説明

うっ血判定装置、脈波測定装置及びうっ血判定方法

【課題】測定部位がうっ血状態であるかを判定する技術を提供する。
【解決手段】うっ血判定装置は、脈波を測定する測定部位に位置する静脈の径を検出する静脈検出部と、予め定められた条件下において前記静脈検出部が検出した静脈の径を示す情報を記憶する記憶部と、前記静脈検出部によって検出された静脈の径と前記記憶部に記憶された情報とを、予め定められたタイミングで比較し、該静脈の径の変化量に応じて、前記測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する判定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うっ血判定装置、脈波測定装置及びうっ血判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体、特に人体における脈波の検出方法として、光電変換による脈波測定方法が用いら
れてきた。この方法においては、発光ダイオードなどの発光素子から血液に吸収されやす
い波長の光を発光し、生体を透過若しくは生体内に進入後、生体内の組織によって散乱し
た光をフォトダイオードやフォトトランジスターなどの受光素子によって受光する。そし
て、受光した光を電気信号に変換することにより脈波を検出する。動脈は、心拍と同周期
で膨張と伸縮を繰り返しているが、生体内に進入した光の吸収は、動脈が膨張していると
きのほうが動脈が伸縮しているときに比べて大きいため、受光素子で受光される光の強度
は拍動に応じて変化する。すなわち、血管の膨張と収縮の周期と同じ周期で、発光素子か
ら発せられた光の吸収量が増減し、その増減に合わせて反射光の光の強度が変化する。こ
のような変化を利用した技術として、例えば、特許文献1には、光電脈波センサーによっ
て検出された光電脈波の所定の振幅値を表す基準点間の時間差に基づいて、測定対象者の
心拍数を逐次算出する技術が開示されている。また、特許文献2には、検出した光電脈波
に基づいて脈拍数を求める技術が開示されている。また、特許文献3には、光電脈波を測
定し、測定した光電脈波に関連する測定データに基づいて、複数の異なる症例に対応する
多面的なデータ解析を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−118038号公報
【特許文献2】特開2003−169780号公報
【特許文献3】特開2007−117591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、測定対象者が腕を下方に長時間垂らしている場合等、測定対象者の
血液灌流が重力の影響を受ける場合に、測定部位の周辺がうっ血状態となり脈波の測定に
悪影響を及ぼす場合がある。
本発明は、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るうっ血判定装置は、脈波を測定する測定部位に位置する静脈の径を検出す
る静脈検出部と、予め定められた条件下において前記静脈検出部が検出した静脈の径を示
す情報を記憶する記憶部と、前記静脈検出部によって検出された静脈の径と前記記憶部に
記憶された情報とを、予め定められたタイミングで比較し、該静脈の径の変化量に応じて
、前記測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とする
。この構成によれば、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定することができる。
【0006】
また、本発明に係る脈波測定装置は、上記うっ血判定装置と、前記測定部位に予め定め
られた波長の光を照射する発光部と、前記測定部位に照射された光が該測定部位を透過又
は反射した光の受光量に基づく測定信号を出力する受光部と、前記受光部が出力する測定
信号に基づいて脈波を示す脈波信号を生成する生成部と、前記判定部の判定結果に応じて
、前記発光部の発光及び前記生成部が行う処理の少なくともいずれか一方を制御する制御
部とを具備することとしてもよい。この構成によれば、測定部位がうっ血状態であるか否
かに応じて脈波測定処理の内容を制御することができる。
【0007】
また、本発明に係る脈波測定装置は、上記脈波測定装置において、前記判定部は、前記
静脈の径が予め定められた閾値以上大きくなっている場合に、前記測定部位がうっ血状態
であると判定することとしてもよい。この構成によれば、うっ血状態であるか否かをより
好適に判定することができる。
【0008】
また、本発明に係る脈波測定装置は、上記脈波測定装置において、前記制御部は、前記
