いちご品種のDNA配列差異を利用したマルチプレックス法に基づく識別方法
【課題】イチゴ品種の簡易かつ効率的な識別方法の提供。
【解決手段】栽培イチゴ品種に特異的に見い出されるランダム増幅多型DNA(RAPD)マーカー或いは増幅断辺長多型(AFLP)マーカーを含む複数のプライマー対を使用するマルチプレックスPCR法を用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
【解決手段】栽培イチゴ品種に特異的に見い出されるランダム増幅多型DNA(RAPD)マーカー或いは増幅断辺長多型(AFLP)マーカーを含む複数のプライマー対を使用するマルチプレックスPCR法を用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ品種のDNA配列に基づく識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種苗法による育成者権の保護が重要となってきている。栄養繁殖植物であるイチゴの場合は特に優良品種の流出のリスクが高いため、それらの品種を感度良く検出できる方法の開発が強く求められている。またJAS法による農作物の表示義務等が強化されていることからも、個別のイチゴ品種をDNAレベルで高感度に識別できる方法の需要は高い。
【0003】
植物品種をDNAレベルで識別する方法としては、CAPS法以外にも、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism;制限酵素断片長多型)分析、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA;ランダム増幅多型DNA)分析等の手法が検討されており、いくつかの作物ではそれらの手法を用いた品種識別法が実用化されている。現在では、イチゴ品種の識別方法としても、品種特性に基づいて目視によって識別する方法の他、國久らのCAPSマーカーを用いた品種識別技術が知られている(特許文献1及び2)。またAFLP法によるイチゴ品種の識別方法の報告もある(特許文献3)。しかし、将来的な検査サンプルの増加等に対応するためには、より多くの検体を正確、迅速かつ効率的に処理することができ、より多品種を識別することができる方法の開発が求められている。
【特許文献1】特開2003−339399号公報
【特許文献2】特開2005−102535号公報
【特許文献3】特開2005−278477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多数のイチゴ品種を効率良く識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これまでに、イチゴ品種識別に有用な複数のRAPDマーカーを検出するためのRAPD-STS化プライマーセットを作製している(特願2005−072445号明細書)。しかしながら、RAPDマーカーを個々に検出する方法では検査になお時間を要するため、さらに効率的に品種識別を行える方法を目指して開発を行った。
【0006】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、3回のマルチプレックスPCRによって25種のイチゴ品種をそれぞれ識別することが可能になる3つのプライマーセットを作製し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1] 下記(1)〜(3)のうち少なくとも1つのプライマーセットを用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【0008】
この方法では、識別するイチゴ品種が、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」からなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0009】
この方法では、前記(1)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、及び「メイヒャン」を識別することができる。
【0010】
この方法では、前記(2)のプライマーセットを用いて、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、及び「宝交早生」を識別することもできる。
【0011】
この方法では、前記(3)のプライマーセットを用いて「サンチーゴ」を識別することもできる。
【0012】
この方法では、前記(1)及び(2)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「とよのか」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別することもできる。
【0013】
この方法では、前記(1)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「メイヒャン」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「濃姫」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別することもできる。
【0014】
この方法では、前記(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちひめ」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「宝交早生」、「とちひとみ」、「アスカウェイブ」、「女峰」、及び「レッドパール」を識別することもできる。
【0015】
この方法では、前記(1)、(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」を識別することもできる。
【0016】
[2] 下記(1)〜(3)のいずれかである、イチゴ品種識別用プライマーセット。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【0017】
[3] 上記[2]に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、イチゴ品種識別用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイチゴ品種識別方法は、簡便かつ効率的に多品種を識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型とし、後述のプライマーセット(1)〜(3)のうち少なくとも1つを用いて核酸増幅を行い、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別する方法に関する。
【0020】
本発明の品種識別方法における供試イチゴは、フラガリア・アナナッサ(Fragaria x ananasa)に属する任意の栽培種であってよい。好ましくは、本発明の供試イチゴは、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」のうちのいずれかの品種又はその子孫系統若しくは子孫品種であるか、あるいはそのような系統若しくは品種である可能性が高いと判断される植物であることが好ましい。
【0021】
本発明では、まず、供試イチゴから、ゲノムDNAを抽出することが好ましい。ゲノムDNAは、イチゴ植物体より採取した任意の組織(例えば、葉、茎、果実、がく、花弁、根、カルスなど)から、植物分子生物学の分野で慣用されている手法に従って抽出し、必要に応じて精製し、供試試料として調製すればよい。イチゴからのゲノムDNAの抽出には、後述の実施例に記載する改変CTAB法や、市販の植物ゲノムDNA抽出キット(例えば、Nucleon PhytoPure Plant Kit(Amersham))を用いることが好適である。
【0022】
次いで、抽出したゲノムDNAを鋳型として用いて、核酸増幅を行う。本発明の方法において核酸増幅に用いるプライマーセット(1)〜(3)は、イチゴ品種の識別に特に適するように設計されたものである。プライマーセット(1)は、配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。
【0023】
本発明の方法において同様に用いるプライマーセット(2)は、配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。
【0024】
本発明の方法において同様に用いるプライマーセット(3)は、配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。本発明の各プライマーセットを構成するプライマーに含まれるオリゴヌクレオチドは、各配列番号で示される塩基配列からなるか又は各配列番号で示される塩基配列を含む好ましくは18〜25bpの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
【0025】
本発明に係るこれらのオリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、そのオリゴヌクレオチド配列の5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)などによる修飾を有していてもよい。本発明の上記プライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。本発明に係る上記プライマーは、ホスホロチオエート結合やホスホロアミデート結合などを含む任意の誘導体オリゴヌクレオチドであってもよいし、ペプチド核酸結合を含むペプチド-核酸(PNA)であってもよい。本発明に係る上記プライマーは、天然塩基のみを含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基としては、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に係る上記プライマーのオリゴヌクレオチドとは、DNAであってもRNAであってもよく、RNAである場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。
【0026】
上記プライマーセット(1)〜(3)を用いたゲノムDNAの核酸増幅は、公知の核酸増幅法に従って行えばよい。好ましくは、本発明の方法において用いる核酸増幅法は、複数のプライマー対を1つの反応系で用いるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法であるマルチプレックスPCRである。本発明に係る方法においてプライマーセットを2つ以上用いる場合、1つの反応液中に複数のプライマーセットを添加して核酸増幅を行ってもよいが、プライマーセット毎に別個の反応液を用いて核酸増幅することがより好ましい。核酸増幅を行う際の反応液組成や温度条件(サイクリング条件)などは、当業者であれば、使用する核酸増幅法、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜定めることができる。プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いたPCR増幅における好適な反応条件の例は、後述の実施例に記載している。
【0027】
本発明では、プライマーセット(1)〜(3)のうち少なくとも1つを用いた核酸増幅によって得られる増幅産物のバンドパターンに基づき、イチゴ品種を識別する。本発明において「増幅産物のバンドパターン」とは、核酸増幅後の反応液中に含まれる増幅産物を常法により電気泳動したときに現れるバンドの種類(分子量)又はバンドの有無、及びバンドの濃さ(増幅産物の相対量若しくは絶対量)等を意味する。このバンドパターンは、0.5×TBE中、1.5%アガロースゲルにてPCR産物を電気泳動し、200bp刻みのラダーを示す分子量マーカーを指標として確認することが特に好ましい。
【0028】
本発明の方法で識別される主たるイチゴ品種は、限定されるものではないが、現在日本で国内主要品種となっている「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」の25品種である。これらの品種の多くは品種登録されている。なお「あまおう」は、品種登録名「福岡S6号」の一般名称である。また「メイヒャン」は韓国育成品種であり、「苺香」とも記載する。本発明において「イチゴ品種を識別する」とは、各イチゴ品種を個別に同定するか、又はイチゴ品種を品種群として特定することを意味する。なお、本発明におけるイチゴの「品種」には、品種登録又は品種登録出願が為されたイチゴ品種だけでなく、品種登録又は品種登録出願がされていないイチゴ品種も包含する。また、あるイチゴ品種に「属する」イチゴには、当該イチゴ品種の純系個体が包含されるが、それ以外にも、当該イチゴ品種を原品種として作製した新たなイチゴ系統であって原品種との間で示される特性の相違が少ない系統(例えば、当該イチゴ品種を親株とした子孫系統)なども含まれる。
