説明

ひび割れ抑制コンクリート及びコンクリートのひび割れ抑制方法

【課題】 主として温度ひずみに起因するコンクリート中への応力残存やひび割れの発生を抑制することを一の課題とする。
【解決手段】 セメント、骨材、及び膨張材を含有し、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合で構成され、前記骨材のうち10〜100体積%が軽量骨材であることを特徴とするひび割れ抑制コンクリートによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れ抑制コンクリート及びコンクリートのひび割れ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートにおいて生じるひび割れは、水の蒸発によって起こる乾燥に起因する乾燥収縮、水和反応によって起こる自己乾燥に起因する自己収縮、及び、セメントの水和反応の進行によって起こるコンクリートの温度上昇および温度降下に起因する温度ひずみなどが原因となっているものと考えられる。
【0003】
温度ひずみは、セメントの水和反応による発熱によってコンクリート内部が温度上昇して膨張し、その後の温度降下によって収縮することで生じるものである。特に、断面が比較的大きなコンクリート構造物(マスコンクリート構造物)や、断面がさほど大きくなくとも単位セメント量(単位結合材量)の多いコンクリート構造物では、セメントの水和反応による発熱が外環境に放出されにくいために温度ひずみが生じやすく、「温度ひび割れ」と称される割れ幅の大きなひび割れが発生しやすいという問題がある。
【0004】
一方、自己収縮は、セメントの水和反応によって細孔中の水が消費されて生じるものであると考えられ、特に、水セメント比の小さな高強度コンクリートでは、このような自己乾燥に起因する自己収縮が顕著に現れる。
【0005】
従来、高強度コンクリートの自己収縮を抑制する方法として、粗骨材の30容量%以下を特殊な高強度の人工軽量骨材で置換し、コンクリート中に配合する方法が提案されている(特許文献1)。該特許文献1記載の方法によれば、特殊な高強度の人工軽量骨材をコンクリート中に配合することにより、該人工軽量骨材が保有する水分によって水和反応で消費される水分を補充して自己乾燥に起因する自己収縮の低減を図り、しかも、圧縮強度が100N/mm2を超えるような超高強度のコンクリートが得られる旨が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−22931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の方法では、自己乾燥に起因する自己収縮ひずみの低減や、これに起因するひび割れの抑制に対しては或る程度の有効性はあるものの、上述のような温度ひずみによるひび割れの発生や応力の残存に対しては、これを有効に防止することはできない。
【0008】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、主として温度ひずみに起因するひび割れの抑制やコンクリート内部における応力残存を低減することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は、セメント、骨材、及び膨張材を含有し、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合で構成され、前記骨材のうち10〜100体積%が軽量骨材であることを特徴とするひび割れ抑制コンクリートを提供する。
また、本発明は、セメント、骨材、及び膨張材を用い、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合に調製し、前記骨材のうち10〜100体積%を軽量骨材とすることを特徴とするコンクリートのひび割れ抑制方法を提供する。
【0010】
本発明に係るひび割れ抑制コンクリートによれば、セメントの水和反応による温度上昇時に膨張材の水和による膨張反応が進行し、硬化したセメントペーストや硬化したモルタルよりも圧縮弾性率の低い軽量骨材に圧縮弾性ひずみが蓄積されることとなる。そして、圧縮強度が80N/mm2以下となるコンクリートの配合において、このような軽量骨材が全骨材量のうち10〜100体積%となるように配合されたことにより、温度上昇時においては該軽量骨材が十分な圧縮ひずみを蓄積した状態となる。その後、温度降下によってコンクリートが収縮しようとする際、該軽量骨材中に蓄えられた圧縮弾性ひずみが解放され、しかも硬化したセメントペーストや硬化したモルタルよりも前記軽量骨材の戻りひずみ量が大きいため、収縮により生じる温度ひずみを低減することができ、また、これを主要因として生じるコンクリートのひび割れを抑制することができる。
【0011】
また、圧縮強度が80N/mm2以下となるコンクリートの配合において、軽量骨材が全骨材量のうち10〜100体積%となるように配合されたことにより、該軽量骨材が十分な水分貯蔵機能を発揮し、軽量骨材の空隙中に含浸した水が、コンクリートの硬化過程で徐々にセメントや膨張材の水和反応に供給されることとなる。これにより、温度降下過程において、該軽量骨材から供給される水によって膨張材の膨張作用やセメントの水和反応による膨張作用を持続させることができ、収縮を低減させる効果も発揮されると考えられる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係るひび割れ抑制コンクリートによれば、主として温度ひずみに起因するコンクリート中への応力残存が低減され、これらが要因となって発生するひび割れが効果的に抑制され、コンクリートに発生するひび割れ幅が小さくなり、又は、コンクリートに発生するひび割れ本数が減るという効果がある。
