説明

ねじ装置

【課題】ねじ軸の熱膨張によるナットの送り精度の低下を抑制することのできるねじ装置を提供する。
【解決手段】ねじ軸1の外周面を覆う円筒状のハウジング7をナット2の両端部に設けるとともに、ねじ軸1とナット2との間をシールする非接触型シール9をハウジング7の先端部内に設け、かつ非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に自己潤滑性を有する多数の粒状体10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、ローラねじ、遊星ローラねじ等のねじ装置に関し、特に、潤滑剤供給手段を備えたねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤供給手段を備えたねじ装置として、従来、図4に示されるボールねじが知られている(例えば、特許文献1参照)。このボールねじはねじ軸1とナット2を備えており、ねじ軸1の外周面には、軸側ねじ溝3がねじ軸1の一端部から他端部に亘って形成されている。
軸側ねじ溝3はナット2の内周面に形成されたナット側ねじ溝4と対向しており、軸側ねじ溝3とナット側ねじ溝4との間には、転動体としての多数のボール5が転動自在に設けられている。これらのボール5はねじ軸1またはナット2の回転に伴って軸側ねじ溝3とナット側ねじ溝4との間のボール負荷転走路を転走するようになっており、ボール負荷転走路を転走したボール5はナット2に組み付けられた転動体循環部材としてのボール循環チューブ6に導入され、このボール循環チューブ6を経由して元の位置に戻されるようになっている。
【0003】
ナット2の両端部には、円筒状のハウジング7が装着されている。これらのハウジング7はねじ軸1の外周面を覆うようにナット2の両端部に装着されており、各ハウジング7の内側には、潤滑剤含有ポリマからなる潤滑剤供給部材8が設けられている。
潤滑剤供給部材8は円筒状に形成されており、この潤滑剤供給部材8の内周面には、ねじ軸1の軸側ねじ溝3に摺動自在に接触する螺旋状突起8aが潤滑剤供給部材8と一体に形成されている。
【0004】
このようなボールねじは潤滑剤供給部材8が潤滑剤含有ポリマで形成されているため、ねじ軸1の外周面に形成された軸側ねじ溝3に潤滑剤を潤滑剤供給部材8の螺旋状突起8aから供給することができる。
【特許文献1】特許第3508402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したボールねじでは、潤滑剤供給部材8の内周面に形成された螺旋状突起8aを軸側ねじ溝3に摺接させて軸側ねじ溝3に潤滑剤を供給する方式を採用している。このため、ねじ軸1を高速で回転させると、軸側ねじ溝3と潤滑剤供給部材8との接触部分に大きな摩擦熱が生じ、軸側ねじ溝3と潤滑剤供給部材8との接触部分に発生した摩擦熱によってねじ軸1が軸方向に熱膨張するため、ナット2の送り精度が低下したりするなどの問題点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ねじ軸の熱膨張によるナットの送り精度の低下を抑制することのできるねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係るねじ装置は、ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された軸側ねじ溝と転動体または遊星ローラねじを介して係合するナット側ねじ溝を有するナットとを備えたねじ装置において、前記ねじ軸の外周面を覆う筒状のハウジングを前記ナットの両端部または一端部に設けるとともに、前記ねじ軸と前記ナットとの間をシールするシールを前記ハウジングの先端部内に設け、かつ前記シールと前記ナットとの間のハウジング内に自己潤滑性を有する多数の粒状体を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明に係るねじ装置は、請求項1記載のねじ装置であって、前記粒状体が球形状または多面体形状に形成されていることを特徴とする。
請求項3記載の発明に係るねじ装置は、請求項1又は2記載のねじ装置であって、前記粒状体が潤滑剤含有ポリマからなることを特徴とする。
請求項4記載の発明に係るねじ装置は、請求項1〜3のいずれか一項記載のねじ装置であって、前記ハウジング内からの粒状体の取り出し及び前記ハウジング内への粒状体の充填を行うための開口部を前記ハウジングに形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るねじ装置によれば、ねじ軸の外周面に形成された軸側ねじ溝が粒状体の自己潤滑性によって潤滑され、軸側ねじ溝の表面に潤滑膜が形成される。したがって、ねじ軸を高速で回転させてもねじ軸の熱膨張を引き起こすような摩擦熱がねじ軸と粒状体との接触部分に生じることがないので、ねじ軸の熱膨張によるナットの送り精度の低下を抑制することができる。
【0010】
また、ねじ軸の回転に伴って粒状体がハウジング内を循環するので、粒状体よりも比重の大きい異物(金属片等)はハウジング内の下部に集積し、粒状体よりも比重の大きい異物はハウジング内の上部に集積するため、ねじ軸に異物が再付着することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を図1に示す。同図に示されるように、本発明の第1の実施形態に係るねじ装置はねじ軸1とナット2を備えており、ねじ軸1の外周面には、軸側ねじ溝3がねじ軸1の一端部から他端部に亘って形成されている。
軸側ねじ溝3はナット2の内周面に形成されたナット側ねじ溝4と対向しており、軸側ねじ溝3とナット側ねじ溝4との間には、転動体としての多数のボール5が転動自在に設けられている。これらのボール5はねじ軸1またはナット2の回転に伴って軸側ねじ溝3とナット側ねじ溝4との間のボール負荷転走路を転走するようになっており、ボール負荷転走路を転走したボール5はナット2に組み付けられた転動体循環部材としてのボール循環チューブ6に導入され、このボール循環チューブ6を経由して元の位置に戻されるようになっている。
【0012】
ナット2の両端部には、円筒状のハウジング7が装着されている。これらのハウジング7はねじ軸1の外周面を覆うようにナット2の両端部に装着されており、各ハウジング7の先端部の内周面には、非接触型シール(ラビリンスシール)9の外周面が嵌着されている。
非接触型シール9はねじ軸1とナット2との間をシールするものであり、この非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内には、自己潤滑性を有する多数の粒状体10が設けられている。これらの粒状体10は潤滑剤含有ポリマからなり、ねじ軸1の外周面に形成された軸側ねじ溝3の溝幅より小さい直径で球形状に形成されている。
