説明

アキアミ検出用プライマーセット

【課題】エビの一種であるアキアミをカニ、その他の甲殻類、魚介類などと区別して、特異的に高感度に検出するための手段の提供。
【解決手段】以下の(a)のオリゴヌクレオチドと、(b)のオリゴヌクレオチドとから構成される、アキアミ検出用プライマーセット。(a)特定の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。(b)別の特定の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物。試料より抽出したDNAを鋳型とし、該プライマーセットを用いてPCRを行い、標的サイズの増幅産物の有無を検出する、アキアミの検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物アレルギーの原因となるエビの1種であるアキアミを高感度で検出することのできるプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、平成20年6月3日に公布された厚生労働省省令第百十二号によって食品衛生法施行規則が改正されて、「エビ」はアレルギー物質として食品に記載することが義務付けられることになった。かかる事情から、食品や食品原料中にエビが含まれるかどうかを確認することは品質管理上要求されることとなり、そのための検出方法が開発された(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、特許文献1の方法は、エビ、カニ、オキアミ、アミ、シャコなどの甲殻類全般を検出する方法で、エビのみを検出することはできない。一方、特許文献2の方法では、カニ、オキアミ、アミ、シャコを検出することはなく、エビのみを検出する方法である。特許文献2の方法は、本発明者により開発されたものであって、エビの16S rRNA遺伝子の塩基配列においてエビに共通する塩基と、エビに共通しかつその他の甲殻類と区別できる塩基とを含む領域から設計したプライマーを用いることによって、シマエビ、クルマエビ、アカエビ、テナガエビ、アメリカザリガニ、オマールエビ、イセエビなど、一般的に流通し、食品に利用されているエビのほとんどを特異的かつ高感度に検出できるものである。ところが、特許文献2の方法によれば、サクラエビ科に属するサクラエビ(Sergia lucens)が検出できるにも関わらず、同じサクラエビ科に属するアキアミ(Acetes japonicus)が検出できないことが判明した。アキアミは、干物などの食品に利用されており、例えば、お好み焼きのミックス粉に混合して、あるいは、ミックス粉にセットして流通し、消費者の口に入ることになる。したがって、アキアミを検出できる方法の開発が望まれるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-280281号公報
【特許文献2】特開2008-000128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、エビの一種であるアキアミをカニ、その他の甲殻類、魚介類などと区別して、特異的に高感度に検出するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、まず、サクラエビが検出でき、同じサクラエビ科に属するアキアミが検出できないことの原因について調べた。アキアミの16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析した結果、(i) アキアミの16S rRNA遺伝子の塩基配列はサクラエビなどのエビ類に共通する16S rRNA遺伝子の塩基配列とは異なる特徴的な配列を有していること、(ii)そのため、既存のエビ検出用プライマーセットのフォワードプライマーの3’末塩基が結合する上記エビ類に共通する塩基とアキアミの塩基が一致せず(エビ類では「G」であるのに対し、アキアミでは「A」)、特異的増幅産物が得られない、という知見を得た。そこで、アキアミの16S rRNA遺伝子の塩基配列において、アキアミをカニ、その他の甲殻類、魚介類などと区別できる塩基を選定し、その選定した塩基の上流の塩基配列を含む領域からフォワードプライマーを新たに設計し、これを既存のエビ検出用プライマーセットのリバースプライマーと組み合わせてPCR増幅に用いたところ、アキアミを、カニ、その他の甲殻類、魚介類などと区別して特異的かつ高感度に検出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)のオリゴヌクレオチドと、(b)のオリゴヌクレオチドとから構成される、アキアミ検出用プライマーセット。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物
