説明

アクセス領域を有する胸部大動脈ステント移植片

患者の胸部大動脈弓への配置用ステント移植片(2)は、その中に、患者の上行大動脈に配置するための第1のルーメンを有する第1のチューブ状本体部分と、胸部大動脈弓に沿い、下行大動脈を下がって延在する第2のチューブ状本体部分(8)とを有している。第2のチューブ状本体部分は第1のチューブ状本体部分より小さい直径のものである。第1の本体部分と第2の本体部分の間には、段差部分(10)がある。段差部分は第1の部分と第2の部分で接合され、連続している。第1の本体部分、段差部分、および第2の本体部分のそれぞれの第1の側面は実質的に整列しており、その結果、本体部分の第1の側面と反対側の第2の側面に画定された段差(18)がある。段差部分の開口部(30)と該開口部から第1の本体部分に向かって延在する内部チューブ(32)がある。内部チューブが、その長さの一部に沿って、少なくとも2つのより小さい内部チューブ(34、36)に分割され、該より小さい内部チューブが第1のルーメンに開口している。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈弓疾病の治療のための医療装置、より具体的には、その目的のために患者の胸部大動脈に展開するステント移植片に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血管内植え込み型装置が大動脈瘤の治療のために開発されてきた。これらの装置は、観血的手術によるのではなく患者の脈管系を通して治療部位に送達される。該装置はチューブ状または筒状の、骨組みあるいはスカフォードの1つ以上のステントを含み、編まれたダクロン、ポリエステルポリテトラフルオロエチレンまたは同様のものなどのチューブ形状の移植片材料が該ステントに固定されている。該装置は、初めに小さい直径に縮小され、カテーテル送達システムの先端か近位端の中に配置され、その後、送達システムは大腿切開部を通すなど患者の脈管系に挿入される。送達システムの先端は予め配備されたガイドワイヤ上を治療部位まで操作される。植え込み型装置は、患者外部のシステムの遠位端からカテーテルの近位端まで延在する制御システムの操作を介して、その部位で該装置を保持し、周囲のシースを回収することによって配備される。次に、植え込み型装置かステント移植片は、自己拡張するか、またはステント移植片導入装置で導入されるバルーンの使用により拡張することができる。ステント移植片は大動脈の健康な壁組織の所定の位置に、例えば、棘で固定されるようになる。次に、送達システムは、血流が動脈瘤に入らないようにステント移植片を通して全血流を流す方法で、大動脈の動脈瘤を破棄するために所定の位置に可膨張式装置を残して取り外される。結果として、動脈瘤はもはや成長し続けて場合によっては破裂することがないだけでなく、動脈瘤が実際に縮まり始めて通例完全に見えなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第12/161,860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に胸部大動脈瘤の治療のために、大動脈と大動脈の湾曲した強い血流があり得る領域の上部に、植え込み型装置を導入することが必要である。
【0005】
胸部大動脈には、主要分枝血管である、腕頭動脈、左頸動脈、および左鎖骨下動脈がある。胸部大動脈弓領域の動脈瘤の治療のために、これらの動脈に輸血をし続けなければならない。そのために、その領域でステント移植片の壁に窓が設けられる。左か右の上腕動脈を通して、あるいは、一般的ではないが左か右の頸動脈を通してステント移植片に側枝を配備するために、一般にこれらの窓にアクセスできる。そのような動脈を通して胸部大動脈弓に入ると、ステント移植片の窓にカテーテルを入れなければならない。これを簡素化するために、分岐血管が胸部大動脈弓に入る領域である胸部大動脈弓の外側に何らかの作業空間を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の目的は、上記の問題を克服するためのステント移植片の構成を提供するか、または少なくとも役に立つ別の手段を医師に提供することである。
【0007】
本明細書中では、大動脈の部分、配備装置またはステント移植片などの人工器官に対する遠位という用語は、心臓からの血流の方向へさらに離れる側の、大動脈、配備装置またはステント移植片などの人工器官の端部を意味することを意図しており、近位という用語は、心臓により近い側の大動脈の部分、配備装置または人工器官の端部を意味することを意図している。人間又は動物の体内の他の管腔に対して、尾側と頭側という用語がそれぞれ理解されるべきである。
