収容部からセメント充填体の収容部に水が流動し、セメント充填体を水に浸漬させて吸水させることにより、収容容器からセメント充填体や水を取り出して移し変える作業が不要になり、迅速かつ簡易にセメント充填体に吸水させることができる。このため、施工作業を迅速かつ簡易に行うことができる。
【0027】
請求項3に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、袋状の収容容器の内面同士で栓部材を挟み込んで帯状にヒートシールして仕切部を形成しておき、収容容器の外側から栓部材に力を加えて栓部材を開栓することにより、セメント充填体を迅速に水に浸漬させて吸水させることができ、施工作業を一層迅速かつ簡易に行うことができる。
【0028】
請求項4に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、管路の一端に脆弱部を介して封緘部を設けて栓部材を形成しておき、収容容器の外側から封緘部に力を加えて脆弱部から折るという簡単な作業で簡便に栓部材を開栓できるため、施工作業を一層迅速かつ簡易に行うことができる。
【0029】
請求項5に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、栓部材の屈曲した突設板を保持部材の一側面と略並行に伸長させるという簡単な作業で簡便に栓部材を開栓できるため、施工作業を一層迅速かつ簡易に行うことができる。
【0030】
請求項6に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、透明性を有して収容物を視認可能な材質で収容容器を形成しておき、この栓部材を収容容器の外側から開栓することにより、栓部材の位置を目視で簡易に把握できるため、迅速かつ簡易に開栓することができるため、施工作業を迅速に行うことができる。
【0031】
請求項7に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体を吸水させた後に、水路を通してセメント充填体の収容部から水の収容部に水を排出し、この排出後にセメント充填体をセメント充填体の収容部から取り出すことにより、取り出す際にセメントによってアルカリ化した水中に手を入れる必要がないため、施工作業の作業性や安全性が向上する。
【0032】
請求項8に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体をセメント充填体の収容部から取り出した後に、水の収容部に水を入れたまま、収容容器を水廃棄場所まで運搬することにより、施工箇所と廃棄処理箇所が離れている足場上等での作業環境においても、セメント充填体の浸漬に用いて汚れた水を簡易かつ安全に運搬することができる。
【0033】
請求項9に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、収容容器を折り曲げ可能な柔軟な材質で形成しておき、セメント充填体をセメント充填体の収容部から取り出した後に、セメント充填体の収容部を折り曲げてから運搬することにより、水を漏らすことなく運搬することができる。
【0034】
請求項10に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、両収容部を各々槽状に形成し、併置された両収容部の上部の両開口部に樹脂製フィルムを架け渡し被覆し密封して収容容器を形成しておき、樹脂製フィルムを剥がし、セメント充填体の収容部からセメント充填体を取り出し、水の収容部に入れてセメント充填体を水で浸漬させて吸水させることにより、セメント充填体の収容部が槽状であるので取り出しやすく、水の収容部が槽状であるので吸水時に作業者が保持する必要が無いため、施工作業を簡易に行うことができる。
【0035】
請求項11に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、槽状の水の収容部の上部の開口部を樹脂製フィルムで被覆し密封し、樹脂製フィルム上に外壁部を樹脂製フィルムに固着してセメント充填体の収容部を形成しておき、樹脂製フィルムを剥がすと共に、外壁部を剥がしてセメント充填体を取り出し、水の収容部に入れてセメント充填体を水で浸漬させて吸水させることにより、水の収容部が槽状であるので吸水時に作業者が保持する必要が無いため、施工作業を簡易に行うことができる。
【0036】
請求項12に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、水の収容部に殺菌処理された水を収容して収容容器を形成しておき、この水でセメント充填体を浸漬させて吸水させることにより、長期保管された収容容器を用いても確実に清浄な水で施工作業を行うことができる。
【0037】
請求項13に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体を収容したセメント充填体の収容部を脱気して減圧状態に密封しておき、脱気状態のセメント充填体に水を浸漬させて吸水させることにより、保管中に水硬化性セメント組成物の加湿や酸化が確実に防止されたセメント充填体を用いて施工作業を行うことができる。また、前記した仕切部に開栓部材を設けた収容容器の場合には、栓部材を開栓した際に水の収容部の水がセメント充填体の収容部側に急速に吸引されるため、セメント充填体を迅速に浸漬させて吸水させることができるため、施工作業を迅速に行うことができる。
【0038】
