説明

はんだペースト

【課題】フラックス残渣にべとつき及び亀裂が生じることが抑制されたはんだペーストを提供する。
【解決手段】フラックスにロジンが含有されたはんだペーストであって、ヨウ素価が140g/100g以上であり、分子構造の45%以上が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエンが、フラックス中に10〜30重量%含有された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスにロジンが含有されたはんだペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、分子量1000〜3000のアタクティック1,2−ポリブタジエンの不飽和結合部分に水素を添加して飽和結合としたものを含有するソルダペースト用フラックス組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−24488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献1に示されるソルダペースト用フラックス組成物に含まれるポリブタジエンでは、不飽和結合部分に水素が添加されている(ポリブタジエンのヨウ素価が低くなっている)。そのため、ポリブタジエンとペースト中に含まれる成分(例えばロジン)とが反応し難く、はんだ付け後に形成されるフラックス残渣には、ロジン、ポリブタジエンに起因するべとつきが残り、フラックス残渣に異物が付着し易くなる。
【0005】
上記したポリブタジエンは、ヨウ素価が低く他の物質と反応し難いので、ポリブタジエン単体の振る舞いを示す。ポリブタジエンは熱可塑性樹脂なので、外部環境が高温になると液化が進む。フラックス残渣に導電性の異物が付着していると、その異物が液化したポリブタジエン中(フラックス残渣中)に浸透し、浸透した異物を介して、電極間が短絡する虞がある。
【0006】
また、ロジンとポリブタジエンとは反応し難いので、ロジンは単体の振る舞いを示す。したがって、外部環境が低温になると、ロジン同士が結合して、ロジンの結晶化が進む。この結晶化したロジンは、脆性を有するので、外部環境の温度変化によって、フラックス残渣に亀裂が生じ易くなる。このような亀裂が電極間にわたって形成され、この亀裂に導電性の液体が染み込むと、電極間が短絡する虞がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、フラックス残渣にべとつき及び亀裂が生じることが抑制されたはんだペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、フラックスにロジンが含有されたはんだペーストであって、ヨウ素価が140g/100g以上であり、分子構造の45%以上が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエンが、フラックス中に10〜30重量%含有されたことを特徴とする。
【0009】
このように本発明によれば、不飽和結合部分が飽和結合とされたポリブタジエンと比べてヨウ素価の高いポリブタジエンが、フラックス中に含有されている。これによれば、はんだ付けにて、ロジンとポリブタジエンとの加熱硬化反応が進行し、ポリブタジエンにロジンが結合した結合物質が形成される。この結合物質は安定状態にあるので、ロジン、ポリブタジエンに起因するべとつきがフラックス残渣に生じ難くなる。これにより、フラックス残渣への異物の付着が抑制され、フラックス残渣中に浸透した異物を介して、電極間が短絡することが抑制される。
【0010】
また、上記したように、結合物質は安定状態にあるので、外部環境が低温になっても、ロジンの結晶化が抑制される。このように、脆性を有する、結晶化したロジンが、フラックス残渣中に含まれ難くなるので、外部環境が温度変化しても、フラックス残渣に亀裂が生じ難くなる。これにより、亀裂に導電性の液体が染み込んだ結果、電極間が短絡することが抑制される。
【0011】
なお、上記した作用効果を裏づける実験結果は、実施形態にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フラックス残渣を説明するための上面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】はんだペーストに含まれる樹脂材料のフラックス中の含有量と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。
【図4】はんだペーストに含まれる樹脂材料の分子構造と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。
【図5】はんだペーストに含まれる樹脂材料のヨウ素価と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、基板への電子部品のはんだ付けに使用した場合の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、フラックス残渣を説明するための上面図である。図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図3は、はんだペーストに含まれる樹脂材料のフラックス中の含有量と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。図4は、はんだペーストに含まれる樹脂材料の分子構造と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。図5は、はんだペーストに含まれる樹脂材料のヨウ素価と、フラックス残渣のべとつき及び亀裂との関係を示す説明図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、はんだ10は、電子部品30の電極31と、基板50の電極51とを電気的に接続している。電極31,51それぞれをはんだ付けする際、はんだペーストに含まれるロジンやゴム成分が染み出して、フラックス残渣11が形成され、各電極31,51の電気的な接続部位が、フラックス残渣11によって被覆保護される。
【0015】
本実施形態に係るはんだペーストは、フラックス中に、ロジン、及び、はんだ粉末の他、ヨウ素価が140g/100g以上であり、分子構造の45%以上が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエンが10〜30重量%含有されていることを特徴点とする。以下、この特徴点を、図3〜図5に基づいて説明する。
