説明

ろう付接合用ペーストとろう材設置・塗布方法

【課題】ろう材設置・塗布方法の種々問題点を解決し、新たなろう付接合用ペーストおよび施工方法を提供する。
【解決手段】質量%で(以後、%と記す。)水を93〜98%、水溶性合成樹脂粉末を2.0〜6.5%、四ホウ酸ナトリウム十水和物を0.1〜0.6%から成る水溶性バインダを5〜25%と、ろう付接合用金属粉末を75〜95%混合し、必要に応じて、ウレタン樹脂または/およびアクリル樹脂を、水溶性バインダの質量の6.0%以下で混合したことを特徴とするろう付接合用ペースト。および、それを使用したろう材設置もしくはろう材塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付接合用金属粉末を含むペーストおよび、そのペーストもしくはペーストの成形・乾燥体、乾燥・粉砕粉を用いたろう材設置・塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主な従来技術として、ろう付接合法には、ペーストを用いた方法として「ディスペンサ塗布」や「スクリーン印刷法」等が、粉末を用いた方法として「ろう材散布システム」等が(特許文献1、特許文献2)、箔帯を用いた方法として「アモルファス箔」等が用いられているが、以下の事柄が問題点として挙げられる。
【0003】
ディスペンサ塗布では、量産性には優れているものの、熱交換器等で用いられるプレートタイプの全面へ均一に塗布することができない。また、スクリーン印刷法では、量産性に優れており、種々のパターンを持たせた塗布が可能であるが、凹部等の高さの異なる面への塗布ができない。また、いずれの塗布方法でも、ペーストが乾燥してしまうと再利用が困難であり、多くの場合廃棄処分されている。
【0004】
ろう材散布システムでは、熱交換器等で用いられるプレートタイプの全面への塗布には有効だが、プレートの一部分への塗布や側面への塗布はできない。また、塗布装置自体が大型であり、設備の設置スペース等に問題があり、水溶性バインダを使用するため装置の清掃が手間となる。
【0005】
アモルファス箔では、熱交換器等で用いられるプレートタイプへの設置に対しては有効であり、ろう材塗布設備が不要ないしは簡素となるが、アモルファス箔の製造コストが高く、ろう材の成分系が限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−164967号公報
【特許文献2】特許第3893110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ろう材設置・塗布方法の種々問題点を解決し、新たなろう付接合用ペースト及び施工方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、質量%で(以後、%と記す。)水を93〜98%、水溶性合成樹脂粉末を2.0〜6.5%、四ホウ酸ナトリウム十水和物を0.1〜0.6%、から成る水溶性バインダを5〜25%と、ろう付接合用金属粉末を75〜95%混合し、必要に応じて、ウレタン樹脂または/およびアクリル樹脂を、水溶性バインダの質量の6.0%以下で混合したことを特徴とするろう付接合用ペースト。
【0009】
上記記載のペーストをそのままの状態、もしくは、必要形状に成形・乾燥させたものをろう付接合したい箇所に設置して使用することを特徴とし、成形・乾燥体がシート状の場合であれば、50μm以上を有していることを特徴とするろう材設置もしくはろう材塗布方法。
【0010】
上記記載のペーストを乾燥させて、その乾燥体を粉砕・篩別することで得られる樹脂コーティング粉末を用いることを特徴としたろう材設置もしくはろう材塗布方法で、ろう材を塗布する箇所に水を散布後に樹脂コーティング粉末を振りかけて塗布することを特徴とするろう材設置もしくはろう材塗布方法。
【0011】
次にろう付接合用金属粉末と水溶性バインダの混合比率や水溶性バインダの成分比率を限定した理由について述べる。
【0012】
ペースト中の水溶性バインダは、ろう付接合用金属粉末に流動性を与えてペースト状にし、様々な形状に成形するために必要であり、5%未満では粉末と混合してもバインダ量が足りず、ペーストとしての機能を果たさなくなり、25%を超えると流動性は十分にあるものの、粉末が沈降し、成形・乾燥の際や、ろう材設置・塗布の作業性を害するため、5〜25%の範囲に限定した。
【0013】
