めっき物及び無電解めっき方法
【課題】均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面が被覆されるめっき物、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面上を被覆する無電解めっき方法を提供する。
【解決手段】無電解めっき方法を用いて、セラミックスを主成分とする多孔質体13をめっき液22中に浸漬させる時に、攪拌強度G値を250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌することで、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面をパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆する。
【解決手段】無電解めっき方法を用いて、セラミックスを主成分とする多孔質体13をめっき液22中に浸漬させる時に、攪拌強度G値を250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌することで、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面をパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき物及び無電解めっき方法に関する。詳しくは、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物に関する。また、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき方法は、大型の部材あるいは凹凸のある部材の表面を金属皮膜で被覆する手段として有効である。無電解めっき方法では、めっき反応中にめっき液の状態を良好に保つことが重要とされ、例えば、特許文献1では、めっき液中に気泡を噴出することでめっき液の組成を均一に安定化する技術が開示されている。
【0003】
近年強く求められるクリーンなエネルギー源として注目されている水素を天然ガス等から選択に抽出する手段として水素分離装置が開発されている。この水素分離装置は、パラジウム又はパラジウムを含む合金(以下、パラジウム合金ということにする)などの水素選択透過性金属からなる金属皮膜を水素分離膜とし、この水素分離膜で原料ガス等を内部に疎通可能な多孔質体の表面が被覆されていることを特徴とする水素分離体を備える。
【0004】
機械的強度を保ち高い耐久性を発揮させるために、上記の水素分離膜は、均一な膜厚で分布されていることが強く求められている。また、無電解めっき方法を用いて、管形状あるいは凹凸のある多孔質体の表面が水素分離膜で被覆させることにより、水素分離の効率を向上させる技術が採用されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−120639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、今日においても、無電解めっき方法によって、薄く均一な膜厚で分布する金属皮膜(以下、無電解めっき方法による金属皮膜を金属めっき膜ということにする)で被めっき物の表面上を安定的に被覆することは困難である。また、特許文献1に開示されたように、めっき反応中のめっき液を攪拌することは、均一な膜厚にて分布する金属めっき膜で被覆するためには有効であるが、汎用性及び再現性の高い詳細な条件の設定には至っていない。さらに、被めっき物が多孔質体である場合、均一な膜厚で分布する金属めっき膜を形成することはより困難となる。そのため、これまでのパラジウム又はパラジウム合金を成分とする水素分離膜では、水素透過流束を上げるために平均膜厚を薄くしていくと、不均一な膜厚の分布に起因して、膜厚の薄い部分で孔が開くなどの欠陥もある程度の頻度で生じ、耐久性に依然として難点がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面が被覆されるめっき物、及び、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面上を被覆する無電解めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明者等は、鋭意検討の結果、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面上を被覆することができる無電解めっき方法を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明において、以下のめっき物、無電解めっき方法が提供される。
【0009】
[1] 平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下にて膜厚が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物。
【0010】
[2] 前記[1]に記載の前記めっき物が水素分離体であって、前記金属めっき膜が水素を選択的に透過させる水素分離膜とされ、水素を含有する流体を内部に流通させることができる前記多孔質体の表面が前記水素分離膜で被覆されているめっき物。
【0011】
[3] 前記平均膜厚が1.0〜10.0μmである、前記[1]又は[2]に記載のめっき物。
【0012】
[4] 下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液中に、セラミックスを主成分とする多孔質体を浸漬し、前記多孔質体の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜で被覆する無電解めっき方法。
【0013】
【数1】
【0014】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0015】
[5] 前記めっき液は、前記めっき液内での気泡の噴出により攪拌される、前記[4]に記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のめっき物は、セラミックスを主成分とする多孔質体の表面が、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜で被覆されるものとできる。本発明の無電解めっき方法は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜で、セラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。なお、以下の記述では、図面と対応させるため、用語の末尾に符号を付する場合があるが、用語の末尾に符号が付されていても、図面に示された態様に限定して本発明の技術的範囲を規定するものではない。
【0018】
A.めっき物:
A‐1.本発明のめっき物の概要:
図1の断面図で示されるように、本発明のめっき物1は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が、平均膜厚に対する標準偏差0.10μm以下にて膜厚5が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆されていることを特徴とする。
【0019】
金属めっき膜2の膜厚5は、1.0〜10.0μmであることが好ましく、1.0〜5.0μmであることが更に好ましい。金属めっき膜2の膜厚5が1.0μm未満では、多孔質体13の被めっき面4全体を完全に被覆することが困難な場合がある。一方、金属めっき膜2の膜厚5が10.0μm超であると、金属めっき膜2を水素分離膜17とする水素分離体12としてめっき物1を使用した場合(図4)に、膜厚5の厚い水素分離膜17(金属めっき膜2)のために、この水素分離体12の水素透過能が不十分な場合がある。
【0020】
なお、本発明のめっき物1は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が上記の条件の金属めっき膜2で被覆されていればよく、被めっき面4の一部が多孔質体13の表面には該当しないものを含んでもよい。
【0021】
また、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が上記の条件で被覆される金属めっき膜2の上を、更に別の物質で被覆されているものも本発明のめっき物の技術的範囲内に属する。
【0022】
ここでいう「めっき物」とは、無電解めっき方法により金属皮膜(金属めっき膜)で被覆されている物体のことをいう。「金属めっき膜」とは、無電解めっき方法により被覆された金属皮膜のことをいう。金属めっき膜にて被覆される物体のことを「被めっき物」ということにする。金属めっき膜で被覆される被めっき物の表面のことを「被めっき面」ということにする。金属めっき膜で「被覆」するとは、被めっき物の表面の一部又は全部に金属めっき膜が形成されることをいう。
【0023】
A‐2.膜厚、平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差:
ここでは、本発明のめっき物を特徴づける際に重要な要素となる膜厚に関する説明をする。
【0024】
本明細書のいう「金属めっき膜の『膜厚』」は、蛍光X線分析装置で測定される値とし、以下のように定める軸における金属めっき膜の幅とする。
【0025】
本発明のめっき物1は、多孔質体13の表面を被めっき面4とするため、図1に示すように、金属めっき膜2は、多孔質体13表面の凹部に蓋をするような態様となる。そこで、図1に示されるように、金属めっき膜2の膜厚5は、多孔質体13の表面上に存する部分7と凹部に侵入した部分8との幅の和とし、以下の(1)〜(3)の手順に従って規定する。
【0026】
(1)図1及び2の多孔質体13の表面に沿って引かれた破線のように、多孔質体13の被めっき面4の各凸部と1点以上で接する最小面積の面を基準面6として想定する。この基準面6は、多孔質体13を収容する最小表面積の容体を想定した場合に、その容体の表面にも相当する。
(2)この基準面6上の任意の点のうち、その点での基準面6の接線10bに垂直な軸10cをとる(基準面6が平面のときは基準面6に垂直な軸とする)。図2で示されるように、その軸10cが金属めっき膜2と多孔質体13との界面(金属めっき膜2と多孔質体13とが接触している面)とが交差しない軸10cを設定できる地点が、膜厚5の測定地点10aとしての資格を有するものとする。
(3)(2)で定められた測定地点10aにおいて、軸10c方向での金属めっき膜2の幅を「金属めっき膜の『膜厚』」とする。
【0027】
金属めっき膜2の平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差の信頼性を保つため、膜厚5の測定地点10aは、被めっき面4全体を均等に分布するように設定する。この均等に分布した膜厚の測定地点10aは、例えば、被めっき面4を1〜100mm四方で区画し、各区画の対角線の交点として決定される地点を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとしてもよい(図3A〜3C参照)。
【0028】
例えば、外径30mm、長さ500mmの円筒管形状の多孔質体13の外周面62を被めっき面4として金属めっき膜2で被覆した円筒管形状のめっき物61について図3A〜3Cを参照して説明する。この場合、円筒管形状の外周面62の円周方向63で中心から90度ごと(中心角90度ごと)に外周面62を長手方向区画線65a〜65dにて区分し(図3B及び3C)、長手方向64で100mmごとに外周面62を円周方向区画線66にて区分することで外周面62を区画する。このようにして得られた各区画の対角線の交点は、被めっき面4を均等に分布するため、金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとすることができる(図3C)。
【0029】
なお、上記の円筒管形状の外周面62に対する測定地点10aの設定手法では、図4に示す一方の端部が閉塞されている袋管形状の多孔質体13の外周面を金属めっき膜2で被覆されためっき物1の場合、円筒管形状の外周面62に対する「袋管形状の閉塞されている端部70の外周面」の面積が1割以下の場合は、測定地点10aの対象外とする。一方、「袋管形状の閉塞されている端部70の外周面」が外周面62の面積の1割よりも大きくなる場合は、上記の長手方向区画線65a〜65dと円周方向区画線66とによる一区画の面積との比率を考慮して、袋管形状の閉塞されている端部70の外周面を区画し、測定地点10aを設定する手法を採用できる。たとえば、袋管形状の閉塞された端部70の外周面の面積が、長手方向区画線65a〜65dと円周方向区画線66とによる一区画(図3C参照)の面積の1.5倍以上かつ2.5倍未満の場合には、袋管形状の閉塞された端部70の外周面を二等分して各区画の中心部を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとする手法を採用することができる。
【0030】
