説明

すき鋏

【課題】毛髪を引っ張ったり傷めたりする等して被理容者に不快感を与えることがなく、また、操作者も抵抗感を感じることなく常に軽快にカッティングを行える実用性に秀れたすき鋏の提供。
【解決手段】刃縁1を形成した刃板2と、櫛刃3を溝4を介して多数並設状態に突設した櫛状刃板5とを、両刃板2・5の交叉部で枢着して開閉自在に構成したすき鋏であって、櫛刃3間の溝底部8が、溝開口部9に比して幅広となるように櫛刃3の側縁形状を設定し、この幅広の溝底部8に櫛刃3の並設方向と略平行な平坦底縁部10を設け、この溝4に隣接する左右の櫛刃3の側縁基端側に、この櫛刃3の側縁3aと平坦底縁部10とを滑らかに連設する凹湾曲角縁部11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すき鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されるような一般的なすき鋏は、刃縁を形成した刃板と櫛刃を多数並設状態に突設した櫛状刃板とを、両刃板の交叉部で枢着して開閉自在に構成し、前記櫛刃の先端縁で毛髪を支承保持し、この支承保持した毛髪を刃板の刃縁によって切断し、前記櫛刃間の溝底部に溜まった毛髪は刃板の刃縁によって切断し得ないように構成されている。
【0003】
ところで、すき鋏は上述のように両刃板間に入った毛髪のうち、櫛刃の先端縁で支承保持された毛髪のみを切断し、溝底部に溜まった残余の毛髪は切断しないため、毛髪を切断するため頭髪に挿し入れたすき鋏を抜き取る際、上記残余の毛髪は溝底部に沿って抜き出ることになる。
【0004】
しかしながら、従来のすき鋏においては、上記残余の毛髪を抜き出す際(特にすき鋏を頭髪から素早く抜き取り操作する際)、この毛髪とすき鋏(櫛刃間の溝底部)との間に抵抗感を生じ、毛髪がすき鋏(櫛状刃板)に引っ掛かる感じがすき鋏の操作者の理容作業(カッティング)を妨げたり、被理容者に不快感を与えることがあった。
【0005】
そこで、従来から溝底部からの毛髪の抜けを良好にするため、例えば図1に図示したように、櫛刃A間の溝底部Bの底縁形状をできるだけ滑らかな丸底形状とすること等が試みられてはいるものの、未だ上記の抵抗感は解消されていない。尚、図1中、符号Cは毛髪、Dは櫛状刃板である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−323951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような現状に鑑み、種々の研究の結果、従来は溝底部の底縁形状を滑らかな丸底形状とすることで、溝底部の両端部側へと広がろうとする毛髪の移動が丸底形状により阻止されて、毛髪が溝底部中央に密集してしまい、却って毛髪の抜動を阻害していたことを見い出し、これを解決したもので、櫛刃の先端縁に支承保持されずに溝底部に溜まった毛髪をスムーズにこの溝底部から抜き出すことができ、すき鋏を頭髪から抜き取る際、毛髪と櫛状刃板とに引っ掛かり感が生ぜず、毛髪を引っ張ったり傷めたりする等して被理容者に不快感を与えることがなく、また、操作者も抵抗感を感じることなく常に軽快にカッティングを行える今までにない極めて実用性に秀れたすき鋏を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
刃縁1を形成した刃板2と、櫛刃3を溝4を介して多数並設状態に突設した櫛状刃板5とを、両刃板2・5の交叉部で枢着して開閉自在に構成し、前記櫛刃3の先端縁6に支承された毛髪7を刃板2の刃縁1によって切断し、前記櫛刃3間の溝底部8に溜まった毛髪7は刃板2の刃縁1によって切断し得ないように構成したすき鋏であって、前記櫛刃3間の溝底部8が、溝開口部9に比して幅広となるように前記櫛刃3の側縁形状を設定し、この幅広の溝底部8に前記櫛刃3の並設方向と略平行な平坦底縁部10を設けて、前記溝底部8を丸底形状ではなく幅広平底形状に構成すると共に、この溝4に隣接する左右の櫛刃3の側縁基端側に、この櫛刃3の側縁3aと前記平坦底縁部10とを滑らかに連設する凹湾曲角縁部11を設けたことを特徴とするすき鋏に係るものである。
