説明

ゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺

【課題】油脂を使用することなく、麺の付着防止効果およびゆで伸び抑制効果を得ることができる、ゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺を提供する。
【解決手段】ゆで麺のほぐれ向上剤およびゆで伸び抑制剤は、イヌリンと環状デキストリンとを含んでいる。環状デキストリンは、分岐環状デキストリンであることが好ましい。イヌリンと環状デキストリンとの配合質量比が、9:1〜3:7であることが好ましい。生麺の場合には、麺の材料に、ゆで麺のほぐれ向上剤またはゆで伸び抑制剤を加えて製麺し、ゆでる。乾麺の場合には、ゆでた麺に、ゆで麺のほぐれ向上剤またはゆで伸び抑制剤をからめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、麺類は、ゆでた後放置することで、表面の水分が蒸発し、麺同士の粘着力を増大させていく。また、水分の存在する系で保存すると、麺内へ水分が移行するため、食感の劣化(伸び)が生じる。従来、ゆで麺の付着およびゆで伸びに関して、イヌリンと油脂とによる改善方法(例えば、特許文献1参照)や、デキストリンと油脂とにより改良した麺類の製造方法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−236382号公報
【特許文献2】特開2006−81433号公報
【特許文献3】特開2002−345423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1乃至3に記載の方法では、麺の付着やゆで伸びの防止に関して、未だ十分な効果を得ることはできないという課題があった。また、油脂の使用は、製品表示の面で弊害となる可能性があるという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、油脂を使用することなく、麺の付着防止効果およびゆで伸び抑制効果を得ることができる、ゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ゆで麺の物性改良を試みる中で、イヌリンと環状デキストリンとの併用が、ゆで麺の物性改良に効果があることを新たに見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤は、イヌリンと環状デキストリンとを含むことを、特徴とする。
【0008】
本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤は、イヌリンと環状デキストリンと含み、麺の材料に添加してから麺をゆでたり、ゆで麺にからめたり、ゆで麺を浸漬させたり、ゆで麺に噴霧したりすることにより、ゆで麺の付着を防止し、ゆで麺をほぐれやすくすることができる。
なお、本明細書において、「麺」にはパスタ、蕎麦、うどん、中華麺等の麺類全般を含み、「麺」は生麺であっても乾麺であってもよい。本発明は、特に、小麦粉を材料に含む麺に効果的である。
【0009】
本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤で、前記環状デキストリンは分岐環状デキストリンであることが好ましい。また、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤は、前記イヌリンと前記環状デキストリンとの配合質量比が、9:1〜3:7であることが好ましい。これらの場合、特に、麺の付着防止効果が高く、ゆで麺のほぐれ向上効果が高い。
【0010】
本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤は、イヌリンと環状デキストリンとを含むことを、特徴とする。
【0011】
本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤は、イヌリンと環状デキストリンと含み、麺の材料に添加してから麺をゆでたり、ゆで麺にからめたり、ゆで麺を浸漬させたり、ゆで麺に噴霧したりすることにより、ゆで麺の固さを保持し、ゆで麺のゆで伸びを抑制することができる。
【0012】
本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤で、環状デキストリンは分岐環状デキストリンであることが好ましい。また、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤は、イヌリンと環状デキストリンとの配合質量比が、9:1〜3:7であることが好ましい。これらの場合、特に、ゆで麺のゆで伸び抑制効果が高い。
【0013】