水溶性バインダ中の水は、水溶性バインダの粘度に影響を及ぼし、93%未満では粘度が上昇しすぎて、ペーストの流動性が得られず、ろう付の作業性を悪化させ、98%を超えると、粘度が低下してしまい、ペースト中の金属粉末等が沈降し、ろう材設置・塗布の作業性を害するため、93〜98%に限定した。
【0014】
水溶性バインダ中の水溶性合成樹脂粉末は、水溶性バインダの粘度に影響を及ぼし、2%未満では粘度が低下してしまい、ペースト中の金属粉末等が沈降し、ろう付の作業性を悪化させ、6.5%を超えると、粘度が上昇しすぎて、ペーストの流動性が得られず、ろう材設置・塗布の作業性を害するため、2〜6.5%に限定した。
【0015】
水溶性バインダ中の四ホウ酸ナトリウム十水和物は、水溶性バインダの粘度に影響を及ぼし、0.1%未満では粘度が低下してしまい、ペースト中の金属粉末等が沈降し、ろう付の作業性を悪化させ、0.6%を超えると、粘度が上昇しすぎて、ペーストの流動性が得られず、ろう材設置・塗布の作業性を害するため、0.1〜0.6%に限定した。
【0016】
水溶性バインダに添加するウレタン樹脂または/もしくはアクリル樹脂は、添加しなくても、ペーストに対して大きな影響はないが、添加された場合には、ペーストの乾燥体の強度や基材との密着性を向上させる。しかし、添加量が6.0%を超えると、ペーストとした場合に水溶性バインダが分解し、ペースト状態を得られなくなる。そのため、6.0%以下に限定した。
【発明の効果】
【0017】
揮発性の高い溶剤等を使用しない水溶性バインダを用いることで、安全性や環境問題の点に優れており、ペーストが乾燥しても、水分を与えることで元のペースト状態に戻るため再利用が可能で、ろう材設置・塗布方法に応用が可能であることを特長とする。
【0018】
さらに、このペーストは表面が滑らかなものには張り付かず、ゴムやナイロン製の手袋等を使用すれば手作業が可能で、製造・施工面で取り扱いが容易である。また、ペーストをSUS系基材である施工面に設置して乾燥すれば、施工面からは容易に剥がれないことを特長とする。
【0019】
ペーストの成形・乾燥体では、シート状のものを用いれば、ろう付部材に凹凸があっても、霧吹き等で水を噴射すれば、ろう材シートを凹凸部に密着させることが可能であり、ろう付したい部材の側面への塗布も可能となる。
【0020】
また、ペーストを乾燥させて、粉砕・篩別を行うことで、樹脂をコーティングしたろう付接合用金属粉末を得ることができ、ろう材散布システム(特許文献1、特許文献2)の水溶性バインダ不要のろう材塗布が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
水と水溶性合成樹脂(溶液1)、水と四ホウ酸ナトリウム十水和物(溶液2)をそれぞれ所定量混合し、溶液1に溶液2を加えながら混合して水溶性バインダを作製する。このバインダに、金属粉末もしくは金属粉末を含む混合粉末と、必要に応じてウレタン樹脂やアクリル樹脂を所定量入れて再度混合を行い、本発明のペーストを得ることが出来る。
【0022】
また、このペーストを必要形状に成形・乾燥させて用いることも可能であり、50μm以上のシート状に成形したものを使用すれば、大面積に均一にろう材を塗布することができる。
【実施例】
【0023】
<試験1>
表1に示すように、水溶性バインダの粘度を「低」「中」「高」と3水準作製し、ろう材粉末と混合してペーストを作製した。作成方法は水と水溶性合成樹脂粉末を混合した溶液と水と四ホウ酸ナトリウム十水和物を混合した飽和水溶液を作製し、それぞれの溶液を目的の配合比率となるように混合する。その後、ろう材粉末と水溶性バインダを所定の比率で混合する。ここで用いたろう付接合用金属粉末はアトマイズ法で作製され、250meshアンダーに粒度調整された粉末である。
【0024】
低粘度の水溶性バインダを使用した場合には、実施例10のようにろう付接合用金属粉末を95%まで混合することができる。そして、実施例4、7に示すようにろう材粉末量を減らしても沈降分離せず、良好な状態のペーストを得ることが出来るが、比較例3のようにろう材粉末量が80%となるとろう材粉末が沈降し、ろう付時に用いる成型・乾燥体を作製する場合やペーストをそのまま使用する場合に著しく作業性を害する。一方、高粘度の水溶性バインダを使用した場合には、比較例5に示すように、ろう材粉末を95%とすると、混合状態が得られず、ペーストを得ることが出来ない。しかし、実施例3、6、9に示すように金属粉末量を減らせば、ペースト状態が得られ、実施例1に示すようにろう付接合用金属粉末が75%でもペースト中のろう付接合用金属粉末は若干沈降するものの、ろう付時に用いる成型・乾燥体を作製する場合やペーストをそのまま使用する場合に作業性を害することはない。
