説明

アキシャルギャップ型の回転電機

【課題】 回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子の応答が遅れることを可及的に抑制することができるアキシャルギャップ型の回転電機を提供する。
【解決手段】 回転子110aを、回転子110aの永久磁石201a〜201xを備えた永久磁石側部材111aと、回転子110aのヨーク(の一部)を備えたヨーク側部材112aとに分け、永久磁石側部材111aを回転軸130に取り付けると共に、ヨーク側部材112aが永久磁石側部材111aと同軸で回転できるようにする。また、永久磁石201a〜201xとヨーク(ヨーク側部材112a)とが、固定子120が配置されていない側で、潤滑機構113aを介して相互に対向するように、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子と回転子とが回転軸と平行な方向においてギャップを有して対向するように配置されるアキシャルギャップ型の回転電機に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、周方向に配置された複数の永久磁石(磁極)と、前記複数の永久磁石に対する継鉄となるヨークとを備えた回転子(ロータ)と、固定子鉄心と、固定子コイル(励磁コイル)とを備えた固定子(ステータ)とを有し、固定子と回転子とが回転軸と平行な方向にギャップを有して対向するように配置された、所謂アキシャルギャップ型の回転電機(電動機・発電機)がある(特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4468589号公報
【特許文献2】特許第4294993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、回転子が一体で形成されているため、回転子におけるイナーシャ(慣性力)が大きくなる。例えば、電気自動車のインホイールモータ等では、大きなトルクが必要になる。このため、特許文献1、2に記載のアキシャルギャップ型の回転電機を電気自動車のインホイールモータ等として使用すると、回転電機(回転子)の径が大きくなり、回転子におけるイナーシャ(慣性力)が特に大きくなる。このように回転子におけるイナーシャが大きいと、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子の応答が遅れてしまい、回転子が運転指令に応じた回転速度で回転するまでに時間を要してしまう虞がある。例えば、電気自動車の駆動モータやインホイールモータでは、回転子の回転速度の変更が頻繁に行われるため、このような問題点が顕著になる虞がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子の応答が遅れることを可及的に抑制することができるアキシャルギャップ型の回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアキシャルギャップ型の回転電機は、回転軸と同軸で回転する回転子と、前記回転軸と平行な方向において前記回転子とギャップを有して対向する位置に配置される固定子と、を有するアキシャルギャップ型の回転電機であって、前記回転子は、前記回転電機の周方向に配置された複数の永久磁石を備え、前記複数の永久磁石の前記回転軸と平行な方向の一端面が、前記固定子と前記ギャップを有して相互に対向する位置に配置された永久磁石側部材であって、前記回転軸と共に回転する永久磁石側部材と、前記永久磁石側部材の前記回転軸と平行な方向の端面のうち、前記固定子と対向しない方の端面側に配置され、前記複数の永久磁石に対する継鉄となるヨーク側部材であって、前記永久磁石側部材と同軸で回転することが可能なヨーク側部材と、前記永久磁石側部材と、前記ヨーク側部材との間に配置され、前記永久磁石側部材と、前記ヨーク側部材との間の摩擦を低減させるための潤滑部材と、を有し、前記ヨーク側部材は、前記永久磁石側部材の回転に伴って、前記永久磁石側部材との間の電磁誘導の作用により前記永久磁石側部材と同軸で前記永久磁石側部材と同じ方向に回転し、時間の経過に伴い、その回転速度が、前記永久磁石側部材の回転速度に近づくように動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定子を、複数の永久磁石を備えた永久磁石側部材と、複数の永久磁石に対する継鉄となるヨーク側部材とに分け、永久磁石側部材が回転軸と共に回転するようにすると共に、ヨーク側部材が永久磁石側部材と同軸で回転できるようにする。また、永久磁石とヨーク側部材とが、固定子が配置されていない側で、潤滑部材を介して相互に対向するように、永久磁石側部材とヨーク側部材を配置する。このようにすることにより、ヨーク側部材は、永久磁石側部材の回転に伴って、永久磁石側部材との間の電磁誘導の作用により永久磁石側部材と同軸で永久磁石側部材と同じ方向に回転し、時間の経過に伴い、その回転速度が、前記永久磁石側部材の回転速度に近づくように動作する。複数の永久磁石と複数の永久磁石に対する継鉄とを一体とした回転子に比べ、永久磁石側部材は軽いため、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、迅速に応答する。よって、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子の応答が遅れることを可及的に抑制することができるアキシャルギャップ型の回転電機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】モータの概略構成の第1の例を示す断面図である。