判定部の判定結果が肯定的である場合に、前記発光部の発光量を大きくすることとしても
よい。この構成によれば、うっ血状態であっても脈波の測定を行い易くすることができる

【0009】
また、本発明に係る脈波測定装置は、上記脈波測定装置において、非うっ血状態での脈
波の測定結果を示す基準信号に対する前記脈波信号の振幅の変動幅が予め定められた範囲
内であるか否かを判定する第2の判定部を具備し、前記判定部は、前記静脈の径の変化量
及び前記第2の判定部の判定結果に応じて、前記測定部位がうっ血状態であるか否かを判
定することとしてもよい。この構成によれば、うっ血状態であるか否かをより好適に判定
することができる。
【0010】
また、本発明に係るうっ血判定方法は、予め定められた条件下において、脈波を測定す
る測定部位に位置する静脈の径を検出する第1の静脈検出ステップと、前記第1の静脈検
出ステップにおいて検出された静脈の径を示す情報を記憶部に記憶する記憶ステップと、
前記測定部位に位置する静脈の径を検出する第2の静脈検出ステップと、前記第2の静脈
検出ステップにおいて検出された静脈の径と前記記憶部に記憶された情報とを、予め定め
られたタイミングで比較し、該静脈の径の変化量に応じて、前記測定部位がうっ血状態で
あるか否かを判定する判定ステップとを有することを特徴とする。この構成によれば、測
定部位がうっ血状態であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】脈波測定装置の外観を表す図。
【図2】脈波測定装置の構成例を示すブロック図。
【図3】制御部の機能ブロック図。
【図4】静脈イメージング部によって撮影される静脈の一例を示す図
【図5】脈波測定装置の動作を表す動作フロー図。
【図6】測定部位の姿勢を説明する図。
【図7】(a)は脈波の測定信号の波形例を示す図。(b)は(a)の測定信号に基づく移動標準偏差の波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<構成>
図1は、本実施形態に係る脈波測定装置の外観を示す図である。図1(a)は、脈波測
定装置1を上面から見た図である。脈波測定装置1は、生体2の手首に装着される装置本
体10と、脈波を測定する測定部位に装着される脈波センサー20とをケーブル30で接
続して構成されている。本実施形態では、脈波センサー20は、図1(b)に示すように
、人差指の根元の手のひら側にバンド40によって固定される。装置本体10には、ディ
スプレイ15と脈波測定装置1を操作するための操作スイッチ16が設けられている。本
実施形態では、装置本体10は、本発明のうっ血判定装置として機能する。以下、脈波測
定装置1の各構成を脈波センサー20、装置本体10の順に説明する。
【0013】
図2は、脈波測定装置1の構成を表すブロック図である。図において、受発光部210
は、例えば緑色光の波長の光を照射するLED(Light Emitting Diod)などの発光素子
211と、緑色光を受光するフォトダイオードなどの受光素子212とを有する。発光素
子211は、本発明に係る発光部の一例である。受光素子212は、発光素子211によ
って照射された光が測定部位で反射した反射光を受光し、受光量に応じた信号を出力する
。受光素子212は、本発明に係る受光部の一例である。駆動部220は、発光素子21
1の発光強度と発光タイミングを制御する制御信号がアナログ制御回路(不図示)から供
給され、この制御信号の振幅に応じた大きさの電流を受発光部210の発光素子211に
供給する。
【0014】
図1(b)において、測定部位(指)と接触している脈波センサー20の部分には、ガ
ラス板などの光を透過させる透過板(図示略)が設けられており、透過板の下方に受発光
部210が設けられている。発光素子211は透過板の方向が光軸方向となるように固定
され、受光素子212は透過板の方向に受光面が向くように固定されている。発光素子2
11が発した光は透過板を透過して測定部位に照射され、測定部位から反射した光を、透
過板を介して受光素子212が受光する。受光素子212は、受光量に応じた大きさの電
流の測定信号を、ケーブル30を介して装置本体10に送出する。
【0015】
静脈イメージング部230は、近赤外線光を発する発光素子231と、発光素子231
が発した近赤外線光の反射光を受光し、受光量に応じた信号を出力するCCD(Charge C
oupled Device)イメージセンサー等のセンサー素子232とを有する。センサー素子2
32は、受光量に応じた大きさの電流の測定信号を、ケーブル30を介して装置本体10
に送出する。近赤外線光により静脈の位置を検出する手法は以下のとおりである。静脈に
