説明

うつ病を処置するための化合物を同定する方法

うつ病の処置において増大した効力を持つ化合物を同定するためのアッセイを開示する。本アッセイは、試験化合物がSERTを阻害するかどうかを決定するステップおよび試験化合物がSERT上のアロステリック部位と相互作用するかどうかを決定するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明はうつ病の処置に有用な化合物の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セロトニントランスポーター(SERT)は、うつ病や不安などの気分障害を処置するための薬物にとって、おそらく最も重要なターゲットである。一部の薬物がSERTを特異的に阻害するのに対して、他の薬物は追加の薬理学的活性、例えばセロトニン受容体に対するアゴニスト作用またはアンタゴニスト作用を持つ。特異的SERT阻害剤はしばしばSSRIと呼ばれ、より広い薬理学的プロファイルを持つ薬物としては三環系薬物が例示される。SSRIはセロトニンの再取り込みを遮断することによってその効果を発揮し、これは細胞外セロトニンの増加も引き起こす。
【0003】
異なるSERT阻害剤がSERT上の異なる部位に結合し、その部位を遮断しうることは、かなり前から知られている。最近になって、(S)−シタロプラムなどの化合物は二つ以上の部位、すなわち一次部位およびアロステリック部位に結合すること(非特許文献1)、ならびに(S)−シタロプラムの優れた効果がこのアロステリック結合に起因しうることも見出されている。
【非特許文献1】J. Neurochem, 92, 21-28, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、セロトニントランスポーター(SERT)のアロステリック部位に結合し、かつセロトニン再取り込みを阻害する(すなわちSERTの一次部位に結合する)化合物が、うつ病の処置にとりわけ有用であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、ある実施形態において、本発明は、うつ病の処置に有用な化合物を同定するための方法であって、
a)セロトニントランスポーターを一つまたはそれ以上の濃度の試験化合物と接触させるステップ;
b)前記試験化合物がセロトニン再取り込みを阻害するかどうかを決定するステップ;
c)前記試験化合物がセロトニントランスポーターにおける一つまたはそれ以上のアロステリック部位と相互作用するかどうかを決定するステップ;
d)セロトニン再取り込みを阻害し、かつセロトニントランスポーターにおける一つまたはそれ以上のアロステリック部位と正に相互作用する試験化合物を選択するステップ
を含む方法(ただし、ステップb)およびc)は任意の順序で行うことができる)を提供する。
【0006】
もう一つの実施形態において、本発明は、うつ病を処置する方法であって、それを必要とする患者に、本発明の方法によって同定される化合物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0007】
もう一つの実施形態において、本発明は、うつ病を処置するための薬剤の製造における、本発明の方法によって同定される化合物の使用を提供する。
【0008】
もう一つの実施形態において、本発明は、うつ病の処置に使用するための、本発明の方法によって同定される化合物に関する。
【0009】
もう一つの実施形態において、本発明は、本発明の方法によって同定される化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
もう一つの実施形態において、本発明は、抗うつ薬の販売を促進するための方法であって、前記抗うつ薬の効果が、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンが結合するアロステリック部位への前記抗うつ薬の結合に、完全にまたは部分的に起因すると考えられることを示す情報の公的配布を含む方法に関する。
【0011】
<発明の詳細な説明>
ある実施形態では、本発明の方法が、うつ病の処置において改善された効力を持つ化合物の同定に用いられる。フルオキセチンなどの古典的な選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)による、例えばうつ病などの情動障害の処置には、その薬物治療が効き始めるまでに最大数週間の誘導期が伴うことは、よく知られている。この誘導期を説明するための仮説として一般に受け入れられているのは、5−HT(セロトニン)が治療レベルまで上昇するのが遅いために、SSRIの治療効果の開始が遅いというものである。これは、5−HT陰性自己受容体、具体的には(縫線核における)細胞体樹状突起の5−HT1A自己受容体およびシナプス前神経終末からの5−HTの放出を抑制する終末5−HT1B自己受容体の脱感作が遅いためであると考えられる。
【0012】
ある実施形態において、「増大した効力」とは、処置の開始後、さまざまな時点で測定した場合に、治療効果が改善されることを示すものとする。治療効果は、典型的には、例えばMADRASまたはHAM−Dなどの臨床的に妥当な尺度を使って測定される。典型的には、効果は、処置開始の1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後または6週間後に測定される。効力の改善は、より迅速な作用の開始に反映されるか、長期処置後の臨床応答の増大、非応答者の分率の低下、またはこれらの効果の組み合わせとして反映されうる。
