説明

かご形誘導電動機の回転子の製造方法

【課題】 大きさを変えることなく従来よりも高効率のかご形誘導電動機を製造できるようにする。
【解決手段】 ロータコアを構成する電磁鋼板の積厚方向が上下方向になるようにロータコアをキャビティ(C1、C2)内に収める。0.05[m/sec]以上0.2[m/sec]以下の低速層流充填速度で液相の純アルミニウムを、キャビティ(C1、C2)の下方からキャビティ(C1、C2)内に供給する。キャビティ(C1、C2)内に収められているロータコア200に接触しているときのアルミニウムの温度を、630[℃]以上660[℃]以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご形誘導電動機の回転子の製造方法に関し、特に、かご形誘導電動機の回転子を製造するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、かご形誘導電動機の回転子は、量産に適した所謂アルミダイカストで作製されるのが一般的である(特許文献1を参照)。このような回転子(ロータ)は、次のようにして作製される。まず、ロータコアを構成する複数の鋼板の積厚方向が水平方向を向くように、金型内(キャビティ内)にロータコアを配置する。金型の内部には、アルミニウムの流路が形成される。流路の一端側にはキャビティが位置し、他端側にはプランジャーピストンが位置する。この流路の所定の領域に、アルミニウムの溶湯が注がれる。このアルミニウムの溶湯に対してプランジャーピストンを押し付ける。そうすると、前記ロータコアのスロットに対し、アルミニウムの溶湯が、水平方向に高速で注入される。これにより、導体バーとエンドリング(短絡環)とが鉄心と一体に加圧鋳造される。このように溶湯を水平方向に注入する方式を横型の鋳造方式と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−285889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルミダイカストでは、横型で溶湯を注入することに加えて、スロット内における溶湯速度が高速である。プランジャーピストンの移動速度は1.5[m/sec]程度である。したがって、スロットの内部に空気が巻き込まれてしまう。これにより、空気による多数の空洞部が、導体バーの内部とエンドリング(短絡環)の内部に生じる。このため、回転子の二次抵抗が上昇してしまい、かご形誘導電動機の効率を向上させることができないという問題点があった。
また、かご型誘導電動機の効率を向上させる方法として、電動機のトルクを上げることにより、銅損を低減させることが考えられる。しかしながら、このようにすると、電動機の大きさが大きくなるという問題点があった。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、大きさを変えることなく従来よりも高効率のかご形誘導電動機を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のかご形誘導電動機の回転子の製造方法は、ロータコアの面方向の形状と同一の形状に加工された複数の鋼板を積層することにより、周方向に略等間隔で形成された複数のスロットを有するロータコアを形成するロータコア形成工程と、前記ロータコアを構成する複数の鋼板の積厚方向を上下方向にした状態で、前記スロットの下から上に向けて、固相と液相とが混合された固液共存状態の純アルミニウムを供給して、ロータのかご部の領域を充填する半凝固鋳造工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ロータコアのスロットの下から上に向けて、固相と液相とが混合された固液共存状態の純アルミニウムを層流状態で供給して、ロータのかご部の領域を充填する。したがって、ロータのかご部に生じる空洞部を従来よりも低減することができる。これにより、回転子の二次導体の電気抵抗を低下させることができる。よって、大きさを変えることなく従来よりも高効率のかご形誘導電動機を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】図1Aは、電動機の概略構成の一例を示す図である。
【図1B】図1Bは、電動機のモータ部の外観構成の一例を示す図である。
【図2】図2は、回転子のコア(ロータコア)の一例を示す図である。
【図3】図3は、固定子のコア(ステータコア)の一例を示す図である。