【0013】
特に、本発明に係るひび割れ抑制コンクリートは、断面が比較的大きいマスコンクリート構造物や、単位セメント量の多いコンクリート構造物において顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るコンクリートは、セメント、骨材、及び膨張材を含有し、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合で構成され、前記骨材のうち20〜100体積%が軽量骨材であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明において用いられる軽量骨材としては、従来、コンクリートに使用されている公知の軽量骨材と同様のものを使用することができる。該軽量骨材としては、例えば、水砕スラグ、シラス、黒曜石等を粒度調整し、必要に応じて発泡剤等を加えて加熱して発泡させた無機発泡体や、泡ガラス、廃棄泡ガラス等を粉砕して粒度調整したガラス粉末等を挙げることができる。また、これらの人工の軽量骨材のみならず、天然の軽量骨材を使用することもできる。
【0016】
該軽量骨材は、絶乾密度が1.2〜2.0g/cm3であるものが好ましい。また、該軽量骨材は、圧壊荷重が500〜1000Nのものが好ましく、600〜900Nであるものがより好ましい。
【0017】
このような比較的圧壊荷重の低い軽量骨材を使用することにより、膨張材やセメントの水和反応によって生じるコンクリートの膨張が、該軽量骨材中の圧縮弾性ひずみとして蓄積されやすくなり、温度ひずみ及び温度ひび割れをより効果的に抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明において用いられる軽量骨材は、予め水が含浸されているか否かに拘らず、如何なる含水率の軽量骨材でも使用することができる。
【0019】
該軽量骨材は、コンクリートを構成する骨材のうち、10体積%以上、100体積%以下となるように配合されるが、好ましくは下限が15体積%、より好ましくは下限が18体積%となるように配合される。
また、該軽量骨材の粒径については特に限定されず、粗骨材又は細骨材のどちらであってもよい。
【0020】
また、本発明において用いられる膨張材としては、水和反応によって体積膨張しうるものであれば特に限定されるものではない。該膨張材としては、例えば、カルシウムサルホアルミネートからエトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O)を生成することによって膨張するものや、水酸化カルシウムの生成による水和膨張で膨張するものなどを挙げることができる。
また、該膨張材としては、JIS A 6202に適合する膨張材を好適に使用することができる。
【0021】
該膨張材の配合量は、コンクリート1m3当たり60kg以下とすることが好ましく、10〜50kgとすることがより好ましい。
【0022】
また、本発明に係るコンクリートは、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合のコンクリートであれば、該コンクリートの用途に応じて種々の水結合材比で配合して得ることができるが、とりわけ、水結合材比が35〜80重量%として調製されるコンクリートが好ましい。このような水結合材比のコンクリートであれば、本発明によって奏される温度ひずみ低減効果及び温度ひび割れ抑制効果がより一層顕著に発揮されることとなる。
【0023】
さらに、本発明において用いられるセメントについては特に限定されず、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末等の混和材を任意の割合で混入した各種混合セメントを使用することができる。
【0024】
本発明に係るひび割れ抑制コンクリートは、圧縮強度が80N/mm2以下のコンクリートを対象とするものであるが、圧縮強度が20〜50N/mm2のコンクリートに特に好適である。
【0025】
また、本発明に係るコンクリートには、本発明の目的を阻害しない範囲内において他の材料を配合することも可能である。他の材料としては、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤などの化学混和剤や、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等の各種混和材、石灰石粉末等を例示することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1、2及び比較例1〜4)
セメント、膨張材、粗骨材、軽量骨材、水、細骨材及び混和剤を下記表1に示す配合にて混合し、実施例及び比較例のコンクリートを調製した。尚、使用した材料は、以下のとおりである。
セメント:住友大阪セメント社製、普通ポルトランドセメント(密度3.15g/cm2
膨張材:電化社製、商品名「CSA#20」(密度2.98g/cm2
軽量骨材:日本メサライト工業社製、人工軽量骨材、商品名「メサライト粗骨材」(絶乾密度1.64g/cm2、圧壊荷重800〜900N)
