説明

ひび割れ誘発用断面欠損部材及びその設置構造

【課題】様々な断面寸法のコンクリート構造物に対応可能であって、かつ運搬時や建込み時あるいは取付け時の作業性を確保する。
【解決手段】本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3は、壁体2の断面中央に配置してある。ひび割れ誘発用断面欠損部材3を構成する断面欠損部材片5a,5b,5cはそれぞれ、全体形状が矩形状になるようにかつ山谷が繰り返し連続するように鋼板を折曲げ加工し、その一方の長手側縁部に第1の係合部21を設けるとともに、他方の長手側縁部に第2の係合部22を設けて構成してある。ひび割れ誘発用断面欠損部材3は、断面欠損部材片5a,5b,5cをそれらの短手方向に沿って長手方向が互いに平行になるように配置した上、第2の係合部22を第1の係合部21に係合させることで、断面欠損部材片5a,5b,5cを相互に連結して構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として大断面のコンクリート構造物に適用されるひび割れ誘発用断面欠損部材及びその設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物にひび割れが生じると、美観を損なうだけでなく、該ひび割れを介して雨水が浸透し、鉄筋の腐食を引き起こしたり、空気中の二酸化炭素によってコンクリートの中性化が促進され、やはり鉄筋腐食の原因となる。
【0003】
一方、コンクリート構造物には、コンクリート打設後の温度変化による収縮変形の拘束や、水分蒸発による乾燥によってひび割れが生じやすく、コンクリート配合や打設方法あるいは打設後の養生に十分な配慮をしたとしても、ひび割れ発生の抑制には限度があり、完全にひび割れを防止することは難しい。
【0004】
そのため、コンクリート構造物に断面欠損部を設けることにより、該断面欠損部にひび割れを計画的に集中発生させる対策が広く行われている。
【0005】
断面欠損部は、躯体表面側に溝状あるいはノッチ状の凹部からなるひび割れ誘発目地を形成するとともに、その背後に鋼板等からなる断面欠損部材を埋設する配置構成が広く採用されており、かかる配置構成においては、ひび割れ誘発目地と断面欠損部材とを結ぶ経路に沿ってあるいはその延長線上に沿ってひび割れを誘導制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−140363号公報
【特許文献2】特開2001−241117号公報
【特許文献3】特開2008−82126号公報
【特許文献4】特開2009−138399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、コンクリート構造物の断面寸法が大きくなると、躯体内に蓄積したセメントの水和熱による温度上昇及びその後の温度低下に起因した内部拘束によって、断面中央近傍に大きな引張応力が生じるため、上述の配置構成では、ひび割れを効率よく集中発生させることが難しくなる。
【0008】
かかる場合には、断面欠損部材を断面中央近傍に配置すればよいが、確実なひび割れ誘導制御のためには、壁厚に対する断面欠損率を20%以上、できれば25%以上確保することが望ましいとされているため(「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」、日本建築学会編、2006年2月10日発行)、断面欠損部材にはコンクリート躯体寸法に応じた幅が必要となる。
【0009】
しかしながら、さまざまなコンクリート断面寸法に対応すべく、異なる幅の断面欠損部材を予め準備することは、製作側で効率が悪いだけではなく、施工側においても、躯体寸法に応じた断面欠損部材の使い分けが必要になるため、作業が繁雑で施工ミスによる品質低下も懸念されるという問題を生じていた。
【0010】
また、断面欠損部材の幅を大きくすると、それに伴って大型化あるいは重量化が余儀なくされるため、運搬、建込み、取付けといった各作業での効率が低下するとともに製作コストも高くなるという問題も生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、異なる幅のものを個別に製作することなく、様々な断面寸法のコンクリート構造物に対応可能であって、かつ運搬時や建込み時あるいは取付け時の作業性を確保することが可能なひび割れ誘発用断面欠損部材及びその設置構造を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材は請求項1に記載したように、コンクリート躯体に埋設されることにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片からなるとともに、該複数の断面欠損部材片を、それらの長手側縁部で重ねられ又は相互に連結された状態で複数配置できるように構成したものである。
【0013】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材は、前記各断面欠損部材片を、一方の長手側縁部と他方の長手側縁部に第1の係合部と第2の係合部をそれぞれ設けて構成するとともに、長手側で互いに隣り合う2つの断面欠損部材片を、それらのうちの一方に設けられた第2の係合部と他方に設けられた第1の係合部とを係合することで相互に連結自在に構成したものである。