【0029】
プライマーセット(1)〜(3)を用いて得た増幅産物のバンドパターンと各イチゴ品種との対応関係は、図9にまとめられている。図9のバンドパターンを参照すれば、使用したプライマーセットに対して得られた増幅産物のバンドパターンから供試イチゴの品種を識別することができる。
【0030】
より具体的には、例えば、本発明の方法において上記プライマーセット(1)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(1)を構成する配列番号1及び2の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-2]、配列番号3及び4の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-3-2]、及び配列番号5及び6の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、AFLP-STS-1]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-2による増幅産物は約200bpであり、プライマー対RAPD-STS-3-2による増幅産物は約1550bpであり、プライマー対AFLP-STS-1による増幅産物は約310bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-2による増幅産物のみがバンドとして検出された場合には、その供試イチゴを品種「とちひめ」に属するイチゴとして同定することができる。また、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-3-2による増幅産物のバンドが検出されたが、AFLP-STS-1及びRAPD-STS-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは、イチゴ品種「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、及び「とちひとみ」を含む品種群のいずれかに属するイチゴであり、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「やよいひめ」、「メイヒャン」、「宝交早生」及び「アスカウェイブ」の品種には属しないとして、同定することができる。
【0031】
また例えば、本発明の方法において上記プライマーセット(2)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(2)に含まれる配列番号7及び8の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-5]、配列番号9及び10の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-8-2]、配列番号11及び12の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-10-2]、及び配列番号13及び14の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-11-2]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-5による増幅産物は約920bpであり、プライマー対RAPD-STS-8-2による増幅産物は約610bpであり、プライマー対RAPD-STS-10-2による増幅産物は約1150bpであり、プライマー対RAPD-STS-11-2による増幅産物は約290bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-10-2による増幅産物がバンドとして検出され、RAPD-STS-5、RAPD-STS-8-2、RAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは「あまおう」に属するイチゴとして同定することができる。また、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-5及びRAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドが検出されたが、RAPD-STS-10-2及びRAPD-STS-8-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは、「とちおとめ」、「栃の峰」、「レッドパール」、「濃姫」、及び「とちひとみ」からなる品種群のいずれかに属するイチゴであるとして、同定することができる。
【0032】
さらに、本発明の方法において上記プライマーセット(3)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(3)に含まれる配列番号15及び16の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-6-2]、配列番号17及び18の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-9-2]、及び配列番号19及び20の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-14]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-6-2による増幅産物は約310bpであり、プライマー対RAPD-STS-9-2による増幅産物は約460bpであり、プライマー対RAPD-STS-14による増幅産物は約380bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-6-2及びRAPD-STS-14のそれぞれによる増幅産物がバンドとして検出され、RAPD-STS-9-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは「サンチーゴ」に属するイチゴとして同定することができる。
【0033】
上記プライマーセット(1)〜(3)のうち2つ以上を識別に用いる場合には、上記の各プライマーセットで得られる結果を組み合わせてイチゴ品種を識別することができる。例えば上記プライマーセット(1)と(2)を用いて、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(1)を用いた核酸増幅ではRAPD-STS-3-2による増幅産物が検出されたがRAPD-STS-2及びAFLP-STS-1による増幅産物のバンドは検出されず、さらにプライマーセット(2)を用いた核酸増幅ではRAPD-STS-10-2及びRAPD-STS-5による増幅産物が検出されたがRAPD-STS-8-2及びRAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドは検出されない場合には、さらにその供試イチゴは「とねほっぺ」に属するイチゴとして同定することができる。
【0034】
図9に示した関係と実施例の記載に基づいて、各プライマーセット及びその組み合わせによって識別できるイチゴ品種を表1にまとめた。表1に示す各イチゴ品種は、示したプライマーセットを用いた場合、個々の品種に特異的なバンドパターンが示されることから品種毎の識別が可能である。
【0035】
【表1】
【0036】
また本発明は、上記のようなプライマーセット(1)〜(3)にも関する。本発明に係る各プライマーセットは、限定するものではないが、特に上記の25品種のイチゴの識別用に、好適に使用できる。
【0037】
さらに本発明は、本発明に係るプライマーセット(1)〜(3)のうちの少なくとも1つを含む、イチゴ品種識別用キットにも関する。本発明に係るこのイチゴ品種識別用キットは、さらにDNAポリメラーゼ、dNTP混合液、及び核酸増幅反応バッファーなどの核酸増幅用試薬、並びにゲノムDNA抽出用試薬などを含んでもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び図面を参照して本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]イチゴ品種識別用プライマーの開発(1)
本実施例では、RAPD(ランダム増幅多型DNA; Random Amplified Polymorphic DNA)法により、ランダムプライマーを用いて増幅されるバンドのイチゴ品種間多型を検出し、その中から明瞭かつ再現性のある多型を選択してSTS化マーカーを作製した。
【0039】
1.RAPDマーカーの検出
供試品種として、「とちおとめ」、「とよのか」、「さちのか」、「章姫」、「女峰」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「アスカルビー」、「レッドパール」、「とちひめ」、「栃の峰」、「はるのか」、「濃姫」、「紅ほっぺ」、「麗紅」、及び「久留米49号」の計16品種・系統を用いた。これらの各イチゴ品種から採取した未展開葉(幼葉)、がく、果実、及び成葉を試料として、改変CTAB法により、又はNucleon PhytoPure plant DNA extraction Kit(Amersham Bioscience)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。
【0040】
改変CTAB法による抽出の場合は、まず、各イチゴの葉組織1gを液体窒素中で粉砕し、50mlチューブに移して−80℃で保存した。これに10mlの2×CTAB混合液(沸騰直前まで加熱したもの)及び1ml溶解バッファーを順次加えて混合し、更に0.2ml 2-メルカプトメタノール及び100mg polyclar VT(不溶性)を添加して混合した。混合の際にはダマができないよう薬さじ等を使って十分溶解するまでかき混ぜた。
【0041】
続いて、それを60℃、20rpmで60分振とうし、10mlのクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を添加して、室温にて15分、20rpmの条件下で浸とうし、その後7,000rpmにて15分遠心分離した。その上清8〜9mlを採取し、これに10mlのクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を添加し、室温にて15分、20rpmの条件下で浸とうし、その後7,000rpmにて15分遠心分離した。得られる上清8〜9mlに、等量のイソプロパノールを添加し、静かに混合し、析出したDNAをチューブに残すように溶液を除去した。
【0042】
次いで、析出したDNAが含まれるチューブに、RNaseを含む1mlのTE-NaClを添加し、沈殿が完全に溶解するまで55℃で1時間処理した。こうして得られたDNA溶液を2.0mlチューブに移し、1mlのイソプロパノールを加えて静かに混合した。15,000rpmで10分間遠心し、上清を除去した後、70%エタノールを添加し15,000rpmにて10分間遠心して上清を除くという洗浄ステップを2回繰り返した。洗浄後、上清除去したチューブをエバポレーターにて10分間乾燥させ、そこに500μl TE-RNaseを添加して37℃で30分インキュベートした後、使用するまで4℃で保存した。
【0043】
Nucleon Phytopure plant DNA extraction kitを用いたDNA抽出の場合は、まず、各イチゴの組織(未展開葉(幼葉)、成葉、がく、及び果実)100mgを液体窒素中で粉砕し、1.5mlチューブに移して−80℃で保存した。これに600μlのreagent 1(10mlのβメルカプトエタノールを含む)及び200μlのreagent 2を順次加えて混合し、65℃、20rpmで10分間振とうした後、氷上に10分間静置した。reagent 1及びreagent 2は、Nucleon Phytopure plant DNA extraction kitに添付の反応液である。
【0044】
氷上静置後、500μlの氷冷クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)と100μlのNucleon Resinを添加して室温にて10分かけて緩やかに転倒混和した後、15,000rpmにて10分遠心して上清を採取した。得られた上清については、同様に500μlの氷冷クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)と100μlのNucleon Resinを添加して転倒混和する操作を、DNA起源が未展開葉(幼葉)の場合は1回、成葉、がく、及び果実の場合は2回、さらに繰り返して精製した。こうして得た上清に等量の氷冷イソプロパノールを添加し、静かに混合してDNAを析出させてから、15,000rpm、10分遠心した。上清を除去した後、1mlの70%エタノールを添加し緩やかに転倒混和する操作を2回繰り返して洗浄してから、上清を除去しエバポレーターで10分間乾燥させた。これに500μl TE-RNaseを添加して37℃で30分間インキュベートした後、使用するまで4℃で保存した。
