説明

ねじ締め工具

【課題】
歪ゲージのゼロ点調整とゲイン調整をハウジング組立て後に行えるようにして製造工数の低減を図ったねじ締め工具を提供する。
【解決手段】
モータと、モータによって先端工具が装着される出力軸を駆動する動力伝達機構と、モータの回転を制御する制御部と、出力軸における締付トルクの発生を検知するトルクセンサ12と、トルクセンサ12からの出力信号を検波して制御部に出力する検波回路70bを有するねじ締め工具において、制御部にA/Dポートを有するマイコン60を設け、検波回路70bに、検波回路の出力のゼロ点又は/及び最大振幅の調整を電気的に行うデジタルポテンショメータ83,84を設け、デジタルポテンショメータ83,84を調整することによって、検波回路70bの出力のゼロ点又は/及び最大振幅がマイコン60に含まれるA/Dポートの入力電圧範囲内に入るよう調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより回転駆動され所定の締め付けトルクにてねじ等を締め付けるねじ締め工具に関し、特に製造段階でのトルク検出装置の調整を容易に行うように改良したねじ締め工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジやボルト等の締め付けを行うねじ締め工具として、油圧を利用して打撃力を発生させるオイルパルスユニットを用いた装置が知られている。オイルパルスユニットを用いた工具は、金属同士の衝突がないため作動音が低いという特徴を有する。その装置の例として、例えば特許文献1があり、オイルパルスユニットを駆動する動力としてエアモータ又は直流モータが使用され、モータの出力軸がオイルパルスユニットに直結される。装置を作動させるためのトリガスイッチを引くと、モータが駆動される。そして規定の締め付けトルクで締め付けが行われたかを、トルク検出手段や角度検出器からの出力を用いて外部に設けたコントロールボックス(外部接続装置)が検知し、規定の締め付け値に達したらモータの回転を停止する。
【0003】
近年、可搬型のねじ締め工具の駆動源として、ブラシレス直流モータが使われるようになってきた。ブラシレス直流モータは、高精度な回転制御が可能、メンテナンスフリーで長寿命、ロスが少なく作業量がアップする、というメリットを有する。ブラシレス直流モータは、ブラシ(整流用刷子)の無い直流モータであり、巻線を固定子側に、永久磁石を回転子側に用い、インバータで駆動された電力を所定のコイルへ順次通電することによりロータを回転させる。ブラシレス直流モータを用いたねじ締め工具では、例えば、固定子巻線への通電をオン・オフさせるためのスイッチング素子と、スイッチング素子をオン・オフさせるための制御信号を発生させる制御回路を、ハウジング内に設けた回路基板上に搭載する必要がある。
【0004】
一方、特許文献1のようにトルク検出手段や角度検出器からの出力を外部に設けたコントロールボックスに送出する方法では、検出器からの微弱な出力信号をケーブルを介して送出することから、減衰したりノイズに曝されること等から、配設できるケーブルの長さに限界があり、例えば3m程度が限界である。そのため、このケーブルの長さ制限を無くするために、ねじ締め工具の内部において、トルク検出手段や角度検出器からの出力を処理して、検出結果を外部接続装置に送出したいという要望がでてきた。
【0005】
このような要望を満たすため、ブラシレス直流モータを用いたねじ締め工具において、トルク検出手段を設け、トルク検出手段からの出力を用いてモータの回転を制御するようにした。従来のねじ締め工具においては特許文献2に示すように、トルク検出手段として出力軸に歪ゲージを設け、歪ゲージからの出力を回転トランスを設けて伝達してトルク検出手段(トルク検出回路)に入力し、トルク検出手段の出力信号を外部接続装置に送出するように構成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−30056号公報
【特許文献2】特公平6−24713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歪ゲージから回転トランスを介して外部に伝えられる出力信号は微弱なアナログ信号であり、この出力を検波回路で検波して外部接続装置に伝える必要があった。この検波回路において検出される微弱な信号はアナログ/デジタル変換(以下、「A/D変換」という)させる必要性があるので、ゲインの調整を精度良く行うことが重要である。そのため、A/D変換器の測定範囲に検波回路からのアナログ波形の範囲を合わせるために、可変抵抗器を検波回路に設けて、製品組立時に可変抵抗器のボリュームを回転させることによって調整する必要があった。このような可変抵抗器の調整(機械的な調整作業)は煩雑であり、製造コストの上昇につながっていた。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、トルク検出回路の調整作業に要する工数を低減して製造コストの低減を図り、安価かつ高信頼性を図ったねじ締め工具を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、トルク検出回路の検波回路に含まれる可変抵抗器として電子式半固定抵抗器を用いて、抵抗値の調整を制御部又は外部接続装置から電気的に行うようにしたねじ締め工具を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、トルク検出回路の検波回路の出力信号をA/D変換するにあたり、専用のA/D変換器でなく制御用のマイクロコンピュータ(略して「マイコン」と称する)に含まれるA/D変換機能を用いるようにして、部品点数の削減を図ったねじ締め工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータによって先端工具が装着される出力軸を駆動する動力伝達機構と、モータの回転を制御する制御部と、出力軸における締付トルクの発生を検知するトルク検出手段と、トルク検出手段からの出力信号を検波して制御部に出力する検波回路を有するねじ締め工具において、制御部にA/Dポートを有するマイクロコンピュータを設け、検波回路に、検波回路の出力のゼロ点又は/及び最大振幅の調整を電気的に行う調整手段を設け、調整手段を調整することによって、検波回路の出力のゼロ点又は/及び最大振幅がマイクロコンピュータのA/Dポートの入力電圧範囲内に入るよう調整される。トルク検出手段は、出力軸に設けられる歪ゲージと、歪ゲージの出力信号を検波回路に伝達する回転トランスを含み、調整手段は電子式半固定抵抗器である。