説明

ちくわぶ用穀粉組成物およびこれを用いたちくわぶの製造方法

【課題】屋台やコンビニの店頭で長時間煮込んでも、またレトルト処理後包装袋中でだし汁に長期間浸かった状態においても、茹でどけやだし汁の濁りを生じない、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有するちくわぶを得ることができる、ちくわぶ用穀粉組成物およびちくわぶの製造方法を提供すること。
【解決手段】ちくわぶ用穀粉組成物に、小麦グルテン25〜35質量%、リン酸架橋澱粉45〜65質量%および小麦粉5〜30質量%を含有させる。該ちくわぶ用穀粉組成物に加水し、ミキシングして生地を得る工程、および、得られた生地を成型して蒸し処理する工程を経ることにより、ちくわぶを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ちくわぶ用穀粉組成物およびこれを用いたちくわぶの製造方法に関する。詳細には、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有する、特定の配合のちくわぶ用穀粉組成物、およびこれを用いるちくわぶの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、おでんは、屋台やコンビニエンスストアの店頭において提供されたり、あるいはレトルト食品として提供されることが多くなっている。しかし、屋台やコンビニエンスストアの店頭ではだし汁(つゆ)の中で長時間煮込まれることが多く、おでんの具材(おでん種)が形崩れせず、しかも具材とだし汁の見栄えのよさが求められるため、具材の茹でどけやだし汁の濁りを防止する必要がある。また、レトルト包装されたおでんでは、具材はだし汁と共に密封包装された後、高温で加圧殺菌処理され、さらにレトルト包装状態で長期間保持されるため、具材の茹でどけやだし汁の濁りが生じやすく、このような具材の茹でどけやだし汁の濁りは商品価値を著しく低下させることになる。
【0003】
このため、具材の茹でどけやだし汁の濁りを防止する目的で、様々な技術が提案されている。例えば、薩摩揚げやちくわなどの主に魚肉練り製品にグリシンおよびシスチンを配合して弾力性を増強させることが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、ちくわぶは、それ自体に味がないため、煮込んで味を付けて食べることが多く、特におでん種として用いられる。ちくわぶは、小麦粉に水と塩を加えて混捏した後、棒などに巻きつけ成形し、ついで湯煎または蒸煮して製造される。しかしながら、このように製造したちくわぶは、主に小麦粉で作られているため、長時間、だし汁中で煮込むとちくわぶが茹でどけして、「だし汁」が濁ってしまうという問題があった。また、このように製造したちくわぶを適量の水または調味液とともに包装袋に入れ真空包装して加熱殺菌処理することで、日持ちし、かつ加熱するだけで喫食可能なちくわぶの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、依然として加熱殺菌処理による具材の茹でどけが解消せず、しかも店頭などで、おでんの具材としてちくわぶを提供する場合には再度煮込む等の加温をしなければならず、茹でどけやだし汁の濁りはさらに大きなものとなるという問題があった。
【0005】
斯かる問題を解決する方法として、有機脂肪酸エステル、イオン性高分子多糖類およびカルシウム塩を配合することが提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法は、効果として十分とはいえず、さらに、有機脂肪酸エステルに起因する呈味性の問題だけでなく、有機脂肪酸エステルが乳化剤に該当することから、乳化剤などの添加物の使用を避ける最近の傾向に合わないという点からも十分とはいえない。
【0006】
また、塩摺り魚肉のスリ身と澱粉を特定の割合で配合し、含気させることで、茹でどけやだし汁の濁りを防止することが提案されている(特許文献4参照)が、効果として十分とはいえず、しかも呈味性や食感等の点で、もはや小麦粉食品といえるものではない。
【0007】
このため、例えば特許文献5に提案されているように、具材(おでん種)としてのちくわぶをだし汁で味付けした後、だし汁とは別にレトルト包装し、コンビニエンスストアなどの店頭でおでんとして提供する際にだし汁に入れて煮込む他に、手段がなかった。しかし、この手段も、店頭で提供中に茹でどけやだし汁の濁りを防止するという点では十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−70430号公報
【特許文献2】特公平3−42067号公報
【特許文献3】特開2004−97181号公報
【特許文献4】特開2007−60952号公報
【特許文献5】特開2003−235525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、屋台やコンビニエンスストアの店頭において、具材をだし汁中で長時間煮込んでも、また、レトルト食品として、具材をだし汁とともに高温で加圧殺菌処理した後、レトルト包装袋の中にだし汁に長期間浸かった状態においても、茹でどけやだし汁の濁りを生じない、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有するちくわぶを得ることを目的とし、このような目的を達成するためのちくわぶ用穀粉組成物およびちくわぶの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、検討した結果、小麦粉、特定の加工澱粉および小麦グルテンを特定割合で配合した穀粉組成物を用いてちくわぶを製造すると、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有するちくわぶを得ることができ、茹でどけやだし汁の濁りを防止し得ることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)に関する。
【0012】
(1)小麦グルテン25〜35質量%、リン酸架橋澱粉45〜65質量%および小麦粉5〜30質量%を含むことを特徴とする、ちくわぶ用穀粉組成物。