【図4】図4は、電動機の回転子の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、ロータコアの縦断面の一例を示す図である。
【図6】図6は、成形装置の縦断面の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施例と比較例におけるアルミニウムの充填条件を示す図である。
【図8】図8は、本実施例と比較例の電動機の効率を示す図である。
【図9】図9は、実施例1と比較例の電動機の効率を示す図である。
【図10】図10は、実施例1と比較例の電動機のトルク特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1Aは、三相かご形誘導電動機の概略構成の一例を示す図である。尚、以下の説明では、「三相かご形誘導電動機」を必要に応じて「電動機」と略称する。また、説明の都合上、各図では、必要な部分のみを簡略化及び省略化して示している。
【0009】
図1Aにおいて、電動機100は、モータ部101と、ブレーキ部102と、ギアヘッド部103とを有する。
モータ部101は、電動機としての回転動作を行う部分である。ブレーキ部102とギアヘッド部103は、モータ部101の回転の制動等を行う部分である。尚、電動機は、モータ部101を有していれば、必ずしも、ブレーキ部102とギアヘッド部103とを有していなくてもよい。
【0010】
図1Bは、電動機のモータ部101の外観構成の一例を示す図である。具体的に図1は、電動機を、その回転軸に直角な方向から見た図である。
図1において、本実施形態の電動機100のモータ部101は、回転子(ロータ)110と、固定子(ステータ)120と、回転軸(モータシャフト)130と、通しボルト140と、を有する。
【0011】
図2は、回転子110のコアの一例を示す図である。
図2において、回転子110のコア200は、28個のスロット201〜228と、回転軸挿入孔229と、を有する。スロット201〜228は、クローズドスロットである。スロット201〜228は、回転子110のコア200の外周部において、回転子110のコア200の周方向に略等間隔で配置される。回転軸挿入孔229は、回転子110のコア200の中央部に配置される。回転軸挿入孔229には、回転軸130が挿入される。
【0012】
回転子110のコア200は、回転子110のコア200の面方向(図2の紙面に平行な方向)の形状と同一の形状になるように打ち抜かれた複数の電磁鋼板を、その厚み方向に積み重ねることにより構成される。ここで、各電磁鋼板には、絶縁処理が施されている。尚、本実施形態では、外径が40[mm]以上150[mm]以下であり、且つ、スロットの数が12以上44以下の回転子110を想定している。また、以下の説明では、「回転子110のコア200」を必要に応じて「ロータコア200」と称する。
【0013】
図3は、固定子120のコアの一例を示す図である。
図3において、固定子120のコア300は、36個のスロット301〜336と、4個のボルト通し孔337〜340と、4個の電流バランス調整孔341〜344と、を有する。
【0014】
スロット301〜336は、オープンスロットである。スロット301〜336は、固定子120のコア300の内周部において、固定子120のコア300の周方向に略等間隔で配置される。
ボルト通し孔337〜340は、固定子120のコア300の外周部において、固定子120のコア300の周方向に略等間隔で配置される。
【0015】
電流バランス調整孔341〜344は、固定子120のコア300の外周部の位置であって、周方向で相互に隣接する2つのボルト通し孔(例えば、ボルト通し孔337、338)から略等距離の位置に配置される。前述したように、ボルト通し孔337〜340は、固定子120のコア300の外周部において、固定子120のコア300の周方向に略等間隔で配置される。よって、電流バランス調整孔341〜344も、固定子120のコア300の外周部において、固定子120のコア300の周方向に略等間隔で配置される。
固定子120のスロット301〜336には、コイルが配置される。また、以下の説明では、「固定子120のコア300」を必要に応じて「ステータコア300」と称する。
【0016】
ステータコア300は、ステータコア300の面方向(図3の紙面に平行な方向)の形状と同一の形状になるように打ち抜かれた複数の電磁鋼板を、その厚み方向に積み重ねることにより構成される。ステータコア300の中心部に形成されている中空部に回転子110が配置される。回転子110の軸心と固定子120の軸心は、共に回転軸130の軸心と略同一になる。