【0045】
以上のようにして各試料から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、RAPD法用のランダムプライマーを用いてPCR増幅を行った。ランダムプライマーとしては、和光純薬社製の12merプライマー(300種類)とOperon社製の10merプライマー(165種類)を含む465種類のプライマーを使用した。PCR反応液の組成は、2.5μlの10×PCRバッファー、2.0μlの2.5mM dNTP混合液、1.6μlの7.8μMランダムプライマー、0.2μlの5U/μl rTaqポリメラーゼ(TAKARA)、1.0μlの5ng/μl鋳型ゲノムDNA、滅菌水17.7μlを含む総量25.0μlとした。PCRは、95℃で1分の後、94℃で1分、44℃で2分、72℃で2分を45サイクル繰り返し、最後に72℃で5分の条件で行った。
【0046】
反応後、PCR産物を0.5×TBEバッファー中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出した。検出されたバンドのうち、明瞭かつ再現性のある多型を示すバンド(RAPDマーカー)を選択し、次のSTS化を行った。
【0047】
2.RAPDマーカーのSTS化
上記で選択した多型バンド(RAPDマーカー)が含まれていたPCR産物を、1.5%アガロースゲル上で電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probe)を用いて染色した後、選択したバンドをゲルから切り出した。ゲル抽出キットQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いてDNAを精製した後、ベクター系pGEM-T Easy vector system(Promega)を使用してTAクローニングを行った。
【0048】
PCRによりインサートチェックを行った後、DNA精製システムWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)によりプラスミドを抽出した。得られたプラスミド中のインサートDNAについて、シークエンサーCEQ8000(Beckman Coulter)を用いて配列決定を行った。得られた塩基配列に基づき、ソフトウェアDNASIS(日立ソフト)を用いて、当該多型バンドを特異的に増幅可能なプライマー対の設計を試みた。
【0049】
候補となるプライマー対をそれぞれ委託合成し(つくばオリゴサービス)、各イチゴ品種由来ゲノムDNAを鋳型として特異的な多型バンドが得られるかどうかをPCRによって検討した。その結果、それらのプライマー対を用いて、特定の品種に特異的な多型バンドを示す14個のRAPD-STS化マーカーを検出できることが示された。なお、ここで作製したプライマー対の一部は、特願2005-072445号明細書に開示したものと同一である。
【0050】
図1〜4にはその14個のRAPD-STS化マーカーの検出例を示した。図中、Mのレーンは分子量マーカー(200bp ラダー)、レーン1は「とちおとめ」、レーン2は「とちひめ」、レーン3は「女峰」、レーン4は「栃の峰」、レーン5は「久留米49号」、レーン6は「麗紅」、レーン7は「さちのか」、レーン8は「とよのか」、レーン9は「はるのか」、レーン10は「章姫」、レーン11は「紅ほっぺ」、レーン12は「レッドパール」、レーン13は「濃姫」、レーン14は「アスカルビー」、レーン15は「あまおう(福岡S6号)」、レーン16は「さがほのか」を表す。
【0051】
図1には、ランダムプライマーによるRAPDマーカー(最上段の写真の矢印)の検出から、RAPD-STS化マーカー(最下段の写真の矢印)の作製までの工程も示した。プライマー対RAPD-STS-1-F,R(RAPD-STS-1のフォワードプライマー及びリバースプライマー)は、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」においてのみ認められるE24-STS化マーカーを検出することができた。またRAPD-STS-2-F,R(RAPD-STS-2のフォワードプライマー及びリバースプライマー)は、「とちひめ」及び「栃の峰」においてのみ認められるA72-STS化マーカーを検出することができた。
【0052】
[実施例2]イチゴ品種識別用プライマーの開発(2)
本実施例では、AFLP(増幅断片長多型; Amplified Fragment Length Polymorphism)法により増幅されるバンドのイチゴ品種間多型を検出し、その中から明瞭かつ再現性のある多型を選択してSTS化マーカーを作製した。
【0053】
1.AFLPマーカーの検出
供試品種には実施例1と同じイチゴ品種を使用し、実施例1と同様にしてゲノムDNA抽出を行った。
【0054】
各試料から抽出したゲノムDNA 150ngに、それぞれ制限酵素10U/μl MseI(New England) 0.15μl及び20U/μl EcoRI(New England) 0.075μl、NEBuffer2(New England;MseIに付属)、100×BSA(New England) 0.15μl及び滅菌水10.13μlを添加して総量15μlとし、37℃で3時間インキュベートした後、70℃で15分処理して酵素を失活させた。この制限酵素処理したDNA 10μlに、1.00μlの20μM MseIアダプター、1.00μlの2μM EcoRIアダプター、0.125μlの400U/μl T4 DNAリガーゼ(New England)、1.00μlの10×T4 DNAリガーゼバッファー(T4 DNAリガーゼに付属のもの)、滅菌水6.875μlを添加して総量20μlとし、4℃で一晩処理した。用いたアダプターDNAの塩基配列は、MseIアダプターのフォワードが5'-GACGATGAGTCCTGAG-3'(配列番号21)、リバースが5'-TACTCAGGACTCAT-3'(配列番号22;5'端のTAが制限酵素切断部位に相当)であり、EcoRIアダプターのフォワードが5'-CTCGTAGACTGCGTACC-3'(配列番号23)、リバースが5'-AATTGGTACGCAGTCTAC-3'(配列番号24;5'端のAATTが制限酵素切断部位に相当)である。
【0055】
こうして得たライゲーション産物を1/10 TEバッファーで10倍希釈し、それを鋳型として、アダプターに1塩基付加したプライマーを用いて予備選択PCRを行った。反応液組成は、ライゲーション産物希釈物4.0μl、AFLP core Mix(ABI) 15μl、それぞれ0.5μlの10μM Preselective MseI primer及びPreselective EcoRI primer(いずれもinvitrogen)を含む総量20μlとした。
【0056】
得られた予備選択PCR産物を1/10 TEバッファーで50倍希釈し、それを鋳型として、MseI側及びEcoRI側に位置する各16種類のプライマー(計256通りの組み合わせがありうる)を用いて選択的PCRを行った。反応液組成は、予備選択PCR産物希釈物3.0μl、10×PCRバッファー 2.0μl、2.5mM dNTP mixture 1.6μl、5μM Selective MseI primer(Invitrogen) 1.0μl、1μM Selective EcoRI primer(Invitrogen) 1.0μl、5U/μl rTaqポリメラーゼ(TAKARA) 0.2μl、滅菌水11.2μlを含む総量20μlとした。
【0057】
得られた選択的PCR産物を1×TAEバッファー中、3.5%アガロースゲルで電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probes)で染色し、イメージアナライザーFLA-5000(富士フィルム)によって染色像をスキャンし、画像分析を行った。得られた画像で検出されたバンドのうち、明瞭かつ再現性のある多型を示すバンド(AFLPマーカー)を選択し、次のSTS化を行った。
【0058】
AFLPマーカー検出の例を図5に示した。後述のAFLP-STS化マーカーは、「とちおとめ」及び「栃の峰」においてのみ認められたAFLPマーカー(矢印)に対応していた。
【0059】
2.AFLPマーカーのSTS化
上記で選択した多型バンド(AFLPマーカー)が含まれていたPCR産物を、1.5%アガロースゲル上で電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probe)を用いて染色した後、選択したバンドをゲルから切り出した。ゲル抽出キットQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いてDNAを精製した後、ベクター系pGEM-T Easy vector system(Promega)を使用してTAクローニングを行った。
【0060】
PCRによりインサートチェックを行った後、DNA精製システムWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)によりプラスミドを抽出した。得られたプラスミド中のインサートDNAについて、シークエンサーCEQ8000(Beckman Coulter)を用いて配列決定を行った。得られた塩基配列に基づき、さらに、Luiらの方法(新版 植物のPCR実験プロトコール、秀潤社 (1997)を参照されたい)によってTAIL-PCRを行い、PCR産物の5'側上流領域の塩基配列を決定した。決定された塩基配列に基づき、ソフトウェアDNASIS(日立ソフト)を用いて、多型バンドを特異的に増幅可能なプライマー対の設計を試みた。
【0061】
候補となるプライマー対を委託合成し(つくばオリゴサービス)、各イチゴ品種由来ゲノムDNAを鋳型として特異的な多型バンドが得られるかどうかをPCRによって検討した。その結果、作製したプライマー対を用いて、特定の品種に特異的な多型バンドを示すAFLP-STS化マーカー1個を検出できることが示された。
【0062】
[実施例3]マルチプレックスPCR法によるイチゴ品種の識別
本実施例では、実施例1で作製したRAPD-STS化マーカー及び実施例2で作製したAFLP-STS化マーカーをマルチプレックスPCR法で複数同時検出することにより様々なイチゴ品種を識別する方法の構築を試みた。
【0063】
1.プライマーセット
まず、実施例1及び2で作製したプライマー同士の様々な組み合わせを検討し、さらに必要に応じてそれらプライマー対を構成するプライマーの塩基配列の改変を行った。その結果、イチゴ品種の識別に特に適した増幅パターンをもたらす3つのプライマーセットを作製した。
こうして得られたプライマーセット(1)〜(3)を、以下の表2〜4に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
2.プライマーセット(1)によるPCR増幅
これらのプライマーセットを用いて、各イチゴ品種由来のゲノムDNAを鋳型としたマルチプレックスPCRを行った。供試品種としては「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」の計25品種・系統を用いた。これらの各イチゴ品種から、まず、実施例1と同様にしてゲノムDNAの抽出を行った。
【0068】
次いで、表2に示した、配列番号1〜6のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(1)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表5の通りである。
【0069】
【表5】
【0070】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(1)に用いた3つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図6に示す。
【0071】
図6に示される通り、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCRでは、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」及び「メイヒャン」で品種特異的な増幅パターンが認められた。「とちおとめ」ではRAPD-STS-3-2プライマー対による約1550bpの増幅産物とAFLP-STS-1プライマー対による約310bpの増幅産物がバンドとして検出された。一方、「とちひめ」ではRAPD-STS-2プライマー対による約200bpの増幅産物がバンドとして検出された。また「栃の峰」では、RAPD-STS-3-2プライマー対、AFLP-STS-1プライマー対、及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物がいずれもバンドとして検出された。「メイヒャン」では、RAPD-STS-3-2プライマー対及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物がバンドとして検出された。さらに、調べた他のイチゴ品種のうち「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」では増幅産物のバンドは検出されず、それ以外の品種ではRAPD-STS-3-2プライマー対による増幅産物を示すバンドは検出されたが、AFLP-STS-1プライマー対及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物のバンドは検出されなかった。
