説明

はんだペースト用フラックス及びはんだペースト

【解決手段】
本発明の1つのはんだペースト用フラックスは、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとその(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られるアクリル樹脂と、ロジン類とを含むとともに、前記ロジン類を1としたときの前記アクリル樹脂の重量比が、0.5以上1.2以下であり、且つ10Pa以上150Pa以下のせん断力を与えることにより流動化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだペースト用フラックス及びはんだペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にはんだペーストが用いられるはんだ付け工程におけるスクリーン印刷工程は、主として図1A乃至図1Dに示す4つの工程に分類される。まず、はんだ付けされる基板10上に配置された電極12の上方が開口する金属製のいわゆるステンシルマスク板14上にはんだペースト16が適量充当される。その後、スキージ20と呼ばれるウレタン製もしくは金属製のヘラ状の治具によってはんだペースト16が前述の開口部に刷りこまれる(図1A)。その結果、はんだペースト16が電極12上に転写塗布される(図1B)。続いて、各種電子部品30が搭載される(図1C)。その後、リフローと呼ばれる加熱昇温工程を経てはんだ金属が溶融することにより、電子部品30と基板10上の電極12とが接合される(図1D)。
【0003】
通常、はんだペーストは、固体的性質と液体的性質とを備えた粘弾性物質である。はんだペーストは、ステンシルマスク上に静置された状態では固体的性質を示している。しかしながら、スキージによりせん断力が負荷された状態において液体的性質を発現することにより、はんだペーストは流動化する。その結果、上述のマスクの開口部にはんだペーストを充填することが可能となる。ところが、充填後には、はんだペーストはせん断力の負荷のない静置状態になることによって再び固体的性質が発現するため、転写された形状を保持することができる。
【0004】
上述のとおり、はんだペーストは、基本的物性として固体的性質と液体的性質とを備えるため、スクリーン印刷工程においてはその両方の性質が適切に発現することが必要とされる。仮に、はんだペーストの流動性が高すぎると印刷によるにじみが発生する一方、はんだペーストが固体的で硬すぎると、前述の開口部に所定量を刷り込むことができないという問題が生じ得る。
【0005】
加えて、電子部品の実装工程においては、多数の基板に対して上述の工程が繰り返されることになる。具体的には、はんだペーストは、スキージによるせん断力負荷を受けた後、静置されるという工程が繰り返されることになる。はんだペーストがこのせん断力負荷を繰り返し受けると、はんだペーストの粘弾性特性が疲労劣化し、その流動性が高まる。その結果、スクリーン印刷時のにじみや加熱による「だれ」の進行、あるいははんだ金属とフラックスの分離という問題が生じていた。また、通常、スクリーン印刷工程は大気中で実施されるため、はんだ金属が繰り返し大気に曝されることとなる。はんだ金属が大気に曝されると、はんだ金属の酸化やフラックスとの反応促進による凝集や増粘が発生し易くなるという問題がある。そのため、はんだペーストは、これらの問題に対する十分な耐性を持つことが必要である。特に近年、部品実装の量産性の向上が求められており、はんだペーストの連続使用、換言すれば、長時間の印刷に耐え得るはんだペーストの実現への要求が高まっている。
【0006】
従来は、はんだペーストの連続印刷性の向上に関して、主にはんだ金属の酸化やフラックスとの反応の防止の観点から、幾つかの対策が提案されている。具体的には、安定化剤としてトリアゾール構造をもった化合物を用いる方法(特許文献1)、ポリヘミアセタールエステル樹脂を用いる方法(特許文献2)が提案されている。また、はんだ金属表面を被覆、保護するという観点から、はんだ金属表面を酸化膜で被覆する方法(特許文献3)、ケイ素を含有する高分子溶液をはんだ金属粉末に塗布する方法(特許文献4)などが提案されている。さらに、信頼性を向上させるために、ロジン系樹脂を主成分とし、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルを溶剤として用いるはんだ付け用フラックス(特許文献5)が提案されている。また、寒暖差が激しい環境下で使用してもフラックス残渣膜にクラックが生じず、狭ピッチのプリント回路基板の回路の短絡や腐食を生じさせない回路基板はんだ付け用ソルダーペースト組成物として、アクリル系樹脂とロジン系樹脂を含むソルダーペースト用フラックスを用いた回路基板はんだ付け用ソルダーペースト組成物(特許文献6)が提案されている。加えて、ロジン構造を有する共重合体を含有することを特徴とするクリームはんだ用フラックス(特許文献7)が提案されている。