(2) 試料より抽出したDNAを鋳型とし、(1)に記載のプライマーセットを用いてPCRを行い、標的サイズの増幅産物の有無を検出することを特徴とする、アキアミの検出方法。
(3) 前記増幅産物のサイズが82bpであることを特徴とする、(2)に記載のアキアミの検出方法。
(4) (1)に記載のプライマーセットを含む、アキアミ検出用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アキアミを特異的に高感度に検出することができるプライマーセットが提供される。よって、既報のエビ検出用プライマーセット(特開2008-000128号公報)によるアキアミの検出漏れの問題を解消することができる。本発明のプライマーセットを用いたPCRの増幅産物のサイズは82bp程度であることから、加熱調理等の加工処理によってアキアミのDNAが断片化されることがあっても高感度でアキアミを検出することができる。また、上記のエビ検出用プライマーセットと組み合わせることにより、アキアミを含めエビ全体の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アキアミ3種(瀬戸内産、台湾産、中国産)由来のDNA試料(5pg DNA)に対する本発明のアキアミ検出用プライマーセット(配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)の特異性評価試験結果(PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真)を示す(矢印:標的サイズの増幅産物長、1:瀬戸内産、2:台湾産、3:中国産、M:分子量マーカー、N:ネガティブコントロールとして滅菌超純水を使用)。
【図2】カニ由来のDNA試料に対するアキアミ検出用プライマーセット(配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)の特異性評価試験結果(PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真)を示す(矢印:標的サイズの増幅産物長、1:アサヒガニ、2:ズワイガニ、3:ベニズワイガニ、4:タカアシガニ、5:ケガニ、6:ダンジネスクラブ、7:マルズワイガニ、8:ワタリガニ、9:シャンハイガニ、10:タラバガニ、11:アブラガニ、12:ハナサキガニ、13:イバラガニ、M:分子量マーカー、N:ネガティブコントロールとして滅菌超純水を使用、P:ポジティブコントロールとしてアキアミ(瀬戸内産)5pg DNAを使用)。
【図3】その他の魚介類・畜肉家禽類由来のDNA試料に対するアキアミ検出用プライマーセット(配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)の特異性評価試験結果(PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真)を示す(矢印:標的サイズの増幅産物長、1:マダコ、2:アカイカ、3:ヤリイカ、4:スルメイカ、5:アサリ、6:ハマグリ、7:ホタテ、8:サザエ、9:アワビ、10:ブリ、11:サケ、12:タラ、13:サバ、14:カツオ、15:マグロ、16:アジ、17:ウシ、18:ブタ、19:トリ)、M:分子量マーカー、N:ネガティブコントロールとして滅菌超純水を使用、P:ポジティブコントロールとしてアキアミ(瀬戸内産)5pg DNAを使用)。
【図4】その他の魚介類由来のDNA試料に対するアキアミ検出用プライマーセット(配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)の特異性評価試験結果(PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真)を示す(矢印:標的サイズの増幅産物長、1:アカガイ、2:マテガイ、3:ホッキガイ、4:マガキ、5:ホンミルガイ、6:ツブガイ、7:ヒラガイ、8:アオヤギ、9:シジミガイ、10:イイダコ、11:コウイカ、12:スミイカ、13:ナマコ、14:オキアミ、15:アミ、16:シャコ)、M:分子量マーカー、N:ネガティブコントロールとして滅菌超純水を使用、P:ポジティブコントロールとしてアキアミ(瀬戸内産)5pg DNAを使用)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアキアミ検出用プライマーセットは、新たにアキアミ用に設計されたフォワードプライマーと、既存のエビ検出用プライマーセットのリバースプライマーから構成される。
【0011】
本明細書における「アキアミ」は、日本標準商品分類[平成2年6月改訂:総務省統計局・政策統括官(統計基準担当)]に定められた「7133えび類(いせえび・ざりがに類を除く。)」に含まれており、また、系統分類学・形態的特長において、エビ目(十脚目)・サクラエビ科・アキアミ属に属している。また、本明細書における「エビ」は、「根鰓亜目」、「コエビ下目」、「ザリガニ下目」、「イセエビ下目」に属し、特に表記しない限りは「アキアミ」は含まない。また、「カニ」は、「短尾下目」と「異尾下目のタラバガニ科(ただし、ヤドカリ、アナジャコ、コシオリエビと称される甲殻類は除く)」に属し、「その他の甲殻類」は、「アミ」、「シャコ」、「オキアミ」をいう。
