説明

アオコの増殖抑制方法

【課題】手間や費用を要さずして湖、沼、池、ダム等の閉鎖性水域からアオコを効率よく確実に除去できるようにする。
【解決手段】閉鎖性水域1の水位を低下させることにより水底2を水面上に露出させ、露出させた部分の底泥5を耕起し、耕起した底泥5をアオコが死滅する温度以上に加熱する。加熱は例えば耕起した底泥5に火炎を当てることにより行う。また耕起は水底2の表面から少なくとも15cm以上の深さについて行う。水面上に露出させる水底2は、閉鎖性水域1の太陽光が到達する水底とする。また耕起は、例えば露出させた水底2を干し上げた後に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖、沼、池、ダム等の閉鎖性水域に生息するアオコの増殖を抑制する技術に関し、とくに閉鎖性水域からアオコを効率よく除去するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市開発や市民生活の変化による環境破壊が進み、湖、沼、池、ダム等の閉鎖性水域におけるアオコの大量発生が問題となっている。このようなアオコの増殖抑制対策として、例えば特許文献1には、閉塞系水域の水面で繁殖するアオコの発生を抑制および除去するにあたり、最大吸水時の比重が1未満の多孔質の粗粒からなる不定形資材を、浮遊性フエンスで囲われたエリアの水面に層状に浮遊させ、ある期間経過後にフエンス内の不定形資材を陸揚げすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−233968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にアオコの除去に際しては、閉塞性水域(閉鎖性水域)からアオコやアオコを含んだ土砂をバックホウやダンプカー等の重機を用いて搬出する必要があり、また搬出した土砂を仮置きするための土砂場を確保する必要もあるなど、アオコや土砂の搬出にかかる手間や費用が問題となる。
【0005】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたもので、湖、沼、池、ダム等の閉鎖性水域に生息するアオコの増殖を抑制する技術に関し、特に閉鎖性水域からアオコを効率よく除去することを可能とするアオコの増殖抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一つは、閉鎖性水域の水位を低下させることにより水底を水面上に露出させ、露出させた水底部分の底泥を耕起し、耕起した底泥をアオコが死滅する温度以上に加熱することとする。
【0007】
本発明によれば、露出させた水底部分の底泥を耕起して加熱するので、露出させた水底下の底泥に生息しているアオコ(例えばMicrocystis等のプランクトン)を確実に死滅させることができる。そのため、アオコやアオコを含んだ土砂を閉鎖性水域外に搬出する必要がなく、閉鎖性水域から効率よくアオコを除去することができる。
【0008】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖を抑制する方法であって、前記加熱は前記耕起した底泥に火炎を当てることにより行うこととする。
【0009】
このように本発明によれば、耕起した底泥に火炎を当てて加熱しアオコを死滅させるので、底泥中に生息しているアオコを効率よく確実に死滅させることができる。また底泥の加熱を火炎を当てることにより行うので、底泥に触れることなく効率よく作業を進めることができる。
【0010】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖を抑制する方法であって、前記耕起は、前記水底の表面から少なくとも15cm以上の深さについて行うこととする。
【0011】
アオコの大部分は、水底の表面から約15cmの深さの底泥中に生息していることが知見されている。そのため、水底の表面から少なくとも15cm以上の深さを耕起して加熱することで、底泥中に生息しているアオコを確実に死滅させることができる。
【0012】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖を抑制する方法であって、水面上に露出させる前記水底は、前記閉鎖性水域の太陽光が到達する水底であることとする。
【0013】
休眠時期のアオコは休眠状態で水底に生息しているが、増殖時期になるとアオコは水面近くへの浮上を開始し、光合成を行って増殖する。しかし光合成が可能であることが上記浮上開始の条件となるため、太陽光が届かないような水底に生息しているアオコは再浮上することができず、そのような水底に生息しているアオコは増殖にほとんど寄与しないこととなる。そこで水底のうち太陽光が到達する部分を露出させ、その部分について前述した底泥の耕起や加熱を行うようにすることで、アオコを効率よく確実に死滅させることができる。
【0014】
本発明の他の一つは、上記アオコの抑制方法であって、前記耕起は、前記露出させた水底を干し上げた後に行うこととする。
【0015】
干し上げを行って予め水分を蒸発させておくことで、底泥をアオコが死滅する温度まで加熱するのに要する時間が短縮され、作業負担を軽減することができる。
【0016】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、手間や費用を要さずして閉鎖性水域からアオコを効率よく確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】閉鎖性水域1の断面図である。
【図2】本実施形態におけるアオコの増殖抑制方法の手順を示す流れ図である。
【図3】底泥5の採取を行っている様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1は本実施形態のアオコの増殖抑制方法が適用される、湖、沼、池、又はダム貯水池等、水の流出入の機会が乏しい環境におかれている水域(以下、閉鎖性水域1と称する。)の断面図である。
【0020】