【0010】
また、前記溝開口部9から入り込む前記毛髪7の入り込み方向に対して略直交する方向に平坦となるように前記平坦底縁部10を形成したことを特徴とする請求項1記載のすき鋏に係るものである。
【0011】
また、前記凹湾曲角縁部11は、隣り合う前記平坦底縁部10の端部同士を結ぶ仮想直線Iより櫛刃3の突出方向側に設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のすき鋏に係るものである。
【0012】
また、前記櫛刃3間の溝4が溝開口部9から溝底部8に向かって徐々に幅広となるように、前記櫛刃3を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状に構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のすき鋏に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述のように構成したから、櫛刃の先端縁に支承保持されずに溝底部に溜まった毛髪をスムーズにこの溝底部から抜き出すことができ、すき鋏を頭髪から抜き取る際、毛髪と櫛状刃板とに引っ掛かり感が生ぜず、毛髪を引っ張ったり傷めたりする等して被理容者に不快感を与えることがなく、また、操作者も抵抗感を感じることなく常に軽快にカッティングを行える今までにない極めて実用性に秀れたすき鋏となる。
【0014】
また、請求項2,3記載の発明においては、本発明を一層容易に実現できる一層実用性に秀れたものとなる。
【0015】
また、請求項4記載の発明においては、溝底部の容量が大きくなり、溝底部からの毛髪の抜けが一層良好となる一層実用性に秀れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0017】
頭髪に櫛状刃板5を挿し入れて刃板2と櫛状刃板5とで挟持した毛髪7を切断する。この際、前記櫛刃3の先端縁上の毛髪7が刃板2の刃縁1によって切断され、前記櫛刃3間の溝4に入った毛髪7(溝底部8に溜まった毛髪7)は切断されない。
【0018】
また、頭髪に挿し入れた櫛状刃板5を抜き取る際、この溝底部8に溜まった毛髪7は、幅広な平坦底縁部10及び凹湾曲角縁部11全体に満遍なく広がって分散した状態で当接しながら溝底部8から良好に抜き出ることになる。
【0019】
即ち、図1に図示したように溝底部Bが丸底形状である場合には、分散しようとする(溝底部Bの両端部側へと移動しようとする)毛髪Cの動きを反り返った円弧が阻害し、逆に毛髪Cは丸底状の溝底部中央に集中して束状となり、毛髪Cの抜出経路が溝底部中央に集中するために毛髪Cの抜けが悪く、櫛状刃板Dを抜き取る際にどうしても抵抗感が生じてしまうが、本発明によれば、図2に図示したように溝底部8を幅広平板形状とすることで、溝底部8の両端部側への毛髪7の移動が抵抗なくスムーズに行われ、各毛髪7が分散状態でこの平坦底縁部10と当接しながら抜けていくため、毛髪7が溝底部中央に集中せず、毛髪7の抜出経路が溝底部8全体に亘って分散して存在することになり、極めて毛髪7の抜けが良く、櫛状刃板5を抜き取る際の抵抗感が大幅に低減することになる。
【0020】
また、両刃板2・5を閉じた状態では溝底部8と刃板2の刃縁1との間に僅かな間隙が残り、この間隙の毛髪7(溝底部8に溜まった毛髪7)は切断されないが、従来の形状では毛髪が溝底部中央に密集して束状となり、この束状となった毛髪が刃板の刃縁と接触してしまい、この状態で頭髪から鋏を引き抜こうとすると、刃板の刃縁と毛髪との間に強い摩擦が生じ非常に抜けが悪くなってしまう。この点、本発明によれば、上述のように毛髪7が溝底部8上に広く薄く分散するため、両刃板2・5を閉じた状態で鋏を引き抜く際、刃板2の刃縁1と毛髪7とが接触しにくく、それだけ抜けが良くなる。
【0021】
更に、平坦底縁部10の両側の凹湾曲角縁部11により、櫛刃3の側縁3aと平坦底縁部10とが滑らかに連設されることで、毛髪7は平坦底縁部10だけでなく凹湾曲角縁部11にも亘って分散し、溝底部8の角縁からもスムーズに毛髪7が抜けていくことになり、この角縁で毛髪7が引っ掛かることもなく、この点も櫛状刃板5を抜き取る際の抵抗感の大幅な低減に寄与することになる。