【0017】
ボルト通し孔337〜340には、通しボルト140が挿入される。通しボルト140は、ギアヘッド部103を、モータ部101に取り付けるためのものである。本実施形態の電動機100では、電動機100の美観を損なわないように、通しボルト140が、電動機100のケースの外部に露出しないようにしている。そのため、通しボルト140をステータコア300に通すようにしている。このようにすると、通しボルト140の数と位置によっては、ボルト通し孔の存在によって、ステータコア300における「各相のコイルからの磁束の分布」が均一でなくなる。そうすると、各相のコイルを流れる電流が同じでなくなる(アンバランスになる)。そこで、本実施形態では、ステータコア300における「各相のコイルから発生する磁束の分布」がそれぞれ可及的に均一となるように、電流バランス調整孔341〜344を形成する。
【0018】
具体的に、ステータコア300の軸心上の一点(中央)と、ボルト通し孔337〜340及び電流バランス調整孔341〜344の中心とを相互に結ぶ直線のうち、周方向で相互に隣接する2つの直線のなす角度がそれぞれ略同じになる位置に、電流バランス調整孔341〜344を形成する。図3に示す例では、周方向で相互に隣接する2つのボルト通し孔(例えば、ボルト通し孔337、338)から、それらの間にある「ステータコア300の外周面の平面状の領域(例えば、平面状の領域352)」の周方向における中央の部分までの距離は、略等距離になる。このように、ステータコア300の外周部の位置であって、ステータコア300の外周面の平面状の領域351〜354の周方向における中央に対応する位置に、電流バランス調整孔341〜344が1つずつ形成される。本実施形態では、以上のような位置にボルト通し孔337〜340と、電流バランス調整孔341〜344とを形成する。したがって、ステータコア300の軸心上の一点(中央)と、ボルト通し孔337〜340及び電流バランス調整孔341〜344の中心とを相互に結ぶ直線のうち、周方向で相互に連接する2つの直線のなす角度は、45[°](=360÷8)となる。
【0019】
図4は、電動機100の回転子110の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
まず、ステップS1において、ロータコア形成処理が行われる。ロータコア形成処理は、ロータコア200を形成する処理である。図5は、ロータコア200の縦断面の一例を示す図である。具体的に図5は、図2のI−I方向から見た断面図である。ロータコア形成処理は公知の方法で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、ステップS2において、半凝固鋳造処理が行われる。以下に、本実施形態における半凝固鋳造処理について説明する。
図6は、成形装置の縦断面の一例を示す図である。成形装置は、例えば、株式会社木村工業製のREC鋳造装置により実現できる。この成形装置の金型として、二次導体となる回転子110のかご部の形状に合うキャビティを形成する金型が用いられる。この成形装置(REC鋳造装置)の詳細については、例えば、特許第3921513号公報及び特許第4523483号公報に記載されている。本明細書では、特許第3921513号公報及び特許第4523483号公報に記載されている内容を取り入れて、成形装置を説明することができる。よって、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、図6では、成形装置のうち、本実施形態の説明で必要な部分のみを簡略化及び省略化して示している。
【0021】
図6において、成形装置は、上型ユニット61と、下型ユニット62と、押出加圧ロッド63と、を含んでいる。
上型ユニット61と、下型ユニット62とが合わさったときに形成されるキャビティC1、C2の中に、ロータコア200が収められる。具体的に説明すると、ロータコア200を構成する電磁鋼板の積厚方向を上下方向(図6のY1方向及びY2方向)にした状態で、2つのロータコア200がキャビティC1、C2の中に個別に収められる。このように図6に示す成形装置は、2つの回転子110を一度に製造することができる。
【0022】
また、キャビティC1、C2側が一端側となり、押出加圧ロッド63側が他端側となる流路が、上型ユニット61及び下型ユニット62の内部に形成される。この流路の押出加圧ロッド63側の所定の領域に、純度が99.00[%](好ましくは99.6[%])以上の液相のアルミニウム(所謂純アルミニウム)が供給される。