ここでいう金属めっき膜の「平均膜厚」は、蛍光X線分析装置で測定した各測定地点10aでの金属めっき膜2の膜厚5の値の相加平均値により算出される。
【0031】
ここでいう金属めっき膜の「平均膜厚に対する標準偏差」は、通常の統計手法に従って算出する。すなわち、上記の方法で算出された平均膜厚と各測定地点10aでの膜厚5との差の2乗を平均して得られる分散の平方根として規定される。
【0032】
A‐2.パラジウム及びパラジウム合金:
本発明のめっき物1で被覆される金属めっき膜2の主成分となるパラジウム(Pd)は、水素を溶解・拡散させることで、水素を選択的に透過させる性質を有する金属である。また、「パラジウム合金」とは、「パラジウム」と「パラジウム以外の金属」とが固溶した金属のことをいう。
【0033】
本発明のめっき物1では、金属めっき膜2の水素脆化を防止する観点からは、パラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆される方が好ましい。この場合、本発明のめっき物1では、パラジウム合金における「パラジウム以外の金属」の含量は、5〜50質量%であることが好ましい。また、パラジウム合金におけるパラジウム以外の金属として銀(Ag)や銅(Cu)を含有することは、パラジウムの水素脆化防止のため最も好ましい。本発明のめっき物1では、パラジウムと銀との合金(以下、Pd‐Ag合金ということにする)を用いる場合には、パラジウムと銀との質量比(Pd:Ag)が、90:10〜70:30であることが好ましい。
【0034】
A‐3.セラミックスを主成分とする多孔質体:
ここでいう「多孔質体の表面」とは、図1に示されるように、三次元的に連続した多数の微細な孔(以下、細孔ということにする)をもつ物体の表面のことをいう。
【0035】
本発明のめっき物1は、細孔9の径が0.01〜2.0μmの多孔質体13を、上記の条件の膜厚5で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆される。また、ピンホールなどのない高い緻密性の金属めっき膜2で被覆される観点からは、多孔質体13の細孔9の径は、0.05〜1.0μmが好ましい。
【0036】
ここでいう多孔質体13の主成分となる「セラミックス」としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コーディエライト、ジルコニア等が挙げられる。なお、「セラミックを主成分とする」とは、セラミック以外にも、不可避的に含有される成分、多孔質体を形成する際に通常添加されるような成分を少量含有してもよい。また、ここでいう「セラミックスを主成分とする多孔質体」とは、金属めっき膜2を被覆する多孔質体13の表面がセラミックスを主成分とするもののことであり、全体がセラミックスからなる多孔質体13や、金属やサーメット等の上にセラミックスを積層した多孔質体13を例示することができる。多孔質体13の形状としては、円筒管形状、平板形状、片端が閉じた袋管形状等、任意の形状を採用することができる。
【0037】
1つの金属めっき膜2に膜厚5の厚い部分と膜厚5の薄い部分が存在するときには、膜厚5の薄い部分でも機械的強度が保たれるように平均膜厚を厚めに設定せざるを得ない。本発明のめっき物1の金属めっき膜2は、均一な膜厚5で分布するので、金属めっき膜2の平均膜厚を薄く設定できる。すなわち、本発明のめっき物1に被覆されるパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2は、膜厚5が薄く、高い機械的強度及び高い耐久性を兼ね備えている。
【0038】
B.水素分離体:
上記めっき物1の一実施形態である水素分離体12は、セラミックスを主成分とする多孔質体13が水素を含有する流体をその内部に流通させることができるものとされ、パラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2が水素を選択的に透過する水素分離膜17とされることを特徴とする。
【0039】
本発明のめっき物1の一実施形態である水素分離体12は、上述のように薄さと高い機械的強度すなわち高い耐久性を有するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2を水素分離膜17として有する。更に、耐食性や耐熱性などに優れるセラミックスを主成分とする多孔質体13によって上記の水素分離膜17を裏打ちすることで、水素分離膜17は、機械的強度を更に補強し、耐久性が一層高められている。
【0040】
図4に示すように、本発明のめっき物1の一実施形態である水素分離体12は、水素分離装置11に備えることができる。水素分離装置11では、原料入口14から流入した原料ガス又はその生成物に含まれる水素が、水素分離体12の水素分離膜17を選択的に透過して水素出口16から排出される形態を備える。同時に、水素分離装置11では、水素分離体12の水素分離膜17を透過できない残余の原料ガス及びその生成物が、残原料出口15から排出される形態を備える。
【0041】
C.本発明の無電解めっき方法
以下では、上述のめっき物を作製する方法、すなわち本発明の無電解めっき方法について詳しく説明する。
【0042】
C‐1.本発明の無電解めっき方法の概要:
本発明の無電解めっき方法は、下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液22中にセラミックスを主成分とする多孔質体13(被めっき物3)を浸漬し、この多孔質体13の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜2で被覆することを特徴とする(図5〜9参照、金属めっき膜については図1参照)。
【0043】
【数2】
【0044】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0045】
本発明の無電解めっき方法は、従来の無電解めっき方法と同様に、めっき液22に浸漬された多孔質体13の被めっき面4上で進行する化学的な還元反応によって、被めっき面4上に金属を析出させて金属めっき膜2で被覆することを基本的な原理としている。
【0046】
本発明の無電解めっき方法においては、従来の無電解めっき方法に適用される材料・装置・薬品などのあらゆるものを、本発明の特徴を損なわない限り使用することができる。以下、本発明の無電解めっき方法を工程の順に従って説明する。
【0047】
C‐2.触媒核の付着:
まず、本発明の無電解めっき方法では、従来公知の無電解めっき方法と同様に、めっき反応の触媒(Pdなど)を多孔質体13の被めっき面4に付着させる。例えば、活性化金属を含有する溶液に多孔質体13(被めっき物3)を浸漬することにより、被めっき面4に活性化金属を含有する溶液を付着させる。その後、還元処理を行い、触媒核とする。本発明の無電解めっき方法において、パラジウムを活性化金属として用いるときは、例えば、塩化パラジウムの塩酸水溶液を用いることができる。本発明の無電解めっき方法では、活性化金属を被めっき面4に付着させる方法として、例えば、多孔質基材13を塩化パラジウムの塩酸水溶液と塩化錫の塩酸水溶液に交互に浸漬させることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の無電解めっき方法では、被めっき面4に触媒核を付着させる際に、多孔質体13の表面の一部をマスクすることで、多孔質体13の表面の一部だけを被めっき面4と設定することもできる。
【0049】
C‐3.めっき液:
本発明の無電解めっき方法に用いるめっき液22の組成は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面をパラジウム又はパラジウム合金からなる金属めっき膜2で被覆する本発明の特徴を妨げない限り、従来公知のめっき液22の組成を用いることが可能である。なお、本発明の無電解めっき方法に用いるめっき液22は、添加剤(還元剤、界面活性剤など)を適宜加えてもよい。
【0050】
C‐4.めっき反応:
図5〜9で示されるように、本発明の無電解めっき方法において、めっき反応は、被めっき面4に触媒核を付着させた多孔質体13(被めっき物3)を、めっき槽21に入れられためっき液22に浸漬して行う。これにより、触媒核を中心としてパラジウムが析出し、パラジウムからなる金属めっき膜2が形成される。なお、めっき槽21の形状・大きさ・材質なども、本発明の無電解めっき方法の特徴を妨げない範囲であらゆる形態のものが許される。本発明の無電解めっき方法におけるめっき液22の攪拌に関しては、後で詳しく説明する。
【0051】
なお、本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の温度及びめっき反応の時間は、形成する金属めっき膜2の所望の膜厚5、金属めっき膜2で被覆される多孔質体13の形状などに対応させて適宜設定できる。
【0052】
本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13(被めっき物3)の表面の一部をマスクすることで、多孔質体13の表面の一部だけでめっき反応を進行させ、多孔質体13の一部の表面に限定して金属めっき膜2で被覆することもできる。
【0053】
本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13をめっき液22に浸漬する前に、多孔質体13に脱脂処理、酸処理などの従来公知の前処理を施してもよい。
【0054】
本発明の無電解めっき方法では、めっき反応を経て被覆された金属めっき膜2に対し、更に熱処理を加えるなどの後処理を必要に応じて施してもよい。
【0055】
C‐5.パラジウム合金:
本発明の無電解めっき方法において、パラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆する場合には、めっき反応時に攪拌強度Gを250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌することを基本とする無電解めっき方法を用いて、パラジウムを成分とする金属めっき膜2、及びパラジウム以外の金属を成分とする金属めっき膜2を順次形成する手法を採用できる。
【0056】
本発明の無電解めっき方法において、例えば、Pd‐Ag合金を成分とする金属めっき膜で被覆する場合、上述の工程によってパラジウムを成分とする金属めっき膜2で多孔質体13表面を被覆した後に、このパラジウムを成分とする金属めっき膜2の上に、さらに無電解めっき方法によって銀を成分に含む金属めっき膜2で被覆し、次いで熱処理を加えて合金化する手法を採用できる。
【0057】
また、本発明の無電解めっき方法では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、パラジウムを成分とする金属めっき膜2上を銀で被覆するに際し、最初のめっき反応で多孔質体13表面を被覆した金属めっき膜2を構成するパラジウムを電極とした電気めっき法を採用することもできる。
【0058】
続いて、得られためっき物1に600〜900℃で1〜24時間の熱処理を施し、複合金属めっき膜2中のパラジウムと銀とを相互拡散させて合金化することで、Pd‐Ag合金を成分とした金属めっき膜2で多孔質体13の表面を被覆されためっき物1を得る。
【0059】
なお、本発明の無電解めっき方法では、パラジウム合金の金属めっき膜2を形成するに際し、「パラジウムを成分とする金属めっき膜2」と「パラジウム以外の金属を成分とする金属めっき膜2」を形成する順序は特に限定しない。
【0060】
あるいは、本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13に上記の活性化金属を付着させる工程を行った後、「パラジウム」と「パラジウム以外の金属(例えば銀)」を共に含有するめっき液22に多孔質体13を浸漬させて、めっき反応時に攪拌強度Gを250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌する無電解めっき方法によって、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面を「パラジウム」と「パラジウム以外の金属(例えば銀)」を共に成分に含む金属めっき膜2で一度に被覆し、次いで熱処理を加えて合金化する手法を採用することもできる。
【0061】
なお、熱処理前までの無電解めっき方法により形成された金属めっき膜2について平均膜厚が1.0〜10.0μmの範囲で平均膜厚に対する標準偏差を0.10μm以下の膜厚5の分布する場合、これを反映し、さらに熱処理を加えた合金化後の金属めっき膜2でも、非常に均一な膜厚の分布となる。
【0062】
C‐6.めっき液の攪拌:
本発明の無電解めっき方法は、多孔質体13(被めっき物3)のめっき液22への浸漬時に、攪拌強度G値を250(1/s)以上にてめっき液22が攪拌されることを必須とする(図5〜9参照)。
【0063】
本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の攪拌は、多孔質体13の浸漬前からあらかじめ行っておく方が、めっき液22の組成などをより均一な状態にできるため好適である。
【0064】