流れている赤血球の中のヘモグロビンは酸素を失っている。このヘモグロビン(還元ヘモ
グロビン)は近赤外線を吸収する。波長700〜1200nmの近赤外領域の光は生体組
織をよく透過して、静脈を流れる血液中にあるヘモグロビンに反応する。そのため、測定
部位に近赤外線を当てると静脈がある部分だけ反射が少なく、映像上、暗く映し出される
。つまり、反射した近赤外線の強弱で静脈の位置を認識できる。本実施形態では、このよ
うにして認識される静脈の径の変動を検出してうっ血の有無の判定に用いる。
【0016】
図2に示すように、装置本体10は、制御部110、信号処理部120、表示部150
、操作部160及び記憶部180を有する。制御部110は、CPU(Central Processi
ng Unit)とメモリー(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory
)を有し、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより制御部
110と接続されている各部を制御する。具体的には、制御部110は、測定部位がうっ
血状態か否かを判定する判定処理と、測定部位の状態に応じた脈波信号を出力する出力処
理とを行う。制御部110の機能の詳細については後述する。
【0017】
信号処理部120は、脈波センサー20の受発光部210から出力される測定信号を取
得して増幅するアンプ(図示略)と、増幅した信号を予め定められたサンプリング周波数
で量子化するA/D変換回路(図示略)とを有する。計時部130は、クロック供給部1
40の計時クロック信号をカウントして時刻を計時する。クロック供給部140は、発振
回路と分周回路とを有し、発振回路によって基準クロック信号を制御部110へ供給する
とともに、分周回路により計時用の計時クロック信号を生成して制御部110へ供給する
。表示部150は、ディスプレイ15を有し、制御部110の制御の下、計時部130で
計時された時刻の情報や脈波を測定するためのメニュー画面、測定結果などの各種画像を
表示する。操作部160は、操作スイッチ16を有し、操作スイッチ16が操作された操
作信号を制御部110へ送出する。記憶部180は、後述する判定処理で用いられる閾値
のデータなどの各種データを記憶する。記憶部180は、後述する判定処理で用いられる
静脈の径の基準値を記憶する基準値記憶領域181を有している。
【0018】
図3は、制御部110における判定処理と出力処理の機能を実現するための機能ブロッ
クと他の一部の構成とを表す図である。図において、静脈検出部111、判定部112、
脈波生成部113及び測定制御部114は、制御部110がROMに記憶されているコン
ピュータープログラムを読み出して実行することによって実現される。静脈検出部111
は、本発明に係る静脈検出部の一例であり、静脈イメージング部230から出力される信
号に応じて、脈波を測定する測定部位に位置する静脈の形状を検出する。この実施形態で
は、静脈検出部111は、静脈イメージング部230から出力される信号に応じて、測定
部位に位置する静脈の径(静脈の幅)を検出する。
【0019】
図4は、静脈イメージング部230が撮影する静脈の一例を示す図である。図4に示す
例においては、静脈イメージング部230によって静脈v1,v2,v3の3つの静脈が
撮影される。このように静脈イメージング部230によって複数の静脈が撮影された場合
には、静脈検出部111は、複数の静脈のうちのいずれかを特定し、特定した静脈の幅を
、静脈の径として検出する。この実施形態では、静脈検出部111は、撮影範囲R1の最
も中心に位置する静脈(図4に示す例では静脈v2)を特定し、特定した静脈の径(図4
に示す例では径d2)を検出する。なお、静脈の特定の態様はこれに限らず、例えば、静
脈検出部111は、撮影範囲R1内において右側に位置する静脈を特定してもよく、撮影
された静脈のいずれかを特定するものであればどのようなものであってもよい。
【0020】
また、径の検出の態様としては、例えば、静脈検出部111は、静脈イメージング部2
30から出力される信号に応じて、特定の間隔のタイミングで静脈の径を検出するように
してもよい。また、例えば、静脈検出部111は、一定期間毎に径の平均値を算出し、算
出した平均値を静脈の径とするようにしてもよい。また、他の例として、例えば、制御部
110は、一定期間毎に径の最大値又は最小値を特定し、特定した径を用いるようにして
もよい。要は、静脈検出部111は、静脈イメージング部230から出力される信号に応
じて静脈の径を検出するものであればどのようなものであってもよい。
【0021】