第1の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、麺の材料に、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤を加えて製麺し、ゆでることを、特徴とする。
【0014】
第1の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤を加えるため、ゆでた後の麺の付着を防止し、ゆで麺をほぐれやすくすることができる。製麺は、一般的な方法を適用できる。ゆでる温度は、限定されない。
【0015】
第1の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、前記麺の材料に、前記ゆで麺のほぐれ向上剤を0.3〜5.5質量%添加することが好ましい。特に、麺の材料に、ゆで麺のほぐれ向上剤を1.5〜5.5質量%添加することが好ましい。この場合、特に、麺の付着防止効果が高く、ゆで麺のほぐれ向上効果が高い。
【0016】
第2の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、ゆでた麺に、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤を付着させることを、特徴とする。
【0017】
第2の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、ゆでた麺に、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤を付着させるため、ゆで麺の付着を防止し、ゆで麺をほぐれやすくすることができる。
【0018】
第2の本発明に係るゆで麺のほぐれ向上方法は、前記ゆでた麺に、前記ゆで麺のほぐれ向上剤を0.3〜5.5質量%となるように水溶液を付着させることが好ましい。特に、ゆでた麺に、ゆで麺のほぐれ向上剤を1.5〜5.5質量%となるように水溶液を付着させることが好ましい。この場合、特に、麺の付着防止効果が高く、ゆで麺のほぐれ向上効果が高い。
【0019】
第1の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、麺の材料に、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えて製麺し、ゆでることを、特徴とする。
【0020】
第1の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えるため、ゆでた後の麺の固さを保持し、ゆで麺のゆで伸び抑制効果を得ることができる。製麺は、一般的な方法を適用できる。ゆでる温度は、限定されない。
【0021】
第1の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、麺の材料に、ゆで麺のゆで伸び抑制剤を1.5〜5.5質量%添加することが好ましい。この場合、特に、ゆで麺のゆで伸び抑制効果が高い。
【0022】
第2の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、ゆでた麺に、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させることを、特徴とする。
【0023】
第2の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、ゆでた麺に、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させるため、ゆで麺の固さを保持し、ゆで麺のゆで伸び抑制効果を得ることができる。
【0024】
第2の本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制方法は、ゆでた麺に、ゆで麺のゆで伸び抑制剤を1.5〜5.5質量%となるように水溶液を付着させることが好ましい。この場合、特に、ゆで麺のゆで伸び抑制効果が高い。
【0025】
第1の本発明に係るゆで麺は、麺の材料に、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤、または、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えて製麺し、ゆでて製造されることを、特徴とする。
【0026】
第1の本発明に係るゆで麺は、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤または本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えるため、ゆでた後の麺の付着を防止するとともに、ゆでた後の麺の固さを保持することができる。このため、ゆで麺をほぐれやすくし、かつ、ゆで麺のゆで伸びを抑制することができる。
【0027】