【0023】
キャビティC1、C2内にロータコア200が収められた状態になり、且つ、流路の押出加圧ロッド63側の所定の領域に液相の純アルミニウムが供給された状態になった後、上型ユニット61と下型ユニット62とが下方(図6のY1方向)に一体となって移動する。このとき、押出加圧ロッド63は移動しない。そうすると、押出加圧ロッド63は、上型ユニット61及び下型ユニット62に対して相対的に上方向(図2のY2方向)に移動する。これにより、流路の押出加圧ロッド63側の所定の領域に供給された液相の純アルミニウムが、キャビティC1、C2の下方から、キャビティC1、C2の方向に移動する(図6の符号63の上に示されている2つの矢印線を参照)。
【0024】
本実施形態では、キャビティC1、C2に進入するときの液相の純アルミニウムの速度である充填速度が、0.05[m/sec]以上0.2[m/sec]以下の速度となるように、上型ユニット61及び下型ユニット62の下方への移動速度が設定される。充填速度を0.05[m/sec]以上0.2[m/sec]以下の範囲にする理由は次の通りである。充填速度が0.05[m/sec]を下回ると、温度の低下によりアルミニウムが凝固してしまい、アルミニウムの充填ができなくなる虞がある。一方、充填速度が0.2[m/sec]を上回ると、アルミニウムの移動によって乱流が発生し、アルミニウムへの空気の巻き込みが多くなる(すなわち充填密度が下がる)虞がある。このような範囲で規定される充填速度は、従来のアルミダイカストにおけるプランジャーピストン(押出加圧ロッド63)の移動速度よりも1ケタ程度遅い。
【0025】
以上のように、液相の純アルミニウムを低速度でキャビティC1、C2に進入させることで、液相の純アルミニウムの流れを可及的に層流に近づけることができる。以下の説明では、「キャビティC1、C2に進入するときの液相の純アルミニウムの速度である充填速度」を必要に応じて「低速層流充填速度」と称する。
【0026】
また、本実施形態では、充填時(ロータコア200に接触しているとき)のアルミニウムの温度を、630[℃]以上660[℃]以下、好ましくは、630[℃]以上650[℃]以下にする。アルミニウムにおいては、630[℃]以上650[℃]以下の温度範囲は、固相と液相とが混合した固液共存(半凝固)状態(所謂シャーベット状)として良好な状態となる温度範囲だからである。ただし、アルミニウムの融点・凝固点は、661[℃]であるので、この融点・凝固点よりも低い温度(660[℃])を前記温度範囲の上限値としてもよい。すなわち、キャビティC1、C2内において固液共存状態でアルミニウムを充填するようにしていればよい。尚、このような温度範囲を実現するためには、例えば、前述した、キャビティC1、C2に供給する液相の純アルミニウムの温度と、低速層流充填速度との少なくとも何れか一方を調整すればよい。
【0027】
以上のように、本実施形態では、アルミダイカストにより液相のアルミニウムを充填する場合よりも、ゆっくりと且つ強い力で固液共存状態の純アルミニウムを、ロータコア200のスロット201〜228の下方から上方に向けて移動させる(図5のスロット208、222の下部に示している上向きの矢印線を参照)。そうすると、スロット201〜228内を含む「回転子110のかご部」の領域が充填される。尚、キャビティC1、C2内においては、回転軸挿入孔229の領域は、純アルミニウムが充填されないように、塞がれている。
【0028】
以上のようにして、固液共存状態のアルミニウムのキャビティC1、C2内への供給が終了すると、型締めが行われる。そして、上型ユニット61及び下型ユニット62を型締めした状態で、押出加圧ロッド63を上方(図6のY2方向)に移動させる。本実施形態では、固液共存状態のアルミニウムがキャビティC1、C2内に充填されたと見なせる所定の条件を満たしたときに、上型ユニット61及び下型ユニット62を型締めした状態で、押出加圧ロッド63を上方に移動させる。例えば、上型ユニット61及び下型ユニット62が所定の最下端の位置まで移動したときに前記所定の条件を満たすとすることができる。
【0029】
