説明

さつま芋の調理方法

【課題】 さつま芋の美味しさを充分に引き出すことが可能であり、多くの人々が喜んで食することができるさつま芋の調理方法の提供。
【解決手段】
第1の調理工程において、案納芋Mを160℃の温度で蒸し焼きにし、引き続き、このさつま芋を140℃の温度で蒸し焼きにして第1の調理物P1をつくり、第2の調理工程において、第1の調理物P1に小麦粉を溶いた衣を纏わせ、これを170℃の油で2分間揚げて、第3の調理物P3をつくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さつま芋の調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、焼き芋がさつま芋の代表的な調理方法として広く知られている。焼き芋を作るに際しては、石を加熱し、加熱した石から出る遠赤外線によってさつま芋を加熱調理する。あるいは、一般家庭においては、さつま芋をオーブンで焼いて加熱調理する(例えば非特許文献1を参照)。このように調理された焼き芋は皮に焦げ目がつき、ホクホクした食感を食べる者に与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「別冊NHKきょうの料理 徹底!マスター 芋・きのこ・根菜」、日本放送出版協会、2007年10月20日、p.36〜37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、焼き芋は、余りにも単純なさつま芋の調理方法であり、その食感に飽きを感じる人が多くなっている。そして、焼き芋は、余りにも大衆的であるがゆえに、焼き芋が料理店のメニューに載っていることは比較的少ない。また、従来あるさつま芋の調理方法は、概してさつま芋の美味しさを充分に引き出しているとは言い切れない。
【0005】
さらに、わが国では食料自給率の低下が近年問題化しており、世界的な食糧危機の到来が危惧されつつある。かかる状況において、さつま芋は重要な食料源のひとつとして見直されるべきである。このためには、さつま芋の美味しさを多くの人々に喜ばれる形で引き出すことが重要である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、さつま芋の美味しさを充分に引き出すことが可能であり、多くの人々が喜んで食することができるさつま芋の調理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係るさつま芋の調理方法は、原材料のさつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにし、引き続き、このさつま芋を130〜140℃の温度で蒸し焼きにして第1の調理物とする第1の調理工程と、第1の調理物に小麦粉を溶いた衣を纏わせて第2の調理物とし、この第2の調理物を165〜175℃の温度の油で揚げて第3の調理物とする第2の調理工程と、からなる。
【0008】
通常、第1の調理工程に供給される前に、原材料のさつま芋は水洗いされる。水洗いしたさつま芋をそのままオーブン等に入れて焼けば、さつま芋は蒸し焼きされる。さつま芋が第1の調理工程に供給される際、その表面についている水気が少なかったり無かったりするときは、その表面に霧吹き等を使って水気を与える。また、さつま芋を蒸し焼きする場所に水を入れた皿等を一緒に置いても良い。そして、第1の調理工程の途中において、さつま芋の表面が乾燥してきたら、その表面に霧吹き等を使って水気を与える。さつま芋を蒸し焼きにすることによって、第1の調理物の表面が硬くなりすぎることが防止される。
【0009】
第1の調理工程において、先ず、さつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにすると、さつま芋の皮と身肉の間にある蜜が皮に移動する。蜜が皮に移動することによって、皮に適度な焦げ目が付き、第2の調理工程を経た第3の調理物の表面に心地よいサクサクした食感が生まれる原因となる。第1の調理工程において、引き続きさつま芋を135〜145℃の温度で蒸し焼きにすることによって、さつま芋の中まで熱が通る。
【0010】
第1の調理工程において、さつま芋を160℃を超える温度で蒸し焼きにすると、さつま芋の蜜がすぐ焦げ付き、さつま芋が焦げ臭くなるとともに、さつま芋の蜜が蒸発し、第1の調理物の表面が硬くなりすぎる。これは、第2の調理工程を経た第3の調理物の食感が悪くなる原因となる。
第1の調理工程において、さつま芋を最初から155℃未満の温度で蒸し焼きにすると、さつま芋の蜜が皮になかなか移動せず、さつま芋の表面に焦げ目がほとんどつかず、この結果、第2の調理工程を経た第3の調理物の表面に心地よいサクサクした食感が生まれない。