【0022】
従って、開口部9に比し幅広な溝底部8に平坦底縁部10を設けることで幅広平底形状として、毛髪7を分散した状態で当接せしめながら抜出することが可能となり、更に、角縁を滑らかな凹湾曲角縁部11とすることで、前記平坦底縁部10だけでなく前記凹湾曲角縁部11にも沿うようにして前記毛髪7をスムーズに抜出することができ、櫛状刃板5の抜き取り操作に伴う櫛刃3間の溝4へと入り込んだ毛髪7の抜出を抵抗感なく行うことができ、素早く操作しても良好に毛髪7を抜出せしめながらカッティングを行える極めて扱い易く極めて実用性に秀れた商品価値の高いすき鋏となる。
【0023】
また、例えば、前記櫛刃3間の溝4が溝開口部9から溝底部8に向かって徐々に幅広となるように、前記櫛刃3を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状に構成した場合には、複数の凹状保持縁により複数回に分けて各凹状保持縁に支承保持された毛髪7を切断することが可能となり、溝4へと入り込む毛髪7をよりスムーズに溝底部8に分散状態で到達せしめることが可能となる一層実用性に秀れたすき鋏となる。
【実施例】
【0024】
本発明の具体的な実施例について図2〜5に基づいて説明する。
【0025】
本実施例は、刃縁1を形成した刃板2と、櫛刃3を溝4を介して多数並設状態に突設した櫛状刃板5とを、両刃板2・5の交叉部を支点ネジ12で枢着して開閉自在に構成し、前記櫛刃3の先端縁6に支承された毛髪7を刃板2の刃縁1によって切断し、前記櫛刃3間の溝底部8に溜まった毛髪7は刃板2の刃縁1によって切断し得ないように構成したすき鋏であって、前記櫛刃3間の溝底部8が、溝開口部9に比して幅広となるように前記櫛刃3の側縁形状を設定し、この幅広の溝底部8に前記櫛刃3の並設方向と略平行な平坦底縁部10を設けて、前記溝底部8を丸底形状ではなく幅広平底形状に構成すると共に、この溝4に隣接する左右の櫛刃3の側縁基端側に、この櫛刃3の側縁3aと前記平坦底縁部10とを滑らかに連設する凹湾曲角縁部11を設けたものである。
【0026】
具体的には、櫛刃3の先端縁6に毛髪7を支承保持する凹状保持縁を複数設けると共に、前記櫛刃3間の溝4が溝開口部9から溝底部8に向かって徐々に幅広となるように、前記櫛刃3を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状に構成し、幅広の溝底部8により櫛刃3間に入った毛髪7を良好に分散支承できるように構成すると共に、頭髪に櫛状刃板5を挿し込んだ際、前記先端縁6に支承保持される毛髪7の量を増加させることで、一回のカッティング動作で切断できる毛髪7の量を増加させつつ、溝底部8に毛髪7が溜まり過ぎないようにして、この溝底部8から毛髪7を良好に抜き出せるようにしたものである。尚、後述するが本実施例は先端縁6に支承保持される毛髪7の量が増加しても毛髪7を切断する際の抵抗が極めて小さくなるように構成している。
【0027】
即ち、本実施例は、図1に図示したような溝底部Bを丸底形状とし溝幅が溝開口部から溝底部まで略同一な従来例と異なり、図2,3に図示したように溝底部8を溝開口部9より幅広な(溝開口部9から溝底部8に向かって幅広となる)平底形状としたもので、溝開口部9から入り込んだ毛髪7がスムーズに溝底部8へと分散状態で当接し、頭髪から櫛状刃板5を引き抜く際、毛髪7を平坦底縁部10から凹湾曲角縁部11に亘って広く分散した状態で平坦底縁部10及び凹湾曲角縁部11に沿って抜出することができ、従来例のように毛髪が丸底形状の溝底部の中央に集中して抜け辛くなることがなく、極めて効率良くスムーズに毛髪7を抜出することができ、櫛刃3の先端縁6で支承保持した多くの毛髪7を抵抗なく軽快にカッティングしつつ櫛刃3間に入った毛髪7をスムーズに抜くことができ、より素早い頭髪への鋏の出し入れが可能で、毛髪7を傷めることなくカッティングの作業性を大幅に向上できるものである。
【0028】