粗骨材:砕石(密度2.6g/cm2
細骨材:川砂(密度2.63g/cm2
混和剤:NMB社製、減水剤
【0028】
(温度ひずみの測定)
調製した実施例および比較例のコンクリートについて、図1に示したような試験装置を用いて応力を測定した。即ち、上記コンクリートを用いてコンクリート試験片1を作製し、該コンクリート試験片1の両端をクロスヘッド2にて固定するとともに、一方のクロスヘッド2には、ステッピングモータ3を用いて該試験片の長手方向に位置調節自在なロードセル4を隣接させて設置した。そして、クロスヘッド2の相対距離を、変位計を用いて測定し、該相対距離の変位量が0.5μmとなった際に前記ステッピングモータ3を作動させてロードセル4を元の位置まで強制的に戻し、その際に、該ロードセル4に作用する荷重(膨張又は収縮による荷重)を測定した。また、該コンクリート試験片1の内部に温度計を設置し、温度変化を測定した。このようにして、コンクリートの充填から約200時間経過後に至るまで、該コンクリート試験片1の膨張・収縮による応力と、内部温度を測定した。
図2に温度の測定結果、図3に応力の測定結果をそれぞれ示す。
【0029】
【表1】

【0030】
図2より、実施例及び比較例の何れのコンクリートにおいても、約15時間経過後までに約30℃の温度上昇が生じていることが認められる。特に、圧縮強度が100N/mm2を超えるような高強度コンクリートの配合で作製された比較例4では、60℃を超える温度上昇が生じていることがわかる。
【0031】
また、図3より、そのような温度上昇と対応するように、約15時間経過後までは各コンクリートにおいて圧縮応力が増加していることが認められる。さらに、圧縮応力がピーク値を越えた後、即ち、コンクリートの内部温度が降下するにつれ、該圧縮応力は逆に引張応力へと変化していることがわかる。そして、比較例1〜3のコンクリートでは、約200時間経過後には2〜3MPaの引張り応力が発生した状態となり、比較例4の高強度コンクリートでは、わずか50時間経過後に約3MPaの引張り応力が発生した状態となっている。これに対し、実施例1及び2のコンクリートでは、発生する応力は概ね0〜1.5程度となっており、温度変化によって生じる応力が効果的に抑制されていることが認められる。
【0032】
(実施例3〜9及び比較例5〜8)
同様にして、下記表2に示す配合によって実施例3〜9及び比較例5〜8のコンクリートを調製した。
【0033】
(温度ひずみの測定)
調製した実施例3〜9及び比較例5〜8のコンクリートを、複数のボルトを介してH型鋼に沿って拘束されるような状態で打設し、打設後200時間経過した際に、拘束体であるH型鋼に発生したひずみを測定することによって個々のコンクリート試験片に生じた内部応力を評価した。結果を併せて表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示したように、粗骨材における軽量骨材の割合が10体積%を超える実施例では、同割合が10体積%を下回る比較例よりも、コンクリート試験片に生じる内部応力が小さくなる傾向が認められた。特に、軽量骨材の割合が18体積%を超える実施例6〜9では、コンクリート試験片に生じる内部応力が非常に小さく、本発明による効果が顕著に現れていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】温度ひずみの測定装置の概略図。
【図2】実施例1、2及び比較例1〜4におけるコンクリートの温度測定結果を示したグラフ。
【図3】実施例1、2及び比較例1〜4におけるコンクリートの応力測定結果を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、及び膨張材を含有し、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合で構成され、前記骨材のうち10〜100体積%が軽量骨材であることを特徴とするひび割れ抑制コンクリート。
【請求項2】
水結合材比が、35〜80重量%であることを特徴とする請求項1記載のひび割れ抑制コンクリート。
【請求項3】
前記軽量骨材の圧壊荷重が1000N以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のひび割れ抑制コンクリート。
【請求項4】
前記膨張材が、コンクリート1m3当たり60kg以下の割合で配合されてなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のひび割れ抑制コンクリート。
【請求項5】
セメント、骨材、及び膨張材を用い、圧縮強度が80N/mm2以下となる配合に調製し、前記骨材のうち10〜100体積%を軽量骨材とすることを特徴とするコンクリートのひび割れ抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−44806(P2008−44806A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220347(P2006−220347)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年6月15日 社団法人 日本コンクリート工学協会発行の「コンクリート工学年次論文集 第28巻(2006)」に発表
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】