説明

たばこフィルター用素材及びたばこフィルター

【課題】ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、ホルムアルデヒドを選択的に
効率よく除去するのに有用なたばこフィルター用素材を提供する。
【解決手段】セルロースアセテート繊維などのフィラメントの集合体からなる担体を、このようなたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターは、ホルムアルデヒドを効率よく選択除去でき、例えば、たばこフィルターを通過する煙中のニコチンおよびタールをそれぞれ保持率80%以上に保持しつつ、ホルムアルデヒド除去率率を60%以上にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチンやタールなどの喫味成分を保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に効率よく除去するのに有用なたばこフィルター用素材とその製造方法、並びにたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルター(およびたばこ)に関する。
【背景技術】
【0002】
たばこ煙中の成分をろ過するための吸着体として種々の構成成分が提案されている。このような構成成分としては、酸性成分の吸着、ホルムアルデヒドの吸着などを目的としてアミン成分などの塩基性成分を添加するものが多く報告されている。例えば、特開昭59−88078号公報(特許文献1)、特開昭59−1519882号公報(特許文献2)、および特開昭60−54669号公報(特許文献3)には、活性炭素にポリエチレンイミンや蒸気圧が低い脂肪族アミンを添着させたタバコ煙フィルター用吸着剤を、特表2002−528105号公報(特許文献4)および特表2002−528106号公報(特許文献5)には、3−アミノプロピルシリルおよび関連原子団を共有結合したたばこフィルターを、特表2003−505618号公報(特許文献6)にはアンモニウム塩を含む充填材を、また特開昭57−71388号公報(特許文献7)には、タバコの風味を向上させるためを添加することをそれぞれ開示している。
【0003】
しかし、上記のような塩基性成分の多く、特に合成高分子アミンは、分解や低分子量成分の残存により特有のアミン臭を呈することが多い。また、塩基性成分自体又はその中に含まれる揮発性物質は、揮発して人体に対して毒性を示すことが多い。なお、塩基性成分は、添着する際の液性を酸性側にすることにより、その揮発を抑制できるが、何らかの理由、例えば、他の塩基性物質との接触や加水分解などにより、遊離する虞がある。また、などは、多くの場合に結晶化し、揮発性も低いが、このような結晶状態では、吸着に対する活性が低く、十分な効果を期待できない。
【0004】
このように、通常の塩基性成分を用いた吸着体では、酸性物質やアルデヒドなどの除去にある程度有効であると考えられるものの、安全性やその効果に問題があり、たばこフィルター用吸着剤として実用的でなかった。
【0005】
なお、従来、ニコチンやタールがタバコ煙中の主な有害成分と考えられ、ニコチンやタールのデリバリーに関心がもたれ、多くの国でニコチンとタールの表示義務が課せられている。しかし、ニコチンそのものは、タバコの嗜好成分であり、喫煙の満足感に直接関与すると考えられる。また、タールについても、タバコ煙成分中のタール成分を相対的に高いレベルで除去することは、香喫味を損なうために好ましいことではない。すなわち、タールやニコチンを含めた揮発性の低い煙成分を無差別に除去すると、味が軽くなるとともに満足感が得られなくなる。一方、アルデヒド類、特にホルムアルデヒドは、刺激的な臭いを有するだけでなく、最近アレルギーの原因物質のひとつとして注目されているように、健康上好ましくない物質であり、極力除去することが好ましい。
したがって、ホルムアルデヒドの選択吸着性を維持しつつ、タールやニコチンの吸着量が少ないたばこ煙用フィルターが求められていた。
【0006】
上記のような先行技術に開示されているこのような塩基性物質のうち、アミノ酸やその塩類は、結晶化や揮発を生じることがなく、また、アミノ酸内部の官能基同士で水素結合を形成することが少なく、更に人体に対しても安全であることが知られている。
そして、このようなアミノ酸やその塩を用いたたばこフィルターも提案されている。
【0007】
例えば、米国特許特許番号2968306号公報(特許文献8)には、煙草フィルタにアミノ酸またはアミノ酸塩を添加する技術が開示されている。そして作用効果としてはアルデヒドの減少効果が記載されている。当該文献のカラム3からカラム4には添加するアミノ酸の例が例示されており、中性アミノ酸塩と酸性アミノ酸塩(グルタミン酸塩)、塩基性アミノ酸(リジン)が記載されている。更に、humectant(保湿剤)をすることが好ましいことが記載されている。実施例にはアミノ酸としてグリシン塩と保湿剤としてグリセリンを組み合わせた組成物が記載されている。また別の実施例にはグリシンとプロピレングリコール、水の混合物からなる組成物が記載されている。そして、そして、これらの実施例においてアセトアルデヒドの削減量を測定している。
【0008】
当該文献の実施例1でのアミノ酸と保湿成分の添加量については、グリシン塩とプロピレングリコオールの比率は1:1(重量)であり、水は2である。この文献のすべての実施例においてアミノ酸は粒状かまたは保湿剤の中に分散された分散剤としてフィルタトウに添加されている。この文献では水がアルデヒド類の捕集効果を示すものであり、アミノ酸類と同量がそれ以上の水を添加した様態が記載されている。
【0009】
日本特許再公表番号WO2004/026053号公報(特許文献9)には、塩基性アミノ酸または塩基性アミノ酸塩と、グリセリン、プロピオン酸ナトリウム、乳酸ナトリウムからなる群より選択される保湿剤とを含有するたばこ用フィルタが記載されている。この文献の目的もアルデヒド類を低減することである。塩基性アミノ酸または塩基性アミノ酸塩が有効であることが記載されている。このうち、たとえばアルギニンおよびその塩などは食品添加物として認められていることも記載されている。
担持体(フィルター素材)としては、アセテートトウ、紙、パルプ不織布など、通常のフィルター体を用いることができることが記載され、たばこ主流煙中のアルデヒド類が、フィルターに担持されている保湿剤に保持されている水に溶解する。さらに、水に溶解したアルデヒド類は、フィルターに担持されている塩基性アミノ酸または塩基性アミノ酸塩と反応してフィルター内に捕捉されるという作用が記載されている。
【0010】
これらの文献に記載されているのはアミノ酸およびその塩を用いてアルデヒド類を吸収するものである。そしてグリセリンのような保湿剤(humectant)を含有することが必須の形態として記載されている。
このような技術でも確かにアルデヒド類を除去することができる。しかしながら一方で水を含有させることはたばこに対して好ましくない。
【0011】
なぜならば、たばこのフィルターとしてフィラメントの重合体からなるものを用いた場合には、素材や繊維径にも依存するが、これらの集合体は表面積が大きく、セルロースアセテートのフィラメントの場合で約3重量%から5重量%程度の吸着水分(担体1g当たり30mgから50mg)を保有している。一方、これらは吸着水であり、通常は微生物が極めて利用し難いため、これらのフィラメントの吸着水自体は微生物の繁殖には繋がらなかった。
【0012】
しかしながら、吸着している水分よりも過量の水分を添加した場合には、その水分を基に微生物が繁殖できる。そしてアミノ酸やその塩に水分を含有させてアルデヒド類を捕集する方法を用いた場合には、微生物の繁殖に好適な状況が生じ、このような微生物繁殖に起因する臭気の問題が発生し易くなる。そしてたばこは賞味されるまである程度の期間があり、このような水分が存在するとそこに好ましくない微生物(黴)などが繁殖する。この結果、たばこのフィルタ部から臭気を生じ、これはたばこの喫味を著しく損なう。特に保湿剤を共存させた場合には、人体に無害な保湿成分は多くの場合微生物の栄養源ともなり得るのでこの現象を顕著にする。
このためフィラメントの集合体が本来保有している水分以上の水分を添加しなくても、そして保湿剤を含有させていなくともアルデヒド類を吸着あるいは捕集できるたばこフィルタ素材およびそれを用いたたばこフィルタが求められていたが実現できていなかった。
【特許文献1】特開昭59−88078号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−1519882号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭60−54669号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特表2002−528105号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特表2002−528106号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特表2003−505618号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開昭57−71388号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】米国特許特許番号2968306号公報(特許請求の範囲、カラム3から4、実施例1および3)
