うどんこ病防除剤及び防除方法
【課題】 園芸用、農業用としても使用可能な安全性の高い植物や動物に由来する成分からなるうどんこ病の感染防止用及び発病防止用の防除用液体組成物を提供する。
【解決手段】 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。該液体組成物をうどんこ病感染前又は感染直後の植物体に散布することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【解決手段】 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。該液体組成物をうどんこ病感染前又は感染直後の植物体に散布することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、うどんこ病の感染防止用及び発病防止用の組成物に関する。特に、園芸用のみならず農業用としても使用可能な安全性の高い植物や動物に由来する成分からなるうどんこ病の感染防止用及び発病防止用の防除剤組成物に関する。
【背景技術】
【０００２】
うどんこ病は子嚢菌のウドンコカビ科の純活物寄生菌による植物病害の総称である。葉や茎がうどんこをかけたように白くなり、農業分野ではキュウリ、イチゴ、リンゴ、メロン、ブドウなどにうどんこ病被害がでると著しく商品価値が低下するし、園芸分野ではバラなどが感染すると、植物そのものが弱ってしまうという被害がでる。
【０００３】
うどんこ病菌の種類はさまざまで世界的に分布しており、寄生する植物種によっても異なると言われている。
うどんこ病の防除には、従来アゾール系殺菌剤や炭酸水素カリウムなどが用いられている。しかしながら、これらの殺菌剤には、人や植物体への安全性の問題に加え、病原菌の薬剤抵抗性の出現という大きな問題がある。
【０００４】
農業分野においては食の安全性がいっそう強く求められており、一般家庭での園芸用途でも、安全性の高い天然成分を利用した病害菌の防除が注目されている。植物由来のものとしては、例えば、ドクダミを利用したうどんこ病防除剤（特許文献２）やヒバ抽出物を利用したうどんこ病防除剤（特許文献８）などが提案されており、他には、微生物の培養物又は微生物そのものを利用するうどん粉病等の植物病害防除剤も数多く提案されている（特許文献３、４、５、６、７）。
【０００５】
しかしながら、微生物を利用する場合は保存性の点で問題があるし、オイルなど脂溶性成分の場合は散布が簡単ではないという問題や植物に対する成長阻害などの影響があるという問題があり、また効果の点でも満足のいくものではないというようなさまざまな問題点があった。
以上のように、人体に対して安全である植物や動物由来のうどんこ病に対する防除用乃至感染防止用として優れた作用効果を奏する組成物は未だ開発されていない。
【０００６】
人体に対して安全性の高い 植物由来の抗菌剤としてはユーカリ葉抽出物が知られている。ユーカリ葉抽出物とは、オーストラリアやブラジルに広く分布するユーカリ（フトモモ科ユーカリ属）の葉から有機溶媒によって抽出される物質のことであり、グラム陽性菌に対する抗菌性などの生理活性効果が知られている。主な成分はユーカリプチンなどのフラボノイド類であり、天然の抗菌剤として有用である（非特許文献１）。
【０００７】
このユーカリ葉抽出物は、ユーカリ属植物の葉から精油成分を除去し、さらに極性有機溶媒で抽出した抽出物であり、その抗菌作用についての研究結果として、抗菌成分はフロログルシノール誘導体であると報告されている。また、ユーカリ極性有機溶媒抽出物やその抗菌物質を有効成分とする、抗う食剤、抗歯周病剤についても報告されている（特許文献９）。
また、ユーカリ葉エキスには、ＭＲＳＡ(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、セレウス菌、白癬菌、ニキビ菌、バチルスなどには効果が認められるが、真菌類、例えば黒かび（Aspergillus niger）などに対しては効果が弱いとされており（特許文献１）、うどんこ病に対して応用した例は報告されていない。
以上のように、ユーカリ葉抽出物については、これまでにうどんこ病の発病防止乃至感染防止用の防除組成物として有効であるという報告はみられない。
【０００８】
他方、甲殻類から採取されるキチン由来で、人体に対して安全性の高い抗菌剤としてキトサンが知られており、食品の浅漬け、カーペット、木材などに抗菌性を付与する等、応用分野も広がっている（非特許文献２）。
キトサンには大腸菌等、グラム陰性菌に対する抗菌作用があることが報告されており、農業資材として応用した例としては、低分子量のキトサンを、芝に応用すると黒点病に有効であるという報告（特許文献１０）もあり、さらに、二価鉄、クエン酸とキトサンの組み合わせにより、軟腐病やうどんこ病に効果があるという文献（特許文献１１）があり、キトサンとサリチル酸とマグネシウムを組み合わせたものの特許公報（特許文献１２）もある。