【0014】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材は、前記一方の断面欠損部材片に設けられた前記第2の係合部を、前記他方の断面欠損部材片に設けられた前記第1の係合部に係合した状態で該第1の係合部に対して進退自在に構成することにより、前記一方の断面欠損部材片と前記他方の断面欠損部材片との重ね幅を調整自在に構成したものである。
【0015】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造は請求項4に記載したように、ひび割れ誘発用断面欠損部材をコンクリート躯体に埋設することにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、いずれかの方向に沿った縁部で重ねられ又は相互に連結された状態で複数配置することで前記ひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、前記断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向が前記コンクリート躯体の表面にほぼ直交するように該コンクリート躯体の断面中央近傍に配置したものである。
【0016】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造は請求項5に記載したように、ひび割れ誘発用断面欠損部材をコンクリート躯体に埋設することにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、一方の方向に沿った縁部が千鳥状にずれた状態となるようにかつ他方の方向に沿った縁部で重ねられ又は相互に連結された状態となるように前記各方向に面状に複数配置することで前記ひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、前記断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向が前記コンクリート躯体の表面にほぼ直交するように断面中央近傍に配置したものである。
【0017】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造は、前記各断面欠損部材片を、連結される側の縁部に第1の係合部と第2の係合部をそれぞれ設けて構成するとともに、該連結される側で互いに隣り合う2つの断面欠損部材片を、それらのうちの一方に設けられた第2の係合部と他方に設けられた第1の係合部とを係合することで相互に連結したものである。
【0018】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造は、前記一方の断面欠損部材片に設けられた前記第2の係合部を、前記他方の断面欠損部材片に設けられた前記第1の係合部に係合した状態で該第1の係合部に対して進退させることにより、前記一方の断面欠損部材片と前記他方の断面欠損部材片との重ね幅を調整したものである。
【0019】
また、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造は、前記コンクリート躯体を壁体とし、前記ひび割れ誘発用断面欠損部材の下端を、既設の壁部分から突出するひび割れ誘発用断面欠損部材の上端に固定し、既設の壁部分若しくは底版の未硬化コンクリート天端に埋設し、又は既設の壁部分若しくは底版の硬化コンクリート天端に固定したものである。
【0020】
本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造においては、矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、いずれかの方向に沿った縁部で重ねられ、又はいずれかの方向に沿った縁部で相互に連結された状態で複数配置することで、ひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向がコンクリート躯体の表面にほぼ直交するように該コンクリート躯体の断面中央近傍に配置する。
【0021】
このようにすると、縁部の重ね幅を調整することにより、又は連結数を調整することにより、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を所望の幅に設定することが可能となる。
【0022】
そのため、コンクリート躯体の断面寸法に応じた断面欠損率を容易に確保することが可能となり、コンクリート構造物の躯体寸法ごとにひび割れ誘発用断面欠損部材を個別に製作しておく必要がなくなる。
【0023】
また、複数の断面欠損部材片でひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するようにしたので、ひび割れ誘発用断面欠損部材の大型化や重量化を避けることが可能となり、運搬、建込み、取付けといった各作業の効率が向上するとともに、製作コストも安価に抑えることができる。
【0024】