このように、押出加圧ロッド63を上方(図6のY2方向)に移動させることにより、キャビティC1、C2内の圧力を現在値よりも上げる。これにより、固定子110の上部の領域のうち、充填が不完全となっている領域の充填を確実に行って、アルミニウムを固めることができる。本実施形態では、面圧(例えば、押出加圧ロッド63の「液相のアルミニウムと接触している面」における面圧)が300[MPa]以下となるように、キャビティC1、C2内の圧力を上げる。面圧が300[MPa]を超えると、上型ユニット61及び下型ユニット62が開いてしまうことにより、上型ユニット61及び下型ユニット62の間から純アルミニウムが漏れてしまう虞があるからである。一方、面圧の下限値は、固定子110の大きさ・形状等により適宜決定されるものである。ただし、面圧の下限値は、押出加圧ロッド63を上方に移動させることができる値である必要がある。例えば、面圧の下限値を200[MPa]にすることができる。面圧を200[MPa]にすれば、固定子110の上部の領域のうち、充填が不完全となっている領域の充填を可及的に確実に行うことができるからである。
【0030】
ここで、上型ユニット61及び下型ユニット62の型締め力が、300[MPa]に調整されており、且つ、押出加圧ロッド63の押出面の形状が、直径80[mm]の円であるとする。このような構成の成形装置において、300[MPa]の面圧にすることは、150[ton]の加圧推力で押出加圧ロッド63を下方から上方の方向に移動させることと等価になる。このように、加圧推力を調整することにより、面圧を調整することができる。上型ユニット61及び下型ユニット62の型締め力が、300[MPa]に調整されており、且つ、押出加圧ロッド63の押出面の形状が、直径80[mm]の円である場合、例えば、加圧推力を、100[ton]以上150[ton]以下の範囲で調整することができる。
【0031】
本実施形態では、以上のように、所謂縦型(下から上に向けて充填材を充填し、高い圧力をかけて充填材を固める方式)の鋳造を行うに際し、次の(1)及び(2)のようにした。
(1)従来のアルミダイカストよりも充填速度と充填温度を低くする。
(2)半凝固状態のアルミニウムを用いる。
これにより、充填中にアルミニウムに混ざる空気の量を従来よりも低減させた導体バーを、その両端に配置されるエンドリングと一体で形成することができる。
【0032】
以上のようにして半凝固鋳造処理が終了すると、図4のステップS3において、モータシャフト圧入処理が行われる。モータシャフト圧入処理は、ステップS2の半凝固処理で形成された回転子110に回転軸130を取り付ける処理である。モータシャフト圧入処理は公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
次に、ステップS4において、ランナー部切削処理が行われる。ランナー部切削処理は、ステップS2の半凝固処理で注入されたアルミニウムの端部を切断して、アルミニウムの供給側と回転子110側とを切り離す処理である。ランナー部切削処理も公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
最後に、ステップS5において、ベアリング圧入処理が行われる。ベアリング圧入処理は、回転子110に対してベアリングを取り付ける処理である。ベアリング圧入処理も公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0033】
前述したように、ステータコア300を構成する電磁鋼板には、電流バランス調整孔341〜344が形成される。このような電磁鋼板を用意すれば、固定子120の製造方法自体は公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0034】
(実施例)
次に、本発明の実施例を説明する。
以下の仕様の電動機を作製した。
定格:200[V]、50[Hz]、0.75[kW]
固定子の外径(直径):135[mm]
固定子の積厚(高さ):65[mm]
固定子のスロットの数:36
固定子の巻線の巻数:39[回]
固定子の巻線の線径(直径):0.65[mm]
回転子の外径(直径):81.5[mm]
回転子の積厚(高さ):65[mm]
回転子の極数:4
回転子のスロットの数:28
【0035】
以上の仕様(本実施例と同一の仕様)において、回転子の導体バー及びエンドリングをアルミダイカストで形成したものを比較例として作製した。また、回転子の導体バー及びエンドリングを前述した本実施形態の手法で形成したものを実施例1〜3として作製した。
図7は、本実施例と比較例におけるアルミニウムの充填条件を示す図である。ここで、充填に際し、実施例でも比較例でも同一の純アルミニウムを使用した。
実施例1〜3は、ステップS2の半凝固鋳造処理における低速層流充填速度が異なる。実施例1では、低速層流充填速度を0.06[m/sec]とし、実施例2では、低速層流充填速度を0.07[m/sec]とし、実施例3では、低速層流充填速度を0.15[m/sec]とした。実施例1〜3におけるその他の製造条件は同じである。一方、比較例では、プランジャーピストンの移動速度を1.5[m/sec]とした。
