説明

アウトサイドミラー装置

【課題】 車両の後方を映すミラーに一体的に外側下方を映す透明部材を配置しても、透明部材を大きくすることなく外側下方の映す範囲を広くし、外側下方の像を拡大して映すアウトサイドミラー装置を提供する。
【解決手段】 透明部材16は、下方に向ける入光面28を形成し、運転者Mに向ける出光面31を形成し、出光面31の対向側に反射部材32を一体的に取付けてなる反射鏡面33を運転者に対して凸面で形成した。入光面28は、谷状の凹面形状に形成した。出光面31は、山状の凸面形状に形成した。反射鏡面33は、反射鏡面33の中央部に、より下方に向ける中央凸鏡面部41を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の外に配置し後方を映すミラーと、このミラーの下に一体的に配置し車両の外側下方を映すミラーを備えたアウトサイドミラー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の後方を映す後方用ミラーと、車両の外側下方を映す下方用ミラーとを一体的に備えたアウトサイドミラー装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−290687号公報(第4頁、図5、図7)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10(a),(b)は、従来の技術の基本構成を説明する図であり、従来のアウトサイドミラー装置101は、アウトサイドミラー本体102に車体後方確認用のアウトサイドミラー103及び車体前方確認用のプリズムガラス104を取付けたもので、プリズムガラス104は上面105と後面106を平坦面で、且つL字状に形成し、前面107を車体前方側へ向かって突出する自由曲面に形成したものである。従って、部品点数の削減を図ることができ、且つ視点の移動を少なくすることができるというものである。
【0005】
しかし、特許文献1のアウトサイドミラー装置101では、広い範囲を見せようとすると、プリズムガラス(透明部材)104は大きくなり、車両のスタイリングが悪化するとともに、空力に対する抵抗が大きくなる。
また、アウトサイドミラー装置101が大きくなると、運転者からの死角の範囲が広がり、運転し難くなる。
仮に、プリズムガラス104と反射ミラー(凸面鏡を含む。)とを組み合わせた構造の場合でも、広い範囲を見せようとすると、反射ミラーは大きくなり、結果的にアウトサイドミラー装置は大型になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、車両の後方を映すミラーに一体的に車両の外側下方を映す透明部材(ミラー)を配置しても、透明部材を大きくすることなく外側下方の映す範囲を広くし、透明部材を大きくすることなく外側下方の像を拡大して映すアウトサイドミラー装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明では、車両の後方を映す鏡と車両の外側下方を映す透明部材を取付けたアウトサイドミラー装置において、透明部材は、下方に向ける入光面を形成し、運転者に向ける出光面を形成し、出光面の対向側に反射部材を一体的に取付けてなる反射鏡面を運転者に対して凸面で形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明では、出光面は、山状の凸面形状に形成したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明では、入光面は、谷状の凹面形状に形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明では、反射鏡面は、中央部に端部より下方に向ける中央凸鏡面部を含んでいることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明では、反射鏡面は、中央部の半径をRmとし、中央部に連なる両端部の半径をRとしたときに、半径Rを半径Rmより大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、アウトサイドミラー装置の透明部材は、下方に向ける入光面を形成し、運転者に向ける出光面を形成し、出光面の対向側に反射部材を一体的に取付けてなる反射鏡面を運転者に対して凸面で形成したので、反射鏡面は運転者に対して凸面鏡と同等の作用をなし、映す対象の範囲を広くすることができるという利点がある。
【0013】
