説明

きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法

【課題】 形や大きさが良好なきのこを高い収率で、短期間で栽培できるきのこの人工培養基及びそれを用いたきのこの人工栽培方法を提供する。
【解決手段】 水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上を含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であるきのこの栽培用添加材やそのきのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工培養方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、きのこの栽培は、くぬぎ、ぶな、及びならなどの原木を利用した、ほだ木栽培がほとんどであり、そのため気象条件により収穫が左右されることが多いという問題があった。また、ほだ木栽培では栽培期間が長く、種菌の接種からきのこの収穫までに1年半〜2年も要するので、生産コストが相当高くつくという問題もあった。
【0003】
そこで近年、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、及びしいたけなどは、例えば、鋸屑に米糠を配合した培地を用い、瓶又は箱で培養を行う菌床人工栽培方法が確立され、一年を通じて、四季に関係なく安定してこれらのきのこが収穫できるようになっている。
即ち、農家での副業的性格が強く、小規模生産に頼っていた従来のきのこの栽培が、現在では大規模専業生産が可能で、かつ、原料が入手しやすい菌床人工栽培方法に移りつつある。
ここで、培地とは、微生物あるいは動植物の組織等を培養するために調製された液状又は固形の物質で、培養基ともいわれている。
しかしながら、この菌床人工栽培においても、きのこを大量に連続栽培するには、いまだ収率も低く、かつ、栽培期間がかなり長いため、その生産コストは安価とは言えず、今後、これら生産性の改善が切望されている。
【0004】
生産性を改善する方法として培地に特定の化合物を配合する方法が知られている。例えば、培地に、アルミノシリケート系化合物(特許文献1)やマグネシウムアルミニウムシリケート系化合物(特許文献2や特許文献3)、アルミノケイ酸カルシウム系化合物(特許文献4、特許文献5、及び特許文献6)、カルシウムアルミネート系化合物(特許文献7や特許文献8)、並びに、カルシウムアルミネート系化合物と硫酸塩を併用したもの(特許文献7)などが挙げられる。
【0005】
一方、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩とアルミノケイ酸カルシウムをきのこ栽培用培養基に使用することが提案されている(特許文献5)。
しかしながら、特許文献5には、きのこの栽培用添加材のpHを規定することについてはなんら記載がない。
【0006】
また、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、及び複合水酸化物からなる群から選ばれた一種又は二種以上を含有してなるきのこの人工培養基も提案されている(特許文献9)。
しかしながら、特許文献9には、きのこの栽培用添加材のpHを規定することについてはなんら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2829400号公報
【特許文献2】特許第2860959号公報
【特許文献3】特開2002−119133号公報
【特許文献4】特許第2766702号公報
【特許文献5】特開平11−243773号公報
【特許文献6】特開2003−070351号公報
【特許文献7】特許第3534295号公報
【特許文献8】特開平2003−070349号公報
【特許文献9】特開2006−271303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、形や大きさが良好なきのこを高い収率で、短期間で栽培できるきのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であることを特徴とするきのこの栽培用添加材、(2)前記無機塩が、アルミニウム塩であることを特徴とする(1)のきのこの栽培用添加材、(3)前記アルミニウム塩が、硫酸アルミニウムであることを特徴とする(2)のきのこの栽培用添加材、(4)Fuchs法試験で測定したpH3.0までの到達時間が120秒以内であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一のきのこの栽培用添加材、(5)(1)〜(4)のいずれか一のきのこの栽培用添加材を含有してなるきのこの人工培養基、(6)(5)のきのこの人工培養基を用いてなるきのこの人工栽培方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のきのこの人工培養基を使用すると、形や大きさが良好なきのこを高い収率で栽培できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
なお、本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
【0012】