【0072】
このことから、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCR法により、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」及び「メイヒャン」をそれぞれ識別できることが示された。さらにこのマルチプレックスPCR法では、それら4品種それぞれと、「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」及び「とちひとみ」からなる品種群と、「やよいひめ」、「宝交早生」及び「アスカウェイブ」からなる品種群とを識別することができることが示された。
【0073】
3.プライマーセット(2)によるPCR増幅
続いて、表3に示した、配列番号7〜14のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(2)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表6の通りである。
【0074】
【表6】
【0075】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(2)に用いた4つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図7に示す。
【0076】
図7に示される通り、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCRでは、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」及び「宝交早生」で品種特異的な増幅パターンが認められた。「アスカルビー」ではRAPD-STS-5プライマー対による約920bpの増幅産物とRAPD-STS-8-2プライマー対による約610bpの増幅産物がバンドとして検出された。一方、「あまおう」ではRAPD-STS-10-2プライマー対による約1150bpの増幅産物がバンドとして検出された。また「さがほのか」では、RAPD-STS-11-2プライマー対による約290bpの増幅産物と、RAPD-STS-10-2プライマー対による約1150bpの増幅産物とがバンドとして検出された。「宝交早生」では、RAPD-STS-11-2プライマー対による約290bpの増幅産物のバンドだけが検出された。さらに、調べた他のイチゴ品種のうち「とちひめ」、「とよのか」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「アスカウェイブ」ではRAPD-STS-11-2プライマー対による増幅産物のバンドは検出されなかった。また「とちおとめ」、「栃の峰」、「レッドパール」、「濃姫」、「メイヒャン」、「ひのしずく」及び「とちひとみ」では、RAPD-STS-10-2プライマー対による増幅産物のバンドが検出されなかった。他にも各プライマー対による増幅産物のバンドの有無は、品種によって異なっていた。
【0077】
以上の結果から、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCR法により、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」及び「宝交早生」の4品種をそれぞれ識別できることが示された。さらに、このプライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCR法の結果を、上記で示したプライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCR法の結果と組み合わせることにより、「とよのか」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、及び「アスカウェイブ」も識別できることが示された。
【0078】
従って、プライマーセット(1)と(2)を使用することにより、13品種を識別できることが示された。
【0079】
4.プライマーセット(3)によるPCR増幅
表4に示した、配列番号15〜20のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(3)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表7の通りである。
【0080】
【表7】
【0081】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(3)に用いた3つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図8に示す。
【0082】
図8に示される通り、プライマーセット(3)を用いたマルチプレックスPCRでは、「サンチーゴ」では品種特異的な増幅パターンが認められ、RAPD-STS-14プライマー対による約380bpの増幅産物とRAPD-STS-6-2プライマー対による約310bpの増幅産物がバンドとして検出されたが、他の多くの品種で検出されたRAPD-STS-9-2プライマー対による約460bpの増幅産物は検出されなかった。各プライマー対による増幅産物のバンドの有無は、品種ごとに異なっていた。
【0083】
以上により、プライマーセット(3)のみを用いたマルチプレックスPCR法により、「サンチーゴ」を識別できることが示された。
【0084】
以上のプライマーセット(1)、(2)、(3)をそれぞれ用いたマルチプレックスPCR法の結果を組み合わせることにより、「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「さつまおとめ」もそれぞれ識別できることが示された。
【0085】
各イチゴ品種において、プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いたマルチプレックスPCRによって得られる増幅産物のバンドパターンを図9にまとめた。プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いて得られるバンドパターンを組み合わせることにより、イチゴの25品種をそれぞれ識別できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、イチゴを品種毎に簡便かつ効率的に識別するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、RAPDマーカーの検出からRAPD-STS化マーカーの作製までの工程を示す写真である。プライマー対RAPD-STS-1-F,Rを例として示した。
【図2】図2は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図3】図3は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図4】図4は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図5】図5は、AFLPマーカーを示す写真である。
【図6】図6は、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)を用いて識別可能な品種を一重枠で囲った。
【図7】図7は、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)で識別可能な品種を一重枠で囲った。プライマーセット(2)、又はプライマーセット(1)とプライマーセット(2)の両方を用いて識別可能な品種を二重枠で囲った。
【図8】図8は、プライマーセット(3)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)で識別可能な品種を一重枠で囲った。プライマーセット(2)、又はプライマーセット(1)とプライマーセット(2)の両方を用いて識別可能な品種を二重枠で囲った。プライマーセット(3)、又はプライマーセット(1)〜(3)を用いて識別可能となった品種にアスタリスクを付記した。
【図9】図9は、プライマーセット(1)〜(3)の各プライマー対によるPCR増幅産物のバンドの有無を、品種毎に示す。図中、+は増幅産物のバンドが検出されたこと、−はバンドが検出されなかったことを表す。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
配列番号1〜20の配列は、プライマーである。
配列番号21〜24の配列は、アダプターである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ品種のDNA配列に基づく識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種苗法による育成者権の保護が重要となってきている。栄養繁殖植物であるイチゴの場合は特に優良品種の流出のリスクが高いため、それらの品種を感度良く検出できる方法の開発が強く求められている。またJAS法による農作物の表示義務等が強化されていることからも、個別のイチゴ品種をDNAレベルで高感度に識別できる方法の需要は高い。
【0003】
植物品種をDNAレベルで識別する方法としては、CAPS法以外にも、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism;制限酵素断片長多型)分析、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA;ランダム増幅多型DNA)分析等の手法が検討されており、いくつかの作物ではそれらの手法を用いた品種識別法が実用化されている。現在では、イチゴ品種の識別方法としても、品種特性に基づいて目視によって識別する方法の他、國久らのCAPSマーカーを用いた品種識別技術が知られている(特許文献1及び2)。またAFLP法によるイチゴ品種の識別方法の報告もある(特許文献3)。しかし、将来的な検査サンプルの増加等に対応するためには、より多くの検体を正確、迅速かつ効率的に処理することができ、より多品種を識別することができる方法の開発が求められている。
【特許文献1】特開2003−339399号公報
【特許文献2】特開2005−102535号公報
【特許文献3】特開2005−278477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多数のイチゴ品種を効率良く識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これまでに、イチゴ品種識別に有用な複数のRAPDマーカーを検出するためのRAPD-STS化プライマーセットを作製している(特願2005−072445号明細書)。しかしながら、RAPDマーカーを個々に検出する方法では検査になお時間を要するため、さらに効率的に品種識別を行える方法を目指して開発を行った。
【0006】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、3回のマルチプレックスPCRによって25種のイチゴ品種をそれぞれ識別することが可能になる3つのプライマーセットを作製し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1] 下記(1)〜(3)のうち少なくとも1つのプライマーセットを用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【0008】
この方法では、識別するイチゴ品種が、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」からなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0009】
この方法では、前記(1)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、及び「メイヒャン」を識別することができる。
【0010】
この方法では、前記(2)のプライマーセットを用いて、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、及び「宝交早生」を識別することもできる。