【0012】
フォワードプライマーとなるオリゴヌクレオチドは、アキアミに共通する塩基と、アキアミに共通し、かつカニ及びその他の甲殻類と区別できる塩基とを含む領域の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する核酸分子にアニーリングし得るオリゴヌクレオチドである。
【0013】
「アキアミに共通する塩基と、アキアミに共通し、かつカニ及びその他の甲殻類と区別できる塩基とを含む領域」は、上記のアキアミ、カニ、及びその他の甲殻類の16S rRNA遺伝子として知られている複数の塩基配列を整列(アラインメント)し、比較することにより特定することができる。具体的には、アキアミ、カニ、及びその他の甲殻類由来の16S rRNA遺伝子の塩基配列を比較し、アキアミに共通する複数の塩基を含む部分であって、その共通する塩基の中にカニ、及びその他の甲殻類と区別できる塩基が含まれる領域を特定する。カニ、及びその他の甲殻類と区別できる塩基はプライマーの3’末端に置く。
【0014】
アラインメントに用いる上記の複数の塩基配列のうち、公知の塩基配列としては、カニ、及びその他の甲殻類の16S rRNA遺伝子として知られているものであればいずれのものを用いてもよく、このような塩基配列はGenBank等のDNAデータベースを用いて検索し、入手することができる。また、アキアミについてはデータベースに登録されていないので、サンプルを入手した上で、適宜設計したPCRプライマーを用いて塩基配列を解読して、情報を得ることができる。
【0015】
塩基配列の整列(アラインメント)には、インターネットで公開されているアラインメントソフト(例えば、CLUSTALW,URL:http://www.ddbj.nig.ac.jp/)を利用することができる。
【0016】
次に、特定した領域にプライマーを設計する。プライマーの設計にあたっては、例えば「PCR法最前線−基礎技術から応用まで」(蛋白質・核酸・酵素 臨時増刊号1996年 共立出版株式会社)や「バイオ実験イラストレイテッド3本当に増えるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ」(中山広樹著1996年 株式会社秀潤社)、「PCRテクノロジー−DNA増幅の原理と応用−」(Henry A Erlich編、加藤邦之進 監修、宝酒造株式会社)等に基づいて設計すればよいが、加工食品からの検出の場合には、DNAが分解して短くなっている可能性が考えられ、このような観点から200bp以内の増幅産物を得ることができるプライマーを設計することが好ましい。
【0017】
このようにしてアキアミ用に設計されたフォワードプライマーは、配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクオチドからなる。
【0018】
一方、リバースプライマーは、エビ(アキアミも含む)に共通する塩基と、エビ(アキアミも含む)に共通し、かつカニその他の甲殻類と区別できる塩基とを含む領域の塩基配列またはそれに相補的な塩基配列を有する核酸分子にアニーリングし得るオリゴヌクレオからなる。このようなオリゴヌクレオチドとして、特開2008-000128号公報に開示される配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物、好ましくは等量混合物を用いることができる。
【0019】
したがって、本発明のアキアミ検出用プライマーセットは、フォワードプライマーとして配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、リバースプライマーとして、配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成される。
【0020】
上記各配列番号に示す塩基配列は、以下のとおりである。
AK-3:5'-ggttgtacaaaaagaaagctgtctca-3'(配列番号1)
ZA-R173:5'-gtccctctagaacatttaagccttttc-3'(配列番号2)
ZA-R173-N1:5'-gtccctttatactatttaagccttttc-3'(配列番号3)
ZA-R173-N2:5'-gtccccccaaattatttaagccttttc-3'(配列番号4)
【0021】
プライマーとなるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することが可能である。
【0022】