【図2】永久磁石側部材の構成の一例を示す図である。
【図3】部分ヨーク部の構成の一例を示す図である。
【図4】モータの概略構成の第2の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、回転電機の一例であるモータの概略構成の一例を示す断面図である。具体的に図1は、モータの回転軸に沿って切ったときの断面図である。尚、以下の各図では、説明に必要な構成のみを簡略化して示す。
図1において、モータ100は、所謂アキシャルギャップ型のモータであり、2つの回転子110a、110bと、固定子120と、回転軸130とを有し、それらがハウジング(フレーム)140内に収められている。
【0010】
回転子110a、110bと固定子120のそれぞれは、回転軸130と同軸となるように配置される。
固定子120は、2つの固定子コイル121a、121bと、固定子鉄心122とを有する。
固定子鉄心122は、複数の上側ティース部と、複数の下側ティース部と、ヨーク(継鉄)部とを有する。複数の上側ティース部は、周方向において等間隔となるようにヨーク部の上面に配置される。複数の下側ティース部は、周方向において等間隔となり、且つ、回転軸130と平行な方向でヨーク部を介して上側ティース部と相互に対向するようにヨーク部の下面に配置される。本実施形態では、固定子鉄心122は、電磁鋼板を用いて、一体で形成されるものとする。
【0011】
固定子コイル121a、121bは、それぞれ、固定子鉄心122の下側ティース部の側面、上側ティース部の側面に対して巻き回されるように配置される。
尚、固定子120は、公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、固定子120の構成は、図1に示したものに限定されない。
【0012】
回転子110a、110bは、それぞれ円盤状部材150の外周下側、外周上側の領域に取り付けられている。円盤状部材150は、例えば、アルミニウム等の金属等により形成されるものであり、その中心部が回転軸130に取り付けられている(固定されている)。
【0013】
回転子110a、110bは、永久磁石側部材111a、111bと、ヨーク側部材112a、112bと、潤滑機構113a、113bとを有する。尚、回転子110a、110bは、永久磁石側部材111a、111bと、ヨーク側部材112a、112bの位置関係が逆であることに基づく構成が異なる他は同じである。よって、以下の説明では、必要に応じて、回転子110a、110bのうち、回転子110aのみの詳細な説明を行い、回転子110bの詳細な説明を省略する。
【0014】
図2は、永久磁石側部材111aの構成の一例を示す図である。具体的に図2(a)は、永久磁石側部材111aの固定子120と対向する領域を、回転軸130に沿う方向から見た図である。図2(b)は、永久磁石側部材111aのヨーク側部材112aと対向する領域を、回転軸130に沿う方向から見た図である。図2(c)は、図2(a)のI−Iで切ったときの断面図である。図2(d)は、図2(a)のII−IIで切ったときの断面図である。尚、部材の特徴を分かりやすく示すために、各断面図では、必要に応じて、記載を省略している。
【0015】
永久磁石側部材111aは、24個の永久磁石201a〜201xと、部分ヨーク部202と、補強用枠体部203と、モールド部204と、を有する。
24個の永久磁石201a〜201xは、周方向に等間隔で配置されており、全体として、回転軸130と同軸の円環状になっている。
周方向で相互に隣り合う永久磁石(例えば永久磁石201aと永久磁石201b)は、相互に異なる極となっている。また、回転子110aに配置される永久磁石と、回転子110bに配置される永久磁石とのうち、回転軸130と平行な方向で固定子120を介して相互に対向する位置にある永久磁石も、相互に異なる極となっている。図2に示す例では、永久磁石201aはN極であるので、回転子110bに配置される永久磁石のうち、回転軸130と平行な方向で固定子120を介して永久磁石201aと相互に対向する位置にある永久磁石はS極となる。尚、このような配置になっていれば、永久磁石の数は、24個に限定されない。
【0016】
部分ヨーク部202は、中空円筒形状を有し、永久磁石201a〜201xの回転軸130に平行な方向の端面のうち固定子120が配置されていない側の端面(図1に示す例では永久磁石201a〜201xの下面)に、回転軸130と同軸となるように配置されている。部分ヨーク部202の上面と下面は、永久磁石201a〜201xにより形成される円環状の部分と同じ大きさ及び形を有している。
図3は、部分ヨーク部202の構成の一例を示す図である。具体的に図3(a)は、部分ヨーク部202を、回転軸130に沿う方向から見た図である。図3(b)は、図3(a)のI−Iで切ったときの断面図である。
【0017】
本実施形態では、部分ヨーク部202を、巻鉄心としている。具体的に説明すると、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板を、巻方向が回転子110aの周方向となるように巻いたものを、部分ヨーク部202の大きさ及び形に合わせて切断することにより巻鉄心を形成し、この巻鉄心を、部分ヨーク部202としている。
【0018】
図2の説明に戻り、補強用枠体部203は、永久磁石201a〜201xと部分ヨーク部202を、前述した位置に収め、それらの位置がずれることを防止するためのものである。補強用枠体部203は、非磁性体(アルミニウム等の非磁性の軽金属等)により一体で形成されている。