【0007】
しかしながら、上述の安定化剤の使用やはんだ金属被覆によれば、その後のリフロー工程において少なからずはんだ金属の溶融を阻害するため、はんだ付け性が劣化する。加えて、スクリーン印刷時に繰り返し受けるせん断力負荷によるはんだペーストの疲労劣化を改善する有効な対策は確認できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−164992号公報
【特許文献2】特開2006−205203号公報
【特許文献3】特開2004−209494号公報
【特許文献4】特開2006−088205号公報
【特許文献5】特開昭61−199598号公報
【特許文献6】特開2001−150184号公報
【特許文献7】特開2008−110365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、例えばスクリーン印刷法によって繰り返しせん断力が及ぼされた場合でも適度な流動性を有するとともに、粘弾性特性の疲労劣化とこれに伴う各種の性能劣化を抑制するはんだペースト用フラックス及びはんだペーストを提供することは、市場の要求に強く応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の技術課題を解決することにより、近年、微細化の進歩が著しい電子回路部品の量産化にも十分に適用しうるフラックス及びはんだペーストの実用化に大きく貢献するものである。本発明者らは、良好な印刷性を達成するはんだペースト用フラックス及びはんだペーストを得るために鋭意研究を重ねた。その結果、フラックス及びはんだペーストに含まれるアクリル樹脂とロジン類の混合比率に着眼するとともに、はんだペーストに特定の環境ないし条件を与ることにより、印刷性の向上が達成され得ることを見出した。本発明は、そのような視点により創出された。
【0011】
本発明の1つのはんだペースト用フラックスは、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとその(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られるアクリル樹脂と、ロジン類とを含むとともに、そのロジン類を1としたときの前述のアクリル樹脂の重量比が、0.5以上1.2以下であり、且つ10Pa以上150Pa以下のせん断力を与えることにより流動化する。
【0012】
このはんだペースト用フラックスは、粘弾性特性の疲労劣化が抑制されるため、量産時における連続的なはんだペーストの印刷性の向上に寄与する。また、このフラックスを用いたはんだペーストは、スクリーン印刷時の特定のせん断力負荷環境下で流動化するため、その粘弾性特性の疲労劣化が抑制され得る。従って、長時間にわたる連続印刷においても性能劣化を抑制できる点で優れたはんだペーストが得られる。その結果、微細化の進歩が著しい電子回路部品の量産にも十分に適用しうるフラックス及びはんだペーストが得られる
【発明の効果】
【0013】
本発明の1つのはんだペースト用フラックス及び本発明の1つのはんだペーストによれば、量産時における連続的なはんだペーストの印刷性が向上する。加えて、本発明の1つのはんだペースト用フラックス及び本発明の1つのはんだペーストは、微細化の進歩が著しい電子回路部品の量産にも十分に適用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】一般的なスクリーン印刷法によるはんだペーストの塗布工程の一過程を示す概要図である。
【図1B】一般的なスクリーン印刷法によるはんだペーストの塗布工程の一過程を示す概要図である。
【図1C】一般的なスクリーン印刷法によるはんだペーストの塗布工程の一過程を示す概要図である。
【図1D】一般的なスクリーン印刷法によるはんだペーストの塗布工程の一過程を示す概要図である。
【図2】本発明の1つの実施形態におけるはんだペーストの動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
本実施形態では、はんだペースト用フラックスの代表的な組成物及び製造方法を説明する。
【0017】