ここでいう「攪拌強度」とは、速度勾配G値(1/s)を示す数値であり、例えば水道施設設計指針2000年版(社団法人日本水道協会編)に記載された下記式(I)から算出できる。
【0065】
【数3】
【0066】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0067】
なお、上記の式(I)中に示される攪拌によるめっき液の動力消費エネルギーP(J/s)は、めっき液の攪拌の方法(詳しくは後述)に応じて、これを算出する計算式が定められる。
【0068】
本発明の無電解めっき方法において、めっき槽21内のめっき液22を攪拌する方式は、例えば、めっき液22内に気泡43の噴出する方式(図5、6、8及び9を参照)、めっき槽21内に配置された攪拌翼44を運動させる方式(図7を参照)、液の循環ポンプによりめっき液22を循環させる方式(図示せず)などのいずれでもよい。
【0069】
C‐6‐1.気泡の噴出による攪拌:
本発明の無電解めっき方法では、一実施形態を模式的に示す図5を参照して以下に説明すると、めっき液22内に気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式を採用することが好適である。
【0070】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、めっき液22内に気泡43を噴出させるため、めっき槽21の下部(図5)又は側部(図なし)に散気ノズル41を配置する。この散気ノズル41は、散気管42と連通して、気体を散気管42から供給される。
【0071】
なお、本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41が配置される場所及び散気ノズル41の孔が開口する向きは、特に限定されない。本発明の無電解めっき方法では、効率良くめっき液22を攪拌できる点から、散気ノズル41は、めっき槽21内に配置される多孔質体13(被めっき物3)の下端の位置よりも少なくとも下部に配置されることが好ましい。また同様の点から、本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41の孔は、上方、すなわちめっき液22の液面23に向かって開口する方が好ましい。
【0072】
本発明の無電解めっき方法において気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41から噴出される気泡43の量は、散気管42又は散気管42に通じる供給ラインに流量計35を設置し、この流量計35で測定された気体流量に応じて気泡43の噴出量を適宜調整してもよい。
【0073】
本発明の無電解めっき方法において気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、めっき槽21内には、攪拌によるめっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を測定するため、循環流速計31、液面計32などを設置してもよい。
【0074】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41からめっき液22内に気泡43を噴出すると、気泡43が上昇するのに伴うガスリフト効果によりめっき液22内では上昇流が生じる。この上昇流によって液面23に到達した流れは、次いで下降流となる。これによって、めっき液22は攪拌され、めっき液22の組成が均一化し、被めっき面4全体で反応速度が均一化しためっき反応を保つことができる。
【0075】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、上述の式(I)により算出される攪拌強度Gを250(1/s)以上とするには、めっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を測定し、散気ノズル41から噴出される気泡43の流量などを調節するとよい。以下に、攪拌強度Gの算出方法を説明する。
【0076】
気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌させる場合(図5参照)、上記式(I)に記載のめっき液の動力消費エネルギーPは、下記式(II)により算出される。
【0077】
【数4】
【0078】
(上記式(II)中、ρ0はめっき液の密度(kg/m3)、Vはめっき液の体積(m3)、gは重力加速度(=9.8(m/s2))、Ulcは循環流速(m/s)を表し、ε0はガスホールドアップ容積比を表す)
【0079】
図5を例に説明すると、上記式(II)中のめっき液22の循環流速(m/s)は、めっき槽21内に設置された循環流速計31によって測定できる。めっき液22の密度(kg/m3)はめっき液22の調製時に算出可能であり、めっき液22の体積(m3)はめっき槽21の設計からその値を得ることができる。そこで、残るガスホールドアップ容積比ε0を決定できれば、めっき液22の動力消費エネルギーPを算出できる。
【0080】
ガスホールドアップ容積比ε0は、下記式(III)により算出される。
【0081】
【数5】
【0082】
(上記式(III)中、Zfはエアレーション時のめっき液の液面の高さ(mm)、Zlは静置時のめっき液の液面の高さ(mm)を表す)
【0083】
図5を例に説明すると、散気ノズル41からの気泡43の噴出により、めっき液22の液面23は、ガスリフト効果により盛り上がりが生じる。気泡43の噴出時のめっき液22の液面23の高さZfと気泡43の噴出前のめっき液22の液面23の高さZlとの差ΔZ(ΔZ=Zf−Zl)を液面計32により測定することで、ガスホールドアップ容積比ε0を算出できる。
【0084】
よって、図5に例示した実施形態では、循環流速計31と液面計32を少なくともめっき槽21に設置することで、めっき液22の攪拌強度G(1/s)が算出可能である。
【0085】
本発明の無電解めっき方法で、気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌する方式の場合(図5、6、8及び9参照)、攪拌強度G値が250(1/s)以上となるように気泡43の流量を調整する。気泡43の流量は、流量計13で表示される流量値に基づき、バルブ(図示せず)の開閉などで調節することができる。
【0086】
C‐6‐2.攪拌翼の運動による攪拌:
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼の運動によりめっきを攪拌する方式を採用する場合、図7に示すように、めっき槽21には、めっき槽21内に配置される多孔質体13(被めっき物3)の下端の位置よりも下部に攪拌翼44を設ける。
【0087】
攪拌翼44の運動によるめっき液22の攪拌では、攪拌強度Gを算出するための上記式(I)中のめっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)は、下記(IV)により算出される。
【0088】
【数6】
【0089】
(上記式(IV)中、ρはめっき液の密度(kg/m3)、Cは攪拌翼の抵抗係数、aは攪拌翼の運動方向に垂直な面積(m2)、vは攪拌翼の平均速度(m/s)を表す)
【0090】
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式では、上記式(IV)中の攪拌翼44の運動方向に垂直な面積a(m2)及び攪拌翼44の平均速度v(m/s)等を調節することで、めっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を所望の値とし、この値をもとに算出される攪拌強度Gが250(1/s)となるようにする。なお、攪拌翼の抵抗係数Cは、攪拌翼の形状によって決定される。
【0091】
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式においても、めっき槽21の形状・大きさ・材質などは、本発明の無電解めっき方法の特徴を妨げない範囲であらゆる形態のものが許される。
【0092】
C‐7.他の実施形態:
めっき液22の攪拌強度G値を250(1/s)以上としてめっき液22を攪拌するに際し、以下のような実施形態とすることもできる。
【0093】
(ア)めっき槽内の隔壁の設置:
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21内のめっき液22の攪拌を安定的に行うため、図8及び9に示すような、隔壁28を備えためっき槽21を用いてもよい。
【0094】
図8を参照して一例を説明すると、本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21は、上昇流を生じる上昇流路26と下降流を生じる下降流路27とにめっき槽21の深さ方向に沿ってめっき槽21を隔てる隔壁28と、上昇流路26内に上昇流を及び/又は下降流路27内に下降流を生じさせる動力発生手段(図8の散気ノズルが相当)とを有し、液面23から深さD1までの部分及び深さD2からめっき槽21の底面24までの部分が開口されている隔壁28とされることで、上昇流路26と下降流路27とが上部及び下部で連通されているものとできる。(但し、上記D1及びD2は、D1<D2<底面の深さ、の関係を有する)
【0095】
例えば、動力発生手段(図8では散気ノズル41が相当)を上昇流路26に設置した場合、動力発生手段によって上昇流路26を上昇してきた上昇流は、液面23に到達すると、液面23から所定の深さD1までの隔壁28が開口される部分(以下、上方開口部29aということにする)から隣接する下降流路27に流れ込む。続いて、下降流路27に入っためっき液22の流れは、下降流となって下降流路27をめっき槽21の底面24に向かって下降し、めっき槽21の底面24に到達すると、深さD2からめっき槽21の底面24まで隔壁28が開口される部分(以下、下方開口部29bということにする)から隣接した上昇流路26に流れ込み、再び上昇流となる。これによって、めっき液22は上昇流路26と下降流路27との間を循環し、めっき液22の組成の均一性は安定的に保たれる。
【0096】
なお、本発明の無電解めっき方法では、上記の「動力発生手段」は、めっき液22に上昇流又は下降流を発生される動力を付与するものであれば、特に限定されない。例えば、散気管42と散気ノズル41などを用いてめっき槽21内のめっき液22に気泡43を噴出する方式(図5、6、8及び9参照)、めっき槽21内にてめっき液22に動力を与える攪拌翼44を用いた方式(図7を参照)、めっき槽21内にめっき液22を流し込む液循環ポンプを用いた方式(図示せず)などを挙げることができる。
【0097】
図8を一例に説明すると、本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の循環を安定できる観点から、めっき反応中の多孔質体13(被めっき物3)の上端部の位置51は、深さD1より深い位置が好ましい。また、同様に、めっき反応中の多孔質体13(被めっき物3)の下端部の位置52は、深さD2よりも浅い位置の方が好ましい。
【0098】
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽に設置される隔壁28は、上記のように上昇流路26と下降流路27とにめっき槽21内を隔ててめっき液22の循環を生じさせることができる限り、いかなる形状・大きさ・材質でもよい。
【0099】
本発明の無電解めっき方法では、上述のめっき槽21に設置される隔壁28としては、例えば、図8に示す板状の隔壁28を挙げることができる。
【0100】
また、本発明の無電解めっき方法では、板状の隔壁28に代えて、図9に示すように、チューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21も採用できる。チューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21では、例えば、チューブ状の隔壁28の内部を上昇流路26として上昇流を発生させ、チューブ状の隔壁28の外側を下降流路27として下降流が発生させる態様とできる。めっき液22の循環の方向を放射状することでめっき液22の組成をより均一にできる点で優れるため、本発明の無電解めっき方法において、隔壁28を設置しためっき槽21を採用する場合、図9のようにチューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21を用いる方が好ましい。なお、本発明の無電解めっき方法では、チューブ状の隔壁21の内部を下降流路27、チューブ状の隔壁の外側を上昇流路26としてもよい。
【0101】
本発明の無電解めっき方法では、上記のチューブ状の隔壁28は、めっき液22の循環を妨げない形態で、めっき槽21の底面24又は側面25などと接続させて固定できればよい。
【0102】