永久磁石201a〜201xと部分ヨーク部202が補強用枠体部203に収められると、永久磁石201a〜201xの厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち固定子120が配置されていない側の端面(図1では下面)と、部分ヨーク部202の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち永久磁石側部材111aが配置されている側の端面(図1では上面)とが相互に接触すると共に、永久磁石201a〜201xの上面と、部分ヨーク部202の下面とが露出する。永久磁石201a〜201xの側面と、部分ヨーク部202の側面は、補強用枠体部203によって隠れる。また、周方向で相互に隣り合う永久磁石の間には、補強用枠体部203の一部が配置される。補強用枠体部203は非磁性体であるので、周方向で相互に隣り合う永久磁石の間の磁束は、補強用枠体部203を通らずに、部分ヨーク部202を通ることになる。
【0019】
モールド部204は、永久磁石201a〜201xと部分ヨーク部202とを収めた補強用枠体部203を固定するためのものであり、絶縁材料により形成される。例えば、永久磁石201a〜201xと部分ヨーク部202とを収めた補強用枠体部203を、永久磁石側部材111aの外形に合わせた型の中に配置する。そして、型の隙間に液状の絶縁材料を流し込み、当該絶縁材料が硬化すると、永久磁石201a〜201x、部分ヨーク部202、及び補強用枠体部203と固着されたモールド部204が形成されるようにする。このようにして一体となった「永久磁石201a〜201x、部分ヨーク部202、補強用枠体部203、モールド部204」を当該型から取り出すことにより、全体として概ね中空円筒状の永久磁石側部材111aが形成される。
【0020】
モールド部204が形成されると、補強用枠体部203の側面がモールド部204で隠れる。ただし、永久磁石201a〜201xの上面と、部分ヨーク部202の下面は露出する。尚、図2では、図示を省略しているが、永久磁石201a〜201x及び部分ヨーク部202の側面部分等にもモールド部204となる絶縁材料が存在している。
【0021】
モールド部204としては、例えば、セラミックフィラーを含浸させたエポキシ樹脂が用いられる。ただし、モールド部204は、エポキシ樹脂に限定されず、永久磁石201a〜201x及び部分ヨーク部202を固定することができれば、どのような材料を用いてモールド部204を形成してもよい。
図1に示すように、永久磁石側部材111aは、回転軸130と同軸となる位置に配置される。このとき、永久磁石側部材111aは、その上面で露出している永久磁石201a〜201xが、固定子鉄心122の下側ティース部(固定子コイル121aが配置されているティース部)の先端面と相互に対向する位置に配置される。同様に、永久磁石側部材111bは、その下面で露出している永久磁石が、固定子鉄心122の上側ティース部(固定子コイル121bが配置されているティース部)の先端面と相互に対向する位置に配置される。
このような構成の永久磁石側部材111a、111bは、それぞれ円盤状部材150の外周下側、外周上側の領域に取り付けられている。よって、永久磁石側部材111a、111bは、回転軸130と共に回転する。
【0022】
ヨーク側部材112aは、永久磁石側部材111aの部分ヨーク部202と共に回転子110aのヨーク(永久磁石201a〜201xに対する継鉄)となるものであり、永久磁石201a〜201xによる磁束の飽和を防ぐものである。ヨーク側部材112aは、その厚み(回転軸130と平行な方向の長さ)が、部分ヨーク部202を上回ること以外は、部分ヨーク部202と同じ構成である。すなわち、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板を、巻方向が回転子110aの周方向となるように巻いたものを、ヨーク側部材112aの大きさ及び形に合わせて切断することにより巻鉄心を形成し、この巻鉄心を、ヨーク側部材112aとしている(図3を参照)。
【0023】
ヨーク側部材112aは、回転軸130と同軸となる位置に配置される。このとき、ヨーク側部材112aは、その厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち永久磁石側部材111aが配置されている側の端面(図1では上面)が、永久磁石側部材111aの部分ヨーク部202の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち固定子120が配置されていない側の端面(図1では下面)と、間隔を有して相互に対向する位置に配置される。同様に、ヨーク側部材112bは、その厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち永久磁石側部材111bが配置されている側の端面(図1では下面)が、永久磁石側部材111bの部分ヨーク部の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち固定子120が配置されていない側の端面(図1では上面)と、間隔を有して相互に対向する位置に配置される。永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの間隔は、可及的に小さいのが好ましい。永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの間の磁気抵抗を低減することができるからである。同様に、永久磁石側部材111bとヨーク側部材112bとの間隔は、可及的に小さいのが好ましい。