複数の断面欠損部材片を縁部で重ね合わせたり連結したりする際、短手側縁部で重ね合わせあるいは連結するのか、長手側縁部で重ね合わせあるいは連結するのかは任意であるが、コンクリート躯体の表面に平行な方向、典型的には鉛直上方への継ぎ足し数を減らすとともに、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅をより柔軟に設定するという観点では、複数の断面欠損部材片を長手側縁部で重ね合わせ、あるいは連結するのが望ましい。
【0025】
断面欠損部材片は、正面から見た場合に矩形状となるように構成されていればよく、短冊状あるいは長尺状になっているものも含まれる。なお、矩形状とは、4つの角が直角になる厳密な意味での矩形、例えば正方形や長方形だけではなく、4つの角が直角でない四角形をも含むものとし、例えば平行四辺形を含むものとする。
【0026】
断面欠損部材片をどのような材質で形成するかは任意であり、金属材料やプラスチック材料を用いて適宜形成することが可能である。
【0027】
一方、断面欠損部材片は、互いに重ねることができ又は連結させることができる限り、その断面形状は任意であって、平板で構成される場合をはじめ、凹凸に形成される場合も含まれる。後者の場合、凹凸に沿ってひび割れが誘導されやすくなるので、透水経路が長くなり、その結果、透水性の低下、換言すれば水密性の向上を期待することが可能になるとともに、面外曲げ剛性が高くなってコンクリート打設時の衝撃にも抵抗することができる。
【0028】
断面欠損部材片は、重ね幅を調整することにより、あるいは連結数を調整することによってひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を可変に設定できる限り、その重ね方や連結の仕方は任意であって、例えば、連結される側の縁部に第1の係合部と第2の係合部をそれぞれ設けて構成するとともに、該連結される側で互いに隣り合う2つの断面欠損部材片を、それらのうちの一方に設けられた第2の係合部と他方に設けられた第1の係合部とを係合することで相互に連結した構成とすることが可能である。
【0029】
なお、連結される側の縁部を短手側縁部とするか長手側縁部とするかはやはり任意であるが、コンクリート躯体の表面に平行な方向、典型的には鉛直上方への継ぎ足し数を減らすとともに、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅をより柔軟に設定するという観点では、上述したと同様、連結される側の縁部を長手側縁部とするのが望ましい。
【0030】
ここで、一方の断面欠損部材片に設けられた第2の係合部を、他方の断面欠損部材片に設けられた第1の係合部に係合した状態で該第1の係合部に対して進退自在に構成することにより、一方の断面欠損部材片と他方の断面欠損部材片との重ね幅を調整自在に構成したならば、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を各断面欠損部材片同士の重ね幅とそれらの連結数の双方で調整可能となり、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を、より柔軟に設定することができる。
【0031】
断面欠損部材片は、コンクリート躯体の表面に直交する方向に沿った複数設置のみ、いわば一段配置で足りる場合もあるが、コンクリート躯体の表面に平行な方向への継ぎ足しが必要な場合、典型的には壁が高いために鉛直上方への継ぎ足しが必要な場合には、多段配置にすることが可能である。
【0032】
この場合、矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、一方の方向に沿った縁部が千鳥状にずれた状態となるようにかつ他方の方向に沿った縁部で重ねられ又は相互に連結された状態となるように各方向に面状に複数配置することでひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向がコンクリート躯体の表面にほぼ直交するように断面中央近傍に配置する。
【0033】
コンクリート打設前にひび割れ誘発用断面欠損部材を仮固定するには、コンクリート打設時の衝撃等を考慮しつつ、例えば堰板や鉄筋に直接あるいは適当な治具を介して適宜固定すればよいが、ひび割れ誘発用断面欠損部材の下端を、
(a)既設の壁部分から突出するひび割れ誘発用断面欠損部材の上端に固定する
(b)既設の壁部分若しくは底版の未硬化コンクリート天端に埋設する
(c)既設の壁部分若しくは底版の硬化コンクリート天端に固定する
といった方法を採用すれば、配筋誤差の影響を受けることなく、ひび割れ誘発用断面欠損部材の下端を正確かつ強固に固定することができるとともに、堰板建込みの工程に拘束されたり配筋作業や堰板建込み作業と干渉したりするおそれもない。
【0034】
(c)の場合、未硬化コンクリートにアンカーボルトを予め埋設しておき、コンクリート硬化後、該アンカーボルトを介してひび割れ誘発用断面欠損部材を立設する方法と、硬化したコンクリートにアンカーを打ち込み、該アンカーを介してひび割れ誘発用断面欠損部材を立設する方法とが考えられる。
【0035】
なお、ひび割れ誘発用断面欠損部材の上端については、例えばコンクリート打設直前に堰板から控えをとって仮固定するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3とその設置構造1を示した断面図。