しかし、各文献記載の技術において、キトサンを配合した理由はうどんこ病菌以外の細菌類によって引き起こされる病気の予防であり、列挙した特許文献にはキトサン単独でうどんこ病菌に対して直接的に効果があることは記載されていない。
【０００９】
以上のように、現在に至るまでうどんこ病を効果的に防除でき、人体に有害性のない天然系の組成物、特に液剤は開発されておらず、農家、園芸家は依然として有害性の高い化学農薬に頼らざるを得ないのが現状である。
【特許文献１】特開平１１−８００１２号公報
【特許文献２】特開平０６−２７１４１６号公報
【特許文献３】特開平０９−１０４６０６号公報
【特許文献４】特開平１０−００７５１５号公報
【特許文献５】特開２００５−０９７１６４号公報
【特許文献６】特開２００５−２８９９４４号公報
【特許文献７】特開２００６−３０４６８４号公報
【特許文献８】特開２００６−０８３１０７号公報
【特許文献９】特開平０８−１０９１１８号公報
【特許文献１０】特開平０５−０３９２０７号公報
【特許文献１１】特開２００４−２４４３２４号公報
【特許文献１２】特開２０００−２１２０１３号公報
【非特許文献１】Ｌｅｔｔｅｒｓ ｉｎ Ａｐｐｌｉｅｄ Ｍｉｃｒｏｂｉｏｌｏｇｙ ２００４，３９，６０−６４
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１０】
本発明は、安全性の高い天然成分を有効成分とするうどんこ病の感染防止用乃至発病防止用の液剤と該液剤を使用した植物のうどんこ病感染乃至発病防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ユーカリエキスとキトサンの両者をあわせた場合に、うどんこ病菌に対して相乗的な効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、うどんこ病の感染防止用及び発病防止用の組成物における有効成分として、人体に対して安全性の高いユーカリ抽出物と甲殻類から得られるキチン由来のキトサンを使用することを主たる技術事項とする以下の各発明から選択される発明である。
【００１２】
〔１〕 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。
【００１３】
〔２〕 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンを有効成分とし、さらに乳酸及びグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする〔１〕項記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【００１４】
〔３〕 ユーカリ葉抽出エキスは、ユーカリ葉を低級アルコール類、グリコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、低級脂肪酸エステル類、ケトン類及び水から選ばれる溶媒の１種もしくは２種類以上の均一混合可能な溶媒からなる混合溶媒を用いてユーカリ葉を抽出して得られる抽出エキスであることを特徴とする〔１〕項又は〔２〕項に記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【００１５】
〔４〕前記〔１〕項〜〔３〕項のいずれか１項に記載のうどんこ病防除用液体組成物をうどんこ病防除対象区域の感染前の植物及び／又は感染後の植物に散布して植物のうどんこ病感染を防止乃至感染後の発病を防止することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【発明の効果】
【００１６】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物によれば、人体や環境等に対して悪影響を及ぼすことなく、安全かつ効果的に農業用及び園芸用の植物にうどんこ病が感染することを防止し、また、感染後の発病を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１７】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物に用いられるユーカリ抽出物の原料となる葉は、ユーカリ属に属する植物であれば使用可能であるが、ユーカリプタス・グロブラス（Eucalyptus globulus）、ユーカリプタス・ビミナリス（Eucalyptus viminaｌis）、ユーカリプタス・ボトリオイデス（Eucalyptus botryoides）、ユーカリプタス・カマルドレンシス（Eucalyptus camaldulensis）、ユーカリプタス・グランディス（Eucalyptus grandis）、ユーカリプタス・マキュラータ（Eucalyptus maculata）などを好適に使うことが可能である。