また、本発明の無電解めっき方法では、隔壁28により上昇流路26と下降流路27とに隔てられた上述のめっき槽21において、気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌する方式の場合、上昇流路26の下部に散気ノズル41を設置することが好ましい。この場合において、めっき液22の循環を安定化するため、より好ましくは深さD2よりも深い位置、最も好ましくはめっき槽の底面24又は底面24に近接した位置に散気ノズル41を設置することが好ましい。
【0103】
(イ)散気ノズルの形状・配置される間隔:
本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41の噴射孔の直径は、0.01〜5mmの範囲がよい(図5,6,8及び9参照)。散気ノズル41の噴射孔の直径が0.01mm未満のときは、気泡43が小さくなり、攪拌効果が薄れ、多孔質体13(被めっき物3)に気泡が付着するなどしてピンホールが発生する可能性があるため好ましくない。また、直径が5mmを超えると、均一に攪拌することが難しくなる可能性があるため好ましくない。また、本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41は、散気管42に1個又は2個以上設けてよい。
【0104】
(ウ)邪魔板の設置:
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21内のめっき液22の攪拌を安定的に行い、かつ、散気ノズル41から噴出された気泡43が被めっき物3に直接的に接触するのを避けるために、図6に示すような、散気ノズル41の直上に、邪魔板53を備えためっき槽21を用いることが好ましい。この邪魔板53によって、多孔質体13(被めっき物3)に直接気泡43が連続的に接触して気泡43の接触箇所の金属めっき膜2にピンホールが発生する危険を回避できる。
【0105】
(エ)気泡の組成:
本発明の無電解めっき方法において、めっき液22の攪拌に用いる気泡43の組成は、特に限定されない。本発明の無電解めっき方法では、例えば、空気、酸素、窒素及び希ガスからなる群より選ばれた少なくとも1種の気体から気泡を形成することができる。また、めっき液22の組成等の安定性及び形成される金属めっき膜2の安定性を高めることができる観点から、本発明の無電解めっき方法では、めっき溶液22中に揮発成分を含む場合には、めっき槽21の上部でガスを回収し、回収したガスを再び撹拌に使用することが好ましい。
【0106】
C‐8.本発明の無電解めっき方法の作用・効果:
本発明の無電解めっき方法では、攪拌強度G値が250(1/s)以上でめっき液22を攪拌しながらめっき反応を行うことで、セラミックスを主成分とする多孔質体13(被めっき物3)の表面が、均一な膜厚5で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆できる(図5〜9、金属めっき膜については図1参照)。特に、本発明の無電解めっき方法では、平均膜厚が1.0〜10.0μmの範囲においては、平均膜厚に対する標準偏差を0.10μm以下にて膜厚5が分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2でセラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が被覆されるめっき物1を得ることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
D‐1.めっき液の攪拌強度と金属めっき膜の膜厚との関係:
以下の実施例1、2及び比較例1〜3により、めっき反応時のめっき液の攪拌強度と金属めっき膜の平均膜厚に対する標準偏差との関係を評価した。
【0109】
D‐1‐1.めっき物の作製:
(実施例1)
外径30mm、長さ500mmの円筒管形状を有するアルミナを原料とするセラミックスを主成分とする多孔質体13(図3A)の外表面を、上述の無電解めっき方法によってパラジウム(Pd)を成分とする金属めっき膜2で被覆することで、円筒管形状のめっき物61を得た(表1のサンプル1及び2)。具体な条件設定としては、散気ノズル41の上部に邪魔板53を設けためっき槽21を用い、めっき反応時にめっき液22内に空気を成分とする気泡43を噴出させることで、めっき液22の撹拌を行った(図6)。めっき液の体積は5.11×10−3(m3)であり、めっき液の粘性度係数は0.55(Pa・s)であった。実施例1において、循環流速は0.30(m/s)、ガスホールドアップ容積比ε0は0.06であった。これら数値を式(I)及び式(II)に当てはめ計算した結果、攪拌強度は586(1/s)と算出された(表1)。
【0110】
【表1】
【0111】
(実施例2)
撹拌強度G値が317(1/s)であること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル3〜5)。
【0112】
(比較例1)
撹拌強度G値が211(1/s)であること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル6〜8)。
【0113】
(比較例2)
めっき反応時に、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式の無電解めっき方法を用いた(図7)。図7の模式図にて示す攪拌の方式で撹拌翼を300rpmで回転させ、撹拌強度G値が185(1/s)であること以外は、実施例1と同様の条件設定とすることで、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル9〜11)。
【0114】
(比較例3)
めっき液22の攪拌を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル12〜14)。
【0115】
D‐1‐2.金属めっき膜の膜厚の測定:
実施例1、2及び比較例1〜3により得られた円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の膜厚5を蛍光X線分析装置によって測定した。膜厚の測定地点10aは、円筒管形状のめっき物61の外周面62において、円筒管形状の円周方向63で中心から90度ごと(中心角90度ごと)に外周面62を区分する長手方向区画線65、及び、長手方向64で100mmごとに外周面62を区分する円周方向区画線66によって、円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2を区画した(図3B及び3C)。円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2全体に均等に分布した上述の各区画での対角線の交点20ヶ所を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとした。これら20ヶ所の測定地点10aにて測定された金属めっき膜2の膜厚5の値より算出された平均膜厚と平均膜厚に対する標準偏差を表1及び図10に示す。
【0116】
D‐1‐3.めっき液の攪拌強度の金属めっき膜の膜厚への影響の評価:
実施例1及び2の円筒管形状のめっき物61(サンプル1〜5)では、金属めっき膜2の平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下であった(図10及び表1)。対照的に、比較例1〜3の円筒管形状のめっき物61(サンプル6〜14)では、金属めっき膜2の平均膜厚に対する標準偏差が0.10μmを超えていた(図10及び表1)。以上の結果から、アルミナを原料とするセラミックスを主成分とする多孔質体13の表面を、平均膜厚に対する標準偏差を0.1μm以下にて膜厚5が分布するパラジウムを成分とする金属めっき膜2で被覆するには、めっき反応時のめっき液22の撹拌強度を250(1/s)以上とする必要があることが判明した。また、めっき反応時のめっき液22の撹拌強度を250(1/s)以上とすることにより、平均膜厚1.0〜10.0μmの範囲において、平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下となることを確認した。
【0117】
D‐2.膜厚の厚さと平均膜厚に対する標準偏差との関係:
以下、実施例3により、金属めっき膜の平均膜厚の値の大きさと平均膜厚に対する標準偏差との関係を評価した。
【0118】
D‐2‐1.めっき物の作製及び金属めっき膜の膜厚の測定:
(実施例3)
実施例2と同様の無電解めっき方法(気泡の噴出により撹拌強度G値が317(1/s)にてめっき液を攪拌)を用い、めっき反応の時間の長短を調節することで平均膜厚が1.19〜10.50μmの金属めっき膜2が被覆された円筒管形状のめっき物61(サンプル3〜5及びサンプル15〜25、但しサンプル3〜5は実施例2のものと同じ)を得た(表2)。円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の膜厚5の測定は、上述の実施例1などと同じ手法で行った。実施例3の円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差を表2及び図11に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
D‐2‐2.膜厚の厚さと平均膜厚に対する標準偏差との関係の評価:
実施例3の円筒管形状のめっき物61(サンプル3〜5及びサンプル15〜25)では、平均膜厚が1.2〜10.5μmと幅広い範囲に分布しているにもかかわらず、平均膜厚に対する標準偏差は0.02〜0.08μmとバラツキが非常に少なかった。通常、平均膜厚が厚いサンプルでは、これに対応して平均膜厚に対する標準偏差も大きくなると考えられるが、実施例3ではこのような関係は見出せなかった。よって、めっき反応時に攪拌強度Gが317(1/s)にてめっき液22を攪拌した実施例3では、特に金属めっき膜2の平均膜厚が大きいサンプルにおいて、金属めっき膜2の膜厚5のバラツキが極めて抑えられていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面が被覆されためっき物、及び、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する無電解めっき方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】めっき物の断面を示す模式図である。
【図2】金属めっき膜の膜厚の測定方法を示す模式図である。
【図3A】円筒管形状のめっき物の斜視図である。
【図3B】図3A中の平面Aで切断した円筒管形状のめっき物の断面図である。
【図3C】図3B中の長手方向区画線65aにて切断して展開した円筒管形状のめっき物の外周面の展開図である。
【図4】水素分離装置の一形態を模式的に示す図である。
【図5】気泡の噴出によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図6】気泡の噴出によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図7】攪拌翼によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図8】板状の隔壁を設置しためっき槽の一形態を模式的に示す図である。
【図9】チューブ状の隔壁を設置しためっき槽の一形態を模式的に示す図である。
【図10】無電解めっき方法のめっき反応中のめっき液の攪拌強度と金属めっき膜の平均膜厚に対する標準偏差との関係を示すグラフである。
【図11】無電解めっき方法で得られた金属めっき膜の平均膜厚と平均膜厚に対する標準偏差との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0123】
1:めっき物、2:金属めっき膜、3:被めっき物、4:被めっき面、5:金属めっき膜の膜厚、6:基準面、7:被めっき物の表面上に存する部分、8:凹部に侵入した部分、9:細孔、10a:膜厚の測定地点、10b:基準面上の膜厚の測定地点での接線、10c:基準面の接線に垂直な軸、11:水素分離装置、12:水素分離体、13:多孔質体、14:原料入口、15:残原料出口、16:水素出口、17:水素分離膜、21:めっき槽、22:めっき液、23:めっき液の液面、24:めっき槽の底面、25:めっき槽の側面、26:上昇流路、27:下降流路、28:隔壁、29a:上方開口部、29b:下方開口部、30:めっき液の循環方向、31:循環流速計、32:液面計、35:流量計、41:散気ノズル、42:散気管、43:気泡(空気)、44:攪拌翼、51:被めっき物の上端部の位置、52:被めっき物の下端部の位置、53:邪魔板、61:円筒管形状のめっき物、62:円筒管形状の外周面、63:円筒管形状の円周方向、64:円筒管形状の長手方向、65a〜65d:長手方向区画線、66:円周方向区画線、70:袋管形状の閉塞されている端部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき物及び無電解めっき方法に関する。詳しくは、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物に関する。また、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき方法は、大型の部材あるいは凹凸のある部材の表面を金属皮膜で被覆する手段として有効である。無電解めっき方法では、めっき反応中にめっき液の状態を良好に保つことが重要とされ、例えば、特許文献1では、めっき液中に気泡を噴出することでめっき液の組成を均一に安定化する技術が開示されている。