請求項2に係る発明では、出光面は、山状の凸面形状に形成したので、出光面は凸レンズの作用をなし、透明部材を大きくすることなく反射鏡面に映る外側下方の像を拡大することができ、大きく映すことができるという利点がある。
【0014】
請求項3に係る発明では、入光面は、谷状の凹面形状に形成したので、入光面は凹レンズと同等の作用をなし、透明部材を大きくすることなく映す対象の範囲をより広くすることができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、反射鏡面は、中央部に端部より下方に向ける中央凸鏡面部を含んでいる。その結果、反射鏡面を凸面鏡とした場合に生じる、ボディの映り込み量が大きくなり、映ったボディの輪郭が歪んで、大きく曲がった像となる現象が、反射鏡面の中央部に、より下方に向ける中央凸鏡面部を含んでいることによって抑えられ、ボディの輪郭の曲がりを抑制し、自然なボディの輪郭の像を得ることができる。
【0016】
請求項5に係る発明では、反射鏡面は、中央部の半径をRmとし、中央部に連なる両端部の半径をRとしたときに、半径Rを半径Rmより大きくしたので、両端部の凸面鏡の作用は抑制される。その結果、出光面の左右の両端部で映る像が小さくなることはなく、両端部に映る像を自然な大きさで見ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明のアウトサイドミラー装置の斜視図である。図右の「上」「下」「左」「右」は運転者から見た方向、「前」は前進側、「後」はその逆側をいう。
【0018】
アウトサイドミラー装置11は、車両12の左前ドア13に取付け、車両12の左後方(矢印a1の方向)及び車両11の外側下方(矢印a2の方向)を映すものである。具体的には、車両12の左前ドア13の外側であるアウタパネル14に取付け、車両12の左後方を後方ミラー15に映し、車両11の外側下方を透明部材16に映す。
また、アウタパネル14に取付けた支持部材21と、支持部材21に取付けた後方ミラー15と、後方ミラー15の下に配置するとともに、支持部材21に一体的に固定した透明部材16と、を備える。
【0019】
支持部材21は、後方ミラー15を揺動自在(矢印a3,a4の方向)に保持するミラー保持部材22及び揺動装置(図に示していない。)と、透明部材16を保持する下部保持部23とを備える。
【0020】
図2は、図1の2矢視図であり、アウトサイドミラー装置11の主要部を断面で示す。
後方ミラー15は、車両12の後方を映す鏡面がほぼ平らな鏡であり、運転者Mの操作した情報に基づいて揺動装置が作動し、例えば矢印a4のように揺動する。
透明部材16は、下方(矢印a2の方向)に向ける入光面28を形成し、運転者Mに向ける出光面31を形成し、出光面31の対向側(矢印a5の方向)に反射部材32を一体的に取付けてなる反射鏡面33を運転者Mに対して凸面で形成したものである。次に具体的に説明する。
【0021】
図3は、本発明のアウトサイドミラー装置に用いた透明部材の斜視図である。
透明部材16は、入光面28、出光面31、反射鏡面33と、これらに連なりほぼ垂直に且つ平らに形成した側面34,35,36と、ほぼ水平に平らに形成した上面37と、入光面28と出光面31とでなす角に形成した段状の掛止部38とからなる。
【0022】
入光面28は、谷状の凹面形状に形成した部位で、異なる半径を連続的に繋げた自由曲面である。Ra(図7参照)は凹面形状の前後方向に対する平均の半径、Rbは凹面形状の左右方向に対する平均の半径を示す。
【0023】
出光面31は、山状の凸面形状に形成した部位で、異なる半径を連続的に繋げた自由曲面である。Rcは凸面形状の左右方向に対する平均の半径、Rdは凸面形状の上下方向に対する平均の半径を示す。
【0024】
反射鏡面33は、谷状の凹面形状に形成した部位で、異なる半径を連続的に繋げた自由曲面であり、反射部材32を一体的に取付けた部位である。Re(図7参照)は凹面形状の上下方向及び前後方向に対する平均の半径、Rfは凹面形状の左右方向に対する平均の半径を示す。
また、反射鏡面33は、中央部39に、中央凸鏡面部41を形成した。
【0025】
透明部材16の材質は、透明な樹脂を用いた。透明な樹脂を用いることで、半径の異なる自由曲面を容易に成形することができる。
なお、条件(形状)によっては透明なガラスを用いることも可能である。
【0026】
図4は、図3の4−4線断面図である。
反射鏡面33はさらに、中央部39(範囲で表示)の左右方向に対する半径をRmとし、中央部39に連なる両端部43,44の左右方向に対する半径をRとしたときに、半径Rを半径Rmより大きくしたことを特徴とする。