【0036】
また、本実施例における加圧推力は、半凝固状態の純アルミニウムが充填された状態のキャビティC1、C2内の圧力を上げるときにキャビティC1、C2内にかかる圧力である。一方、比較例における加圧推力は、1.5[m/sec]の速度でプランジャーピストンを移動させているときにキャビティ内にかかる圧力である。
また、充填時のアルミニウムの温度は、何れも、ロータコア200に接触しているときのアルミニウムの温度である。
【0037】
図8は、実施例1と比較例の電動機の効率を示す図である。
図8に示すように、ステップS2の半凝固鋳造処理を行って回転子を作製すると、アルミダイカストで回転子を作製した場合よりも、電動機の効率を約1.5[%]も向上させることができることが分かる。すなわち、回転子の仕様と、回転子を作製するために使用する材料とが同じであるのにも関わらず、比較例よりの実施例1の方が、電動機の効率を約1.5[%]も向上させることができることが分かる。
【0038】
図9は、実施例1〜3と比較例の電動機の効率を示す図である。ここでは、実施例1〜3の電動機と比較例の電動機を、それぞれ6個ずつ作製した。そして、それぞれの電動機の効率を測定した。
図9に示すように、ステップS2の半凝固鋳造処理を行って回転子を作製すると、アルミダイカストで回転子を作製した場合よりも、電動機の効率のバラつきを抑制できることが分かる。
【0039】
図10は、実施例1と比較例の電動機のトルク特性を示す図である。
図10に示すように、実施例1の電動機のトルク特性1001と、比較例の電動機のトルク特性1002は、概ね同じである。したがって、電動機の大きさを大きくしなくても、高効率の電動機を作製できることが分かる。よって、電動機の顧客から見れば、既存の電動機を本実施形態の電動機に置き換えることにより、電動機で駆動する装置側の設計を大きく変更しなくても、高効率の電動機を得ることができる。例えば、電動機をギア付きのものとする場合、ギアヘッド部の大きさが変わると、当該電動機で駆動する装置の設計を大きく見直さなくてはならない。これに対し、本実施形態の電動機では、このような設計の見直しの負担を軽減させることができる。
【0040】
実施例1〜3の電動機と比較例の電動機のかご部における結晶粒度を光学顕微鏡で調べた。その結果、実施例1〜3の電動機のかご部における結晶粒度は30[μm]以下であった。これに対し、比較例の電動機のかご部における結晶粒度は60[μm]以下であった。また、実施例1〜3の電動機と比較例の電動機のかご部における平均ガス含有量を、真空溶融抽出法で調べた。その結果、実施例1の電動機のかご部における平均ガス含有量は1[cc/100g・Al]以下であった。これに対し、比較例の電動機のかご部における平均ガス含有量は10[cc/100g・Al]〜20[cc/100g・Al]であった。また、比較例の電動機のかご部では肉眼で見える空洞部の存在が確認された。一方、実施例1〜3の電動機のかご部では肉眼で見える空洞部の存在は確認されなかった。このように、実施例1〜3の電動機のかご部は、比較例の電動機のかご部に比べ、空洞部が少なく均質であることが分かった。
【0041】
以上のように本実施形態では、ロータコア200を構成する電磁鋼板の積厚方向が上下方向になるようにロータコア200をキャビティC1、C2内に収める。0.05[m/sec]以上0.2[m/sec]以下の低速層流充填速度で液相の純アルミニウムを、キャビティC1、C2の下方からキャビティC1、C2内に供給する。キャビティC1、C2内に収められているロータコア200に接触しているときのアルミニウムの温度を、630[℃]以上660[℃]以下、好ましくは630[℃]以上650[℃]以下にする。したがって、固液共存状態(半凝固状態)の純アルミニウムを、ロータコア200のスロット201〜228の下から上に向けて移動させて、回転子110のかご部(導体バー及びエンドリング)の領域を充填することができる。よって、回転子110のかご部に生じる空洞部を、従来のアルミダイカストにより作製される回転子110に比べて大幅に低減させることができる。これにより、ロータコア200の径方向の大きさを変えることなく、回転子110の二次導体の電気抵抗を低下させることができると共に、回転子110の品質のバラつきを抑制することができる。また、従来のアルミダイカストのものとトルク特性を略同じにすることができる。よって、本実施形態の電動機100では、従来のアルミダイカストで作製した電動機におけるギアヘッド部と同じギアヘッド部を使用することができる。