【0016】
図3〜図5は、ピッチが0.5mmの複数の電極31を有する電子部品30を基板50にはんだ付けした際、基板50に形成されるフラックス残渣11に、べとつき及び亀裂が生じたか否かを示している。べとつきの評価は、異物をフラックス残渣11に乗せた後、基板50を傾けて、重力落下するか否かによって判定した。図3〜図5では、異物が重力落下した場合に、べたつきがないと判断して○、重力落下しなかった場合に、べたつきがあると判断して×をつけている。また、亀裂の評価は、−30℃を30分維持した後、温度を80℃まで上げて30分維持する。その後、80℃を30分維持した後、温度を−30℃まで下げて30分維持する。これを1サイクルとして250サイクル行った後、隣接する電極31間にわたって亀裂が生じているか否かによって判断した。図3〜図5では、隣接する電極31間にわたって亀裂が生じていなかった場合に、亀裂がないと判断して○、隣接する電極31間にわたって亀裂が生じた場合に、亀裂があると判断して×をつけている。
【0017】
図3では、フラックス中の水酸基末端液状ポリブタジエン(以下、単にポリブタジエンと示す)の含有量を重量%で示している。図中に示すように、出光製のR−15HT(ヨウ素価が260g/100gであり、分子構造の80%が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエン)の場合、フラックス中の含有量が10〜30重量%の時、フラックス残渣11のべとつき及び亀裂の評価が共に○となっている。これに対して、日本曹達のG−2000(ヨウ素価が21g/100gであり、分子構造の15%以下が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエン)の場合、フラックス残渣11のべとつき、及び、亀裂の評価が共に○にはなっていない。また、出光製のエポール(ヨウ素価が5g/100gであり、分子構造の80%が1,4結合型である水酸基末端液状ポリオレフィン)の場合、フラックス残渣11のべとつき、及び、亀裂の評価が共に○にはなっていない。
【0018】
図4では、ポリブタジエンの1,4結合の割合を%で示している。本実験では、1,4結合の割合の異なるR−15HTとG−2000の混合割合を調整することで、ポリブタジエンの1,4結合の割合を変化させている。図中に示すように、1,4結合の割合が45%以上の場合に、フラックス残渣11のべとつき及び亀裂の評価が共に○となっている。これに対して、1,4結合の割合が38%以下の場合、フラックス残渣11のべとつきの評価は○だが、亀裂の評価が×となっている。
【0019】
図5では、ポリブタジエンのヨウ素価をg/100gで示している。本実験では、ヨウ素価の異なるR−15HTとエポールの混合割合を調整することで、ポリブタジエンの1,4結合の割合を変化させている。図中に示すように、ヨウ素価がおよそ140g/100g以上の場合に、フラックス残渣11のべとつき及び亀裂の評価が共に○となっている。これに対して、ヨウ素価が133g/100g以下の場合に、フラックス残渣11のべとつきの評価は○だが、亀裂の評価が×となっている。
【0020】
なお、上記したように、エポールは、水酸基末端液状ポリオレフィン(以下、単にポリオレフィンと示す)であり、ポリブタジエンではない。しかしながら、ポリオレフィンとポリブタジエンとは、分子の主鎖が異なるだけなので、ヨウ素価の割合判定に支障がないと思われる。このように、わざわざエポールを用いたのは、ヨウ素価の低いポリブタジエンは常温で固体となり、ヨウ素価の高いポリブタジエンと混合することができないからである。
【0021】
次に、本実施形態に係るはんだペーストの作用効果を説明する。上記したように、はんだペーストのフラックス中には、ロジン、及び、はんだ粉末の他、ヨウ素価が140g/100g以上であり、分子構造の45%以上が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエンが10〜30重量%含有されている。このようなはんだペーストを用いてはんだ付けを行った際に形成されるフラックス残渣11のべとつき及び亀裂の評価は、実験の結果、共に○となっている。すなわち、異物をフラックス残渣11に乗せて、基板50を傾けた場合、異物が重力落下する。そして、−30℃を30分維持した後、温度を80℃まで上げて30分維持する。その後、80℃を30分維持した後、温度を−30℃まで下げて30分維持する。これを1サイクルとして250サイクル行った後においても、隣接する電極31間にわたって亀裂が生じなかった。
【0022】
このように、フラックス残渣11のべとつき及び亀裂の評価が共に○となった理由は、はんだ付けにて、フラックス中に含まれるロジンとポリブタジエンとの加熱硬化反応が進行し、ポリブタジエンにロジンが結合した結合物質が形成されるためであると考えられる。結合物質は安定状態にあるので、ロジン、ポリブタジエンに起因するべとつきがフラックス残渣11に生じ難くなる。これにより、フラックス残渣11への異物の付着が抑制され、フラックス残渣11中に浸透した異物を介して、電極間が短絡することが抑制される。
【0023】
また、結合物質は安定状態にあるので、外部環境が低温になっても、ロジンの結晶化が抑制される。このように、脆性を有する、結晶化したロジンが、フラックス残渣11中に含まれ難くなるので、外部環境が温度変化しても、フラックス残渣11に亀裂が生じ難くなる。これにより、亀裂に導電性の液体が染み込んだ結果、電極間が短絡することが抑制される。
【0024】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
10・・・はんだ
11・・・フラックス残渣
30・・・電子部品
31・・・電極
50・・・基板
51・・・電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスにロジンが含有されたはんだペーストであって、
ヨウ素価が140g/100g以上であり、分子構造の45%以上が1,4結合型である水酸基末端液状ポリブタジエンが、前記フラックス中に10〜30重量%含有されたことを特徴とするはんだペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−94781(P2013−94781A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236421(P2011−236421)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】