【特許文献9】再公表番号WO2004/026053号公報(特許請求の範囲、第3頁24行〜35行、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、過剰の水分が介在することなくタールやニコチンなどの喫味(又は香喫味)成分を高レベルで保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を効率よく除去できるたばこフィルター用素材を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、水に起因する悪臭がなく、無臭かつ経口摂取しても安全で、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に除去するのに有用なたばこフィルター用素材を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に除去できるたばこフィルター用素材を簡便にかつ効率よく製造する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、喫味を損なうことなく、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択除去できるたばこフィルターおよびこのたばこフィルターを備えたたばこを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、担体(トウ構造の担体など)を、アミノ酸または及びその塩で実質的に均一に被覆処理したたばこフィルター用素材では、特に水分を保有させていなくても、そしてまた水分を保持するための保湿剤を含有していなくともアミノ基のアルデヒド類の吸着(又は吸収)性能を効率よく発現でき、その結果、アミノ酸または及びその塩のアミノ基に起因すると思われる化学的な吸着性能が発揮されるためか、タールやニコチンなどの喫味成分に比べて、アルデヒド類(特にホルムアルデヒド)を選択的に吸着できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明のたばこフィルター用素材(たばこ煙用フィルター素材)は、担体が、アミノ酸または及びその塩で被覆処理されている。前記担体は、フィラメントの集合体であり、トウ構造の担体(例えば、トウ構造のフィルター)である。なお、トウ構造とは、モノフィラメント繊維が、所定の束(例えば、3000〜100000本程度の束)で主煙流の通気方向に引きそろえられることにより形成される構造(フィルター構造)である。担体の材質としてはフィラメントを構成できるものであればよく、セルロース、ポリプロピレン、セルロースエステルであってもよい。前記フィルタ用素材は、含有している水分の割合が、担持体1gに対して50mg以下であってもよく、前記たばこフィルター用素材は、担体1gに対して、アミノ酸または及びその塩を0.05mgから100mg、また0.05mgから80mg、また0.05mgから50、また0.05mgから30mg、また0.5mgから15mg程度含んでいてもよい。
【0018】
代表的な前記たばこフィルター用素材は、担体がフィラメントの集合体であればよく、不織布を圧縮したもの、あるいは抄紙構造のものを折りたたんだ物、あるいはフィラメントを引き揃えたトウ構造の担体であり、このフィラメントの集合体のフィルターにアミノ酸および又はその塩を溶媒に溶解した溶液を散布、塗布、浸漬、含浸などの方法で塗布し、これを更に乾燥することにより得られる。該被覆処理された担持体の水分量が被覆処理後の担持体1gに対して7mg以上でかつ85mg以下、また7mg以上50mg以下、また、7mg以上40mg以下、また20mg以上でかつ40mg以下、また30mg以上でかつ40mg以下であってもよい。
【0019】
被覆処理した後の担持体の水分量は、被覆処理する前の担持体の水分量と比較し変化は少なく、水分量の増大は、被覆処理した後の担持体の水分量/被覆処理する前の担持体の水分量の値として0.8倍から1.4倍程度、また0.9倍から1.3倍程度、また0.9倍から1.1倍程度であっても良い。本発明ではアミノ酸および又はその塩の含有量は少ない量の場合でも充分な効果を発現し、担体1gに対して、アミノ酸または及びその塩の含有量が0.5mgから15mg程度、また0.75mgから10mg、また0.75mgから5mg、また0.75mgから1.5mg含んでいてもよい。
アミノ酸および又はその塩は塩基性アミノ酸及びその塩に限定されるものではなく、中性アミノ酸か酸性アミノ酸であってもよい。中性アミノ酸としてはグリシンであってもよく、酸性アミノ酸の塩としてはグルタミン酸ナトリウムであってもよい。
【0020】
本発明のたばこフィルター用素材は、担体を、少なくともアミノ酸およびまたはその塩と極性溶媒を含む溶液(アミノ酸および又はその塩類を有する溶液)で処理することにより得ることができる。代表的な方法では、アミノ酸および又はその塩を極性溶媒に溶解した溶液を担体に散布、塗布、浸漬などの処理で添着させた後、乾燥することによりたばこフィルター用素材を製造してもよい。このような製造方法において、添着は対象となる担体全面に渡り均一に行われてもよい、また不均一に行われても良い。は、希薄溶液とされていてもよい。例えば、前記アミノ酸および又はその塩を含む溶液として、前記アミノ酸および又はその塩の濃度が2重量%以下、または0.5重量%以下、または0.01重量%以下のものを用いてもよい。濃度の下限としては0.001重量%以上であってもよい。
【0021】
本発明のたばこフィルター用素材は、本発明のたばこフィルター用素材以外の公知の他のたばこフィルター用素材と組み合わせてたばこフィルターを構成することができる。
すなわち本発明のたばこフィルタ用素材を単独で又は2種以上組みあわせて構成してもよく、本発明のたばこフィルタ用素材と他のたばこフィルター用素材[例えば、被覆処理されたたばこフィルター用素材と繊維状素材(被覆処理されていない繊維状素材など)など]とで構成してもよい。例えば、本発明のたばこフィルター用素材は、複数に分割(2分割、3分割など)された構造を有するたばこフィルターの少なくとも一つの分割部分を構成し(例えば、2分割されたフィルターの一方の部分、3分割されたフィルターの両端部分など)、他の分割部分(例えば、2分割のフィルターの他方の部分、3分割されたフィルターの中間部分など)を他のたばこフィルター用素材(例えば、活性炭などの粒状物質が充填されたフィルター素材など)で構成してもよい。
【0022】
このような形態のフィルタは、一般にデュアルフィルタあるはトリプレットと呼称されている、
また、本明細書において、「アミノ酸または及びその塩溶液」とは、少なくともアミノ酸または及びその塩が溶媒(および必要に応じてヒドロキシ酸)を含む系中に溶解した溶液であればよく、アミノ酸または及びその塩ではない非溶解性成分を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、アミノ酸または及びその塩(および必要に応じてヒドロキシ酸などの酸性成分)を溶液の形態で担体(セルロールエステル繊維のトウ構造の担体など)を処理するので、タールやニコチンなどの喫味(又は香喫味)成分を高レベルで保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を効率よく除去できる。また、本発明のたばこフィルター用素材(およびたばこフィルター)は、粒状物をフィルタ素材の中に含まないので通気抵抗に与える影響が少なく、喫味を保持できる。またアミノ酸および又はその塩を用いるので経口摂取しても安全で、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択的に除去するのに有用である。
【0024】
そして、本発明ではアミノ酸を活性化させるための過剰の水が必要がないので、担体が当初から保有している水分以上の水を添加する必要がなく、フィルターに過量の水が残存しないので、水に起因する臭気が非常に少なく喫味への影響が小さい。そして、アミノ酸およびまたはその塩の添加量として微量であっても、充分なアルデヒド類低減効果を発揮するので、アミノ酸およびその塩を添加することにより生じる他の喫味成分の吸着が抑制され、喫味に優れる。
【0025】
このようなたばこフィルター用素材は、例えば、担体を、アミノ酸およびその塩類および溶媒(およびヒドロキシ酸などの酸性成分)を含むアミノ酸及びその塩類を有する溶液に浸漬あるいは塗布、あるいは散布する方法などにより、簡便にかつ効率よく製造できる。そのため、本発明のたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターでは、喫味を損なうことなく、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を選択除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[たばこフィルター用素]