【0013】
このような構成において、ねじ軸1が回転すると、ナット2がねじ軸1の軸方向に移動する。このとき、非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に充填された粒状体10はねじ軸1の回転運動によって攪拌され、軸側ねじ溝3の溝面を滑ったり、あるいは互いに衝突したりする。そして、粒状体10が攪拌されながら軸側ねじ溝3の溝面を滑ったりすると、粒状体10から軸側ねじ溝3の溝面に潤滑剤が供給される。
【0014】
上述した第1の実施形態のように、ねじ軸1の外周面を覆う円筒状のハウジング7をナット2の両端部に設けるとともに、ねじ軸1とナット2との間をシールする非接触型シール9をハウジング7の先端部内に設け、かつ非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に自己潤滑性を有する多数の粒状体10を設けると、ねじ軸1の外周面に形成された軸側ねじ溝3が粒状体10の自己潤滑性によって潤滑され、軸側ねじ溝3の表面に潤滑膜が形成される。したがって、図4に示した従来例のように、潤滑剤供給部材8の内周面に形成された螺旋状突起7aを軸側ねじ溝3に摺接させなくても潤滑剤を軸側ねじ溝3に供給でき、ねじ軸1を高速で回転させてもねじ軸1の熱膨張を引き起こすような摩擦熱がねじ軸1と粒状体10との接触部に生じることがないので、ねじ軸1の熱膨張によるナット2の送り精度の低下を抑制することができる。
【0015】
また、ねじ軸1の回転に伴って粒状体10がハウジング7内を移動すると、粒状体10よりも比重の大きい異物(金属片等)はハウジング7内の下部に集積し、粒状体10よりも比重の大きい異物はハウジング7内の上部に集積するため、ねじ軸1に異物が再付着することを防止することができる。
また、図4に示した従来例では潤滑剤供給部材8に含まれる潤滑剤の含有量が少なくなると内径部からのみの供給のため、ねじ軸1に供給される潤滑剤の供給量が不安定となるが、第1の実施形態では、ねじ軸1と粒状体10との接触面が常に変化するため、潤滑剤の供給量が安定する。また、粒状体10がねじ軸1と接触する部分でねじ軸1に発生した摩擦熱を奪う冷却効果もある。
【0016】
図1に示した第1の実施形態では、非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に充填される粒状体10として球形状に形成されたものを例示したが、これに限られるものではない。たとえば、図2に示す第2の実施形態のように、六面体形状などの多面体形状に形成された多数の粒状体10を非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に充填しても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0017】
また、図1に示した第1の実施形態では、非接触型シール9とナット2との間のハウジング7内に充填される粒状体10として潤滑剤含有ポリマからなるものを示したが、粒状体10の素材としては自己潤滑性を有するものであれば潤滑剤含有ポリマに限られるものではない。また、ハウジング8の形状は円筒状に限られるものではなく、例えば角筒状であってもよい。さらに、ねじ軸1とナット2との間をシールするシールとして、非接触型シール9を示したが、軸側ねじ溝3およびねじ軸1の外周面に接触してねじ軸1とナット2との間をシールする接触型シールであってもよい。また、ハウジング7をナット2の両端部に設けたものを示したが、ハウジング7をナット2の一端部のみに設けてもよい。
【0018】
次に、本発明の第3の実施形態を図3に示す。図3に示す第3の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、ハウジング7内からの粒状体10の取り出し及びハウジング7内への粒状体10の充填を行うための開口部11をハウジング7に形成した点である。なお、図中12はハウジング7に形成された開口部11を塞ぐプラグを示している。
上述した第3の実施形態のように、ハウジング7内からの粒状体10の取り出し及びハウジング7内への粒状体10の充填を行うための開口部11をハウジング7に形成すると、粒状体10を新しい粒状体と交換するときにハウジング7をナット2の両端部から取り外すことなく粒状体10の交換作業を行うことができる。
【0019】
第1〜第3の実施形態では、本発明をボールねじに適用した場合を示したが、ボールねじに限られるものではなく、例えばローラねじ、遊星ローラねじについても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るねじ装置を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るねじ装置を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るねじ装置を示す図である。
【図4】従来のねじ装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ねじ軸
2 ナット
3 軸側ねじ溝
4 ナット側ねじ溝
5 ボール
6 ボール循環チューブ
7 ハウジング
9 非接触型シール
10 粒状体
11 開口部
12 プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された軸側ねじ溝と転動体または遊星ローラねじを介して係合するナット側ねじ溝を有するナットとを備えたねじ装置において、
前記ねじ軸の外周面を覆う筒状のハウジングを前記ナットの両端部または一端部に設けるとともに、前記ねじ軸と前記ナットとの間をシールするシールを前記ハウジングの先端部内に設け、かつ前記シールと前記ナットとの間のハウジング内に自己潤滑性を有する多数の粒状体を設けたことを特徴とするねじ装置。
【請求項2】
請求項1記載のねじ装置であって、前記粒状体が球形状または多面体形状に形成されていることを特徴とするねじ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のねじ装置であって、前記粒状体が潤滑剤含有ポリマからなることを特徴とするねじ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のねじ装置であって、前記ハウジング内からの粒状体の取り出し及び前記ハウジング内への粒状体の充填を行うための開口部を前記ハウジングに形成したことを特徴とするねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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