【0025】
<試験2>
表1中の実施例5のペーストと、同ペーストに含まれる水溶性バインダの4質量%のウレタン樹脂を添加、混合したペーストの2種類を作製し、これを0.5g、表面をアセトンで脱脂したSUS304プレート上に設置し、乾燥させて、SUS304プレートと乾燥体の密着強さを確認した。ウレタン樹脂の添加がなくても、容易には剥がれないが、ウレタン樹脂が添加されている方が密着強度は高かった。
【0026】
<試験3>
表1中の実施例8を数g乾燥させた後、水をかけて再利用可能かを評価した。乾燥体が塊状の場合、水をかけてから数時間放置し、再混合すると元のペーストの状態に戻った。また、シート状など乾燥体の比表面積が大きくなると、数秒〜数分で元のペーストの状態に戻った。
【0027】
<試験4>
表1中の実施例8のペーストを乾燥させて、その乾燥体を粉砕・篩別して、樹脂コーティング粉末を作製した。そして脱脂・洗浄した100×100mmのSUS304プレート上にイオン交換水を霧吹きにより塗布した後、樹脂コーティングしたろう付接合用金属粉末を電磁フィーダーにて5g散布した。
【0028】
ろう付接合用金属粉末は均一に散布され、水が完全に乾燥した後も樹脂コーティング粉末が凝集することは無く、振動を与えてもろう付接合用金属粉末がプレート上から剥がれ落ちることは無かった。
【0029】
<試験5>
表1中の実施例8のペーストにおいて、ろう付接合用金属粉末にアトマイズ法により作製され、250meshアンダーに粒度調整されたJIS Z 3265のBNi-2を使用したものを作製し、脱脂・洗浄した40×40mmのSUS304プレート上に1.0g設置・乾燥させた後、1100℃、10-4torrに設定された真空炉で10分間熱処理を行ったところ、残渣の発生は無く、良好なろう付表面を得ることができた。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
ろう付接合用粉末以外に自溶合金粉末をペースト化させ、そのペーストを表面を脱脂した基材上に設置・乾燥させて、自溶合金の固相線温度以上の温度の真空炉等の熱処理炉で加熱することで、表面改質材料を基材上に被覆することができる。
【0032】
また、自溶合金粉末を含む2種類以上の混合粉末、特にセラミックス粉末やサーメット粉末を用いても、上記と同様に表面改質材料を基材上に被覆することができる。
【0033】
さらに、はんだ材料などの低融点材料でも上記と同様の手法を用いることができる。
【0034】
ろう付接合用粉末以外の金属粉末を含むペーストを棒状や顆粒状、ペレット状等に成形・乾燥させて、塊状として遠心鋳造などの表面改質施工の原料として使用することが可能で、混合粉末を用いた場合には、容易に複合材料が作製できる。
【0035】
さらに、焼結に用いられる金属粉末を含むペーストを必要形状に成形・乾燥させて、融点以下の温度で熱処理を行えば、焼結体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で(以後、%と記す。)水を93〜98%、水溶性合成樹脂粉末を2.0〜6.5%、四ホウ酸ナトリウム十水和物を0.1〜0.6%から成る水溶性バインダを5〜25%と、ろう付接合用金属粉末を75〜95%混合し、必要に応じて、ウレタン樹脂または/およびアクリル樹脂を、水溶性バインダの質量の6.0%以下で混合したことを特徴とするろう付接合用ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載のペーストをそのままの状態、もしくは、必要形状に成形・乾燥させたものをろう付接合したい箇所に設置して使用することを特徴とし、成形・乾燥体がシート状の場合であれば、50μm以上を有していることを特徴とするろう材設置もしくはろう材塗布方法。
【請求項3】
請求項1に記載のペーストを乾燥させて、その乾燥体を粉砕・篩別することで得られる樹脂コーティング粉末を用いることを特徴としたろう材設置もしくはろう材塗布方法で、ろう材を塗布する箇所に水を散布後に樹脂コーティング粉末を振りかけて塗布することを特徴とするろう材設置もしくはろう材塗布方法。