【0008】
本明細書の全体を通して、「ステント移植片」という用語は、生体適合性移植片材料のチューブ状本体と、ステント移植片を貫通するルーメンを画定するためにチューブ状本体に固定された少なくとも1つのステントとを有する装置を意味することを意図している。ステント移植片は、分岐していてもよく、窓、側枝または同様のものを有していてもよい。ステント移植片の他の構成もまた本発明の範囲内のものである。
【0009】
本発明の第1の態様によると、患者の胸部大動脈弓に配置するためのステント移植片であって、前記ステント移植片はルーメンを有する第1のチューブ状本体部分と、該第1のチューブ状本体部分より小さい直径を有する第2のチューブ状本体部分と、を備え、前記第2のチューブ状本体部分は側枝ステント移植片を収容するための少なくとも1つの開口部を有し、該少なくとも1つの開口部は、前記ステント移植片が配備中に湾曲したときに該湾曲の外側にまたは外側に隣接して位置する、ステント移植片が提供される。
【0010】
本発明によって、患者の胸部大動脈弓に配置するためのステント移植片が提供されることが理解できるであろう。使用時、第1の本体部分は患者の上行大動脈に配置され、第2の本体部分は胸部大動脈弓の近くで下行大動脈を下がって延在する。ステント移植片は、直径が減少し始める移植片の部分が、腕頭動脈のすぐ近位側にあり、且つ胸部大動脈弓の湾曲部の外側にあるように、配置することができる。第1と第2の部分の直径が異なることにより、この配置によって、ステント移植片の外側の開口領域が画定される。この開口領域は第2の部分の開口部の遠位側であり、その結果、血流が開口部を通ってその開口領域まで生じて、手術の進行中に主要血管に対して内部の分岐を通って血液循環が維持されることを可能にしている。ステント移植片のより遠位の第2の部分がより小さい直径のものであるので、作業空間が設けられ、その中で分枝動脈からのガイドワイヤが開口部に入るように向けられることにより、カテーテル法を可能にすることができる。次に、その分岐動脈に血流をもたらすために、それぞれの分岐動脈からステント移植片に側枝ステント移植片を配備できる。
【0011】
一実施例では、縮小した直径の領域に単一の開口部を有するステント移植片は、1つの大動脈用脚伸長部を外科的バイパス手術で他の動脈に入れることもできる。開口部(または窓)は、縮径領域または空洞の主要な表面にあってもよい。
【0012】
ステント移植片はさらに開口部から第1の本体部分に向かって延在する内部チューブを備えることができる。
【0013】
該内部チューブはその長さの少なくとも一部に沿って、第1の本体部分のルーメンに開口する少なくとも2つのより小さい内部チューブに分割することができる。
【0014】
該2つの分離したチューブが2つの大血管のための脚伸長を可能にする。
【0015】
該内部チューブはその長さの一部に沿って、第1の本体部分のルーメンに開口する3つのより小さい内部チューブに分割することができる。
【0016】
手術の間、この構成は、分枝動脈の1つからのガイドワイヤを内部チューブに向け、次により小さい内部チューブの1つに入るように向けることにより、カテーテル法ができるようになる作業空間を可能にする。
【0017】
本発明の更なる態様では、患者の胸部大動脈弓への配置用ステント移植片であって、患者の上行大動脈に配置するための第1のルーメンを有する第1のチューブ状本体部分と、胸部大動脈弓に沿い、下行大動脈を下がって延在し、第1のチューブ状本体部分より小さい直径である、第2のチューブ状本体部分とを有するステント移植片と、第1の本体部分と第2の本体部分の間の、第1の部分と第2の部分で接合されて連続している段差部分と、第1の本体部分の第1の側と、段差部分の第1の側と、第2の本体部分の第1の側とが実質的に一直線上になっており、それにより段差が本体部分の第1の側の反対側の第2の側に画定され、内部チューブが段差部分の開口部から第1の本体部分に向かって延在しており、該内部チューブは、その長さの一部に沿って、少なくとも2つのより小さい内部チューブに分割され、該少なくとも2つのより小さい内部チューブは第1のルーメンに開口している、ステント移植片が提供される。
【0018】
