説明

きのこの菌床栽培方法

【課題】大型で優れた形態と歯応えのある食感を有するきのこの菌床栽培方法、当該栽培方法に有用なきのこのさし芽、当該さし芽が移植された菌床栽培用培養基、及び菌床栽培に好適な菌床栽培用培養基の提供。
【解決手段】単離したきのこのさし芽を菌床栽培用培養基に移植する工程を包含するきのこの菌床栽培方法、当該方法に使用するための、単離されたきのこのさし芽、該さし芽が移植されたきのこ菌床栽培用培養基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大型で優れた形態と歯応えのある食感を有するきのこの菌床栽培方法、当該栽培方法に有用なきのこのさし芽、当該さし芽が移植された菌床栽培用培養基、及び菌床栽培に好適な菌床栽培用培養基に関するものである。
【背景技術】
【0002】
きのこを人工的に栽培する方法として菌床栽培があげられる。当該菌床栽培は、まず栽培ビンに菌床培地を充填し、固体や液体種菌を接種するための孔を開け、当該菌床培地を殺菌する。次に当該菌床培地に好適な種菌を接種して培養した後、必要に応じ菌掻きなどの操作を行い、芽出しを経て菌床面から株状の子実体を発生させ、株状のきのこを収穫するのが一般的である。
【0003】
現在、株状のきのこは市場に大量に出回っているため、一般消費者にとって目新しさがない。たとえ従来品種より味覚等の優れた特性を有する品種を開発しても、形態が似通っている限り従来品種との差別化が困難であることから、大型で株状ではなく1つの子実体でも十分な存在感のあるきのこの開発が求められている。
【0004】
しかしながら、従来の方法を用いて得られる株状に群生した形態を有するきのこは、柄の太さや傘の大きさにはバラツキがあり、大型で品質のそろった、商品価値の高いきのこを栽培することは困難であった。
【0005】
そこで近年、きのこの菌床栽培において大型の子実体を得る方法が検討されている。例えば、エリンギの栽培方法において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿度環境と75%以上の高湿度環境とを一定間隔で保持することにより芽出し管理を行い、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内に消失させて原基の生育を行うことが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)
【0006】
また、シメジ属きのこ、特にブナシメジの菌床栽培において、芽出しを栽培瓶の口部に施した蓋の天面の円乃至これと類似する形状の有効径が5〜30mmに設定された開口部を通じて大型のシメジを栽培することも報告されている(例えば、特許文献3)。
【0007】
また、きのこの菌床栽培において、菌床培地に設けた孔の側面もしくは底部に生じた複数の芽から生育がよいと思われる1つの芽を選別し、当該1つの芽以外の他の芽は全て摘み取ってしまうという難度の高い操作を駆使した後、子実体の生育を行い、1つの孔につき1つの子実体を形成させることを特徴とするきのこの菌床栽培方法も開示されている(例えば、特許文献4)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−209944
【特許文献2】特開2002−233239
【特許文献3】特開平11−196668号
【特許文献4】特開2006−115834号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1又は2に記載される方法は芽出し室の環境湿度を途中で変更するか、もしくは複数の環境湿度の異なる芽出し室が必要となるため、作業が煩雑となる。また、前記特許文献3に記載される方法は開口部から開くように複数の株状の子実体が形成されることから、良好な形態の子実体を得ることは困難であり、また子実体の根元部分については密集するため、特に柄部の形態や大きさについては満足できるものではなかった。
【0010】
また、きのこの菌床栽培、特にホンシメジの栽培においては子実体が大型化するにつれて、柄の部分に空洞が生じる場合があり、これによって商品価値が下がってしまうことがある。
【0011】
本発明者らは大型のきのこ子実体を得るために特許文献4に記載のように、培地中に孔を設けて、その孔の側面または底部より出た複数の芽を選別しながら生育を行い、1つの孔から1つの子実体を発生させれば、例えば、1本の子実体で20gを超える大型の、柄がまっすぐで太くかつ菌糸密度が高く肉質も緻密な、外観及び食感に優れた子実体が得られることを見出したが、この場合、孔に芽が生じない場合もあり、又は数多くの芽が出た場合にはその中から1つの芽を選別することが困難となり、その孔から所望の形状の子実体を収穫することができなくなるため、安定した収量を得ることが難しかった。そのため商業栽培においてはより安定した栽培方法の開発が望まれていた。また安定した栽培方法に使用し得る菌床栽培用培養基の開発も望まれていた。
【0012】
従って、本発明の課題は、製造管理をきわめて容易にし、株状ではない大型で形状の優れた商品価値の高いきのこの子実体を安定して栽培する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは大型の子実体を安定して得るために鋭意検討した結果、きのこ原基から分化したきのこの子実体、好適には幼子実体を菌床栽培用培養基から単離し、さし芽として菌糸の蔓延した菌床栽培用培養基に移植して生育を続けると、驚くべきことに分化後の菌床から分離されたきのこ子実体が、培地の菌糸と再結合・融合し、商品として出荷しうる成熟子実体にまで成長することを見出した。また本発明の好適な栽培品種であるホンシメジの大規模商業栽培に適した菌床栽培用培養基の開発にも成功し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明を概説すれば、本発明の第一の発明は、単離したきのこのさし芽を菌床栽培用培養基に移植する工程を包含するきのこの菌床栽培方法に関する。本発明の第一の発明の態様において、きのこのさし芽は菌床栽培されたきのこ子実体であり、その態様としては幼子実体である。また菌床栽培用培養基は、きのこ菌糸が蔓延した培養基である。更に本発明の第一の発明においては、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)の栽培が好適である。なおさし芽を移植する菌床栽培用培養基としては、さし芽を単離したもとの培養基でもよく、別に製造されたきのこ菌糸が蔓延した状態の菌床栽培用培養基でもよい。なおさし芽は単離された後に適宜使用すればよく、清潔な場所に保管後使用しても良い。保管時間はさし芽の状態により、適宜決定すればよい。