上述のとおり、本実施形態のはんだペースト用フラックスは、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとその(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られるアクリル樹脂と、ロジン類とを含む。ここで、本実施形態のはんだペースト用フラックスは、前述のロジン類を1としたときの前述のアクリル樹脂の重量比が、0.5以上1.2以下である。0.5未満の場合には、はんだペーストとしての固体的性質が支配的となるため、疲労劣化が生じやすくなるおそれがある。他方、1.2を超える場合には、はんだペーストとしての液体的性質が支配的となるため、せん断力負荷のない静置状態でも流動性が高まると考えられる。その結果、はんだペーストがにじみやすくなるため、印刷性やはんだ付け性が劣化する可能性が高まる。
【0018】
加えて、本実施形態のはんだペースト用フラックスは、10Pa以上150Pa以下のせん断力を与えることにより流動化する。その結果、本実施形態のはんだペースト用フラックスを含有するはんだペーストについては、量産時における連続的なスクリーン印刷の際のはんだペーストの印刷性やはんだ付け性が劣化しないこと分かった。また、本実施形態のはんだペースト用フラックスは、前述の固体的性質が支配的ではないため、その粘弾性特性の疲労劣化が抑制され得る。
【0019】
ところで、本実施形態のはんだペースト用フラックスが上述のアクリル樹脂を含有することにより、残渣の耐亀裂性が向上し得る。上述のとおり、このアクリル樹脂は、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとその(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られる。ここで、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの代表例は、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等である。また、前述の(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルの代表例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ステアリル等である。加えて、代表的なラジカル重合は、過酸化物等のラジカル重合開始剤を触媒として用いた塊状重合法、液状重合法、懸濁重合法、乳化重合法であるが、他の公知の重合法も適用され得る。
【0020】
ここで、アクリル樹脂の重量平均分子量が、6000以上12000以下であり、かつ数平均分子量が4000以上6000以下であることは、優れた耐亀裂及び優れた粘弾性特性を得る観点から他の好ましい一態様である。また、本実施形態のはんだペースト用フラックスに含まれる上述のアクリル樹脂の含有量が15重量%以上30重量%以下であることは、フラックス残渣の耐亀裂性とはんだ付け性を向上させる観点から好ましい
【0021】
また、上述のロジンの代表例は、通常のガムロジン、トール油ロジン、又はウッドロジンである。また、その誘導体の代表例は、ロジンを熱処理した樹脂、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジン、ホルミル化ロジン、ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、アクリル酸付加ロジン、又はロジン変性アルキド樹脂などである。これらのロジン及びその誘導体は、フラックスのベース樹脂としてフラックス及びそれを用いたはんだペーストの粘弾性特性を左右する支配成分となり得る。
【0022】
なお、上述のロジン類が、アクリル酸付加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び水素添加ロジンから構成される群から選ばれる少なくとも1種類であることは、上述の特定のアクリル樹脂とあいまって、フラックス及びそれを用いたはんだペーストの粘弾性特性を制御し、繰り返しせん断力負荷時の疲労劣化の抑制を図る観点から他の好ましい一態様である。加えて、はんだペーストをスクリーン印刷に使用する場合に、適度な硬さや変形性を付与するとともに、良好なはんだ付け性を確保することができるため、上述のロジン類の含有量が15重量%以上30重量%以下であることは他の好ましい一態様である。また、本実施形態のフラックスには、前述の各成分の他にフラックス調製の際に用いることができる公知の成分を添加することができる。具体的には、公知の活性化剤、ポリオレフィン類、ワックス、溶媒等が添加物として適用され得る。
【0023】
次に、本実施形態のはんだペーストに用いられるフラックスの製造方法を説明する。
【0024】