【００１８】
抽出に用いる溶媒は、アルコール類のほかにハロゲン化炭化水素類、エーテル類、ケトン類、有機酸類、酢酸エチル等のエステル類、プロピレングリコール類等のグリコール類を使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は単独で用いてもよく、任意の２種または３種以上を組み合わせてもよいが、中でも水溶性アルコールやグリコール類が好適であり、更にエタノール、プロピレングリコールが好適である。
【００１９】
キトサンとは、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチンを、濃アルカリ中での煮沸処理等により脱アセチル化して得られる多糖類である。直鎖型の多糖類でグルコサミンの １，４−重合物で一般式は（Ｃ６Ｈ１１ＮＯ４）ｎである。
一般に、キトサンは高分子物質ではあるが、有機酸を含む水に可溶であり、増粘多糖類として食品へ添加することが認められている。そのほか、人工皮膚、イオン交換の支持体、カチオン系汚泥凝集剤のほかに、健康食品の素材としても使われている、非常に安全性の高い物質である。
【００２０】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物におけるユーカリエキス、キトサン、有機酸、並びに界面活性剤及び水溶性アルコールの含有量は、ユーカリ抽出物（固形分として)０．０００１〜５質量％、キトサン０．００１〜５質量％、有機酸０．０００８〜５質量％、界面活性剤０．００１〜１０質量％、及び水溶性アルコール０．００１〜３０質量％が好ましく、ユーカリ抽出物０．０２〜１．質量％、キトサン０．１〜３質量％、界面活性剤０．１〜５質量％及び水溶性アルコール０．１〜１０質量％がより好ましい。また、本発明の液体組成物には、本発明により奏される効果を阻害しない限り、本分野で使用される公知の他の成分が含まれていても良い。
【００２１】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物は、以上の各成分を公知の方法により適宜混合して液剤とすることにより容易に調製することができる。
【００２２】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物は、うどんこ病感染防止及びうどん粉病感染後の発病防止のために好適に使用することができる。その使用方法は公知の農薬の使用方法に準じればよい。また、本発明のうどんこ病感染防止用乃至うどんこ病発病防止用の液体組成物は、葉面散布、自動灌水、くん煙や超音波による蒸散といった利用形態に適用できる。
【実施例】
【００２３】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【００２４】
実験例１〜８ （ミニバラのうどんこ病感染防止試験）
実験例１
ユーカリエキス（王子木材緑化製、エタノール５０質量％・固形分を１．５質量％、残り水を含む）２３質量部、グリセリン脂肪酸エステル（商品名「サンソフト」、太陽化学製）１．８質量部、キトサン（商品名「キミツキトサン」、キミカ製）１．８質量部、乳酸１．５質量部及び水７１．９質量部を混合したものをうどんこ病防除用抗菌剤原液とし、実際の散布には、この液を２０倍に希釈して用いた。
【００２５】
実験例２〜７
実験例１で使用した抗菌剤原液に含まれる成分の中で、実際にどの成分が活性成分として関与しているのかを確認する目的で、実験例１で使用したものと同じユーカリエキスを２３質量部、キトサン１．８質量部と乳酸１．５質量部、残余水とした原液（実験例２）、ユーカリエキスを２３質量部、グリセリン脂肪酸エステル１．８質量部、残余水とした原液（実験例３）、ユーカリエキスを２３質量部と残余水とした原液（実験例４）、キトサン１．８質量部と乳酸１．５質量部、残余水とした原液（実験例５）、グリセリン脂肪酸エステル１．８質量部及び残余水とした原液（実験例６）、乳酸１．５質量部及び残余水とした原液（実験例７）をそれぞれ調製して使用した。
実際の噴霧は実施例１の場合と同様に、これらの原液を２０倍希釈したものを、ガンスプレーで、葉部にまんべんなく噴霧することで行った。
【００２６】
うどんこ病に感染しているミニバラ（品種名：フェスタ）から得た胞子を感染源とし、未感染のミニバラ１０鉢に対して、胞子を噴霧することで感染を成立させた。すなわち、未感染のミニバラには実験例１〜７の液剤のそれぞれを週に２度噴霧し、実験例８には何も噴霧しなかった。通常通りに施肥、水やり等を実施し、日当たりの良好なハウス内にて栽培し、１ヶ月間経過を観察した。一ヶ月間経過を観察した結果を表２に示す。
【００２７】
【表１】
【００２８】