各部を具体的に説明する。
【0029】
櫛刃3は、櫛状刃板5と交叉部で枢着される刃板2の刃縁の開閉軌道に沿って湾曲した状態で櫛状刃板5に多数並設状態に突設している。この櫛刃3の側縁3aは、櫛刃3を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状となるように、櫛刃先端側から櫛刃基端側に向かって、櫛刃3が徐々に幅狭となるように同方向(櫛状刃板5の先端側)に向かって湾曲するように設定している。また、図3中右側の側縁3aが櫛刃基端側に向かうにつれて深く湾曲するのに対し、左側の側縁3aの湾曲度合いは略一定としている。
【0030】
従って、櫛刃3間の溝4は、溝開口部9側から溝底部8側に向かって徐々に幅広となり、この櫛刃3間に入った毛髪7を滞らせることなく溝開口部9から溝底部8へと移動させることができる。また、溝底部8が幅広となることで、それだけこの溝底部8の容量が大きくなり、多数の毛髪7が入った場合でも密集しにくく、両刃板2・5を閉じた状態で引き抜く場合も抵抗なくスムーズに毛髪7を溝底部8から抜くことができる。
【0031】
また、本実施例においては、櫛刃3間の溝4を、曲面加工が可能なワイヤ放電加工やレーザー加工若しくはプラズマ加工を用いて形成している。従って、砥石を用いて櫛刃3間に溝4を直線状に切込形成する場合にはできなかった溝開口部9が狭く溝底部8が広い形状の溝4を簡易に形成できることになる。また、溝底部8の凹湾曲角縁部11の形成も容易となる。
【0032】
溝底部8は、溝開口部9から入り込む前記毛髪7の入り込み方向に対して略直交する方向に平坦な平坦底縁部10と、隣り合う前記平坦底縁部10の端部同士を結ぶ仮想直線Iより櫛刃3の突出方向側(櫛刃先端側)に設けた凹湾曲角縁部11とで構成している(即ち、櫛刃3の基端側に形成されるくびれ縁が図中下方へ垂れ過ぎないようにしている。)。従って、毛髪7は溝4に入り込むと自重により自然に溝底部8へと移動し、且つ、溝底部8が広く平坦で毛髪7の移動を阻害する凹凸がないため、毛髪7は自然に分散状態で溝底部8全体に満遍なく当接することになる。
【0033】
即ち、溝底部8は、両角が丸い(湾曲R形状の)平底形状となることで、頭髪から櫛状刃板5を引き抜く際、平坦底縁部10の存在により櫛刃3間の溝4へと入り込んだ毛髪7はこの平坦底縁部10に沿って左右に分散移動可能となり中央部に集中せず、平坦底縁部10に広く分散した状態で抜けると共に、櫛刃3の側縁3aに沿って凹湾曲角縁部11に到達した毛髪7及び平坦底縁部10に沿って広がろうとする毛髪7が凹湾曲角縁部11が引っ掛かりなく良好に抜けることになり、溝底部8全体を利用して毛髪7を抜くことができ、従来のような問題点は生じない。
【0034】
尚、溝底部8の平坦底縁部10の幅は、溝底部8の幅(溝4の最大幅)の約55%である。平坦底縁部10の幅は、櫛刃3の並設ピッチにより異なるが、スムーズな抜き心地を得るには、溝底部8の幅と平坦底縁部10の幅の比は4:1以上、より好ましくは2:1以上(溝底部8の幅の50%以上)に設定することが望ましいことを種々の実験により確認している(平坦底縁部10が狭すぎる場合、凹湾曲角縁部10が大きくなり、毛髪7の両側への移動が阻害されるため。)。
【0035】
また、前記櫛状刃板5の櫛刃3の先端縁6に毛髪7を支承保持する凹状保持縁を形成し、この凹状保持縁に支承保持される毛髪7を棒状刃板2の刃縁1によって切断するように構成している。尚、図5に図示したように、櫛刃3の先端縁6を、凹状保持縁を設けず傾斜案内縁19と直線状縁20とで構成しても良い。また、櫛刃3の側縁3aは湾曲形状に限らず、図5に図示したように、直線形状としても良い。また、図5の溝底部8の平坦底縁部10の幅は溝底部8の幅の約50%に設定している。
【0036】