第1のチューブ状本体部分と第2のチューブ状本体部分の少なくとも1つがそれに沿ってステントを備えている。好ましくは、チューブ状本体部分のそれぞれは、それに沿ってステントを備えている。該ステントは自己拡張式ステント、例えばジグザグ形の自己拡張式ステントを構成していることが望ましい。複数の自己拡張式ステントは、ステント移植片の柔軟性を許容するために、隣接しているステントの略軸線長さ分だけ長手方向に隔置することができる。ステント間の移植片材料は、ステント移植片の柔軟性を許容するために、波形を付けることができる。
【0019】
該ステント移植片は内側湾曲面と外側湾曲面によって長手方向に画定されている予め湾曲した形状に形成されており、第2の側面が外側湾曲面にあるようにすることができる。この場合、段差部分の開口部は湾曲部の外側にある。
【0020】
好ましい実施形態では、段差部分か縮径領域の開口部を湾曲部の外側の一方の側に置くことができる。この場合、開口部は、湾曲部の外側から隣接しているか、または中心からずれて位置している。
【0021】
典型的には、第1のチューブ状本体部分は35から50mmの直径を有することができる。第2のチューブ状本体部分は20から30mmの直径を有することができる。段差部分は10から30mmの幅を有することができる。内部チューブは、断面図では実質的に円形か楕円形であり得る。内部チューブは、15から20mmの直径を有することができる。2つのより小さい内部チューブがある場合では、該2つのより小さい内部チューブは、一例では、それぞれ10mmと12mmの直径を有することができる。
【0022】
2つのより小さい内部チューブがあることが望ましい。3つのより小さい内部チューブ、すなわち、胸部大動脈弓の各大血管のためのものがあってもよい。
【0023】
更なる実施形態では、より小さい内部チューブはそれぞれ6から10mmの範囲の直径を有している。別の実施形態では、2つのより小さい内部チューブの一方は6から8mmの範囲の直径を有しており、2つのより小さい内部チューブのもう一方が8から12mmの範囲の直径を有している。そのような状況では、該2つのより小さい内部チューブの打の大きい方が第1の部分の壁に隣接していることが望ましい。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、開口部が腕頭動脈を有する大動脈の結合部のすぐ近位側に配置されるように、請求項1から28の何れかに記載のステント移植片を胸部大動脈弓に配備するステップを含む大動脈瘤の治療方法が提供される。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、段差部分が腕頭動脈を有する大動脈の結合部のすぐ近位側にあるように、請求項2から28の何れかに記載のステント移植片を胸部大動脈弓に配備するステップを含む、大動脈瘤の治療方法が提供される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態を、これより添付図面を参照して説明していく。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるステント移植片の第1の実施形態の側面図を示す。
【図2】図1に示す実施形態の長手方向断面図を示す。
【図3A】図1に示す実施形態の近位端からの図を示す。
【図3B】本発明の別の実施形態の近位端からの図を示す。
【図4A】図3Aに示す実施形態の遠位端からの図を示す。
【図4B】本発明の別の実施形態の遠位端からの図を示す。
【図5】本発明によるステント移植片の別の実施形態を示す。
【図6】図5に示す実施形態の長手方向断面図を示す。
【図7】図1に示す実施形態の近位端からの図を示す。
【図8】本発明によるステント移植片の患者の胸部大動脈弓への配置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に図面、特に図1から4に示した実施形態をより詳しく見ていくと、ステント移植片2が、概ねダクロンなどの生体適合性の移植片材料のチューブ状本体4を備えていることが理解されるであろう。該チューブ状本体は3つの主要部分、すなわち、第1の部分6、第2の部分8、および第1の部分と第2の部分の間の段差部分10を備えるものとして見なすことができる。第1の部分6は患者の上行大動脈の壁に適合し係合する直径である。第1の部分は35から50mmの直径を有することができる。第2の部分8は第1の部分より小さい5から15mmの直径である。第1の部分の長さは20から60mmであってもよく、第2の部分の長さは80から150mmであってもよく、段差部分は10から30mmの長さであってもよい。段差部分10は第1と第2の部分のそれぞれの内側14と16とに整列した実質的にまっすぐな内側12を備えている。段差部分10は第1の部分の外側20から第2の部分の外側22まで延在する傾斜または先細りした外側18を備えている。