【図2】本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3を構成する断面欠損部材片のうち、断面欠損部材片5aを代表的に示した図であり、(a)はその平面図、(b)は同じく正面図。
【図3】同じく断面欠損部材片5aの全体斜視図。
【図4】ひび割れ誘発用断面欠損部材3の設置手順を示した図であり、(a)は水平断面図、(b)はひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端近傍を示す詳細斜視図。
【図5】ひび割れ誘発用断面欠損部材とその設置構造の変形例を示した断面図。
【図6】ひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端での別の固定方法を示した図。
【図7】変形例に係る断面欠損部材片を示した図。
【図8】別の変形例に係る断面欠損部材片とそれらからなるひび割れ誘発用断面欠損部材を示した水平断面図。
【図9】ひび割れ誘発用断面欠損部材の別の配置形態を示した全体斜視図。
【図10】断面欠損部材片を3列にして上方に継ぎ足していく様子を示した正面図であり、(a)は、正面形状が長方形の断面欠損部材片101を用いた場合の図、(b)は正面形状が平行四辺形の断面欠損部材片102を用いた場合の図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材及びその設置構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1は、本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材1とその設置構造を示した断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造1は、ひび割れ誘発用断面欠損部材3をコンクリート躯体である壁体2に埋設して構成してある。
【0039】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3は、壁体2の両側面に形成されたひび割れ誘発目地4,4を結ぶ仮想線上に沿って該壁体の側面とほぼ直交するように断面中央に配置してあるとともに、断面欠損部材片5a,5b,5cで構成してある。
【0040】
図2は、断面欠損部材片5aの平面図及び正面図、図3は同じく全体斜視図である。これらの図でわかるように、断面欠損部材片5aは、正面から見たときに全体形状が矩形になるようにかつ山谷が繰り返し連続するように鋼板を折曲げ加工し、その一方の長手側縁部に第1の係合部21を設けるとともに他方の長手側縁部に第2の係合部22を設けてある。
【0041】
断面欠損部材片5b,5cも断面欠損部材片5aと同様、正面から見たときに全体形状が矩形になるようにかつ山谷が繰り返し連続するように鋼板を折曲げ加工し、その一方の長手側縁部に第1の係合部21を設けるとともに他方の長手側縁部に第2の係合部22を設けてある。なお、断面欠損部材片5b,5cは、断面欠損部材片5aと同様であるので図面についてはこれを省略する。
【0042】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3は上述したようにかかる断面欠損部材片5a,5b,5cからなるものであって、図1でよくわかるように、断面欠損部材片5a,5b,5cをそれらの短手方向に沿って長手方向が互いに平行になるように配置した上、断面欠損部材片5aの第2の係合部22を該断面欠損部材片に隣り合う断面欠損部材片5bの第1の係合部21に係合させるとともに、断面欠損部材片5bの第2の係合部22を該断面欠損部材片に隣り合う断面欠損部材片5cの第1の係合部21に係合させることで、断面欠損部材片5a,5b,5cを相互に連結して構成してある。
【0043】
断面欠損部材片5a,5b,5cは例えば幅5〜20cm程度に形成すればよい。
【0044】
本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3を設置するには、図4(a)に示すように、まず、壁体2を構築するために建て込まれる堰板41,41に挟まれた空間の中央に該堰板と直交する姿勢でひび割れ誘発用断面欠損部材3を立設する。
【0045】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3は、堰板41,41の背面に取り付けられた目地棒42,42を結ぶ仮想線上に一致するように配置する。かかる仮想線に一致させるひび割れ誘発用断面欠損部材3の部位は、目地棒42,42との協働作用によって最も効率よくひび割れが誘発されるように適宜決定すればよく、例えば同図に示すようにひび割れ誘発用断面欠損部材3の全体中心とすることが考えられる。
【0046】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3を立設するには同図(b)に示すように、先行構築されている底版43にアンカーボルト44を予め埋設しておき、該アンカーボルトにアングル材45を介してひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端を取り付けるようにすればよい。