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、電子式半固定抵抗器はデジタルポテンショメータであり、チップセレクト(CS)、インクリメント(INC)、アップ/ダウン(U/D)の3本の入力端子を含んで構成され、デジタルポテンショメータの抵抗値は入力端子を介してマイクロコンピュータによって電気的に設定される。動力伝達機構は、オイルパルスユニットを有する打撃機構を含み、マイクロコンピュータは、検波回路によって検波された信号を用いてオイルパルスユニットによる締め付けトルク値を算出し、設定されたトルク値に達したらモータを停止させるようにした。ねじ締め工具は通信路を介して外部接続装置と通信するための送受信装置を有し、制御部は、通信路を介して外部接続装置から送られるデジタルポテンショメータの設定指示信号に基づいてデジタルポテンショメータの設定値の変更を行う。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、モータと、モータによって駆動される出力部と、出力部に接続される先端工具と、モータを収容するハウジングと、ハウジングに収容されるセンサと、センサからの出力された信号のゲインを調整する調整手段を有するねじ締め工具であって、調整手段をハウジングの外部から電気的に調整できるよう構成した。調整手段は例えば電子式半固定抵抗器である。調整はねじ締め工具に接続可能な外部接続装置によって行われる。外部接続装置に出力部のトルクを検出するトルク測定器が接続され、トルク測定器からの信号によって調整が行われる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、検波回路に出力のゼロ点又は/及び最大振幅の調整を電気的に行う調整手段を設け、調整手段を調整することによって出力のゼロ点又は/及び最大振幅がマイクロコンピュータのA/Dポートの入力電圧範囲内に入るよう調整されるので、ゼロ点又は/及び最大振幅の調整をねじ締め工具の組み立ての前後に拘わらずに行うことができ、組み立てのための人件費の削減を図ることができるとともに、調整精度を向上させたねじ締め工具を実現できる。
【0016】
請求項2の発明によれば、トルク検出手段は出力軸に設けられる歪ゲージと歪ゲージの出力信号を検波回路に伝達する回転トランスを含み、調整手段は電子式半固定抵抗器であるので、ねじ締め工具に含まれるマイクロコンピュータや、ねじ締め工具に接続される外部接続装置から電気的に制御することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、電子式半固定抵抗器はデジタルポテンショメータであるので、デジタルポテンショメータの入力端子にコマンド信号を送出するだけで設定抵抗値を容易に変更することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、動力伝達機構はオイルパルスユニットを有する打撃機構を含み、マイクロコンピュータは検波回路によって検波された信号を用いてオイルパルスユニットによる締め付けトルク値を算出し、設定されたトルク値に達したらモータを停止させるので、規定の締め付けトルクにて確実に締め付けることができるねじ締め工具を実現できる。
【0019】
請求項5の発明によれば、制御部は、通信路を介して外部接続装置から送られるデジタルポテンショメータの設定指示信号に基づいてデジタルポテンショメータの設定値の変更を行うので、外部接続装置を用いてねじ締め工具の調整を精度良く簡単に行うことができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、ねじ締め工具においてセンサからの出力された信号のゲインを調整する調整手段を、ハウジングの外部から電気的に調整できるように構成したので、ゼロ点又は/及び最大振幅の調整をねじ締め工具の組立の前後に拘わらずに行うことができ、組立のための人件費の削減を図ることができるとともに、調整精度を向上させたねじ締め工具を実現できる。
【0021】
請求項7の発明によれば、調整手段は電子式半固定抵抗器であるので、半固定抵抗器の設定抵抗値を電気的に制御することができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、調整はねじ締め工具に接続可能な外部接続装置によって行われるので、調整のために必要な制御プログラムをねじ締め工具内に予め準備していなくても外部接続装置側から制御することが可能となる。
【0023】
請求項9の発明によれば、外部接続装置に出力部のトルクを検出するトルク測定器が接続され、トルク測定器からの信号によって調整が行われるので、実測トルク値に即した厳密な調整が可能であり精度の高いねじ締め工具を実現することができる。
【0024】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係るねじ締め工具1の全体を示す断面図である。
【図2】図1のA−A部の断面図である。
【図3】本発明の実施例に係るねじ締め工具1のモータ3の駆動制御系の回路構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例に係るねじ締め工具1の回路の全体構成を示す図である。
【図5】図4の検波回路70bの詳細構成を示すブロック図である。
【図6】図5の電子式半固定抵抗器83の詳細構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゼロ点調整及びゲイン調整の仕方を説明するための概略図である。
【図8】本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゲイン調整時の接続機器のブロック構成図である。
【図9】本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゼロ点調整の手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゲイン調整の手順を示すフローチャートである。
【図11】従来技術に係る検波回路170bの詳細構成を示すブロック図である。
【図12】従来技術に係る検波回路170b単体のゼロ点調整及びゲイン調整を行う手順を説明するための概略図である。
【図13】従来技術に係る検波回路170bの出力波形図と、そのゼロ点及びゲインの調整方法を説明するための概略図である。
【図14】従来技術に係るねじ締め工具201の組立て後のゲイン調整(二次調整)の仕方を説明するための概略図である。
【図15】従来技術に係るねじ締め工具201のゲイン調整(二次調整)による補正の仕方を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。尚、本明細書の説明においてはねじ締め工具の例としてインパクト式のねじ締め工具1の例を用いて説明する。また、ねじ締め工具1の上下及び前後の方向は、図1中に示した方向として説明する。
