説明

ろ過試験器具の洗浄溶剤の回収用治具

【課題】ろ過工程を含み、かつろ過試験器具を揮発性溶剤で洗浄する必要のある試験において、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる洗浄溶剤回収用治具を提供する。
【解決手段】本発明にかかるろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具は、円柱(10)が挿入できる有底円筒体で、底壁(1)中央には、該有底円筒体と同心の貫通孔(2)が設けられている。また、側壁(3)の該底壁内面と同水準となる位置に、該円柱が挿入される空間(4)と連通する吸引口(5)が貫設されている。そして、該空間の内周面の直径(D1)が、該円柱の外径(D2)より8〜20mm大きくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、JISB9931「質量法による作動油汚染の測定方法」等の、ろ過工程を含み、かつろ過試験器具を揮発性溶剤で洗浄する必要のある試験において洗浄溶剤を回収するための治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状の検査対象に含まれている夾雑物の質量を測定する方法として、一般に、ろ過試験が広く知られている。例えば、潤滑油(主に作動油)のろ過試験として、JISB9931「質量法による作動油汚染の測定方法」がある。
【0003】
このJISB9931では、試料貯溜部と縮径部とを分離自在とした形状の「フィルタ支持台」と称される漏斗を使用する。なお、試料貯留部は、250mlの目盛が付されたガラス製とされ、この測定方法においてはこの部分が「漏斗」と称されている。一方、縮径部は焼結ガラス又はステンレス製とされ、この部分もまた「フィルタ支持台」と称されている。以下、「フィルタ支持台」は、この縮径部を指すものとする。
【0004】
測定の際には、フィルタ支持台の太い側の開口にフィルタが配置され、漏斗とフィルタ支持台が「締付具」と称される治具で液密に連結され、漏斗に試料となる作動油が注がれる。そして、フィルタ支持台の細い側の開口に吸引ポンプを繋ぎ、その吸引力を利用して試料を強制的にフィルタに通し、試料を通す前後のフィルタの質量差から作動油中の夾雑物の質量を把握するものである。
【0005】
ただし、このように、フィルタの質量差から試料中の夾雑物の質量を測定する方法では、正確な測定を行うため、夾雑物の全量を確実にフィルタに集めるとともに、フィルタに付着した夾雑物以外の成分(JISB9931では油)を完全に洗い流す必要がある。そこで、JISB9931では、試料の全量をフィルタに通した後、フィルタをフィルタ支持台に載置したまま、フィルタの周辺から溶剤をジェット状に流し洗浄することを規定している。
【非特許文献1】JISB9931「質量法による作動油汚染の測定方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィルタの周辺から溶剤をジェット状に流す際、溶剤の一部がフィルタ支持台の縁から溢流しフィルタ支持台の設置場所周辺に広がるという事態が生じていた。そして、溶剤は、試料となる油を速やかに溶かすことができる揮発性の高いものが用いられていることから、周辺に広がった溶剤が大気中に散逸するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、ろ過工程を含み、かつろ過試験器具を揮発性溶剤で洗浄する必要のある試験において、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる洗浄溶剤回収用治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具は、円柱が挿入できる有底円筒体で、底壁中央には、該有底円筒体と同心の貫通孔が設けられている。また、側壁の該底壁内面と同水準となる位置に、該円柱が挿入される空間と連通する吸引口が貫設されている。そして、該空間の内周面の直径が、該円柱の外径より8〜20mm大きくされている。
【0009】
なお、本発明において、底壁内面と同水準であるとは、吸引口の内面側開口が、底壁内面の近くに設けられるような配置をいうものとする。ただし、吸引口の内面側開口と底壁内面との位置関係に厳密な数値的制限はなく、内面側開口の直径と同程度の距離の自由度はあるものとする。
【0010】
該底壁の外面に弾性基台が気密に取り付けられ、該貫通孔は、該弾性基台の中心を貫通する挿通孔と連通していてもよい。
【0011】
