説明

なし地状表面構造およびなし地状表面構造の製造方法

【課題】金型鋳造法によって成型された構造物の表面に、砂型鋳造法によって成形された構造物の意匠面を模した独特な鈍い金属光沢を放つ表面構造を、簡易に形成できるなし地状表面構造およびその製造方法を提案する。
【解決手段】なし地状表面構造1は、構造物3を構成し、表面4に凹凸5が形成された基材6と、凹凸5が形成された基材6の表面4に形成され、所望につや消しされた透明または半透明なコート層7とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型鋳造法によって成形された構造物の表面構造、特に、表面に凹凸が成形されたなし地状表面構造およびなし地状表面構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好が多様化し、例えば自動二輪車業界では、レース専用の車両を模した市販車両が好まれる傾向がある。
【0003】
このレース専用の自動二輪車に備えられたエンジンの多くは、アルミニウム合金またはマグネシウム合金を材料とし、砂型鋳造法によって成型されたシリンダ・ブロック、シリンダ・ヘッド、クランクケースなどによって構成される。すなわち、レース専用の自動二輪車に備えられたエンジンの外観面、意匠面は、砂型鋳造法によって成型されたなし地仕上げを呈し、独特な鈍い金属光沢を放ち、沈んだねずみ色の外観になる。
【0004】
他方、一般に市販用の自動二輪車に備えられたエンジンは、アルミニウム合金またはマグネシウム合金を材料とし、大量生産に適したダイカスト法によってと成型されたシリンダ・ブロック、シリンダ・ヘッド、クランクケースなどによって構成される。
【0005】
ダイカスト法によって成型された構造物の素地は、平坦でつやがあり、また湯流れ模様が見られることもあり、レース専用の自動二輪車に備えられたエンジンを構成する構造物の外観とは異なる。
【0006】
そこで、ダイカスト法などの金型鋳造法によって鋳造された従来の構造物の表面構造では、基材の素地を研磨して鏡面状で反射率の高い金属光沢を得たのち透明な艶のある塗料で塗装したり、シルバー塗装や黒色塗装などの不透明な塗料で着色したりしていた。
【0007】
また、ダイカスト法などの金型鋳造法によって鋳造された従来の構造物の素地には、鋳造の際に生じるバリの除去のため、あるいは不透明な着色塗装の密着性を向上させるためにショットブラストが行われていた。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の表面構造では、金属材料などの基材の表面に、基材表面に近い方から順に、下地層と、光輝性粉末材料と樹脂成分とを含む光輝層と、金属を含むドライプレーティング層と、トップコート層とを形成し、ドライプレーティング層での鏡面反射光と光輝層での散乱反射光とが観察されるようにすることで、金属光沢となし地感が得られ、奥行き感のある落ち着いた印象のなし地状光輝性外観を得る。
【特許文献1】特開2006−35160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の表面構造では、なし地状光輝性外観を得るために多層の表面構造を必要とし、生産性が悪く安価な大量生産品には不向きである。また、ダイカスト法によって成型された構造物の素地を研磨したり不透明な塗料で着色したりしてもなし地状の外観を得ることはできない。さらに、ショットブラストが行われた構造物の素地は、金属光沢を有する凹凸な表面に形成され、つやの消えたなし地状の外観にはならない。
【0010】
ここで、自動二輪車の市場では、レースにおいて活躍した専用車両を模した市販車両が好まれる傾向がある。また、二輪自動車では、エンジン部分の外観が車両全体の外観に与える影響が大きい。
【0011】
すなわち、市販車両のエンジン部を構成するダイカスト法によって成型された構造物の外観は、市販車両の全体の外観に与える影響が大きく、その外観が砂型鋳造法によって成型された構造物の外観と大きく異なると、市販車両の全体の外観はレース専用車両の外観を十分に再現できず、大きく異なった印象を消費者に与えることになる。
【0012】
本発明は、金型鋳造法によって成型された構造物の表面に、砂型鋳造法によって成形された構造物の意匠面を模した独特な鈍い金属光沢を放つ表面構造を、簡易に形成できるなし地状表面構造およびなし地状表面構造の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するため本発明では、構造物を構成し、表面に凹凸が形成された基材と、前記基材の表面に形成され、所望につや消しされた透明または半透明なコート層とから構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金型鋳造法によって成型された構造物の表面に、砂型鋳造法によって成形された構造物の意匠面を模した独特な鈍い金属光沢を放つ表面構造を、簡易に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るなし地状表面構造およびなし地状表面構造の製造方法の実施の形態について、図1から図2を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明に係るなし地状表面構造の部分的な断面図である。
【0017】
図1に示すように、なし地状表面構造1は、構造物3を構成し、表面4に凹凸5が形成された基材6と、凹凸5が形成された基材6の表面4に形成され、所望につや消しされた透明または半透明なコート層7とから構成される。
【0018】
構造物3は、ダイカスト法などの金型鋳造法によって鋳造されたものであり、例えば、自動車のホイールや、自動二輪車のシリンダ・ブロック、シリンダ・ヘッド、クランクケースなどのエンジン部品、船外機のケーシング、AV機器のフレーム、カメラのボディ、リールのボディ、顕微鏡のアームベース、ミシンのベースなどのアルミニウム合金ダイカストである。また、マグネシウム合金ダイカスト、亜鉛合金ダイカストによる構造物3であってもよい。
【0019】
基材6の材料はアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金などの金属材料である。基材6は、ダイカスト法によって鋳造された自動二輪車のシリンダ・ブロック、シリンダ・ヘッド、クランクケースなどの構造物3を構成する。ダイカスト法によって鋳造された基材6の素地は、平坦でつやがあり、また湯流れ模様が見られる。この基材6の素地には、ショットピーニングやショットブラストが行われる。そうすると、基材6の素地が研削されて、基材6の表面4には金属光沢のある一様な凹凸5が形成される。