【0024】
ヨーク側部材112a、112bは、円盤状部材150には取り付けられていないが、回転軸130と同軸で回転する。ヨーク側部材112a、112bは、回転方向以外の方向(回転軸130と平行な方向及び回転軸130に対して垂直な方向)への動きを抑制するようにヨーク側部材112aを案内する不図示の部材が設けられている。このように本実施形態では、永久磁石側部材111a、111bと、ヨーク側部材112a、112bは、独立して同軸で回転するようになっている。
【0025】
潤滑機構113aは、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとが回転する際に、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの相互に対向する面の摩擦を低減し、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aを潤滑に回転させるためのものである。潤滑機構113aは、永久磁石側部材111aの部分ヨーク部202の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の一端面(図1では下面)と、ヨーク側部材112aの厚み方向の一端面(図1では上面)と、の間に設けられる。同様に、潤滑機構113bは、永久磁石側部材111bの部分ヨーク部の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の一端面(図1では上面)と、ヨーク側部材112bの厚み方向の一端面(図1では下面)と、の間に設けられる。本実施形態では、潤滑機構113a、113bとしてベアリング(転がり軸受)を用いている。潤滑機構113a、113bには、ベアリングを保持し案内する不図示の溝部及び部材が設けられている。このように潤滑機構113a、113bを設けることにより、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112a(永久磁石側部材111bとヨーク側部材112b)の間に発生する磁気吸引力により、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112a(永久磁石側部材111bとヨーク側部材112b)が固着することを防ぎ、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aを潤滑に回転させることができる。
【0026】
以上のようにして回転子110aを構成することにより、ヨーク側部材112aは、永久磁石側部材111aの回転に追従して回転することができる。すなわち、永久磁石側部材111aの回転に伴い、永久磁石側部材111aとの間の電磁誘導の作用により、ヨーク側部材112aには渦電流が発生し、これによりヨーク側部材112aに磁界が発生する。ヨーク側部材112aは、この磁界を打ち消す方向に動くことになるので、永久磁石側部材111aの回転に遅れて永久磁石側部材111aと同じ方向に回転することになる。その後、ヨーク側部材112aは、時間の経過と共に、永久磁石側部材111aの回転数(回転速度)に近づき、定常状態になると、永久磁石側部材111aと略同じ回転数(回転速度)で回転する。回転子110aが停止・減速する場合も、これと同様の現象により、永久磁石側部材111aに遅れてヨーク側部材112aが減速し、時間の経過と共に、永久磁石側部材111aの回転数(回転速度)に近づく。
【0027】
ここで、ヨーク側部材112aに発生する渦電流は、モータ100の損失の原因となる。更に、ヨーク側部材112aに発生する渦電流の大きさが大きくなると、永久磁石側部材111aの動作に対する応答速度が遅くなる(ヨーク側部材112bが永久磁石側部材111aと同じ速度で動作するまでに要する時間が長くなる)。よって、ヨーク側部材112aに発生する渦電流は、小さい方が望ましい。
前述したように、本実施形態では、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板を、巻方向が回転子110aの周方向となるようにして巻くことにより形成された巻鉄心により、ヨーク側部材112aを構成している。したがって、電磁鋼板の板面に形成されている絶縁皮膜が、ヨーク側部材112aに発生する渦電流に対する抵抗となる。よって、ヨーク側部材112aに発生する渦電流を小さくすることができる。このことは、部分ヨーク部202についても同じである。
【0028】
前述したように、ヨーク側部材112aは、回転子110aのヨークとなるものであり、永久磁石201a〜201xによる磁束の飽和を防ぐものである。よって、永久磁石201a〜201xにより発生する磁界の磁路の断面積としてある程度の面積を確保する必要がある。このような観点から、本願発明者らは、回転子110aのヨークは、回転子110aのイナーシャを大きくする要因になるということに着目し、本実施形態では、回転子のヨークの一部を、永久磁石201a〜201xから分離するという着想に至った。
【0029】