本実施形態のフラックスは、例えば、C以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとその(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られたアクリル樹脂(荒川化学工業(株)製:重量平均分子量約9000,酸価0,ガラス転移温度−60℃)と、ロジン類(アクリル酸付加ロジン、不均化ロジン、重合ロジンの混合物:荒川化学工業(株)製)と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(日本乳化剤(株)製)と、アジピン酸(東京化成(株)製)と、ジクロロ安息香酸(東京化成(株)製)と、不飽和脂肪酸二量体(ハリマ化成(株)製)と、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩(中尾薬品(株)製)と、高密度ポリエチレン(三井化学(株)製)と、エチレンビス12ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成(株)製)と、ワックス状生成物(共栄社化学(株)製)とを公知の方法によって溶解又は混合させることにより得られる。
【0025】
具体的には、まず、上述の各成分が、一度に又は順次に、加熱されて溶解及び/又は混合した後、冷却される。ここで、混練装置、真空撹拌装置、ホモディスパー、スリーワンモーター、又はプラネタリーミキサー等の公知の装置は、上述の各成分を溶解又は混合するための装置として適用され得る。また、上述の各成分の混合温度は、特に限定されない。但し、混合に用いられる溶剤の沸点よりも低い温度で加温することによって上述の各成分を溶解することは、好ましい一態様である。なお、その他の公知のフラックスの製造工程が本実施形態についても適用され得る。
【0026】
<第2の実施形態>
本実施形態では、はんだペーストの代表的な組成物及び製造方法を説明する。
【0027】
まず、本実施形態のはんだペーストでは、錫が96.5重量%に対して、銀が3.0重量%であり、銅が0.5重量%である組成比を有するはんだ粉末を用いた。なお、前述の各数値は、各金属の重量比を示す。
【0028】
本実施形態のはんだペーストは、第1の実施形態で開示した好ましい態様を含めた1種又は複数種の本実施形態のはんだペースト用フラックスと、上述のはんだ粉末とを公知の手段で混練配合することにより製造され得る。具体的には、真空撹拌装置、混練装置、又はプラネタリーミキサー等の公知の装置が、上述の各成分を混練配合するための装置として適用され得る。ここで、混練配合が行われる際の処理温度及び条件については、本実施形態の製造方法は特に限定されない。しかしながら、外部環境からの水分の吸収、はんだ金属粒子の酸化、温度上昇によるフラックスの熱的な劣化などの観点から、5℃以上50℃以下で処理されることが好ましい。また、フラックスとはんだ粉末との重量比については、本実施形態の製造方法は特に限定されない。しかしながら、印刷作業性やペーストの安定性の観点から、フラックスが5以上20以下の重量比に対して、はんだ粉末が80以上95以下の重量比であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態のはんだペーストは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に、酸化防止剤、つや消し剤、着色剤、消泡剤、分散安定剤、及びキレート剤などから構成される群から選択される1種又は複数種の材料が適宜配合され得る。
【0030】
ところで、本実施形態のはんだペーストに用いられるはんだ粉末の組成は、上述のはんだ粉末に特に限定されない。具体的には、錫(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、金(Au)、及びゲルマニウム(Ge)から構成される群より選択される1種または2種以上を含むはんだ粉末が、その一例として挙げられる。また、公知の錫/鉛合金、錫/銀合金、錫/銀/銅合金、錫/銀/ビスマス/インジウム、錫/銅合金、錫/銅/ニッケル、錫/亜鉛合金、錫/亜鉛/ビスマス合金、錫/亜鉛/アルミニウム合金、錫/亜鉛/ビスマス/アルミニウム合金、錫/亜鉛/ビスマス/インジウム合金、錫/ビスマス合金、及び錫/インジウム合金から構成される群より選択される1種または2種以上を含むはんだ粉末も、他の1つの例である。
【0031】
また、はんだ粉末の形状は、真球状又は略真球状であることが好ましい。また、はんだ粉末の粒径は、通常のものであれば第1の実施形態で開示したフラックスと混合され得る。なお、例えば、真球のはんだ粉末が採用される場合、直径5μm以上60μm以下のはんだ粉末が採用されるとことは、微小電子部品の実装の高精度化が図られる点で好ましい。また、はんだ粉末を構成する組成の組成比率も特に限定されない。例えば、Sn63/Pb37、Sn96.5/Ag3.5、Sn96/Ag3.5/Cu0.5、Sn96.6/Ag2.9/Cu0.5、Sn96.5/Ag3.0/Cu0.5等が、好適なはんだ粉末の一例として挙げられる。なお、前述の各数値は、各金属の重量比を示す。
【0032】