【0029】
複数のジグザグ形ステント24はチューブ状本体のための支持体をその長さに沿って形成している。上行大動脈の壁に対して係合する滑らかな外側シール面を設けるために、ステント移植片の近位端26の内側に、ジグザグ形ステント24aがある。特に、第2の部分8において、ステント移植片の柔軟性で胸部大動脈弓と下行大動脈の形に合わせることができるように、ステントが隔置されている。この領域において、ステントは隣接しているステントの概ね軸線長さ分だけ隔置される。本実施形態では、ステント間の空間の移植材料は、ステント間の良好な柔軟性を与えるために波形構造28に形成され、更に構造的剛性をも与えている。ステント間の空間の移植材料は、螺旋状の補強ワイヤで補強することができる。移植材料のための螺旋状の補強は、「柔軟性のあるステント移植片(Flexible Stent Graft)」と題する米国特許出願第12/161,860号に示されており、その教示の全体を本明細書に援用する。
【0030】
段差部分10において、開口部30は、内部チューブ32が開口部からステント移植片の近位端26に向かって延在する状態で形成されている。陥凹部内の開口部からの短い距離で、内部チューブは、内部チューブ32からステント移植片の近位端26に向かってさらに延在する2つのより小さいチューブ34と36に分割される。
【0031】
ステント移植片が患者の胸部大動脈弓に配置されるとき、段差部分は、使用中に腕頭動脈のすぐ近位側で胸部大動脈弓の湾曲部の外側に位置する。第1の部分6は上行大動脈の近位方向に延在しており、第2の部分8は下行大動脈の遠位方向に延在している。ステント移植片と段差部分10の開口部の遠位側の胸部大動脈弓の外側との間で画定された拡張領域が、第1と第2の部分の直径の違いによって画定され、その結果、手術の進行中に、主要血管に対して内部の分岐を通って血液循環が維持される。ステント移植片のより遠位の第2の部分がより小さい直径のものであるので、その拡張領域は作業空間を提供し、その中で主要分枝動脈からのガイドワイヤを操作して、開口部30と内部チューブ32と次により小さい内部チューブ34と36のうちの一方に入るように向けることにより、カテーテル法を可能とすることができる。次に、その分岐動脈に血流をもたらすために、それぞれの分岐動脈からより小さいチューブの1つに側枝ステント移植片を配備できる。
【0032】
ステント移植片の近位端26から見た図3Aで分かるように、より小さいチューブ34と36がそれらの近位端を対向するD字形に形成させ、各D字の真直ぐな部分を互いに接合38して、使用時にステント移植片にデッドゾーンがないようにしている。また、より小さいチューブ34と36は第1の部分の側壁の40で接合されている。図4Aは遠位端から見たステント移植片を示している。特に、内部チューブ32が2つのより小さいチューブ34と36まで縮小するのを理解することができる。
【0033】
また、より小さいチューブ34と36のそれぞれは、それらの長さに沿ってジグザグ形ステント42で支持されて、それらの近位端で補強リング44によって補強されている。
【0034】
図3Bと4Bは本発明の別の実施形態の近位端と遠位端のそれぞれから見た図を示す。この実施形態には、内部チューブ32から延在し、ステント移植片の近位端に向けられた3つのより小さい内部チューブ34、35、36がある。腕頭のそれぞれの左頸動脈と左鎖骨下動脈は、それぞれの分岐移植片を介してより小さいチューブの1つに接続できる。
【0035】
図5から図7はステント移植片の本発明による別の実施形態を示している。本実施形態では、ステント移植片50の本実施形態のチューブ状本体52が、第1の部分54、段差部分56、および第2の部分58を備えている。
【0036】
第1の部分54は生体適合性移植片材料のチューブ状本体を備え、ジグザグ形ステント60を自己展開することによって支持されている。近位端においてステント60aは上行大動脈の壁に対して係合するために滑らかなシール面を設けるように内側にあり、ステント60bは外側にある。第1の部分は35から50mmの直径を有することができる。
【0037】
さらに、第2の部分58が生体適合性移植片材料のチューブ状本体から形成され、ジグザグ形ステント68を自己展開することによって支持されている。第2の部分のチューブ状本体は、ステント68間の内側の湾曲部70よりも外側の湾曲部69のより大きい間隔によって部分的に曲がった形状に形成される。第2の部分58は30から40mmの範囲の直径を有することができる。