基準値記憶領域181には、予め定められた条件下において静脈検出部111が検出し
た静脈の径を示す情報(基準値)が記憶される。判定部112は、本発明に係る判定部の
一例であり、静脈検出部111によって検出された静脈の径と、基準値記憶領域181に
記憶された基準値とを予め定められたタイミングで比較し、静脈の径の変化量に応じて、
測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する。
【0022】
脈波生成部113は、本発明に係る生成部の一例であり、信号処理部120から出力さ
れる測定信号に基づいて脈波を示す脈波信号を生成する。より具体的には、脈波生成部1
13は、信号処理部120から出力される測定信号の波形におけるピークの時間間隔を脈
拍間隔とし、測定信号の波形において所定時間毎のピークの出現頻度を脈拍数として、脈
拍間隔及び脈拍数を示す情報を表示部150に出力する。また、脈波生成部113は、脈
波間隔及び脈拍数を示す情報を記憶部180に例えば時系列に蓄積するようにしてもよい

【0023】
測定制御部114は、判定部112の判定結果に応じて、発光素子211の発光量を制
御する。この実施形態では、測定制御部114は、判定部112の判定結果に応じて、う
っ血状態の場合には発光素子211の発光量が大きくなるように駆動部220を制御する

【0024】
<動作例>
以下、本実施形態に係る脈波測定装置1の動作例を説明する。測定対象者は、まず、う
っ血しにくい姿勢で脈波測定を行うことによって基準値を脈波測定装置1に入力し、その
後、脈波の測定処理を開始する。
【0025】
図5は、脈波測定装置1の動作フローを示す図である。測定対象者は、まず、測定部位
がうっ血しにくい姿勢(例えば、腕を水平にした姿勢)をとった状態で、操作部160を
用いて、初期設定を行う旨の操作を行う。脈波測定装置1の制御部110は、操作部16
0を介して初期設定を行う旨の操作を受け付けると(ステップS10;YES)、ステッ
プS11の処理に進む。すなわち、制御部110は、静脈イメージング部230において
近赤外線光を照射し、測定部位で反射された光を受光して受光量に基づいて、測定部位に
位置する静脈の径を検出し、検出した径を基準値として基準値記憶領域181に記憶する
(ステップS11)。ステップS11は、本発明に係る第1の静脈検出ステップ及び記憶
ステップの一例である。すなわち、制御部110は、測定対象者がうっ血しにくい姿勢を
とっている状態において、静脈イメージング部230から出力される信号に基づいて測定
部位の静脈の径を検出する。なお、制御部110は、操作部160を介して初期設定を行
う旨の操作を受け付けなければ(ステップS10;NO)、操作がなされるまで待機する

【0026】
図6(a)、(b)は、測定対象者Aが矢印Pの方向に向いて立っている状態を示して
いる。図6(a)は、測定対象者Aが装置本体10の測定部位aを水平にしている状態で
あり、図6(b)は、測定対象者Aが腕を下ろして測定部位aを重力方向に傾けている状
態である。図6(b)のように、測定部位aを重力方向に傾けた姿勢では指先の方から上
腕に向けて血液が戻りにくくなるため、このような姿勢のときはうっ血しやすい。そのた
め、測定対象者Aは、図6(a)に示すような姿勢で初期設定を行う。
【0027】
初期設定を終えると、測定対象者は、脈波の測定を開始する旨の操作を行う。制御部1
10は、脈波を測定する操作を受け付けると(ステップS12;YES)、ステップS1
3の処理に進む。すなわち、制御部110は、脈波センサー20において、測定部位に光
を照射し、測定部位で反射された光を受光して受光量に応じた測定信号の出力を開始させ
る(ステップS13)。制御部110は、脈波センサー20から出力される脈波信号を信
号処理部120においてA/D変換し、信号処理部120から時系列の各測定データを取
得してRAMに記憶する。制御部110は、測定信号(測定データ)の波形におけるピー
クの時間間隔を脈拍間隔とし、測定信号の波形において所定時間毎のピークの出現頻度を
脈拍数として検出し、検出した脈拍間隔と脈拍数とを示す画像を表示部150に表示させ
る。なお、制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受け付けなけれ
ば(ステップS12;NO)、操作がなされるまで待機する。
【0028】
また、制御部110は、脈波の測定処理を開始するとともに、測定部位がうっ血してい
るか否かの判定処理を開始する。制御部110は、まず、静脈イメージング部230から
出力される信号に基づいて静脈の径を検出する(ステップS14)。ステップS14は本