これまで述べたとおり、上述の方法により製造された本実施形態のはんだペーストは、量産時における連続的なはんだペーストの印刷性において非常に優れている。なお、はんだペーストをスクリーン印刷に使用する場合に、適度な硬さや変形性を付与することができるため、本実施形態のはんだペーストの常温における弾性率が1000Pa以上100000Pa以下であることは好ましい一態様である。
【0033】
なお、本実施形態のはんだペーストが製造される際に、必要に応じて溶剤が用いられてもよい。溶剤の種類は特に限定されない。しかしながら、沸点150℃以上の溶剤が採用されることは、はんだペーストの製造中に蒸発しにくい点から好ましい。具体的には、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルアセテート、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、α−テルピネオール、ベンジルアルコール、2−ヘキシルデカノール、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、ドデカン、テトラデセン、ドデシルベンゼン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5−ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトールが挙げられる。好ましくは、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルアセテート等が、溶剤の例として挙げられる。
【0034】
また、本実施形態において使用される溶剤の好ましい一例は、容易に活性剤や樹脂等の成分を溶解することにより溶液にすることができる極性溶剤である。代表的には、アルコール系が使用され、特に、ジエチレングリコールモノエーテル類は、揮発性及び活性剤の溶解性が優れている。なお、前述の溶剤が使用される場合、その溶剤の使用量は特に制限されない。しかしながら、フラックス100重量部に対して、前述の溶剤が15重量部以上40重量部以下となることが印刷作業性やペーストの安定性の観点から好ましい。但し、複数の溶剤が併用される場合は、それらの溶剤の合計量が前述の範囲に入ることが好ましい。また、前述の観点から言えば、前述の溶剤が20重量部以上35重量部以下となることがさらに好ましい。
【0035】
以下に、上述の実施形態を、実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0036】
[実施例1]
表1に記載された各成分を用いて調製されたはんだペースト用フラックスを11重量部と、粒度分布がIPC規格におけるType4に相当するはんだ粉末(錫:96.5重量%、銀:3.0重量%、銅:0.5重量%)を89重量部とをプラネタリーミキサーを用いて混合することにより、はんだペーストが調製された。なお、前述のはんだペースト用フラックスの調製に使用した高密度ポリエチレンの平均粒径は約20μm、粘度分子量は約3000、融点は120℃、酸価は0、ガラス転移温度は−50℃であった。また、アクリル樹脂の重量平均分子量は約9000、酸価は0、ガラス転移温度は−60℃であった。
【0037】
本実施例1のはんだペーストを用いて、室温(25℃)における動的粘弾性測定(Haake社製MARSを使用)が実施された。なお、具体的な測定方法は以下のとおりである。
(1)まず、直径20mmのチタン製並行平板を用いて、間隙が0.5mmになるようにはんだペースト(試料)を挟み込む。
(2)次に、周波数0.5Hzにおいて、その試料に対して3Paから3000Paまでせん断応力を掃引しながら印加する。
(3)(2)のせん断応力が印加されたときの動的貯蔵弾性率と動的損失弾性率を測定する。
【0038】
本実施例1では、上述のように測定された動的貯蔵弾性率と動的損失弾性率とが等しくなる点が、極低せん断応力印加時において固形状である物質が液状物質へと変化する流動化点であると評価する。
【0039】
さらに、本実施例1のはんだペースト(試料)に対して、連続ローリング(スキージング)試験を4時間行った。具体的には、ポリウレタンゴム製スキージ(硬度90)を用いて、スキージ角度60°、印刷タクト30秒、及びストローク300mmの条件下で4時間、連続的にスキージングを行った。なお、試料投入量は500gであった。このようにして得られた連続ローリング後の試料についても、上述と同様の動的粘弾性測定が実施された。
【0040】
[実施例2]
本実施例2のはんだペーストも、実施例1と同様に製造される。なお、本実施例2のはんだペーストでは、はんだペースト用フラックスのアクリル樹脂及びロジン類の組成比が実施例1のそれらと異なっている点を除いては、実施例1と同じである。従って、重複する説明は省略される。