【0003】
近年強く求められるクリーンなエネルギー源として注目されている水素を天然ガス等から選択に抽出する手段として水素分離装置が開発されている。この水素分離装置は、パラジウム又はパラジウムを含む合金(以下、パラジウム合金ということにする)などの水素選択透過性金属からなる金属皮膜を水素分離膜とし、この水素分離膜で原料ガス等を内部に疎通可能な多孔質体の表面が被覆されていることを特徴とする水素分離体を備える。
【0004】
機械的強度を保ち高い耐久性を発揮させるために、上記の水素分離膜は、均一な膜厚で分布されていることが強く求められている。また、無電解めっき方法を用いて、管形状あるいは凹凸のある多孔質体の表面が水素分離膜で被覆させることにより、水素分離の効率を向上させる技術が採用されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−120639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、今日においても、無電解めっき方法によって、薄く均一な膜厚で分布する金属皮膜(以下、無電解めっき方法による金属皮膜を金属めっき膜ということにする)で被めっき物の表面上を安定的に被覆することは困難である。また、特許文献1に開示されたように、めっき反応中のめっき液を攪拌することは、均一な膜厚にて分布する金属めっき膜で被覆するためには有効であるが、汎用性及び再現性の高い詳細な条件の設定には至っていない。さらに、被めっき物が多孔質体である場合、均一な膜厚で分布する金属めっき膜を形成することはより困難となる。そのため、これまでのパラジウム又はパラジウム合金を成分とする水素分離膜では、水素透過流束を上げるために平均膜厚を薄くしていくと、不均一な膜厚の分布に起因して、膜厚の薄い部分で孔が開くなどの欠陥もある程度の頻度で生じ、耐久性に依然として難点がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面が被覆されるめっき物、及び、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面上を被覆する無電解めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明者等は、鋭意検討の結果、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面上を被覆することができる無電解めっき方法を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明において、以下のめっき物、無電解めっき方法が提供される。
【0009】
[1] 平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下にて膜厚が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物。
【0010】
[2] 前記[1]に記載の前記めっき物が水素分離体であって、前記金属めっき膜が水素を選択的に透過させる水素分離膜とされ、水素を含有する流体を内部に流通させることができる前記多孔質体の表面が前記水素分離膜で被覆されているめっき物。
【0011】
[3] 前記平均膜厚が1.0〜10.0μmである、前記[1]又は[2]に記載のめっき物。
【0012】
[4] 下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液中に、セラミックスを主成分とする多孔質体を浸漬し、前記多孔質体の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜で被覆する無電解めっき方法。
【0013】
【数1】
【0014】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0015】
[5] 前記めっき液は、前記めっき液内での気泡の噴出により攪拌される、前記[4]に記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のめっき物は、セラミックスを主成分とする多孔質体の表面が、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜で被覆されるものとできる。本発明の無電解めっき方法は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜で、セラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。なお、以下の記述では、図面と対応させるため、用語の末尾に符号を付する場合があるが、用語の末尾に符号が付されていても、図面に示された態様に限定して本発明の技術的範囲を規定するものではない。
【0018】
A.めっき物:
A‐1.本発明のめっき物の概要:
図1の断面図で示されるように、本発明のめっき物1は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が、平均膜厚に対する標準偏差0.10μm以下にて膜厚5が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆されていることを特徴とする。
【0019】
金属めっき膜2の膜厚5は、1.0〜10.0μmであることが好ましく、1.0〜5.0μmであることが更に好ましい。金属めっき膜2の膜厚5が1.0μm未満では、多孔質体13の被めっき面4全体を完全に被覆することが困難な場合がある。一方、金属めっき膜2の膜厚5が10.0μm超であると、金属めっき膜2を水素分離膜17とする水素分離体12としてめっき物1を使用した場合(図4)に、膜厚5の厚い水素分離膜17(金属めっき膜2)のために、この水素分離体12の水素透過能が不十分な場合がある。
【0020】
なお、本発明のめっき物1は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が上記の条件の金属めっき膜2で被覆されていればよく、被めっき面4の一部が多孔質体13の表面には該当しないものを含んでもよい。
【0021】
また、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が上記の条件で被覆される金属めっき膜2の上を、更に別の物質で被覆されているものも本発明のめっき物の技術的範囲内に属する。
【0022】
ここでいう「めっき物」とは、無電解めっき方法により金属皮膜(金属めっき膜)で被覆されている物体のことをいう。「金属めっき膜」とは、無電解めっき方法により被覆された金属皮膜のことをいう。金属めっき膜にて被覆される物体のことを「被めっき物」ということにする。金属めっき膜で被覆される被めっき物の表面のことを「被めっき面」ということにする。金属めっき膜で「被覆」するとは、被めっき物の表面の一部又は全部に金属めっき膜が形成されることをいう。
【0023】
A‐2.膜厚、平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差:
ここでは、本発明のめっき物を特徴づける際に重要な要素となる膜厚に関する説明をする。
【0024】
本明細書のいう「金属めっき膜の『膜厚』」は、蛍光X線分析装置で測定される値とし、以下のように定める軸における金属めっき膜の幅とする。
【0025】
本発明のめっき物1は、多孔質体13の表面を被めっき面4とするため、図1に示すように、金属めっき膜2は、多孔質体13表面の凹部に蓋をするような態様となる。そこで、図1に示されるように、金属めっき膜2の膜厚5は、多孔質体13の表面上に存する部分7と凹部に侵入した部分8との幅の和とし、以下の(1)〜(3)の手順に従って規定する。
【0026】
(1)図1及び2の多孔質体13の表面に沿って引かれた破線のように、多孔質体13の被めっき面4の各凸部と1点以上で接する最小面積の面を基準面6として想定する。この基準面6は、多孔質体13を収容する最小表面積の容体を想定した場合に、その容体の表面にも相当する。
(2)この基準面6上の任意の点のうち、その点での基準面6の接線10bに垂直な軸10cをとる(基準面6が平面のときは基準面6に垂直な軸とする)。図2で示されるように、その軸10cが金属めっき膜2と多孔質体13との界面(金属めっき膜2と多孔質体13とが接触している面)とが交差しない軸10cを設定できる地点が、膜厚5の測定地点10aとしての資格を有するものとする。
(3)(2)で定められた測定地点10aにおいて、軸10c方向での金属めっき膜2の幅を「金属めっき膜の『膜厚』」とする。
【0027】
金属めっき膜2の平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差の信頼性を保つため、膜厚5の測定地点10aは、被めっき面4全体を均等に分布するように設定する。この均等に分布した膜厚の測定地点10aは、例えば、被めっき面4を1〜100mm四方で区画し、各区画の対角線の交点として決定される地点を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとしてもよい(図3A〜3C参照)。
【0028】
例えば、外径30mm、長さ500mmの円筒管形状の多孔質体13の外周面62を被めっき面4として金属めっき膜2で被覆した円筒管形状のめっき物61について図3A〜3Cを参照して説明する。この場合、円筒管形状の外周面62の円周方向63で中心から90度ごと(中心角90度ごと)に外周面62を長手方向区画線65a〜65dにて区分し(図3B及び3C)、長手方向64で100mmごとに外周面62を円周方向区画線66にて区分することで外周面62を区画する。このようにして得られた各区画の対角線の交点は、被めっき面4を均等に分布するため、金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとすることができる(図3C)。
【0029】
なお、上記の円筒管形状の外周面62に対する測定地点10aの設定手法では、図4に示す一方の端部が閉塞されている袋管形状の多孔質体13の外周面を金属めっき膜2で被覆されためっき物1の場合、円筒管形状の外周面62に対する「袋管形状の閉塞されている端部70の外周面」の面積が1割以下の場合は、測定地点10aの対象外とする。一方、「袋管形状の閉塞されている端部70の外周面」が外周面62の面積の1割よりも大きくなる場合は、上記の長手方向区画線65a〜65dと円周方向区画線66とによる一区画の面積との比率を考慮して、袋管形状の閉塞されている端部70の外周面を区画し、測定地点10aを設定する手法を採用できる。たとえば、袋管形状の閉塞された端部70の外周面の面積が、長手方向区画線65a〜65dと円周方向区画線66とによる一区画(図3C参照)の面積の1.5倍以上かつ2.5倍未満の場合には、袋管形状の閉塞された端部70の外周面を二等分して各区画の中心部を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとする手法を採用することができる。
【0030】
ここでいう金属めっき膜の「平均膜厚」は、蛍光X線分析装置で測定した各測定地点10aでの金属めっき膜2の膜厚5の値の相加平均値により算出される。
【0031】
ここでいう金属めっき膜の「平均膜厚に対する標準偏差」は、通常の統計手法に従って算出する。すなわち、上記の方法で算出された平均膜厚と各測定地点10aでの膜厚5との差の2乗を平均して得られる分散の平方根として規定される。
【0032】
A‐2.パラジウム及びパラジウム合金:
本発明のめっき物1で被覆される金属めっき膜2の主成分となるパラジウム(Pd)は、水素を溶解・拡散させることで、水素を選択的に透過させる性質を有する金属である。また、「パラジウム合金」とは、「パラジウム」と「パラジウム以外の金属」とが固溶した金属のことをいう。
【0033】
本発明のめっき物1では、金属めっき膜2の水素脆化を防止する観点からは、パラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆される方が好ましい。この場合、本発明のめっき物1では、パラジウム合金における「パラジウム以外の金属」の含量は、5〜50質量%であることが好ましい。また、パラジウム合金におけるパラジウム以外の金属として銀(Ag)や銅(Cu)を含有することは、パラジウムの水素脆化防止のため最も好ましい。本発明のめっき物1では、パラジウムと銀との合金(以下、Pd‐Ag合金ということにする)を用いる場合には、パラジウムと銀との質量比(Pd:Ag)が、90:10〜70:30であることが好ましい。
【0034】
A‐3.セラミックスを主成分とする多孔質体:
ここでいう「多孔質体の表面」とは、図1に示されるように、三次元的に連続した多数の微細な孔(以下、細孔ということにする)をもつ物体の表面のことをいう。
【0035】