【0013】
ある実施形態では、例えばフルオキセチンなどの既存の処置よりも優れた化合物を同定するために、本発明の方法が使用される。
【0014】
本発明の方法は、試験化合物がセロトニンの再取り込みを阻害するかどうか、すなわち試験化合物がセロトニントランスポーターの一次部位に結合するかどうかの決定を含む。セロトニントランスポーターへの試験化合物の結合は、セロトニントランスポーターによるセロトニン輸送の50%阻害を引き起こす試験化合物の濃度であるIC50濃度を決定することによって、定量することができる。この値は、例えば本明細書の実施例1に記載するように決定することができる。ある実施形態では、本発明の方法に従って選択された試験化合物が、100nM未満、例えば50nM未満、例えば20nM未満、例えば10nM未満、さらには2nM未満のIC50を持つ。
【0015】
本発明の方法は、試験化合物がセロトニントランスポーター上の一つまたはそれ以上のアロステリック部位と相互作用するかどうかの決定を含む。アロステリック部位は、酵素、受容体またはトランスポーターなどのタンパク質上の部位であって、一次部位または活性部位とは異なるが、前記アロステリック部位へのリガンドの結合が活性部位へのリガンドの結合に影響を及ぼすような部位である。アロステリック部位へのリガンドの結合は、一次部位への同じリガンドまたは別のリガンドの結合に影響を及ぼしうる。
【0016】
本発明の方法では、試験化合物がセロトニントランスポーター上の一つまたはそれ以上のアロステリック部位と正に相互作用する場合に、その試験化合物が選択される。この文脈において「正に相互作用する」とは、試験化合物がセロトニントランスポーター一次部位と一次部位リガンド(例えば試験化合物そのもの)との間の結合の安定化を引き起こすことを示すものとする。前記結合の安定化は、試験化合物:セロトニントランスポーター一次部位複合体に関する解離速度を測定することによって定量することができる。アロステリック部位への試験化合物の結合が解離速度の低下を引き起こす場合に、前記化合物は前記アロステリック部位と正に相互作用するという。特に解離速度は、低濃度の試験化合物が存在する場合よりも高濃度の試験化合物が存在する場合に、より大きく低下する。解離速度は、広範囲にわたる試験化合物濃度で、例えば1nM、10nM、100nM、100000nM、または1000000nMなどで測定される。解離速度の決定は本明細書の実施例2で説明するように行うことができる。ある実施形態では、化合物が、例えば100μMまで、200μMまで、または500μMまでなどといった妥当な濃度における測定で、(S)−シタロプラムの解離速度に、2倍を超える減速、例えば5倍を超える減速、例えば10倍を超える減速、例えば100倍を超える減速を引き起こす場合に、その化合物が選択される。
【0017】
あるいは、試験化合物:セロトニントランスポーター一次部位複合体に関する会合速度を測定することによって、前記結合の安定化を定量することもできる。アロステリック部位への試験化合物の結合が会合速度の増加を引き起こす場合に、前記化合物は前記アロステリック部位と正に相互作用するという。会合速度の決定は実施例7に示すように行うことができる。
【0018】
ある実施形態において、本発明の方法は、試験化合物がラットの腹側海馬または前前頭皮質における細胞外セロトニンンレベルの増加を引き起こすかどうかを決定し、そのような増加を引き起こす化合物を選択するという、さらなるステップを含む。細胞外セロトニンンレベルが増加するかどうかの決定は、試験化合物の投与を開始した後に行うことができる。特に、この決定は、試験化合物の投与を開始した3、4、5、6、7もしくは14日後に行うか、または急性に行うことができる。ある実施形態では、試験化合物が、急性に測定される細胞外セロトニンレベルに、300%を超える、例えば400%を超える、例えば500%を超える増加を引き起こす場合に、その試験化合物が選択される。ある実施形態では、試験化合物が、試験化合物の投与を開始した3日後の細胞外セロトニンレベルに、300%以上の増加を引き起こす場合に、その試験化合物が選択される。ラットの腹側海馬または前前頭皮質における細胞外セロトニンレベルの決定は、例えば本明細書の実施例5で説明するように、微小透析実験などで行うことができる。
【0019】
ある実施形態において、本発明の方法は、試験化合物と相互作用するアロステリック部位が、R−シタロプラムを結合することができるセロトニントランスポーターのアロステリック部位であるかどうかを決定するという、さらなるステップを含む。ある実施形態では、試験化合物が、(R)−シタロプラムを結合することができるアロステリック部位とだけ正に相互作用する場合には、その試験化合物は選択されない。この決定は、例えば本明細書の実施例3で説明するように行うことができる。
【0020】
(R)−シタロプラムおよび(S)−シタロプラムは、セロトニントランスポーター上の同じアロステリック部位に対するリガンドである。しかし、前記アロステリック部位に対するこれら二つの化合物の結合は、異なる効果を引き起こす。(S)−シタロプラムの結合は(S)−シタロプラム:セロトニン一次部位複合体の強化をもたらす。すなわちこれは、セロトニン再取り込みの阻害を増加させる。これに対して、アロステリック部位への(R)−シタロプラムの結合は、一次部位リガンドの結合(例えばセロトニントランスポーターの一次部位への(S)−シタロプラムの結合)に、もっと小さな変化をもたらすに過ぎない。これは、同じ投薬量ではラセミ型シタロプラムよりも(S)−シタロプラムの方が優れている理由であると考えられる[Psychopharm, 174, 163-176, 2004]。