【0041】
[実施例3]
本実施例3のはんだペーストも、実施例1と同様に製造される。なお、本実施例3のはんだペーストでは、はんだペースト用フラックスのアクリル樹脂及びロジン類の組成比が実施例1のそれらと異なっている点を除いては、実施例1と同じである。従って、重複する説明は省略される。
【0042】
[実施例4]
本実施例4のはんだペーストも、実施例1と同様に製造される。なお、本実施例4のはんだペーストでは、はんだペースト用フラックスのアクリル樹脂及びロジン類の組成比が実施例1のそれらと異なっている点を除いては、実施例1と同じである。従って、重複する説明は省略される。
【0043】
[比較例1]
比較例1のはんだペーストも、実施例1と同様に製造される。なお、比較例1のはんだペーストでは、はんだペースト用フラックスのアクリル樹脂及びロジン類の組成比が実施例1のそれらと異なっている点を除いては、実施例1と同じである。従って、重複する説明は省略される。
【0044】
[比較例2]
比較例2のはんだペーストも、実施例1と同様に製造される。なお、比較例2のはんだペーストでは、はんだペースト用フラックスのアクリル樹脂及びロジン類の組成比が実施例1のそれらと異なっている点を除いては、実施例1と同じである。従って、重複する説明は省略される。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
図2は、実施例1におけるはんだペースト(以下、試料1Aともいう。)の動的粘弾性測定結果を示すグラフである。また、表2は、実施例1乃至実施例4、比較例1、及び比較例2のはんだペースト動的粘弾性測定結果を端的に示す表である。また、表3は、実施例1乃至実施例4、比較例1、及び比較例2の各性能を端的に示す表である。
【0049】
図2及び表2に示すように、実施例1の試料1Aの製造当初(以下、初期ともいう。)では、9.9Paのせん断応力が印加された際の動的貯蔵弾性率は4950Paであった。また、そのときの動的貯蔵弾性率は動的損失弾性率よりも大きいため、試料1Aは固体状の物質であると判断できる。しかし、試料1Aに対して59.6Paのせん断応力が印加された場合、動的貯蔵弾性率と動的損失弾性率とが同値(1176Pa)となったため、このせん断応力値が流動開始点と判断できる。
【0050】
次に、試料1Aに対して上述の連続ローリング(スキージング)試験が4時間行われた。その結果、連続ローリング試験を経たはんだペースト(以下、試料1Bともいう。)では、9.9Paのせん断応力が印加された際の動的貯蔵弾性率は7570Paであった。また、そのときの動的貯蔵弾性率は動的損失弾性率よりも大きいため、試料1Bは固体状の物質であると判断できる。しかし、試料1Bに対して80.5Paのせん断応力が印加された場合、動的貯蔵弾性率と動的損失弾性率とが同値(1228Pa)となったため、このせん断応力値が流動開始点と判断できる。
【0051】
上述のとおり、試料1Aと試料1Bを比較すると、流動開始点が高せん断応力側に多少シフトしているが、そのシフト量(以下、S値ともいう。)は100Pa以下に過ぎない。つまり、実施例1のはんだペーストは、粘弾性特性の変化量が非常に小さい、すなわち疲労劣化の抑制されたフラックスを含有していることが分かる。従って、実施例1のはんだフラックスを用いることにより、連続的なはんだペーストの印刷性やはんだ付け性の劣化が非常に抑制されていることが明らかとなった。
【0052】
次に、実施例1と同様に、実施例2乃至実施例4のはんだペーストについての動的粘弾性が測定された。その結果、実施例2乃至実施例4のいずれのはんだペーストも、実施例1のはんだペーストと同様、粘弾性特性の変化量が非常に小さい、すなわち疲労劣化の抑制されたフラックスを含有していることが分かった。従って、実施例2乃至実施例4のいずれのはんだフラックスを用いた場合であっても、連続的なはんだペーストの印刷性やはんだ付け性の劣化が非常に抑制されていることが明らかとなった。他方、比較例1のはんだペーストは、上述のS値が100Pa以上となった。従って、比較例1のはんだペーストは、粘弾性特性の変化量が大きい、すなわち疲労劣化を生じさせるフラックスを含有するために、量産時における連続的なはんだペーストの印刷性やはんだ付け性に劣ることが確認された。また、比較例2のはんだペーストでは、連続ローリング前の初期状態ですでに貯蔵弾性率が損失弾性率よりも小さく、換言すればS値は存在しなかった。このとき、比較例2はんだペーストは液体状の流動性の高い性質を持ち、4時間の連続ローリング後においても高い流動性を保持していた。従って、このような流動性が高い物質は、基板上に転写されたペーストがその形態を維持できないため、スクリーン印刷に用いるはんだペーストとして好ましくない。
【0053】