【0027】
なお、中央部39と端部43との境界に破線を用いて境界線43aを示したが、この境界線43aは理解を明確にするために見えるように描いた線である。中央部39と端部43とは滑らかなR(アール)でつながる部位で、稜線(境界線43a)は目視し難い部位である。ここで使用した境界線43aの破線は、製図の「線の用途」とは異なる。
中央部39と端部44との境界に破線を用いて境界線44aを示したが、境界線44aは境界線43aと同じ目的の線である。
【0028】
反射部材32は、像を反射する反射膜で、反射鏡面33に密着させたものである。膜の材質及び膜の処理方法は任意である。tは膜の厚さを示す。
【0029】
図5は、図3の5矢視図である。
入光面28は、既に説明したように、谷状の凹面形状に形成した部位で、左右方向の平均の半径をRbで成形した。
【0030】
図6は、図3の6矢視図である。
反射鏡面33(図4参照)は、中央部39に中央凸鏡面部41を有する。中央凸鏡面部41を次図で具体的に説明する。
【0031】
図7は、図3の7−7線断面図である。
反射鏡面33はまた、自身の中央部39に、端部43,44より下方に向ける中央凸鏡面部41を形成したものである。
中央凸鏡面部41は、異なる半径を連続的に繋げた自由曲面である。Rgは中央凸鏡面部41の上下方向及び前後方向に対する平均の半径を示す。中央凸鏡面部41の平均の半径Rgは、Rg<Reである。
【0032】
「端部43,44より下方に向ける」とは、透明部材16を水平にしたときに、垂直線Yに対して、反射鏡面33の凸の向き(法線N1)を角度θに設定し、垂直線Yに対して、中央凸鏡面部41の向き(法線N2)を角度α(α<θ)に設定し、反射鏡面33より中央凸鏡面部41を角度βだけ下方(矢印a2の方向)に向けた状態である。
【0033】
ここでは、法線N1は反射鏡面33のほぼ中央の位置P1と平均半径Reの中心とを結ぶ線で、平均半径Reの曲線のP1における法線とする。
法線N2は中央凸鏡面部41のほぼ中央の位置P2と平均半径Rgの中心とを結ぶ線で、平均半径Rgの曲線のP2における法線とする。
【0034】
図8は、本発明のアウトサイドミラー装置の第1作用図であり、模式的に示す。
透明部材16では、反射部材32を一体的に取付けてなる反射鏡面33を運転者〔矢印a6の方向(図9(a)も参照)〕に対して凸面で形成したので、反射鏡面33は運転者M(図9(a)参照)に対して凸面鏡と同等の作用をなし、対象物からの反射光線51,52の入光する角度λ1は大きくなり、映す対象の範囲を広くすることができる。
【0035】
反射鏡面33は、自由曲面なので、曲面を任意に設定することによって映したい位置を特定することができると同時に、反射鏡面33に映る像の歪みを補正し、実際の像に近似した像を運転者に提供することができる。
【0036】
透明部材16では、出光面31は、山状の凸面形状に形成した部位なので、出光面31は凸レンズの作用をなし、透明部材16を大きくすることなく反射鏡面33に映る外側下方の像を拡大することができ、大きく映すことができる。
【0037】
透明部材16では、入光面28は、谷状の凹面形状に形成した部位なので、入光面28は凹レンズと同等の作用をなし、対象物からの反射光線55,56の入光する角度λ2(λ2>λ1)はより大きくなり、透明部材16を大きくすることなく映す対象の範囲をより広くすることができる。
【0038】
入光面28は自由曲面なので、曲面を任意に設定することによって映したい位置を特定することができると同時に、特定した位置の視野を広げることができる。
【0039】
図9(a)〜(d)は、本発明のアウトサイドミラー装置の第2作用図であり、(a)は車両12の左外側下方に位置する対象物を説明する図、(b)は比較例の透明部材201を示す図、(c)は比較例を説明する図、(d)は本発明の実施の形態(アウトサイドミラー装置11)の作用を説明する図である。
【0040】
(a)において、車両12の左外側下方(矢印a2の方向)には、前から順に対象物57,58,61,62が存在する。63,64,65,66はそれぞれの下の角を示す。
【0041】
(b)において、比較例の透明部材(プリズム)201は、入光面202、出光面203をともに平らな面に形成し、反射鏡面204を凸面鏡となるように形成した。
【0042】
(c)において、比較例の透明部材(プリズム)201では、出光面203に対象物57,58,61,62のそれぞれの角63,64,65,66のみが映り、映る範囲は狭い。