本発明のたばこフィルター用素材(以下、単にフィルター素材、素材などということがある)は、フィラメントの集合体である担体が、アミノ酸または及びその塩で被覆処理(以下、単に、処理ということがある)されており、少なくともアミノ酸または及びその塩(および必要に応じて後述の酸性成分)を含有している。このようなたばこフィルター用素材(詳細には、担体に被膜(又は皮膜)が形成されたたばこフィルター用素材)は、後述するように、通常、フィラメントの集合体である担体を、アミノ酸または及びその塩を含む溶液(アミノ酸または及びその塩溶液)で処理することにより得ることができる。
【0027】
(フィラメントの集合体である担体)
フィラメントの集合体である担体は、アミノ酸または及びその塩(又はアミノ酸または及びその塩溶液)で処理できればよく、担体の形状(又は構造)に応じて、例えば、天然又は合成繊維{例えば、セルロースエステル繊維(セルロースアセテート繊維など)、セルロース繊維[木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプ繊維など)、種子毛繊維(例えば、リンターなどの綿花)、ジン皮繊維、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)など]、再生セルロース繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、硝酸人絹など)、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)など}などの繊維(又は繊維状物質)、粒子状物質(例えば、活性炭、珪藻土、シリカゲル、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、ゼオライトなどの無機粒子、木屑、その他の天然又は合成高分子からなる粒子など)、蛋白質(ゼラチン、カゼインなど)などで構成できる。これらの担体の構成成分は、単独で又は2種以上組みあわせて担体を構成してもよい。
【0028】
これらのうち、好ましい担体の構成成分としては、繊維(繊維状物質)、例えば、セルロースエステル繊維などが例示できる。セルロースエステル繊維において、セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、燐酸セルロースなどの無機酸エステル;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;およびポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなどのセルロースエステル誘導体などが挙げられる。これらのセルロースエステルは、単独でまたは二種以上混合して使用してもよい。これらのうち、好ましいセルロースエステルには、有機酸エステル(例えば炭素数2〜4程度の有機酸とのエステル)、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが含まれるが、特にセルロースアセテート(特にセルロースジアセテート)が好ましい。
【0029】
セルロースエステルの粘度平均重合度は、通常10〜1000(例えば50〜1000)、好ましくは50〜900(例えば100〜800)、さらに好ましくは200〜800程度であってもよい。
また、セルロースエステル(特にセルロースアセテート)の平均置換度は、例えば、1〜3(例えば、1〜2.9)程度の範囲から選択でき、好ましくは1.5〜2.7、さらに好ましくは1.7〜2.6程度であってもよい。
担体を構成する繊維(例えば、セルロースエステル繊維)において、繊維長は、0.1mm〜5cm程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜30mm(例えば、1〜25mm)、好ましくは2〜20mm、さらに好ましくは3〜15mm(例えば、5〜10mm)程度であってもよい。また、繊維の繊維径は、例えば、0.01〜100μm、好ましくは0.5〜80μm、さらに好ましくは1〜50μm程度であってもよい。
なお、繊維(例えば、セルロースエステル繊維)は、捲縮繊維又は非捲縮繊維であってもよく、特に捲縮繊維であるのが好ましい。
【0030】
本発明のフィルタ素材の形状としては、毛状、織布状、不織布状、トウ構造(又はトウ状、例えば、捲縮繊維のトウ構造)、抄紙状(又は紙状又は抄紙構造)、シート状、などのいずれの形状であってもよい。なお、抄紙構造の担体は、前記繊維を切断した上でステープルとして、乾式および湿式の不織布の製造方法でシート状にしたり、上記ステープルを叩解パルプを混同したスラリーとしたうえで、抄紙することで得られる。
また、担体は、予め成形されたフィルター(例えば、セルロースアセテートなどのセルロースエステル捲縮繊維トウ構造のフィルターなど)であってもよい。このような予め成形されたフィルター(又はフィルター状)の担体を用いると、被覆処理(および乾燥)後、そのままたばこフィルターとして使用することができる。
【0031】
好ましい担体には、繊維で形成されたトウ状(又はトウ構造)の担体[又は繊維で形成されたトウ構造のフィルター(フィルター担体)]が含まれる。すなわち、ニコチンやタールなどの浮遊微粒子は、たばこ煙、なかでも主流煙に多く存在している。このような浮遊微粒子は、フィブリル構造を有する繊維が担体に含まれている場合、フィブリルの部分で捕捉されやすい。そのため、フィブリル構造を有する担体では、ニコチンやタールの透過率が減少し、本発明の目的に適合しない虞がある。しかしながら、後述するトウ構造(トウ構造のフィルター)であれば、広義の高分子工学で定義されるモノフィラメント(実質的に無限長の連続長さを持ったマルチフィラメント)構造を有しており、フィブリルが少ないため、浮遊微粒子を捕捉せず、ニコチンやタールの透過性に優れる。
【0032】
したがって、このような観点から、コットンリンターや脱脂綿(前記特開平7−31452号公報の実施例3など)のような天然繊維や叩解パルプなどのフィブリル構造を持つ天然繊維からなるシート構造の担体よりは、モノフィラメントから形成されるトウ構造(トウ構造のフィルタ状)の繊維束で構成された担体が好ましい。
【0033】
(トウ構造の担体又はトウ構造のフィルター担体)
前記のように、本発明において、最も好ましい担体はトウ構造の担体(特に、トウ構造のフィルタ担体)である。トウ構造(トウ構造フィルター)とは、無限長をもつフィラメントからなるもので、フィルタの通気方向とフィラメントの軸方向がほぼ同一の形状をしているものである。すなわち、モノフィラメントをフィルターの通気方法に引き揃えた物である。この様な形態のフィルタであると、フィルタの通気抵抗に比較してフィルタ硬度を高く保つことができ、優れたたばこ煙用フィルタを形成できる。慣用のフィルター素材(繊維)を紡糸(乾式、溶融又は湿式紡糸)することで形成できる。トウ構造(すなわち、モノフィラメントの集束構造)の担体を構成する繊維としては、前記例示の繊維、例えば、セルロース繊維、再生セルロース繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなど)、セルロース誘導体繊維(セルロースエステル繊維など)、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)などの合成繊維などが挙げられる。これらの繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
好ましい繊維には、セルロース繊維、セルロースエステル繊維などが含まれ、特に少なくともセルロースエステル繊維で構成された繊維が好ましい。セルロースエステル繊維としては、前記と同様の繊維、例えば、セルロースアセテート繊維、セルロースプロピオネート繊維、セルロースブチレート繊維などの有機酸エステル(例えば、炭素数2〜4程度の有機酸エステル)繊維;セルロースアセテートプロピオネート繊維、セルロースアセテートブチレート繊維などの混酸エステル繊維;およびポリカプロラクトングラフト化セルロースエステル繊維などのセルロースエステル誘導体などが例示される。好ましいセルロースエステル繊維には、例えば、セルロースアセテート繊維、セルロースプロピオネート繊維、セルロースブチレート繊維、セルロースアセテートプロピオネート繊維、セルロースアセテートブチレート繊維などが含まれ、特にセルロースアセテート繊維が好ましい。これらのセルロースエステル繊維も、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