上記のプライマーセットを用いてPCR増幅を行うと、試料にアキアミが含まれる場合は、カニ、及びその他の甲殻類では認められないアキアミに特異的な増幅産物が得られる。従って、アキアミをカニ、及びその他の甲殻類と区別して特異的に検出することができる。
【0023】
なお、上記プライマーセットは、アキアミだけでなく、アキアミ以外の一部のエビを検出することがあるが、エビ検出用プライマーセットと組み合わせて、前記した食品衛生法施行規則の改正に対応できるということでは問題とならない。
【0024】
上記のプライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記プライマーセットを少なくとも含むものであればよく、必要に応じて、PCRの陽性コントロールとなる標的配列を含むDNA分子、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬(プライマーセットを除く)、SYBR Green等を用いたReal time PCR試薬、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【0025】
本発明によればまた、上記のプライマーセットを用いたアキアミの検出方法が提供される。本方法は、試料より抽出したDNAを鋳型とし、上記のプライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRによる増幅産物の有無を指標として検出することを特徴とする。
【0026】
試料としては、アキアミを含む可能性のある食品原料や製品、アキアミが混入する可能性のある食品原料や製品であればよく、特に制限されない。本発明の方法により得られた検出結果は、食品のアレルギー表示に利用できるほか、生産者の意図していない製造ラインにおけるコンタミネーションの有無の確認に利用できる。
【0027】
試料からのDNAの抽出は、核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール/クロロホルム法、界面活性剤による細胞溶解やプロテアーゼ酵素による細胞溶解、ガラスビーズによる物理的破壊方法、凍結溶融を繰り返す処理方法などにより行うことができる。また、試薬メーカーより販売されている各種DNA抽出キットを用いても良い。試料の種類によっては、メンブランフィルターによる濾過やホモジナイズを行うことが望ましい。
【0028】
次に、上記の操作で得られたDNA試料を鋳型とし、前記のプライマーセットを用いてPCRを行い、増幅産物の有無を検出する。PCR増幅は上記のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。PCR反応液の組成、PCR条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、前記のプライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択及び設定することができる。例えば、全液量が25〜50μLとなる範囲で、鋳型となるDNA 50ng、PCR反応用緩衝液、フォワードプライマー0.2〜0.5μM、リバースプライマー0.2〜0.5μM、DNAポリメラーゼ(Taq ポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼなど)0.025U/μL、dNTP各200μMを混合し、94〜96℃ 10分×1サイクル、(94〜96℃ 30秒、52〜58℃ 30秒、72℃ 30秒)×40サイクル、72℃ 7分×1サイクルで反応を行う。これは一例にすぎず、PCR反応液の組成、反応温度や時間は、プライマーとなるオリゴヌクレオチド配列の長さや塩基組成などに応じて適宜設定することができる。これらPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。
【0029】
PCRにより目的の増幅断片が得られたかどうかは、アガロースゲル電気泳動、DNAハイブリダイゼーション、Real time PCR(end pointやdissociation curve解析を含む)等の公知の方法を用いて確認することができる。目的の増幅断片のサイズは、検出しようとするアキアミの16S rRNA遺伝子領域において両プライマーに挟まれる領域の塩基数となる。例えば、上記のプライマーセットを用いた場合には、目的とする増幅断片のサイズは82bpである。一般的な加工食品においては、加工工程でDNAが断片化している可能性が高いが、PCR産物の長さが82bpであることから、加工度の高い食品においてもアキアミをカニ、及びその他の甲殻類と区別して検出することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)アキアミ検出用フォワードプライマーの設計および合成
(1) 16S rRNA遺伝子領域の配列収集とアラインメント