本発明のめっき物1は、細孔9の径が0.01〜2.0μmの多孔質体13を、上記の条件の膜厚5で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆される。また、ピンホールなどのない高い緻密性の金属めっき膜2で被覆される観点からは、多孔質体13の細孔9の径は、0.05〜1.0μmが好ましい。
【0036】
ここでいう多孔質体13の主成分となる「セラミックス」としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コーディエライト、ジルコニア等が挙げられる。なお、「セラミックを主成分とする」とは、セラミック以外にも、不可避的に含有される成分、多孔質体を形成する際に通常添加されるような成分を少量含有してもよい。また、ここでいう「セラミックスを主成分とする多孔質体」とは、金属めっき膜2を被覆する多孔質体13の表面がセラミックスを主成分とするもののことであり、全体がセラミックスからなる多孔質体13や、金属やサーメット等の上にセラミックスを積層した多孔質体13を例示することができる。多孔質体13の形状としては、円筒管形状、平板形状、片端が閉じた袋管形状等、任意の形状を採用することができる。
【0037】
1つの金属めっき膜2に膜厚5の厚い部分と膜厚5の薄い部分が存在するときには、膜厚5の薄い部分でも機械的強度が保たれるように平均膜厚を厚めに設定せざるを得ない。本発明のめっき物1の金属めっき膜2は、均一な膜厚5で分布するので、金属めっき膜2の平均膜厚を薄く設定できる。すなわち、本発明のめっき物1に被覆されるパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2は、膜厚5が薄く、高い機械的強度及び高い耐久性を兼ね備えている。
【0038】
B.水素分離体:
上記めっき物1の一実施形態である水素分離体12は、セラミックスを主成分とする多孔質体13が水素を含有する流体をその内部に流通させることができるものとされ、パラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2が水素を選択的に透過する水素分離膜17とされることを特徴とする。
【0039】
本発明のめっき物1の一実施形態である水素分離体12は、上述のように薄さと高い機械的強度すなわち高い耐久性を有するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2を水素分離膜17として有する。更に、耐食性や耐熱性などに優れるセラミックスを主成分とする多孔質体13によって上記の水素分離膜17を裏打ちすることで、水素分離膜17は、機械的強度を更に補強し、耐久性が一層高められている。
【0040】
図4に示すように、本発明のめっき物1の一実施形態である水素分離体12は、水素分離装置11に備えることができる。水素分離装置11では、原料入口14から流入した原料ガス又はその生成物に含まれる水素が、水素分離体12の水素分離膜17を選択的に透過して水素出口16から排出される形態を備える。同時に、水素分離装置11では、水素分離体12の水素分離膜17を透過できない残余の原料ガス及びその生成物が、残原料出口15から排出される形態を備える。
【0041】
C.本発明の無電解めっき方法
以下では、上述のめっき物を作製する方法、すなわち本発明の無電解めっき方法について詳しく説明する。
【0042】
C‐1.本発明の無電解めっき方法の概要:
本発明の無電解めっき方法は、下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液22中にセラミックスを主成分とする多孔質体13(被めっき物3)を浸漬し、この多孔質体13の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜2で被覆することを特徴とする(図5〜9参照、金属めっき膜については図1参照)。
【0043】
【数2】
【0044】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0045】
本発明の無電解めっき方法は、従来の無電解めっき方法と同様に、めっき液22に浸漬された多孔質体13の被めっき面4上で進行する化学的な還元反応によって、被めっき面4上に金属を析出させて金属めっき膜2で被覆することを基本的な原理としている。
【0046】
本発明の無電解めっき方法においては、従来の無電解めっき方法に適用される材料・装置・薬品などのあらゆるものを、本発明の特徴を損なわない限り使用することができる。以下、本発明の無電解めっき方法を工程の順に従って説明する。
【0047】
C‐2.触媒核の付着:
まず、本発明の無電解めっき方法では、従来公知の無電解めっき方法と同様に、めっき反応の触媒(Pdなど)を多孔質体13の被めっき面4に付着させる。例えば、活性化金属を含有する溶液に多孔質体13(被めっき物3)を浸漬することにより、被めっき面4に活性化金属を含有する溶液を付着させる。その後、還元処理を行い、触媒核とする。本発明の無電解めっき方法において、パラジウムを活性化金属として用いるときは、例えば、塩化パラジウムの塩酸水溶液を用いることができる。本発明の無電解めっき方法では、活性化金属を被めっき面4に付着させる方法として、例えば、多孔質基材13を塩化パラジウムの塩酸水溶液と塩化錫の塩酸水溶液に交互に浸漬させることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の無電解めっき方法では、被めっき面4に触媒核を付着させる際に、多孔質体13の表面の一部をマスクすることで、多孔質体13の表面の一部だけを被めっき面4と設定することもできる。
【0049】
C‐3.めっき液:
本発明の無電解めっき方法に用いるめっき液22の組成は、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面をパラジウム又はパラジウム合金からなる金属めっき膜2で被覆する本発明の特徴を妨げない限り、従来公知のめっき液22の組成を用いることが可能である。なお、本発明の無電解めっき方法に用いるめっき液22は、添加剤(還元剤、界面活性剤など)を適宜加えてもよい。
【0050】
C‐4.めっき反応:
図5〜9で示されるように、本発明の無電解めっき方法において、めっき反応は、被めっき面4に触媒核を付着させた多孔質体13(被めっき物3)を、めっき槽21に入れられためっき液22に浸漬して行う。これにより、触媒核を中心としてパラジウムが析出し、パラジウムからなる金属めっき膜2が形成される。なお、めっき槽21の形状・大きさ・材質なども、本発明の無電解めっき方法の特徴を妨げない範囲であらゆる形態のものが許される。本発明の無電解めっき方法におけるめっき液22の攪拌に関しては、後で詳しく説明する。
【0051】
なお、本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の温度及びめっき反応の時間は、形成する金属めっき膜2の所望の膜厚5、金属めっき膜2で被覆される多孔質体13の形状などに対応させて適宜設定できる。
【0052】
本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13(被めっき物3)の表面の一部をマスクすることで、多孔質体13の表面の一部だけでめっき反応を進行させ、多孔質体13の一部の表面に限定して金属めっき膜2で被覆することもできる。
【0053】
本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13をめっき液22に浸漬する前に、多孔質体13に脱脂処理、酸処理などの従来公知の前処理を施してもよい。
【0054】
本発明の無電解めっき方法では、めっき反応を経て被覆された金属めっき膜2に対し、更に熱処理を加えるなどの後処理を必要に応じて施してもよい。
【0055】
C‐5.パラジウム合金:
本発明の無電解めっき方法において、パラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆する場合には、めっき反応時に攪拌強度Gを250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌することを基本とする無電解めっき方法を用いて、パラジウムを成分とする金属めっき膜2、及びパラジウム以外の金属を成分とする金属めっき膜2を順次形成する手法を採用できる。
【0056】
本発明の無電解めっき方法において、例えば、Pd‐Ag合金を成分とする金属めっき膜で被覆する場合、上述の工程によってパラジウムを成分とする金属めっき膜2で多孔質体13表面を被覆した後に、このパラジウムを成分とする金属めっき膜2の上に、さらに無電解めっき方法によって銀を成分に含む金属めっき膜2で被覆し、次いで熱処理を加えて合金化する手法を採用できる。
【0057】
また、本発明の無電解めっき方法では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、パラジウムを成分とする金属めっき膜2上を銀で被覆するに際し、最初のめっき反応で多孔質体13表面を被覆した金属めっき膜2を構成するパラジウムを電極とした電気めっき法を採用することもできる。
【0058】
続いて、得られためっき物1に600〜900℃で1〜24時間の熱処理を施し、複合金属めっき膜2中のパラジウムと銀とを相互拡散させて合金化することで、Pd‐Ag合金を成分とした金属めっき膜2で多孔質体13の表面を被覆されためっき物1を得る。
【0059】
なお、本発明の無電解めっき方法では、パラジウム合金の金属めっき膜2を形成するに際し、「パラジウムを成分とする金属めっき膜2」と「パラジウム以外の金属を成分とする金属めっき膜2」を形成する順序は特に限定しない。
【0060】
あるいは、本発明の無電解めっき方法では、多孔質体13に上記の活性化金属を付着させる工程を行った後、「パラジウム」と「パラジウム以外の金属(例えば銀)」を共に含有するめっき液22に多孔質体13を浸漬させて、めっき反応時に攪拌強度Gを250(1/s)以上にてめっき液22を攪拌する無電解めっき方法によって、セラミックスを主成分とする多孔質体13の表面を「パラジウム」と「パラジウム以外の金属(例えば銀)」を共に成分に含む金属めっき膜2で一度に被覆し、次いで熱処理を加えて合金化する手法を採用することもできる。
【0061】
なお、熱処理前までの無電解めっき方法により形成された金属めっき膜2について平均膜厚が1.0〜10.0μmの範囲で平均膜厚に対する標準偏差を0.10μm以下の膜厚5の分布する場合、これを反映し、さらに熱処理を加えた合金化後の金属めっき膜2でも、非常に均一な膜厚の分布となる。
【0062】
C‐6.めっき液の攪拌:
本発明の無電解めっき方法は、多孔質体13(被めっき物3)のめっき液22への浸漬時に、攪拌強度G値を250(1/s)以上にてめっき液22が攪拌されることを必須とする(図5〜9参照)。
【0063】
本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の攪拌は、多孔質体13の浸漬前からあらかじめ行っておく方が、めっき液22の組成などをより均一な状態にできるため好適である。
【0064】
ここでいう「攪拌強度」とは、速度勾配G値(1/s)を示す数値であり、例えば水道施設設計指針2000年版(社団法人日本水道協会編)に記載された下記式(I)から算出できる。
【0065】
【数3】
【0066】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【0067】
なお、上記の式(I)中に示される攪拌によるめっき液の動力消費エネルギーP(J/s)は、めっき液の攪拌の方法(詳しくは後述)に応じて、これを算出する計算式が定められる。
【0068】
本発明の無電解めっき方法において、めっき槽21内のめっき液22を攪拌する方式は、例えば、めっき液22内に気泡43の噴出する方式(図5、6、8及び9を参照)、めっき槽21内に配置された攪拌翼44を運動させる方式(図7を参照)、液の循環ポンプによりめっき液22を循環させる方式(図示せず)などのいずれでもよい。
【0069】
C‐6‐1.気泡の噴出による攪拌:
本発明の無電解めっき方法では、一実施形態を模式的に示す図5を参照して以下に説明すると、めっき液22内に気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式を採用することが好適である。
【0070】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、めっき液22内に気泡43を噴出させるため、めっき槽21の下部(図5)又は側部(図なし)に散気ノズル41を配置する。この散気ノズル41は、散気管42と連通して、気体を散気管42から供給される。
【0071】
なお、本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41が配置される場所及び散気ノズル41の孔が開口する向きは、特に限定されない。本発明の無電解めっき方法では、効率良くめっき液22を攪拌できる点から、散気ノズル41は、めっき槽21内に配置される多孔質体13(被めっき物3)の下端の位置よりも少なくとも下部に配置されることが好ましい。また同様の点から、本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41の孔は、上方、すなわちめっき液22の液面23に向かって開口する方が好ましい。