(2)リン酸架橋澱粉として、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量%およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量%を含む、前記(1)記載のちくわぶ用穀粉組成物。
(3)前記(1)または(2)のちくわぶ用穀粉組成物に加水し、ミキシングして生地を得る工程、および、得られた生地を成型して蒸し処理する工程を含む、ちくわぶの製造方法。
(4)さらに、ちくわぶを包材で包装し密封して、レトルト処理する工程を含む、前記(3)記載のちくわぶの製造方法。
(5)前記(3)または(4)記載の製造方法により得られるちくわぶ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、屋台やコンビニエンスストアの店頭において、具材をだし汁中で長時間煮込んでも、また、レトルト食品として、具材をだし汁とともに高温で加圧殺菌処理した後、レトルト包装袋の中にだし汁に長期間浸かった状態においても、茹でどけやだし汁の濁りを生じない、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有し、しかもちくわぶ本来の良好な食感を有するちくわぶを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
a)本発明のちくわぶ用穀粉組成物について
本発明のちくわぶ用穀粉組成物は、小麦グルテン25〜35質量%、リン酸架橋澱粉45〜65質量%、小麦粉5〜30質量%を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のちくわぶ用穀粉組成物においては、小麦グルテン25〜35質量%(乾物換算)を配合する。ここで用いる小麦グルテンとしては、市販されているものを用いることができる。小麦グルテンの量が25質量%未満であると生地のつながりが悪くなり、長時間煮込んだり、レトルト処理することにより食感が脆くなり、35質量%を超えると製造時の作業性が低下し、硬い食感となり、なめらかさも低下するため好ましくない。
【0016】
また、本発明のちくわぶ用穀粉組成物においては、リン酸架橋澱粉45〜65質量%、好ましくは50〜65質量%を配合する。リン酸架橋澱粉としては、特に限定されないが、リン酸架橋馬鈴薯澱粉、リン酸架橋タピオカ澱粉が好ましく、特にリン酸架橋馬鈴薯澱粉単独か、リン酸架橋馬鈴薯澱粉とリン酸架橋タピオカ澱粉の組み合わせが好ましい。すなわち、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量%およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量%であるのが好ましく、リン酸架橋馬鈴薯澱粉とリン酸架橋タピオカ澱粉を組み合わせる場合には、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜55質量%およびリン酸架橋タピオカ澱粉10〜30質量%を配合するのがより好ましい。リン酸架橋澱粉の量が45質量%未満であると硬い食感となり、なめらかさも低下し、65質量%を超えると脆く軟らかい食感となるため好ましくない。なお、リン酸架橋澱粉としては、さらに化工処理を施したリン酸架橋澱粉、具体的にはエステル化リン酸架橋澱粉、例えばアセチル化リン酸架橋澱粉、エーテル化リン酸架橋澱粉、例えばヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等を使用することができる。また、リン酸架橋馬鈴薯澱粉およびリン酸架橋タピオカ澱粉ほかに、リン酸架橋小麦澱粉、リン酸架橋コーンスターチ等を使用することもできる。
【0017】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸架橋澱粉以外の澱粉を配合してもよい。例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉およびこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理等の処理を施した化工澱粉等を配合してもよい。これらの澱粉を配合する場合、その配合量は、ちくわぶ用穀粉組成物中で10質量%未満の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のちくわぶ用穀粉組成物においては、小麦粉5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%を配合する。小麦粉としては特に限定されないが、中力粉、強力粉が好ましい。小麦粉の量が5質量%未満であると食味の点で十分とはいえず、また食感の点で滑らかさも低下し、30質量%を超えるとレトルト処理や長時間煮ることで茹でどけが生じ、だし汁も濁ってしまうため好ましくない。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、小麦粉以外の穀粉、例えば大麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー等や、大豆粉等を添加してもよい。この場合、これらの配合量は、その種類によって異なるが、ちくわぶ用穀粉組成物中で10質量%未満の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明のちくわぶ用穀粉組成物には、副資材として、食塩;卵白粉、全卵粉等の卵粉;キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸およびその塩、寒天、ゼラチン、ペクチン等の増粘剤;油脂類;エチルアルコール等を配合することもできる。
【0021】
b)本発明のちくわぶ用穀粉組成物を用いたちくわぶの製造方法について
まず、本発明のちくわぶ用穀粉組成物に加水した後にミキシングして生地を得る。加水量は、本発明のちくわぶ用穀粉組成物100質量部に対して、好ましくは30〜50質量部、さらに好ましくは35〜45質量部の範囲である。加水量が30質量部未満であると生地が硬く作業性が低下することがあり、50質量部を超えると生地がべたつき、また弱くなる可能性がある。ミキシングは、常法に従って行えばよいが、ミキシング時間は、通常は5〜20分間程度である。