トウ構造において、セルロースエステル(繊維)の平均重合度(粘度平均重合度)は、例えば、50〜900、好ましくは200〜800程度の範囲であってもよい。また、セルロースエステルの平均置換度は、例えば、1.5〜3.0程度の範囲から選択できる。繊維の断面形状は、特に制限されず、例えば、円形、楕円形、異形(例えば、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状など)や中空状などのいずれであってもよいが、Y字状、X字状、I字状、R字状、H字状などの多角形の異形繊維断面が好ましい。繊維径及び繊維長は、繊維の種類に応じて選択でき、例えば、繊維径0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μm程度であってもよく、繊維長50μm〜5cm、好ましくは100μm〜3cm程度の範囲から選択する場合が多い。特に、フィルター状担体の場合には、フィルター又はフィルターの一部を構成する部分の長さに相当する長さ(3〜30mm程度、例えば、10mm、14mmなど)の繊維長を有することが好ましい。
【0036】
繊維(セルロースエステル繊維など)の繊度は、例えば、1〜16デニール、好ましくは1〜10デニール程度の範囲から選択できる。セルロースエステル繊維などの繊維は、非捲縮繊維又は捲縮繊維のいずれであってもよいが、捲縮繊維がより好ましい。このようなトウ構造の担体(フィルター状担体)は、繊維を、例えば、3,000〜1,000,000本(例えば、3,000〜100,000本)、好ましくは5,000〜100,000本程度の繊維(特にセルロースエステル繊維)の単繊維(フィラメント)を束ねる(集束する)ことにより形成されたトウ(繊維束)の形態である。
【0037】
トウ構造の担体(又はフィルター)の場合は、アミノ基を含有する多糖類(例えば、キトサン)で処理したフィラメントと未処理のフィラメントとを混合し集束して担体(又はフィルター)を形成することもできる。このような未処理のフィラメントの材質にセルロースエステル(好ましくはセルロースアセテート)を用いれば、喫味のうえでも有利であり、ホルムアルデヒド類の低減率とタール、ニコチンの残存率を調整することも可能である。
【0038】
(アミノ酸およびその塩類)
本発明のおけるアミノ酸とは分子内にアミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)とを持つ化合物の総称である。但しプロリン、ヒロドキシプロリンのようなイミノ酸もふくめたものである。アミノ酸は一般的にはアミノカルボン酸とも言われている。一般的に、アミノ酸は分子内に含まれるカルボキシル基とアミノ基の数の割合により、モノアミノモノカルボン酸(中性アミノ酸、シスチンのようなジアミノジカルボン酸も含める)、モノアミノジカルボン酸(酸性カルボン酸)、ジアミノモノカルボン酸(塩基性アミノ酸)に分類できる。モノアミノモノカルボン酸としてはグリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トロシン、ジヨードチロシン、スルナミン、トレオニン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、シスチン、システイン、αアミノ酪酸が例示できる。モノアミノジカルボン酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸が例示できる。ジアミノモノカルボン酸としては、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジンが例示できる。
【0039】
アミノ酸および又はその塩としては酸性アミノ酸、あるは中性アミノ酸であっても好ましく用いることができる。
これらの中でも、酸性アミノ酸としてはモノアミノジカルボン酸が最も好ましく、特にグルタミン酸およびその塩、特にはグルタミン酸ナトリウムが好ましい。中性アミノ酸としてはモノアミノモノカルボン酸のアミノ酸が好ましく、グリシンが好ましい。構造が単純なアミノ酸を用いると、単位重量当たりの官能基の数が多く本発明に好ましく用いられる。その意味ではグリシンが最も好ましく、これらの構造が単純なアミノ酸の中でも工業的に多量に生産されている点からグルタミン酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
本発明のたばこフィルター用素材において、アミノ酸または及びその塩の含有量(又は添着量)は、担体1gに対して、アミノ酸または及びその塩の含有量が0.05mgから100mg、また0.05mgから80mg、また0.05mgから50、また0.05mgから30mg、また0.5mgから15mgまた0.75mgから10mg、また0.75mgから5mg、また0.75mgから1.5mg含んでいてもよい。アミノ酸または及びその塩の含有量が多すぎると、タールやニコチンの吸着量が大きくなる虞がある。
【0041】
(溶媒)
本発明の特徴は、前記アミノ酸または及びその塩と溶媒特に好ましくは極性溶媒とを組み合わせて担体を処理する点にある。
すなわちアミノ酸およびまたはその塩が溶媒に均一に溶解している溶液の状態で担体に塗布することにより担体の表面にアミノ酸及びその塩の均一な塗膜を形成することができる。溶媒としては上記の通り、アミノ酸及びその塩を均一に溶解できるものであればよい。そして、多くの場合極性溶媒はアミノ酸およびその塩の良溶媒である。無論アミノ酸及びまたはその塩を溶解することができれば極性である必要はない。
【0042】
このような溶媒または極性溶媒は、通常、ヒドロキシル基を有する溶媒であってもよい。水も有力な極性溶媒である。このような極性溶媒は、均一な溶液を形成し、均一なアミノ酸または及びその塩の塗膜を形成できるためか、アルデヒド(特に、ホルムアルデヒド)除去率を向上できる。
【0043】
極性溶媒としては、水、アルコール類[例えば、アルカノール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノールなどのC1-4アルカノールなど)、シクロアルカノール(シクロヘキサノールなどのC4-10シクロアルカノールなど)、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2-4アルカンジオールなど)、アルカントリオール(グリセリンなど)、低分子量のポリアルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ乃至テトラC2-4アルキレングリコールなど)など]、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジアルキルケトン類など)、エーテル類[セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトールなど)、ジアルキレングリコールアルキルエーテル類(ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)、グリコールエーテルエステル類(エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブアセテート、ブトキシカルビトールアセテートなど)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ジアルキルエーテル類(ジエチルエーテルなど)など)]などが挙げられる。極性溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0044】
これらの溶媒および極性溶媒は担体にアミノ酸およびまたはその塩の溶液を塗布した後に、速やかに揮発することが必要であり、その点では低沸点の溶媒が好ましく、そして微量の残留した溶媒が存在した場合でもたばこの喫味に影響を与えない点で無臭のものが好ましい。本発明での溶媒および極性溶媒は担体にアミノ酸およびまたはその塩が塗布され塗膜を形成した後には実質的に残留しない。(する必要がない。)なお、この場合の実質的に残留しないという意味は、担持体が保有している表面積に起因する物理吸着で残留する物は許容されるという意味である。例えば溶媒として水を用いた場合でも、担持体の吸着により担持体の素材や繊維径にもよるが、担持体1gあたり30から60mg程度(例えば30mgから40mg程度)の水が残留する。
【0045】
本発明においてはこのような吸着水の存在は許容される。吸着水は、それが存在する場合でも、水が過剰に存在して自由水として存在する場合に比較して微生物が利用し難く、微生物の繁殖の原因にはならない。本発明では、アルデヒド類を溶解する自由水は必要としないので、水の残存量は吸着水に相当する量にとどめるのが好ましい。
【0046】
本発明においては溶媒および極性溶媒の機能は上述の通りアミノ酸およびその塩の溶解にのみ機能する。そしてホルムアルデヒドの吸着機能については溶媒および極性溶媒の存在は不可欠の物ではない。
特に、水と他の極性溶媒(特に水溶性の極性溶媒)とを組みあわせる場合、他の極性溶媒の沸点は、比較的低い沸点、例えば、200℃以下(例えば、120〜190℃程度)、好ましくは150℃以下(例えば、100〜150℃程度)、さらに好ましくは80℃以下(例えば、0〜70℃程度)であってもよい。このような比較的低い沸点の極性溶媒としては、例えば、前記例示の中でもエチルアルコール、メチルアルコールなどが挙げられる。