【0038】
さらに、段差部分56は、生体適合性移植片材料の切頭円錐形チューブ状本体から形成され、ジグザグ形ステント64と66を自己展開することによって支持されている。段差部分は、その近位端67に第1の部分の直径と実質的に同じ直径と、その遠位端に第2の部分の直径と実質的に同じ直径を有している。段差部分は、第1の部分の直径と第2の部分の直径の間の縮径分の全てをステント移植片の湾曲の外側72に有している。
【0039】
図5で具体的に理解できるように、段差部分56は、該段差部分内の陥凹部76に開口する窓74の開口部を有して、該陥凹部が第1の部分54に向かって近位方向に延在している。開口部はステント移植片の外側湾曲部からずれているので、該ステント移植片が胸部大動脈弓内に配置されるとき、該開口部は該胸部大動脈弓の腹側にわずかに開口する。大血管である、腕頭動脈、左頸動脈、および左鎖骨下動脈は、胸部大動脈弓から分岐して、胸部大動脈弓に対してわずかに腹側である。
【0040】
段差部分56内の陥凹部76は、その近位端で2つのチューブ78と80の中に開口している。それぞれのチューブは同じ直径のものであってもよく、上側のチューブ78が下側のチューブ80の直径より大きい直径を有していてもよい。チューブ78と80はステント移植片50の近位端61に向かって延在している。
【0041】
より小さい内部チューブ78と80のそれぞれは螺旋形状記憶ワイヤ補強材83で補強することができる。移植材料のための螺旋状の補強は、「柔軟性のあるステント移植片(Flexible Stent Graft)」と題する米国特許出願第12/161,860号に示されており、その教示の全体を本明細書に援用する。
【0042】
図8は本発明の一実施形態によるステント移植片の患者の胸部大動脈弓への配置の概略図を示す。
【0043】
概略的に示した胸部大動脈弓は、胸部大動脈弓92にまで及ぶ上行大動脈90と胸部大動脈弓からの下行大動脈94を有している。実質的に、主要血管が、胸部大動脈弓の上端で、胸部大動脈弓から、わずかに胸部大動脈弓の腹側に分岐している。該主要血管は、腕頭動脈96、総頸動脈か左頸動脈98、および左鎖骨下動脈100である。予備手術では、接合部102が総頸動脈98と左鎖骨下動脈100の間に設けられる。接合部は総頸動脈98と左鎖骨下動脈100の間でアクセスを提供し、それは、より複雑であり得る左頸動脈を通す血管内アクセスではなく、左腕の上腕動脈を通すステント移植片への血管内アクセスを可能にする。
【0044】
ステント移植片106は、段差部分108が、腕頭動脈96がある大動脈の合流点にちょうど隣接するように胸部大動脈弓に配備される。これは、ステント移植片の配備操作とその後の側枝移植片の配置操作中に、内部チューブ78と80と陥凹部76(図6と図7参照)を通して主要血管に血液循環を維持できるように、段差部分と、胸部大動脈弓の上部壁とステント移植片109の第2の部分との間で拡張領域111が画定されることを意味している。また、該空間は内部チューブのカテーテル法ができるように支援する。破線110によって示されるように、カテーテルは、腕頭動脈96のための側枝ステント移植片114の配置を可能にするために、大きい方のチューブ78に入るように挿入することができ、また、破線112によって示されるように、カテーテルは、総頸動脈98と左鎖骨下動脈100のための側枝ステント移植片116の配置を可能にするために、小さい方のチューブ80に入るように挿入することができる。
【0045】
空間111が主要血管への血液循環の維持を可能にするので、急がずに手術を行える状況とすることができる。
【0046】
好ましい実施形態では、大きい方の内部チューブ78は12mmの直径を有し、小さい方のチューブは10mmの直径を有している。
【0047】
以上の記述と関連図面の教示の助けを借りて、当業者は本発明の多くの変更と他の実施形態を思いつくであろう。したがって、本発明が開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、その変更と実施形態が附随の特許請求の範囲に包含されることを意図していることが理解される。
【符号の説明】
【0048】
2、50、106、109、114、116 ステント移植片
4、52 チューブ状本体
6、54 第1の部分
8、58 第2の部分
10、56、108 段差部分
12、14、16 内側
18、20、22 外側
24、42、60、64、66、68 ジグザグ形ステント
26、61、67 近位端
28 波形構造
30 開口部
32 内部チューブ
34、35、36 より小さい内部チューブ