【0027】
図1は本実施例に係るねじ締め工具1及びそれに接続される電源ボックス30、外部接続装置40の全体を示す図であり、ねじ締め工具1については断面図を示す。ねじ締め工具1は、電源ボックス30からケーブル2により供給される電力を利用してモータ3を駆動し、モータ3によってオイルパルスユニット4を駆動し、オイルパルスユニット4に連結された出力軸5に回転力と打撃力を与えることによって六角ソケット等の図示しない先端工具に回転打撃力を連続的又は間欠的に伝達してナット締めやボルト締め等の作業を行う。
【0028】
ケーブル2により供給される電源は、例えば直流140Vであり、工具本体の外部に設けられた電源ボックス30内において、例えばAC100V等の商用電源29から生成される。電源ボックス30内においては、さらに制御系電源のために直流12V電源が商用電源29から生成され、ケーブル2を介してねじ締め工具1に供給される。ケーブル2は、図示していないが内部に直流140V用の電源コードと、直流12V用の電源コードを含んで構成され、ケーブル2とねじ締め工具1及び/又は電源ボックス30は、図示しないコネクタを用いて脱着可能に構成しても良いし、脱着不能に構成しても良い。
【0029】
モータ3は、内周側に永久磁石を有する回転子3bを有し、外周側に鉄心に巻かれた巻線を有する固定子3aとからなるブラシレス直流モータであって、2つのベアリング10a、10bによってその回転軸20が固定され、ハウジングの筒状の胴体部6a内に収容される。ハウジングは、胴体部6aとグリップ部6bと回路基板収納部6cの3つの部分で構成され、絶縁体たるプラスチック等により一体的に製造される。また、ハウジングは、胴体部6aの長手方向軸線とグリップ部6bの長手方向軸線を含む面、即ち図1の断面部分で左右に分割可能であり、分割可能なハウジングは図示しない複数のネジによって固定される。モータ3の後方側には、モータ3を駆動するための駆動回路用基板7bが配設され、この回路基板上にはFETなどの半導体素子により構成されるインバータ回路及び回転子3bの回転位置を検出するための回転位置検出素子42が搭載される。回転位置検出素子42としては、例えば、ホール素子、ホールICを用いることができる。ハウジングの胴体部6a内部の最後端には、モータ3及びオイルパルスユニット4を冷却するための冷却ファン17が設けられる。
【0030】
ハウジングの胴体部6aから略直角に下方向に延びるグリップ部6bの取り付け部付近にはトリガスイッチ14aが配設され、その直下に設けられるスイッチ回路基板14bによりトリガスイッチ14aを引いた量に比例する信号が、モータ制御用基板7aに伝達される。グリップ部6bの下側の回路基板収納部6cの内部には、モータ制御用基板7a、センサ用基板8、通信用基板9の3つの回路基板が、ハウジングの分割面と略鉛直になる方向に並列に配置される。ハウジングの回路基板収納部6cの内壁には、回路基板を保持する部分となるガイド溝21a、21b、21cが形成される。これらガイド溝21a、21b、21cは、分割可能な他方のハウジング側にも同様に形成され、組立の際に片側のハウジングの内面が上になるように作業台に置いて、3つの回路基板をハウジングのガイド溝21a、21b、21cに差し込み、もう一方のハウジングのガイド溝に3つの回路基板が嵌め込まれるように他方のハウジングを重ね合わせるだけで3つの回路基板を簡単に固定できる。
【0031】
通信用基板9には、複数の発光ダイオード(LED)18が設けられ、発光ダイオード18の光は図示しないハウジングの透過窓を透過して又は貫通孔を通して外部から識別できるように配置される。発光ダイオード18は、正常締め付けが完了してモータ3が停止した場合に点灯させたり、締め付け異常と判断された場合にアラームとしての点滅をさせたり、通信異常の発生の場合に点灯させたりする。
【0032】
ハウジングの胴体部6a内に内蔵されたオイルパルスユニット4は、公知のものを用いることができ、主に、モータ3と同期して回転する駆動部分と、先端工具が取り付けられる出力軸5と同期して回転する出力部分の2つの部分により構成される。モータ3と同期して回転する駆動部分は、モータ3の回転軸20に直結されるライナプレート23と、その外周側で前方に延びるように固定される外径が略円柱形のライナ22を含む。出力軸5と同期して回転する出力部分は、メインシャフト24と、メインシャフト24の外周側に180度隔てて形成された溝にバネを介して取付けられるブレード(図示せず)を含んで構成される。メインシャフト24は一体成型されたライナ22に貫通されて、ライナ22とライナプレート23により形成される閉空間内で回転できるように保持され、この閉空間内には、トルクを発生するためのオイル(作動油)が充填される。
【0033】
トリガスイッチ14aが引かれてモータ3が起動されると、モータ3の回転力はオイルパルスユニット4に伝達される。オイルパルスユニット4の内部にはオイルが充填されていて、出力軸5に負荷のかかっていないとき、又は、負荷が小さい際には、オイルの抵抗のみで出力軸5はモータ3の回転にほぼ同期して回転する。出力軸5に強い負荷がかかると出力軸5及びメインシャフト24の回転が止まり、オイルパルスユニット4の外周側のライナ22のみが回転を続け、1回転に1箇所あるオイルを密閉する位置にてオイルの圧力が急激に上昇して衝撃パルスを発生し、尖塔状の強いトルクによりメインシャフト24を回転させ、出力軸5に大きな締付トルクが伝達される。以後、同様の打撃動作が数回繰り返され、締め付け対象が設定トルクで締め付けられる。出力軸5は、後方側端部がベアリング10cにより保持され、前方がメタル16によりケース15に保持される。
【0034】
ベアリング10cの前方側において出力軸5の径が細くなっており、その細くなった部分に、トルク検出センサである歪ゲージ12が取り付けられる。歪ゲージ12が取り付けられる箇所の前方側においては、出力軸5の径は太くなっており、その箇所に歪ゲージ12へ電圧を供給する入力用トランス11aと、歪ゲージ12からの出力を伝達する出力用トランス11bが設けられる。入力用トランス11aと出力用トランス11bは、それぞれ内周側と外周側に配置されるコイルを含んで構成される。内周側のコイルは出力軸5に固定され、外周側のコイルはケース15に固定される。入力用トランス11aと出力用トランス11bへの入出力電圧は、コネクタ11cを介してセンサ用基板8に伝達される。出力軸5に取り付けられる上述した各部分は、円筒形のケース15に組み込まれ、ケース15はハウジングの胴体部6aの前方側に取り付けられる。また、ケース15の下部には、接続用の配線等をカバーするための配線カバー19が設けられる。