他の極性溶媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよく、2種類以上の他の極性溶媒を組み合わせて用いる場合には、少なくとも一種の極性溶媒の沸点が上記範囲以下、特に好ましくは100℃以下であってもよい。このような比較的沸点が低く[さらに蒸気圧が低い(すなわち揮発し易い)]極性溶媒は乾燥工程の負荷を下げ、極性溶媒として水を用いていた場合に水の乾燥を容易のするので好ましい。
【0047】
一方、高沸点であったり、また蒸気圧が高い極性溶媒を水と混合して用いた場合には、結局保湿成分として作用し、揮発し難いため、好ましくない。
水と他の溶媒とを組みあわせる場合、水と他の溶媒または極性溶媒との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95、さらに好ましくは90/10〜10/90(例えば、85/15〜15/85)程度であってもよい。
本発明のたばこフィルター用素材において、極性溶媒(特に少なくとも水)の含有量(又は残存量)は、極性溶媒の種類に応じて選択でき、例えば、担体100重量部に対して、10mg以下、更に好ましくは5mg程度であってもよい。
【0048】
なお、セルロースフィルタートウなどの繊維表面積の比較的大きな繊維では、未置換のグルコース水酸基(の残基)による水素結合なども期待できるので、通常の製造工程を経過すると、吸着水などを保有しうる。
【0049】
(酸性成分)
前記たばこフィルター用素材は、さらに酸性成分で被覆処理されていてもよい。すなわち、前記アミノ酸または及びその塩溶液は、酸性成分を含んでいてもよい。このような酸性成分を使用すると、前記極性溶媒に対して非溶解性の(又は溶解性に乏しい)アミノ酸およびその塩であっても、効率よく極性溶媒に溶解できる。すなわち、前記アミノ基を有する多糖類が誘導体化され、極性溶媒(水など)に対する溶解性を有している場合には、酸性成分は必ずしも必要ではない。しかし、前記アミノ酸または及びその塩が、例えば水などの極性溶媒に対して非溶解性(又は難溶性)のアミノ酸である場合には、アミノ酸およびその塩と酸性成分とを組み合わせて担体を処理することが好ましい。
【0050】
本発明に用いる酸性成分としては、アミノ酸または及びその塩を極性溶媒に対して溶解可能(又は可溶)にする酸性成分であれば特に限定されず、酸基を有する成分、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸[脂肪族カルボン酸(例えば、酢酸などのアルカンカルボン酸など)、芳香族カルボン酸(安息香酸など)、ヒドロキシ酸など]などが挙げられる。酸性成分は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。なお、酸性成分としては、無臭又は低臭の成分を好適に用いることができる。
【0051】
ヒドロキシ酸としては、芳香族ヒドロキシ酸(例えば、サリチル酸、マンデル酸など)などであってもよいが、通常、脂肪族ヒドロキシ酸であってもよい。このような脂肪族ヒドロキシ酸としては、例えば、脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸類[モノ又はジヒドロキシモノカルボン酸(グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸などのモノ又はジヒドロキシC2-10アルカンモノカルボン酸、好ましくはモノ又はジヒドロキシC2-8アルカンモノカルボン酸、さらに好ましくはモノヒドロキシC2-6アルカンモノカルボン酸など)、脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸類(例えば、タルトロン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸などのモノ又はジヒドロキシC3-10アルカンジカルボン酸、好ましくはモノ又はジヒドロキシC4-8アルカンジカルボン酸など)などが挙げられる。ヒドロキシ酸は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
これらのヒドロキシ酸のうち、経口安全性、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)の選択除去性などの観点から、モノ又はジヒドロキシモノカルボン酸が好ましく、特に、モノヒドロキシC2-6アルカンモノカルボン酸(特に乳酸)が好ましい。
なお、不斉炭素原子を有するヒドロキシ酸(例えば、乳酸など)は、ラセミ体であってもよく、光学活性体であってもよい。
【0052】
また、たばこフィルター用素材において、酸性成分は残存する必要もなく、前記の溶媒と同様に乾燥工程で揮発するものであれば、より好ましい。この意味では極性溶媒と同様に低沸点でありかつ低蒸気圧の酸成分が好ましい。このような酸成分としては酢酸、蟻酸などが上げられる。本発明のアミノ酸およびその塩を溶解した溶液における酸性成分の含有量は、所望の濃度のアミノ酸及びまたはその塩の溶液を形成することができればよく、適宜設定することができる。
なお、たばこフィルター用素材は、さらに他の成分、例えば、可塑剤(トリアセチンなど)、無機微粉末(カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなど)、熱安定化剤(アルカリ又はアルカリ土類金属の塩など)、着色剤、白色度改善剤、油剤、歩留まり向上剤、サイズ剤、吸着剤(活性炭など)、生分解又は光分解促進剤(アナターゼ型酸化チタンなど)、天然高分子又はその誘導体(セルロース粉末など)などを含んでいてもよい。他の成分は、単独で又は2種以上組みあわせて使用できる。特に好ましくはチタンを含有することである。
【0053】
本発明のたばこフィルター用素材の形状は、フィラメントの集合体から成るものであれば特に限定されず、担体の形状に応じて、例えば、繊維状、毛状、織布状、不織布状、トウ状、シート状、などいずれの形状であってもよい。また、たばこフィルター用素材の形状は、フィルター状であってもよい。なお、これらの形状は、担体(すなわち、アミノ酸または及びその塩溶液の処理前の担体)が予め有していてもよく、被覆処理した担体(例えば、繊維状の担体、粒子状の担体など)を、慣用の方法(例えば、抄造など)により成形又は賦形してもよい。特に、たばこフィルター用素材は、前記のように、トウ状(又はトウ構造、特に繊維のトウ状)であるのが好ましい。
【0054】
[たばこフィルター用素材の製造方法]
本発明のたばこフィルター用素材は、担体を、少なくともアミノ酸または及びその塩および極性溶媒で被覆処理することにより得ることができ、通常、アミノ酸または及びその塩および極性溶媒(および必要に応じて酸性成分)を含む溶液(極性溶媒溶液、アミノ基を有する多糖類溶液)で処理(被覆処理)することにより製造できる。すなわち、本発明のたばこフィルター用素材は、通常、担体をアミノ酸または及びその塩溶液で処理し、少なくともアミノ酸または及びその塩(および必要に応じて酸性成分)を担体に含有させることにより得ることができる。
【0055】
(アミノ酸または及びその塩溶液)
アミノ酸または及びその塩溶液において、アミノ酸または及びその塩、極性溶媒、酸性成分(ヒドロキシ酸など)などの成分は、前記たばこフィルター用素材の項で例示した成分を利用できる。アミノ酸または及びその塩は溶解性が乏しい場合があり、その場合は酸性成分(ヒドロキシ酸など)との組合せにおいて、アミノ酸または及びその塩溶液において、可溶化してもより。
【0056】
アミノ酸または及びその塩溶液は、極性溶媒を必須成分として含んでいる。このような極性溶媒成分は、担体に対するアミノ酸または及びその塩溶液の処理を簡便にし、アミノ酸およびその塩を含む溶液を効率よく調整できる。また、極性溶媒は、アミノ酸または及びその塩溶液の処理条件(濃度など)と乾燥条件を調整することにより、前記のように、たばこフィルター用素材に極性溶媒や溶媒が残存しないようにすることができる。そして、アミノ酸または及びその塩は担体に含まれている官能基(特に好ましくはカルボキシル基)と相まって、アルデヒドの選択除去性能を一層向上できる。
【0057】
アミノ酸または及びその塩溶液において、アミノ酸または及びその塩の割合(濃度)は、)例えば、前記アミノ酸および又はその塩を含む溶液として、前記アミノ酸および又はその塩の濃度が2重量%以下、または1.5重量%以下、または0.5重量%以下、または0.4重量%以下、または0.2重量%以下、または0.01重量%以下のものを用いてもよい。濃度の下限としては0.001重量%以上であってもよい。濃度が低いほうが均一に被覆処理できる点で好ましくいが、乾燥工程の負荷が増大するため低すぎるのは好ましくない。好ましい様態としては0.5重量%から0.005重量%の溶液を用いることである。本発明ではアミノ酸の添着量が少なくとも充分な効果を発揮するので、前記アミノ酸および又はその塩を含む溶液の濃度は低くても構わない。
【0058】
また、前記アミノ酸または及びその塩溶液は、前記のように、酸性成分を含んでいてもよい。