具体的に本実施形態では、回転子110aを、回転子110aの永久磁石201a〜201xを備えた永久磁石側部材111aと、回転子110aのヨーク(の一部)を備えたヨーク側部材112aとに分け、永久磁石側部材111aを回転軸130に取り付けると共に、ヨーク側部材112aが永久磁石側部材111aと同軸で回転できるようにする。また、永久磁石201a〜201xとヨーク(ヨーク側部材112a)とが、固定子120が配置されていない側で、潤滑機構113aを介して相互に対向するように、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aを配置する。したがって、永久磁石201a〜201xの回転に遅れて、回転子110aのヨーク(ヨーク側部材112a)を、回転軸130と同軸で回転させることができる。永久磁石側部材111aは、ヨークを一体とした回転子よりも軽いので、回転子110の回転速度を変更させる運転指令に対して、ヨークを一体とした回転子よりも迅速に応答することができる。よって、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子110aの応答が遅れることを可及的に抑制することができるアキシャルギャップ型のモータ100を提供することができる。
【0030】
また、前述したように本実施形態では、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板を、巻方向が回転子110aの周方向となるようにして巻くことにより形成された巻鉄心により、ヨーク側部材112aを構成した。したがって、ヨーク側部材112aに発生する渦電流を小さくすることができ、回転子の回転速度を変更させる運転指令に対して、回転子の応答が遅れることをより一層抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、固定子120が配置されていない側で永久磁石201a〜201xと対向する位置に、回転子110aのヨークの一部となる部分ヨーク部202を配置し、永久磁石側部材111aにも回転子110aのヨークの一部を設けた。したがって、部分ヨーク部202の上に永久磁石201a〜201xを配置すれば、永久磁石201a〜201xの回転軸130と平行な方向における位置決めを行うことができる。よって、永久磁石201a〜201xの回転軸130と平行な方向における位置決めを容易にすることができる。
【0032】
前述したように、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板を、巻方向が回転子110aの周方向となるようにして巻くことにより形成された巻鉄心により、ヨーク側部材112aを構成するのが好ましい。しかしながら、ヨーク側部材112aは、回転子110aのヨークとしての機能を有するものであれば、ヨーク側部材112aの構成は、このようなものに限定されない。
【0033】
また、前述したように、回転子110aのヨークの一部となる部分ヨーク部202を永久磁石側部材111aに設けるようにするのが好ましい。しかしながら、必ずしも永久磁石側部材111aに部分ヨーク部202を設ける必要はない。
【0034】
また、本実施形態では、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aを潤滑に回転させるために、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの相互に対向する面の間に配置される潤滑部材は、潤滑機構113aに限定されるものではない。例えば、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの相互に対向する面の間に、潤滑材を配置するようにしてもよい。潤滑材として、例えば、ガラスクロスに含浸させたテフロン(登録商標)製の極薄シートを使用することができる。尚、潤滑材は、永久磁石側部材111aとヨーク側部材112aとの相互に対向する面の少なくとも何れか一方の面に取り付けられる。
また、本実施形態では、回転電機の一例としてモータを例に挙げて説明したが、モータ(電動機)以外に、例えば発電機にも本実施形態を適用することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、固定子の数が1つであり、回転子の数が2つである場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、固定子の数が2つであり、回転子の数が1つである場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、固定子及び回転子の数が異なることによる構成が主として異なる。よって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図3に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0036】
図4は、回転電機の一例であるモータの概略構成の一例を示す断面図である。図4は、図1に対応する図である。
図4において、モータ400も、第1の実施形態のモータ100と同様に、所謂アキシャルギャップ型のモータである。モータ400は、回転子410と、2つの固定子420a、420bと、回転軸130とを有し、それらがハウジング(フレーム)440内に収められている。
【0037】
回転子410と、固定子420a、420bは、それぞれ回転軸130と同軸となるように配置される。
固定子420a、420bのそれぞれは、固定子コイル421a、421bと、固定子鉄心422a、422bとを有する。
固定子鉄心422a、422bのそれぞれは、複数のティース部と、複数のティース部に対する継鉄となるヨーク部とを有する。複数のティース部は、回転子410が配置されている側に配置され、ヨーク部は、回転子410が配置されていない側に配置される。具体的に、固定子鉄心422aの複数のティース部は相対的に上側に配置され、ヨーク部は相対的に下側に配置される。一方、固定子鉄心422bの複数のティース部は相対的に下側に配置され、ヨーク部は相対的に上側に配置される。