閉鎖性水域1の水底2や底泥5にはアオコが生息している。よく知られているように、アオコは休眠時期と増殖時期とを繰り返し、休眠時期のアオコは休眠状態で水底2の底泥5に生息しているが、増殖時期になるとアオコは水面3近くへ浮上を開始し、光合成を行って増殖する。閉鎖性水域1がダム貯水池の場合、アオコの増殖時期は出水期(例えば6月〜10月)であり、休眠時期は非出水期(例えば10月〜翌年5月)である。以下の説明はアオコの休眠時期にアオコの増殖抑制を行うことを前提としている。
【0021】
図2はアオコの増殖抑制を行う際の手順を説明する流れ図である。アオコの増殖抑制に際しては、まず閉鎖性水域1の水位を低下させることにより水底2を水面上に露出させる(S211)。
【0022】
水位の低下は、例えば閉鎖性水域1が水量を調節可能なダムや貯水地等であれば放水等により行う。また水量の調節ができない湖沼や池である場合は排水ポンプやバキュームカーを用いて行う。尚、閉鎖性水域1の水位を低下させると閉鎖性水域1の下流域に濁水が発生する可能性がある。そこで水位の低下は、下流域にこのような濁水が発生しない程度とすることが好ましい。
【0023】
次にS211にて水面上に露出させた水底2を干し上げる(S212)。この干し上げは、例えば天日干しにより行う。またこの干し上げは、例えば露出させた水底2を送風機等を用いて乾燥させることにより行うようにしてもよい。尚、このように干し上げを行うことで、予め底泥5の水分を減少させておくことができ、後に底泥5をアオコが死滅する温度まで加熱する際の加熱時間が短縮され、作業負担を軽減することができる。
【0024】
次に干し上げた水底2(底泥5)を所定の深さ耕起する(S213)。耕起は例えば鍬、鋤等を用いて人手により行うようにしても良いし、耕運機等の機械を用いて行うようにしても良い。
【0025】
次に耕起した部分の底泥5をアオコが死滅する温度以上に加熱する(S214)。加熱はバーナーや電気ヒーターを用いて行うほか、野焼きなどにより行ってもよい。バーナーや電気ヒーターの火炎を当てて底泥5を加熱する場合、底泥5中に生息しているアオコを効率よく確実に死滅させることができる。またこのように火炎によって底泥5を加熱するようにした場合、底泥5に直接触れることなく効率よく作業を進めることができる。
【0026】
ところで、前述したように休眠時期のアオコは休眠状態で水底2に生息しているが、増殖時期になるとアオコは水面3近くへの浮上を開始し、光合成を行って増殖する。しかし光合成が可能であることが上記浮上開始の条件となるため、太陽光が届かないような水底2に生息しているアオコは再浮上することができず、そのような水底2に生息しているアオコは増殖にほとんど寄与しない。そこで閉鎖性水域1の水底2のうち少なくとも太陽光が到達する水底2について露出させるようにし、その部分について前述した底泥2の耕起や加熱を行うようにすることで、アオコを効率よく確実に死滅させることができる。
【0027】
尚、S213で耕起すべき水底2の深さを調べるために、本発明者らはダム貯水池において20日間水底2を干し上げ、干し上げた地点の水底2の底泥5を採取してアオコの生息状態を確認した。
【0028】
図3に底泥5の採取を行っている様子を示している。同図に示すように、直径10cm、高さ30cmの略円柱状に底泥5を採取した。調査の結果、高さ30cmのうち上位15cm(水底面から15cm)までの泥質を主たる成分とする層51に、アオコの構成種である藍藻類(Microcystis)が集積していることが確認された。このことから、水底2の表面から少なくとも15cmの深さまでの底泥5を耕起し加熱することで、底泥5中に生息しているアオコを確実に死滅させることができることがわかる。
【0029】
以上に説明したように、本実施形態におけるアオコの増殖抑制方法によれば、露出させた水底2下の底泥5に生息しているアオコを確実に死滅させることができる。そのため、アオコやアオコを含んだ土砂を、バックホウやダンプカー等の重機を用いるなどして閉鎖性水域1外に搬出する必要がなく、閉鎖性水域1から効率よく低コストでアオコを確実に除去することができる。
【0030】
尚、以上に説明した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 閉鎖性水域
2 水底
3 水面
5 底泥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖性水域の水位を低下させることにより水底を水面上に露出させ、露出させた部分の底泥を耕起し、耕起した底泥をアオコが死滅する温度以上に加熱する
ことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアオコの増殖を抑制する方法であって、
前記加熱は前記耕起した底泥に火炎を当てることにより行う
ことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアオコの増殖を抑制する方法であって、
前記耕起は、前記水底の表面から少なくとも15cm以上の深さについて行う
ことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアオコの増殖を抑制する方法であって、
水面上に露出させる前記水底は、前記閉鎖性水域の太陽光が到達する水底である
ことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。
【請求項5】
請求項1に記載のアオコの増殖を抑制する方法であって、
前記耕起は、前記露出させた水底を干し上げた後に行う
ことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−19749(P2012−19749A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160930(P2010−160930)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】