本発明で使用する人工培養基とは、鋸屑、コーンコブ、ふすま、及びもみがらなどの炭素源と、米糠や大豆粕等の窒素源とを主体とする培地と、水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であるきのこの栽培用添加材とを必須成分とするものである。これらの混合物に水を適当量加え、これを瓶又は箱に圧詰めしてきのこの人工培養基とする。
【0013】
培地を調製するための、炭素源の量、窒素源の量、及び水量は、その種類や含有水分量等により変化し、一義的に決定されるものではない。例えば、炭素源として鋸屑を用いる場合、鋸屑は、乾燥状態(乾物量)で培地全乾物量の20〜90%程度の範囲で使用することができるが、この量は窒素源として用いる培地成分によって変動する。例えば、窒素源に米糠を使用する場合、鋸屑は、乾物量で培地全乾物量の40〜70%程度が好ましい。また、鋸屑を、乾物量で培地全乾物量の20〜90%の範囲で使用する場合、鋸屑と米糠を質量比1:1の割合で混合した混合物に水を加えて、含水率を55〜70%に調整したものを、瓶又は箱に圧詰めして調製することが好ましい。また、鋸屑としては広葉樹鋸屑あるいは針葉樹鋸屑をそれぞれ単独あるいは混合して使用することも可能である。
【0014】
本発明で使用するきのこの栽培用添加材とは、水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であるものである。
【0015】
本発明で使用する水溶液が酸性を示す無機塩(以下、本無機塩という)とは、加水分解によって、例えば、pH4以上、7未満程度の酸性を示す塩を指し、正塩と酸性塩に分類される。
ここで、水溶液のpHとは、20℃の環境下で水1リットルに対して本無機塩50gを溶解したときのpHをいう。
水溶液が酸性を示す正塩とは、強酸と弱塩基の中和反応によって生成する塩を指し、例えば、塩化鉄(FeCl3)、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、塩化アルミニウム(AlCl3)、及びフッ化アルミニウム(AlF3)などが挙げられる。
一方、水溶液が酸性を示す酸性塩とは、強酸と強塩基の中和反応、もしくは、中程度の酸と強塩基の中和反応によって生成する酸のHを含む塩を指し、例えば、硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)、硫酸水素カリウム(KHSO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、及びリン酸水素アルミニウム(Al2(HPO4)3)などが挙げられる。
本無機塩としては、性能面からアルミニウム塩が有効であり、コスト面からもアルミニウム塩が好ましく、例えば、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)や塩化アルミニウム(AlCl3)などが挙げられ、中でもコスト面から硫酸アルミニウムが好ましい。
硫酸アルミニウムは、無水のものや結晶水を持ったものがあり、いずれも使用可能であるが、無水硫酸アルミニウムは粉末度が細かく、人工培養基に対して分散性が良いため好ましい。
本無機塩の粒度は、きのこの品質と収率の向上の面や、粉砕動力の面から、ブレーン法による比表面積値(以下、ブレーン比表面積値という)で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0016】
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスとは、CaO原料、Al2O3原料、及びSiO2原料を電気炉や高周波炉等で加熱溶融したもので、CaO原料としては、生石灰、消石灰、及び石灰石等が使用でき、Al2O3原料としては、アルミナやボーキサイトなどが使用でき、SiO2原料としては、ケイ石、ケイ砂、及び石英等が使用できる。
【0017】
なお、これら原料中には、MgO、TiO2、Fe2O3、Na2O、及びK2Oなどの不純物が含まれているが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば許容されるものである。
【0018】
きのこの品質や収率の向上等の面から、アルミノケイ酸カルシウムガラスのCaO含有率は30〜60%、Al2O3含有率は10〜65%、SiO2含有率は5〜45%が好ましく、CaO含有率は40〜60%、Al2O3含有率は10〜40%、SiO2含有率は10〜40%がより好ましい。
【0019】
本発明のアルミノケイ酸カルシウムガラスのガラス化率は、きのこの品質や収率の向上の面で、50%以上が好ましい。
【0020】
ガラス化率の測定方法は、例えば、下記に示すエックス線回折図形を使用したリートベルト解析によって行うことができる。
即ち、粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢等で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社製の「SIROQUANT」などを用いることが可能である。
【0021】
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスの粒度は、きのこの品質と収率の向上の面や、粉砕動力の面から、ブレーン比表面積値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0022】