【0015】
本発明の第二の発明は、本発明の第一の発明に使用するための単離されたきのこのさし芽に関し、その態様として当該さし芽は菌床栽培されたきのこ子実体であり、好適には幼子実体である。また本発明の第二の発明の好適な態様としては、さし芽はホンシメジ(Lyophyllum shimeji)のさし芽である。
【0016】
本発明の第三の発明は、本発明の第二の発明であるきのこのさし芽が移植されたきのこ菌床栽培用培養基に関するものである。
【0017】
更に本発明の第四の発明として、ホンシメジの菌床栽培にも好適な栽培用培養基が提供される。当該培養基は、オガクズとトウモロコシ類を含有するホンシメジの菌床栽培用培養基であって、オガクズとして針葉樹由来のオガクズのみを使用すること特徴とするホンシメジの菌床栽培用培養基である。
また水湿潤状態にある、本発明の第四の発明の菌床栽培用培養基にホンシメジを接種し、子実体を発生させることを特徴とするホンシメジの菌床栽培方法が提供される。当然本発明の第四の発明の培地は本発明の第一の発明の菌床栽培方法に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、きのこのさし芽を培養基に移植するきのこの栽培方法が提供される。また当該栽培方法にも好適に使用できる菌床栽培用培地が提供される。本発明を利用することにより、きのこの発生位置や収穫時期、形状の均一性等の製造管理が容易となる。また本発明により、株状ではない大型で形状の優れたきのこの子実体を安定して得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明においてきのこのさし芽とは、後述のさし芽の移植工程に使用される子実体を意味する。きのこのさし芽の例としては、菌床栽培されたきのこ子実体が使用でき、好適には幼子実体が使用できる。またきのこを菌床栽培後、一定期間光をあてて生育させた子実体、好適には幼子実体も本発明におけるきのこのさし芽として使用できる。本発明が適応できるきのこの品種としては、本発明のさし芽として後述の栽培方法に使用できるものであればよく、特に限定はないが、例えばホンシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、シイタケ、エリンギ、アガリクス ブラゼイ ムリル等の食用きのこが挙げられる。中でも、本発明の好ましい一態様としてはホンシメジ(Lyophyllum shimeji)があり、好ましいホンシメジとしては、Lyophyllum shimeji La01-27(FERM BP−10960)、Lyophyllum shimeji La01-20(FERM BP−10959)等の菌床栽培可能な菌株で本発明に適用できる菌株であれば何ら限定はない。
【0020】
なお、本明細書において、ホンシメジとは分類学上、Lyophyllum shimejiに分類されるものをいう。従来、ブナシメジが「やまびこほんしめじ」、「ホンシメジ」と称されて流通されていたことがあるが、これは、「Hypsizigus marmoreus」(以前はLyophyllum ulmariumと分類されていた)に分類されるものであり(きのこ栽培指標 平成元年1月、長野県、長野県農業協同組合中央会、長野県経済事業農業共同組合連合会、長野県森林組合連合会編集発行;山渓カラー名鑑 日本のきのこ 昭和63年11月10日、株式会社 山と渓谷社発行)、本明細書に記載のホンシメジとは異なるものである。なお、ホンシメジは菌根菌に分類されるのに対し、ブナシメジは木材腐朽菌に分類されることからも、これらは明らかに異なるきのこである。
【0021】
きのこのさし芽としては、例えば菌床栽培で得られるきのこ原基から分化した子実体が単離・使用できる。例えば原基から分化した幼子実体(原基の先端部に灰白色の菌傘が形成されるようになった状態)が好適であり、長さが5mm以上の幼子実体をさし芽として使用することが更に好適である。きのこのさし芽の長さが5mm未満のものは栽培における取り扱い、例えば直立させて移植すること、に困難性があるが、これらの使用も本発明の範囲である。なおさし芽の長さの上限はさし芽の成長性から適宜決定すればよい。通常の場合、長さが5〜20mmの幼子実体を単離・採取し、さし芽として使用するのが好適である。また、さし芽は単離された後、直ちに使用することができるが、清潔な場所に保管したものも使用することができる。保管時間はさし芽の状態により、適宜決定すれば良い。保管条件についても特に限定はなく、適宜決定することができ、例えば低温で保管することが好適である。
【0022】
本発明のきのこの菌床栽培方法としては、ビン栽培、袋栽培、箱栽培などを適用することができる。一例としてビン栽培による本発明のきのこの栽培方法について述べると、その方法とは培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、必要に応じて菌掻き、芽出し、さし芽の単離、さし芽の移植、生育、収穫等の各工程からなる。次にこれらを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
培地調製工程とは、菌床栽培に用いる各種基材を計量、かくはんし、加水してきのこの菌床栽培に適した水湿潤状態になるように水分調整する工程をいう。例えばホンシメジの菌床栽培用培養基(培地ともいう)は、麦類、トウモロコシ類、鋸屑、及びその他栄養剤等の組合せから適宜調製することができる。培地としては本発明に使用できるものであればよく限定はない。