加えて、表3に示すように、実施例1乃至実施例4、及び2つの比較例のはんだペーストについて、「ぬれ性」、「はんだボール」、「耐加熱だれ性」及び「印刷性」に関する特性が調査された結果、実施例1乃至実施例4のはんだペーストについては、初期及び4時間経過後のいずれも良好な特性が得られた。他方、比較例1及び比較例2については、前述の各種特性のうち、少なくとも1つの特性について、基本的な特性であるはんだ付け性及び量産適用性の観点で好ましくない結果が得られた。
【0054】
ところで、上述の各実施形態及び各実施例では、高密度ポリエチレンが樹脂添加物としてフラックス又ははんだペーストに含有されている。ここで、この高密度ポリエチレンについては、粒子状の高密度ポリエチレンの粒径、粒径分布、又は形状が、以下のa)〜d)の条件のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい一態様である。
a)その高密度ポリエチレンの粒径の最長径の平均粒径が、0.001μm以上50μm以下である。
b)光学顕微鏡により倍率200倍で観察したときに、上述のはんだペースト用フラックスの無作為に選んだ1.5mm×1.1mmの視野中における粒径の最長径が60μm以下である高密度ポリエチレンの個数が、その高密度ポリエチレンの総数の90%以上である
c)光学顕微鏡により倍率100倍で観察したときに、上述のはんだペースト用フラックスの無作為に選んだ3.1mm×2.3mmの視野中における粒径の最長径が100μm以上である高密度ポリエチレンの個数が、その高密度ポリエチレンの総数の1%以下である
d)その高密度ポリエチレンが多面形である。
前述の条件を満足することにより耐加熱だれ性が向上する。従って、例えば、フラックス又ははんだペースト中の高密度ポリエチレンが微細化された電極等の上に配置される確度が高まるため、電子回路部品等の微細化への適用性がさらに高まる。なお、多くの高密度ポリエチレンが多面形である。なお、上記の各条件a)〜d)のうち2つ以上を同時に満たすことがより好ましく、全ての条件を同時に満たすことは、さらに好ましい。
【0055】
また、高密度ポリエチレンの粘度分子量が、1500以上4500以下であることは好ましい一態様である。この粘度分子量の範囲を満足すれば、加熱時の「だれ」の抑制作用がさらに向上する。
【0056】
また、高密度ポリエチレンの融点が、110℃以上130℃以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。この融点の範囲を満足すれば、加熱時の「だれ」の抑制作用がさらに向上する。
【0057】
また、高密度ポリエチレンの酸価が1以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。この酸価の範囲を満足すれば、高密度ポリエチレンの添加による絶縁信頼性の低下を防止することができる。
【0058】
加えて、高密度ポリエチレンのガラス転移温度が、−50℃以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。このガラス転移温度の範囲を満足すれば、特に車載電子部品用ペーストに求められる、フラックス残渣の耐亀裂性の劣化を抑えることができる。
【0059】
なお、上述の高密度ポリエチレンの代わりに、ポリプロピレンが含有されても、上述の各実施形態及び各実施例の少なくとも一部の効果が奏され得る。このポリプロピレンについては、粒子状のポリプロピレンの粒径、粒径分布、又は形状が、以下のa)〜d)の条件のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい一態様である。
a)そのポリプロピレンの粒径の最長径の平均粒径が、0.001μm以上50μm以下である。
b)光学顕微鏡により倍率200倍で観察したときに、上述のはんだペースト用フラックスの無作為に選んだ1.5mm×1.1mmの視野中における粒径の最長径が60μm以下であるポリプロピレンの個数が、そのポリプロピレンの総数の90%以上である
c)光学顕微鏡により倍率100倍で観察したときに、上述のはんだペースト用フラックスの無作為に選んだ3.1mm×2.3mmの視野中における粒径の最長径が100μm以上であるポリプロピレンの個数が、そのポリプロピレンの総数の1%以下である
d)そのポリプロピレンが多面形である。
前述の条件を満足することにより耐加熱だれ性が向上する。従って、例えば、フラックス又ははんだペースト中のポリプロピレンが微細化された電極等の上に配置される確度が高まるため、電子回路部品等の微細化への適用性がさらに高まる。
【0060】
また、ポリプロピレンの粘度分子量が、5000以上20000以下であることは好ましい一態様である。この粘度分子量の範囲を満足すれば、加熱時の「だれ」の抑制作用がさらに向上する。