請求項14に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体と共に吸水により発熱する発熱体をセメント充填体の収容部に密封しておき、発熱体を水に浸漬させて水温を上昇させることにより、低温時でも水温がセメント使用に適する所定温度以上になるため、セメント充填体の浸漬に必要な吸水時間を安定化させることができ、施工作業を安定して確実に行うことができる。
【0039】
請求項15に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、水の収容部に水を注入可能な水注入部を付しておき、収容容器の使用前に水注入部から水収容部に水を注入することにより、施工現場近くの水道等の水がある場所までは水を収容しない軽量のままで運搬することができるため、運搬作業が簡易になる。
【0040】
請求項16に記載のあと施工アンカーの施工方法によれば、収容容器を使用前に予めセメント使用に適する所定温度範囲内に暖めてから使用することで、セメント充填体や水温を所定温度範囲内にすることが簡易であるため、温度管理が簡便になり、施工作業を安定して確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法の作業状態を示す概要図である。
【図2】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法に用いる収容容器の一例である。
【図3】上図の収容容器の栓部材の概要図である。
【図4】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法に用いる別の収容容器の一部切欠概要図である。
【図5】上図の栓部材の使用状態を示す断面図である。
【図6】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法に用いる別の収容容器の断面図である。
【図7】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法に用いる別の収容容器の断面図である。
【図8】本発明を適用するあと施工アンカーの施工方法に用いる別の収容容器の一部切欠概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0043】
図2には、本発明のあと施工アンカーの施工方法に用いる収容容器の一例の一部切欠概要図が示されている。この図2に示された収容容器1は、熱によって溶融して、対向する面同士が融着するヒートシール性を有する樹脂を内面(内層)側に配した柔軟な合成樹脂製積層フィルムを外装に用いて、全体として柔軟で密封された袋状に形成されている。
【0044】
具体的には、内層として使用するヒートシール性を有する樹脂としては、熱によって溶融し相互に融着し得るものであればよく、たとえば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンー酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレンーアクリル酸共重合体、エチレンーアクリル酸メチル共重合体、エチレンーメタクリル酸共重合体、エチレンープロピレン共重合体等の樹脂の一種ないしそれ以上からなる樹脂ないしはこれらをフィルム化したシートを使用することができ、その厚さとしては、30〜200μmが適当である。
【0045】
また、外層として使用する合成樹脂製のフィルムとしては、収容容器1を構成する基本素材となることから、機械的、物理的、化学的等において優れた性質を有する合成樹脂を用いることができ、たとえば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系等の樹脂を用いることができる。また、これらの樹脂を用いたフィルムとしては、未延伸フィルムあるいは1軸方向または2軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれのものでも使用することができ、フィルムの厚さとしては基本基材としての強度、剛性などについて必要最低限に保持され得る厚さであればよく、厚過ぎるとコストが上昇するという欠点があり、逆に薄過ぎると強度、剛性等が低下して好ましくない。上記のような理由から12〜25μm程度が適当である。また、前記合成樹脂製のフィルムは、必要に応じてポリ塩化ビニリデンが塗工されたフィルムやアルミニウムや酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化ジルコニウム等の無機物の蒸着層が形成されたフィルムとしてバリアー性を有する構成としてもよい。また、前記外層として使用する合成樹脂製のフィルムは、前記合成樹脂製フィルムの内層側に一般的には印刷が施されることが多い。そのために、前記外層として使用する合成樹脂製フィルムは印刷適性が求められ、1軸方向または2軸方向に延伸した延伸フィルムが好適である。
【0046】