【0011】
この方法では、前記(3)のプライマーセットを用いて「サンチーゴ」を識別することもできる。
【0012】
この方法では、前記(1)及び(2)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「とよのか」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別することもできる。
【0013】
この方法では、前記(1)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「メイヒャン」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「濃姫」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別することもできる。
【0014】
この方法では、前記(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちひめ」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「宝交早生」、「とちひとみ」、「アスカウェイブ」、「女峰」、及び「レッドパール」を識別することもできる。
【0015】
この方法では、前記(1)、(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」を識別することもできる。
【0016】
[2] 下記(1)〜(3)のいずれかである、イチゴ品種識別用プライマーセット。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【0017】
[3] 上記[2]に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、イチゴ品種識別用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイチゴ品種識別方法は、簡便かつ効率的に多品種を識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型とし、後述のプライマーセット(1)〜(3)のうち少なくとも1つを用いて核酸増幅を行い、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別する方法に関する。
【0020】
本発明の品種識別方法における供試イチゴは、フラガリア・アナナッサ(Fragaria x ananasa)に属する任意の栽培種であってよい。好ましくは、本発明の供試イチゴは、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」のうちのいずれかの品種又はその子孫系統若しくは子孫品種であるか、あるいはそのような系統若しくは品種である可能性が高いと判断される植物であることが好ましい。
【0021】
本発明では、まず、供試イチゴから、ゲノムDNAを抽出することが好ましい。ゲノムDNAは、イチゴ植物体より採取した任意の組織(例えば、葉、茎、果実、がく、花弁、根、カルスなど)から、植物分子生物学の分野で慣用されている手法に従って抽出し、必要に応じて精製し、供試試料として調製すればよい。イチゴからのゲノムDNAの抽出には、後述の実施例に記載する改変CTAB法や、市販の植物ゲノムDNA抽出キット(例えば、Nucleon PhytoPure Plant Kit(Amersham))を用いることが好適である。
【0022】
次いで、抽出したゲノムDNAを鋳型として用いて、核酸増幅を行う。本発明の方法において核酸増幅に用いるプライマーセット(1)〜(3)は、イチゴ品種の識別に特に適するように設計されたものである。プライマーセット(1)は、配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。
【0023】
本発明の方法において同様に用いるプライマーセット(2)は、配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。
【0024】
本発明の方法において同様に用いるプライマーセット(3)は、配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対と、配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対とを含む。本発明の各プライマーセットを構成するプライマーに含まれるオリゴヌクレオチドは、各配列番号で示される塩基配列からなるか又は各配列番号で示される塩基配列を含む好ましくは18〜25bpの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
【0025】
本発明に係るこれらのオリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、そのオリゴヌクレオチド配列の5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)などによる修飾を有していてもよい。本発明の上記プライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。本発明に係る上記プライマーは、ホスホロチオエート結合やホスホロアミデート結合などを含む任意の誘導体オリゴヌクレオチドであってもよいし、ペプチド核酸結合を含むペプチド-核酸(PNA)であってもよい。本発明に係る上記プライマーは、天然塩基のみを含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基としては、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に係る上記プライマーのオリゴヌクレオチドとは、DNAであってもRNAであってもよく、RNAである場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。
【0026】
上記プライマーセット(1)〜(3)を用いたゲノムDNAの核酸増幅は、公知の核酸増幅法に従って行えばよい。好ましくは、本発明の方法において用いる核酸増幅法は、複数のプライマー対を1つの反応系で用いるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法であるマルチプレックスPCRである。本発明に係る方法においてプライマーセットを2つ以上用いる場合、1つの反応液中に複数のプライマーセットを添加して核酸増幅を行ってもよいが、プライマーセット毎に別個の反応液を用いて核酸増幅することがより好ましい。核酸増幅を行う際の反応液組成や温度条件(サイクリング条件)などは、当業者であれば、使用する核酸増幅法、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜定めることができる。プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いたPCR増幅における好適な反応条件の例は、後述の実施例に記載している。
【0027】
本発明では、プライマーセット(1)〜(3)のうち少なくとも1つを用いた核酸増幅によって得られる増幅産物のバンドパターンに基づき、イチゴ品種を識別する。本発明において「増幅産物のバンドパターン」とは、核酸増幅後の反応液中に含まれる増幅産物を常法により電気泳動したときに現れるバンドの種類(分子量)又はバンドの有無、及びバンドの濃さ(増幅産物の相対量若しくは絶対量)等を意味する。このバンドパターンは、0.5×TBE中、1.5%アガロースゲルにてPCR産物を電気泳動し、200bp刻みのラダーを示す分子量マーカーを指標として確認することが特に好ましい。
【0028】
本発明の方法で識別される主たるイチゴ品種は、限定されるものではないが、現在日本で国内主要品種となっている「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」の25品種である。これらの品種の多くは品種登録されている。なお「あまおう」は、品種登録名「福岡S6号」の一般名称である。また「メイヒャン」は韓国育成品種であり、「苺香」とも記載する。本発明において「イチゴ品種を識別する」とは、各イチゴ品種を個別に同定するか、又はイチゴ品種を品種群として特定することを意味する。なお、本発明におけるイチゴの「品種」には、品種登録又は品種登録出願が為されたイチゴ品種だけでなく、品種登録又は品種登録出願がされていないイチゴ品種も包含する。また、あるイチゴ品種に「属する」イチゴには、当該イチゴ品種の純系個体が包含されるが、それ以外にも、当該イチゴ品種を原品種として作製した新たなイチゴ系統であって原品種との間で示される特性の相違が少ない系統(例えば、当該イチゴ品種を親株とした子孫系統)なども含まれる。
【0029】
プライマーセット(1)〜(3)を用いて得た増幅産物のバンドパターンと各イチゴ品種との対応関係は、図9にまとめられている。図9のバンドパターンを参照すれば、使用したプライマーセットに対して得られた増幅産物のバンドパターンから供試イチゴの品種を識別することができる。
【0030】
より具体的には、例えば、本発明の方法において上記プライマーセット(1)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(1)を構成する配列番号1及び2の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-2]、配列番号3及び4の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-3-2]、及び配列番号5及び6の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、AFLP-STS-1]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-2による増幅産物は約200bpであり、プライマー対RAPD-STS-3-2による増幅産物は約1550bpであり、プライマー対AFLP-STS-1による増幅産物は約310bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-2による増幅産物のみがバンドとして検出された場合には、その供試イチゴを品種「とちひめ」に属するイチゴとして同定することができる。また、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-3-2による増幅産物のバンドが検出されたが、AFLP-STS-1及びRAPD-STS-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは、イチゴ品種「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、及び「とちひとみ」を含む品種群のいずれかに属するイチゴであり、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「やよいひめ」、「メイヒャン」、「宝交早生」及び「アスカウェイブ」の品種には属しないとして、同定することができる。
【0031】
また例えば、本発明の方法において上記プライマーセット(2)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(2)に含まれる配列番号7及び8の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-5]、配列番号9及び10の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-8-2]、配列番号11及び12の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-10-2]、及び配列番号13及び14の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-11-2]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-5による増幅産物は約920bpであり、プライマー対RAPD-STS-8-2による増幅産物は約610bpであり、プライマー対RAPD-STS-10-2による増幅産物は約1150bpであり、プライマー対RAPD-STS-11-2による増幅産物は約290bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-10-2による増幅産物がバンドとして検出され、RAPD-STS-5、RAPD-STS-8-2、RAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは「あまおう」に属するイチゴとして同定することができる。また、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-5及びRAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドが検出されたが、RAPD-STS-10-2及びRAPD-STS-8-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは、「とちおとめ」、「栃の峰」、「レッドパール」、「濃姫」、及び「とちひとみ」からなる品種群のいずれかに属するイチゴであるとして、同定することができる。