【0024】
ビン詰め工程とは、培地をビンに詰める工程である。具体的には、通常400〜2300mL容の耐熱性広口培養ビンに、調製した培地を、例えば1100mLビンの場合は800〜1100g、好ましくは900〜1050g、より好ましくは750〜850g圧詰し、中央部付近に口径0.5〜7cm、好ましくは1〜5cm程度、より好ましくは2〜4cm程度、深さが0.5cm〜16cm、好ましくは2cm〜15cm、より好ましくは7〜13cm程度の孔を1ないし複数個開け打栓する工程をいう。1ビンあたりの孔の数については、ビン口の大きさや穴の大きさに応じて適宜設定できるが、例えば1〜10個、好適には1〜8個、より好適には1〜6個が好ましい。
【0025】
殺菌工程とは、培地中の実質的にすべての微生物を死滅させる工程であれば良く、通常蒸気による常圧殺菌では98〜100℃、4〜12時間、高圧殺菌では101〜125℃、好ましくは118℃、30〜90分間行われる。
【0026】
接種工程とは、殺菌後20℃程度まで放冷された培地に種菌を植え付ける工程である。ホンシメジを例に説明すると、通常、種菌としてはホンシメジ菌糸をPGY液体培地、1/2PGY液体培地などのグルコース、ペプトン及び酵母エキスを主成分とする培地で25℃、10〜15日間培養したものを液体種菌として用い、1ビン当り約10〜50mL無菌的に植え付ける。また、公知の固体種菌を使用することもでき、例えば、ここまで説明した工程で得られる液体種菌接種済みの培地を25℃で60〜150日間培養し、菌廻りしたものも固体種菌として用いることができる。この場合、例えば、1ビン当り15gほどの固体種菌を無菌的に植え付ける。固体種菌は、特に限定はないが、培地調製工程で設けた孔中に植え付けることができる。
【0027】
培養工程とは、菌糸を生育、熟成させる工程である。ホンシメジを例に説明すると、通常、種菌を接種した培地を温度20〜25℃、湿度50〜80%に保持して菌糸を蔓延させ、更に熟成させる。なお熟成は省くこともできる。培養工程は、850mLビンの場合は通常60〜150日間、好ましくは100日間前後行われる。
【0028】
芽出し工程とは、培養工程を終了した後に栓を外し、必要があれば菌掻きを行い、子実体原基から幼子実体(原基の先端部に灰白色の菌傘が形成される様になった状態)を形成・生育させていく工程であり、通常10〜20℃、好ましくは15℃前後、湿度80%以上、照度1000ルクス以下で5〜15日間行う。また、前記の培養工程の前や芽出し工程の前に菌床面に複数の孔を形成することもできる。当該孔の形成により、培地の通気性が良好となる。芽出し工程中は加湿による結露水が発生しやすいため、濡れを防ぐ目的で菌床面を有孔ポリシートや波板等で覆っても良く、培養ビンを反転して培養しても良い。
【0029】
さし芽の単離工程とは、芽出し工程で生育した子実体を単離する工程をいう。さし芽の単離は、きのこの品種に応じて最も適切な方法を選択すればよい。例えば、単離しやすいきのこであれば、菌床から手やピンセットで採取してもよく、単離しがたいきのこであればメス、包丁、スパーテル等の任意の器具を使用して所望の子実体を単離・採取すればよい。
【0030】
さし芽の移植の工程とは、さし芽の単離工程で得られたさし芽を、子実体を生育させたい培地の任意の位置に移植する工程である。
【0031】
さし芽を移植する培地としては、さし芽の単離に使用した培地(さし芽単離後の培地)であってもよく、また当該培地とは別に製造したきのこの菌糸が蔓延した培地、例えば培養工程中の培地、芽出し工程中の培地であっても良い。また、これらの培地にさし芽を移植して成熟子実体を得た後の培地も再度使用することが可能である。培養工程中の培地としては菌糸が蔓延した直後のものから熟成が完了したものまでいずれのものも使用することが可能であるが、好ましくは70日以上、より好ましくは80〜120日間の培養工程を経た培養物である。また芽出し工程中の培地としては芽出し開始直後のものから芽出しが完了したものまでいずれのものでも使用することが可能である。移植される側の培地に子実体原基、幼子実体等が形成されている場合は、それらの子実体原基、幼子実体等をいったん取り除いたうえで、さし芽として使用する幼子実体を所望の位置に移植することができる。なお取り除かれた幼子実体は本発明の移植に用いるさし芽として使用することが可能であるのは言うまでもない。
【0032】
移植の方法は移植されたさし芽が菌床上の菌糸と融合・成長するような方法であれば特に限定はない。また、さし芽は培地面の任意の位置に移植することが可能である。例えば培養工程の前や芽出し工程の前に菌床上に形成された孔部、例えば、植菌孔、通気孔等にかん合、すなわちはめ合わせることが好適であり、この方法はさし芽と菌床上の菌糸との融合に最適であることが本発明により見出された。また、さし芽工程の前に新たに孔を開け、そこに差し込んでもよい。これ等の孔の口径はさし芽がかん合する口径であればよく特に限定はないが、通常2〜20mm、好ましくは4〜10mmの直径であればよい。
培養基上の1つの孔に対し1本のさし芽、たとえば幼子実体を移植・生育せしめることで株状にならず1本1本が独立した大型で形状の良い子実体を製造することができる。なお1つの孔に対し数本の幼子実体を移植するのも本発明の一態様である。その際は各子実体の根元が癒着し、株状となるが、癒着する部分は子実体の根部のごく一部に限られるため、簡単に1本ずつ分けることができ、1つの孔に対し1本の幼子実体を移植して得られる子実体と同様の1本1本が独立した大型で形状の良い成熟子実体を得ることができる。また、さし芽として使用される子実体の大きさを分類し、同程度の大きさのさし芽を培地に移植し、栽培管理することで、大きさの揃った成熟子実体を得ることが可能である。
【0033】
なお、さし芽、例えば幼子実体を孔への移植、例えば挿入する際には、幼子実体が直立し、かつ幼子実体の一部が培地に接触するように挿入するのが好適である。
【0034】