【0035】
次に図2を用いて回転位置検出センサとトルク検出センサの取り付け構造を説明する。
図2は、図1のA−A部の断面図である。ケース15の内側の出力軸5は、円柱形の出力軸5において、歪ゲージ12が取り付けられる位置だけが、その径が細くなっていて、断面が略四角形になっている。そして断面の外周に位置する4つの平面それぞれに歪ゲージ12が設けられる。これによりトルクの検出精度を向上させることができる。歪ゲージ12は、機械的な寸法の微小な変化(ひずみ)を電気信号として検出するセンサで、構造物の表面に接着等により固定される。歪ゲージ12として市販されている汎用品を用いることができるが、歪ゲージ12の歪み受感部から引出線であるゲージリードが取り付けられる。配線カバー19は、回転位置検出用の配線やトルク検出センサ用の後述する配線が通過する空間を形成するためのカバーである。
【0036】
次に、前記モータ3の駆動制御系の構成と作用を図3に基づいて説明する。図3はモータ3の駆動制御系の回路構成を示すブロック図である。本実施例では、モータ3は3相のブラシレス直流モータで構成される。このブラシレス直流モータは、いわゆるインナーロータ型であって、複数組のN極とS極を含む永久磁石(マグネット)を含んで構成される回転子(ロータ)3bと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wからなる固定子3a(ステータ)と、回転子3bの回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置された3つの回転位置検出素子42を有する。これら回転位置検出素子42からの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御され、モータ3が回転する。
【0037】
駆動回路用基板7b上には、3相ブリッジ形式に接続されたFET(Field effect transistor)等の6個のスイッチング素子Q1〜Q6からなるインバータ回路を含んで構成される。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、回転制御回路51に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレイン又は各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、回転制御回路51から入力されたスイッチング素子駆動信号(H1〜H6の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路に印加される140V直流を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0038】
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側スイッチング素子Q4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、トリガスイッチ14aの操作量(ストローク)を印加電圧設定回路49で検出し、この操作量に基づいた設定信号をモータ制御用の第1のマイコン50に出力する。マイコン50は、PWM(Pulse Width Modulation)信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御する。
【0039】
ここで、PWM信号は、インバータ回路の正電源側スイッチング素子Q1〜Q3又は負電源側スイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子Q1〜Q3又はスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによって結果的に140V直流を各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。尚、本実施の形態では、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、このPWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ3の回転速度を制御することができる。
【0040】
1つ目のマイコン50は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、時計機能をもつタイマ等を含んで構成される。
【0041】
次に図4を用いて、本実施例に係るねじ締め工具1の回路の全体構成を説明する。本実施例では、モータ3及びモータ制御回路の電源となるモータ系電源と、その他の制御機器への制御用電源の2系統に分け、モータ系電源を非絶縁電源で、制御系電源を絶縁された電源で駆動され、外部に設けられる電源ボックス30からケーブル2を介して2つの直流が供給される。140V直流は、電源ボックス30内の全波整流平滑回路31により生成される。全波整流平滑回路31は、例えば、整流素子4個をブリッジ状に接続した整流回路とコンデンサによる平滑回路を組み合わせたものである。12V直流は、電源ボックス30内に配置されるAC/DCコンバータ32により生成される。
【0042】
回路1A内において、140V直流はモータ3の駆動回路用基板7bに供給される。駆動回路用基板7bに搭載されたインバータ回路により、所定のモータ3の固定子巻線に駆動電源が供給される。140V直流はさらに、18V定電圧回路53にも供給される。18V定電圧回路53は公知のチョッパー回路で構成しても良いし、ツエナーダイオードとトランジスタを組み合わせた公知の定電圧回路で構成しても良い。18V定電圧回路53から出力された18V直流は、第2の定電圧回路52に入力され、第2の定電圧回路52によって、マイコン50が動作するための動作電圧Vcc、例えば5V直流と3.3V直流が生成される。
【0043】
電源ボックス30で生成された直流は、モータ3の制御用の回路以外の部分に入力される。まず、12V直流は定電圧回路64に入力され、そこでマイコン60の動作用の電圧、例えば5V、3.3Vが生成され、マイコン60に入力される。また。±12V電源71に入力される。±12V電源71では、+12Vに加えて−12Vの電圧をも生成する。−12Vは歪ゲージ12の駆動用に用いられる。なお、±12V電源71から歪ゲージ12に至る電源ラインは図示していない。12V直流は、さらに冷却ファン17にも供給される。冷却ファン17は、マイコン60の制御により、ドライブ回路72によりON/OFFが制御される。
【0044】