【0011】
第1の調理工程において、さつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにした後、引き続きさつま芋を140℃を超える温度で蒸し焼きにすると、折角、皮に移動してきた蜜が焦げ付き、さつま芋が焦げ臭くなる。同時に、さつま芋の蜜が蒸発してしまう。これは、第1の調理物の表面が硬くなりすぎる原因となる。
第1の調理工程において、さつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにした後、引き続きさつま芋を130℃未満の温度で蒸し焼きにすると、折角、皮に移動してきた蜜がさつま芋から下に垂れ落ちてしまい、蜜が無駄になってしまう。
【0012】
したがって、第1の調理工程において、原材料のさつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにし、引き続き、このさつま芋を130〜140℃の温度で蒸し焼きにして第1の調理物する。
第2の調理工程において、第1の調理物に纏わせる小麦粉の衣は、小麦粉を冷水で溶いた衣であることが好ましい。この衣の中には、卵の黄身を混ぜることができる。しかし、衣の中に卵の白身を混ぜることは好ましくない。第2の調理物を油で揚げる際、表面に大きな気泡ができる原因となり、第3の調理物の見た目が悪くなるからである。
【0013】
第2の調理物を揚げる温度が175℃を超えると、第3の調理物の表面が炭化してしまい、焦げ臭くなってしまう。また、第2の調理物を揚げる温度が165℃未満であると、第3の調理物の内部に多量の油が浸透し、第3の調理物の口当たりが悪くなるとともに、第3の調理物からさつま芋の風味がなくなってしまう。したがって、第2の調理工程において、第2の調理物を揚げる油の温度は165〜175℃である。
【0014】
第2の調理工程を経て得られる第3の調理物は、表面がサクサクしており、中身がねっとりとしており、第3の調理物を食する者は相異なる2つの食感を楽しむことができる。
発明者が試行錯誤して得た知見に基づけば、第1の調理工程に供給する原材料のさつま芋は、鹿児島県の種子島で産する安納芋であるのが、風味や食感等の点から最も好ましい。
【0015】
また、発明者が試行錯誤して得た知見に基づけば、第1の調理工程において、安納芋を蒸し焼きにして第1の調理物とする場合、先ず、安納芋を160℃の温度で蒸し焼きにし、引き続き、この安納芋を140℃の温度で蒸し焼きにするのが好ましい。そして、第2の調理工程において、安納芋から得た第1の調理物に小麦粉の衣を纏わせて第2の調理物とし、この第2の調理物を170℃の油で揚げて第3の調理物とすることが、第3の調理物の風味や食感等の点から最も好ましい。
【0016】
請求項2の発明に係るさつま芋の調理方法は、請求項1に記載のさつま芋の調理方法であって、前記第2の調理工程において、第1の調理物を、糖度が15度以上のものと、糖度が15度未満のものとに分別し、糖度が15度以上の第1の調理物をすりつぶしてペーストをつくり、このペーストを糖度が15度未満の第1の調理物に塗り、ペーストを塗った第1の調理物に小麦粉を溶いた衣を纏わせて第2の調理物とする。
【0017】
さつま芋にはそれぞれ個体差があり、糖度が高いものもあれば、糖度が低いものもある。発明者が試行錯誤して得た知見に基づけば、糖度が15度以上ある第1の調理物においては、多量の蜜が皮に移動している。また、糖度が15度未満の第1の調理物は、蜜の量が少なく、皮に移動している蜜の量も少ない。このため、糖度が15度以上ある第1の調理物だけを用いて得た第3の調理物は、その表面に心地よいサクサクした食感が生まれやすく、第3の調理物の甘さも強い。また、糖度が15度未満の第1の調理物だけを用いて得た第3の調理物は、その表面に心地よいサクサクした食感が弱くなるとともに、第3の調理物の甘さも弱い。
【0018】
糖度が15度以上ある第1の調理物をすりつぶしてペーストとし、このペーストを糖度が15度未満の第1の調理物に塗ることによって、糖度が15度未満の第1の調理物から得られる第3の調理物の甘さを補ったりして調節することができる。
糖度が15度未満の第1の調理物に塗るペーストの量を調節することにより、第3の調理物の甘さを調節することも可能になる。したがって、様々な糖度のさつま芋であっても、第3の調理物とすることによって、人々は自分の好みに応じたさつま芋の甘さを楽しむことができる。また、ペーストの部分が第3の調理物に新たな風味と食感を与えることにもなる。