さらに、前記内層と前記外層の間に中間層を設けてもよく、この中間層は通常内層と外層だけでは包装袋としての機能を十分に果たすことができない場合等に設けられる。前記機能としては、気体遮断性、機械的強靱性、耐屈曲性、耐突き刺し性、耐衝撃性、耐磨耗性、耐寒性、耐熱性、耐薬品性等であり、包装袋として要求されるこれらの最終的な機能を中間層を設けることで達成するものである。この中間層として用いられる基材としては、たとえば、アルミニウム、鉄、銅、錫等の金属箔、あるいは、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、エチレンープロピレン共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体ケン化物等のフィルムあるいはこれらにポリ塩化ビニリデンを塗工したフィルムないしはアルミニウムや酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化ジルコニウム等の無機物の蒸着を施したフィルムあるいはポリ塩化ビニリデン等のフィルムなどを用いることができる。また、これら基材の一種ないしそれ以上を組み合わせて使用することができる。尚、上記基材の厚さとしては、包装袋として要求される機能を満たすことができればよいのであって、必要に応じて適宜選ぶことができる。この場合に、運搬時や、収容する水が凍結したとしても破損の無いような基材とする。
【0047】
また、一例として、収容容器1は全体が透明性を有して収容物を視認可能な材質で形成されている。
【0048】
収容容器1は、本発明のセメント充填体の収容部であるセメント充填体収容部3、および本発明の水の収容部である水収容部4とを一体的に形成されて構成されている。収容容器1は、セメント充填体収容部3と水収容部4との2室に区分する仕切部2が袋状の容器中空に形成されている。この仕切部2には、開栓により両収容部3,4間を連通する水路を形成する栓部材5が付されている。具体的には、収容容器1は袋状の外装で形成され、仕切部2は、対向する中央部の外装の内面同士で栓部材5を挟み込みつつ、この内面同士を帯状にヒートシールして形成されている。また、収容容器1の周囲の縁も、容器外装の内面同士をヒートシールして形成されている。
【0049】
栓部材5は、合成樹脂で一体成形されていて、図3(a)に示されるように、円筒状の管路20の一端(図の上側)に薄肉の脆弱部21を介して管路20の一端を閉塞するフランジ状の封緘部22が設けられて形成されている。
【0050】
管路20の他端(図の下側)は開端している。管路20には、その他端側の略半分程度の側面に外装をヒートシールして固着するための取付部材24が、一体成形で付されている。取付部材24は、管路20の他端の端面と面を同一に形成されると共に、管路20の他端側の略半分程度の側面になだらかな山形を対向した形状で形成されている。
【0051】
管路20には、一端側から取付部材24までの間に、つまり取付部材24が付されていない側面に、製造時に保持面となる平坦面27が一面設けられている。
【0052】
封緘部22は、図3(b)のように脆弱部21で簡易に折れて管路20から取り去ることができる。一例として、脆弱部21は、封緘部22の折れ強度が10N以上〜50N以下の範囲に形成されている。この場合、封緘部22がフランジ状に形成されているため指を掛け易く、脆弱部21を支点として簡易に封緘部22を折り取ることができる。封緘部22を折り取ることで、管路20が開栓される。
【0053】
栓部材5は、図2に示されるように、平坦面27から前記封緘部22側が水収容部4内部に突設されて取付部材24に対向する外装内面がヒートシールされることにより固着されている。
【0054】
なお、図3(c)に示されるように、一対の栓部材5,5を1つの取付部材24で繋げて一体成形してもよい。この場合、取付部材24は、仕切部2の左右幅および帯幅と同程度に形成し、この取付部材24に外装内面をヒートシールする。また、同図に示すように、平坦面27を形成しない栓部材5とすることもできる。また、同図に示すように、栓部材5の管路20の他端を取付部材24から突出させて形成することもできる。
【0055】
セメント充填体収容部3には、複数(一例として10本)のセメント充填体10,10・・・、および発熱体11が封入されている。また、セメント充填体収容部3は、後述する水収容部4に収容された水12でセメント充填体10,10・・・、および発熱体11を浸漬状態で収容可能な容量に形成されて、吸水用の水槽を兼ねている。さらに、セメント充填体収容部3は、脱気されて周囲よりも減圧状態で封入されている。この脱気により、セメント充填体10の加湿や酸化を防止することができる。セメント充填体収容部3には、図2に示されるように端部近くに開封の際に包装袋を破いて開封しやすくするための、V字状または切り込み状の破り口18が形成されている。
【0056】
セメント充填体10は、セメントやセメントモルタル等の水硬化性セメント組成物を、透水製の例えば不織布で形成された透水性容器に充填して形成されている。水硬化性セメント組成物は、一例として、セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの混合セメント、アルミナセメント、エコセメント、ジェットセメント、シリカフュームセメント、油井セメント、地熱井セメントなどの特殊セメントなどの特殊セメントや石膏などの水硬化セメントを単一または混合して用いる。セメントモルタルとする場合は、上記セメントと珪砂等の砂を15〜80%配合したセメントモルタルとし、さらに、炭酸塩、硫酸塩、アミン類などの促進剤やリン酸塩、ホウ酸塩、リグニンスルホン酸やグルコン酸、クエン酸などの有機酸とその塩などの遅延剤をプレミックスさせたセメントモルタルが用いられる。
【0057】
発熱体11は、水を媒体として発熱する物質、例えば生石灰や鉄粉などが、内容物の漏れ出ない例えば不織布で形成された透水性の容器に充填して形成されている。
【0058】