発明に係る第2の静脈検出ステップの一例である。制御部110は、検出した径とステッ
プS11において検出された基準値とを比較し、比較結果に応じて測定部位がうっ血状態
であるか否かを判定する(ステップS15)。ステップS15は本発明に係る判定ステッ
プの一例である。この判定処理は、例えば、制御部110が、静脈の径が基準値よりも予
め定められた閾値以上大きくなっている場合に、うっ血状態であると判定するようにして
もよい。また、例えば、検出された静脈の径と基準値との比を算出し、算出した比が予め
定められた閾値以上である場合にうっ血状態であると判定してもよい。要は、制御部11
0が、検出された径と基準値とを比較し、比較結果に応じてうっ血の有無を判定するもの
であればどのようなものであってもよい。
【0029】
制御部110は、うっ血状態でないと判定された場合には(ステップS15;NO)、
発光素子211の発光量を予め定められた標準量とする(ステップS16)。一方、制御
部110は、うっ血状態であると判定された場合には(ステップS15;YES)、発光
素子211の発光量が大きくなるように受発光部210を制御する(ステップS17)。
制御部110は、脈波の測定を終了する操作が操作部160を介してなされるまで(ステ
ップS18;NO)、上述したステップS14〜ステップS17の処理を繰り返し行う。
測定部位がうっ血状態である場合には測定信号が検出され難い場合があるが、この実施形
態では、うっ血状態である場合に発光素子211の発光量を大きくすることで、脈波信号
が計測されやすくなる。制御部110は、脈波の測定を終了する操作が操作部160を介
してなされたときに(ステップS18;YES)、処理を終了する。
【0030】
上記したように、本実施形態では、制御部110が、静脈イメージング部230からの
出力信号に基づいて測定部位がうっ血状態か否かを判定し、判定結果に応じて発光素子2
11の発光量の制御を行う。脳波計測装置においては、うっ血状態が脈波計測に及ぼす影
響によって計測値の精度が低くなる場合がある。それに対し本実施形態では、静脈血管の
血管径変化によりうっ血状態の有無を判断し、発光素子のパワーを制御する。これにより
、脈波を安定して計測しやすくなる。
【0031】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下のように変形させて実施
してもよい。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0032】
(1)上述した実施形態では、図1に示す脈波測定装置1を示したが、脈波測定装置1の
構成はこれに限定されるものではなく、他の構成であってもよい。例えば、装置本体10
が、腕や足などの体の他の部位に装着される形状であってもよい。また、例えば、装置本
体10が携帯電話機や携帯情報端末などの装置であってもよい。
【0033】
また、上述の実施形態では、装置本体10と脈波センサー20とをケーブル30で接続
する構成としたが、これに限らず、装置本体10と脈波センサー20とを無線通信により
接続する構成としてもよい。また、上述した実施形態では、脈波測定装置1は、装置本体
10と脈波センサー20とをケーブル30で接続して構成される例であったが、これに限
らず、例えば、装置本体10と脈波センサー20とが一体となったひとつの装置として構
成されていてもよい。この場合は、例えば、脈波測定装置を腕時計のように手首に装着し
て用いる形状とし、この脈波測定装置と装着部位(手首)とが接触する位置に脈波センサ
ーを設ける構成としてもよい。
また、上述の実施形態では、脈波センサー20が装着される測定部位が人差指の例を説
明したが、これに限らず、手の甲、手首、上腕等の他の部位であってもよい。
【0034】
(2)上述の実施形態では、受発光部210は、緑色光の波長の光を発する発光素子21
1と、緑色光の波長光を受光する受光素子212とを有する構成としたが、受発光部が発
光及び受光する光は緑色光に限らず、青色光や赤外光等、他の波長の光であってもよい。
また、上述の実施形態では、脈波センサー20は、ひとつの受発光部210を備える構成
であったが、これに限らず、複数の受発光部210を備える構成であってもよい。具体的
には、例えば、緑色の波長の光の発光及び受光を行う受発光部と、赤色の波長の光の発光
及び受光を行う受発光部との2種類の受発光部を備える構成であってもよい。
【0035】
(3)上述の実施形態において、測定部位における血管の容積の変化が一定以上か否かを
判定する判定方法を併用する構成としてもよい。測定部位における血管は、心拍と同周期
で膨張と収縮を繰り返しており、血管の膨張と収縮の周期と同じ周期で発光素子から発せ