【0047】
アングル材45は、底版43に当接される当接片と該当接片の縁部からL字状に立設され断面欠損部材片5a,5b,5cの側面に当接される当接片とからなり、前者の当接片に形成された長孔46にはアンカーボルト44が挿通され、後者の当接片に形成された長孔47には、取付けボルト48が挿通されるようになっている。
【0048】
かかるアングル材45を用いてひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端を底版43に固定するには、断面欠損部材片5a,5b,5cの立設予定位置に予め埋設された3本のアンカーボルト44にアングル材45をそれぞれ挿通し、該アングル材に形成された長孔46の調整代を用いて壁体2の材軸方向、同図(a)で言えば左右方向に沿って位置調整を行った後、ナット49を螺合して各アングル材45を底版43に固定するとともに、該アングル材の長孔47に挿通した取付けボルト48を断面欠損部材片5a,5b,5cの下縁近傍に穿孔されたボルト孔(図示せず)に挿通し、取付け高さを調整した後、反対側から図示しないナットで螺着する。
【0049】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3の建込み作業は、目地棒42,42の位置が底版43上に墨出しされていれば、堰板41,41の建込み工程とは無関係に行うことが可能であり、むしろ底版43を構築して墨出しが終了した後、ひび割れ誘発用断面欠損部材3を立設するようにすれば、堰板41,41の設置工程に拘束されたり該設置作業と交錯する懸念もない。横筋50や縦筋51についても同様であり、それらの配筋工程に拘束されたり該配筋置作業と干渉する懸念もない。
【0050】
なお、ひび割れ誘発用断面欠損部材3の上端については、横筋50や縦筋51の配筋作業や堰板41,41の建込み作業が全て終了してから、コンクリート打設直前に堰板41,41から適宜控えをとって仮固定するようにすればよい。
【0051】
ひび割れ誘発用断面欠損部材3の建込みが終了したならば、コンクリート打設を行い、該ひび割れ誘発用断面欠損部材が埋設された形で壁体2を構築すればよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3及びその設置構造1によれば、矩形状をなす複数の断面欠損部材片5a,5b,5cを、それらの長手側縁部で相互に連結された状態で複数配置してひび割れ誘発用断面欠損部材3を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を壁体2の断面中央近傍に配置するようにしたので、短手方向に沿った連結数(本実施形態では3枚)を調整することにより、ひび割れ誘発用断面欠損部材3の全体幅を所望の幅に設定することが可能となる。
【0053】
そのため、壁体2の断面寸法に応じた断面欠損率を容易に確保することが可能となり、コンクリート構造物の躯体寸法ごとにひび割れ誘発用断面欠損部材を個別に製作しておく必要もない。
【0054】
また、本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3及びその設置構造1によれば、複数の断面欠損部材片5a,5b,5cでひび割れ誘発用断面欠損部材3を構成するようにしたので、ひび割れ誘発用断面欠損部材の大型化や重量化を避けることが可能となり、運搬、建込み、取付けといった各作業の効率が向上するとともに、製作コストも安価に抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態に係るひび割れ誘発用断面欠損部材3及びその設置構造1によれば、断面欠損部材片5a,5b,5cを正面から見たときに全体形状が矩形になるようにかつ山谷が繰り返し連続するように鋼板を折曲げ加工して形成したので、誘発されたひび割れによる透水経路が長くなり、その結果、透水性の低下、換言すれば水密性の向上を期待することが可能になるとともに、面外曲げ剛性が高くなってコンクリート打設時の衝撃にも抵抗することができる。
【0056】
本実施形態では、説明の便宜上、3つの断面欠損部材片5a,5b,5cでひび割れ誘発用断面欠損部材3を構成するようにしたが、もちろんこのような数に限定されるものではなく、壁体2の断面寸法に応じて必要な数だけ連結すればよい。
【0057】
また、本実施形態では、複数の断面欠損部材片である断面欠損部材片5a,5b,5cを同一構成としたが、本発明に係るひび割れ誘発用断面欠損部材においては、各断面欠損部材片を必ずしも同一構成とする必要はない。
【0058】
特に、コンクリート躯体の表面に近い側の断面欠損部材片は、該コンクリート躯体の表面に形成されるひび割れ誘発目地と協働してひび割れ誘発作用が有効に発揮されるよう、図5に示すように、断面欠損部材片5aに代えて、その一方の長手側縁部を平板状縁部52とした断面欠損部材片5a′とするとともに、断面欠損部材片5cに代えて、その他方の長手側縁部が平板状縁部52とした断面欠損部材片5c′とすることが考えられる。
【0059】
かかる場合において、断面欠損部材片5a′の平板状縁部52と断面欠損部材片5c′の平板状縁部52をそれぞれ目地4,4(目地棒42,42)の位置に一致させるようにすれば、ひび割れ誘導作用がより効果的に発揮される。