【0032】
さらに、本発明の方法において上記プライマーセット(3)を用いる場合には、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(3)に含まれる配列番号15及び16の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-6-2]、配列番号17及び18の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-9-2]、及び配列番号19及び20の配列をそれぞれ含むプライマーからなるプライマー対[以下、RAPD-STS-14]のそれぞれによって得られる増幅産物に相当するバンドの有無を検出し、そのバンドパターンを図9の対応関係に当てはめて、イチゴ品種を識別すればよい。ここでプライマー対RAPD-STS-6-2による増幅産物は約310bpであり、プライマー対RAPD-STS-9-2による増幅産物は約460bpであり、プライマー対RAPD-STS-14による増幅産物は約380bpである。一例としては、ある供試イチゴについて、RAPD-STS-6-2及びRAPD-STS-14のそれぞれによる増幅産物がバンドとして検出され、RAPD-STS-9-2による増幅産物のバンドは検出されなかった場合には、その供試イチゴは「サンチーゴ」に属するイチゴとして同定することができる。
【0033】
上記プライマーセット(1)〜(3)のうち2つ以上を識別に用いる場合には、上記の各プライマーセットで得られる結果を組み合わせてイチゴ品種を識別することができる。例えば上記プライマーセット(1)と(2)を用いて、供試イチゴ由来のゲノムDNAを鋳型として核酸増幅した反応産物を電気泳動して得られる泳動像において、プライマーセット(1)を用いた核酸増幅ではRAPD-STS-3-2による増幅産物が検出されたがRAPD-STS-2及びAFLP-STS-1による増幅産物のバンドは検出されず、さらにプライマーセット(2)を用いた核酸増幅ではRAPD-STS-10-2及びRAPD-STS-5による増幅産物が検出されたがRAPD-STS-8-2及びRAPD-STS-11-2による増幅産物のバンドは検出されない場合には、さらにその供試イチゴは「とねほっぺ」に属するイチゴとして同定することができる。
【0034】
図9に示した関係と実施例の記載に基づいて、各プライマーセット及びその組み合わせによって識別できるイチゴ品種を表1にまとめた。表1に示す各イチゴ品種は、示したプライマーセットを用いた場合、個々の品種に特異的なバンドパターンが示されることから品種毎の識別が可能である。
【0035】
【表1】
【0036】
また本発明は、上記のようなプライマーセット(1)〜(3)にも関する。本発明に係る各プライマーセットは、限定するものではないが、特に上記の25品種のイチゴの識別用に、好適に使用できる。
【0037】
さらに本発明は、本発明に係るプライマーセット(1)〜(3)のうちの少なくとも1つを含む、イチゴ品種識別用キットにも関する。本発明に係るこのイチゴ品種識別用キットは、さらにDNAポリメラーゼ、dNTP混合液、及び核酸増幅反応バッファーなどの核酸増幅用試薬、並びにゲノムDNA抽出用試薬などを含んでもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び図面を参照して本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]イチゴ品種識別用プライマーの開発(1)
本実施例では、RAPD(ランダム増幅多型DNA; Random Amplified Polymorphic DNA)法により、ランダムプライマーを用いて増幅されるバンドのイチゴ品種間多型を検出し、その中から明瞭かつ再現性のある多型を選択してSTS化マーカーを作製した。
【0039】
1.RAPDマーカーの検出
供試品種として、「とちおとめ」、「とよのか」、「さちのか」、「章姫」、「女峰」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「アスカルビー」、「レッドパール」、「とちひめ」、「栃の峰」、「はるのか」、「濃姫」、「紅ほっぺ」、「麗紅」、及び「久留米49号」の計16品種・系統を用いた。これらの各イチゴ品種から採取した未展開葉(幼葉)、がく、果実、及び成葉を試料として、改変CTAB法により、又はNucleon PhytoPure plant DNA extraction Kit(Amersham Bioscience)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。
【0040】
改変CTAB法による抽出の場合は、まず、各イチゴの葉組織1gを液体窒素中で粉砕し、50mlチューブに移して−80℃で保存した。これに10mlの2×CTAB混合液(沸騰直前まで加熱したもの)及び1ml溶解バッファーを順次加えて混合し、更に0.2ml 2-メルカプトメタノール及び100mg polyclar VT(不溶性)を添加して混合した。混合の際にはダマができないよう薬さじ等を使って十分溶解するまでかき混ぜた。
【0041】
続いて、それを60℃、20rpmで60分振とうし、10mlのクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を添加して、室温にて15分、20rpmの条件下で浸とうし、その後7,000rpmにて15分遠心分離した。その上清8〜9mlを採取し、これに10mlのクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を添加し、室温にて15分、20rpmの条件下で浸とうし、その後7,000rpmにて15分遠心分離した。得られる上清8〜9mlに、等量のイソプロパノールを添加し、静かに混合し、析出したDNAをチューブに残すように溶液を除去した。
【0042】
次いで、析出したDNAが含まれるチューブに、RNaseを含む1mlのTE-NaClを添加し、沈殿が完全に溶解するまで55℃で1時間処理した。こうして得られたDNA溶液を2.0mlチューブに移し、1mlのイソプロパノールを加えて静かに混合した。15,000rpmで10分間遠心し、上清を除去した後、70%エタノールを添加し15,000rpmにて10分間遠心して上清を除くという洗浄ステップを2回繰り返した。洗浄後、上清除去したチューブをエバポレーターにて10分間乾燥させ、そこに500μl TE-RNaseを添加して37℃で30分インキュベートした後、使用するまで4℃で保存した。
【0043】
Nucleon Phytopure plant DNA extraction kitを用いたDNA抽出の場合は、まず、各イチゴの組織(未展開葉(幼葉)、成葉、がく、及び果実)100mgを液体窒素中で粉砕し、1.5mlチューブに移して−80℃で保存した。これに600μlのreagent 1(10mlのβメルカプトエタノールを含む)及び200μlのreagent 2を順次加えて混合し、65℃、20rpmで10分間振とうした後、氷上に10分間静置した。reagent 1及びreagent 2は、Nucleon Phytopure plant DNA extraction kitに添付の反応液である。
【0044】
氷上静置後、500μlの氷冷クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)と100μlのNucleon Resinを添加して室温にて10分かけて緩やかに転倒混和した後、15,000rpmにて10分遠心して上清を採取した。得られた上清については、同様に500μlの氷冷クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)と100μlのNucleon Resinを添加して転倒混和する操作を、DNA起源が未展開葉(幼葉)の場合は1回、成葉、がく、及び果実の場合は2回、さらに繰り返して精製した。こうして得た上清に等量の氷冷イソプロパノールを添加し、静かに混合してDNAを析出させてから、15,000rpm、10分遠心した。上清を除去した後、1mlの70%エタノールを添加し緩やかに転倒混和する操作を2回繰り返して洗浄してから、上清を除去しエバポレーターで10分間乾燥させた。これに500μl TE-RNaseを添加して37℃で30分間インキュベートした後、使用するまで4℃で保存した。
【0045】
以上のようにして各試料から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、RAPD法用のランダムプライマーを用いてPCR増幅を行った。ランダムプライマーとしては、和光純薬社製の12merプライマー(300種類)とOperon社製の10merプライマー(165種類)を含む465種類のプライマーを使用した。PCR反応液の組成は、2.5μlの10×PCRバッファー、2.0μlの2.5mM dNTP混合液、1.6μlの7.8μMランダムプライマー、0.2μlの5U/μl rTaqポリメラーゼ(TAKARA)、1.0μlの5ng/μl鋳型ゲノムDNA、滅菌水17.7μlを含む総量25.0μlとした。PCRは、95℃で1分の後、94℃で1分、44℃で2分、72℃で2分を45サイクル繰り返し、最後に72℃で5分の条件で行った。
【0046】
反応後、PCR産物を0.5×TBEバッファー中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出した。検出されたバンドのうち、明瞭かつ再現性のある多型を示すバンド(RAPDマーカー)を選択し、次のSTS化を行った。
【0047】
2.RAPDマーカーのSTS化
上記で選択した多型バンド(RAPDマーカー)が含まれていたPCR産物を、1.5%アガロースゲル上で電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probe)を用いて染色した後、選択したバンドをゲルから切り出した。ゲル抽出キットQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いてDNAを精製した後、ベクター系pGEM-T Easy vector system(Promega)を使用してTAクローニングを行った。
【0048】
PCRによりインサートチェックを行った後、DNA精製システムWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)によりプラスミドを抽出した。得られたプラスミド中のインサートDNAについて、シークエンサーCEQ8000(Beckman Coulter)を用いて配列決定を行った。得られた塩基配列に基づき、ソフトウェアDNASIS(日立ソフト)を用いて、当該多型バンドを特異的に増幅可能なプライマー対の設計を試みた。
【0049】
候補となるプライマー対をそれぞれ委託合成し(つくばオリゴサービス)、各イチゴ品種由来ゲノムDNAを鋳型として特異的な多型バンドが得られるかどうかをPCRによって検討した。その結果、それらのプライマー対を用いて、特定の品種に特異的な多型バンドを示す14個のRAPD-STS化マーカーを検出できることが示された。なお、ここで作製したプライマー対の一部は、特願2005-072445号明細書に開示したものと同一である。
【0050】
図1〜4にはその14個のRAPD-STS化マーカーの検出例を示した。図中、Mのレーンは分子量マーカー(200bp ラダー)、レーン1は「とちおとめ」、レーン2は「とちひめ」、レーン3は「女峰」、レーン4は「栃の峰」、レーン5は「久留米49号」、レーン6は「麗紅」、レーン7は「さちのか」、レーン8は「とよのか」、レーン9は「はるのか」、レーン10は「章姫」、レーン11は「紅ほっぺ」、レーン12は「レッドパール」、レーン13は「濃姫」、レーン14は「アスカルビー」、レーン15は「あまおう(福岡S6号)」、レーン16は「さがほのか」を表す。
【0051】
図1には、ランダムプライマーによるRAPDマーカー(最上段の写真の矢印)の検出から、RAPD-STS化マーカー(最下段の写真の矢印)の作製までの工程も示した。プライマー対RAPD-STS-1-F,R(RAPD-STS-1のフォワードプライマー及びリバースプライマー)は、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」においてのみ認められるE24-STS化マーカーを検出することができた。またRAPD-STS-2-F,R(RAPD-STS-2のフォワードプライマー及びリバースプライマー)は、「とちひめ」及び「栃の峰」においてのみ認められるA72-STS化マーカーを検出することができた。