水収容部4には、セメント充填体10に吸水させる所定水量の水12が収容されている。この水12は、セメント充填体収容部3内部でセメント充填体10,10・・・、および発熱体11を浸漬させて吸水させるのに必要な水量を有している。この水12は、蒸留水、イオン交換水、逆浸透水等の純水や水道水が用いられ、さらに例えば紫外線照射されることで殺菌処理されている。殺菌処理された水12を用いることで長期間保存可能とすることができる。このため、収容容器1の管理が簡便になる。収容容器1は簡便な構造であるので安価である。
【0059】
次に、収容容器1を用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について図1を参照しつつ説明する。図1(a),(b)には、収容容器1の使用状態を示す一部切欠概要図が示され、図1(c),(d)には、収容容器1から取り出したセメント充填体10の使用状態を示す概要図が示されている。
【0060】
予め、図1(c)に示されるように、アンカーを固着すべき被施工体であるセメント構造物にアンカー固定用の固定孔40を所定の孔径および深さで穿孔し、内部を清掃しておく。収容容器1を固定孔40の直ぐ近くなどの作業を行いやすい場所に準備する。
【0061】
先ず、収容容器1の外側から栓部材5の封緘部22に指等で力を加えて脆弱部21から折ることで、図1(a)に示されるように、栓部材5を開栓する。この際に収容容器1が透明な栓部材を目視可能な包装袋で形成されているため、栓部材5の場所を簡易に視認でき、迅速かつ簡易に封緘部22を折ることができる。封緘部22を折るという簡単な作業で管路20が水路になって水収容部4から水12がセメント充填体収容部3に移動する。セメント充填体収容部3は減圧状態であるため、水12が急速に吸引されてセメント充填体収容部3に流れ込む。このため、水12がセメント充填体収容部3に迅速に移動することで、セメント充填体10を迅速に水12で浸漬させて吸水させることができる。
【0062】
この場合、収容容器1を、水収容部4を天方向、セメント充填体収容部3を地方向に縦置きした方が早くセメント充填体10を水12で浸漬させることができるが、収容容器1を横置きに寝かせていてもよい。横置き状態でもセメント充填体収容部3が減圧状態であるので、水12を吸引してセメント充填体収容部3側に移動する。横置きにしたときには、さらに水収容部4を外部から押したり、端部から複数回数折り巻くことで、水12の移動を促進することもできる。
【0063】
図1(a)に示されるように、セメント充填体収容部3に水12が移動することで、セメント充填体10が水12で浸漬されて吸水する。また、発熱体11が水12を吸水することで発熱するため、低温時でも所定温度以上に水温が上昇して、セメント充填体10の浸漬に必要な吸水時間を安定化させることができる。収容容器1が透明な材質で形成されているため、水12の移動状況やセメント充填体10の吸水している様子を目視で確認することができる。このように、収容容器1からセメント充填体10や水12を取り出して移し変える作業が不要であり、仕切部2の栓部材5を開栓させるという簡易な作業で、収容容器1内部でセメント充填体10に吸水させることができる。
【0064】
セメント充填体10を所定時間、水12で浸漬させて吸水させた後に、図1(b)に示されるように、収容容器1をセメント充填体収容部3を天方向、水収容部4を地方向にして縦置きにし、セメント充填体収容部3の端部を破り口18から破って開封する。ついで、セメント充填体収容部3内の不要になった水12を、管路20を通して水収容部4側に排出する。この水12の排出後にセメント充填体10をセメント充填体収容部3から取り出す。すると、セメントでアルカリ化した水12に手を入れることなく簡易にセメント充填体10を取り出すことができる。一方使用済みの水12は、水収容部4に貯留されるため、水収容部4にいれたまま、所定の水廃棄場所まで運搬し、これを廃棄処理する。これにより、施工箇所と廃棄処理箇所が離れている足場上等での作業環境においても、セメント充填体10の浸漬に用いて汚れた水を簡易かつ安全に運搬することができる。また、収容容器1は柔軟な袋状であるので、セメント充填体10をセメント充填体収容部3から取り出した後に、セメント充填体収容部3を折り曲げてから運搬することにより、水12を漏らすことなく運搬することができる。さらに、使用後には、収容容器1を折り畳んだり、丸めたりすることができ嵩張らないため、施工現場の後片付けを簡便にすることができる。
【0065】
次に、図1(c)に示されるように、収容容器1から取り出したセメント充填体10を固定孔40に挿入する。このように、収容容器1から取り出したセメント充填体10を直ちに使用することができる。なお、固定孔40は乾燥状態であっても湿潤状態であってもよい。
【0066】
最後に、固定孔40にアンカー41を打撃して打ち込んだり、回転させつつ押し込んだりして挿入する。このアンカー41の挿入により、セメント充填体10にアンカー40が突刺さり、セメント充填体10の透水性容器が破れ、図1(d)に示されるように、吸水した水硬化性セメント45でアンカー41と固定孔40との隙間が充填される。水硬化性セメント45が硬化して、アンカー41が固定孔40に固着される。セメントを養生して、あと施工アンカーの施工が終了する。
【0067】
なお、冬などの低温時には、収容容器1の使用前に室内等の暖かい場所に保管して、セメント充填体10や水12を所定温度範囲内に暖めてから使用することもできる。セメント充填体10や水温12の温度管理が簡便になり、施工作業を安定して確実に行うことができる。