第1のマイコン50と、第2のマイコン60は、信号ラインにて接続されて双方でデータのやりとりを行うが、双方の絶縁関係を保つために信号ラインはフォトカプラ65を介して接続される。第2のマイコン60から第1のマイコン50に送られる信号は、モータ3の回転駆動力を設定するための信号68及びモータ3の回転をOFFさせるためのON/OFF制御のための信号69である。第1のマイコン50から第2のマイコン60に送られるデータは、トリガスイッチ14aがONされたか否かの信号66と、モータ3の回転駆動力を設定するための信号68に対するAcknowledge信号67である。もちろん、信号の種類はこれだけに限られず、その他の信号のやりとりをすることは任意である。
【0045】
歪ゲージ12には、トルク検出回路70の発信回路70aからの発信信号が入力用トランス11aを介して供給される。同時に発信回路70aからの基準振幅はマイコン60にも送られる。この基準振幅の入力がないとマイコン60はトルク波形から歪みを検出できないからである。出力軸5にオイルパルスユニット4による締め付けトルクが生ずると、歪ゲージ12の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化により変化した基準振幅信号は出力用トランス11bを介して検波回路70bに伝達され検波される。検波回路70bには、マイコン60からオフセット調整用の信号が送られているので、オフセット補正された検波信号をマイコン60に出力する。
【0046】
本実施例では検波回路70bを含むトルク検出回路70をねじ締め工具1の内部に設けた。また、マイコン60は、歪ゲージ12の出力値を用いて、どのくらいのトルク値で締め付けが行われたか(締め付けトルク)を算出するように構成した。通常、歪ゲージ12の抵抗値の変化によって変形した基準振幅信号は、その信号レベルが微小であり外部ノイズの影響を受けやすい。しかし、本実施例では歪ゲージ12から検波回路70bまでの距離が短くて済むので、ノイズの影響を極力抑えつつ検波を行うことができる。さらに、検波回路70bの出力は、マイコン60に入力され、マイコン60が有するA/Dコンバータを用いてデジタル化されるように構成されるので、別途のA/Dコンバータを準備する必要が無く、部品点数の削減を図ることができる。
【0047】
次に、本実施例のねじ締め工具1を用いたボルトの締め付け時の動作を説明する。まず、作業者は、本体の操作ボタン(図示せず)を操作して、締め付けトルク値を設定する作業者が先端工具にボルト等をセットし、被締め付け材に位置決めした後にトリガスイッチ14aを引くと、その引かれたストロークに応じてマイコン50はモータ3を回転させるように制御する。この際、マイコン60は設定された締め付けトルクに応じて、モータ3の回転速度を制限することがあり、例えば、締め付けトルクが低い場合は、マイコン60はマイコン50に対して低い締め付けトルクに対応するモータ3の最大回転数を指示しておく。マイコン50は、そのようにモータ3の回転数が制限されているときは、トリガスイッチ14aのストロークがそれ以上の回転数に対応している場合でも、モータ3の回転が指示された最大回転数に保たれるように制御する。
【0048】
次に、マイコン60は歪ゲージ12の出力をモニターし、所定の締め付けトルクで締め付けが行われたかをモニターする。マイコン60は設定された締め付けトルク値で正常に締め付けが完了したと判断したら、信号線69を介してモータ3をOFFさせる信号をマイコン50に送る。マイコン50は、そのモータOFFの指示を受けると、トリガスイッチがONになっているにも拘わらずにモータ3の回転を停止させる。作業者は、モータ3が自動停止したことにより作業が完了したことを認識できる。
【0049】
マイコン60はRS422送受信機61を介して、様々なデータを外部接続装置40とやりとりすることが可能である。この場合、RS422送受信機61と外部接続装置40は、信号線44を用いて接続される。信号線44を含むケーブル2は、コネクタ43によって着脱可能に接続され、電源ボックス30及び外部接続装置40に接続される。尚、信号線44による通信は、有線による通信方式を用いずに、公知の無線通信方式を用いても良い。
【0050】
以上説明したねじ締め工具1においては、締め付けトルクの管理のために歪ゲージ12によって精度良く締め付けトルク値を検出することが重要となる。そこで、ねじ締め工具1の製造・組み立て工程においては、トルク検出回路70の調整、とりわけ、検波回路70bの調整を念入りに行っている。
【0051】
ここで本発明の実施例を説明する前に図11から図15を用いて従来の検波回路の調整方法を説明する。図11は、従来技術に係る検波回路170bの詳細構成を示すブロック図である。歪ゲージ12から出力用トランス11bを介して出力される信号は、トルク波形抽出回路180によって検出される。この検出される信号はアナログ出力であり、歪ゲージ12の個体差によって−12V〜+12Vの範囲でばらつく。このばらついている信号を、第二のマイコン60に入力可能とするために、検波回路170bからの出力信号が0V〜5Vの範囲となるように調整される。
【0052】
調整のポイントは2つあり、一つは打撃トルクが0の時の歪ゲージ12の出力電圧であり、これが0Vになるようにゼロ点調整回路181に含まれる機械式半固定抵抗器183(VR_1)により調整する。さらに、ゼロ点調整後の出力信号の最大値(最大締め付けトルク、例えば40Nmの打撃時の出力波形)が5Vになるようにゲイン調整回路182に含まれる機械式半固定抵抗器184(VR_2)により調整する。機械式半固定抵抗器183、184は、例えばチップ型サーメット皮膜セラミック半固定可変抵抗器であり、スロット部をドライバ等で回すような機械的な操作によって所定の範囲で抵抗値を変化させることができる。
【0053】
図12は、機械式半固定抵抗器183、184の調整の仕方を説明する図である。この調整は、入力用トランス11a及び出力用トランス11bが収容されたケース15をハウジングに組み込む前に行うもので、ケース15とセンサ用基板208が接続された状態で調整される。まず、ケース15から突出する出力軸5を固定具186の穴に嵌め込む。固定具186の穴の断面形状は、出力軸5の断面形状とほぼ同じであり、これによって出力軸5が回転できないように保持される。
【0054】
次に、出力軸の後端の嵌合溝(図1の出力軸5を参照)に、図示しないトルク印加機器の出力軸185を嵌め込み、トルクを印加する前に、機械式半固定抵抗器183のスロット部をドライバ等で機械的に回すことによってゼロ点の調整を行う。次に、トルク印加機器によって所定のトルク値(例えば40Nm)を印加して、その際の出力波形が+5Vとなるように機械式半固定抵抗器184のスロット部をドライバ等で機械的に回すことによって調整する。
【0055】