表１の結果から、実験例１及び実験例２で使用した液剤が圧倒的に感染防止効果の高く、特にユーカリエキス、キトサン、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル含有原液を使用した実験例１の液剤の感染防止効果が高いことが分かった。このことから、少なくともユーカリエキスとキトサン（実験例１及び実験例２）の配合を有することが必須条件であること、及びグリセリン脂肪酸エステルの添加が更に効果を増強させる傾向があることが伺える。ユーカリエキスとグリセリン脂肪酸エステル（実験例３）や、ユーカリエキス単独（実験例４）、キトサン及び乳酸（実験例５）、グリセリン脂肪酸エステル単独（実験例６）、乳酸単独（実験例７）でも若干の効果が見られるが決して効果は充分でない。実験例１及び実験例２で使用した液剤の効果はユーカリエキスとキトサンによる相乗効果であると判断できる。
【００２９】
実験例９ （ミニバラのうどんこ病発病防止試験）
ミニバラ（フェスタ）の苗木を4つの試験区（各試験区：６個体）及び１つの対照区（６個体）に分けてハウス内で栽培した。２週間後、うどんこ病が発生している別の個体から採取したうどんこ病胞子を栽培中のミニバラに接種した。接種３日後、各試験区で６個体の全体に、実施例１で調製した液剤をそのまま、１／１０希釈、１／１００希釈、１／１０００希釈、１／５０００希釈の希釈液としてスプレーにて葉面散布し、対照区では水を散布した。なお、散布は２回／週の頻度で実施した。さらに１ヶ月栽培後、発病状況を調査し、発病度及び防除価を求めて各組成物のうどんこ病に対する発病防止効果乃至防除効果を評価した。なお、各試験区及び対照区の６個体について調査した。試験条件等の詳細は以下の通りである。
【００３０】
（１）発病度は以下の式により求めた。
発病度（％）＝〔Σ（発病指数×6）／（４×６）〕×１００
【００３１】
評価は以下の基準で行った。
０：病斑が見られない
１：病斑がわずかに見られる（全体の５％以下）
２：病斑が全体の２０％未満を占める
３：病斑が全体の２０％以上５０％未満を占める
４：病斑が全体の５０％以上を占める
【００３２】
（２）防除価は以下の式により求めた。
防除価＝１００−（試験区の発病度／対照区の発病度）×１００
【００３３】
各試験液のミニバラのうどんこ病に対する防除効果の評価結果を表２に示す。
【００３４】
【表２】
【００３５】
表２の結果から、実験例１で調製した原液は、１／１００希釈程度までであれば、うどんこ病の発病をほぼ抑制可能であることが分かった。
【００３６】
実験例１０（試験液の保存安定性）
実験例１で調製した原液を恒温室（４０℃）にて６ヵ月間保存した。放置後の原液を肉眼にて観察したところ、若干の濃色化が観察されたが、相分離や沈殿の生成は確認できなかった。さらに、保存後の原液を実験例１と同様の方法で使用してうどんこ病菌に対する感染防止効果を調べたところ、充分な防除効果を示した。したがって、室温に換算すれば１年程度の保管には十分耐えうることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【００３７】
本発明は、長期間保存しても安定して効果を保持する、貯蔵安定性が良好でなおかつ、安全性の高い天然成分を有効成分とするうどんこ病防除用液体組成物を提供する。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、うどんこ病の感染防止用及び発病防止用の組成物に関する。特に、園芸用のみならず農業用としても使用可能な安全性の高い植物や動物に由来する成分からなるうどんこ病の感染防止用及び発病防止用の防除剤組成物に関する。
【背景技術】
【０００２】
うどんこ病は子嚢菌のウドンコカビ科の純活物寄生菌による植物病害の総称である。葉や茎がうどんこをかけたように白くなり、農業分野ではキュウリ、イチゴ、リンゴ、メロン、ブドウなどにうどんこ病被害がでると著しく商品価値が低下するし、園芸分野ではバラなどが感染すると、植物そのものが弱ってしまうという被害がでる。
【０００３】
うどんこ病菌の種類はさまざまで世界的に分布しており、寄生する植物種によっても異なると言われている。
うどんこ病の防除には、従来アゾール系殺菌剤や炭酸水素カリウムなどが用いられている。しかしながら、これらの殺菌剤には、人や植物体への安全性の問題に加え、病原菌の薬剤抵抗性の出現という大きな問題がある。
【０００４】
農業分野においては食の安全性がいっそう強く求められており、一般家庭での園芸用途でも、安全性の高い天然成分を利用した病害菌の防除が注目されている。植物由来のものとしては、例えば、ドクダミを利用したうどんこ病防除剤（特許文献２）やヒバ抽出物を利用したうどんこ病防除剤（特許文献８）などが提案されており、他には、微生物の培養物又は微生物そのものを利用するうどん粉病等の植物病害防除剤も数多く提案されている（特許文献３、４、５、６、７）。