該吸引口の外面側開口は、内面側開口に対し、該有底円筒体の高さ方向の該底壁の外面側にずれた位置に設けられていてもよい。
【0012】
該側壁の開口側端面は、該空間の内周面側が低くなる傾斜面となっていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具は、ろ過試験装置に一般的に使用されている、漏斗(JISB9931においてはフィルタ支持台)の太径部の周囲に配置して使用する。この太径部が本発明において治具の内側に挿入される円柱に相当し、その配置に際しては、太管の下方に延出する細径部を、底壁に設けられた貫通孔に挿通させる。なお、貫通孔は細径部に適合する大きさとしておき、貫通孔と細径部に隙間の無い気密の状態ができるよう調整しておく。一方、吸引口には、溶剤回収用吸引装置の吸引口を接続する。そして、溶剤回収用吸引装置を作動させた状態でフィルタの周辺から溶剤をジェット状に流し洗浄すると、太径部の縁から溢流した溶剤は、漏斗(フィルタ支持台)の周囲に広がることなくこの治具の内側に集まる。治具の内側には、溶剤回収用吸引装置の吸引力でその溶剤回収用吸引装置に向かう気流が生じているため、治具の内側に集めた溶剤は、大気中に散逸する前に溶剤回収用吸引装置回収される。従って、この治具を使用することにより、ろ過工程を含み、かつろ過試験器具を揮発性溶剤で洗浄する必要のある試験において、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる。
【0014】
JISB9931の試験法を複数の試料について並列して同時に行う場合、太い径の管材と細い径の管材とを連結させた形状の座具を用いて、複数のフィルタ支持台を吸引台座に並べて配置するが、この場合は、座具の太管部が本発明において治具の内部に挿入される円柱に該当する。すなわち、座具の太管部の下方に延出する細管部を底壁に設けられた貫通孔に挿通させ、座具の太管部の周囲に配置して使用する。フィルタ支持台は、細径部を挿通させたゴム栓を座具の太管部開口に嵌め込むことにより座具に固定し、座具が取り付けられている吸引台座の吸引力で試料を強制的にフィルタに通す。一方、治具の内側には、吸引口に接続された溶剤回収用吸引装置の吸引力でその溶剤回収用吸引装置に向かう気流が生じている。そのため、フィルタの周辺から溶剤をジェット状に流し洗浄すると、フィルタ支持台の太径部の縁から溢流し、細径部を伝って流れ落ち、更に座具の太管部の周囲を伝って治具の内側に集められた溶剤は、大気中に散逸する前に溶剤回収用吸引装置回収される。従って、この治具を使用することにより、JISB9931の試験法を複数の試料について座具を利用し並列して同時に行う場合においても、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる。
【0015】
なお、円柱(漏斗の太径部或いは座具の太管部)が挿入される空間の内周面の直径が、その円柱の外径より8mm以上大きくなければ、円柱の縁から溢流した溶剤を回収するための円柱と治具内面との間の空間の容積が小さくなり溶剤が溢れてしまうため好ましくない。また、円柱の外径に対し20mmより大きくなると、溶剤を回収するための円柱と治具内面との間の空間の容積が大きくなりすぎ、溶剤回収用吸引装置により溶剤を吸引する効率が低下することとなり好ましくない。
【0016】
溶剤を吸引する効率を高くするために、円柱と治具内面との間の環状開口の幅は、全周に亘って均等にすることが好ましい。ただし、底壁の貫通孔はこの治具をなす有底円筒体と同心になっており、その円柱の下方に延出する細管(漏斗の細径部或いは座具の細管部)に適合するよう調整しておけば、細管を貫通孔に挿通させて円柱を配置すると、円柱と治具内面との位置関係は、環状開口の幅が全周に亘って均等になるものとなる。
【0017】
本発明において治具の内側に挿入される円柱の下方に延出する細管に、底壁の貫通孔を適合させるためには、その細管が金属等の硬い材質で形成されている場合には、貫通孔の直径を細管の直径に等しくしておけばよい。この場合、細管を貫通孔に圧入することにより、貫通孔に対し隙間ない状態で挿入することができる。細管がガラスで形成されている場合には、例えば、中心を貫通する挿通孔を有する弾性基台を底壁の外面に気密に取り付け、貫通孔を弾性基台の挿通孔と連通させればよい。この場合、貫通孔の直径は細管の直径よりもやや大きくしておき、弾性基台の挿通孔を細管の直径に等しくしておけば、細管を破損させることなく挿通孔に対し隙間の無い状態で挿入することができる。そして、結果として、貫通孔と細管との隙間から外気が流入し吸引力が低下することを防止できる。
【0018】