なお、アミノ酸または及びその塩溶液の溶媒成分は、少なくとも前記極性溶媒で構成されていればよく、ホルムアルデヒドの選択除去性に支障がない限り、非極性溶媒(炭化水素類など)を含んでいてもよい。
【0059】
(担体の処理方法)
担体の処理方法(被覆処理方法)としては、担体の形状(繊維状、フィルター状など)や種類などに応じて適宜選択でき、担体とアミノ酸または及びその塩溶液とを接触させることができれば特に限定されず、例えば、(i)担体をアミノ酸または及びその塩溶液に浸漬(又は含浸、ディッピング)する方法、(ii)担体にアミノ酸または及びその塩溶液を噴霧又は散布(又は撒布)する方法、(iii)担体にアミノ酸または及びその塩溶液を塗布する方法などが挙げられる。これらの処理方法は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0060】
本発明のこのような処理方法は、たばこフィルタの既存の製造装置、特にセルロースアセテートフィラメントを用いたトウ構造のたばこフィルタの製造装置に導入することが容易であり、粉粒状のアミノ酸または及びその塩を添加する場合やアミノ酸または及びその塩の分散液を使用する方法などに比較して、たばこフィルター用素材やたばこフィルターから脱落しにくく、たばことして好ましい性質を有している。
【0061】
そして粒状物のアミノ酸または及びその塩する場合やアミノ酸または及びその塩の分散液を使用する方法では、担体に付着したアミノ酸または及びその塩は粒状物であり、これらの粒状物は前記担体をフィルタに加工した後のフィルタの通気抵抗を阻害する要因となる。特に、フィルタが前記のトウ構造を有している場合には、たばこ煙の通気方向はほぼフィラメントの軸方向となり、前記の通りフィルタの通気抵抗が小さい優れたたばこ煙用フィルタを作ることができるが、一方粒状物があると、この粒状物が通気を妨げ、通気抵抗を大きくする。
本発明のフィラメントに均一に塗膜を形成している形態であれば、この欠点を避けることができる。
【0062】
本発明のフィルタ素材の製造方法は公知の方法が適用できる。例えば、アミノ酸または及びその塩溶液をフィルタトウの紡糸工程で前記方法(噴霧、塗布、浸漬(ディッピング)など)の方法により担体に皮膜を形成してもよい。更には、フィルタトウバンドの集積梱包材(ベール)からトウバンドを巻きだし、フィルタロッドに成形する工程(巻き上げ工程)で噴霧、塗布、浸漬(ディッピング)等の方法により担体に皮膜を形成してもよい。また、製造されたトウの集束体(プラグ)に浸漬(ディピィング)などの方法により担体に皮膜を形成してもよい。
さらに、前記処理方法では、フィラメントの表面に均一又は均質な薄膜を形成できる。そのため、アミノ酸または及びその塩の比表面積を大きくすることができ、たばこフィルター用素材におけるアミノ酸または及びその塩の含有量が小さくても、粒状での添加に比較して、少量の添加量でホルムアルデヒドの除去性能を発揮することができ、またアミノ酸およびその塩の持つ物理的吸着の効果を抑制して喫味成分などの吸着されたくない成分の吸着を抑制でき、ホルムアルデヒドの選択除去性能を効率よく向上させることができる。
【0063】
詳細には、粒状のアミノ酸または及びその塩を多量に用いると、活性炭などと同様の物理吸着能が生じ、微小粒子であるタール、ニコチンあるいは喫味成分を除去してしまうが、アミノ酸及びまたはその塩を均一な皮膜にして、担体(フィルタートウなど)に被覆(添着)することにより、アミノ酸または及びその塩のもつ化学吸着能が効率よく発揮され、微小粒子であるタール、ニコチンあるは喫味に必要な香気成分の除去率が少ないまま、ホルムアルデヒド類を選択除去する性能が得られる。更に本発明は、通気抵抗を大きくしない。すなわち、本発明の前記処理方法では、均一な薄膜とすることの相乗的な効果により、より一層ホルムアルデヒドの選択除去能を向上できる。
【0064】
これらの方法のうち、担体をアミノ酸または及びその塩溶液を噴霧又は散布する方法(ii)が好ましい。このような方法では、特に、前記担体が繊維状物質(例えば、トウ構造の担体)である場合、担体(又は担体の浸漬部分)に対してアミノ酸または及びその塩および極性溶媒(およびヒドロキシ酸、さらには保湿成分などの他の成分)を簡便にかつ効率よく含有させることができる。
【0065】
アミノ酸または及びその塩溶液による処理は、担体の一部又は全部に対して行えばよい。すなわち、担体と前記アミノ酸または及びその塩溶液に接触させる場合は、前記担体の全面(全体)に対して接触させても良いし、一部分に接触させても良い。本発明においては、アミノ酸または及びその塩で被覆されていない担体は、フィルター材料として、本来好ましい素材の表面がそのまま露出することになるので、アルデヒド類の除去性能が目的を達していれば、特に問題は生じない。特に本発明の担体はフィラメントの集合体からなっているため、スプレー噴霧やローラでの転写などの方法で処理した場合には重なり合いやフィラメント間の空間の不足により処理できないフィラメント部が生じることもあるが、本発明の様態はその様な場合も含む。特に、トウ構造であれば、トウ構造のフィルタのフィルタプラグ成形過程(巻き上げ工程)において、トリアセチンなどのフィルタトウ常用の可塑剤の添加装置の一部として設置し、フィルタトウに添着することができる。この場合は、トウの全てがアミノ基を有する多糖類溶液に添着されている必要はない。また、浸漬する方法(i)では、少なくとも担体(又は担体の浸漬部分)の表面全体(好ましくは担体に浸漬部分の表面および内部全体)に対して処理を行ってもよい。
浸漬する方法(i)において、浸漬時間(又は処理時間)は、アミノ酸または及びその塩の含有の態様や含有量などに応じて選択でき、例えば、数秒以上(例えば、1秒〜24時間)、好ましくは30秒〜1時間、さらに好ましくは1〜30分程度であってもよく、工業的には、例えば、数秒(例えば、1〜3秒)以上であればよく、好ましくは1〜30秒、さらに好ましくは3〜15秒程度であってもよい。
【0066】
なお、アミノ酸または及びその塩溶液により処理された担体は、乾燥させる。このような乾燥により、溶媒成分などの揮発成分を除去できるとともに、溶媒成分(水など)のたばこフィルター用素材に対する含有量を調整し、吸着(水)以外の溶媒の残留を抑制できる。
乾燥は、必要な極性溶媒の残存量を得ることができるのであれば、どのような方法でもよく、自然乾燥又は風乾であってもよいが、通常、減圧可能な乾燥機(減圧乾燥機など)、熱風乾燥機などの乾燥機を使用して行うものでもよい。またトウフィラメントの製造工程でのオイリング工程などに共用してあるは隣接して設置して、フィラメントの製造工程での乾燥工程を利用して乾燥させる方法でも良い。またトウフィラメントをフィルタトウに巻き上げる工程で、乾燥を行っても良い。このような場合には熱風乾燥が好ましく用いられる。
【0067】
乾燥は、室温下(例えば、15〜25℃程度)で行ってもよく、加温下(例えば、40〜200℃、好ましくは45〜180℃、さらに好ましくは50〜150℃程度)で行ってもよい。また、乾燥は、常圧又は減圧下で行ってもよい。乾燥時間は、乾燥条件や極性溶媒の種類などにもよるが、極性溶媒をたばこフィルター素材に保持できる範囲で選択でき、例えば、1分以上(例えば、3分〜10時間)、好ましくは5分〜5時間(例えば、10分〜3時間)、さらに好ましくは20分〜2時間(例えば、30〜90分)程度であってもよい。なお、乾燥条件(温度、乾燥圧力、乾燥時間)は、極性溶媒の種類に応じて適宜選択できる。
【0068】
[たばこフィルターおよびたばこ]
本発明のたばこフィルター用素材は、たばこフィルターを構成するのに有用である。たばこフィルターは、前記たばこフィルター用素材の形態に応じて、本発明のたばこフィルタ用素材を単独で又は2種以上組みあわせて構成してもよく、本発明のたばこフィルタ用素材と他のたばこフィルター用素材[例えば、被覆処理されたたばこフィルター用素材と前記繊維状素材(被覆処理されていない繊維状素材など)など]とで構成してもよい。例えば、不織布構造のフィルターの場合は、本発明のたばこフィルター用素材と他のたばこフィルター用素材と組み合わせてフィルター材料となる不織布を構成してもよく、トウ構造のフィルタの場合であれば本発明のたばこフィルター用素材と他のたばこフィルター用素材と組みあわせて(すなわち処理されたトウと未処理のトウを混合したトウフィラメントを作成し)フィルタ巻き上げ機を用いてフィルタに成形することでもよい。
【0069】
また本発明のフィルター素材からなるフィルタと他のフィルタ素材からなるフィルタ(プラグ)を組み合わせて本発明のたばこを形成してもよい。このような様態としては、例えば、本発明のたばこフィルター用素材は、複数に分割(2分割、3分割など)された構造を有するたばこフィルターの少なくとも一つの分割部分を構成し(例えば、2分割されたフィルターの一方の部分、3分割されたフィルターの両端部分など)、他の分割部分(例えば、2分割のフィルターの他方の部分、3分割されたフィルターの中間部分など)を他のたばこフィルター用素材(例えば、活性炭などの粒状物質が充填されたフィルター素材など)で構成してもよい。