【0068】
次に、上記とは別の収容容器を用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。なお、以下において、すでに説明した構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
図4には、収容容器1Aの一部欠概要図が示されている。すでに説明した収容容器1では、仕切部2に栓部材5が配されていたが、この収容容器1Aでは、仕切部2に相当する仕切部2Aに栓部材の別の実施形態である栓部材6が配されていることが相違している。
【0070】
図4に示される収容容器1Aは、収容容器1と同様の包装袋で密封され、その中央部に対向する外装28,29(図5(a)参照)の内面同士を帯状にヒートシールすることで仕切部2Aが形成されている。この仕切部2Aによって袋状の容器中空がセメント充填体収容部3および水収容部4の2室に区分されている。セメント充填体収容部3には、セメント充填体10,10・・・および発熱体11が減圧状態で密封され、水収容部4には、殺菌処理された水12が密封されている。
【0071】
仕切部2Aには、栓部材6が配されている。栓部材6は、外装28,29の内面同士の間に挟み込まれて、この内面間で隙間無く密着状態にヒートシールされている。
【0072】
図5には、図4におけるA−A断面図が示されている。なお、図5では、図を見やすくするために外装28,29の厚さを実際よりも厚く図示している。
【0073】
図4および図5(a)に示される栓部材6は、プラスチック製で、保持部材15とこの保持部材15に突設板16が付されて構成されている。保持部材15は、平坦面19を一側面とする略直方体状に形成されている。突設板16は、保持部材15の一端側(図の上側)の平坦面19の縁端に沿って平坦面19の対面側に向かって屈曲させて突設させて形成されている。つまり、保持部材15の一端縁に沿って舌状の突設板16が内側に傾斜して付されている。また、突設板16の上端部側は、ヒートシールが簡易なように上方に向かってへの字状の形状で形成されている(図5(a)参照)。この突設板16は、指等で押されたときに、平坦面19と略平行に伸長可能に可撓性または脆弱性を有して形成されている。
【0074】
栓部材6は、仕切部2Aには、保持部材15の他端(下端)をセメント充填体収容部3に表出させてヒートシールされ、突設板16を外装内面同士で覆ってヒートシールされると共に突設板16が平坦面19と略平行になるように伸長させたときに覆っていた外装内面同士が平坦面19および突設板16から剥離可能にヒートシールされている。
【0075】
具体的には、栓部材6には、図5(a)に示されるように、保持部材15を容器外装28,29の内面で挟み込むと共に突設板16も挟み込み、突設板16よりも水収容部4側も突設板16が覆われるように容器外装28,29がヒートシールされている。突設板16の上方(図の上方)は、突設板16が伸長した際に、突設板16がヒートシール部分よりも上方に突出可能な幅で容器外装28,29がヒートシールされている。また、容器外装28は、突設板16が伸長した際に、突設板16および平坦面19から剥離すると共に、伸長させないときには水12の重量で剥離しない固着力でヒートシールされている。
【0076】
この収容容器1Aを用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について図4、図5を参照しつつ説明する。
【0077】
先ず、収容容器1Aの外側から栓部材6の突設板16を図5(a)に示した矢印方向に指等で力を加えて押すことで、突設板16が保持部材15の平坦面19と略平行に伸長し、図5(b)に示されるように容器外装28が剥離して開栓し、水収容部4とセメント充填体収容部3とが連通する水路17が形成される。これにより、同図に矢印で示されるように、水12が水路17を通ってセメント充填体収容部3側に移動して、セメント充填体10や発熱体11が水12で浸漬される。これにより、セメント充填体10が水12を吸水する。
【0078】
このように、収容容器1Aの外部から栓部材6の突設板16を指等で押して伸長させるだけの簡単な作業で開栓することができ、セメント充填体10に簡易に吸水させることができる。その他の説明については、収容容器1を用いたあと施工アンカーの施工方法と同様であるので説明を省略する。
【0079】
次に、さらに別の収容容器を用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0080】
図6には、収容容器1Bの断面図が示されている。この収容容器1Bは、槽状のセメント充填体収容部3Bおよび水収容部4Bが並列に併置されて、各々の上部の開口部31,32が1枚の樹脂製フィルム30で架け渡されて被覆され密封されている。この樹脂製フィルム30によってセメント充填体収容部3Bおよび水収容部4Bが一体化されている。なお、図6では、図を見やすくするために樹脂製フィルム30の厚さが実際よりも厚く図示されている。
【0081】
セメント充填体収容部3Bは、一例としてポリプロピレンなどの樹脂によって、上部に開口部31を有する槽状の形状、この場合一例として細長いカップ状の形状に形成され、この開口部31の縁端は同一面内に形成されている。このセメント充填体収容部3Bには、複数(一例として10本)のセメント充填体10,10・・・、および発熱体11が内部に収容されている。このセメント充填体収容部3Bは減圧状態に密封されている。