生育工程とは、子実体原基や幼子実体を収穫可能な成熟子実体に生育させる工程をいい、本発明においては移植したさし芽から成熟子実体を形成させる工程である。通常照度を2000ルックス以下にする以外は芽出し工程とほぼ同じ条件で5〜15日間行う。
なお生育工程では生育室での結露水による子実体の濡れの影響は少ない。
【0035】
以上の工程により成熟子実体を得ることができる。成熟子実体を収穫して栽培の全工程を終了する。
【0036】
以上、本発明をホンシメジのビン栽培方法を例として説明したが、本発明は上記ホンシメジのビン栽培に限定されるものではないのは当然である。例えばハタケシメジの場合であれば、例えば特開平04−211308号記載の方法で菌床栽培を行い、その子実体をさし芽として利用することができる。シイタケの場合であれば、例えば特開平04−075538号記載の方法で菌床栽培を行い、その子実体をさし芽として利用することができる。またブナシメジ(Hypsizigus marmoreus、以前はLyophyllum ulmariumと分類))の場合であれば例えば、特開平05−268942号記載の方法で菌床栽培を行い、その子実体をさし芽として利用することができる。他のきのこの場合も好適な栽培方法を選択し、栽培された子実体、好適には幼子実体をさし芽として利用すればよい。
【0037】
本発明により、従来の菌床栽培において困難であったきのこ成熟子実体の発生位置の管理がきわめて容易になる。また成熟子実体の収穫時期、形状の均一性管理が容易になるのも本願の効果の一つである。
【0038】
本発明は第四の発明として、通常のホンシメジの菌床栽培にも好適な栽培用培養基を提供する。当該培養基は、オガクズとトウモロコシ類を含有するホンシメジの菌床栽培用培養基であって、オガクズとして針葉樹由来のオガクズのみを使用すること特徴とするホンシメジの菌床栽培用培養基である。
また水湿潤状態にある、本発明の第四の発明の菌床栽培用培養基にホンシメジを接種し、子実体を発生させることを特徴とするホンシメジの菌床栽培方法を提供する。当然本発明の第四の発明の培地は本発明の第一の発明の菌床栽培方法に好適に使用できる。
【0039】
従来、ホンシメジの菌床栽培は滋賀県森林センターの太田によって始めて成功し、特開平07−115844号公報では麦類を用いたホンシメジの菌床栽培方法が、日本菌学会報、第39巻、第13〜20頁,1998年では麦類を用いた培地でのホンシメジ子実体の発生実験が開示されている。また、特開平06−153695号公報ではピートモスを基材とし、デンプン等を添加した培養基による菌根菌の菌糸培養方法が開示されており、同発明者らは日本菌学会報、第35巻、第192〜195頁,1994年でピートモスを基材とし、デンプン等を添加した培養基でのホンシメジの子実体発生実験を報告している。
【0040】
しかし、特開平07−115844号公報の方法では培地に使用する麦類が高価なため培地コストが高くなる。また、特開平06−153695号公報の方法では発生した子実体の収量が低く、いまだ商業生産レベルには至っていない。
【0041】
近年、ホンシメジの商業栽培を目的としたホンシメジの栽培方法が種々開示されてきている。特開2000−106752号公報ではキビ亜科植物を含有することを特徴とするホンシメジの菌床栽培用培養基及び当該培養基を用いたホンシメジの栽培方法が開示されている。また、特開2002−247917号公報では少なくともトウモロコシ粉と広葉樹のオガクズを含有する混合培地を調製し、該混合培地を水湿潤状態においてホンシメジの菌糸を接種し、30℃以下の温度で培養することにより、子実体を発生させることを特徴とするホンシメジの菌床栽培方法が開示されている。
【0042】
特開2005−27585号公報ではホンシメジの栽培方法において、水湿潤状態においてホンシメジの菌糸を接種し、培養することにより子実体を発生可能な培地に対して、粉砕した牡蠣殻を添加混合し、かつ、培地のpHが7を超えない範囲に調整することを特徴とするホンシメジの菌床栽培方法が開示されている。
【0043】
特開2007−54044号公報では培地としてトウモロコシ及びオガクズを含有する培地に少量の麦類及び/又は米類を添加混合し調製した混合培地を使用し、該混合培地を水湿潤状態においてホンシメジを接種培養後、子実体を発生させることを特徴とするホンシメジの菌床栽培方法が開示されている。
【0044】
本発明者らは、特開2000−106752号公報に開示の技術をもとに、本発明の第一の発明のきのこの菌床栽培方法ではない、さし芽を使用しない通常の菌床栽培方法によるホンシメジの商業栽培を開始したが、通常の菌床栽培方法においては生産規模が培地調製量として1ロットで4トンを超えると大規模栽培に起因する栽培の不安定性が明らかになり、安定した商業栽培に課題を生じていた。本発明者らは当該不安定性を解消すべく、通常のホンシメジ菌床栽培に影響を与える諸因子ごとに栽培研究を行い、その大規模栽培への影響を検討した。
【0045】
きのこの栽培においては、使用するオガクズの樹種がきのこの生育に影響を与えることが知られている。ホンシメジの菌床栽培においては前述の特開平07−115844号公報及び日本菌学会報、第39巻、第13〜20頁,1998年に記載のように、広葉樹のオガクズが好適であり、針葉樹のオガクズでは生産性が劣ることが報告されていた。
【0046】
前出の他の公報類でも広葉樹オガクズを好適としていた。例えば、特開2007−54044号公報では広葉樹のオガクズが好適であることが記載されている。特開2005−27585号公報では広葉樹オガクズを使用している。特開2002−247917号公報は広葉樹オガクズを発明の構成要件としている。特開2000−106752号公報では広葉樹オガクズを用いて発明を実施している。
【0047】