【0052】
[実施例2]イチゴ品種識別用プライマーの開発(2)
本実施例では、AFLP(増幅断片長多型; Amplified Fragment Length Polymorphism)法により増幅されるバンドのイチゴ品種間多型を検出し、その中から明瞭かつ再現性のある多型を選択してSTS化マーカーを作製した。
【0053】
1.AFLPマーカーの検出
供試品種には実施例1と同じイチゴ品種を使用し、実施例1と同様にしてゲノムDNA抽出を行った。
【0054】
各試料から抽出したゲノムDNA 150ngに、それぞれ制限酵素10U/μl MseI(New England) 0.15μl及び20U/μl EcoRI(New England) 0.075μl、NEBuffer2(New England;MseIに付属)、100×BSA(New England) 0.15μl及び滅菌水10.13μlを添加して総量15μlとし、37℃で3時間インキュベートした後、70℃で15分処理して酵素を失活させた。この制限酵素処理したDNA 10μlに、1.00μlの20μM MseIアダプター、1.00μlの2μM EcoRIアダプター、0.125μlの400U/μl T4 DNAリガーゼ(New England)、1.00μlの10×T4 DNAリガーゼバッファー(T4 DNAリガーゼに付属のもの)、滅菌水6.875μlを添加して総量20μlとし、4℃で一晩処理した。用いたアダプターDNAの塩基配列は、MseIアダプターのフォワードが5'-GACGATGAGTCCTGAG-3'(配列番号21)、リバースが5'-TACTCAGGACTCAT-3'(配列番号22;5'端のTAが制限酵素切断部位に相当)であり、EcoRIアダプターのフォワードが5'-CTCGTAGACTGCGTACC-3'(配列番号23)、リバースが5'-AATTGGTACGCAGTCTAC-3'(配列番号24;5'端のAATTが制限酵素切断部位に相当)である。
【0055】
こうして得たライゲーション産物を1/10 TEバッファーで10倍希釈し、それを鋳型として、アダプターに1塩基付加したプライマーを用いて予備選択PCRを行った。反応液組成は、ライゲーション産物希釈物4.0μl、AFLP core Mix(ABI) 15μl、それぞれ0.5μlの10μM Preselective MseI primer及びPreselective EcoRI primer(いずれもinvitrogen)を含む総量20μlとした。
【0056】
得られた予備選択PCR産物を1/10 TEバッファーで50倍希釈し、それを鋳型として、MseI側及びEcoRI側に位置する各16種類のプライマー(計256通りの組み合わせがありうる)を用いて選択的PCRを行った。反応液組成は、予備選択PCR産物希釈物3.0μl、10×PCRバッファー 2.0μl、2.5mM dNTP mixture 1.6μl、5μM Selective MseI primer(Invitrogen) 1.0μl、1μM Selective EcoRI primer(Invitrogen) 1.0μl、5U/μl rTaqポリメラーゼ(TAKARA) 0.2μl、滅菌水11.2μlを含む総量20μlとした。
【0057】
得られた選択的PCR産物を1×TAEバッファー中、3.5%アガロースゲルで電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probes)で染色し、イメージアナライザーFLA-5000(富士フィルム)によって染色像をスキャンし、画像分析を行った。得られた画像で検出されたバンドのうち、明瞭かつ再現性のある多型を示すバンド(AFLPマーカー)を選択し、次のSTS化を行った。
【0058】
AFLPマーカー検出の例を図5に示した。後述のAFLP-STS化マーカーは、「とちおとめ」及び「栃の峰」においてのみ認められたAFLPマーカー(矢印)に対応していた。
【0059】
2.AFLPマーカーのSTS化
上記で選択した多型バンド(AFLPマーカー)が含まれていたPCR産物を、1.5%アガロースゲル上で電気泳動した後、SYBR Green type I(Molecular Probe)を用いて染色した後、選択したバンドをゲルから切り出した。ゲル抽出キットQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いてDNAを精製した後、ベクター系pGEM-T Easy vector system(Promega)を使用してTAクローニングを行った。
【0060】
PCRによりインサートチェックを行った後、DNA精製システムWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)によりプラスミドを抽出した。得られたプラスミド中のインサートDNAについて、シークエンサーCEQ8000(Beckman Coulter)を用いて配列決定を行った。得られた塩基配列に基づき、さらに、Luiらの方法(新版 植物のPCR実験プロトコール、秀潤社 (1997)を参照されたい)によってTAIL-PCRを行い、PCR産物の5'側上流領域の塩基配列を決定した。決定された塩基配列に基づき、ソフトウェアDNASIS(日立ソフト)を用いて、多型バンドを特異的に増幅可能なプライマー対の設計を試みた。
【0061】
候補となるプライマー対を委託合成し(つくばオリゴサービス)、各イチゴ品種由来ゲノムDNAを鋳型として特異的な多型バンドが得られるかどうかをPCRによって検討した。その結果、作製したプライマー対を用いて、特定の品種に特異的な多型バンドを示すAFLP-STS化マーカー1個を検出できることが示された。
【0062】
[実施例3]マルチプレックスPCR法によるイチゴ品種の識別
本実施例では、実施例1で作製したRAPD-STS化マーカー及び実施例2で作製したAFLP-STS化マーカーをマルチプレックスPCR法で複数同時検出することにより様々なイチゴ品種を識別する方法の構築を試みた。
【0063】
1.プライマーセット
まず、実施例1及び2で作製したプライマー同士の様々な組み合わせを検討し、さらに必要に応じてそれらプライマー対を構成するプライマーの塩基配列の改変を行った。その結果、イチゴ品種の識別に特に適した増幅パターンをもたらす3つのプライマーセットを作製した。
こうして得られたプライマーセット(1)〜(3)を、以下の表2〜4に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
2.プライマーセット(1)によるPCR増幅
これらのプライマーセットを用いて、各イチゴ品種由来のゲノムDNAを鋳型としたマルチプレックスPCRを行った。供試品種としては「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」の計25品種・系統を用いた。これらの各イチゴ品種から、まず、実施例1と同様にしてゲノムDNAの抽出を行った。
【0068】
次いで、表2に示した、配列番号1〜6のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(1)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表5の通りである。
【0069】
【表5】
【0070】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(1)に用いた3つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図6に示す。
【0071】
図6に示される通り、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCRでは、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」及び「メイヒャン」で品種特異的な増幅パターンが認められた。「とちおとめ」ではRAPD-STS-3-2プライマー対による約1550bpの増幅産物とAFLP-STS-1プライマー対による約310bpの増幅産物がバンドとして検出された。一方、「とちひめ」ではRAPD-STS-2プライマー対による約200bpの増幅産物がバンドとして検出された。また「栃の峰」では、RAPD-STS-3-2プライマー対、AFLP-STS-1プライマー対、及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物がいずれもバンドとして検出された。「メイヒャン」では、RAPD-STS-3-2プライマー対及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物がバンドとして検出された。さらに、調べた他のイチゴ品種のうち「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」では増幅産物のバンドは検出されず、それ以外の品種ではRAPD-STS-3-2プライマー対による増幅産物を示すバンドは検出されたが、AFLP-STS-1プライマー対及びRAPD-STS-2プライマー対による増幅産物のバンドは検出されなかった。
【0072】
このことから、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCR法により、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」及び「メイヒャン」をそれぞれ識別できることが示された。さらにこのマルチプレックスPCR法では、それら4品種それぞれと、「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう(福岡S6号)」、「さがほのか」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」及び「とちひとみ」からなる品種群と、「やよいひめ」、「宝交早生」及び「アスカウェイブ」からなる品種群とを識別することができることが示された。
【0073】
3.プライマーセット(2)によるPCR増幅
続いて、表3に示した、配列番号7〜14のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(2)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表6の通りである。
【0074】
【表6】
【0075】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(2)に用いた4つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図7に示す。
【0076】
図7に示される通り、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCRでは、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」及び「宝交早生」で品種特異的な増幅パターンが認められた。「アスカルビー」ではRAPD-STS-5プライマー対による約920bpの増幅産物とRAPD-STS-8-2プライマー対による約610bpの増幅産物がバンドとして検出された。一方、「あまおう」ではRAPD-STS-10-2プライマー対による約1150bpの増幅産物がバンドとして検出された。また「さがほのか」では、RAPD-STS-11-2プライマー対による約290bpの増幅産物と、RAPD-STS-10-2プライマー対による約1150bpの増幅産物とがバンドとして検出された。「宝交早生」では、RAPD-STS-11-2プライマー対による約290bpの増幅産物のバンドだけが検出された。さらに、調べた他のイチゴ品種のうち「とちひめ」、「とよのか」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「アスカウェイブ」ではRAPD-STS-11-2プライマー対による増幅産物のバンドは検出されなかった。また「とちおとめ」、「栃の峰」、「レッドパール」、「濃姫」、「メイヒャン」、「ひのしずく」及び「とちひとみ」では、RAPD-STS-10-2プライマー対による増幅産物のバンドが検出されなかった。他にも各プライマー対による増幅産物のバンドの有無は、品種によって異なっていた。
【0077】