【0042】
また、本実施形態では、固液共存状態のアルミニウムがキャビティC1、C2内に充填されたと見なせる所定の条件が満足したときに、面圧が300[MPa]以下となるように、キャビティC1、C2内の圧力を上げる。よって、固定子110の上部の領域の充填を確実に行うことができる。
【0043】
尚、本実施形態では、三相かご形誘導電動機を例に挙げて説明したが、単相かご形誘導電動機であってもよい。また、かご形誘導電動機であれば、どのようなものであってもよく、例えばサーボモータであってもよい。この他、本実施形態では、ギア(減速機)と電動機とが一体で形成される減速機一体型電動機を例に挙げて説明したが、電動機単体であってもよいということは勿論である。
【0044】
また、本実施形態では、回転子110のスロットの数が24であり、固定子120のスロットの数が36である場合を例に挙げて説明したが、スロットの数は、これらに限定されるものではない。また、電動機の容量は特に限定されるものではない。例えば、0.75[kW]〜2.2[kW]の容量の電動機に本実施形態の構成を採用することができる。勿論、これらよりも大きい容量又は小さい容量の電動機に本実施形態の構成を採用してもよい。
【0045】
尚、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、各種のモータ駆動を行う電気機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100 電動機
110 回転子
120 固定子
130 回転軸
140 通しボルト
200 回転子のコア(ロータコア)
201〜228 スロット
229 回転軸挿入孔
300 固定子のコア(ステータコア)
301〜336 スロット
337〜340 ボルト通し孔
341〜344 電流バランス調節孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの面方向の形状と同一の形状に加工された複数の鋼板を積層することにより、周方向に略等間隔で形成された複数のスロットを有するロータコアを形成するロータコア形成工程と、
前記ロータコアを構成する複数の鋼板の積厚方向を上下方向にした状態で、前記スロットの下から上に向けて、固相と液相とが混合された固液共存状態の純アルミニウムを供給して、ロータのかご部の領域を充填する半凝固鋳造工程、を有することを特徴とするかご形誘導電動機の回転子の製造方法。
【請求項2】
前記半凝固鋳造工程は、充填時の純アルミニウムの温度を630[℃]以上660[℃]以下にすることによって、固相と液相とが混合された固液共存状態の純アルミニウムを、前記スロットの下から上に向けて供給することを特徴とする請求項1に記載のかご形誘導電動機の回転子の製造方法。
【請求項3】
前記半凝固鋳造工程は、鋼板の積厚方向を上下方向にした状態で前記ロータコアが内部に収まっているキャビティ内に、当該キャビティの下方から液相の純アルミニウムを供給し、
前記ロータコアに接触しているときの前記純アルミニウムの温度は、630[℃]以上660[℃]以下であり、
前記キャビティに進入するときの前記液相の純アルミニウムの速度である低速層流充填速度は、0.05[m/sec]以上0.2[m/sec]以下の速度であることを特徴とする請求項2に記載のかご形誘導電動機の回転子の製造方法。
【請求項4】
前記半凝固鋳造工程は、前記固液共存状態の純アルミニウムの、前記キャビティ内への供給が終了すると、当該キャビティ内を加圧することを特徴とする請求項3に記載のかご形誘導電動機の回転子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−110210(P2012−110210A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186778(P2011−186778)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(591218307)株式会社ニッセイ (17)
【出願人】(594061805)株式会社木村工業 (8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(510284200)伊藤忠マシンテクノス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】