前記たばこフィルターは、担体又はフィルターの構造に応じて慣用の方法により成形できる。例えば、トウ構造のフィルタは、前記たばこフィルター用素材にトリアセチンなどの常用の可塑剤を添着し、所定の直径に集束し、巻紙で固定させるプラグ巻上げ機を用いてフィルタープラグとする方法により成形できる。また、非トウ構造のフィルターは、慣用の方法、例えば、(a)繊維状などのフィルター素材を、そのままフィルターロッド成形用金型に充填してフィルタープラグとする方法、(b)予め成形されたフィルタープラグの空間に前記フィルター素材を充填する方法などにより製造してもよい。
【0070】
本発明のたばこフィルターは、前記たばこフィルター用素材で構成されているため、ニコチンやタールなどの喫味成分を高いレベルで保持しつつ、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を効率よく除去できる。そのため、本発明には、前記たばこフィルター用素材でたばこフィルター(又はたばこ)を構成することにより、前記たばこフィルター(又はたばこ)を通過するたばこ煙中のアルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を低減する方法[詳細には、前記たばこフィルターを通過するたばこ煙中のニコチンおよびタールを保持しつつ、アルデヒド類(特に、ホルムアルデヒド)を低減する方法]も含まれる。
【0071】
例えば、前記たばこフィルターのホルムアルデヒド除去率(重量換算)は、10%以上(例えば10〜95%)の範囲から選択でき、例えば、50%以上(例えば、50〜95%)、好ましくは60%以上(例えば、60〜95%)、さらに好ましくは70%以上(例えば、70〜95%)、程度であり、高いレベルでホルムアルデヒドを除去できる。
また、前記たばこフィルターのニコチン保持率(重量換算)およびタール保持率(重量換算)は、それぞれ、60%以上(例えば、65〜100%)、好ましくは70%以上(例えば、75〜99%)、さらに好ましくは80%以上(例えば、85〜98%)程度である。
特に、前記たばこフィルターのニコチン保持率(重量換算)は、60%以上(例えば、65〜100%)の範囲から選択でき、例えば、70%以上(例えば、75〜99%)、好ましくは80%以上(例えば、82〜98%)、さらに好ましくは85%以上(例えば、88〜95%)程度である。また、前記たばこフィルターのタール保持率(重量換算)は、65%以上(例えば、70〜100%)の範囲から選択でき、例えば、75%以上(例えば、78〜99.9%)、好ましくは85%以上(例えば、88〜99.5%)、さらに好ましくは90%以上(例えば、92〜99%)程度である。
【0072】
なお、前記保持率(、ニコチン保持率、タール保持率)とは、処理前のたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターを通過するたばこ煙中のニコチン量又はタール量を基準として測定できる。すなわち、前記「保持率」とは、前記処理されていないたばこフィルター用素材(又は前記処理前のたばこフィルター用素材)で構成されたたばこフィルターを所定の条件(流量、時間、回数など)において通過するたばこ煙中のニコチン量又はタール量をTn、TtXとし、このニコチン量又はタール量Xと同一の条件(流量、時間、回数など)において、前記処理されているたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターを通過するたばこ煙中のニコチン量又はタール量をCn、CtYとするとき、下記式で表される。
ニコチン保持率(%)=(Cn/Tn)×100
タール保持率(%)=(Ct/Tt)×100
またホルムアルデヒドは除去率で示すことができ、前式と同様に処理前のたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターを通過するたばこ煙中のホルムアルデヒド量を基準として測定できる。すなわち、前記「保持率」とは、前記処理されていないたばこフィルター用素材(又は前記処理前のたばこフィルター用素材)で構成されたたばこフィルターを所定の条件(流量、時間、回数など)において通過するたばこ煙中のホルムアルデヒド量をCfとし、このホルムアルデヒド量Cfと同一の条件(流量、時間、回数など)において、前記処理されているたばこフィルター用素材で構成されたたばこフィルターを通過するたばこ煙中のホルムアルデヒド量をTfとするとき、下記式で表される。
除去率((%)=(1−Cf/Tf)×100
また、本発明では、通常、アミノ酸または及びその塩を含む溶液で処理した担体を使用するので、たばこフィルターの通気抵抗を増大させることなく、たばこフィルター内に組み込むことができる。そのため、本発明のたばこフィルターは、たばこ煙用に適した通気性を有しており、たばこフィルターの通気抵抗は、長さ120mm、円周24.5±0.2mmのたばこフィルターを、流量17.5ml/秒で空気を通過させたときの圧力損失で測定したとき、150〜600mmWG(ウォーターゲージ)の範囲から選択でき、例えば、180〜500mmWG、好ましくは200〜450mmWG(例えば、220〜400mmWG)、さらに好ましくは250〜380mmWG程度であってもよい。
【0073】
また、本発明のたばこは、前記たばこフィルター(又はたばこフィルター用素材)を備えている。たばこフィルターの配設部位は特に制限されないが、巻紙により、棒状に成形されたたばこにおいては、口元の部位、又は口元と紙巻きタバコとの間に配設する場合が多い。なお、たばこの断面外周は、前記フィルターの断面外周に対応している場合が多く、通常、15〜30mm、好ましくは17〜27mm程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のたばこフィルター用素材は、たばこフィルター(およびたばこ)を構成するのに有用である。このような本発明のたばこフィルター(およびたばこ)では、喫煙時において、ニコチン、タールなどの喫味成分を保持しつつ、適度な通気抵抗も保持できるので、喫味(香喫味)、さらには喫煙の満足感を損なうことがなく、人体に有害なホルムアルデヒドなどのアルデヒド類を選択的に除去できる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において各特性(通気抵抗、ニコチン量、タール量、ホルムアルデヒド量、アミノ酸添着量、水分量)は、市販のたばこ[ピース・ライト・ボックス(登録商標第2122839号)(日本たばこ産業株式会社製)]を用いて、下記の方法により測定した。尚、下記の特性の測定は特に断らない限り22℃×60%RHの条件で測定を行った。
【0076】
[通気抵抗]
上記のたばこ[ピース・ライト・ボックス(登録商標第2122839号)(日本たばこ産業株式会社製)]の通気抵抗を直接、たばこ葉の部分を含むたばこ煙用フィルタサンプルを用いて測定した。このサンプルにおいて、フィルタ部分の長さは25mm、円周は約25mmであった。通気抵抗は、たばこ煙用フィルタサンプル内に、流量17.5ml/秒で空気を通過させたときの圧力損失(mmWG)を、自動通気抵抗測定器(フィルトローナ社製、FTS300)を用いて測定した。
ニコチン、タール保持率およびホルムアルデヒド除去率の測定に使用したたばこサンプル全体の通気抵抗から、上記たばこからフィルター部分を14mm切断除去した残りの部分の通気抵抗(110mmWG)を引いた差に係数8.6(120mm/14mm)を乗じて、各フィルターサンプルのフィルターロッド長120mm当りの通気抵抗とした。すなわち観測された通気抵抗値から以下の式でフィルターの通気抵抗を求めた。
フィルターの通気抵抗(mmWG)=(測定された通気抵抗値−110)×8.6
【0077】
[ニコチン、タール保持率]
たばこ煙用フィルタサンプルを用い、ピストンタイプの定容量型自動喫煙器(ボルグワルド社製RM20/CS)により、流量17.5ml/秒で喫煙時間2秒/回、喫煙頻度1回/分の条件で喫煙を行った。フィルタを通過した煙中のニコチン及びタールはガラス繊維製フィルタ(ケンブリッジフィルタ)で捕集し、ニコチン量はガスクロマトグラフ((株)日立製作所製G−3000)を用いて測定した。
タール量は重量法により測定を行った。
対照品のケンブリッジフィルタに付着したニコチン量およびタール量をTn、Ttとし、比較例及び実施例でケンブリッジフィルタに付着したニコチン量およびタール量をCn、Ctとして次式によりニコチン及びタールの保持率を算出した。
ニコチン保持率(%)=100×Cn/Tn
タール保持率(%)=100×Ct/Tt
【0078】
[ホルムアルデヒド除去率]
たばこ煙用フィルタサンプルを用い、ピストンタイプの定容量型自動喫煙器(ボルグワルド社製RM20/CS)により、流量17.5ml/秒で喫煙時間2秒/回、喫煙頻度1回/分の条件で喫煙を行った。フィルタを通過した煙中のホルムアルデヒドは、DNPH(ジニトロフェニルヒドラジン)溶液で捕集し、DNPHで誘導体化した上でガスクロマトグラフ((株)日立製作所製G−3000)を用いてUV(紫外線)の吸光度を用い測定した。