【0060】
また、本実施形態では、ひび割れ誘発用断面欠損部材3を底版43に固定するようにしたが、これに代えて、底版43を構成するコンクリートが未硬化のときに、ひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端を挿入し、該下端部分をコンクリートに定着するようにしてもよい。さらに、底版ではなく、既設の壁部分であるときには、上述した取付け方法以外に、該既設の壁部分の天端から突出するひび割れ誘発用断面欠損部材の上端に固定するようにしてもかまわない。
【0061】
図6(a)は、上述した壁体2がボックスカルバート61の側壁である場合において、その底版43にひび割れ誘発用断面欠損部材3を立設した様子を示したものであり、同図(b)は、側壁のうち、下半分である既設の壁部分の天端から突出するひび割れ誘発用断面欠損部材3の上端にあらたなひび割れ誘発用断面欠損部材3の下端を取り付けることで、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を上方に継ぎ足す様子を示したものである。
【0062】
また、本実施形態では、ひび割れ誘発用断面欠損部材3をその下端で底版43に固定するようにしたが、配筋作業や堰板建込み作業との間で干渉が起きず、取付け精度やコンクリート打設時の衝撃による緩みが問題とならないのであれば、従前と同様、必要に応じて取付け用治具を適宜用いながら、堰板や鉄筋に固定すればよい。
【0063】
例えば、巾止め筋状の2本のコの字型取付け治具を、必要な段数だけ、例えば50cmごとに横筋50,50に架け渡し(図4参照)、それらの間に挟み込むようにしてひび割れ誘発用断面欠損部材3を取り付けることが可能である。
【0064】
また、本実施形態では、断面欠損部材片5a,5b,5cをそれぞれ、正面から見たときに全体形状が矩形になるようにかつ山谷が繰り返し連続するように鋼板を折曲げ加工し、その一方の長手側縁部に第1の係合部21を設けるとともに他方の長手側縁部に第2の係合部22を設けて構成したが、第2の係合部を、第1の係合部に係合された状態で該第1の係合部に対して進退自在に構成するようにしてもよい。
【0065】
図7は、変形例に係る断面欠損部材片75a,75bを示した平面図であって、該断面欠損部材片は、鋼板の長手側に位置する両縁をそれぞれ折り返すことで、一方の長手側縁部と他方の長手側縁部に第1の係合部81と第2の係合部82をそれぞれ形成してあるとともに、断面欠損部材片75aに設けられた第2の係合部82をそれに隣り合う断面欠損部材片75bに設けられた第1の係合部81に係合した状態で該第1の係合部に対し進退させることによって重ね幅を調整できるようになっており、同図(b)は、重ね幅が最小になるように、同図(c)は重ね幅が最大になるように第2の係合部82を第1の係合部81にそれぞれ係合した状態を示したものである。
【0066】
かかる構成によれば、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を各断面欠損部材片75a,75b同士の重ね幅とそれらの連結数の双方で調整可能となり、ひび割れ誘発用断面欠損部材の全体幅を、より柔軟に設定することができる。
【0067】
また、本実施形態では、第2の係合部22を第1の係合部21に係合することで、2枚の断面欠損部材片5a,5b同士、あるいは断面欠損部材片5b,5c同士を長手側で連結するようにしたが、連結方法として係合形式である必要はなく、係合以外の公知の連結手段によって適宜連結することが可能である。
【0068】
さらに言えば、隣り合う2枚の断面欠損部材片が別の手段によって相互の離脱が防止されるのであれば、それらを連結する必要はなく、図8に示すように単に長手側縁部を重ねるようにすればよい。
【0069】
同図に示したひび割れ誘発用断面欠損部材83は、鋼板の中央付近で段差が形成されてなる3枚の断面欠損部材片85からなるとともに、それらの長手側縁部を重ね合わせて構成してあり、図7の変形例と同様、重ね幅を調整することによって、ひび割れ誘発用断面欠損部材83の全体幅を調整することが可能である。
【0070】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図6に示したように壁体2の高さによっては、断面欠損部材片5a,5b,5cを上方に継ぎ足す必要が生じるが、かかる場合には、図9に示すようにそれらの短手側縁部を千鳥状にずらしながら、断面欠損部材片を長手方向に継ぎ足していけばよい。
【0071】
同図に示したひび割れ誘発用断面欠損部材93は、断面欠損部材片5a,5b,5cと同じ構成の断面欠損部材片95を、それらの短手側縁部が千鳥状にずれた状態となるように長手方向に複数配置するとともに、それらの長手側縁部では相互に連結された状態で短手方向に複数配置して構成してある。
【0072】
ここで、断面欠損部材片95のうち、短手側で隣り合う同士については、単に突き合わせてあるだけで直接連結はされていないが、長手側で隣り合う同士が、上述の実施形態と同様、第2の係合部22を第1の係合部21に係合させることで相互に連結してあるため、短手側で隣り合う同士についても間接的な連結状態が確保された構造になっている。
【0073】