【0019】
糖度が15度以上ある第1の調理物をすりつぶしてペーストとする際、裏漉しをすることによってより、さつま芋の繊維が裁断され、ペーストは滑らかな舌触りとなる。
第1の調理物の糖度は、糖度計を使用して測定しても良いし、第1の調理物の表面や断面を観察して判断しても良い。発明者が試行錯誤して得た知見によれば、糖度が15度以上ある第1の調理物においては、その表面や断面に蜜が流れ出しており、糖度が15度未満の第1の調理物においては、その表面や断面に蜜は流れ出していない。
【0020】
請求項3の発明に係るさつま芋の調理方法は、請求項1または請求項2に記載のさつま芋の調理方法であって、前記第1の調理工程に供給される原材料のさつま芋が、収穫後に熟成処理を施したさつま芋である。
さつま芋の熟成処理は、例えば、収穫したさつま芋を風通しの良い日陰に干すことによって行えば良い。風通しの良い日陰において干すという熟成処理は、特に安納芋に適している。また、収穫したさつま芋を倉庫内等の日光が射さない所に貯蔵することによって、熟成処理を行なうことも可能である。熟成処理を経たさつま芋は、糖度が上昇して甘みが増す。
【発明の効果】
【0021】
上記のようなさつま芋の調理方法であるので、さつま芋の美味しさを充分に引き出すことが可能であり、多くの人々が喜んで食することができるさつま芋の調理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るさつま芋の調理方法を、原材料のさつま芋が案納芋である場合を例にとって説明する。
調理者は、熟成処理を終えた安納芋Mを原材料として準備する。そして、調理者は、この安納芋Mを水洗いし、安納芋Mの先端と茎側の末端を切り落とす。先端と末端において、安納芋Mの身肉が露出する。
【0023】
そして、調理者は、水気がついたままの安納芋Mをオーブンに入れる。オーブンは、料理をする際に使われる従来あるものである。例えば、調理者は、安納芋Mをオーブンの上段に入れ、オーブン内の下部に水をはったトレーを入れる。
そして、調理者は、オーブン内の温度を160℃に保って安納芋Mを焼く。このとき、安納芋Mに付着している水気やトレーの水が蒸発し、安納芋Mは蒸し焼きされる。引き続き、調理者は、オーブン内の温度を140℃に保って安納芋Mをさらに蒸し焼きにする。安納芋Mは、140℃で蒸し焼きにされて第1の調理物P1になる。
【0024】
安納芋Mが第1の調理物P1になったら、調理者は、オーブンから第1の調理物P1を取り出す。
オーブンで安納芋Mを蒸し焼きにしている間、調理者は、オーブン内を観察し、安納芋Mの表面が乾燥したりしないようにするとともに、トレーから水がなくならないようにする。安納芋Mの表面が乾燥してきたら、調理者は、霧吹き等を使ってオーブン内の案納芋Mに湿り気を与える。また、トレーの水がなくなりかけたらトレーに水をたす。
【0025】
例えば、5kgの案納芋Mをオーブンに入れて蒸し焼きにする場合、調理者は、オーブン内のトレーに400mlの水を入れて、先ず、案納芋Mを30分間にわたり160℃で蒸し焼きにする。そして、30分経ったら、トレーに200mlの水をたし、さらに案納芋Mをオーブンで30分間にわたり140℃で蒸し焼きにする。
調理者が、安納芋Mを水洗いしてから、第1の調理物P1をオーブンから取り出すまでの調理工程が、第1の調理工程である。
【0026】
オーブンから取り出した第1の調理物P1の両端面は乾燥している。調理者は、この乾燥した露出面を薄く切り落とす。薄く切り落とすことによって、第1の調理物P1の両端面には、乾燥していない案納芋の身肉が露出する。同時に、調理者は、第1の調理物P1を適当な大きさに裁断する。例えば、縦に二分割したりして、人が食べやすい大きさにする。裁断された第1の調理物P1の大きさは、人が食べやすい大きさであることが好ましい。
【0027】
次いで、調理者は、第1の調理物P1の表面や裁断面を観察し、蜜が流れ出しているか否かを確認する。蜜が流れ出している場合、その第1の調理物P1の糖度は15度以上であると判断することができる。蜜が流れ出していない場合、その第1の調理物P1の糖度は15度以上であると判断することができる。
そして、調理者は、第1の調理物P1を、糖度が15度以上の第1の調理物P1と糖度が15度未満の第1の調理物P1とに分別する。調理者は、第1の調理物P1のうちの一部を取り分け、取り分けたものをすりつぶして裏漉しする。すりつぶされて裏漉しされた第1の調理物P1が、ペーストpとなる。
【0028】
次いで、調理者は、ペーストpをつくるのに使用しなかった第1の調理物P1に、小麦粉を溶いた衣を纏わせて第2の調理物P2をつくる。同時に、調理者は、ペーストpを、第1の調理物P1に塗り、これに小麦粉を溶いた衣を纏わせ、第2の調理物P2をつくる。