られた光の吸収量が増減し、その増減に合わせて反射光の強度が変化する。そのため、受
光素子に流れる電流は測定部位における血管の容積変化を示す成分を有するものとなって
いる。測定部位がうっ血していない場合には、心拍のリズムに沿って、動脈血は上腕から
測定部位を通過して指先へ向かい、静脈血は指先から測定部位を通過して上腕へ流れる。
一方、うっ血状態になると動脈及び静脈の血液量の変化が小さくなるため移動標準偏差の
振幅が小さくなる。
【0036】
図7は、脈波測定装置1を用いて脈波の測定を行ったときの測定信号の波形を表す図で
ある。この例では、脈波測定装置1を装着した測定対象者が、最初の30秒間は測定部位
を略水平にした姿勢をとり(期間A)、その後60秒間は測定部位を下に向けて指先を重
力方向に向けたうっ血しやすい姿勢をとる(期間B)という一連の動作を行った。
【0037】
図において、期間Aは安静状態であるため、この期間における測定信号は一定周期で安
定した波形となっており、これらの期間ではうっ血していない。期間Aから期間Bに以降
後、振幅が徐々に小さくなっている。期間Bは、測定部位を重力方向に向けたうっ血しや
すい姿勢且つ安静状態である。この期間は、時間の経過に伴って測定部位に静脈血が増加
し、発光素子から発せられる光が、静脈血に含まれる還元ヘモグロビンに対する吸光係数
に応じて吸収されて受光量が減少する。また、動脈と静脈の血流量が減少することにより
血管の膨張と収縮が弱まるので、血管の容積変化を表す受光量が小さくなり、その結果、
期間Aよりも振幅が1/3乃至1/4以下となっている。この現象は、図7(b)に示す
、図7(a)の波形データについての移動標準偏差の波形にも現れている。移動標準偏差
は、測定部位における皮下血管内の血液の厚みの変化量を表す。つまり、うっ血していな
い場合には、心拍のリズムに沿って、動脈血は上腕から測定部位を通過して指先へ向かい
、静脈血は指先から測定部位を通過して上腕へ流れる。一方、うっ血状態になると動脈及
び静脈の血液量の変化が小さくなるため移動標準偏差の振幅が小さくなる。従って、期間
B(30秒〜80秒)ではうっ血状態となっていることが分かる。
【0038】
ここで、この態様における具体的な動作の一例について以下に説明する。制御部110
は、初期設定を行う際に、脈波センサー20から出力される測定信号を基準信号として記
憶部180に記憶しておく。そして、脈波の測定を行う際に、脈波センサー20から出力
される測定信号の振幅を求め、記憶部180内の基準信号の波形データを用いて、基準信
号の振幅に対する測定信号の振幅の比を測定信号の振幅の変動幅として算出する。測定信
号の変動幅は、この態様においては、測定部位を水平にした姿勢で利用者の動作が殆どな
い状態で脈波を測定したときの測定信号(以下、「基準信号」という)の振幅に対する測
定信号の振幅の比である。なお、測定信号の変動幅としては、測定信号の移動標準偏差や
移動平均値など、測定信号の振幅の変化を表す指標であればよい。制御部110は、基準
信号の振幅に対する測定信号の振幅の比が閾値(1/3乃至1/4)以下である場合、測
定部位における血管の容積の変化が一定以上ではないと判定する。
【0039】
この態様においては、制御部110は、振幅比による判定結果と静脈の径の判定結果と
に応じて、測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する。より具体的には、例えば、制
御部110は、検出した径と基準値とを比較し、静脈の径が予め定められた閾値以上大き
くなっており、かつ、振幅比が予め定められた閾値以上である場合に、測定部位がうっ血
状態であると判定するようにしてもよい。このように、複数の判定条件(静脈の径による
判定と振幅比による判定)とを併用することによって、うっ血の判定の精度を高くするこ
とができる。
【0040】
なお、判定の態様はこれに限定されるものではなく、他の判定条件を併用する構成とし
てもよい。具体的には、例えば、脈波測定装置1に加速度センサーを設ける構成とし、こ
の加速度センサーによって測定対象者の動作を検出し、検出結果に応じてうっ血の有無を
判定するようにしてもよい。より具体的には、例えば、加速度センサーによって測定部位
の向きを検出し、測定部位が重力の影響によりうっ血しやすい姿勢であるか否かを判定し
、この判定結果と静脈の径の変化量とに応じてうっ血の有無を判定するようにしてもよい

【0041】
(4)上述の実施形態では、静脈イメージング部230のセンサー素子として2次元イメ
ージセンサーを用いたが、センサー素子はこれに限定されるものではなく、1次元イメー