第2の本発明に係るゆで麺は、ゆでた後、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤、または、本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させて製造されることを、特徴とする。
【0028】
第2の本発明に係るゆで麺は、ゆでた後、本発明に係るゆで麺のほぐれ向上剤または本発明に係るゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させるため、ゆで麺の付着を防止するとともに、ゆで麺の固さを保持することができる。このため、ゆで麺をほぐれやすくし、かつ、ゆで麺のゆで伸びを抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、油脂を使用することなく、麺の付着防止効果およびゆで伸び抑制効果を得ることができる、ゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態のゆで麺のほぐれ向上剤、ゆで伸び抑制剤、ほぐれ向上方法およびゆで伸び抑制方法ならびにゆで麺について説明する。なお、本明細書において、特に説明しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
本発明の実施の形態のゆで麺のほぐれ向上剤およびゆで伸び抑制剤は、イヌリンと環状デキストリンとを含んでいる。本発明の実施の形態のゆで麺のほぐれ向上剤およびゆで伸び抑制剤の特徴や、各成分の配合量などを検討するために、以下の試験を行った。
【0031】
[試験方法]
生麺パスタの場合、原料の小麦粉120部、全卵55部、オリーブオイル7部、塩0.5部で、パスタを作製する。このとき、全量(182.5部)のうち所定の量の小麦粉を、試験製剤と置き換える。そのパスタを、麺線に成形し、沸騰水でゆでる。あら熱を取った後、200gづつ包装し、冷凍する。レンジアップ後、各評価項目について、試験製剤を添加しないものと比較して評価を行う。
【0032】
乾麺パスタの場合、市販の乾燥パスタをゆで、あら熱を取った後、試験製剤の所定の配合量の水溶液を、ゆでパスタにからめる。からめる量は、ゆでパスタ重量の10%分とする。からめた水溶液が十分麺に馴染んだ後、200gづつ包装し、冷凍する。レンジアップ後、各評価項目について、試験製剤をからめないものと比較して評価を行う。
【0033】
各評価項目として、ゆで麺のほぐれやすさ、固さ(ゆで伸び抑制効果)、味(甘さ)について、それぞれ4段階で点数を付けて、評価を行った。評価項目の点数を、以下に示す。
(1)ほぐれやすさ〔無添加と同じ:0、 少し良い: 1、
良い: 2、 かなり良い:3〕
(2)固さ 〔無添加と同じ:0、 少し良い: 1、
良い: 2、 かなり良い:3〕
(3)味(甘さ) 〔強く感じる: 0、 感じる: 1、
少し感じる: 2、 感じない: 3〕
【0034】
[イヌリンと環状デキストリンとの配合量の検討]
イヌリンと環状デキストリンとの配合量について検討を行った。環状デキストリンは、分岐環状デキストリンを使用した。イヌリンと環状デキストリンとの配合質量比を、以下のように変えた試験製剤を作成し、生麺パスタには3%(5.5部)配合し、乾麺パスタには、ゆで麺重量に対して3%となるように水溶液をからめて、試験を行った。評価は、それぞれの試験区に対して、6人のパネラーを設けて行い、それぞれ平均値(average)と標準誤差(S.E.)とを求めた。各麺に対する試験結果を、それぞれ表1および2に示す。
【0035】
試験区1 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 10:0
試験区2 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 8:2
試験区3 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 6:4
試験区4 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 4:6
試験区5 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 2:8
試験区6 イヌリン:分岐環状デキストリン
= 0:10
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1および2に示すように、イヌリン単品(試験区1)および分岐環状デキストリン単品(試験区6)よりも、イヌリンと分岐環状デキストリンとを組み合わせた方が、ゆで麺のほぐれやすさ、固さ(ゆで伸び抑制効果)、味(甘さ)の各効果が高いことが確認された。特に、イヌリンと分岐環状デキストリンとの配合質量比が、9:1〜3:7の場合(試験区2〜4)に、各効果が高いことが確認された。また、イヌリンがある程度の量(試験区2 イヌリン:分岐環状デキストリン=8:2)以上配合されていた方が、味への影響が少ない(甘さを感じない)ことが確認された。