【0072】
本発明の無電解めっき方法において気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41から噴出される気泡43の量は、散気管42又は散気管42に通じる供給ラインに流量計35を設置し、この流量計35で測定された気体流量に応じて気泡43の噴出量を適宜調整してもよい。
【0073】
本発明の無電解めっき方法において気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、めっき槽21内には、攪拌によるめっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を測定するため、循環流速計31、液面計32などを設置してもよい。
【0074】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、散気ノズル41からめっき液22内に気泡43を噴出すると、気泡43が上昇するのに伴うガスリフト効果によりめっき液22内では上昇流が生じる。この上昇流によって液面23に到達した流れは、次いで下降流となる。これによって、めっき液22は攪拌され、めっき液22の組成が均一化し、被めっき面4全体で反応速度が均一化しためっき反応を保つことができる。
【0075】
本発明の無電解めっき方法において、気泡43を噴出させてめっき液22を攪拌する方式では、上述の式(I)により算出される攪拌強度Gを250(1/s)以上とするには、めっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を測定し、散気ノズル41から噴出される気泡43の流量などを調節するとよい。以下に、攪拌強度Gの算出方法を説明する。
【0076】
気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌させる場合(図5参照)、上記式(I)に記載のめっき液の動力消費エネルギーPは、下記式(II)により算出される。
【0077】
【数4】
【0078】
(上記式(II)中、ρ0はめっき液の密度(kg/m3)、Vはめっき液の体積(m3)、gは重力加速度(=9.8(m/s2))、Ulcは循環流速(m/s)を表し、ε0はガスホールドアップ容積比を表す)
【0079】
図5を例に説明すると、上記式(II)中のめっき液22の循環流速(m/s)は、めっき槽21内に設置された循環流速計31によって測定できる。めっき液22の密度(kg/m3)はめっき液22の調製時に算出可能であり、めっき液22の体積(m3)はめっき槽21の設計からその値を得ることができる。そこで、残るガスホールドアップ容積比ε0を決定できれば、めっき液22の動力消費エネルギーPを算出できる。
【0080】
ガスホールドアップ容積比ε0は、下記式(III)により算出される。
【0081】
【数5】
【0082】
(上記式(III)中、Zfはエアレーション時のめっき液の液面の高さ(mm)、Zlは静置時のめっき液の液面の高さ(mm)を表す)
【0083】
図5を例に説明すると、散気ノズル41からの気泡43の噴出により、めっき液22の液面23は、ガスリフト効果により盛り上がりが生じる。気泡43の噴出時のめっき液22の液面23の高さZfと気泡43の噴出前のめっき液22の液面23の高さZlとの差ΔZ(ΔZ=Zf−Zl)を液面計32により測定することで、ガスホールドアップ容積比ε0を算出できる。
【0084】
よって、図5に例示した実施形態では、循環流速計31と液面計32を少なくともめっき槽21に設置することで、めっき液22の攪拌強度G(1/s)が算出可能である。
【0085】
本発明の無電解めっき方法で、気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌する方式の場合(図5、6、8及び9参照)、攪拌強度G値が250(1/s)以上となるように気泡43の流量を調整する。気泡43の流量は、流量計13で表示される流量値に基づき、バルブ(図示せず)の開閉などで調節することができる。
【0086】
C‐6‐2.攪拌翼の運動による攪拌:
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼の運動によりめっきを攪拌する方式を採用する場合、図7に示すように、めっき槽21には、めっき槽21内に配置される多孔質体13(被めっき物3)の下端の位置よりも下部に攪拌翼44を設ける。
【0087】
攪拌翼44の運動によるめっき液22の攪拌では、攪拌強度Gを算出するための上記式(I)中のめっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)は、下記(IV)により算出される。
【0088】
【数6】
【0089】
(上記式(IV)中、ρはめっき液の密度(kg/m3)、Cは攪拌翼の抵抗係数、aは攪拌翼の運動方向に垂直な面積(m2)、vは攪拌翼の平均速度(m/s)を表す)
【0090】
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式では、上記式(IV)中の攪拌翼44の運動方向に垂直な面積a(m2)及び攪拌翼44の平均速度v(m/s)等を調節することで、めっき液22の動力消費エネルギーP(J/s)を所望の値とし、この値をもとに算出される攪拌強度Gが250(1/s)となるようにする。なお、攪拌翼の抵抗係数Cは、攪拌翼の形状によって決定される。
【0091】
本発明の無電解めっき方法において、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式においても、めっき槽21の形状・大きさ・材質などは、本発明の無電解めっき方法の特徴を妨げない範囲であらゆる形態のものが許される。
【0092】
C‐7.他の実施形態:
めっき液22の攪拌強度G値を250(1/s)以上としてめっき液22を攪拌するに際し、以下のような実施形態とすることもできる。
【0093】
(ア)めっき槽内の隔壁の設置:
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21内のめっき液22の攪拌を安定的に行うため、図8及び9に示すような、隔壁28を備えためっき槽21を用いてもよい。
【0094】
図8を参照して一例を説明すると、本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21は、上昇流を生じる上昇流路26と下降流を生じる下降流路27とにめっき槽21の深さ方向に沿ってめっき槽21を隔てる隔壁28と、上昇流路26内に上昇流を及び/又は下降流路27内に下降流を生じさせる動力発生手段(図8の散気ノズルが相当)とを有し、液面23から深さD1までの部分及び深さD2からめっき槽21の底面24までの部分が開口されている隔壁28とされることで、上昇流路26と下降流路27とが上部及び下部で連通されているものとできる。(但し、上記D1及びD2は、D1<D2<底面の深さ、の関係を有する)
【0095】
例えば、動力発生手段(図8では散気ノズル41が相当)を上昇流路26に設置した場合、動力発生手段によって上昇流路26を上昇してきた上昇流は、液面23に到達すると、液面23から所定の深さD1までの隔壁28が開口される部分(以下、上方開口部29aということにする)から隣接する下降流路27に流れ込む。続いて、下降流路27に入っためっき液22の流れは、下降流となって下降流路27をめっき槽21の底面24に向かって下降し、めっき槽21の底面24に到達すると、深さD2からめっき槽21の底面24まで隔壁28が開口される部分(以下、下方開口部29bということにする)から隣接した上昇流路26に流れ込み、再び上昇流となる。これによって、めっき液22は上昇流路26と下降流路27との間を循環し、めっき液22の組成の均一性は安定的に保たれる。
【0096】
なお、本発明の無電解めっき方法では、上記の「動力発生手段」は、めっき液22に上昇流又は下降流を発生される動力を付与するものであれば、特に限定されない。例えば、散気管42と散気ノズル41などを用いてめっき槽21内のめっき液22に気泡43を噴出する方式(図5、6、8及び9参照)、めっき槽21内にてめっき液22に動力を与える攪拌翼44を用いた方式(図7を参照)、めっき槽21内にめっき液22を流し込む液循環ポンプを用いた方式(図示せず)などを挙げることができる。
【0097】
図8を一例に説明すると、本発明の無電解めっき方法では、めっき液22の循環を安定できる観点から、めっき反応中の多孔質体13(被めっき物3)の上端部の位置51は、深さD1より深い位置が好ましい。また、同様に、めっき反応中の多孔質体13(被めっき物3)の下端部の位置52は、深さD2よりも浅い位置の方が好ましい。
【0098】
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽に設置される隔壁28は、上記のように上昇流路26と下降流路27とにめっき槽21内を隔ててめっき液22の循環を生じさせることができる限り、いかなる形状・大きさ・材質でもよい。
【0099】
本発明の無電解めっき方法では、上述のめっき槽21に設置される隔壁28としては、例えば、図8に示す板状の隔壁28を挙げることができる。
【0100】
また、本発明の無電解めっき方法では、板状の隔壁28に代えて、図9に示すように、チューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21も採用できる。チューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21では、例えば、チューブ状の隔壁28の内部を上昇流路26として上昇流を発生させ、チューブ状の隔壁28の外側を下降流路27として下降流が発生させる態様とできる。めっき液22の循環の方向を放射状することでめっき液22の組成をより均一にできる点で優れるため、本発明の無電解めっき方法において、隔壁28を設置しためっき槽21を採用する場合、図9のようにチューブ状の隔壁28を収容するめっき槽21を用いる方が好ましい。なお、本発明の無電解めっき方法では、チューブ状の隔壁21の内部を下降流路27、チューブ状の隔壁の外側を上昇流路26としてもよい。
【0101】
本発明の無電解めっき方法では、上記のチューブ状の隔壁28は、めっき液22の循環を妨げない形態で、めっき槽21の底面24又は側面25などと接続させて固定できればよい。
【0102】
また、本発明の無電解めっき方法では、隔壁28により上昇流路26と下降流路27とに隔てられた上述のめっき槽21において、気泡43の噴出によりめっき液22を攪拌する方式の場合、上昇流路26の下部に散気ノズル41を設置することが好ましい。この場合において、めっき液22の循環を安定化するため、より好ましくは深さD2よりも深い位置、最も好ましくはめっき槽の底面24又は底面24に近接した位置に散気ノズル41を設置することが好ましい。
【0103】
(イ)散気ノズルの形状・配置される間隔:
本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41の噴射孔の直径は、0.01〜5mmの範囲がよい(図5,6,8及び9参照)。散気ノズル41の噴射孔の直径が0.01mm未満のときは、気泡43が小さくなり、攪拌効果が薄れ、多孔質体13(被めっき物3)に気泡が付着するなどしてピンホールが発生する可能性があるため好ましくない。また、直径が5mmを超えると、均一に攪拌することが難しくなる可能性があるため好ましくない。また、本発明の無電解めっき方法では、散気ノズル41は、散気管42に1個又は2個以上設けてよい。
【0104】
(ウ)邪魔板の設置:
本発明の無電解めっき方法では、めっき槽21内のめっき液22の攪拌を安定的に行い、かつ、散気ノズル41から噴出された気泡43が被めっき物3に直接的に接触するのを避けるために、図6に示すような、散気ノズル41の直上に、邪魔板53を備えためっき槽21を用いることが好ましい。この邪魔板53によって、多孔質体13(被めっき物3)に直接気泡43が連続的に接触して気泡43の接触箇所の金属めっき膜2にピンホールが発生する危険を回避できる。
【0105】
(エ)気泡の組成:
本発明の無電解めっき方法において、めっき液22の攪拌に用いる気泡43の組成は、特に限定されない。本発明の無電解めっき方法では、例えば、空気、酸素、窒素及び希ガスからなる群より選ばれた少なくとも1種の気体から気泡を形成することができる。また、めっき液22の組成等の安定性及び形成される金属めっき膜2の安定性を高めることができる観点から、本発明の無電解めっき方法では、めっき溶液22中に揮発成分を含む場合には、めっき槽21の上部でガスを回収し、回収したガスを再び撹拌に使用することが好ましい。
【0106】
C‐8.本発明の無電解めっき方法の作用・効果:
本発明の無電解めっき方法では、攪拌強度G値が250(1/s)以上でめっき液22を攪拌しながらめっき反応を行うことで、セラミックスを主成分とする多孔質体13(被めっき物3)の表面が、均一な膜厚5で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2で被覆できる(図5〜9、金属めっき膜については図1参照)。特に、本発明の無電解めっき方法では、平均膜厚が1.0〜10.0μmの範囲においては、平均膜厚に対する標準偏差を0.10μm以下にて膜厚5が分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜2でセラミックスを主成分とする多孔質体13の表面が被覆されるめっき物1を得ることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
D‐1.めっき液の攪拌強度と金属めっき膜の膜厚との関係:
以下の実施例1、2及び比較例1〜3により、めっき反応時のめっき液の攪拌強度と金属めっき膜の平均膜厚に対する標準偏差との関係を評価した。
【0109】
D‐1‐1.めっき物の作製:
(実施例1)
外径30mm、長さ500mmの円筒管形状を有するアルミナを原料とするセラミックスを主成分とする多孔質体13(図3A)の外表面を、上述の無電解めっき方法によってパラジウム(Pd)を成分とする金属めっき膜2で被覆することで、円筒管形状のめっき物61を得た(表1のサンプル1及び2)。具体な条件設定としては、散気ノズル41の上部に邪魔板53を設けためっき槽21を用い、めっき反応時にめっき液22内に空気を成分とする気泡43を噴出させることで、めっき液22の撹拌を行った(図6)。めっき液の体積は5.11×10−3(m3)であり、めっき液の粘性度係数は0.55(Pa・s)であった。実施例1において、循環流速は0.30(m/s)、ガスホールドアップ容積比ε0は0.06であった。これら数値を式(I)及び式(II)に当てはめ計算した結果、攪拌強度は586(1/s)と算出された(表1)。
【0110】
【表1】
【0111】
(実施例2)
撹拌強度G値が317(1/s)であること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル3〜5)。
【0112】
(比較例1)
撹拌強度G値が211(1/s)であること以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル6〜8)。
【0113】
(比較例2)
めっき反応時に、攪拌翼44の運動によりめっき液22を攪拌する方式の無電解めっき方法を用いた(図7)。図7の模式図にて示す攪拌の方式で撹拌翼を300rpmで回転させ、撹拌強度G値が185(1/s)であること以外は、実施例1と同様の条件設定とすることで、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル9〜11)。
【0114】
(比較例3)
めっき液22の攪拌を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして無電解めっき方法により、円筒管形状のめっき物61を得た(図3A、表1のサンプル12〜14)。
【0115】
D‐1‐2.金属めっき膜の膜厚の測定:
実施例1、2及び比較例1〜3により得られた円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の膜厚5を蛍光X線分析装置によって測定した。膜厚の測定地点10aは、円筒管形状のめっき物61の外周面62において、円筒管形状の円周方向63で中心から90度ごと(中心角90度ごと)に外周面62を区分する長手方向区画線65、及び、長手方向64で100mmごとに外周面62を区分する円周方向区画線66によって、円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2を区画した(図3B及び3C)。円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2全体に均等に分布した上述の各区画での対角線の交点20ヶ所を金属めっき膜2の膜厚5の測定地点10aとした。これら20ヶ所の測定地点10aにて測定された金属めっき膜2の膜厚5の値より算出された平均膜厚と平均膜厚に対する標準偏差を表1及び図10に示す。
【0116】
D‐1‐3.めっき液の攪拌強度の金属めっき膜の膜厚への影響の評価:
実施例1及び2の円筒管形状のめっき物61(サンプル1〜5)では、金属めっき膜2の平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下であった(図10及び表1)。対照的に、比較例1〜3の円筒管形状のめっき物61(サンプル6〜14)では、金属めっき膜2の平均膜厚に対する標準偏差が0.10μmを超えていた(図10及び表1)。以上の結果から、アルミナを原料とするセラミックスを主成分とする多孔質体13の表面を、平均膜厚に対する標準偏差を0.1μm以下にて膜厚5が分布するパラジウムを成分とする金属めっき膜2で被覆するには、めっき反応時のめっき液22の撹拌強度を250(1/s)以上とする必要があることが判明した。また、めっき反応時のめっき液22の撹拌強度を250(1/s)以上とすることにより、平均膜厚1.0〜10.0μmの範囲において、平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下となることを確認した。
【0117】
D‐2.膜厚の厚さと平均膜厚に対する標準偏差との関係:
以下、実施例3により、金属めっき膜の平均膜厚の値の大きさと平均膜厚に対する標準偏差との関係を評価した。
【0118】
D‐2‐1.めっき物の作製及び金属めっき膜の膜厚の測定:
(実施例3)
実施例2と同様の無電解めっき方法(気泡の噴出により撹拌強度G値が317(1/s)にてめっき液を攪拌)を用い、めっき反応の時間の長短を調節することで平均膜厚が1.19〜10.50μmの金属めっき膜2が被覆された円筒管形状のめっき物61(サンプル3〜5及びサンプル15〜25、但しサンプル3〜5は実施例2のものと同じ)を得た(表2)。円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の膜厚5の測定は、上述の実施例1などと同じ手法で行った。実施例3の円筒管形状のめっき物61の金属めっき膜2の平均膜厚及び平均膜厚に対する標準偏差を表2及び図11に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
D‐2‐2.膜厚の厚さと平均膜厚に対する標準偏差との関係の評価:
実施例3の円筒管形状のめっき物61(サンプル3〜5及びサンプル15〜25)では、平均膜厚が1.2〜10.5μmと幅広い範囲に分布しているにもかかわらず、平均膜厚に対する標準偏差は0.02〜0.08μmとバラツキが非常に少なかった。通常、平均膜厚が厚いサンプルでは、これに対応して平均膜厚に対する標準偏差も大きくなると考えられるが、実施例3ではこのような関係は見出せなかった。よって、めっき反応時に攪拌強度Gが317(1/s)にてめっき液22を攪拌した実施例3では、特に金属めっき膜2の平均膜厚が大きいサンプルにおいて、金属めっき膜2の膜厚5のバラツキが極めて抑えられていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面が被覆されためっき物、及び、均一な膜厚で分布するパラジウム又はパラジウム合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆する無電解めっき方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】めっき物の断面を示す模式図である。
【図2】金属めっき膜の膜厚の測定方法を示す模式図である。
【図3A】円筒管形状のめっき物の斜視図である。
【図3B】図3A中の平面Aで切断した円筒管形状のめっき物の断面図である。
【図3C】図3B中の長手方向区画線65aにて切断して展開した円筒管形状のめっき物の外周面の展開図である。
【図4】水素分離装置の一形態を模式的に示す図である。
【図5】気泡の噴出によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図6】気泡の噴出によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図7】攪拌翼によるめっき液の攪拌の一形態を模式的に示す図である。
【図8】板状の隔壁を設置しためっき槽の一形態を模式的に示す図である。
【図9】チューブ状の隔壁を設置しためっき槽の一形態を模式的に示す図である。
【図10】無電解めっき方法のめっき反応中のめっき液の攪拌強度と金属めっき膜の平均膜厚に対する標準偏差との関係を示すグラフである。
【図11】無電解めっき方法で得られた金属めっき膜の平均膜厚と平均膜厚に対する標準偏差との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0123】
1:めっき物、2:金属めっき膜、3:被めっき物、4:被めっき面、5:金属めっき膜の膜厚、6:基準面、7:被めっき物の表面上に存する部分、8:凹部に侵入した部分、9:細孔、10a:膜厚の測定地点、10b:基準面上の膜厚の測定地点での接線、10c:基準面の接線に垂直な軸、11:水素分離装置、12:水素分離体、13:多孔質体、14:原料入口、15:残原料出口、16:水素出口、17:水素分離膜、21:めっき槽、22:めっき液、23:めっき液の液面、24:めっき槽の底面、25:めっき槽の側面、26:上昇流路、27:下降流路、28:隔壁、29a:上方開口部、29b:下方開口部、30:めっき液の循環方向、31:循環流速計、32:液面計、35:流量計、41:散気ノズル、42:散気管、43:気泡(空気)、44:攪拌翼、51:被めっき物の上端部の位置、52:被めっき物の下端部の位置、53:邪魔板、61:円筒管形状のめっき物、62:円筒管形状の外周面、63:円筒管形状の円周方向、64:円筒管形状の長手方向、65a〜65d:長手方向区画線、66:円周方向区画線、70:袋管形状の閉塞されている端部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下にて膜厚が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物。
【請求項2】
請求項1に記載の前記めっき物が水素分離体であって、
前記金属めっき膜が水素を選択的に透過させる水素分離膜とされ、
水素を含有する流体を内部に流通させることができる前記多孔質体の表面が前記水素分離膜で被覆されているめっき物。
【請求項3】
前記平均膜厚が1.0〜10.0μmである、請求項1又は2に記載のめっき物。
【請求項4】
下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液中に、セラミックスを主成分とする多孔質体を浸漬し、前記多孔質体の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜で被覆する無電解めっき方法。
【数1】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【請求項5】
前記めっき液は、前記めっき液内での気泡の噴出により攪拌される、請求項4に記載の無電解めっき方法。
【請求項1】
平均膜厚に対する標準偏差が0.10μm以下にて膜厚が分布するパラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜でセラミックスを主成分とする多孔質体の表面を被覆されためっき物。
【請求項2】
請求項1に記載の前記めっき物が水素分離体であって、
前記金属めっき膜が水素を選択的に透過させる水素分離膜とされ、
水素を含有する流体を内部に流通させることができる前記多孔質体の表面が前記水素分離膜で被覆されているめっき物。
【請求項3】
前記平均膜厚が1.0〜10.0μmである、請求項1又は2に記載のめっき物。
【請求項4】
下記式(I)で算出される攪拌強度G値が250(1/s)以上にて攪拌されているめっき液中に、セラミックスを主成分とする多孔質体を浸漬し、前記多孔質体の表面を、パラジウム(Pd)又はパラジウムを含む合金を成分とする金属めっき膜で被覆する無電解めっき方法。
【数1】
(但し、Pは攪拌によるめっき液の動力消費エネルギー(J/s)、Vはめっき液の体積(m3)、μはめっき液の粘性度係数(Pa・s)を表す)
【請求項5】
前記めっき液は、前記めっき液内での気泡の噴出により攪拌される、請求項4に記載の無電解めっき方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−77517(P2010−77517A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250159(P2008−250159)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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