具体的には、前記櫛刃3の先端縁6に、直線状の傾斜長辺部13とこれと対向状態に設ける傾斜短辺部14とから成る偏U字状縁若しくは偏V字状縁を形成すると共に、前記傾斜長辺部13の先端が前記傾斜短辺部14の先端よりも前記刃板1側に突出状態となるように形成し、この偏U字状縁若しくは偏V字状縁を形成する傾斜長辺部13は、毛髪7を前記傾斜短辺部14側に案内する傾斜案内縁となるように形成し、前記傾斜短辺部14は、前記傾斜案内縁としての傾斜長辺部13により案内された毛髪7が、櫛刃3間に入ることを阻止する阻止縁となるように形成して、この傾斜短辺部14と傾斜長辺部13の基部13aとにより、前記櫛刃3の先端縁6の一側寄り(本実施例においては基端側寄り)に形成される凹縁部15を前記凹状保持縁としたものである。尚、図中、符号16は母指穴、17は環指穴である。また、傾斜長辺部13と傾斜短辺部14の長さの比は、少なくとも4対1以上となるように傾斜長辺部13を傾斜短辺部14に比しかなり長尺に設定する。
【0037】
また、本実施例においては、複数の凹状保持縁を櫛刃3の先端縁に並設した構成としている。具体的には、前記偏U字状縁を複数並設した構成としても良いし、傾斜案内縁のない単なるU字状縁を前記偏U字状縁と並設した構成としても良い。本実施例においては、前記凹縁部15に加え、この凹縁部15からあふれ排出した毛髪7を支承保持するこの凹縁部15と略同形状の凹溝18を凹縁部15の低位側に凹設した構成、即ち、刃板2の閉動軌道に沿って4つ並設している。また、4つの凹溝18を並設するため、本実施例においては、櫛刃3は、先端側が基端側よりかなり幅広な先広がり形状に形成している。尚、凹溝18の並設数は図4に図示したような1つなど適宜設定することができる。また、図4の溝底部8の平坦底縁部10の幅は溝底部8の幅の約53%に設定している。
【0038】
本実施例は上述のように構成したから、頭髪に櫛状刃板5を挿し入れて刃板2と櫛状刃板5とで挟持した毛髪7を切断する際、前記櫛刃3の先端縁上の毛髪7が刃板2の刃縁1によって切断され、前記櫛刃3間の溝4に入った数本から十数本の毛髪7(溝底部8に溜まった毛髪7)は切断されない。
【0039】
そして、異なる部位の毛髪7を切断するため頭髪に挿し入れた櫛状刃板5を抜き取る際、この溝底部8に溜まった毛髪7は、幅広な平坦底縁部10及び凹湾曲角縁部11全体に満遍なく広がって分散した状態で当接しながら溝底部8から抜き出ることになる。
【0040】
即ち、図1に図示したように溝底部Bが丸底形状である場合には、分散しようとする(溝底部Bの両端部側へと移動しようとする)毛髪Cの動きを反り返った円弧が阻害し、逆に毛髪Cは丸底状の溝底部中央に集中して束状となり、毛髪Cの抜出経路が溝底部中央に集中するために毛髪Cの抜けが悪く、櫛状刃板Dを抜き取る際にどうしても抵抗感が生じてしまうが、本実施例によれば、図2に図示したように溝底部8を幅広平板形状とすることで、溝底部8の両端部側への毛髪7の移動が抵抗なくスムーズに行われ、各毛髪7が分散状態でこの平坦底縁部10と当接しながら抜けていくため、毛髪7が溝底部中央に集中せず、毛髪7の抜出経路が溝底部8全体に亘って分散して存在することになり、極めて毛髪7の抜けが良く、櫛状刃板5を抜き取る際の抵抗感が大幅に低減することになる。
【0041】
また、両刃板2・5を閉じた状態では溝底部8と刃板2の刃縁1との間に僅かな間隙が残り、この間隙の毛髪7(溝底部8に溜まった毛髪7)は切断されないが、従来の形状では毛髪が溝底部中央に密集して(前記間隙幅より径大な)束状となり、この束状となった毛髪が刃板の刃縁と接触してしまい、この状態で頭髪から鋏を引き抜こうとすると、刃板の刃縁と毛髪との間に強い摩擦が生じ非常に抜けが悪くなってしまう。この点、本実施例によれば、上述のように毛髪7が溝底部8上に広く薄く分散するため、両刃板2・5を閉じた状態で鋏を引き抜く際、刃板2の刃縁1と毛髪7とが接触しにくく、それだけ抜けが良くなる。
【0042】
更に、平坦底縁部10の両側の凹湾曲角縁部11により、櫛刃3の側縁3aと平坦底縁部10とが滑らかに連設されることで、毛髪7は平坦底縁部10だけでなく凹湾曲角縁部11にも亘って分散し、溝底部8の角縁からもスムーズに毛髪7が抜けていくことになり、この角縁で毛髪7が引っ掛かることもなく、この点も櫛状刃板5を抜き取る際の抵抗感の大幅な低減に寄与することになる。
【0043】