以上の結果から、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCR法により、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」及び「宝交早生」の4品種をそれぞれ識別できることが示された。さらに、このプライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCR法の結果を、上記で示したプライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCR法の結果と組み合わせることにより、「とよのか」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、及び「アスカウェイブ」も識別できることが示された。
【0078】
従って、プライマーセット(1)と(2)を使用することにより、13品種を識別できることが示された。
【0079】
4.プライマーセット(3)によるPCR増幅
表4に示した、配列番号15〜20のオリゴヌクレオチドプライマーから構成されるプライマーセット(3)を用いてPCRを行った。各イチゴ品種について調製したPCR反応液の組成は、表7の通りである。
【0080】
【表7】
【0081】
PCR反応は、95℃で5分の後、94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分を35サイクル繰り返し、さらに72℃で7分の条件で行った。得られたPCR産物を0.5×TBE中、1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した後、UV光下でバンドを検出したところ、プライマーセット(3)に用いた3つのプライマー対によるSTS化マーカーの増幅が確認された。この結果を図8に示す。
【0082】
図8に示される通り、プライマーセット(3)を用いたマルチプレックスPCRでは、「サンチーゴ」では品種特異的な増幅パターンが認められ、RAPD-STS-14プライマー対による約380bpの増幅産物とRAPD-STS-6-2プライマー対による約310bpの増幅産物がバンドとして検出されたが、他の多くの品種で検出されたRAPD-STS-9-2プライマー対による約460bpの増幅産物は検出されなかった。各プライマー対による増幅産物のバンドの有無は、品種ごとに異なっていた。
【0083】
以上により、プライマーセット(3)のみを用いたマルチプレックスPCR法により、「サンチーゴ」を識別できることが示された。
【0084】
以上のプライマーセット(1)、(2)、(3)をそれぞれ用いたマルチプレックスPCR法の結果を組み合わせることにより、「女峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「さつまおとめ」もそれぞれ識別できることが示された。
【0085】
各イチゴ品種において、プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いたマルチプレックスPCRによって得られる増幅産物のバンドパターンを図9にまとめた。プライマーセット(1)〜(3)をそれぞれ用いて得られるバンドパターンを組み合わせることにより、イチゴの25品種をそれぞれ識別できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、イチゴを品種毎に簡便かつ効率的に識別するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、RAPDマーカーの検出からRAPD-STS化マーカーの作製までの工程を示す写真である。プライマー対RAPD-STS-1-F,Rを例として示した。
【図2】図2は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図3】図3は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図4】図4は、RAPD-STS化マーカーの検出例を示す写真である。
【図5】図5は、AFLPマーカーを示す写真である。
【図6】図6は、プライマーセット(1)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)を用いて識別可能な品種を一重枠で囲った。
【図7】図7は、プライマーセット(2)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)で識別可能な品種を一重枠で囲った。プライマーセット(2)、又はプライマーセット(1)とプライマーセット(2)の両方を用いて識別可能な品種を二重枠で囲った。
【図8】図8は、プライマーセット(3)を用いたマルチプレックスPCRの結果を示す写真である。プライマーセット(1)で識別可能な品種を一重枠で囲った。プライマーセット(2)、又はプライマーセット(1)とプライマーセット(2)の両方を用いて識別可能な品種を二重枠で囲った。プライマーセット(3)、又はプライマーセット(1)〜(3)を用いて識別可能となった品種にアスタリスクを付記した。
【図9】図9は、プライマーセット(1)〜(3)の各プライマー対によるPCR増幅産物のバンドの有無を、品種毎に示す。図中、+は増幅産物のバンドが検出されたこと、−はバンドが検出されなかったことを表す。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
配列番号1〜20の配列は、プライマーである。
配列番号21〜24の配列は、アダプターである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)のうち少なくとも1つのプライマーセットを用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【請求項2】
イチゴ品種が、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、及び「メイヒャン」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(2)のプライマーセットを用いて、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、及び「宝交早生」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記(3)のプライマーセットを用いて「サンチーゴ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記(1)及び(2)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「とよのか」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記(1)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「メイヒャン」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「濃姫」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちひめ」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「宝交早生」、「とちひとみ」、「アスカウェイブ」、「女峰」、及び「レッドパール」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記(1)、(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
下記(1)〜(3)のいずれかである、イチゴ品種識別用プライマーセット。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【請求項11】
請求項10に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、イチゴ品種識別用キット。
【請求項1】
下記(1)〜(3)のうち少なくとも1つのプライマーセットを用いてイチゴ由来のゲノムDNAを核酸増幅し、得られる増幅産物のバンドパターンに基づいてイチゴ品種を識別することを特徴とする、イチゴ品種の識別方法。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【請求項2】
イチゴ品種が、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、及び「メイヒャン」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(2)のプライマーセットを用いて、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、及び「宝交早生」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記(3)のプライマーセットを用いて「サンチーゴ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記(1)及び(2)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「とよのか」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記(1)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「栃の峰」、「メイヒャン」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「濃姫」、「宝交早生」、及び「アスカウェイブ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちひめ」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「宝交早生」、「とちひとみ」、「アスカウェイブ」、「女峰」、及び「レッドパール」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記(1)、(2)及び(3)のプライマーセットを用いて、「とちおとめ」、「とちひめ」、「女峰」、「栃の峰」、「久留米49号」、「麗紅」、「さちのか」、「とよのか」、「はるのか」、「章姫」、「紅ほっぺ」、「レッドパール」、「濃姫」、「アスカルビー」、「あまおう」、「さがほのか」、「メイヒャン」、「ひのしずく」、「さつまおとめ」、「サンチーゴ」、「とねほっぺ」、「やよいひめ」、「宝交早生」、「アスカウェイブ」、及び「とちひとみ」を識別する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
下記(1)〜(3)のいずれかである、イチゴ品種識別用プライマーセット。
(1) 以下のa)〜c)のプライマー対を含むプライマーセット:
a) 配列番号1及び2で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
b) 配列番号3及び4で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
c) 配列番号5及び6で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(2) 以下のd)〜g)のプライマー対を含むプライマーセット:
d) 配列番号7及び8で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
e) 配列番号9及び10で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
f) 配列番号11及び12で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
g) 配列番号13及び14で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対;
(3) 以下のh)〜j)のプライマー対を含むプライマーセット:
h) 配列番号15及び16で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、
i) 配列番号17及び18で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対、及び
j) 配列番号19及び20で示される塩基配列をそれぞれ含むオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対
【請求項11】
請求項10に記載のプライマーセットを少なくとも1つ含む、イチゴ品種識別用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2007−252318(P2007−252318A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83274(P2006−83274)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]