【0021】
実施例6に提示するデータは、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンがSERTにおけるアロステリック部位に結合することを示している。さらにまた、実施例7に提示するデータは、このアロステリック部位が(R)−シタロプラムのそれとは異なること、すなわちこれら二つの化合物は異なるアロステリック部位に結合することを示している。この概念は、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンによってもたらされるセロトニンレベルの増加に(R)−シタロプラムは影響を及ぼさないことが示されている実施例8のインビボ結果によって裏付けられる。薬理学的に意味のある(R)−シタロプラムの唯一の結合はSERTのアロステリック部位への結合であることを考えると、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンと(R)−シタロプラムは異なるアロステリック部位に結合するというのが、実施例8のデータを正しく解釈する唯一の方法である。実施例9に示すように、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンのアロステリック部位に結合する化合物(この場合はこの化合物そのもの)は、(S)−シタロプラムなどのそうでない化合物よりも顕著な、セロトニンレベルの増加をもたらす。セロトニンレベルの増加はセロトニン再取り込み阻害剤の臨床効果の根拠であるから、この相違は、結果として、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル-アミンのアロステリック部位に結合する化合物の臨床的優位性につながるだろう。
【0022】
ある実施形態において、本発明の方法は、試験化合物が[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンを結合することができるセロトニントランスポーターのアロステリック部位と正に相互作用するかどうかを決定し、正に相互作用する化合物を選択するステップを含む。この決定は、例えば本明細書の実施例4で説明するように行うことができる。
【0023】
本発明の化合物はうつ病の処置に有用である。したがってある実施形態において、本発明は、うつ病を処置する方法であって、それを必要とする患者に、本発明の方法によって同定される化合物の治療有効量を投与することを含む方法に関する。ただし前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないものとする。
【0024】
本明細書にいう化合物の「治療有効量」とは、前記化合物の投与を含む治療的介入において、所与の疾患およびその合併症の臨床症状を治癒させ、軽減し、または部分的に抑止するのに十分な量を意味する。これを達成するのに適した量は「治療有効量」と定義される。各目的に有効な量は疾患または傷害の重症度ならびに対象の体重および全身状態に依存するだろう。適当な投薬量の決定が、値のマトリックスを作成し、そのマトリックス中のさまざまな点を試験することにより、訓練を受けた医師の通常の技術に全て包含される日常的な実験を使って達成されうることは、理解されるだろう。
【0025】
本明細書で使用する「処置」および「処置する」という用語は、疾患または障害などの状態と闘うためになされる患者の管理および医療を意味する。この用語は、例えば症状もしくは合併症を軽減するため、疾患、障害もしくは状態の進行を遅延させるため、症状および合併症を軽減しもしくは緩和するため、および/または疾患、障害もしくは状態を治癒させもしくは排除するための活性化合物の投与など、患者が患っている所与の状態に関する処置の全範囲を包含するものとし、この場合、防止は、疾患、状態、または障害と闘うためになされる患者の管理および医療であると解釈され、症状または合併症の発生を防止するための活性化合物の投与を包含する。それでもなお、予防的(防止的)処置と治療的(治癒的)処置は、本発明の二つの独立した態様である。処置される患者は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。
【0026】
ある実施形態において、本発明は、うつ病を処置するための薬剤の製造における、本発明の方法によって同定される化合物の使用に関する。ただし、前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないものとする。
【0027】
ある実施形態において、本発明は、抗うつ薬として使用するための、本発明の方法によって同定される化合物に関する。ただし、前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないものとする。
【0028】
ある実施形態において、本発明は、本発明の方法によって同定される化合物を含む医薬組成物を提供する。ただし、前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル-アミンではないものとする。
【0029】