また、本実施形態では、断面欠損部材片を、正面から見たときに全体形状が矩形になるように形成したが、必ずしも矩形に形成する必要はなく、例えば平行四辺形となるように形成してもかまわない。
【0074】
図10(a)は、正面から見た形状が矩形(長方形)の断面欠損部材片101を、同図(b)は正面から見た形状が平行四辺形の断面欠損部材片102を、それぞれ3列にして上方に継ぎ足していく様子を示したものである。
【符号の説明】
【0075】
1 ひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造
2 壁体(コンクリート躯体)
3,83,93 ひび割れ誘発用断面欠損部材
5a,5b,5c,5a′,5c′,75a,75b,85,95,101,102
断面欠損部材片
21,81 第1の係合部
22,82 第2の係合部
43 底版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に埋設されることにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片からなるとともに、該複数の断面欠損部材片を、それらの長手側縁部で重ねられ又は相互に連結された状態で複数配置できるように構成したことを特徴とするひび割れ誘発用断面欠損部材。
【請求項2】
前記各断面欠損部材片を、一方の長手側縁部と他方の長手側縁部に第1の係合部と第2の係合部をそれぞれ設けて構成するとともに、長手側で互いに隣り合う2つの断面欠損部材片を、それらのうちの一方に設けられた第2の係合部と他方に設けられた第1の係合部とを係合することで相互に連結自在に構成した請求項1記載のひび割れ誘発用断面欠損部材。
【請求項3】
前記一方の断面欠損部材片に設けられた前記第2の係合部を、前記他方の断面欠損部材片に設けられた前記第1の係合部に係合した状態で該第1の係合部に対して進退自在に構成することにより、前記一方の断面欠損部材片と前記他方の断面欠損部材片との重ね幅を調整自在に構成した請求項2記載のひび割れ誘発用断面欠損部材。
【請求項4】
ひび割れ誘発用断面欠損部材をコンクリート躯体に埋設することにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、いずれかの方向に沿った縁部で重ねられ又は相互に連結された状態で複数配置することで前記ひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、前記断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向が前記コンクリート躯体の表面にほぼ直交するように該コンクリート躯体の断面中央近傍に配置したことを特徴とするひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造。
【請求項5】
ひび割れ誘発用断面欠損部材をコンクリート躯体に埋設することにより該コンクリート躯体にひび割れを誘発するひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造において、
矩形状をなす複数の断面欠損部材片を、互いに交わる2方向に沿った縁部のうち、一方の方向に沿った縁部が千鳥状にずれた状態となるようにかつ他方の方向に沿った縁部で重ねられ又は相互に連結された状態となるように前記各方向に面状に複数配置することで前記ひび割れ誘発用断面欠損部材を構成するとともに、該ひび割れ誘発用断面欠損部材を、前記断面欠損部材片の重ね方向又は連結方向が前記コンクリート躯体の表面にほぼ直交するように断面中央近傍に配置したことを特徴とするひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造。
【請求項6】
前記各断面欠損部材片を、連結される側の縁部に第1の係合部と第2の係合部をそれぞれ設けて構成するとともに、該連結される側で互いに隣り合う2つの断面欠損部材片を、それらのうちの一方に設けられた第2の係合部と他方に設けられた第1の係合部とを係合することで相互に連結した請求項4又は請求項5記載のひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造。
【請求項7】
前記一方の断面欠損部材片に設けられた前記第2の係合部を、前記他方の断面欠損部材片に設けられた前記第1の係合部に係合した状態で該第1の係合部に対して進退させることにより、前記一方の断面欠損部材片と前記他方の断面欠損部材片との重ね幅を調整した請求項6記載のひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造。
【請求項8】
前記コンクリート躯体を壁体とし、前記ひび割れ誘発用断面欠損部材の下端を、既設の壁部分から突出するひび割れ誘発用断面欠損部材の上端に固定し、既設の壁部分若しくは底版の未硬化コンクリート天端に埋設し、又は既設の壁部分若しくは底版の硬化コンクリート天端に固定した請求項4乃至請求項7のいずれか一記載のひび割れ誘発用断面欠損部材の設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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