説明

におい測定方法

【課題】サンプルの加熱温度を極力抑えながらにおい測定装置による測定を適切に行うことのできる測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】容器25にサンプル26(固体)と共に小量の水を封入し、或いはサンプル26を封入した容器25に小量の水を加えた後、容器25を加熱し、その後に容器25からシリンジ22でヘッドスペースガスを採取してにおい測定装置10に導入して測定を行う。水蒸気雰囲気下で揮発するにおい成分のヘッドスペースガス中濃度は乾燥下でのそれに比べてより高濃度となることが知られているので、この方法によれば、サンプルの加熱温度を抑えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のガスセンサを備えたにおい測定装置を用いて行うにおい測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数種のガスセンサを用い、各ガスセンサの試料ガスに対する応答値に対して多変量解析を行い人間の官能評価と対比することによりにおいを評価する技術の開発が進められ、その技術を利用したにおい測定装置が実用化されるに至った(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、上記装置を用いて固体または液体サンプルのにおいを測定する場合は、前処理としてサンプルを耐熱ガラス製の容器に封入して暫時置いた後、その容器内の気体(ヘッドスペースガス)をシリンジ等で採取して測定装置に導入し測定する。におい成分をより効果的にヘッドスペースガス中に抽出するためにサンプル封入後の容器を加熱することが一般に行われる。特に、においが微弱な場合は加熱温度をより高くしてにおい成分の濃度を高くすることが効果的である。
しかし、加熱温度には制約がある。例えば食品の場合は、温度を上げ過ぎると変質して風味が損なわれ、本来のにおいを測定することができなくなる。また、その他化学製品についても、加熱により組成変化を生じて元の成分とは異なる成分になってしまうこともある。
【0004】
【非特許文献1】カタログ「島津におい識別装置FF−2A」島津製作所、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、におい測定の前処理におけるサンプルの加熱は適度な濃度のサンプルを導入して精度良く測定を行う上で好ましいが、一方でサンプルの変質を招く危険性もある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、固体サンプルから発生するにおいが弱い場合でも、サンプルの加熱温度を極力抑えながらにおい測定装置による測定を適切に行うことのできる測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明方法は、上記課題を解決するために、容器に固体サンプルと共に小量の水を封入し、或いは固体サンプルを封入した容器に小量の水を添加した後、その容器を加熱し、その後に容器からヘッドスペースガスを採取してにおい測定装置に導入して測定を行う。また、本発明装置は、サンプルを封入してなるサンプル容器と、該容器を加熱する加熱手段と該容器内の気体を採取する採取手段と、採取した気体を測定する複数種のガスセンサとを備えたにおい測定装置において、採取手段移動軌跡上に水容器を配設して構成する。
水蒸気雰囲気下で揮発するにおい成分のヘッドスペースガス中濃度は乾燥下でのそれに比べてより高濃度となることが経験的にも知られているので、本発明によれば、サンプルの加熱温度を抑えることが可能となる。水の添加量は、例えば1ml程度である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同じサンプル加熱温度でもより効果的ににおいを検出することが可能となり、特に、においが弱くしかも高温に曝したくないサンプル種のにおい測定に際してS/N比の高いデータが得られ、識別性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明になるにおい測定方法の特徴は、ヘッドスペースガスサンプリングに際してサンプルに水を添加する点にある。従って、本発明の最良の形態は、サンプルを容器に封入する過程の前または後に前記容器に水を加える過程を付加したにおい測定方法である。
【実施例1】
【0009】
図1に本発明方法を実施するための装置構成の一例を示す。以下図示例に従って説明する。
同図において、10は例えば前掲非特許文献1に記載されているようなにおい測定装置であって、内部に複数種のガスセンサ(図示しない)を備えて構成されるものである。20はヘッドスペースサンプラであって、サンプル26を収容しシールキャップ27で口を封じられた多数の容器25が加熱オーブン21内に配置されており、その上部に位置するシリンジ22が容器25内の気体を吸引した後、レール23上を走行して、におい測定装置10の試料導入部11に注入するように構成されている。30は、においを発生しない水、例えば蒸留水31を入れた水容器である。
【0010】
上記のように構成された装置によるにおい測定の手順を以下に説明する。
(1)サンプル26を容器25に入れ、シールキャップ27で口を封じて、所定温度に調整された加熱オーブン21内に配置する。
(2)シリンジ22で水容器30から蒸留水31を吸引して各容器25に注入し、所定時間置く。
(3)シリンジ22で容器25内のヘッドスペースガスを所定量採取し、におい測定装置10の試料導入部11に注入する。
(4)におい測定装置10において測定を行う。
(5)複数の容器25に対して順次に上記の(3)、(4)を行う。
なお、上記(2)以下の過程は図示しないプログラム制御装置により自動的に行われる。
【0011】
前処理の過程で水を添加することによりガスセンサの応答が高くなることを確かめるための実験を行った。図2に、その実験の結果を示す。
同図は、5種類の樹脂系サンプルS01〜S05をにおい測定装置で測定したときのガスセンサの応答をグラフ化したもので、複数のガスセンサのうちの1つを代表として表示した。同図(A)は、従来の方法、即ち水を加えずに55°Cで1時間加熱して得たヘッドスペースガスの測定結果である。同図(B)は、本発明方法、即ち同じ樹脂系サンプルに数mlの水を加えて同温度で同時間加熱した場合の測定結果である。両図を比べると、水蒸気雰囲気下でにおいを発生させた方が高いセンサ応答値が得られることがわかる。
なお、一般に酸化物半導体ガスセンサは水蒸気にも応答を示すが、この実験に用いたにおい測定装置は内部で水蒸気を除去して測定できる構造であり、図2の結果はガスセンサが水蒸気に応答して高い応答値が出たのではないことが確認されている。
【0012】
以上、一実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形の可能性がある。例えば、サンプル封入後に水を添加する代わりに、サンプルを容器に入れるときに一緒に水を入れてから封入してもよい。また、常に水を添加するのでなく、水を加えない状態で一度測定を行って、信号レベルが低い場合のみ、水を加えて再測定するようにプログラムすることも考えられる。また、サンプルの容器はビンに限らず、袋状のものであっても本発明を適用できる。
さらにまた、図1に示す構成は、ヘッドスペースガスの採取と水の添加を同一のシリンジ22で兼用するものであるが、これらを別個にそれぞれ専用のシリンジとして設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明はにおいの測定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の効果を示す実験結果である。
【符号の説明】
【0015】
10 におい測定装置
11 試料導入部
20 ヘッドスペースサンプラ
21 加熱オーブン
22 シリンジ
23 レール
25 容器
26 サンプル
27 シールキャップ
30 水容器
31 蒸留水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを容器に封入する過程と、該容器を加熱する過程と、該容器内の気体を採取する過程とを経て採取した気体を複数種のガスセンサを備えたにおい測定装置に導入してにおいを測定するにおい測定方法において、前記のサンプルを容器に封入する過程の前または後に前記容器に水を加える過程を加えることを特徴とするにおい測定方法。
【請求項2】
サンプルを封入してなるサンプル容器と、該容器を加熱する加熱手段と該容器内の気体を採取する採取手段と、採取した気体を測定する複数種のガスセンサとを備えたにおい測定装置において、採取手段移動軌跡上に水容器を配設してなるにおい測定装置。

【図1】
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【図2】
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