吸引口の外面側開口は、内面側開口に対し、有底円筒体の高さ方向の底壁の外面側にずれた位置に設けることが好ましく、この場合、溶剤を吸引する効率を更に高めることができる。
【0019】
側壁の開口側端面は、空間の内周面側が低くなる傾斜面となっていることが好ましく、この場合、回収した溶剤を吸引する力を低下させることなく、溶剤を回収するための環状開口の面積を大きくして、溶剤の回収効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜2に、本発明にかかる、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具の具体例を示す。図1は同治具の使用状態を示す斜視図、図2は同治具の正断面図である
【0021】
この洗浄溶剤回収用治具は、JISB9932におけるフィルタ支持台20に好適なものとなっている。このフィルタ支持台20はガラス製で、その太径部10は本発明の洗浄溶剤回収用治具の内側に挿入される円柱に相当し、この洗浄溶剤回収用治具は、この太径部10が挿入できる有底円筒体となっている。
【0022】
底壁1の中央には、有底円筒体と同心の貫通孔2が設けられている。また、底壁1の外面1bに弾性基台7が気密に取り付けられ、貫通孔2は、弾性基台7の中心を貫通する挿通孔8と連通している。そして、貫通孔2及び挿通孔8には、前記太径部10の下側から延出する細径部11が挿通されている。なお、貫通孔2の直径は細径部11の直径よりもやや大きくされ、挿通孔8は細径部11の直径に等しくされており、細径部11は挿通孔8に対し隙間のない状態で挿入されている。
【0023】
側壁3の底壁1の内面1aと同水準となる位置に、支持基部10が挿入される空間4と連通する吸引口5が貫設されている。この吸引口5には、導出管9を介して図示しない溶剤回収用吸引装置の吸引口に接続されている。
【0024】
この洗浄溶剤回収用治具を、図1に示すように、フィルタ支持台20の太径部10の周囲に配置し、溶剤回収用吸引装置を作動させた状態でフィルタ14の周辺から溶剤をジェット状に流し洗浄すると、太径部10の縁から溢流した溶剤は、太径部10の周囲に広がることなくこの治具の内側に集まる。治具の内側には、溶剤回収用吸引装置の吸引力でその溶剤回収用吸引装置に向かう気流が生じているため、治具の内側に集めた溶剤は、大気中に散逸する前に溶剤回収用吸引装置回収される。従って、この治具を使用することにより、ろ過工程を含み、かつろ過試験器具を揮発性溶剤で洗浄する必要のある試験において、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる。
【0025】
また、ガラス製の細径部11を破損させることなく弾性基台7の挿通孔8に対し隙間の無い状態で挿入することができるので、貫通孔2と細径部11との隙間から外気が流入し吸引力が低下することを防止できる。
【0026】
太径部10が挿入される空間4の内周面の直径D1は、太径部10の外径D2に対し8〜20mm大きくなっている。直径D1は、8mm以上大きくなければ、太径部10から溢流した溶剤を回収するための、太径部10と治具内面との間の空間の容積が小さくなり溶剤が溢れてしまうため好ましくない。また、太径部10の外径D2に対し20mmより大きくなると、太径部10と治具内面との間の空間の容積が大きくなりすぎ、溶剤回収用吸引装置により溶剤を吸引する効率が低下することとなり好ましくない
【0027】
環状開口6の幅は、溶剤を吸引する効率を高くするため、全周に亘って均等となっている。なお、底壁1の貫通孔2はこの治具をなす有底円筒体と同心になっており、しかも貫通孔2に連通する支持基台7の挿通孔8により細径部11に適合するよう調整されている。そのため、細径部11を貫通孔2に挿通させて太径部10を配置すると、太径部10と治具内面との位置関係は、強制的に、環状開口6の幅が全周に亘って均等になるものとなる。
【0028】
側壁3の開口側端面3aは、空間4の内周面4a側が低くなる傾斜面となっている。そのため、回収した溶剤を吸引する力を低下させることなく、溶剤を回収するための環状開口6の面積を大きくして、溶剤の回収効率を高めることができる。
【0029】
吸引口5の外面側開口5bは、内面側開口5aに対し、有底円筒体の高さ方向の底壁1の外面1b側にずれた位置に設けられ、溶剤を吸引する効率を更に高めることができるようになっている。
【0030】
図3に、本発明にかかる、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具の他の具体例の使用状態を示す。なお、図1〜2に示す具体例と実質的に同一の部分には同符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0031】