34、36 小さい内部チューブ
38 互いに接合
44 補強リング
68、60a ステント
69、70 湾曲部
72 外側
74 窓
76 陥凹部
78、80 チューブ
83 螺旋形状メモリワイヤ補強
90 上行大動脈
92 胸部大動脈弓
94 下行大動脈
96 腕頭動脈
98 頸動脈
100 左鎖骨下動脈
102 接合部
110、112 破線
111 拡張領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸部大動脈弓に配置するためのステント移植片であって、前記ステント移植片はルーメンを有する第1のチューブ状本体部分と、該第1のチューブ状本体部分より小さい直径を有する第2のチューブ状本体部分と、を備え、前記第2のチューブ状本体部分は側枝ステント移植片を収容するための少なくとも1つの開口部を有し、該少なくとも1つの開口部は、前記ステント移植片が配備中に湾曲したときに該湾曲の外側にまたは外側に隣接して位置する、ステント移植片。
【請求項2】
前記第2のチューブ状本体部分は前記第1の本体部分に隣接する段差部分を含んでおり、前記段差部分の直径は、前記第1のチューブ状本体部分から離れて前記第2のチューブ状本体部分に向かうに従って減少しており、前記少なくとも1つの開口部が前記段差部分に位置している、請求項1に記載のステント移植片。
【請求項3】
側枝ステント移植片を収容するための前記開口部から延在する少なくとも1つのチューブを備える、請求項1または2に記載のステント移植片。
【請求項4】
前記開口部が陥凹部に開口しており、前記陥凹部が前記第1のチューブ状本体部分に向かって近位方向に延在している、請求項1に記載のステント移植片。
【請求項5】
前記陥凹部が、該陥凹部の近位端において前記ステント移植片の近位端に向かって延在する少なくとも2つのチューブの中に開口している、請求項4に記載のステント移植片。
【請求項6】
前記第1の本体部分の第1の側と、前記段差部分の第1の側と、前記第2の本体部分の第1の側とが実質的に一直線状になっており、段差が、前記本体部分の前記第1の側の反対側の第2の側に、前記段差部分の少なくとも1つの開口部とともに画定されている、請求項1乃至5の何れかに記載のステント移植片。
【請求項7】
前記開口部から前記第1のチューブ状本体部分に向かって延在する内部チューブを備えている、請求項1乃至6の何れかに記載のステント移植片。
【請求項8】
前記内部チューブが、該内部チューブの長さの一部に沿って少なくとも2つのより小さい内部チューブに分割されており、前記少なくとも2つのより小さい内部チューブが前記第1の本体部分のルーメンに開口している、請求項1乃至7の何れかに記載のステント移植片。
【請求項9】
前記第1のチューブ状本体部分と前記第2のチューブ状本体部分のそれぞれが、それらに沿ったステントを備えている、請求項1乃至8の何れかに記載のステント移植片。
【請求項10】
前記ステントがジグザグ形の自己拡張式ステントを備えている、請求項9に記載のステント移植片。
【請求項11】
前記ステントが、前記第2のチューブ状本体部分上で前記ステント移植片の柔軟性を許容するために長手方向に隔置されている、請求項9または10に記載のステント移植片。
【請求項12】
前記隔置されたステントが、隣接しているステントの略軸線長さ分だけ隔置されている、請求項11に記載のステント移植片。
【請求項13】
前記隔置されたステントの間の移植片材料が前記ステント移植片の柔軟性を許容にするため波形形状を有している、請求項11または12に記載のステント移植片。
【請求項14】
前記第1のチューブ状本体部分が35から50mmの直径を有している、請求項1乃至13の何れかに記載のステント移植片。
【請求項15】
前記第2のチューブ状本体部分が20から30mmの直径を有している、請求項1乃至14の何れかに記載のステント移植片。
【請求項16】
前記段差部分が10から30mmの幅を有している、請求項2乃至15の何れかに記載のステント移植片。
【請求項17】
前記内部チューブが15から20mmの直径を有している、請求項7に記載のステント移植片。
【請求項18】
前記2つのより小さい内部チューブのそれぞれが6から12mmの範囲内の直径を有している、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項19】
前記2つのより小さい内部チューブのそれぞれがステント補強材を備えている、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項20】