従って、開口部9に比し幅広な溝底部8に平坦底縁部10を設けることで幅広平底形状として、毛髪7を分散した状態で当接せしめながら抜出することが可能となり、更に、角縁を滑らかな凹湾曲角縁部11とすることで、前記平坦底縁部10だけでなく前記凹湾曲角縁部11にも沿うようにして前記毛髪7をスムーズに抜出することができ、櫛状刃板5の抜き取り操作に伴う櫛刃3間の溝4へと入り込んだ毛髪7の抜出を抵抗感なく行うことができ、素早く操作しても良好に毛髪7を抜出せしめながらカッティングを行える極めて扱い易く極めて実用性に秀れた商品価値の高いすき鋏となる。
【0044】
また、前記櫛刃3の先端縁6に毛髪7を支承保持する凹状保持縁を複数設け得ると共に、前記櫛刃3間の溝4が溝開口部9から溝底部8に向かって徐々に幅広となるように、前記櫛刃3を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状に構成したから、複数の凹状保持縁により複数回に分けて各凹状保持縁に支承保持された毛髪7を切断することが可能となり、より軽快なカッティングが可能になると共に、溝4へと入り込む毛髪7をよりスムーズに溝底部8に分散状態で到達せしめることが可能となる。
【0045】
よって、本実施例は、鋏を素早く出し入れすることが要求される場合に毛髪を良好に抜きだすことができると共に、多くの毛髪を一度に軽快に且つ確実にカットすることが可能な極めて商品価値の高いすき鋏となる。
【0046】
本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来例の要部の拡大概略説明側面図である。
【図2】本実施例の概略説明図である。
【図3】本実施例の要部の拡大概略説明側面図である。
【図4】別例の要部の拡大概略説明側面図である。
【図5】別例の要部の拡大概略説明側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 刃縁
2 刃板
3 櫛刃
4 溝
5 櫛状刃板
6 先端縁
7 毛髪
8 溝底部
9 溝開口部
10 平坦底縁部
11 凹湾曲角縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃縁を形成した刃板と、櫛刃を溝を介して多数並設状態に突設した櫛状刃板とを、両刃板の交叉部で枢着して開閉自在に構成し、前記櫛刃の先端縁に支承された毛髪を刃板の刃縁によって切断し、前記櫛刃間の溝底部に溜まった毛髪は刃板の刃縁によって切断し得ないように構成したすき鋏であって、前記櫛刃間の溝底部が、溝開口部に比して幅広となるように前記櫛刃の側縁形状を設定し、この幅広の溝底部に前記櫛刃の並設方向と略平行な平坦底縁部を設けて、前記溝底部を丸底形状ではなく幅広平底形状に構成すると共に、この溝に隣接する左右の櫛刃の側縁基端側に、この櫛刃の側縁と前記平坦底縁部とを滑らかに連設する凹湾曲角縁部を設けたことを特徴とするすき鋏。
【請求項2】
前記溝開口部から入り込む前記毛髪の入り込み方向に対して略直交する方向に平坦となるように前記平坦底縁部を形成したことを特徴とする請求項1記載のすき鋏。
【請求項3】
前記凹湾曲角縁部は、隣り合う前記平坦底縁部の端部同士を結ぶ仮想直線より櫛刃の突出方向側に設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のすき鋏。
【請求項4】
前記櫛刃間の溝が溝開口部から溝底部に向かって徐々に幅広となるように、前記櫛刃を、基端側から先端側に向かって徐々に幅広となる先広がり状に構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のすき鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−178467(P2008−178467A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12778(P2007−12778)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(591086050)株式会社山村製作所 (2)
【Fターム(参考)】