また、車両12のボディ(主に左前ドア13のアウタパネル14)の映り込み量が多く、出光面203の約70%をボディの像で占め、必要なものを映す出光面203の領域は狭く、対象物57,58,61,62を把握し難い。
このように、反射鏡面204を凸面鏡となるように形成した場合、ボディの映り込み量が大きくなり、ボディの輪郭が大きく曲がった像(部位67参照)となる。
【0043】
(d)において、実施例は、本発明の透明部材16を使用した場合で、対象物57,58,61,62のそれぞれの角63,64,65,66とともに、さらに対象物57,58,61,62の中央まで映すことができ、映る範囲は広い。
また、ボディ(アウタパネル14を含む。)の映り込み量は出光面31の約15%と少ない。
【0044】
このように、本発明の図7に示す反射鏡面33は、反射鏡面33の中央部に、端部43,44より下方に向ける中央凸鏡面部41を含んでいるので、下方に向ける中央凸鏡面部41によってボディの輪郭の曲がりを抑制し、自然な像を得ることができる。
【0045】
図8に示すように透明部材16では、入光面28は、谷状の凹面形状に形成した部位なので、入光面28は凹レンズと同等の作用をなし、透明部材16を大きくすることなく映す対象の範囲を広くすることができる。従って、対象物57,58,61,62を確実に確認することができる。
【0046】
図4の反射鏡面33は、中央部39の左右方向に対する半径をRmとし、中央部39に連なる両端部43,44の左右方向に対する半径をRとしたときに、半径Rを半径Rmより大きくしたので、図9(d)に示す出光面31の両端部71,72で対象物57,62が小さくなることはなく、両端部71,72に映る像、例えば対象物57,62を自然な大きさで見ることができる。
【0047】
尚、本発明のアウトサイドミラー装置は、実施の形態では四輪車に適用したが、三輪車にも適用可能であり、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のアウトサイドミラー装置は、車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のアウトサイドミラー装置の斜視図
【図2】図1の2矢視図
【図3】本発明のアウトサイドミラー装置に用いた透明部材の斜視図
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】図3の5矢視図
【図6】図3の6矢視図
【図7】図3の7−7線断面図
【図8】本発明のアウトサイドミラー装置の第1作用図
【図9】本発明のアウトサイドミラー装置の第2作用図
【図10】従来の技術の基本構成を説明する図
【符号の説明】
【0050】
11…アウトサイドミラー装置、12…車両、15…後方を映す鏡(後方ミラー)、16…透明部材、28…入光面、31…出光面、32…反射部材、33…反射鏡面、39…中央部、41…中央凸鏡面部、M…運転者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後方を映す鏡と車両の外側下方を映す透明部材を取付けたアウトサイドミラー装置において、
前記透明部材は、下方に向ける入光面を形成し、運転者に向ける出光面を形成し、出光面の対向側に反射部材を一体的に取付けてなる反射鏡面を運転者に対して凸面で形成したことを特徴とするアウトサイドミラー装置。
【請求項2】
前記出光面は、山状の凸面形状に形成したことを特徴とする請求項1記載のアウトサイドミラー装置。
【請求項3】
前記入光面は、谷状の凹面形状に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアウトサイドミラー装置。
【請求項4】
前記反射鏡面は、中央部に端部より下方に向ける中央凸鏡面部を含んでいることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載のアウトサイドミラー装置。
【請求項5】
前記反射鏡面は、中央部の半径をRmとし、中央部に連なる両端部の半径をRとしたときに、半径Rを半径Rmより大きくしたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4記載のアウトサイドミラー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−205784(P2006−205784A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17321(P2005−17321)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】