【０００５】
しかしながら、微生物を利用する場合は保存性の点で問題があるし、オイルなど脂溶性成分の場合は散布が簡単ではないという問題や植物に対する成長阻害などの影響があるという問題があり、また効果の点でも満足のいくものではないというようなさまざまな問題点があった。
以上のように、人体に対して安全である植物や動物由来のうどんこ病に対する防除用乃至感染防止用として優れた作用効果を奏する組成物は未だ開発されていない。
【０００６】
人体に対して安全性の高い 植物由来の抗菌剤としてはユーカリ葉抽出物が知られている。ユーカリ葉抽出物とは、オーストラリアやブラジルに広く分布するユーカリ（フトモモ科ユーカリ属）の葉から有機溶媒によって抽出される物質のことであり、グラム陽性菌に対する抗菌性などの生理活性効果が知られている。主な成分はユーカリプチンなどのフラボノイド類であり、天然の抗菌剤として有用である（非特許文献１）。
【０００７】
このユーカリ葉抽出物は、ユーカリ属植物の葉から精油成分を除去し、さらに極性有機溶媒で抽出した抽出物であり、その抗菌作用についての研究結果として、抗菌成分はフロログルシノール誘導体であると報告されている。また、ユーカリ極性有機溶媒抽出物やその抗菌物質を有効成分とする、抗う食剤、抗歯周病剤についても報告されている（特許文献９）。
また、ユーカリ葉エキスには、ＭＲＳＡ(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、セレウス菌、白癬菌、ニキビ菌、バチルスなどには効果が認められるが、真菌類、例えば黒かび（Aspergillus niger）などに対しては効果が弱いとされており（特許文献１）、うどんこ病に対して応用した例は報告されていない。
以上のように、ユーカリ葉抽出物については、これまでにうどんこ病の発病防止乃至感染防止用の防除組成物として有効であるという報告はみられない。
【０００８】
他方、甲殻類から採取されるキチン由来で、人体に対して安全性の高い抗菌剤としてキトサンが知られており、食品の浅漬け、カーペット、木材などに抗菌性を付与する等、応用分野も広がっている（非特許文献２）。
キトサンには大腸菌等、グラム陰性菌に対する抗菌作用があることが報告されており、農業資材として応用した例としては、低分子量のキトサンを、芝に応用すると黒点病に有効であるという報告（特許文献１０）もあり、さらに、二価鉄、クエン酸とキトサンの組み合わせにより、軟腐病やうどんこ病に効果があるという文献（特許文献１１）があり、キトサンとサリチル酸とマグネシウムを組み合わせたものの特許公報（特許文献１２）もある。
しかし、各文献記載の技術において、キトサンを配合した理由はうどんこ病菌以外の細菌類によって引き起こされる病気の予防であり、列挙した特許文献にはキトサン単独でうどんこ病菌に対して直接的に効果があることは記載されていない。
【０００９】
以上のように、現在に至るまでうどんこ病を効果的に防除でき、人体に有害性のない天然系の組成物、特に液剤は開発されておらず、農家、園芸家は依然として有害性の高い化学農薬に頼らざるを得ないのが現状である。
【特許文献１】特開平１１−８００１２号公報
【特許文献２】特開平０６−２７１４１６号公報
【特許文献３】特開平０９−１０４６０６号公報
【特許文献４】特開平１０−００７５１５号公報
【特許文献５】特開２００５−０９７１６４号公報
【特許文献６】特開２００５−２８９９４４号公報
【特許文献７】特開２００６−３０４６８４号公報
【特許文献８】特開２００６−０８３１０７号公報
【特許文献９】特開平０８−１０９１１８号公報
【特許文献１０】特開平０５−０３９２０７号公報
【特許文献１１】特開２００４−２４４３２４号公報
【特許文献１２】特開２０００−２１２０１３号公報
【非特許文献１】Ｌｅｔｔｅｒｓ ｉｎ Ａｐｐｌｉｅｄ Ｍｉｃｒｏｂｉｏｌｏｇｙ ２００４，３９，６０−６４
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１０】
本発明は、安全性の高い天然成分を有効成分とするうどんこ病の感染防止用乃至発病防止用の液剤と該液剤を使用した植物のうどんこ病感染乃至発病防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ユーカリエキスとキトサンの両者をあわせた場合に、うどんこ病菌に対して相乗的な効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、うどんこ病の感染防止用及び発病防止用の組成物における有効成分として、人体に対して安全性の高いユーカリ抽出物と甲殻類から得られるキチン由来のキトサンを使用することを主たる技術事項とする以下の各発明から選択される発明である。
【００１２】