ある実施形態において、本発明は、抗うつ薬の販売を促進するための方法であって、前記抗うつ薬の効果が、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル-アミンが結合するセトロニントランスポーター上のアロステリック部位への前記抗うつ薬の結合に、完全にまたは部分的に起因すると考えられることを示す情報の公的配布を含む方法に関する。特に、前記抗うつ薬はセロトニントランスポーターの阻害剤である。
【0030】
ある実施形態において、本発明は、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンを結合することができるセロトニントランスポーターのアロステリック部位に結合する抗うつ薬の販売を促進するための方法であって、前記抗うつ薬の効果が、あるアロステリック部位へのその結合、特にセロトニントランスポーター上のアロステリック部位へのその結合に、完全にまたは部分的に起因すると考えられることを示す情報の公的流布を含む方法に関する。特に、前記抗うつ薬はセロトニントランスポーターの阻害剤である。
【0031】
ある実施形態では、前記情報の配布が、言語によるコミュニケーション、小冊子の配布、印刷媒体、音声テープ、磁気媒体、デジタル媒体、視聴覚媒体、掲示板、広告、新聞、雑誌、ダイレクトメールの送付、ラジオ、テレビ、電子メール、点字、電子媒体、バナー広告、光ファイバー、およびレーザーライトショーからなる群より選択される方法によって達成される。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
ラットシナプトソームにおける5−HT取り込みの阻害
雄ラット(125g〜225g)から得られるラット前脳を計り取り、1mMニアラミドを含有する0.40Mショ糖緩衝液約10ml中、ガラス/テフロンホモジナイザーを使って、冷却した緩衝液と共にホモジナイズする(下記参照)。その懸濁液を、1000G/4℃で10分間遠心分離する。その結果生じた上清を40,000G/4℃で20分間遠心分離する。ペレットを180倍体積のKRP緩衝液に再懸濁する。この懸濁液を使用時まで氷上に保つ。試験化合物10μl、10.0nM [H]−5HT 10μlおよび膜180μl(0.5mg/ウェル)からなるアリコート(総体積は200μLになる)を、37℃で15分間インキュベートする。10μMシタロプラムの存在下で非特異的結合/取り込み量を決定し、緩衝液の存在下で総取り込み量を決定する。インキュベーション後に、Tomtec CellHarvesterプログラム(Uptake)を使って、結合したリガンドを、0.1%PEIに30分間予浸しておいたUnifilter GF/Cを通して濾過することによって、未結合のリガンドから分離した。フィルターを氷冷緩衝液1mlで1回洗浄し、50℃で乾燥し、シンチレーション液35μlをフィルターに加える。結合している放射能をWallac MicroBetaでカウントする。
【0033】
<実施例2>
解離速度
一次部位において結合している試験化合物とセロトニントランスポーターとの間に形成される複合体に関する解離速度は、hSERTを一過性に発現させるHEK293細胞から得られる膜調製物で決定される。化合物−SERT複合体の解離の速度論は、hSERTを一過性に発現させるHEK293細胞から得られる膜10μgと[H]試験化合物10μLとからなるアリコート(平衡に達するまでプレインキュベートしたもの)の大規模な溶解(300倍)後に決定される。[H]試験化合物の濃度はKdの約6倍である。解離は、非放射標識試験化合物(0〜300μM)の存在下または非存在下でアリコートの大規模な溶解(300倍)を行うことによって開始される。結合している[H]試験化合物を0、2、5、10、15、20、30、50、70および90分後に測定する。
【0034】
<実施例3>
R−シタロプラム
会合速度はhSERTを一過性に発現させるHEK293細胞から得られる膜調製物で決定される。[H]化合物−SERT複合体の会合の速度論は、平衡に達するまでプレインキュベートした、hSERTを一過性に発現させるHEK293から得られる膜10μgと[H]試験化合物290μlとからなるアリコートのインキュベーション後に決定される。会合は、R−シタロプラム(0〜300μM)の非存在下または存在下で放射性リガンドを添加することによって開始される。結合している[H]試験化合物を、0、2、5、10、15、20、30、50、70および90分後に測定する。R−シタロプラム(0〜300μM)の添加によって左右されない[H]試験化合物を選択する。
【0035】
<実施例4>
[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンアロステリック部位における相互作用
H][2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンを使用し、基本的に上記実施例3で述べたようにして、決定を行う。
【0036】
<実施例5>
微小透析
動物
当初体重275〜300gの雄Sprague−Dawleyラットを使用する。
【0037】
外科手術および微小透析実験
ラットをヒプノルム(hypnorm)/ドルミカム(2ml/kg)で麻酔し、腹側海馬(座標:ブレグマから後方5.6mm、側方−5.0mm、硬膜から腹側7.0mm)または前頭皮質(座標:ブレグマから前方3.2mm;側方0.8mm;硬膜から腹側4.0mm)に透析プローブチップを配置することを目指して、脳内ガイドカニューレ(CMA/12)を海馬に定位的に植え込む。ガイドカニューレの固定には固定ネジおよびアクリルセメントを使用する。動物の体温を直腸プローブで監視し、37℃に維持する。ラットをケージで単独飼育して外科手術から2日間回復させる。実験の日に、ガイドカニューレを通して、微小透析プローブ(CMA/12、直径0.5mm、長さ3mm)を挿入する。