本発明で使用するアルカリ土類金属の酸化物としては、酸化ベリリウム(BeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)などが挙げられ、アルカリ土類金属の複合酸化物としては、カルシウムシリケート(例えば、2CaO・SiO2や3CaO・SiO2)やポルトランドセメントなどが挙げられる。この中でも、きのこの品質、収率の向上、及び経済性の面から、酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO)のアルカリ土類金属の酸化物を用いることが好ましい。
アルカリ土類金属の酸化物やアルカリ土類金属の複合酸化物の粒度は、ブレーン比表面積値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0023】
本発明で使用するアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物には、結晶質又は非晶質のものがあり、いずれも使用可能である。
結晶質のアルカリ土類金属の水酸化物としては、Ca(OH)2やMg(OH)2などがあり、結晶質のアルカリ土類金属の複合水酸化物としては、2CaO-Al2O3-SiO2-8H2OなどのCaO-Al2O3-SiO2-H2O系化合物、2CaO-Al2O3-8H2OなどのCaO-Al2O3-H2O系化合物、及び5CaO-6SiO2-5H2O(トバモライト)などのCaO-SiO2-H2O系化合物等がある。Caの部分が、Be、Mg、Sr、又はBaで置き換わった水酸化物や複合水酸化物も使用可能であり、きのこの品質や収率の向上と経済性の面からMgやCaを用いることが好ましい。
なお、アルカリ土類金属の水酸化物の粒度は、ブレーン比表面積値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
また、アルカリ土類金属の複合水酸化物の粒度は、BET法による比表面積(以下、BET比表面積値という)で0.5〜20m2/gが好ましい。
【0024】
また、本発明では、アルカリ土類金属の複合水酸化物として、アルカリ土類金属の水酸化物や複合水酸化物が炭酸化された物質も使用可能であり、例として、塩基性炭酸マグネシウムやドロマイトなどが挙げられる。
【0025】
複合水酸化物の組成比は特に限定されるものではないが、きのこの品質や収率の向上の面から、CaOなどのアルカリ土類金属酸化物の含有率は10〜60%、Al2O3の含有率は0〜50%、SiO2の含有率は0〜50%、H2Oの含有率は10〜50%が好ましい。
【0026】
これらの複合水酸化物は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、シリカゾル、及びシリカゲルなどを原料として水熱合成しても良いし、カルシウムアルミネート化合物のように水和活性を示すものは、CaOとAl2O3を焼成し、水と反応させて複合水酸化物を合成しても構わない。
【0027】
本発明で使用するハイドロタルサイトは、一般式が、[M2+6-6xM3+6x(OH)126x+(An-)6x/n・yH2O(但し、M2+はMg2+とZn2+などの二価金属イオン、M3+はAl3+などの三価金属イオン、An-はCO32-などのn価の陰イオン、nはn≧1、xは0.1≦x≦0.5、yはy≧0)で表される化合物である。
ハイドロタルサイトの粒度は、BET比表面積値で0.5〜20m2/gが好ましい。
【0028】
本発明で使用するきのこの栽培用添加材は、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上を含有してなるものである。
本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上の配合量は、培地や栽培するきのこの種類によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、Fuchs法試験で測定した最高pHと到達時間によって決められる。
【0029】
Fuchs法試験とは、0.1規定の塩酸50mlをビーカーにとり、1gのきのこの栽培用添加材を加えて撹拌し、pHを測定(最初のpH)し、撹拌開始から10分後以降、1規定の塩酸2mlを10分おきに加え、pHを読み取り、最初のpHになるまで続ける方法であり、最初のpHからpHが3.0に到達するまでの時間(到達時間)と、到達時間以降の最高pHによって、きのこの品質や収率を評価するものである。
【0030】
本発明のきのこの栽培用添加材は、きのこの品質や収率の向上の面から、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であることが好ましい。最高pHを3.5〜4.5にするために、きのこの栽培用添加材の成分割合や、各成分の化学組成を変えることなどが可能である。
【0031】
また、Fuchs法試験で測定した到達時間は、きのこの品質や収率の向上の面から、15分以内が好ましく、120秒以内がより好ましい。
【0032】
本無機塩、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトの使用量は、培地や栽培するきのこの種類によって変化するため特に限定されるものではなく、Fuchs法試験で測定した最高pHによるが、通常、人工培養基1,000部に対して、本無機塩を1〜5部、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上を1〜5部併用することが好ましい。
【0033】
きのこの栽培用添加材の成分のそれぞれは、従来、きのこの収率を向上させる目的で使用されているが、両者を併用することによって相乗効果を呈し、きのこの品質や収率が大幅に向上する。