ジセンサーであってもよい。1次元イメージセンサーを用いる場合も、上述の実施形態と
同様に、制御部110は、イメージセンサーが読み取った像から静脈の径を検出する。ま
た、上述の実施形態では、センサー素子232としてCCイメージセンサーを用いたが、
センサー素子はこれに限定されるものではない。例えばCMOS(Complementary Metal
Oxide)イメージセンサーであってもよく、静脈の径を検出し得るものであればどのよう
なものであってもよい。
【0042】
(5)上述の実施形態では、制御部110が、うっ血の有無を判定し、判定結果に応じて
発光素子211の発光量を制御する装置について説明したが、制御部110が行う処理は
これに限らない。例えば、制御部110が、うっ血状態であると判定された場合に、緑色
光と赤色光との2種類の波長の光を用いて脈波検出を行うようにしてもよい。また、例え
ば、制御部110が、信号処理部120から出力される信号から脈波信号を生成する処理
を、うっ血の有無に応じて制御するようにしてもよい。より具体的には、例えば、制御部
110が、うっ血状態であると判定された場合に、予め定められたアルゴリズムに従って
、信号処理部120から出力される信号に対してノイズ成分を除去するためのフィルター
処理を施すようにしてもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、制御部110が、うっ血の有無を判定し、判定結果に応じ
て発光素子211の発光量を制御する装置について説明したが、制御部110が行う処理
はこれに限らない。例えば、うっ血の程度に応じて発光素子211の発光量を制御するよ
うにしてもよい。より具体的には、例えば、制御部110が、うっ血の程度が大きいほど
発光素子211の発光量が大きくなるように制御を行うようにしてもよい。要は、制御部
110が、うっ血の有無の判定結果に応じて、測定信号を生成するための処理を制御する
ようにすればよい。
【0044】
(6)上述の実施形態では、うっ血の有無を判定し、判定結果に応じて発光素子の発光量
を制御する脈波測定装置について説明した。これに代えて、うっ血の有無を判定するうっ
血判定装置と、このうっ血判定装置の判定結果に応じて各種の制御動作を行う装置とが、
別体の装置として構成されていてもよい。この場合は、例えば、うっ血判定装置と脈波測
定装置とが有線又は無線により通信を行うようにすればよい。
【0045】
(7)上述の実施形態では、制御部110は、静脈の径が基準値から予め定められた閾値
以上大きい場合にうっ血状態であると判定したが、判定の態様はこれに限定されるもので
はない。例えば、静脈の径の変化量が予め定められた閾値以上である状態が、予め定めら
れた時間以上継続している場合に、うっ血していると判定するようにしてもよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、静脈イメージング部230によって複数の静脈が撮影され
た場合に、制御部110は、撮影された複数の静脈のうちのいずれかを特定して径を検出
するようにしたが、検出の態様はこれに限定されるものではない。例えば、撮影された複
数の静脈のうちの一部又は全部の静脈について径を検出するようにしてもよい。具体的に
は、例えば、3つの静脈が撮影された場合には、制御部110は、初期設定の際に3つの
静脈の径をそれぞれ検出して検出した径を基準値として基準値記憶領域181に記憶して
おくようにしてもよい。この場合は、脈波の測定時においては、3つの静脈の径をそれぞ
れ検出して、各径と基準値とをそれぞれ比較するようにしてもよい。より具体的には、例
えば、制御部110は、基準値よりも径が大きくなっている静脈の数が過半数を超える場
合に、測定部位がうっ血していると判定するようにしてもよい。また、例えば、全ての静
脈の径が基準値よりも大きくなっている場合に、測定部位がうっ血していると判定するよ
うにしてもよい。
【0047】
また、上述の実施形態において、制御部110が、静脈イメージング部230によって
撮影された画像を解析して撮影範囲内の静脈の位置関係を検出し、検出された位置関係に
基づいて径の検出位置を決定するようにしてもよい。例えば、脈波センサー20の装着位
置がずれてしまった場合であっても、制御部110が画像解析して径の検出位置を決定す
ることによって、常に同じ位置の径を検出することができ、これにより検出精度を高くす
ることができる。
【0048】
また、上述した実施形態では、うっ血の有無を判定するための閾値が記憶部180に記
憶されている例を説明したが、記憶部180内の閾値を利用者が操作部160を用いて調
整できるように構成してもよい。また、閾値を測定対象となる生体に応じてそれぞれ記憶