【0038】
2チャンネルスイベルを介してプローブを微量注入ポンプに接続する。濾過したリンゲル液(145mm NaCl、3mM KCl、1mM MgCl、1.2mM CaCl)による微小透析プローブの潅流を、1μL/分の一定流速で、プローブを脳に挿入する直前に開始し、実験の継続中はその潅流を続ける。180分間安定化した後、実験を開始する。透析液を20分ごとに収集した。
【0039】
急性処置;単回注射
細胞外5−HTの基礎レベルを決定するために四つの画分を試料採取する。その後、試験化合物を投与し、試料採取を約3時間続ける。
【0040】
データ提示:単回注射実験では、化合物を投与する直前の3連続5−HT試料の平均値を各実験の基礎レベルとし、データを基礎値の割合に変換する(平均基礎注射前値を100%に標準化する)。
【0041】
3日処置;ミニポンプ
3日処置実験には浸透圧ミニポンプ(Alzet、2ML1)を使用する。ポンプに無菌条件下で賦形剤/試験化合物を充填し、麻酔下で皮下に植え込む。実験は組み込まれたミニポンプを使って行われる。3日にわたる処置後の化合物の血漿レベルを測定するために、実験の最後に血液試料を収集する。
【0042】
データ提示:ミニポンプ実験では、処置動物から得られるベースライン5−HT試料の平均を、賦形剤動物から得られるベースライン5−HT試料の平均と比較し、賦形剤群を100%に標準化する。
【0043】
実験後に動物を屠殺し、その脳を摘出し、凍結し、プローブ配置確認用に薄切する。
【0044】
透析液5−HTの分析
透析液中の5−HTの濃度は電気化学的検出によるHPLCを利用して分析される。5−HTは逆相液体クロマトグラフィー(ODS 150×3mm、3μM)によって分離される。5−HT:流速0.4ml/分の75mM NaHPO、150ml/lオクタンスルホン酸ナトリウム、100μl/lトリエチルアミンおよび10%アセトニトリル(pH3.0)からなる移動相。電気化学的検出は電量検出器を使用して行った;電位は250mVに設定(ガードセルは350mV)(Coulochem II、ESA)。
【0045】
<実施例6>
SERT上のアロステリック部位への[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンの結合
「Pharmacol. Toxicol., 80, 197-201, 1997」および「J. Neurochem., 92, 21-28, 2005」に記載されている方法に基づいてアッセイ手法を改変した。
【0046】
10%ウシ胎児血清、4mM L−グルタミン、100単位/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補足したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、37℃、5%COで、PeakRapid 293細胞(Edge Biosystems、メリーランド州ゲイサーズバーグ)を培養した。10μgの全DNAを使用し、150cmフラスコ中で、リポフェクトアミン法(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)により、哺乳動物細胞発現ベクター中のヒトSERT cDNAをPeakRapid 293細胞中に一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後に、膜を収集した。
【0047】
結合アッセイは、50mM Tris、120mM NaCl、および5mM KClを含有する緩衝液(pH7.4)で行った。解離結合に先だって、[H]−(S)−シタロプラム(40nM)をhSERT膜(5μg/10μl)と共に室温で2時間インキュベートした。この反応混合物を96穴形式のミニチューブに10μl/ウェルずつ分注し、氷上に保った。解離結合は室温で行い、800μlの緩衝液またはさまざまな濃度の試験化合物を添加することにより、異なる時点で開始させた。Brandelハーベスターを使って迅速濾過した後、氷冷洗浄緩衝液(50mM Tris、pH7.4)で3回洗浄することにより、アッセイを停止した。Triluxカウンターを使って、結合しているリガンドをカウントした。
【0048】
GraphPad Prism 4(GraphPad、カリフォルニア州サンディエゴ)およびXlfit 4(IDBS、英国サリー州ギルフォード)を使って解離結合データを解析した。一相指数関数的減衰式を使って、さまざまな時点における結合値を当てはめ、解離半減期(t1/2)および速度(k)値を得た。化合物存在下での速度(k)と化合物非存在下での速度(k)との比(k/k)を各化合物濃度について算出した。シグモイド用量応答曲線において、k/kおよびlog濃度を当てはめることによって、IC50値を得た。最高濃度における最大k/k(変調倍率)も報告した。結果をN=2のアッセイから平均する。
【0049】
得られたデータを図1aおよび1bに図示する。2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンは、26μMのIC50でアロステリック部位に結合し、200μMにおいてH(S)−シタロプラムを5.4倍の比で減速させた。
【0050】
<実施例7>