図13は検波回路170bの出力波形図と、そのゼロ点及びゲインの調整方法を説明するための概略図である。図13の左側には、調整対象となる機体a〜cの出力軸5に、40Nmのトルクを加えたときの検波回路170bの出力波形191〜193を示している。ここで、検波回路170bの出力波形は、−12Vから+12Vまでの範囲でバラつくことになり、機体aでは出力波形191で示すように、ゼロ点出力191aが2V強程度で、40Nm出力(40Nmを掛けたときの出力値)191bが10V強である。このような波形を、機械式半固定抵抗器183、184を調整することによって、図13の右側に示すような調整後の出力波形195のように、出力値が0V〜+5Vの範囲に収まるようにする。つまり、2V強のゼロ点出力191aが、調整後ゼロ点出力195aのように0.5Vとなるように機械式半固定抵抗器183を調整する。次に、10V強の40Nm出力191bが、調整後40Nm出力195bのように4.5Vとなるように機械式半固定抵抗器184を調整する。必要ならば、機械式半固定抵抗器183、184の調整を繰り返して図13の右側の出力波形195のように調整する。このように調整することによって、調整された出力波形をマイコン60のA/D変換ポートに入力させることができ、マイコン60に内蔵されたA/D変換器を用いて以降の処理を行うことができる。
【0056】
同様にして機体bの出力波形192は、−2.5V程度のゼロ点出力192aが調整後ゼロ点出力195aのように0.5Vとなるように調整され、1.2V程度の40Nm出力192bが調整後40Nm出力195bのように4.5Vとなるように調整される。さらに、機体cの出力波形193は、3.6V程度のゼロ点出力193aが調整後ゼロ点出力195aのように0.5Vとなるように調整され、6V程度の40Nm出力193bが調整後40Nm出力195bのように4.5Vとなるように調整される。
【0057】
ここで、調整後ゼロ点出力195aを0Vでなく0.5Vとするのは、ケース15及びセンサ用基板208を組み込んだ後に、調整点がずれる可能性があるので、調整点がずれたとしてもマイコン60側で電気的に補正できるようにするためである。また、調整後の40Nm出力191bを5Vでなく4.5Vとするのは、想定される最大トルク値よりも10%程度の検出余裕を設けるためである。
【0058】
図14は、ケース15及びセンサ用基板208を組み込んだ後のねじ締め工具201の組立て後のゲイン調整(二次調整)の仕方を説明するための概略図である。ハウジングの組立て後は、図14に示すような構成にてねじ締め工具101をトルク測定器95に接続し、トルク測定器95の表示値と外部接続装置40の表示を比較し、一定トルク印加時とパルス状トルク測定時のズレを補正係数αとして算出し、この補正係数を外部接続装置から通信用基板内の不揮発性メモリに書き込む。トルク測定器95は、ねじ締め工具201の出力軸5からの打撃トルクを入力する入力部(図示せず)を有するトルク測定器95の本体95aと、測定されたトルク値を表示するための表示器95bにより構成される。調整作業を行う者は、表示器95bにより表示されるトルク値を読み取り、ねじ締め工具201に記憶させる補正値を計算し、得られた補正値を外部接続装置40を介してねじ締め工具201に記憶させる。
【0059】
図15は従来技術に係るねじ締め工具201のゲイン調整(二次調整)による補正の仕方を説明するための波形図である。図14に示す構成においてトルク測定器95により出力トルクが40Nmと検出された際のねじ締め工具201の検波回路170bの出力波形196のピーク値は、理想的には+4.5Vとなるはずである。しかしながら、組立後にも単体調整時の精度を100%維持できるとは限らずに、図15に示すように出力波形196のピーク値が+4.5Vと一致しないことがある。そのため、+4.5VとのずれVdをもとに補正係数αを求めて、補正係数αをマイコン60に接続されるEEPROM62(図4参照)に格納しておくようにした。ねじ締め工具201による実際のトルク値の検出では、この補正係数αを用いて締め付けトルク値を算出し、外部接続装置40に出力する。実際の締め付け作業時には、外部接続装置40又はねじ締め工具201は補正係数αを用いて締め付けトルク値を算出するので、バラツキのない正確なトルク値を得ることができる。
【0060】
以上図11〜図15を用いて説明したのが従来のねじ締め工具201における検波回路170bのゼロ点調整及びゲイン調整方法であるが、発明者らの検討により下記のような改善すべき事項があることが判明した。
【0061】
コストを抑える観点から、歪ゲージ12のアナログ出力をマイコン60に内蔵されているA/D変換器を使用して変換するので、A/D変換器の分解能を最大限活用するためアナログ出力をA/D変換器の入力レンジ(0V〜+5V)に合わせる必要がある。この作業は、ゼロ点の調整およびゲイン(最大振幅)の調整により達成され、この調整は製造段階で行われる。これらの調整は、機械式半固定抵抗器183、184を作業者が手で調整する方式とし、ユーザが調整できないようにハウジング組立て後は調整できないようにした。例えば、調整後はVR_1,VR_2に緩み止めの塗料を塗布しハウジングの組立工程へ送られる。発明者らの検証により機械式半固定抵抗器の採用は部品としては低価格ではあるものの、調整にかかる工数が膨大でありトータルコストはかえって高くなるということが判明した。また、調整後のケース15とセンサ用基板208をハウジングで組み込んだ後に、何らかの理由で、機械式半固定抵抗器183、184の調整が必要になった場合にはハウジングを分解する必要がありかえって煩わしいことがわかった。
【0062】
そこで本実施例では検波回路70bのゼロ点調整とゲイン調整を、ハウジングの組立後に電気的に調整できるように構成した。図5は、図4の検波回路70bの詳細構成を示すブロック図である。検波回路70bには、出力用トランス11bからの出力信号を抽出するトルク波形抽出回路80とゼロ点調整回路81とゲイン調整回路82が含まれ、ゼロ点調整回路81の調整用に電子式半固定抵抗器83が接続され、ゲイン調整回路82の調整用に電子式半固定抵抗器84が接続される。電子式半固定抵抗器83、84としては、例えばデジタルポテンショメータを用いることができ、マイコン60からの制御線85、86によってその抵抗値を電気的に調整可能である。
【0063】
図6は、電子式半固定抵抗器83の詳細構成を示すブロック図である。電子式半固定抵抗器83はアナログの可変抵抗部83b(トリマやボリウム)のワイパをマイコンなどのデジタル信号で外部から設定する部品である。全体がひとつのICとして構成されて内部に、可変抵抗部83bと制御・メモリ83aを含んで構成され、その抵抗値を決定するワイパ設定が、制御・メモリ83a内に含まれるEEPROMに記憶される。
【0064】