〔１〕 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。
【００１３】
〔２〕 ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンを有効成分とし、さらに乳酸及びグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする〔１〕項記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【００１４】
〔３〕 ユーカリ葉抽出エキスは、ユーカリ葉を低級アルコール類、グリコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、低級脂肪酸エステル類、ケトン類及び水から選ばれる溶媒の１種もしくは２種類以上の均一混合可能な溶媒からなる混合溶媒を用いてユーカリ葉を抽出して得られる抽出エキスであることを特徴とする〔１〕項又は〔２〕項に記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【００１５】
〔４〕前記〔１〕項〜〔３〕項のいずれか１項に記載のうどんこ病防除用液体組成物をうどんこ病防除対象区域の感染前の植物及び／又は感染後の植物に散布して植物のうどんこ病感染を防止乃至感染後の発病を防止することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【発明の効果】
【００１６】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物によれば、人体や環境等に対して悪影響を及ぼすことなく、安全かつ効果的に農業用及び園芸用の植物にうどんこ病が感染することを防止し、また、感染後の発病を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１７】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物に用いられるユーカリ抽出物の原料となる葉は、ユーカリ属に属する植物であれば使用可能であるが、ユーカリプタス・グロブラス（Eucalyptus globulus）、ユーカリプタス・ビミナリス（Eucalyptus viminaｌis）、ユーカリプタス・ボトリオイデス（Eucalyptus botryoides）、ユーカリプタス・カマルドレンシス（Eucalyptus camaldulensis）、ユーカリプタス・グランディス（Eucalyptus grandis）、ユーカリプタス・マキュラータ（Eucalyptus maculata）などを好適に使うことが可能である。
【００１８】
抽出に用いる溶媒は、アルコール類のほかにハロゲン化炭化水素類、エーテル類、ケトン類、有機酸類、酢酸エチル等のエステル類、プロピレングリコール類等のグリコール類を使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は単独で用いてもよく、任意の２種または３種以上を組み合わせてもよいが、中でも水溶性アルコールやグリコール類が好適であり、更にエタノール、プロピレングリコールが好適である。
【００１９】
キトサンとは、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチンを、濃アルカリ中での煮沸処理等により脱アセチル化して得られる多糖類である。直鎖型の多糖類でグルコサミンの １，４−重合物で一般式は（Ｃ６Ｈ１１ＮＯ４）ｎである。
一般に、キトサンは高分子物質ではあるが、有機酸を含む水に可溶であり、増粘多糖類として食品へ添加することが認められている。そのほか、人工皮膚、イオン交換の支持体、カチオン系汚泥凝集剤のほかに、健康食品の素材としても使われている、非常に安全性の高い物質である。
【００２０】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物におけるユーカリエキス、キトサン、有機酸、並びに界面活性剤及び水溶性アルコールの含有量は、ユーカリ抽出物（固形分として)０．０００１〜５質量％、キトサン０．００１〜５質量％、有機酸０．０００８〜５質量％、界面活性剤０．００１〜１０質量％、及び水溶性アルコール０．００１〜３０質量％が好ましく、ユーカリ抽出物０．０２〜１．質量％、キトサン０．１〜３質量％、界面活性剤０．１〜５質量％及び水溶性アルコール０．１〜１０質量％がより好ましい。また、本発明の液体組成物には、本発明により奏される効果を阻害しない限り、本分野で使用される公知の他の成分が含まれていても良い。
【００２１】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物は、以上の各成分を公知の方法により適宜混合して液剤とすることにより容易に調製することができる。