16S rRNA遺伝子の塩基配列として、GenBankに登録されたデータベースから、カニ(352配列)については各属から最低1配列を収集し、オキアミ(19配列)、アミ(18配列)、シャコ(15配列)については目以下の全ての配列を収集した。その他微少な甲殻類(164配列)については、目以下で代表1種の配列を収集した。アキアミについては16S rRNA遺伝子の塩基配列がGenBankに登録されていないため、今回新たに市場から5サンプルを入手し、16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。これらの塩基配列情報をもとに、解析ソフトCLUSTAL X(1.8)、FROG-Win、SEQ-09を用いてアラインメントし、比較した。
【0032】
(2) プライマーの設計
16S rRNA 遺伝子領域は分子系統分類学に利用されており、さらに甲殻類で報告されている配列数が最も多いため、アキアミに特異的なフォワードプライマーの設計候補も多いと予想される。また、オキアミ、アミ、シャコを検出しないためには、特開2008-000128号公報に記載のエビ検出用プライマーセットの下記のリバースプライマー(配列番号2,3,4の等量混合物)を用いる必要がある。
【0033】
(リバースプライマー)
ZA-R173:5'-gtccctctagaacatttaagccttttc-3'(配列番号2)
ZA-R173-N1:5'-gtccctttatactatttaagccttttc-3'(配列番号3)
ZA-R173-N2:5'-gtccccccaaattatttaagccttttc-3'(配列番号4)
【0034】
従って、16S rRNA 遺伝子以外の遺伝子やエビ検出用プライマーセットの上記リバースプライマー結合領域よりも下流領域での新たなアキアミ検出用プライマーセットのフォワードプライマーの設計は困難であると考え、アキアミ検出用フォワードプライマーの設計位置を、上記リバースプライマーの上流に定めることとした。
【0035】
まず、アキアミとカニを区別できる塩基を選定した。次に、カニ以外の甲殻類の配列と比較し、アキアミの特異性が高い塩基をさらに絞り込んだ。その後、選定した塩基の上流側の配列を確認し、プライマー設計に適している領域を選択した。これらの領域から下記の基準でアキアミに対して特異性の高いフォワードプライマーを設計した。
【0036】
<設計基準>
(a) 加工品を測定することから、PCR増幅産物は200bp以下であること。
(b) プライマーの3’側塩基とテンプレートDNA配列との相同性は高いこと。
(c) プライマー長は20〜30baseの範囲とし、プライマーとアキアミのDNA配列のTm値は50〜60℃付近であること。
(d) プライマーはダイマーや立体構造を形成しないこと
その結果、下記の3種のプライマー(AK-1、AK-2、AK-3)をアキアミ検出用フォワードプライマー候補として設計した。
【0037】
(フォワードプライマー候補)
AK-1:5'-tctgcctgtttatcaaaaacatctctt-3'(配列番号5)
AK-2:5'-ctctttatgattatagttatataaagtata-3'(配列番号6)
AK-3:5'-ggttgtacaaaaagaaagctgtctca-3'(配列番号1)
【0038】
(3) PCR シミュレーションによるアキアミの増幅予想
上記のフォワードプライマー候補とリバースプライマーからなる3組のプライマーセット(配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット;配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット;配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)を用いてAmplify simulatorによるPCRシミュレーションを行い、アキアミ特異的な増幅産物が得られるかどうかを確認した。
【0039】
配列決定したアキアミの16S rRNA遺伝子の塩基配列、および食用となるカニ、オキアミ、アミ、シャコ、および微少な甲殻類、魚介類(頭足類、貝類、棘皮類、魚類)の中で、16S rRNA遺伝子の塩基配列が入手でき、設計したプライマー領域が含まれている配列を対象とした。なお、フォワード、リバースの各プライマーの3'末塩基と一致しない配列については増幅しないと予想されるため、一致した配列のみを対象とした。
【0040】
上記の3組のプライマーセットを用いたアキアミの16S rRNA遺伝子のPCR増幅産物長を下記表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
アキアミの16S rRNA遺伝子の塩基配列に対する各フォワードプライマーの相同性は高く、感度は十分に得られると予想された。しかしながら、AK-1(配列番号5)、AK-2(配列番号6)のフォワードプライマーを用いた場合、増幅産物長は200bpを超えたため、前記の設計基準に合致しなかった。