【0034】
本発明の人工培養基を用いてきのこを栽培する方法は、各々の環境や状況等に応じて任意に変えることができるので特に限定されるものではないが、通常、本発明のきのこの栽培用添加材を含有した人工培養基に水を加えて、人工培養基の水分含有量を50〜70%に調整し、必要に応じて殺菌・冷却後、菌を接種し、各々のきのこについて通常採用されている培養工程や生育条件に従って行うことが好ましい。
例えば、ぶなしめじ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を22〜26℃で30〜40日間培養後、40〜50日間、培養とほぼ同条件で熟成し、菌かき後に温度14〜17℃、湿度95〜100%で20〜25日間育成を行って、ぶなしめじを栽培し収穫する。
また、しいたけ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を20〜25℃で約30日間培養後、26〜30℃で40〜50日間熟成し、その後、温度13〜17℃で1〜3日間低温処理し、温度17〜20℃、湿度90〜95%で約10日間発生を行ってしいたけを収穫し、この際に第1回目の収穫後に再び発生にかけて第2回目のしいたけの収穫を行うことも可能である。
【0035】
本発明で栽培されるきのこは人工栽培できるきのこであり、例えば、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ、及びしいたけなどが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実験例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実験例1
CaO原料、Al2O3原料、及びSiO2原料を所定の割合で混合し、高周波炉で溶融後急冷却し、アルミノケイ酸カルシウムガラスを合成し、粉砕してブレーン比表面積値6,000cm2/gとした。
一方、広葉樹鋸屑250g、針葉樹鋸屑250g、米糠500g、及び水140mlからなる培地を調製し、培地1,000部に対して、表1に示す無機塩とアルミノケイ酸カルシウムガラスを配合した後、混合し、プラスチック製850ml広口瓶に圧詰めした。
その後、120℃飽和蒸気圧下で加熱殺菌後、ぶなしめじの菌を植え付け、暗所、温度25℃、湿度55%の条件下で2ヶ月間かけて菌を培養した。
菌の培養後、広口瓶の中央に直径1cm程度の穴を開け(菌かき)、充分に吸水させた後、15℃、湿度95%、及び照度20ルックスの条件下で4日間培養して子実体原基を形成し、照度を200ルックスに上げて2週間程度培養を続け、子実体の収量を測定し、コントロール対比と品質を評価した。
なお、無機塩だけを用いた場合、アルミノケイ酸カルシウムガラスだけを用いた場合、両方とも用いなかった場合を比較例とした。結果を表1に併記する。
【0038】
<使用材料>
無機塩イ :無水硫酸アルミニウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ロ :硫酸第一鉄、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ハ :塩化アルミニウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ニ :フッ化アルミニウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ホ :リン酸水素アルミニウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ヘ :硫酸ナトリウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
無機塩ト :炭酸水素ナトリウム、試薬一級、ブレーン比表面積値9,000cm2/g
CaO原料 :炭酸カルシウム、関東化学社製、試薬一級
Al2O3原料 :酸化アルミニウム、関東化学社製、試薬一級
SiO2原料 :二酸化ケイ素、関東化学社製、試薬一級
アルミノケイ酸カルシウムガラス:CaO50.0%、Al2O3 20.0%、SiO2 30.0%、ガラス化率100%、ブレーン比表面積値6,000cm2/g
広葉樹鋸屑:ぶな材の鋸屑
針葉樹鋸屑:すぎ材の鋸屑
米糠 :市販品
水 :純水
【0039】
<測定方法>
到達時間 :0.1規定の塩酸50mlをビーカーにとり、1gのきのこの栽培用添加材を加えて撹拌し、pHを測定して最初のpHとする。撹拌開始から10分ごとに1規定の塩酸を2ml加え、最初のpHになるまで続けた時に、きのこの栽培用添加材を加えてからpHが3.0に到達するまでの時間
最高pH :到達時間以降、pHが3.0になるまでの間の最高pH
コントロール対比:収率、きのこの栽培用添加材を添加した場合の子実体収量(g)/無添加の子実体収量(g)×100(%)
品質 :次の基準に基づいて目視評価した。子実体の大きさが揃っていて、傘の開きがない場合は優、子実体の大きさが揃っていない、もしくは傘がやや開き気味の場合は可、子実体の大きさが揃っておらず、傘もやや開き気味の場合は不可とした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラスを併用し、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5の範囲にあるときに、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。