前記のように、ホンシメジの生産規模が培地調製量として1ロットで4トンを超えると裁培の不安定性が明らかになり、生産ロットによって成熟子実体の生産性が安定しないため、きのこ製造設備、環境設定、培地調製法等、ホンシメジ菌床栽培に影響を与える諸因子ごとに栽培研究を行い、大規模栽培への影響を検討し、その最適化を鋭意検討した。その結果、意外にもホンシメジの通常の菌床栽培に好適とされる広葉樹オガクズが商業的大規模栽培に不適であるという事実の判明にいたり、ホンシメジ栽培の従来技術から通常の技術認識では針葉樹オガクズのみを用いることにより生産性の高い安定した大規模栽培を行うことが可能となることを見出し、本発明の第四の発明を完成させた。また第五の発明として通常の大規模商業栽培においてもホンシメジの安定生産を可能にする菌床栽培用培養基を使用する菌床栽培方法を提供した。
【0048】
以下、本発明の第四、第五の発明を具体的に説明する。
本発明の態様として、オガクズとトウモロコシ類を含有するホンシメジの菌床栽培用培養基であって、オガクズとして針葉樹由来のオガクズのみを含有するホンシメジの菌床栽培用培養基を提供する。ここで針葉樹由来のオガクズとしては、スギ由来のオガクズが好適に使用できる。オガクズに特に限定はなく、通常のオガクズを使用することができる。オガクズの粒度は通常きのこの菌床栽培に使用されている範囲から選択使用すればよい。またオガクズとしてチップダストを使用することができ、チップダストの使用も本発明に包含される。本発明の態様としてホンシメジの栄養源として実質的にトウモロコシ類を使用する菌床栽培用培養基が提供される。トウモロコシ類とはトウモロコシの実、例えばトウモロコシの実の粉砕物、加熱処理物、圧ペン処理物等か選択されるものを含むものであれば良い。本発明においてはトウモロコシ類のみを栄養源としても効率よくホンシメジを栽培することができる。本発明の態様として、これらの菌床栽培培養基を用い、通常のきのこ栽培に使用する水湿潤状態にある培養基を調製し、ホンシメジを接種することにより、効率良く、また再現性良く、ホンシメジの大規模栽培を行うことができ、その商業的大規模栽培がはじめて可能になる。
【0049】
本発明の第四、第五の発明に使用されるホンシメジの菌株については、何ら限定はなく当該培養基、培養方法に好適な菌株であればよいが、例えば特開2001−120059号公報に記載のLyophyllum shimeji菌株等が好適に使用される菌株として例示される。
【0050】
本願明細書においてトウモロコシ類とはトウモロコシの実を含むものであれば良く、新鮮物であっても乾燥物であっても良い。また、実全体を用いても、加工によって分別された実の一部分を使用しても良い。また分別された部分同士を混合しても良く、実全体のものと分別された部分を混合して使用しても良い。加工物としては実を粉砕したものや粉砕した上で篩分けにして粒度調整したもの、加熱圧ペンしたもの、あるいは顆粒状やペレット状に成型したもの等が挙げられるが、本発明では加工方法や加工物の形状、粒度等は問わず使用でき、また2種類以上の加工物を併用しても良く、実全体のものと加工物とを併用してもよい。本発明で好適に用いられるトウモロコシ類としては、飼料用として広く流通している加熱圧ペントウモロコシが挙げられる。
【0051】
本発明には針葉樹由来のオガクズを用いるが、針葉樹とはマツ科、スギ科、ヒノキ科、イチイ科、イヌガヤ科等を含む裸子植物の一群のことをいう。本発明にはこれらの植物から得られるオガクズであればいずれのものでも用いることが可能であり、単体で、または混合して使用することができる。また、得られたオガクズをすぐに使用するのではなく、散水堆積処理を行うことにより水分保持能力が向上したオガクズとして本発明に好適に用いることができる。
【0052】
本発明の第五の発明のホンシメジの栽培方法としては、ビン栽培、袋栽培、箱栽培などの菌床方法栽培を適用することができる。一例としてビン栽培による本発明の第五の発明のきのこの菌床栽培方法について述べると、その方法とは培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、必要であれば菌かき、芽出し、生育、収穫等の各工程からなる。次にこれらを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
培地調製について以下詳細に説明する。本発明の第四の発明のホンシメジの菌床栽培用培養基は、オガクズとして針葉樹由来のオガクズのみと、トウモロコシ類を含有すればよい。
【0054】
トウモロコシ類と針葉樹由来のオガクズの混合比率を、例として加熱圧ペントウモロコシとスギ由来のオガクズ(スギオガ)の場合で説明する。トウモロコシ類と針葉樹由来のオガクズの混合比率は、本発明の培養基を使用しホンシメジの栽培できる比率であれば良いが、高収量を実現させる観点からは、加熱圧ペントウモロコシ含量の下限はその乾燥重量比で菌床栽培用培養基中の40%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。40%未満になると得られるホンシメジの収量が著しく下がり、好ましいことではない。また、加熱圧ペントウモロコシは吸水性が低いことから、菌床栽培用培養基中の含量が高くなりすぎると菌床栽培用培養基の水分保持力が下がり、培養ビン下部に水が滞留し、その結果菌廻り不良につながることがある。すなわち、加熱圧ペントウモロコシ含量の上限はその乾燥重量比で菌床栽培用培養基中の80%以下、好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0055】
また、菌床栽培用培養基の水分含量についても加熱圧ペントウモロコシとスギオガの場合で説明する。菌床栽培用培養基の水分含量は、当業者の常識に従って、培養ビン下部に水が滞留しない程度に調整することが好適であり、特に限定はないが、例えば68重量%以下、好適には66重量%以下である。ただし水分含量が64重量%を超える場合は、培地中の空隙が減少して菌廻り不良が起こる場合があり、その結果得られる子実体の収量及び品質が低下することがあるため、64重量%以下に調整することがさらに好ましい。なお、水分含量が低すぎても、培地の乾燥等の影響により、菌廻り不良や子実体の奇形、発生不良が起こるため、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上に水分含量が調整される。これらの水分含量については、水分調整した培地性状を見て、適宜設定することができる。