【００２２】
本発明のうどんこ病防除用液体組成物は、うどんこ病感染防止及びうどん粉病感染後の発病防止のために好適に使用することができる。その使用方法は公知の農薬の使用方法に準じればよい。また、本発明のうどんこ病感染防止用乃至うどんこ病発病防止用の液体組成物は、葉面散布、自動灌水、くん煙や超音波による蒸散といった利用形態に適用できる。
【実施例】
【００２３】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【００２４】
実験例１〜８ （ミニバラのうどんこ病感染防止試験）
実験例１
ユーカリエキス（王子木材緑化製、エタノール５０質量％・固形分を１．５質量％、残り水を含む）２３質量部、グリセリン脂肪酸エステル（商品名「サンソフト」、太陽化学製）１．８質量部、キトサン（商品名「キミツキトサン」、キミカ製）１．８質量部、乳酸１．５質量部及び水７１．９質量部を混合したものをうどんこ病防除用抗菌剤原液とし、実際の散布には、この液を２０倍に希釈して用いた。
【００２５】
実験例２〜７
実験例１で使用した抗菌剤原液に含まれる成分の中で、実際にどの成分が活性成分として関与しているのかを確認する目的で、実験例１で使用したものと同じユーカリエキスを２３質量部、キトサン１．８質量部と乳酸１．５質量部、残余水とした原液（実験例２）、ユーカリエキスを２３質量部、グリセリン脂肪酸エステル１．８質量部、残余水とした原液（実験例３）、ユーカリエキスを２３質量部と残余水とした原液（実験例４）、キトサン１．８質量部と乳酸１．５質量部、残余水とした原液（実験例５）、グリセリン脂肪酸エステル１．８質量部及び残余水とした原液（実験例６）、乳酸１．５質量部及び残余水とした原液（実験例７）をそれぞれ調製して使用した。
実際の噴霧は実施例１の場合と同様に、これらの原液を２０倍希釈したものを、ガンスプレーで、葉部にまんべんなく噴霧することで行った。
【００２６】
うどんこ病に感染しているミニバラ（品種名：フェスタ）から得た胞子を感染源とし、未感染のミニバラ１０鉢に対して、胞子を噴霧することで感染を成立させた。すなわち、未感染のミニバラには実験例１〜７の液剤のそれぞれを週に２度噴霧し、実験例８には何も噴霧しなかった。通常通りに施肥、水やり等を実施し、日当たりの良好なハウス内にて栽培し、１ヶ月間経過を観察した。一ヶ月間経過を観察した結果を表２に示す。
【００２７】
【表１】
【００２８】
表１の結果から、実験例１及び実験例２で使用した液剤が圧倒的に感染防止効果の高く、特にユーカリエキス、キトサン、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル含有原液を使用した実験例１の液剤の感染防止効果が高いことが分かった。このことから、少なくともユーカリエキスとキトサン（実験例１及び実験例２）の配合を有することが必須条件であること、及びグリセリン脂肪酸エステルの添加が更に効果を増強させる傾向があることが伺える。ユーカリエキスとグリセリン脂肪酸エステル（実験例３）や、ユーカリエキス単独（実験例４）、キトサン及び乳酸（実験例５）、グリセリン脂肪酸エステル単独（実験例６）、乳酸単独（実験例７）でも若干の効果が見られるが決して効果は充分でない。実験例１及び実験例２で使用した液剤の効果はユーカリエキスとキトサンによる相乗効果であると判断できる。
【００２９】
実験例９ （ミニバラのうどんこ病発病防止試験）
ミニバラ（フェスタ）の苗木を4つの試験区（各試験区：６個体）及び１つの対照区（６個体）に分けてハウス内で栽培した。２週間後、うどんこ病が発生している別の個体から採取したうどんこ病胞子を栽培中のミニバラに接種した。接種３日後、各試験区で６個体の全体に、実施例１で調製した液剤をそのまま、１／１０希釈、１／１００希釈、１／１０００希釈、１／５０００希釈の希釈液としてスプレーにて葉面散布し、対照区では水を散布した。なお、散布は２回／週の頻度で実施した。さらに１ヶ月栽培後、発病状況を調査し、発病度及び防除価を求めて各組成物のうどんこ病に対する発病防止効果乃至防除効果を評価した。なお、各試験区及び対照区の６個体について調査した。試験条件等の詳細は以下の通りである。
【００３０】
（１）発病度は以下の式により求めた。
発病度（％）＝〔Σ（発病指数×6）／（４×６）〕×１００
【００３１】
評価は以下の基準で行った。
０：病斑が見られない
１：病斑がわずかに見られる（全体の５％以下）
２：病斑が全体の２０％未満を占める
３：病斑が全体の２０％以上５０％未満を占める
４：病斑が全体の５０％以上を占める
【００３２】
（２）防除価は以下の式により求めた。
防除価＝１００−（試験区の発病度／対照区の発病度）×１００
【００３３】
各試験液のミニバラのうどんこ病に対する防除効果の評価結果を表２に示す。