対照品で捕集されたホルムアルデヒド量Tfとし、下記の比較例及び実施例で捕集したホルムアルデヒド量をCfとして次式によりホルムアルデヒド除去率を算出した。
ホルムアルデヒド除去率(%)=100×(1−Cf/Tf)
【0079】
[アミノ酸および又はその塩の添着量]
アミノ酸類の水溶液に浸漬する前のサンプル重量(Wb)を測定する。そして、アミノ酸水溶液に浸漬後アミノ酸類の水溶液を含んだサンプルの重量(Wa)を測定する。これらの差により、フィルターチップサンプルが吸収したアミノ酸類の水溶液の重量が求められる。得られたアミノ酸水溶液の重量とアミノ酸水溶液の濃度(C)(%)の積をアミノ酸および又はその塩の添着量(A)とする。具体的には下式で示される。
アミノ酸および又はその塩の添着量(A)=(Wb−Wa)×C/100
比較例においては、粉体の添加量をアミノ酸の添着量とした。
【0080】
[水分量]
アミノ酸類を添加したサンプル(アミノ酸の水溶液を浸漬したサンプルあるはアミノ酸の粉末とグリセリンを添加したサンプル)を18℃で真空乾燥する。真空乾燥中に秤量し、恒量(重量変化が重量測定の誤差範囲内)となるまで真空乾燥を行う。(例えば8時間30分間)
乾燥終了後のサンプルの重量(Da)を測定する。次に、得られたサンプルを22℃・60RH%の条件の恒温恒湿室に保管して、経時的に重量の秤量を行う。恒量となった時点のサンプル重量(Db)を測定する。水分量(W)は下式で求められる。
水分量(W)=(Db−Da)
【0081】
[担持体1gあたりのアミノ酸および又はその塩の添着量/水分量]
上記の式により恒量となった時点のサンプル重量(Db)が求まるので、即ち平行水分に達した状態でのサンプル重量が求まることになる。したがって「担持体1gあたりのアミノ酸および又はその塩の添着量(M)」は下式で求められる。尚、
担持体1gあたりのアミノ酸および又はその塩の添着量(M)=A/Db
同様に「担持体1gあたりの水分量(N)」は下式で求められる。
担持体1gあたりの水分量(N)=W/Db
【0082】
(実施例1から9)
アミノ酸またはその塩溶液の調整
表1に記載のアミノ酸およびアミノ酸塩を、溶媒(極性溶媒)として水を用いて溶解し、表1に記載の各濃度のアミノ酸またはアミノ酸塩水溶液を作成した。尚、使用したアミノ酸は全て和光純薬株式会社が製造した特級試薬を用いた。
【表1】

市販の煙草[ピース・ライト・ボックス(登録商標第2122839号)(日本たばこ産業株式会社製)]のセルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルタ本体(25mm)の末端から14mmの部分をカミソリで切断した。切断した長片すなわち、タバコ葉充填片のフィルター部に長20mm内径8mmのガラス管を残フィルター長に相当する長さ(11mm)だけ挿入し、これらをシーリングテープにて結束した。
【0083】
切断した短片すなわち14mmのフィルタ部を秤量しWbを求めた。アミノ酸またはその塩水溶液として表1に記載の各アミノ酸類水溶液に10分間浸漬した。浸漬後のフィルター部を秤量しWaを求めた。このサンプルを真空乾燥機に入れ、温度18℃で8時間30分間真空乾燥させた。
乾燥後の重量を秤量し乾燥終了後ののサンプル重量、すなわちDaを求めた。そして、これらのサンプルを22℃×60%RHの空調室に保管し、48時間調湿し、チップに含有する水分量が平衝状態とし、その重量を秤量しDbを求めた。
上記の計算式に基づき得られた、担持体1g当たりのアミノ酸添着量(M)と水分量(N)を表2に記載する。
【0084】
乾燥後の14mmのフィルタ部を用いて、前記ガラス管によって生じた9mmの空間に栓をした。そして、このガラス管とフィルタの接続部分にもシーリングテープを巻いて密閉した。したがって、セルロースジアセテート捲縮繊維トウのフィルタの長さとしては、25mmとなる。
このたばこ煙用フィルタサンプルについて上記の通気抵抗、ニコチン、タール量、ホルムアルデヒド量の測定を行った。得られたサンプルのニコチン保持率、タール保持率、ホルムアルデヒド除去率、通気抵抗を表2に記載する。
なお、ニコチン、タール及びホルムアルデヒド除去率を評価するための対照品としては、切断した14mmのフィルタ短片に何も処理をしないで使用する以外は、上記方法と同様にして作製したものを用いた。
【表2】

【0085】
(比較例1から2および実施例10)
比較例1と2ではアミノ酸と保湿剤と水の組み合わせ、あるいはアミノ酸と水を添加した系を試験した。これは臭気のみを官能試験した。また上記と同じ方法を用いてアミノ酸、保湿剤の添着量、水分量を求めた。
【0086】
比較例1
フィラメントデニール2.2、トータルデニール40,000のセルロースジアセテート倦縮繊維トウ(ダイセル化学工業株式会社製)を用意してこれをフィルター用自動巻き上げ機で巻き上げた。可塑剤としてトリアセチンを用いた。フィルター用自動巻き上げ機のチャコール(活性炭)添加装置を用いて、L−アルギニン粉末をセルロースアセテート繊維1g当たり18.2mgとなるようにチャコール散布機で均一に散布した。通常の方法でフィルタープラグに巻き上げ、巻き上げサイズ、長さ100mm、外径8mmのたばこフィルタロッドを得た。これを長さ方向に4等分し、長さ25mmのフィルターチップを得た。この25mmのセルロースアセテートからなるフィルタープラグに保湿剤としてグリセリンを18mg含有させた。このチップを予め22℃・60%RHの空調室に保管し、48時間調湿した。チップ当たりのL−アルギニンの含有量は3.5mgとなる。これらのチップの一部は水分量を測定するために用いた。水分量は13mgであった。次に同じ方法で調整した別のサンプルを秤量瓶に密閉し、2週間22℃・60%RHの空調室に保管し、保管試験を行った。2週間後秤量瓶を開封し中の臭気を官能試験で確認した結果を表3に記す。
【0087】
比較例2
比較例1と同様の試験を行った。但し、サンプルはL−アルギニンと水を含有させたものとし、グリセリンは添加しなかった。L−アルギニンの含有量は3.5mgとした。保管試験前に水を添加した、添加する水は13mgとした。この比較例においては、真空乾燥前後での重量変化量を水分量とした。結果を表3に記す。
【0088】
実施例10
比較例1および2と同様の試験を行った。但し、アミノ酸の添加は実施例8と同様の方法に従い、サンプルは実施例8と同様に乾燥、調湿後秤量瓶に密封し保管試験を行うと共に水分量を測定した。結果を表3に記す。
【表3】

【0089】
上記の実施例および比較例の対比の通り、本発明のものはホルムアルデヒドの除去性能に優れると共にニコチン保持率およびタール保持率の何れもが優れる。また特に水分を添加することや保湿剤を添加することなく優れたアルデヒド類の除去性能を示す。またアミノ酸の添加量が少ない場合でも十分なアルデヒド類の除去性能を示すと共に、酸性アミノ酸や中性アミノ酸であっても効果を示すため、グルタミン酸ナトリウムのような工業的に多量に製造されている安価なアミノ酸を使用することもできる。そして、余剰の水分を保有しなくてもアルデヒド類の除去性能を示すため、細菌類の繁殖に伴う異臭の問題を避けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントの集合体からなる担体の少なくとも一部が、アミノ酸または及びその塩で被覆処理されているたばこフィルター用素材。
【請求項2】
フィラメントの集合体からなる担体が、担持体1gに対して0.05mg以上でかつ100mg以下の量のアミノ酸または及びその塩で被覆処理されており、該被覆処理された担持体の水分量が被覆処理後の担持体1gに対して7mg以上でかつ85mg以下であるたばこフィルター用素材。
【請求項3】
少なくともその構成体の一部に請求項1記載のたばこフィルター用素材を用いたたばこフィルタ。
【請求項4】
アミノ酸または及びその塩の量が0.5mg以上でかつ15mg以下であり、アミノ酸または及びその塩が酸性または中性アミノ酸または及びその塩である請求項1記載のたばこフィルター用素材。
【請求項5】
該被覆処理された担持体の水分量が被覆処理後の担持体1gに対して7mg以上でかつ50mg以下である請求項1記載のたばこフィルター用素材。
【請求項6】
塩基性アミノ酸または及びその塩がグリシンまたはグルタミン酸またはその塩である請求項1記載のたばこフィルター用素材。
【請求項7】
アミノ酸または及びその塩の量が0.5mg以上でかつ10mg以下である請求項4記載のたばこフィルター用素材。
【請求項8】
担体が、セルロースアセテートからなるフィラメントである請求項1記載のたばこフィルター用素材。
【請求項9】
担体を、アミノ酸および又はその塩と極性溶媒を少なくとも含む溶液で処理する請求項1記載のたばこフィルター用素材の製造方法。
【請求項10】
請求項3に記載のたばこフィルターを備えたたばこ。

【公開番号】特開2007−319041(P2007−319041A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150499(P2006−150499)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】