【0056】
ビン詰め、殺菌、接種、培養、芽出し工程については、前記のさし芽を使用したホンシメジの菌床栽培方法と同様に実施することができる。
【0057】
芽出し工程を経て形成された子実体原基や幼子実体はそのまま生育工程に施すことができ、また前記のきのこのさし芽としてホンシメジの菌床栽培方法に使用することもできる。
【0058】
生育工程は、前記のさし芽を使用したホンシメジの菌床栽培方法と同様に実施される。
【0059】
本発明の第四の発明の培養基を用いた第五の発明の菌床栽培方法により成熟子実体を得ることができ、収穫を行って栽培の全工程を終了する。本発明の第四、第五の発明によりホンシメジの商業栽培がきわめて安定したものになり、栽培ロット間の収穫の不均一性が顕著に改善される。なお本発明の第四、第五の発明をビン栽培方法により説明したが、本発明はきのこの菌床栽培に適用できるものであり、上記ビン栽培に限定されるものではない。
【0060】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
PGY液体培地(組成:グルコース2.0%(w/v)、ペプトン0.2%(w/v)、酵母エキス0.2%(w/v)、KHPO0.05%(w/v)、MgSO・7HO0.05%(w/v))100mLにLyophyllum shimeji La 01−27株(FERM BP−10960)の菌糸を接種し、25℃で7日間振とう培養(100rpm)後、2mLを200mLの同培地に植え継ぎ7日間振とう培養(100rpm)後、さらに培養物の全量を160Lの同培地が入った200L容ジャーファーメンター(小松川製作所製)に接種して6日間かく拌培養(かく拌速度:100rpm、通気量25L/分)を行い、液体種菌を調製した。一方、圧ペントウモロコシ(飯坂精麦社製)と針葉樹鋸屑のスギオガ〔(有)トモエ物産〕を乾物重量比で2:1(圧ペントウモロコシ:針葉樹鋸屑)に混合し、その水分が最終的に62重量%になるように水を加えて十分にかくはん・混合したものを、ポリプロピレン製の広口培養ビン(1100mL)に800gずつ圧詰した。圧詰物表面の中央に口径1.5cmの、圧詰物表面の中央を中心とした直径4cmの円周上に均等に4つの口径1cmのそれぞれ深さが10cm程度の孔を計5つ開けたのち、培養ビンにキャップをし、118℃で30分間高圧蒸気殺菌を行い、20℃まで放冷したものを菌床栽培用培養基(固形培地)として調製した。この固形培地に上記の液体種菌を約25mL接種し、暗所にて温度20℃、湿度70〜75%の条件下で104日間菌糸を培養し、培地全体に菌糸を蔓延させた。次いで、キャップを外し、ビンを反転した後、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で115〜120%となるように制御した芽出室に移動し、100ルクス以下の照明下芽出しを行った。芽出し5日目、7日目、8日目、9日目、10日目及び13日目に各1c/s(16本)ずつビンを正転させ、固形培地表面に生じた子実体原基及び幼子実体をいったん全て取り除き、その中から幼子実体を単離し、この幼子実体の中から表1に示す長さの幼子実体をさし芽として選抜した。次に子実体原基及び幼子実体が除かれたもとの固形培地の5つの孔に各1本ずつピンセットを用いて当該さし芽を移植した。続いて当該培地を温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%となるように制御した生育室に移し、50〜100ルクス以下の照明下、8〜16日間生育させることにより、成熟子実体まで生育させ、その収穫を行った。各試験区のビン1本当たりの子実体の収量を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
これにより、ホンシメジの菌床栽培において子実体をさし芽として移植することにより、ホンシメジの栽培が可能となることが明らかになった。特に芽出し7〜10日区では充分な収量の子実体が得られた。また各ビン中における得られた子実体の大きさの揃いも良く、商業栽培に適していることが明らかになった。芽出し5日区では、さし芽の長さが3mmと小さいため、操作中に傷ついたり、また生育中に倒れ、生育しない幼子実体が多かったため、良好な形状をした子実体を充分量得ることができなかった。また、芽出し13日区では、さし芽が充分生長できず、柄が細く、傘が平たい、商品価値の低い子実体しか得られなかった。
【実施例2】
【0064】
実施例1記載の方法で栽培を行い、芽出し9日目に芽出し工程を終了し、反転後、いったん全ての子実体原基及び幼子実体を取り除き、取り除いた幼子実体からさし芽を選抜した。子実体原基及び幼子実体を取り除いたもとの固形培地に新たにスパーテルで直径5mm、深さ5mmの円柱状の孔を5つ作製し、先ほど単離したさし芽のうち、長さが15mmのものを各穴に1本ずつ移植し、生育を行ったところ、実施例1の芽出し9日区と同様の良好な結果を得た。
【実施例3】
【0065】
実施例1記載の方法で栽培を行い、芽出し9日目に長さ約15mmの幼子実体をさし芽として単離した。次に実施例1記載の方法で培養工程まで終了し、発生していた子実体原基及び幼子実体を除いた別の固形培地の5つの孔にさし芽を各1本ずつ移植した後、実施例1と同様に生育を行ったところ、実施例1の芽出し9日区と同様の良好な結果を得た。
【実施例4】
【0066】
特開平04−211308号記載の方法でハタケシメジの菌床栽培を行い、その幼子実体をさし芽として単離した。当該さし芽は菌糸が蔓延した菌床栽培用培養基に移植して、成熟子実体を得ることができる。
【実施例5】
【0067】
特開平04−075538号記載の方法でシイタケの菌床栽培を行い、さし芽として幼子実体を単離した。当該さし芽は菌糸が蔓延した菌床栽培用培養基に移植して、成熟子実体を得ることができる。
【実施例6】
【0068】
特開平05−268942号記載の方法でブナシメジの菌床栽培を行い、さし芽として幼子実体を単離した。当該さし芽は菌糸が蔓延した菌床栽培用培養基に移植して、成熟子実体を得ることができる。