【００３４】
【表２】
【００３５】
表２の結果から、実験例１で調製した原液は、１／１００希釈程度までであれば、うどんこ病の発病をほぼ抑制可能であることが分かった。
【００３６】
実験例１０（試験液の保存安定性）
実験例１で調製した原液を恒温室（４０℃）にて６ヵ月間保存した。放置後の原液を肉眼にて観察したところ、若干の濃色化が観察されたが、相分離や沈殿の生成は確認できなかった。さらに、保存後の原液を実験例１と同様の方法で使用してうどんこ病菌に対する感染防止効果を調べたところ、充分な防除効果を示した。したがって、室温に換算すれば１年程度の保管には十分耐えうることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【００３７】
本発明は、長期間保存しても安定して効果を保持する、貯蔵安定性が良好でなおかつ、安全性の高い天然成分を有効成分とするうどんこ病防除用液体組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項２】
ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンを有効成分とし、さらに乳酸及びグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項１記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項３】
ユーカリ葉抽出エキスは、ユーカリ葉を低級アルコール類、グリコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、低級脂肪酸エステル類、ケトン類及び水から選ばれる溶媒の１種もしくは２種類以上の均一混合可能な溶媒からなる混合溶媒を用いてユーカリ葉を抽出して得られる抽出エキスであることを特徴とする請求項１又は２に記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項４】
請求項１〜３のいずれか１項に記載のうどんこ病防除用液体組成物をうどん粉病防除対象区域の感染前の植物及び／又は感染後の植物に散布して植物のうどんこ病感染を防止乃至感染後の発病を防止することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【請求項１】
ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項２】
ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンを有効成分とし、さらに乳酸及びグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求項１記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項３】
ユーカリ葉抽出エキスは、ユーカリ葉を低級アルコール類、グリコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、低級脂肪酸エステル類、ケトン類及び水から選ばれる溶媒の１種もしくは２種類以上の均一混合可能な溶媒からなる混合溶媒を用いてユーカリ葉を抽出して得られる抽出エキスであることを特徴とする請求項１又は２に記載のうどんこ病防除用液体組成物。
【請求項４】
請求項１〜３のいずれか１項に記載のうどんこ病防除用液体組成物をうどん粉病防除対象区域の感染前の植物及び／又は感染後の植物に散布して植物のうどんこ病感染を防止乃至感染後の発病を防止することからなる植物のうどんこ病防除方法。
【公開番号】特開２００９−１９０１１（Ｐ２００９−１９０１１Ａ）
【公開日】平成２１年１月２９日（２００９．１．２９）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−１８３１５８（Ｐ２００７−１８３１５８）
【出願日】平成１９年７月１２日（２００７．７．１２）
【出願人】（０００１２２２９８）王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】（５０３３０６１１３）王子木材緑化株式会社 (9)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年１月２９日（２００９．１．２９）
【国際特許分類】
【出願日】平成１９年７月１２日（２００７．７．１２）
【出願人】（０００１２２２９８）王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】（５０３３０６１１３）王子木材緑化株式会社 (9)
【Ｆターム（参考）】
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