ワイパポジションは3本の入力線を通じて制御される。電子式半固定抵抗器83の制御線85は、チップセレクト(CS)85a、インクリメント(INC)85b、アップ/ダウン(U/D)85cの3本が含まれる。チップセレクト(CS)85aは、ローにすると、インクリメント(INC)85bとアップ/ダウン(U/D)85cの信号を用いてワイパポジションを調節することができるようになる。チップセレクト(CS)85aをハイにしてアップ/ダウン(U/D)85cで方向を決めれば、インクリメント(INC)85bに加えるクロックに同期して制御・メモリ83aに含まれる内部レジスタの値が1ずつ増減する。このようにレジスタの値を変更することによって、電子式半固定抵抗器83のワイパ位置をマイコンにより制御することができる。
【0065】
次に図7を用いて本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゼロ点調整及びゲイン調整の仕方を説明する。図11〜図15で説明した従来のねじ締め工具においては、入力用トランス11a及び出力用トランス11bが収容されたケース15をハウジングに組み込む前にゼロ点調整及びゲイン調整を行うようにしていた。しかし本実施例においては、これらをハウジングに組み込んだ後に調整するようにした。図7のようにハウジングの組立て後において、ねじ締め工具1の出力軸5をトルク測定器95の本体95aにセットする。この状態において、ねじ締め工具1を停止又は所定のトルクで駆動させながらゼロ点調整及びゲイン調整を行う。この時の接続機器のブロック構成図が図8である。
【0066】
図8において、通信用基板9に搭載される第2のマイコン60は、信号線44を介して外部接続装置40に接続される。図7においては図示していないが、外部接続装置40はトルク測定器95とも接続され、外部接続装置40とトルク測定器95間でデータのやりとりができるように構成される。
【0067】
図9は本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゼロ点調整の手順を示すフローチャートである。この調整は図7のようにねじ締め工具1の出力軸5をトルク測定器95の本体95aにセットし、トリガスイッチを引いていない状態で行うもので、外部接続装置40に含まれる図示しないマイクロコンピュータを用いてコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェアで実現する。
【0068】
最初にステップ101にて、トリガスイッチ14aがオフになっているかを判定する。オフでないときはゼロ点調整ができないので待機する(ステップ101)。トリガスイッチ14aがオフになっていたら、外部接続装置40はマイコン60に対して検波回路70bの出力電圧Vを測定するように指示を出し、その測定結果を受け取る(ステップ102)。次に外部接続装置40は、出力電圧Vが規定の範囲、ここでは0.4V以上0.6V以下になっているかを判定する(ステップ103)。ここで出力電圧Vが規定の範囲に入っている場合はゼロ点調整の処理は終了である。
【0069】
ステップ103で出力電圧Vが規定の範囲を逸脱していたら、外部接続装置40は出力電圧Vが0.6Vよりも大きいかを判定する(ステップ104)。出力電圧Vが0.6Vよりも大きい場合は、ゼロ点を下側にずらすべく電子式半固定抵抗器83に対してチップセレクト(CS)85aをハイにして、アップ/ダウン(U/D)85cでダウン方向として、インクリメント(INC)85bに加えるよう1パルス送出する(ステップ105)。このような操作は外部接続装置40がマイコン60に指示することにより、マイコン60から電子式半固定抵抗器83に対して信号が発せられる。ステップ105が終了したらステップ101に戻る。
【0070】
ステップ104で出力電圧Vが0.6Vよりも小さい場合は、ゼロ点を上側にずらすべく電子式半固定抵抗器83に対してチップセレクト(CS)85aをハイにして、アップ/ダウン(U/D)85cでアップ方向として、インクリメント(INC)85bに加えるよう1パルス送出する(ステップ106)。このような操作は外部接続装置40がマイコン60に指示することにより、マイコン60が電子式半固定抵抗器83に対して行う。ステップ105が終了したらステップ101に戻る。
【0071】
次に、ゼロ点調整が終了したら図10で説明するゲイン調整の手順に移る。図10は本発明の実施例に係るねじ締め工具1のゲイン調整の手順を示すフローチャートである。この調整は図7のようにねじ締め工具1の出力軸5をトルク測定器95の本体95aにセットし、トリガスイッチを引いて行うもので、外部接続装置40に含まれる図示しないマイクロコンピュータを用いてコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェアで実現する。
【0072】
まず外部接続装置40は、調整モードをゲイン調整モードに設定する。ゲイン調整モードにおいては、ねじ締め工具1だけでなくトルク測定器95とのデータのやりとりを行う。次に外部接続装置40は、マイコン60にたいして約40Nmのピークトルクが発生するモータ印加電圧を設定し、この印加電圧をモータ3に印加させるようにねじ締め工具1のマイコン60に指示を出す(ステップ112)。指示を受けたマイコン60は、マイコン50(図4参照)に対してその指示を出すことによって、モータ3が起動する(ステップ113)。ステップ113にてモータ3が起動していなければ外部接続装置40は待機し、起動したらトルク測定器95から送られるピークトルクVpを測定する。このピークトルクVpの最大値Vpmは、同時に外部接続装置40の表示部40aに表示され(ステップ114)、これにより作業者は調整具合を確認することができる。
【0073】
次にマイコン60はトリガスイッチ14aをOFF状態にすることによりモータ3の回転を停止させる(ステップ115)。次に、外部接続装置40はトルク測定器95によって計測されたモータ起動中のV’の最大値V’pmとVpmを比較する。そして、その差(Vpm−V’pm)を外部接続装置40の表示部40aに表示する(ステップ116)。次に、算出された差(Vpm−V’pm)が、−0.1Nm以上+0.1Nm以内の範囲内に入っているかを判断し、範囲内にあったら処理を終了する(ステップ117)。ステップ117において−0.1Nm以上+0.1Nm以内でなかったら、外部接続装置40から電子式半固定抵抗器84に対してチップセレクト(CS)85aをハイにして、アップ/ダウン(U/D)信号のカウントを指示して、インクリメント(INC)にパルスを送出し(ステップ118)、ステップ113に戻る。尚、ステップ118の操作は、外部接続装置40がマイコン60に指示を出すことにより、マイコン60が電子式半固定抵抗器84に対して電気的に制御する。