調理者は、第1の調理物P1の糖度に応じて、これに塗るペーストpの量を適宜調節することができる。この際、第1の調理物P1の糖度は、糖度計で判断しても良いし、第1の調理物P1の表面や裁断面の状態から判断しても良い。
【0029】
第2の調理物P2や第2の調理物P2をつくる際に用いる小麦粉を溶いた衣に、卵の黄身を入れても良い。また、小麦粉を溶いた衣をつくるに当たっては、可能な限り冷たい水で小麦粉を溶くことが好ましい。例えば、氷水で小麦粉を溶いても良いし、水で小麦粉を溶いたものを氷や氷水で冷やしても良い。
そして、調理者は、第2の調理物P2と第2の調理物P2を170℃の油で2分間揚げて、第3の調理物P3をつくる。
【0030】
調理者が第1の調理物P1の両端面を薄く切り落としてから、第3の調理物P3をつくるまでの調理工程が、第2の調理工程である。
さつま芋の調理方法は上記した構成を有する。次に、さつま芋の調理方法の作用効果について述べる。
第1の調理工程において、安納芋Mの先端と茎側の末端が切り落とされるので、第3の調理物P3の味に苦味等が入ることが無くなるとともに、第3の調理物P3の中に食べにくいものが混入することもなくなる。
【0031】
第1の調理工程において、案納芋Mは2段階の温度で蒸し焼きにされて、蜜が皮に移動するとともに、中まで熱が通る。これにより、第1の調理物P1の表面が硬くなりすぎることが防止され、第3の調理物P3に心地よいサクサクした食感が生まれるとともに、案納芋Mの豊かな風味を保つことができる。
また、第1の調理工程と第2の調理工程を経てつくられる第3の調理物P3の中身は、ねっとりとした食感を有する。
【0032】
さらに、第2の調理物P2からつくった第3の調理物P3においては、ペーストpの部分がさらに別の食感を有する。
したがって、第3の調理物P3を食する者は、様々な食感を楽しむことができる。
第1の調理物P1の糖度に応じて、これに塗るペーストpの量を適宜調節することにより、様々な甘さの第3の調理物P3をつくることができる。ペーストpの量を増やせば、第3の調理物P3の甘さが強調され、ペーストpの量を減らせば、第3の調理物P3の甘さを抑えることができる。これによって、食する人の好みの甘さに対応した第3の調理物P3をつくることができ、多くの人が第3の調理物P3を喜んで食することできる。また、糖度の個体差にかかわらず案納芋Mを食材として無駄なく有効に利用することができる。
【0033】
第3の調理物P3は、揚げたての状態でそのまま食して美味しいのは勿論であり、揚げてから時間が経って冷めた状態になっても美味しいし、冷めた第3の調理物P3を電子レンジ等を用いて暖めても美味しい。また、冷凍保存しておいた第3の調理物P3を電子レンジ等を用いて暖めても美味しい。
第1の調理物P1をまとめてつくって冷凍保存しておき、必要に応じて冷凍保存しておいた第1の調理物P1から第2の調理物P2や第2の調理物P2をつくることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料のさつま芋を155〜160℃の温度で蒸し焼きにし、引き続き、このさつま芋を130〜140℃の温度で蒸し焼きにして第1の調理物とする第1の調理工程と、
第1の調理物に小麦粉を溶いた衣を纏わせて第2の調理物とし、この第2の調理物を165〜175℃の温度の油で揚げて第3の調理物とする第2の調理工程と、からなることを特徴とするさつま芋の調理方法。
【請求項2】
前記第2の調理工程において、第1の調理物を、糖度が15度以上のものと、糖度が15度未満のものとに分別し、糖度が15度以上の第1の調理物をすりつぶしてペーストをつくり、このペーストを糖度が15度未満の第1の調理物に塗り、ペーストを塗った第1の調理物に小麦粉を溶いた衣を纏わせて第2の調理物とすることを特徴とする請求項1に記載のさつま芋の調理方法。
【請求項3】
前記第1の調理工程に供給される原材料のさつま芋が、収穫後に熟成処理を施したさつま芋であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のさつま芋の調理方法。

【公開番号】特開2012−139129(P2012−139129A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292452(P2010−292452)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(511002722)
【Fターム(参考)】