する構成としてもよい。
【0049】
(8)上述した実施形態における脈波センサー20は、測定部位に照射した光の反射光を
受光する例を説明したが、測定部位に照射して透過した光を受光するように構成してもよ
い。
【0050】
(9)脈波測定装置1の制御部110によって実行されるプログラムは、磁気テープや磁
気ディスクなどの磁気記録媒体、光ディスクなどの光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体
メモリーなどのコンピューター装置が読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し
得る。また、このプログラムを、インターネット等の通信網経由でダウンロードさせるこ
とも可能である。なお、このような制御を行う制御手段としてはCPU以外にも種々の装
置を適用することができ、例えば、専用のプロセッサーなどを用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…脈波測定装置、2…生体、10…装置本体、15…ディスプレイ、16…操作スイッ
チ、20…脈波センサー、30…ケーブル、40…バンド、110…制御部、111…静
脈検出部、112…判定部、113…脈波出力部、120…信号処理部、130…計時部
、140…クロック供給部、150…表示部、160…操作部、180…記憶部、210
…受発光部、220…駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈波を測定する測定部位に位置する静脈の径を検出する静脈検出部と、
予め定められた条件下において前記静脈検出部が検出した静脈の径を示す情報を記憶す
る記憶部と、
前記静脈検出部によって検出された静脈の径と前記記憶部に記憶された情報とを、予め
定められたタイミングで比較し、該静脈の径の変化量に応じて、前記測定部位がうっ血状
態であるか否かを判定する判定部と
を具備することを特徴とするうっ血判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のうっ血判定装置と、
前記測定部位に予め定められた波長の光を照射する発光部と、
前記測定部位に照射された光が該測定部位を透過又は反射した光の受光量に基づく測定
信号を出力する受光部と、
前記受光部が出力する測定信号に基づいて脈波を示す脈波信号を生成する生成部と、
前記判定部の判定結果に応じて、前記発光部の発光及び前記生成部が行う処理の少なく
ともいずれか一方を制御する制御部と
を具備することを特徴とする脈波測定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記静脈の径が予め定められた閾値以上大きくなっている場合に、前記
測定部位がうっ血状態であると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記判定部の判定結果が肯定的である場合に、前記発光部の発光量を大
きくする
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
非うっ血状態での脈波の測定結果を示す基準信号に対する前記脈波信号の振幅の変動幅
が予め定められた範囲内であるか否かを判定する第2の判定部
を具備し、
前記判定部は、前記静脈の径の変化量及び前記第2の判定部の判定結果に応じて、前記
測定部位がうっ血状態であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の脈波測定装置。
【請求項6】
予め定められた条件下において、脈波を測定する測定部位に位置する静脈の径を検出す
る第1の静脈検出ステップと、
前記第1の静脈検出ステップにおいて検出された静脈の径を示す情報を記憶部に記憶す
る記憶ステップと、
前記測定部位に位置する静脈の径を検出する第2の静脈検出ステップと、
前記第2の静脈検出ステップにおいて検出された静脈の径と前記記憶部に記憶された情
報とを予め定められたタイミングで比較し、該静脈の径の変化量に応じて、前記測定部位
がうっ血状態であるか否かを判定する判定ステップと
を有するうっ血判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111444(P2013−111444A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263445(P2011−263445)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】