(R)−シタロプラムの存在下におけるSERTへの[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンおよび(S)−シタロプラムの会合
hSERTを発現させるHEK293細胞を収集し、HEK293−hSERT膜10μgを96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに入れる。[H](S)シタロプラム+試験化合物290μLを加えることによって、会合を開始させる。最終体積は300μLであり、[H](S)シタロプラムの濃度は約6nMである。試験化合物の濃度はnM域からμM域まで変化させる。インキュベーション時間は、氷上または室温(22℃)で、0、2、5、10、15、20、30、50、70および90分である。膜を、氷冷ELGA水中、GF/Cガラス繊維フィルター(0.5%PEIで30分間予浸)上に収集する。フィルターを2×0.5ml氷冷ELGA水で2回すすぐ。フィルターを乾燥させ、40μLのシンチレーション液を加える。2時間後に、結合している[H](S)シタロプラムをシンチレーションカウンターで測定する。
【0051】
得られたデータを図2に示す。このデータは、[H](S)−シタロプラムと[H]2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンがSERTに対して異なる結合特性を示すことを、明確に示している。SERTに対する[H](S)−シタロプラムの会合は明らかに(R)−シタロプラムの影響を受け、(R)−シタロプラムの濃度が増加するにつれて会合が減少するのに対して、[H][2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンの会合は、同じ濃度範囲で、(R)−シタロプラムによる影響をほとんど受けなかった。このことから、(S)−シタロプラムと[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンとは異なるアロステリック部位に結合するという結論が導かれる。
【0052】
<実施例8>
ラットにおける亜慢性微小透析
実験の詳細は基本的に実施例5で説明したとおりである。得られたデータを図3に示す。[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンは腹側海馬における細胞外セロトニンの著しい増加を引き起こすことが、明確に示されている。さらにまた、この増加は(R)−シタロプラムの同時投与による影響を受けない。このことから、(R)−シタロプラムと[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンは同じ結合部位において競合しない、すなわちこれら二つの化合物は異なるアロステリック部位に結合するという結論が導かれる。これらのデータは、実施例7から得られる結論を、インビボ環境で裏付けている。
【0053】
<実施例9>
ラットにおける3日微小透析
実験データについては実施例5を参照されたい。化合物を以下のように投薬した:10mg/kg (S)−シタロプラムおよび4mg/kg [2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミン;どちらもシュウ酸塩として。図4に提示するデータは、2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンが、(S)−シタロプラムよりも迅速かつ顕著なセロトニンレベルの増加を引き起こすことを示している。これらの発見は、結果として、臨床状況における改善された効力につながるだろうと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1a】[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンによるSERTからのH−(S)−シタロプラムの解離。
【図1b】[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンによるSERTからのH−(S)−シタロプラムの解離。
【図2】さまざまな濃度の(R)−シタロプラムの存在下におけるSERTに対する[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンおよび(S)−シタロプラムの会合。
【図3】[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミン±(R)−シタロプラムの投与後に急性微小透析によって測定されるラットにおける細胞外セロトニンレベル(腹側海馬)。
【図4】[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンまたは(S)−シタロプラムの投与後に3日微小透析によって測定されるラットにおける細胞外セロトニンレベル(腹側海馬)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情動障害の処置に有用な化合物を同定するための方法であって、
a)セロトニントランスポーターを一つまたはそれ以上の濃度の試験化合物と接触させるステップ;
b)前記試験化合物がセロトニン再取り込みを阻害するかどうかを決定するステップ;
c)前記試験化合物がセロトニントランスポーターにおける一つまたはそれ以上のアロステリック部位と相互作用するかどうかを決定するステップ;
d)セロトニン再取り込みを阻害し、かつセロトニントランスポーターにおける一つまたはそれ以上のアロステリック部位と正に相互作用する試験化合物を選択するステップ;