この洗浄溶剤回収用治具は、JISB9931の試験法を複数の試料について並列して同時に行う場合に使用する座具21に好適なものとなっている。この座具21は金属製の太い径の管材と細い径の管材とを連結させたもので、その太管部10は本発明の洗浄溶剤回収用治具の内側に挿入される円柱に相当し、この洗浄溶剤回収用治具は、この太管部10が挿入できる有底円筒体となっている。
【0032】
貫通孔2には、座具21の太管部10の下方に延出する細管部12が挿通されている。なお、貫通孔2の直径は細管部12の直径に等しくなっており、細管部12は貫通孔2に対し圧入により隙間の無い状態で挿入されている。
【0033】
太管部10の開口には、フィルタ支持台の細径部11を挿通させたゴム栓13が嵌め込まれている。一方、細管部12は図示しない吸引台座に取り付けられている。そして、この吸引台座の吸引力で試料を強制的に図示しないフィルタに通せるようになっている。治具の内側には、吸引口5に導出管9を介して接続された図示しない溶剤回収用吸引装置の吸引力でその溶剤回収用吸引装置に向かう気流が生じている。そのため、フィルタの周辺から溶剤をジェット状に流し洗浄すると、フィルタ支持台の太径部の縁から溢流し、細径部を伝って流れ落ち、更に座具21の太管部10の周囲を伝って治具の内側に集められた溶剤は、大気中に散逸する前に溶剤回収用吸引装置回収される。従って、この治具を使用することにより、JISB9931の試験法を複数の試料について座具を利用し並列して同時に行う場合においても、揮発性溶剤の大気中への散逸を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかる、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具の具体例の、使用状態を示す斜視図である。
【図2】同洗浄溶剤回収用治具の正断面図である。
【図3】本発明にかかる、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具の他の具体例の、使用状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 底璧
1a 内面
1b 外面
2 貫通孔
3 側壁
3a 開口側端面
4 空間
5 吸引口
5a 内面側開口
5b 外面側開口
6 環状開口
7 弾性基台
8 挿通孔
9 導出管
10 円柱(太径部又は太管部)
11 細径部
12 細管部
13 ゴム栓
14 フィルタ
20 フィルタ支持台
21 座具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱(10)が挿入できる有底円筒体の底壁(1)中央に該有底円筒体と同心の貫通孔(2)を設け、側壁(3)の該底壁(1)の内面(1a)と同水準となる位置に該円柱(10)が挿入される空間(4)と連通する吸引口(5)を貫設し、該空間(4)の内周面(4a)の直径(D1)を、該円柱(10)の外径(D2)より8〜20mm大きくしたことを特徴とするろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具。
【請求項2】
該底壁(1)の外面(1b)に弾性基台(7)が気密に取り付けられ、該貫通孔(2)は、該弾性基台(7)の中心を貫通する挿通孔(8)と連通している請求項1に記載の、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具。
【請求項3】
該吸引口(5)の外面側開口(5b)は、内面側開口(5a)に対し、該有底円筒体の高さ方向の該底壁(1)の外面(1b)側にずれた位置に設けられている請求項1又は2に記載の、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具。
【請求項4】
該側壁(3)の開口側端面(3a)は、該空間(4)の内周面(4a)側が低くなる傾斜面となっている請求項1〜3の何れか一つの項に記載の、ろ過試験器具の洗浄溶剤回収用治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−89506(P2008−89506A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273104(P2006−273104)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】