【0039】
[添加量の検討]
イヌリンと環状デキストリンとを含む製剤の配合量について検討を行った。環状デキストリンは、分岐環状デキストリンを使用した。イヌリンと環状デキストリンとの配合質量比が6:4の試験製剤を作成し、生麺パスタには試験製剤を各々0.5〜5.0質量%まで変えて配合し、乾麺パスタには試験製剤を各々ゆで麺重量に対して0.5〜5.0質量%となるように水溶液をからめて、試験を行った。評価は、それぞれの試験区に対して、6人のパネラーを設けて行い、それぞれ平均値(average)と標準誤差(S.E.)とを求めた。各麺に対する試験結果を、それぞれ表3および4に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表3および4に示すように、イヌリンと分岐環状デキストリン(イヌリン:分岐環状デキストリン=6:4)とからなる製剤を添加、使用することにより、ほぐれやすさや固さが改善されることが確認された。また、そのほぐれ向上効果およびゆで伸び抑制効果は、製剤の配合量にほぼ比例することが認められた。
【0043】
また、製剤の配合量が4.0質量%以上のとき、麺表面の光沢が過剰に生じるといった外観的変化や、味への影響(甘さの付与)が認められた。これらから、総合的には、製剤の配合量は、1.5〜5.5質量%が効果的であり、3.0質量%前後が特に効果的であるといえる。
【0044】
[各種麺類での効果の検討]
パスタ以外の蕎麦、うどん、中華麺について、イヌリンと環状デキストリンとを含む製剤の効果の検討を行った。環状デキストリンは、分岐環状デキストリンを使用した。生麺の材料として、蕎麦は、小麦粉170部、蕎麦粉70部、塩3部、水80部とし、うどんは、小麦粉250部、塩5部、水90部とし、中華麺は、小麦粉200部、鹹水(ボーメ35度)2部、塩2部、水75部とした。また、乾麺の場合は、市販の乾燥品をゆでた。
【0045】
イヌリンと環状デキストリンとの配合質量比が6:4の試験製剤を作成し、生麺には3%(蕎麦は9.7部、うどんは10.4部、中華麺は8.4部)配合し、乾麺には3%となるように水溶液をからめて、試験を行った。評価は、それぞれの試験区に対して、6人のパネラーを設けて行い、それぞれ平均値(average)と標準誤差(S.E.)とを求めた。各麺に対する試験結果を、それぞれ表5および6に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
これまでに、蕎麦やうどんは、パスタや中華麺ほど結着について問題視されてこなかった。すなわち、蕎麦は、蕎麦粉の作用により、ある程度麺同士の結着を防ぐことができていた。また、うどんは、麺自体が太さ(強度)を有するため、引っ張りにより切れにくく、結果としてほぐれ感をだすことができていた。しかし、表5および6に示すように、麺自体が結着抑止力や強度を有する蕎麦やうどんであっても、イヌリンと分岐環状デキストリンとを含む製剤の効果があることが確認された。
【0049】
表1〜6に示すように、評価点の出方に麺の種類による差が見られるが、これは各麺での製剤の配合差によるものと考えられる。試験を行ったパスタ、蕎麦、うどん、中華麺は、それぞれ製剤の配合が異なるが、製剤による効果が認められたことから、製剤の配合が異なるものや他の麺類であっても、イヌリンと分岐環状デキストリンとを含む製剤の効果が期待できるといえる。
【0050】
[イヌリンと分岐環状デキストリンとの相乗効果の検討]
イヌリンと分岐環状デキストリンは、麺の表面に付着することで、麺同士の結着を防ぎ、ほぐれやすさを生んでいると考えられる。また、麺表面をコーティングすることで、麺外からの水分移行を低減させ、麺のゆで伸び感を低減させていると考えられる。生麺で練りこみで使用した場合にも、麺の表面部分のイヌリンと分岐環状デキストリンとが、同様に麺の表面をコーティングして効果を付与していると考えられる。
【0051】
このことから、イヌリンおよび分岐環状デキストリンの麺への効果は、麺表面に付着(コーティング)しやすい条件でより出やすいと考えられる。これまでに、イヌリンは、35質量%の水溶液の状態で冷蔵保管することにより、微細結晶を生じ、水溶液からクリーム状の固体へと物性変化することが知られている。これは濃度に依存した反応であり、例えば、30質量%の水溶液ではそうした結晶化は見られていない。当然、麺への付着(コーティング)力は、水溶液の状態よりも、クリーム状の固体の方がより強いことが連想される。
【0052】
このようなイヌリンの特性を用い、イヌリンと分岐環状デキストリンの相乗効果を視覚的に観察するために、以下の試験を行った。すなわち、イヌリンの30質量%水溶液に、分岐環状デキストリンを含む各種デキストリンを加え、加温して完全に溶解させた。完全溶解した各試験溶液を、複数の試験管に10mlづつ分注し、各試験管をそれぞれ冷蔵(5℃)〜30℃の各温度で一晩保管した。保管後、各試験管を傾斜させ、イヌリンの35質量%水溶液で観察されるクリーム状の固体への変化(微細結晶化)が起こるか否かを観察した。観察結果を、表7に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