【0020】
コート層7は、基材6の保護膜として機能するものであり、透明な、または所望に着色された半透明な樹脂膜である。コート層7に着色する場合は、基材6の意匠面fが透過するように透過率を確保する。コート層7には、つや消し塗料が用いられ、50%から80%程度のつや消しであることが好適である。コート層7は、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、メラミン系などの樹脂塗料、またはこれらを混合した樹脂塗料を用いて、エアー吹き付け塗装や静電塗装など公知の方法によって形成される。また、コート層7は、水性塗料、粉体塗料、合成樹脂塗料などの塗料を用いることができる。コート層7の膜厚は、基材6を保護できる厚さであればよく、好適には5μmから30μmの膜厚に塗装される。コート層7によって基材6の腐食が防止され、構造物3の耐候性が確保される。
【0021】
本実施形態に係るなし地状表面構造1は、凹凸5が形成された基材6の表面4に、所望につや消しされた透明または半透明なコート層7が形成された構造物3の意匠面fを構成する。なし地状表面構造1の意匠面fでは、入射光Cinの一部がコート層7に吸収されるとともに、コート層7および基材6のそれぞれの表面で散乱反射光Ccaが観察される。そうすると、なし地状表面構造1の意匠面fは、砂型鋳造法によって成形された構造物の意匠面に近い、独特な鈍い金属光沢を放つ沈んだねずみ色のなし地状の外観を有することができる。
【0022】
したがって、本実施形態に係るなし地状表面構造1によれば、ダイカスト法によって成型された構造物3の意匠面fは、砂型鋳造法によって成型された構造物の外観を十分に模したものになる。
【0023】
図2は、本発明に係るなし地状表面構造の製造方法を示すフローチャートである。
【0024】
図2に示すように、まず、ステップS1では、ダイカスト法などの金型鋳造法によって成型された構造物3について、基材6の素地にショットピーニングやショットブラスト等を行い、基材6の表面4に一様な凹凸5を形成する。例えば、構造物3がアルミニウム合金ダイカスト材ADC10、ADC10Z、ADC12、ADC12Z(JISH5302)やマグネシウム合金ダイカスト材MDC1B、MDC1D、MDC2B、MDC3B、MDC4(JISH5303)などを用いた自動二輪車のシリンダ・ブロック、シリンダ・ヘッド、クランクケースなどのエンジン部品の場合、φ0.4からφ0.6mm程度のステンレス材の投射材を使用し、100kg/minから200kg/min程度の投射量で、30secから60sec間程度のショットブラストを行うと好適である。なお、投射材にはステンレス材の他に、アルミナ、特殊鋼、鉄、SiO、亜鉛、アルミニウムおよびアルミニウム合金などの材料を用いることができる。
【0025】
次に、ステップS2では、凹凸5が形成された基材6の表面4に、所望につや消しされた透明または半透明な塗料を塗装してコート層7を形成する。使用する塗料の性質によって、自然乾燥や、強制乾燥、加熱乾燥(焼付け)などの乾燥が行われる。なお、塗料を塗装する前に、基材6の表面4を脱脂や、化成皮膜処理を行うことで、基材6の耐食性をさらに向上させることができる。また、塗料を塗装する前に、基材6の表面にプライマを塗布してもよい。
【0026】
本実施形態に係るなし地状表面構造の製造方法によれば、ダイカスト法によって成型された構造物3には、極めて簡易な製造方法によってなし地状表面構造1が形成される。そうすると、なし地状表面構造1の意匠面fは砂型鋳造法によって成型された構造物の外観を十分に模したものになる。
【0027】
したがって、本実施形態に係るなし地状表面構造1およびなし地状表面構造の製造方法によれば、金型鋳造法によって成型された構造物3の表面に、砂型鋳造法によって成形された構造物の意匠面に近い独特な鈍い金属光沢を放つ沈んだねずみ色のなし地状の表面構造を、極めて簡易に形成することができる。
【0028】
本実施形態に係るなし地状表面構造1およびなし地状表面構造の製造方法を、例えば自動二輪車のエンジン部を構成するダイカスト法によって成型された構造物に適用すれば、レース専用車両の外観を十分に模した印象を消費者に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るなし地状表面構造の部分的な断面図。
【図2】本発明に係るなし地状表面構造の製造方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0030】
1 なし地状表面構造
3 構造物
4 表面
5 凹凸
6 基材
7 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を構成し、表面に凹凸が形成された基材と、
前記基材の表面に形成され、所望につや消しされた透明または半透明なコート層とから構成されたことを特徴とするなし地状表面構造。
【請求項2】
前記構造物は、金型鋳造法によって成型されたことを特徴とする請求項1に記載のなし地状表面構造。
【請求項3】
前記基材の材料は、アルミニウム合金、亜鉛合金およびマグネシウム合金のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のなし地状表面構造。
【請求項4】
前記コート層は、樹脂塗料を前記基材の表面に塗装して形成されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のなし地状表面構造。
【請求項5】
金型鋳造法によって成型された構造物の基材の表面に凹凸を形成し、
前記凹凸が形成された基材の表面に、所望につや消しされた透明または半透明な塗料を塗装してコート層を形成することを特徴とするなし地状表面構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−262208(P2009−262208A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115998(P2008−115998)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(397067624)ヒット工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】