【0043】
最終的に採用したAK-3(配列番号1)のフォワードプライマーを用いた場合のPCR シミュレーション結果を以下に示す。
【0044】
(i) 食用となるカニおよびその他の甲殻類
カニ(352配列)、オキアミ(19配列)、アミ(18配列)、シャコ(15配列)のうち、カニ5配列で増幅する可能性が予想されたが、配列数が少なく、また小型のカニであった。
【0045】
(ii) 微小な甲殻類
アミの近縁種であるヨコエビ目、ワラジムシ目及びアゴアシ網、コノハエビ亜網、ミジンコ網、ムカシエビ上目、ムカデエビ綱、カイムシ綱、カシラエビ網などの微小な甲殻類(142配列)のうち、フォワード、リバース両プライマーともに3’末塩基が一致したものについてPCR シミュレーションを実施した結果、ミジンコ網とムカシエビ上目それぞれの数配列で増幅する可能性が予想された。
【0046】
(iii) 異尾下目の近縁種(ヤドカリなど)
Paguroidea(ヤドカリ上科) とThalassinidea(アナジャコ上科)の種で増幅する可能性が予想された。ただし、フォワードプライマー配列26塩基中、7塩基で不一致が確認された。
【0047】
(iv) その他の魚介類など
貝類(17配列)、頭足類(6配列)、魚類(46配列)、棘皮類(31配列)、畜肉家禽類(3配列)のうち、貝類の3配列では、3'末塩基と一致したが、フォワードプライマーの内部配列との相同性が低く、増幅産物は得られないと予想された。その他の配列では、フォワードプライマーの3'末塩基と一致しなかった。
【0048】
以上のPCR シミュレーションによる増幅予想の結果から、AK-3をフォワードプライマーとするプライマーセットでは、微小な甲殻類で増幅の可能性が示されたが、アキアミに対する特異性が高いことが確認できた。実際にPCR反応により増幅産物が得られるかどうかについては、入手した甲殻類及び魚介類などで確認することとした。
【0049】
(実施例2)オキアミ検出用フォワードプライマーの選定
(1) PCRテンプレートDNAの抽出
[サンプル]
アキアミ(3種類):瀬戸内産、台湾産、中国産
カニ(13種類):アサヒガニ、ズワイガニ、ベニズワイガニ、タカアシガニ、ケガニ、ダンジネスクラブ、マルズワイガニ、ワタリガニ、シャンハイガニ、タラバガニ、アブラガニ、ハナサキガニ、イバラガニ
その他の甲殻類(3種類):ツノナシオキアミ、イサザアミ、シャコ
魚類(7種類):ブリ、サケ、タラ、サバ、カツオ、マグロ、アジ
貝類(14種類):アサリ、ハマグリ、ホタテ、サザエ、アワビ、アカガイ、マテガイ、ホッキガイ、マガキ、ホンミルガイ、ツブガイ、ヒラガイ、アオヤギ、シジミガイ
頭足類(7種類):マダコ、アカイカ、ヤリイカ、スルメイカ、イイダコ、コウイカ、スミイカ
棘皮類(1種類):ナマコ
畜肉家禽類(3種類):ウシ、ブタ、トリ
【0050】
[DNA抽出]
上記の各サンプルを水洗いした後、身(可食部)を0.1g秤量し、15mlチューブに入れ、Buffer G2(QIAGEN社製)2ml、Proteinase K(QIAGEN社製)100μl、100mg/ml RNase A(QIAGEN社製)4μlを加え、混合し、50℃で2時間保温した(途中数回攪拌を行った)。 次に、遠心分離 (4200rpm,15分間)を2回行い、上清を回収した。Buffer QBT 1mlで平衡化したGenomic Tip 20/Gカラム(QIAGEN社製)を15mlチューブにセットし、上清全量をアプライした。Buffer QC(QIAGEN社製)3mlでカラムを洗浄後、50℃に加温しておいたBuffer QF(QIAGEN社製)1mlでDNAを溶出し、イソプロパノール沈殿処理を行い、TE(pH8.0)溶液または滅菌超純水50μlに溶解した。抽出したDNAはND-1000 Spectrophotometer (NanoDrop Technologies,Inc)でスペクトルを測定し、DNA濃度、純度を算出した。
【0051】
(2) プライマーの特異性評価
上記のようにして抽出したDNAはTE (pH 8.0)または滅菌水で希釈し、20ng/μlに調製した。アキアミは2pg/μl DNA溶液を使用し、その他のサンプルは20ng/μl DNA溶液をそのまま使用した。2pg/μl DNA溶液は、20ng/μlサケ精子DNA含有TE (pH 8.0) 緩衝液で段階希釈して調製した。これらのDNA溶液をテンプレートとし、前記フォワードプライマー候補をそれぞれ含む3組のプライマーセット(配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット;配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット;配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)を用いてPCRを行った。