前記2つのより小さい内部チューブがそれぞれ10mmと12mmの直径を有している、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項21】
前記2つのより小さい内部チューブの一方が6から10mmの範囲内の直径を有しており、前記2つのより小さい内部チューブの他方が8から12mmの範囲内の直径を有している、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項22】
前記2つのより小さい内部チューブのうちの大きい方が前記第1の部分の壁に隣接している、請求項21に記載のステント移植片。
【請求項23】
前記ステント移植片が内側湾曲面と外側湾曲面によって長手方向に画定されている予め湾曲した形状に形成されており、前記第2の側が外側湾曲面にあり、前記開口部が前記湾曲部の外側にある、請求項1乃至22の何れかに記載のステント移植片。
【請求項24】
前記ステント移植片が内側湾曲面と外側湾曲面によって長手方向に画定されている予め湾曲した形状に形成されており、前記第2の側が外側湾曲面にあり、前記開口部が前記湾曲部の外側の一方の面に配置されている、請求項1乃至22の何れかに記載のステント移植片。
【請求項25】
前記2つのより小さいチューブの近位端が互いに結合されている、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項26】
前記2つのより小さいチューブの少なくとも一部分が前記第1の部分の前記壁に結合されている、請求項8に記載のステント移植片。
【請求項27】
前記内部チューブが、前記ステント移植片の前記近位端に向かって延在する3つのより小さい内部チューブに分割されている、請求項7に記載のステント移植片。
【請求項28】
前記段差部分が前記段差部分内の陥凹部に開口する開口部を有し、前記陥凹部が前記第1の部分に向かって近位方向に延在しており、前記開口部が前記ステント移植片の外側湾曲部の中心からずれて位置している、請求項2乃至22の何れかに記載のステント移植片。
【請求項29】
請求項1乃至28の何れかに記載のステント移植片を、前記開口部が腕頭動脈を有する大動脈の結合部のすぐ近位側に配置されるように前記胸部大動脈弓に配備するステップを含む、大動脈瘤の治療方法。
【請求項30】
請求項2乃至28の何れかに記載のステント移植片を、前記段差部分が腕頭動脈を有する大動脈の結合部のすぐ近位側にあるように前記胸部大動脈弓に配備するステップを含む、大動脈瘤の治療方法。
【請求項31】
前記ステント移植片が前記開口部から前記第1の本体部分に向かって延在する内部チューブを備え、前記内部チューブが該内部チューブの長さの一部に沿って前記第1の本体部分の前記ルーメンに開口する少なくとも2つのより小さい内部チューブに分割されており、前記方法が、腕頭動脈のための側枝ステント移植片の配置を可能にするために、前記より小さい内部チューブの1つにカテーテルを挿入するステップを含む、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
総頸動脈と左鎖骨下動脈のための側枝ステント移植片の配置を可能にするために、カテーテルを第2のより小さい内部チューブの中に挿入するステップを含む、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−501208(P2012−501208A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524987(P2011−524987)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/004827
【国際公開番号】WO2010/024879
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(505055642)ウイリアム エー クック オーストラリア ピィティワイ リミテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM A.COOK AUSTRALIA PTY.LTD.
【出願人】(504291867)ザ クリーヴランド クリニック ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】THE CLEVELAND CLINIC FOUNDATION
【出願人】(502274060)ウィリアム クック ユーロープ アーペーエス (18)
【Fターム(参考)】