【0038】
固定子鉄心422a、422bの複数のティース部は、それぞれ、周方向において等間隔となるようにヨーク部の上面、下面に配置される。このとき、固定子鉄心422aの複数のティース部と、固定子鉄心422bの複数のティース部は、回転軸130と平行な方向で、回転子410を介して相互に対向する位置に配置される。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、固定子鉄心422a、422bは、電磁鋼板を用いて、一体で形成されるものとする。
【0039】
固定子コイル421a、421bは、それぞれ、固定子鉄心422a、422bのティース部の側面に対して巻回されるように配置される。
尚、固定子420a、420bは、公知の技術で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、固定子420a、420bの構成は、図4に示したものに限定されない。
【0040】
回転子410は、それぞれ円盤状部材450の外周側の領域に取り付けられている。円盤状部材450は、例えば、アルミニウム等の金属等により形成されるものであり、その中心部が回転軸130に取り付けられている(固定されている)。
【0041】
回転子410は、第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bと、ヨーク側部材412と、第1の潤滑機構413aと、第2の潤滑機構413bとを有する。
第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bは、第1の実施形態で説明した永久磁石側部材111aと同じ構成を有する(図2を参照)。ただし、厚み(回転軸130に平行な方向の長さ)等の大きさについては適宜変更される。
【0042】
第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bは、回転軸130と同軸となる位置に配置される。このとき、第1の永久磁石側部材411aは、その下面で露出している複数の永久磁石が、固定子鉄心422aのティース部の先端面(上面)と相互に対向する位置に配置される。一方、第2の永久磁石側部材411bは、その上面で露出している複数の永久磁石が、固定子鉄心422bのティース部の先端面(下面)と相互に対向する位置に配置される。
【0043】
第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bに配置される複数の永久磁石は、周方向に等間隔で配置されており、全体として、回転軸130と同軸の円環状になっている。周方向で相互に隣り合う永久磁石は、相互に異なる極となっている。また、第1の永久磁石側部材411aに配置される永久磁石と、第2の永久磁石側部材411bに配置される永久磁石とのうち、回転軸130と平行な方向でヨーク側部材412を介して相互に対向する位置にある永久磁石も、相互に異なる極となっている。
【0044】
このような構成の第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bは、円盤状部材450の外周側の領域に取り付けられている。よって、第1の永久磁石側部材411aと、第2の永久磁石側部材411bは、回転軸130と共に回転する。
【0045】
ヨーク側部材412は、第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bの部分ヨーク部と共に回転子410のヨーク(永久磁石201a〜201xに対する継鉄)となるものであり、第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bに配置された永久磁石による磁束の飽和を防ぐものである。ヨーク側部材412は、第1の実施形態で説明したヨーク側部材112aと同じ構成を有する(図2を参照)。ただし、厚み(回転軸130に平行な方向の長さ)等の大きさについては適宜変更される。
【0046】
ヨーク側部材412は、回転軸130と同軸となる位置に配置される。このとき、ヨーク側部材412は、その厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち第1の永久磁石側部材411aが配置されている側の端面(図4では下面)が、第1の永久磁石側部材411aの部分ヨーク部の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち固定子420aが配置されていない側の端面(図4では上面)と、間隔を有して相互に対向する位置に配置される。更に、ヨーク側部材412は、その厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち第2の永久磁石側部材411bが配置されている側の端面(図4では上面)が、第2の永久磁石側部材411bの部分ヨーク部の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の端面のうち固定子420bが配置されていない側の端面(図4では下面)と、間隔を有して相互に対向する位置に配置される。第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bとヨーク側部材412との間隔は、可及的に小さいのが好ましい。第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bとヨーク側部材412との間の磁気抵抗を低減することができるからである。
【0047】