【0082】
水収容部4Bは、セメント充填体収容部3Bと同様の材質・形状で形成され、内部に殺菌処理された水12が収容されている。この場合、水収容部4Bは、セメント充填体10,10・・・、発熱体11、および水12を収容可能な容量で形成されて、セメント充填体10を吸水させる水槽を兼ねる。水12は殺菌処理されている。
【0083】
樹脂製フィルム30は、一例として柔軟性を有するポリマーフィルムであって、併置されたセメント充填体収容部3Bおよび水収容部4Bの開口部31,32を覆う大きさに形成され、開口部31,32の縁端に接着またはヒートシールされて固着されている。
【0084】
このように簡便な構造のため、安価である。また、槽状であるので載置した際に安定する。また、堅牢に形成した場合には、複数の収容容器1Bを上面(樹脂製フィルム30側)同士、または、底面同士を対面させて積み重ねが可能になり、施工現場での保管場所が省スペースになる。
【0085】
この収容容器1Bを用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0086】
先ず、セメント充填体収容部3Bおよび水収容部4Bから樹脂製フィルム30を剥がして、セメント充填体収容部3Bからセメント充填体10,10・・・や発熱体11を取り出す。このときセメント充填体収容部3Bが槽状であるので取り出し易い。
【0087】
取り出したセメント充填体10,10・・・や発熱体11を、水収容部4B内に入れて水12に浸漬させ吸水させる。水収容部4Bが槽状であるので吸水時に作業者が水収容部4Bを保持する必要が無いため、施工作業を簡易に行うことができる。なお、低温時には、まず最初に発熱体11を浸漬させて水温が上昇した後にセメント充填体10を浸漬させてもよい。また、所定水温範囲内であれば、発熱体11を使用しなくてもよい。所定時間経過後、水収容部4Bからセメント充填体10,10・・・を取り出す。取り出す前に水12を排出してもよい。
【0088】
取り出したセメント充填体10は、すでに説明した施工方法と同様に使用する。水収容部4Bからセメント充填体10を取り出す前に、水12を排出することもできる。
【0089】
次に、さらに別の収容容器を用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0090】
図7には、収容容器1Cの断面図が示されている。なお、図7では、図を見やすくするために樹脂製フィルム33,34の厚さを実際よりも厚く図示している。
【0091】
収容容器1Cは、上記した収容容器1Bの水収容部4Bの上にセメント充填体収容部3Cを設けて一体化して構成したものである。
【0092】
収容容器1Cでは、水12を収容した水収容部4Bの上部の開口部32が樹脂製フィルム33で接着又はヒートシールして被覆され密封されている。この樹脂製フィルム33の上にセメント充填体10,10・・・および発熱体11が載置され、さらにその上から外壁部になる樹脂製フィルム34で覆って、樹脂製フィルム33および樹脂製フィルム34の接合面を接着またはヒートシールして固着してセメント充填体収容部3Cが形成されている。樹脂製フィルム33,34は、樹脂製フィルム30と同様の材質のものである。
【0093】
このように、簡便な構造のため安価である。また、槽状であるので載置した際に安定する。水収容部4Bのスペースだけで良いので、省スペースになる。
【0094】
この収容容器1Cを用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0095】
先ず、水収容部4B上の樹脂製フィルム33を剥がすと共に、樹脂製フィルム34を樹脂製フィルム33から剥がしてセメント充填体10,10・・・、および発熱体11を取り出し、水収容部4Bの水12に浸漬させ、セメント充填体10に所定時間吸水させてから取り出す。取り出したセメント充填体10は、すでに説明した施工方法と同様に使用する。水収容部4Bが槽状であるので吸水時に作業者が水収容部4Bを保持する必要が無いため、施工作業を簡易に行うことができる。
【0096】
次に、さらに別の収容容器を用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0097】
図8には、収容容器1Dの一部欠概要図が示されている。この収容容器1Dには、同図に示されるように、水収容部4に水を注入可能な水注入部35が付されている。この水注入部35が設けられて、製造時に水12が密封されないこと以外は、収容容器1と同様に構成されている。水注入部35は、水収容部4の上端部の外装内面同士に挟まれてヒートシールされて取付けられている。水注入部35は、プラスチックなどの合成樹脂で形成され、水収容部4の内部と外部を連通する管路36と、この管路36に螺合して着脱可能な蓋37とで構成されている。管路36には、ヒートシール用の取付け部材が付されている。
【0098】
この収容容器1Dを用いた本発明のあと施工アンカーの施工方法について説明する。
【0099】
施工現場近くの水道や純水がある場所まで、水収容部4に水を収容しないままで運搬する。収容容器1Dを使用する前に、例えば施工現場近くの水道のある場所で、蓋37を取り外して水注入部35から水収容部4に規定量の水道水等を注入する。
【0100】