【実施例7】
【0069】
PGY液体培地(組成:グルコース2.0%(w/v)、ペプトン0.2%(w/v)、酵母エキス0.2%(w/v)、KHPO0.05%(w/v)、MgSO・7HO0.05%(w/v))100mLにLyophyllum shimeji La 01−27株(FERM BP−10960)の菌糸を接種し、25℃で7日間振とう培養(100rpm)後、2mLを200mLの同培地に植え継ぎ7日間振とう培養(100rpm)後、さらに培養物の全量を160Lの同培地が入った200L容ジャーファーメンター(小松川製作所製)に接種して6日間かく拌培養(かく拌速度:100rpm、通気量25L/分)を行い、液体種菌を調製した。一方、圧ペントウモロコシ(飯坂精麦社製)と針葉樹鋸屑のスギオガ〔(有)トモエ物産〕を乾物重量比で2:1(圧ペントウモロコシ:針葉樹鋸屑)に混合し、培地の水分が最終的に62重量%になるように水を加えて十分にかくはん・混合したものを、1ロットあたり約5000本のポリプロピレン製の広口培養ビン(1100mL)に800gずつ圧詰した。圧詰物表面の中央に口径1.5cmの、圧詰物表面の中央を中心とした直径4cmの円周上に均等に4つの口径1cmのそれぞれ深さが10cm程度の孔を開けたのち、培養ビンにキャップをし、118℃で30分間高圧蒸気殺菌を行い、20℃まで放冷したものを菌床栽培用培養基(固形培地)として調製した。この固形培地に上記の液体種菌を約25mL接種し、暗所にて温度20℃、湿度70〜75%の条件下で110日間菌糸を培養し、培地全体に菌糸をまん延させた。次いで、キャップを外し、ビンを反転した後、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で115〜120%となるように制御した芽出室に移動し、100ルクス以下の照明下、10日間芽出しを行った。その後ビンを正転させ、培地表面に生じた複数の芽より子実体に成長させる4〜5本の形の良い芽以外の不要な芽をスパーテルを用いて取り除いた後さらに10〜11日間、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%となるように制御した生育室に移動し、50〜100ルクス以下の照明下、9〜11日間生育させることにより、成熟子実体を得、収穫を行った。上記方法にて製造した10ロットの結果を以下に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
スギオガを用いた栽培では、ロット間の培養ビン1本あたりの平均収量のバラつきが少なく、安定した生産を行うことが可能となり、商業栽培法として満足のいく結果であった。
[比較例]
【0072】
オガクズを広葉樹由来のオガクズ(広葉樹オガ:(有)トモエ物産製)に置換した以外は実施例7と同様の栽培方法を用いて栽培を行った結果を以下に示す。
【0073】

【表3】

【0074】
広葉樹オガを用いた栽培では、スギオガを用いた栽培と比較して、ロットにより培養ビン1本あたりの平均収量にばらつきが見られ、また、その収量も前述の実施例1と比較して少なく、商業栽培法としては満足できるものではなかった。
【実施例8】
【0075】
PGY液体培地(組成:グルコース2.0%(w/v)、ペプトン0.2%(w/v)、酵母エキス0.2%(w/v)、KHPO0.05%(w/v)、MgSO・7HO0.05%(w/v))100mLにLyophyllum shimeji La 01−27株(FERM BP−10960)の菌糸を接種し、25℃で7日間振とう培養(100rpm)後、2mLを200mLの同培地に植え継ぎ7日間振とう培養(100rpm)後、さらに培養物の全量を160Lの同培地が入った200L容ジャーファーメンター(小松川製作所製)に接種して6日間かく拌培養(かく拌速度:100rpm、通気量25L/分)を行い、液体種菌を調製した。一方、圧ペントウモロコシ(飯坂精麦社製)と針葉樹鋸屑のスギオガ〔(有)トモエ物産〕を乾物重量比で2:1(圧ペントウモロコシ:針葉樹鋸屑)に混合し、その水分が最終的に62重量%になるように水を加えて十分にかくはん・混合したものを、ポリプロピレン製の広口培養ビン(1100mL)に800g(ビン・フタ重量込み)ずつ圧詰した。圧詰物表面の中央に口径2cmの、圧詰物表面の中央を中心とした直径4cmの円周上に均等に4つの口径1cmのそれぞれ深さが10cm程度の孔を計5つ開けたのち、培養ビンにキャップをし、118℃で30分間高圧蒸気殺菌を行い、20℃まで放冷したものを菌床栽培用培養基(固形培地)として調製した。この固形培地に上記の液体種菌を約25mL接種し、暗所にて温度20℃、湿度70〜75%の条件下で111〜113日間菌糸を培養し、培地全体に菌糸を蔓延させた。その後キャップを外し、ビンを反転し、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で115〜120%、照度を20ルクス以下(明:暗=30分:30分)となるように制御した芽出室において芽出しを行った。芽出し7日目にビンを正転させ、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で100〜110%、照度を50〜100ルクス(明:暗=30分:30分)となるように制御した生育室に移動し、さらに3日間芽出しさせることで、さし芽に使用する幼子実体を得た。
【0076】
一方、さし芽を移植する培養物として、実施例1と同様の方法で、70、77、92,99,113,121又は128日間培養を行った培養物を各16本/ケース用意し、1ビンあたり4本のさし芽を口径1cmの4つの孔に1本ずつ移植し、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%に制御した同生育室で11〜14日間生育させることで成熟子実体を得た。各試験区で得られた1ビンあたりの平均収量(g)を下記表に示す。
【表4】

上記結果により、培養期間70日から128日経過した培養物にさし芽を移植することで成熟子実体を得られることが明らかとなった。