を含み、ただし、ステップb)およびc)は任意の順序で行うことができる、前記方法。
【請求項2】
うつ病の処置においてフルオキセチン(fluoxetin(登録商標))より優れている化合物を同定するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップd)において試験化合物がセロトニントランスポーターの阻害に関して100nM未満のIC50を持つ場合にその試験化合物が選択される、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
試験化合物と相互作用するアロステリック部位が、R−シタロプラムを結合することができるセロトニントランスポーターのアロステリック部位であるかどうかを決定するという、さらなるステップを含み、前記部位と正に相互作用する試験化合物は選択されない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ラットの海馬または前頭皮質における細胞外セロトニンレベルが増加するかどうかを決定するという、さらなるステップを含み、そのような増加を引き起こす試験化合物が選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
試験化合物が急性の測定で300%以上の細胞外セロトニンレベルの増加を引き起こす場合にその試験化合物が選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試験化合物が試験化合物の投与を開始してから3日後の測定で300%以上の細胞外セロトニンレベルの増加を引き起こす場合にその試験化合物が選択される、請求項5の方法。
【請求項8】
前記増加が海馬において決定される、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記増加が前前頭皮質において測定される、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アロステリック部位が2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンを結合することができる部位である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
うつ病を処置する方法であって、それを必要とする患者に、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって同定される化合物の治療有効量を投与することを含み、ただし前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないことを条件とする、前記方法。
【請求項12】
うつ病を処置するための薬剤の製造における、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって同定される化合物の使用であって、ただし前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないことを条件とする、前記使用。
【請求項13】
抗うつ薬として使用するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって同定される化合物であって、ただし[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないことを条件とする、前記化合物。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって同定される化合物を含む医薬組成物であって、ただし前記化合物は[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンではないことを条件とする、前記医薬組成物。
【請求項15】
抗うつ薬の販売を促進するための方法であって、前記抗うつ薬の効果が、[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンが結合するセロトニントランスポーター上のアロステリック部位への前記抗うつ薬の結合に、完全にまたは部分的に起因すると考えられることを示す情報の公的配布を含む方法。
【請求項16】
[2−(6−フルオロ−1H−インドール−3−イルスルファニル)−ベンジル]−メチル−アミンを結合することができるセロトニントランスポーターのアロステリック部位に結合する抗うつ薬の販売を促進するための方法であって、前記抗うつ薬の効果が、あるアロステリック部位へのその結合に、完全にまたは部分的に起因すると考えられることを示す情報の公的流布を含む方法。
【請求項17】
前記抗うつ薬がセロトニントランスポーターを阻害する、請求項15または16のいずれか一項に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−538117(P2009−538117A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500703(P2009−500703)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/DK2007/050036
【国際公開番号】WO2007/107165
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】