水を注入後の収容容器1Dを用いるあと施工アンカーの施工方法は、収容容器1を用いたあと施工アンカーの施工方法と同様である。製造時に水12を密封しないため、収容容器1Dは軽量であり、輸送作業が簡易になる。また、保管時には、水12の無い分だけ、省スペースである。また、気温が低い場合には、規定水温範囲内の水(例えば、温水やお湯)を注入して使用できる。水を内部に備えないため、氷点下でも保存できる。
【0101】
以上のように、これらの収容容器1〜1Dを用いたあと施工アンカーの施工方法によれば、水硬化性セメント組成物を透水性容器に充填してセメント充填体10とし、セメント充填体収容部3(3B,3C)と水収容部4(4B)とを一体的に形成した収容容器1(1A〜1D)内へ、セメント充填体10と水12とを予め別々に収容し密封しておき、収容容器1内で、セメント充填体10を水12に浸漬させて吸水させ、吸水したセメント充填体10を収容容器1から取り出して、アンカー41を固着すべき被施工体に穿孔した固定孔40へ挿入してから、セメント充填体10にアンカー41を突刺し、水硬化性セメント組成物を硬化させて、アンカー41を固定孔40に固着させることにより、水や水槽を準備する必要が無く、しかもセメント充填体10に簡易に吸水させることができるため、施工作業を迅速かつ簡易に行うことができる。また、水を別に準備する必要が無いため、質の悪い不適切な水が代用されることを確実に防止することができる。このため、山岳地などの水道の無い場所や交通不便な場所、水槽を持っていくことのできない柱の中間部など、どのような場所でもあと施工アンカーを施工することができる。
【0102】
施工する固定孔40の近くまで収容容器1〜1Dを持っていくことができるため、従来のように吸水したセメント充填体10を水槽から固定孔40まで運搬する必要がなく、収容容器から取り出して直ぐに固定孔に挿入できるので、作業の効率性を高くすることができる。また、運搬途中の水垂れも無くなるので衛生上も好ましい。
【0103】
さらに、低温時には収容容器1〜1Dごと暖めることでセメント充填体10や水12の温度を所定温度範囲内に保つことが簡易であるため、施工の際の温度管理が簡便になる。従来のように、水や水槽を別に準備する必要があった施工方法では、バケツ等に大量の水を入れて、そこにセメント充填体10を浸漬させていたため、水やセメント充填体10を温める場合には、多くのお湯やヒーターの準備が必要であった。しかし、収容容器1では、容器ごとに温かい場所に保管すればよく、また、水12の量は、吸水させるために必要最小限の水量があれば良い為、従来よりも水量が少ないので簡易に暖めることができる。
【0104】
また、収容容器1、1A、1Dを用いたあと施工アンカーの施工方法によれば、セメント充填体10の吸水後に、水路を通してセメント充填体収容部3から水収容部4に不要になった水を排出し、この排出後にセメント充填体10を収容容器1から取り出すことで、セメントによってアルカリ化した水中に手を入れる必要がないため、施工作業の安全性が向上する。従来の施工方法では、水を入れたバケツ等の中に手を入れてセメント充填体10を取り出す必要性があり、皮手袋では手が濡れて作業性が悪いため、ビニール手袋などを嵌めて手が濡れない工夫をしていた。しかし、アンカー挿入時には皮手袋の方が作業性が良い。本発明によれば、皮手袋のまま作業をすることができるので、作業性が向上する。
【0105】
なお、セメント充填体収容部3,3B,3Cに複数本数のセメント充填体10を収容した収容容器を用いた例について説明したが、セメント充填体10が1本のみ収容された収容容器を用いても良いし、その数は任意である。また、発熱体11が不要の場合には、発熱体11を収容しない収容容器を用いてもよい。例えば、夏などの暖かい時季には、発熱体11が収容されない収容容器を用い、冬などの寒い時季には、発熱体11が収容された収容容器を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のあと施工アンカーの施工方法は、セメント充填体および水を分離して収容した収容容器内で、この水を用いてセメント充填体に吸水させることで、水や水槽が施工現場に不要になり、市街地のみならず水道の無い場所や交通の便の悪い場所などの様々な施工現場であと施工アンカーを施工することができる。
【符号の説明】
【0107】
1,1A,1B,1C,1Dは収容容器、2,2Aは仕切部、3,3B,3Cはセメント充填体収容部、4,4Bは水収容部、5,6は栓部材、10はセメント充填体、11は発熱体、12は水、15は保持部材、16は突設板、17は水路、18は破り口、19は平坦面、20は管路、21は脆弱部、22は封緘部、24は取付部材、27は平坦面、28,29は容器外装、30,33,34は樹脂製フィルム、31,32は開口部、35は水注入部、36は管路、37は蓋、40は固定孔、41はアンカー、45は水硬化性セメントである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬化性セメント組成物を透水性容器に充填してセメント充填体とし、該セメント充填体の収容部と水の収容部とを一体的に形成した収容容器内へ、該セメント充填体と水とを予め別々に収容し密封しておき、該収容容器内で、該セメント充填体を該水に浸漬させて吸水させ、吸水した該セメント充填体を該収容容器から取り出して、アンカーを固着すべき被施工体に穿孔した固定孔へ挿入してから、該セメント充填体に前記アンカーを突刺し、水硬化性セメント組成物を硬化させて、該アンカーを固着させることを特徴とするあと施工アンカーの施工方法。
【請求項2】