【0061】
また、ポリプロピレンの融点が、130℃以上160℃以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。この融点の範囲を満足すれば、加熱時の「だれ」の抑制作用がさらに向上する。
【0062】
また、ポリプロピレンの酸価が1以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。この酸価の範囲を満足すれば、ポリプロピレンの添加による絶縁信頼性の低下を防止することができる。
【0063】
加えて、ポリプロピレンのガラス転移温度が、0℃以下であることも、もう1つの好ましい一態様である。このガラス転移温度の範囲を満足すれば、特に車載電子部品用ペーストに求められる、フラックス残渣の耐亀裂性の劣化を抑えることができる。
【0064】
さらに、上述の高密度ポリエチレン又は上述のポリプロピレンの一方のみが含まれるはんだペーストだけではなく、その両方が含まれるはんだペースト用フラックスも電子回路部品等の微細化への適用性を高める観点で好ましい一態様である。
【0065】
加えて、上述の高密度ポリエチレン及び/又は上述のポリプロピレンが含有されるはんだペーストが、高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸、及びジアミンを脱水反応させることにより得られる100℃以上の融点を有するワックス状生成物をさらに含むことは、他の好ましい一態様である。このワックス状生成物は、上述の高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの作用を助けることができる。
【0066】
上述の実施形態及び各実施例は、本発明を何ら限定するものではない。上述の実施形態及び各実施例の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のはんだペースト用フラックス及びはんだペーストは、電子回路部品等の種々の用途のはんだ接続に極めて有用である。
【符号の説明】
【0068】
10 基板
12 電極
14 印刷用マスク板
16 はんだペースト
20 スキージ
30 電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以上C15以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと前記(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとのラジカル共重合により得られるアクリル樹脂と、ロジン類とを含むとともに、前記ロジン類を1としたときの前記アクリル樹脂の重量比が、0.5以上1.2以下であり、且つ10Pa以上150Pa以下のせん断力を与えることにより流動化する
はんだペースト用フラックス。
【請求項2】
前記アクリル樹脂の含有量が、15重量%以上30重量%以下である
請求項1に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項3】
前記アクリル樹脂の重量平均分子量が、6000以上12000以下であり、かつ数平均分子量が4000以上6000以下である
請求項1又は請求項2に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項4】
前記ロジン類が、アクリル酸付加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び水素添加ロジンから構成される群から選ばれる少なくとも1種類である
請求項1又は請求項2に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項5】
前記ロジン類の含有量が、15重量%以上30重量%以下である
請求項1又は請求項2に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のはんだペースト用フラックスを含有する
はんだペースト。
【請求項7】
常温における弾性率が、1000Pa以上100000Pa以下である
請求項6に記載のはんだペースト。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−121059(P2011−121059A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278210(P2009−278210)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000143215)株式会社弘輝 (7)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)