【0074】
以上説明したように、本実施例においては2つの電子式半固定抵抗器83、84を用いてハウジングの組立後に、電気的にトルクの検波回路70bのゼロ点調整とゲイン調整を行うようにしたので、ハウジングの組立前の調整を省くことができるので、組立コストを大幅に低減させるねじ締め工具を実現することができる。また、製品出荷後に検波回路70bのゼロ点とゲインの再調整を行う場合であっても、ハウジングを分解することなく容易に行うことができる。
【0075】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるも
のではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例においてはトルクセンサを有するインパクト工具の例で説明したが、これだけに限られずに、歪ゲージを用いて締め付けトルクを検出するねじ締め工具であれば、ドライバドリルやその他の回転工具であっても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 ねじ締め工具 1A (内部に組み込まれる)全体回路
2 ケーブル 3 モータ 3a (モータの)固定子
3b (モータの)回転子 4 オイルパルスユニット
5 出力軸 6 ハウジング 6a (ハウジングの)胴体部
6b (ハウジングの)グリップ部 6c (ハウジングの)回路基板収納部
7a モータ制御用基板 7b 駆動回路用基板 8 センサ用基板
9 通信用基板 10a、10b、10c ベアリング
11a 入力用トランス 11b 出力用トランス
11c コネクタ 12 歪ゲージ 14a トリガスイッチ
14b スイッチ回路基板 15 ケース 16 メタル
17 冷却ファン 18 発光ダイオード 19 配線カバー
20 回転軸 21a、21b、21c ガイド溝
22 ライナ 23 ライナプレート 24 メインシャフト
29 商用電源 30 電源ボックス 31 全波整流平滑回路
32 AC/DCコンバータ 40 外部接続装置 40a 表示部
42 回転位置検出素子 43 コネクタ 44 信号線
49 印加電圧設定回路 50 マイコン 51 回転制御回路
52 定電圧回路 53 18V定電圧回路 60 マイコン
61 RS422送受信機 62 EEPROM 64 定電圧回路
65 フォトカプラ 66、67、68、69 信号線
70 トルク検出回路 70a (トルク検出回路内の)発信回路
70b (トルク検出回路内の)検波回路 71 ±12V電源
72 ドライブ回路 80 トルク波形抽出回路 81 ゼロ点調整回路
82 ゲイン調整回路 83 電子式半固定抵抗器 83a メモリ
83b 可変抵抗部 84 電子式半固定抵抗器 85 制御線
95 トルク測定器 95a 本体 95b 表示器
101 ねじ締め工具 170b 検波回路 180 トルク波形抽出回路
181 ゼロ点調整回路 182 ゲイン調整回路
183、184 機械式半固定抵抗器 185 出力軸 186 固定具
191、192、193、195 出力波形
191a、192a、193a、195a ゼロ点出力
191b、192b、193b、195b 40Nm出力
196 出力波形 201 ねじ締め工具 208 センサ用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによって先端工具が装着される出力軸を駆動する動力伝達機構と、
前記モータの回転を制御する制御部と、
前記出力軸における締付トルクの発生を検知するトルク検出手段と、
前記トルク検出手段からの出力信号を検波して前記制御部に出力する検波回路を有するねじ締め工具において、
前記制御部にA/Dポートを有するマイクロコンピュータを設け、
前記検波回路に、前記検波回路の出力のゼロ点又は/及び最大振幅の調整を電気的に行う調整手段を設け、
前記調整手段を調整することによって、前記検波回路の出力のゼロ点又は/及び最大振幅が前記マイクロコンピュータのA/Dポートの入力電圧範囲内に入るよう調整されることを特徴するねじ締め工具。
【請求項2】
前記トルク検出手段は、前記出力軸に設けられる歪ゲージと、前記歪ゲージの出力信号を前記検波回路に伝達する回転トランスを含み、
前記調整手段は電子式半固定抵抗器であることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め工具。
【請求項3】
前記電子式半固定抵抗器はデジタルポテンショメータであり、チップセレクト(CS)、インクリメント(INC)、アップ/ダウン(U/D)の3本の入力端子を含んで構成され、
デジタルポテンショメータの抵抗値は前記入力端子を介して前記マイクロコンピュータによって電気的に設定されることを特徴とする請求項2に記載のねじ締め工具。
【請求項4】
前記動力伝達機構は、オイルパルスユニットを有する打撃機構を含み、
前記マイクロコンピュータは、前記検波回路によって検波された信号を用いてオイルパルスユニットによる締め付けトルク値を算出し、設定されたトルク値に達したら前記モータを停止させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のねじ締め工具。
【請求項5】
前記ねじ締め工具は通信路を介して外部接続装置と通信するための送受信装置を有し、
前記制御部は、前記通信路を介して前記外部接続装置から送られる前記デジタルポテンショメータの設定指示信号に基づいて前記デジタルポテンショメータの設定値の変更を行うことを特徴とする請求項4に記載のねじ締め工具。
【請求項6】
モータと、
前記モータによって駆動される出力部と、
前記出力部に接続される先端工具と、
前記モータを収容するハウジングと、
前記ハウジングに収容されるセンサと、
前記センサからの出力された信号のゲインを調整する調整手段と、を有するねじ締め工具であって、
前記調整手段を、前記ハウジングの外部から電気的に調整できるよう構成したことを特徴とするねじ締め工具。
【請求項7】
前記調整手段は、電子式半固定抵抗器であることを特徴とする請求項6に記載のねじ締め工具。
【請求項8】
前記調整は、前記ねじ締め工具に接続可能な外部接続装置によって行われることを特徴とする請求項6又は7に記載のねじ締め工具。
【請求項9】
前記外部接続装置に前記出力部のトルクを検出するトルク測定器が接続され、
前記トルク測定器からの信号によって前記調整が行われることを特徴とする請求項7又は8に記載のねじ締め工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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