表7に示すように、DE(水溶性)の異なるデキストリン数種では、固まることなく2層に分離し、微細結晶化の促進はまったく確認されなかった。イヌリンと分岐環状デキストリン、および、イヌリンと一部の環状デキストリンにおいて、クリーム状に固まるのが観察され、微細結晶化の補助作用が確認された。このことから、固まるのが観察されたイヌリンと分岐環状デキストリン、および、イヌリンと一部の環状デキストリンでは、麺の表面への付着(コーティング)力の向上が起こると考えられる。
【0055】
また、環状デキストリンでの反応では、環がグルコース6個よりなるα-のものよりも、グルコース8個よりなるγ-のもので、より微細結晶化の補助作用が強く認められた。分岐環状デキストリンの環状構造は、グルコース16個以上と報告されており、これらの環の大きさと反応との間には何らかの関係があると考えられる。このように、イヌリンと分岐環状デキストリンとの相乗効果は、こうした分子構造に起因するものであると考えられる。
【0056】
[イヌリンと配合する各種デキストリンの効果の検討]
表7に示すように、イヌリンと分岐環状デキストリンに加え、イヌリンと一部の環状デキストリン(好ましくはグルコース8個以上)は、麺のほぐれ向上効果およびゆで伸び抑止効果があると考えられる。これを確認するため、イヌリンと各種デキストリンとを配合し、その効果について検討を行った。試験は、乾麺パスタにて行った。各種のデキストリンを使用して、以下の各試験区の試験製剤の水溶液を作成し、ゆで麺重量に対して各試験区の3質量%水溶液をからめて、試験を行った。
【0057】
試験区1:イヌリン 35%
試験区2:イヌリン 30%+分岐環状デキストリン DE5未満 5%
試験区3:イヌリン 30%+環状デキストリン DE5〜10 5%
試験区4:イヌリン 30%+デキストリン DE6〜8 5%
試験区5:イヌリン 30%+デキストリン DE18〜24 5%
試験区6:イヌリン 30%+デキストリン DE24〜26 5%
【0058】
各評価項目として、ゆで麺のほぐれやすさ、固さ(ゆで伸び抑制効果)について、それぞれ3段階で点数を付けて、評価を行った。評価項目の点数を、以下に示す。
(1)ほぐれやすさ〔無添加と同じ:0、 少し良い:1、 良い:3〕
(2)固さ 〔無添加と同じ:0、 少し良い:1、 良い:3〕
評価は、それぞれの試験区に対して、6人のパネラーを設けて行い、それぞれ平均値(average)と標準誤差(S.E.)とを求めた。試験結果を、表8に示す。
【0059】
【表8】

【0060】
表8に示すように、イヌリンと分岐環状デキストリン(試験区2)、および、イヌリンと環状デキストリン(試験区3)で、ゆで麺のほぐれやすさの効果が高いことが確認された。また、イヌリンと分岐環状デキストリン(試験区2)で、ゆで麺の固さの改善効果(ゆで伸び抑制効果)が高いことが確認された。この結果は、表7に示す結果と良く一致している。このことから、イヌリンと環状デキストリンとは、水溶液中で互いの構造に影響を与え、そうした構造変化が、麺へのほぐれ向上効果やゆで伸び抑制効果の付与を生んでいると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリンと環状デキストリンとを含むことを、特徴とするゆで麺のほぐれ向上剤。
【請求項2】
前記環状デキストリンは分岐環状デキストリンであることを、特徴とする請求項1記載のゆで麺のほぐれ向上剤。
【請求項3】
イヌリンと環状デキストリンとを含むことを、特徴とするゆで麺のゆで伸び抑制剤。
【請求項4】
麺の材料に、請求項1または2記載のゆで麺のほぐれ向上剤を加えて製麺し、ゆでることを、特徴とするゆで麺のほぐれ向上方法。
【請求項5】
ゆでた麺に、請求項1または2記載のゆで麺のほぐれ向上剤を付着させることを、特徴とするゆで麺のほぐれ向上方法。
【請求項6】
麺の材料に、請求項3記載のゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えて製麺し、ゆでることを、特徴とするゆで麺のゆで伸び抑制方法。
【請求項7】
ゆでた麺に、請求項3記載のゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させることを、特徴とするゆで麺のゆで伸び抑制方法。
【請求項8】
麺の材料に、請求項1もしくは2記載のゆで麺のほぐれ向上剤、または、請求項3記載のゆで麺のゆで伸び抑制剤を加えて製麺し、ゆでて製造されることを、特徴とするゆで麺。
【請求項9】
ゆでた後、請求項1もしくは2記載のゆで麺のほぐれ向上剤、または、請求項3記載のゆで麺のゆで伸び抑制剤を付着させて製造されることを、特徴とするゆで麺。