【実施例9】
【0077】
培養日数が104日以外は実施例8と同様の方法で培養を行って得られた培養物をキャップを外し、反転後温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で115〜120%、照度を20ルクス以下(明:暗=30分:30分)となるように制御した芽出室において芽出しを行った。芽出し4、5、6、7、8、9又は10日後に正転を行い、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で100〜110%、照度を50〜100ルクス(明:暗=30分:30分)となるように制御した生育室に移動してさらに芽出しを行い、それぞれ6、5、4、3、2、1又は0日後にさし芽に使用する幼子実体を得た。
【0078】
さし芽を移植する培養物として、培養日数が105日以外は実施例8と同様に培養を行った培養物に対し1ビンあたり4本のさし芽を口径1cmの4つの孔に1本ずつ移植し、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%(明:暗=30分:30分)に制御した上記生育室で11〜14日間生育させることで成熟子実体を得た。各試験区(16本/ケース)で得られた1ビンあたりの平均収量(g)を下記表に示す。
【表5】

上記結果より、幼子実体を得るまでの芽出し工程において湿度と照度を変動させたいずれの試験区においても充分量の平均収量を得た。
【実施例10】
【0079】
培養日数が102日である以外は実施例8記載の方法で培養まで行い、キャップを外し、反転後温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で115〜120%、照度を20ルクス以下(明:暗=30分:30分)となるように制御した芽出室において芽出しを行った。芽出し7日目に芽出し工程を終了し、さし芽とする幼子実体を得た。培養日数が102日である以外は実施例8記載の方法で培養を行った培養物の口径1cmの4つの接種孔又は、新たにスパーテルで作製した直径5mm、深さ5mmの円柱状の孔にさし芽を各1本ずつ移植後、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%、照度を50〜100ルクス(明:暗=30分:30分)となるように制御した生育室で14日間生育させることで成熟子実体を得た。各試験区で得られた1ビンあたりの平均収量(g)を下記表に示す。
【表6】

上記結果の如く、接種孔以外の新たに作製した孔に幼子実体を移植して生育を行っても、接種孔に移植したものと遜色ない充分な収量を得ることができた。
【実施例11】
【0080】
培養日数が113日である以外は実施例10記載の方法で芽出しまで行い、芽出し7日目に得られた幼子実体を培地から分離しさし芽とした。その後、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で約105%、照度を50〜100ルクス(明:暗=30分:30分)となるように制御した生育室で0、1、2日間保存後、培養日数が112日である以外は実施例8記載の方法で培養を行った培養物の口径1cmの4つの接種孔に各1本ずつ移植後、温度15℃、加湿をヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値で105〜120%、照度を50〜100ルクス(明:暗=30分:30分)となるように制御した生育室で14日間生育させることで成熟子実体を得た。各試験区で得られた1ビンあたりの平均収量(g)を下記表に示す。
【表7】

上記結果の如く、保存1、2日区においても保存0日区とほぼ同等の収量が得られたことから、2日間の幼子実体の保存が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、大型で形状も良好な商品価値の高いきのこの子実体の菌床栽培方法に使用するさし芽、当該さし芽が移植された菌法栽培用培養基、及び当該さし芽を使用するきのこの菌床栽培方法が提供される。また通常の菌床栽培方法においてもホンシメジの安定生産を可能にする菌床栽培培養基及び当該培養基を使用する菌床栽培方法が提供される。当該基材を用いたホンシメジの栽培方法により、ホンシメジの収量が向上し、安定した栽培方法用培養基が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離したきのこのさし芽を菌床栽培用培養基に移植する工程を包含するきのこの菌床栽培方法。
【請求項2】
きのこのさし芽が菌床栽培されたきのこ子実体である請求項1記載のきのこの菌床栽培方法。
【請求項3】
きのこのさし芽が菌床栽培されたきのこ幼子実体である請求項1記載のきのこの菌床栽培方法。
【請求項4】
菌床栽培用培養基が、きのこ菌糸が蔓延した培養基である請求項1〜3いずれか1項に記載の菌床栽培方法。
【請求項5】
きのこがホンシメジ(Lyophyllum shimeji)である請求項1〜4いずれか1項に記載の菌床栽培方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法に使用するための、単離されたきのこのさし芽。
【請求項7】
きのこのさし芽が菌床栽培されたきのこ子実体である請求項6記載のきのこのさし芽。
【請求項8】
きのこのさし芽が菌床栽培されたきのこ幼子実体である請求項6記載のきのこのさし芽。
【請求項9】
きのこがホンシメジ(Lyophyllum shimeji)である請求項6〜8いずれか1項に記載のきのこのさし芽。
【請求項10】
請求項6〜9いずれか1項に記載のさし芽が移植されたきのこ菌床栽培用培養基。

【公開番号】特開2009−17872(P2009−17872A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141243(P2008−141243)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】