第1の実施形態と同様に、ヨーク側部材412は、円盤状部材450には取り付けられていないが、第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bと独立して、それらと同軸で回転することができるようになっている。
潤滑機構413a、413bは、それぞれ、第1の永久磁石側部材411a及びヨーク側部材412、第2の永久磁石側部材411b及びヨーク側部材412、を潤滑に回転させるためのものである。潤滑機構413aは、第1の永久磁石側部材411aの部分ヨーク部202の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の一端面(図1では上面)と、ヨーク側部材412の厚み方向の一端面(図4では下面)と、の間に設けられる。同様に、潤滑機構413bは、第2の永久磁石側部材411bの部分ヨーク部の厚み方向(回転軸130と平行な方向)の一端面(図4では下面)と、ヨーク側部材412の厚み方向の他端面(図4では上面)と、の間に設けられる。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、潤滑機構413a、413bとしてベアリング(転がり軸受)を用いている。
【0048】
以上のようにして回転子410を構成することにより、第1の永久磁石側部材411a及び第2の永久磁石側部材411bの回転に追従してヨーク側部材412が回転することができる。すなわち、固定子の数が2つであり、回転子の数が1つであるアキシャルギャップ型のモータ400であっても、第1の実施形態で説明した効果が得られる。
また、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0049】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
100 モータ
110a、110b 回転子
111a、111b 永久磁石側部材
112a、112b ヨーク側部材
113a、113b 潤滑機構
120 固定子
121 固定子コイル
122 固定子鉄心
130 回転軸
140 ハウジング
150 円盤状部材
201 永久磁石
202 部分ヨーク部
203 補強用枠体部
204 モールド部
400 モータ
410 回転子
411a 第1の永久磁石側部材
411b 第2の永久磁石側部材
412 ヨーク側部材
413a 第1の潤滑機構
413b 第2の潤滑機構
420 固定子
421 固定子コイル
422 固定子鉄心
440 ハウジング
450 円盤状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と同軸で回転する回転子と、前記回転軸と平行な方向において前記回転子とギャップを有して対向する位置に配置される固定子と、を有するアキシャルギャップ型の回転電機であって、
前記回転子は、
前記回転電機の周方向に配置された複数の永久磁石を備え、前記複数の永久磁石の前記回転軸と平行な方向の一端面が、前記固定子と前記ギャップを有して相互に対向する位置に配置された永久磁石側部材であって、前記回転軸と共に回転する永久磁石側部材と、
前記永久磁石側部材の前記回転軸と平行な方向の端面のうち、前記固定子と対向しない方の端面側に配置され、前記複数の永久磁石に対する継鉄となるヨーク側部材であって、前記永久磁石側部材と同軸で回転することが可能なヨーク側部材と、
前記永久磁石側部材と、前記ヨーク側部材との間に配置され、前記永久磁石側部材と、前記ヨーク側部材との間の摩擦を低減させるための潤滑部材と、を有し、
前記ヨーク側部材は、前記永久磁石側部材の回転に伴って、前記永久磁石側部材との間の電磁誘導の作用により前記永久磁石側部材と同軸で前記永久磁石側部材と同じ方向に回転し、時間の経過に伴い、その回転速度が、前記永久磁石側部材の回転速度に近づくように動作することを特徴とするアキシャルギャップ型の回転電機。
【請求項2】
前記ヨーク側部材は、板面に絶縁皮膜が施された電磁鋼板により構成された巻鉄心であって、巻方向が前記回転子の周方向である巻鉄心を備えることを特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップ型の回転電機。
【請求項3】
前記永久磁石側部材は、前記複数の永久磁石の前記回転軸と平行な方向の他端面に配置され、前記ヨーク側部材と共に前記複数の永久磁石に対する継鉄となる部分ヨーク部を更に有し、
前記ヨーク側部材は、前記部分ヨーク部の前記回転軸と平行な方向の端面のうち、前記複数の永久磁石と対向しない方の端面側に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のアキシャルギャップ型の回転電機。
【請求項4】
前記固定子は、
先端面が前記永久磁石と前記ギャップを有して相互に対向する位置に配置された複数のティース部と、前記複数のティース部に対する継鉄となるヨーク部と、を備えた固定子鉄心と、
前記ティース部に対して巻き回されるように配置された固定子コイルと、を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のアキシャルギャップ型の回転電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−90487(P2013−90487A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229976(P2011−229976)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】