【0052】
PCR反応は、0.2mlチューブ、GeneAmp PCR System9700またはVeriti(いずれもApplied Biosystems社製)を用い、下記表2のPCR反応液組成とPCR反応条件)にて行った。本反応では、各サイクル内の95℃、56℃、72℃反応の時間は1分で実施した。AmpliTaqGoldをはじめとするPCR反応液の試薬はApplied Biosystems社製を用いた。
【0053】
【表2】

【0054】
次に、PCR増幅産物を3%アガロースゲル電気泳動によって分離し、検出を行った。AK-1(配列番号5)を用いた系では、カニ2種類(ワタリガニ、アブラガニ)、アカイカで偽陽性が確認された。カニ2種類についてはプライマーの3'末塩基はミスマッチしていたため、プライマー配列の改良により特異性を高めることは可能と考えられたが、アカイカについては、配列の相同性が高く、不検出とする対応は難しいと予想した。AK-2(配列番号6)では、フォワードプライマーのTm値が低く(前記表1)、アキアミ5pgDNAを検出することができなかった。一方、AK-3(配列番号1)では、3’側の塩基配列のGCとAT塩基がバランス良く混合して、安定した増幅と特異性が期待された。
【0055】
以上の特異性評価の結果から、AK-3フォワードプライマーをオキアミ検出用フォワードプライマーとして選定し、これを用いたプライマーセットの特異性および感度を検討することとした。
【0056】
(実施例3)オキアミ検出用プライマーセットの特異性および感度評価
実施例2と同じサンプルから抽出したDNA溶液をテンプレートとし、AK-3フォワードプライマーを用いたプライマーセット(配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物から構成されるプライマーセット)を用い、実施例2と同じ反応条件にてPCRを行い、特異性および感度の評価を行った。
【0057】
アキアミ5pgDNAから標的サイズ約82bpの産物が検出され、その他の甲殻類や魚介類のDNAからは標的サイズの産物は検出されなかった。しかし、カニや一部の魚介類DNAから標的サイズ付近の非特異産物が頻度高く検出され、これら産物はポジティブコントロール並べて再泳動しなければ、区別が困難なサイズであった。そこで、前記表2のPCR条件の反応ステップ(変性・アニーリング・伸長)の時間を各1分から各0.5分に変更し、非特異産物の増幅を抑制することを試みた。その他の反応液組成やPCR条件は、表2に記載のとおり実施した。
【0058】
変更後の条件においても、アキアミDNAに対しては、既報(特開2008-000128号公報)のエビ検出法と同等の感度(5pgDNA)で検出可能であった(図1)。標的産物のサイズ付近に検出された非特異産物の検出頻度は低下し、検出された産物も非常に薄かった(図2〜4)。したがって、実際に食品での試験を想定した場合、非特異産物が検出される可能性はさらに低くなると予想された。50ngDNAで僅かに検出された2種類(ワタリガニ、アサリ)については(図2、図3)、再度50ng, 5ngDNAを鋳型に用いて、再試験したところ、不検出であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、食品製造および食品加工分野において、アキアミ混入の有無の確認に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)のオリゴヌクレオチドと、(b)のオリゴヌクレオチドとから構成される、アキアミ検出用プライマーセット。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号2、3、4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの混合物
【請求項2】
試料より抽出したDNAを鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットを用いてPCRを行い、標的サイズの増幅産物の有無を検出することを特徴とする、アキアミの検出方法。
【請求項3】
前記増幅産物のサイズが82bpであることを特徴とする、請求項2に記載のアキアミの検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプライマーセットを含む、アキアミ検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−244746(P2011−244746A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121606(P2010−121606)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】