前記両収容部を区分する仕切部に栓部材を付して前記収容容器を形成しておき、該栓部材を開栓して該仕切部に水路を形成し、該水路を流れて前記水の収容部から前記セメント充填体の収容部に前記水が移動して、前記セメント充填体を該水に浸漬させて吸水させることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項3】
袋状の前記収容容器の内面同士で前記栓部材を挟み込んで帯状にヒートシールして前記仕切部を形成しておき、該収容容器の外側から該栓部材に力を加えて該栓部材を開栓することを特徴とする請求項2に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項4】
管路の一端に脆弱部を介して封緘部を設けて前記栓部材を形成しておき、前記収容容器の外側から該封緘部に力を加えて該脆弱部から折ることで該栓部材を開栓し、該管路を前記水路にすることを特徴とする請求項3に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項5】
平坦面を一側面とする保持部材に、該一側面の縁端にその対面側に向かって屈曲させて突設させた突設板を付して前記栓部材を形成しておき、前記収容容器の外側から該突設板に力を加えて該一側面と略平行に伸長させることで該栓部材を開栓し、該突説板および保持部材にヒートシールされた前記収容容器の内面が剥がれて前記仕切部に前記水路が形成されることを特徴とする請求項3に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項6】
透明性を有して収容物を視認可能な材質で前記収容容器を形成しておき、前記栓部材を該収容容器の外側から開栓することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項7】
前記セメント充填体を吸水させた後に、前記水路を通して前記セメント充填体の収容部から前記水の収容部に前記水を排出し、この排出後に該セメント充填体を該セメント充填体の収容部から取り出すことを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項8】
前記セメント充填体を前記セメント充填体の収容部から取り出した後に、前記水の収容部に前記水を入れたまま、前記収容容器を水廃棄場所まで運搬することを特徴とする請求項7に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項9】
前記収容容器を折り曲げ可能な柔軟な材質で形成しておき、前記セメント充填体を前記セメント充填体の収容部から取り出した後に、該セメント充填体の収容部を折り曲げてから、前記運搬することを特徴とする請求項8に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項10】
前記両収容部を各々槽状に形成し、併置された該両収容部の上部の両開口部に樹脂製フィルムを架け渡し被覆し密封して前記収容容器を形成しておき、該樹脂製フィルムを剥がし、前記セメント充填体の収容部から前記セメント充填体を取り出し、前記水の収容部に入れて該セメント充填体を前記水で浸漬させて吸水させることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項11】
槽状の前記水の収容部の上部の開口部を樹脂製フィルムで被覆し密封し、該樹脂製フィルム上に前記セメント充填体を載せてその上から外壁部で覆って該外壁部を該樹脂製フィルムに固着して前記セメント充填体の収容部を形成しておき、該樹脂製フィルムを剥がすと共に、前記外壁部を剥がして該セメント充填体を取り出し、該水の収容部に入れて該セメント充填体を前記水で浸漬させて吸水させることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項12】
前記水は殺菌処理されていることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項13】
前記セメント充填体を収容した前記セメント充填体の収容部を脱気して減圧状態に密封しておき、脱気状態の該セメント充填体に前記水を浸漬させて吸水させることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項14】
前記セメント充填体と共に吸水により発熱する発熱体を前記セメント充填体の収容部に密封しておき、該発熱体を前記水に浸漬させて水温を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項15】
前記水の収容部に前記水を注入可能な水注入部を付しておき、前記収容容器の使用前に該水注入部から該水収容部に前記水を注入することを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。
【請求項16】
前記収容容器を使用前に予め所定温度範囲内に暖めてから使用することを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−168727(P2010−168727A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9554(P2009−9554)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(592117520)株式会社ヨネイ (3)
【Fターム(参考)】