【0022】
次に、得られた生地を成型した後、蒸し処理を行う。蒸し処理は、常法に従って行えばよく、生地中のグルテンが十分に変性し、且つ含まれる澱粉が十分にα化する条件であれば特に限定されないが、通常、85〜110℃、好ましくは90〜105℃の温度にて飽和水蒸気により5〜30分間、好ましくは5〜20分間蒸し処理を行うとよい。蒸し処理が不十分であると、脆い食感となり、また茹でどけも生じやすくなり、過度に行うと製造時間とコストがかかるだけでなく、食感も硬くなる可能性がある。この蒸し処理の代わりに茹で処理を行うと、食感が低下し、さらに茹でどけ、だし汁の濁りが起こりやすく、好ましくない。また、この蒸し処理は、本発明のちくわぶ用穀粉組成物を用いたときに、はじめてその効果が出るのであって、通常の小麦粉を用いて蒸し処理を行っても、長時間の煮込み耐性やレトルト耐性を有するちくわぶを得ることができない。
【0023】
このようにして得られたちくわぶは、長時間煮込んだり、だし汁中で長時間おいても、食感が低下しないばかりでなく、茹でどけせず、だし汁が濁ることもない長時間の煮込み耐性を有するちくわぶを得ることができる。
【0024】
また、得られたちくわぶは、それ単独または他の具材(おでん種)と一緒に容器に入れ、さらにだし汁を加えて密封した後、常法に従ってレトルト処理または加熱殺菌処理を行ってレトルト包装袋の中にだし汁とともに長時間保持されても、食感が低下しないばかりでなく、茹でどけせず、だし汁が濁ることもないレトルト耐性を有するちくわぶを得ることができ、レトルトおでんや、おでん缶詰とすることができる。このように、本発明のちくわぶは、それ自体をおでん種として流通させてもよいが、だし汁と一緒に包材で包装して密封して、レトルトおでんや、おでん缶詰としても流通させることができる。
【実施例】
【0025】
本発明を具体的に説明するために実施例等を挙げるが、本発明は以下の実施例等によって制限されるものではない。
【0026】
〔実施例1〜9および比較例1〜8〕
小麦グルテン、リン酸架橋澱粉および小麦粉(3成分の合計で100質量部;表1参照)、ならびにグァーガム0.5質量部および95%エチルアルコール1質量部を配合して、ちくわぶ用穀粉組成物を得た。
得られたちくわぶ用穀粉組成物に水42質量部を加え、−760mmHgにて10分間ミキシングして生地を得た。得られた生地をちくわぶ状に成型した後、約100℃にて5分間、飽和水蒸気による蒸し処理を行ってちくわぶを得た。得られたちくわぶの質量は、蒸し処理前の生地を基準として125質量%であった。
得られたちくわぶ50gおよびだし汁200gをレトルト包材で包装し密封した後、125℃にて25分間、常法によるレトルト処理を行った。
レトルト処理から常温にて30日間保存した後のちくわぶについて、だし汁の濁り、滑らかさおよび食感を、表2に示す評価基準表に従ってパネラー10人で評価した。それらの評価の平均点を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1から明らかなように、小麦粉のみを使用した通常のちくわぶは、滑らかさは良好であるが、だし汁の濁りが著しく、粘弾性も不適である(比較例1)。また、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉および小麦粉を使用しても、それぞれの成分を本発明で規定する特定の割合で使用しなければ、だし汁の濁り、食感として滑らかさおよび粘弾性の全てを良好にすることはできない(比較例2〜8)。
これに対し、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉および小麦粉を特定の割合で使用すると、だし汁の濁り、食感として滑らかさおよび粘弾性の全てをバランス良く向上させることができる(実施例1〜9)。
【0030】
〔実施例10〜11〕
蒸し処理の時間を表3に記載の通りとした以外は、実施例1と同様にして、ちくわぶを製造し、得られたちくわぶをレトルト処理し、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0031】
〔比較例9〜12〕
蒸し処理に代えて茹で処理を行った(茹で時間は表3参照)以外は、実施例1と同様にして、ちくわぶを製造し、得られたちくわぶをレトルト処理し、その評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
本発明のちくわぶ用穀粉組成物を用いて蒸し処理を経てちくわぶを製造すると、だし汁の濁りがなく、粘弾性も良好であった(実施例1、10、11)が、茹で処理を経てちくわぶを製造すると、だし汁の濁りが発生しやすく、粘弾性も蒸し処理の場合に比べて劣っていた(比較例10〜12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦グルテン25〜35質量%、リン酸架橋澱粉45〜65質量%および小麦粉5〜30質量%を含むことを特徴とする、ちくわぶ用穀粉組成物。
【請求項2】
リン酸架橋澱粉として、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量%およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量%を含む、請求項1記載のちくわぶ用穀粉組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のちくわぶ用穀粉組成物に加水し、ミキシングして生地を得る工程、および、得られた生地を成型して蒸し処理する工程を含む、ちくわぶの製造方法。
【請求項4】
さらに、ちくわぶを包材で包装し密封して、レトルト処理する工程を含む、請求項3記載のちくわぶの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の製造方法により得られるちくわぶ。

【公開番号】特開2010−252716(P2010−252716A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107897(P2009−107897)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】