【0042】
実験例2
表2に示すように、無機塩とアルミノケイ酸カルシウムガラスを使用して到達時間を変化させたこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すように、到達時間が120秒以内であるときに、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。
【0045】
実験例3
アルミノケイ酸カルシウムガラスの代わりにアルカリ土類金属の複合水酸化物を使用したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0046】
<使用材料>
複合水酸化物:MgO-Al2O3-SiO2-H2O系化合物、MgO17.9%、Al2O3 26.4%、SiO2 23.0%、H2O 32.7%、BET比表面積53m2/g
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すように、本無機塩と、アルカリ土類金属の複合水酸化物を併用し、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5の範囲にある時に、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。
【0049】
実験例4
無機塩イと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを表4に示す割合で併用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0050】
<使用材料>
酸化物 :酸化カルシウム、試薬一級、ブレーン比表面積値5,000cm2/g
複合酸化物:ジカルシウムシリケート、CaO 65%、SiO2 35%、ブレーン比表面積値6,000cm2/g
水酸化物 :水酸化カルシウム、試薬一級、ブレーン比表面積値5,000cm2/g
ハイドロタルサイト:Mg4Al2(OH)12CO3・3H2O、MgO 34.4%、Al2O3 21.7%、CO2 9.4%、H2O 34.5%、BET比表面積値7.6m2/g
【0051】
【表4】

【0052】
表4に示すように、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上を併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0053】
実験例5
表5に示す割合で、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを併用したこと以外は実験例4と同様に行った。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5に示すように、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた二種を併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0056】
実験例6
表6に示す割合で、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを併用したこと以外は実験例4と同様に行った。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6に示すように、本無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた三種以上を併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のきのこの人工培養基を使用すると、形や大きさが良好なきのこを高い収率で栽培できるため、えのきだけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ、及びしいたけなど広範なきのこの栽培に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であることを特徴とするきのこの栽培用添加材。
【請求項2】
前記無機塩が、アルミニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のきのこの栽培用添加材。
【請求項3】
前記アルミニウム塩が、硫酸アルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載のきのこの栽培用添加材。
【請求項4】
Fuchs法試験で測定したpH3.0までの到達時間が120秒以内であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のきのこの栽培用添加材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のきのこの栽培用添加材を含有してなるきのこの人工培養基。
【請求項6】
請求項5に記載のきのこの人工培養基を用いてなるきのこの人工栽培方法。

【公開番号】特開2011−109995(P2011−109995A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271019(P2009−271019)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(591062146)社団法人長野県農村工業研究所 (12)
【Fターム(参考)】