説明

アクチュエータ素子とその使用

本発明は、最も多様な使用状況で電子機械的用途に使用できるアクチュエータ素子とその使用に関する。本発明の目的は、特性を向上させ、安価に製造できるアクチュエータ素子を提供することである。本発明によるアクチュエータ素子は、少なくとも1つの誘電分離層を2つの導電性電極が包囲するように形成したものである。電極と分離層は、同一の粘弾性により変形可能なプラスチックを用いて形成する。プラスチックは少なくとも電極においてカーボンナノチューブを埋め込んだ母材を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最も多様な使用状況で電子機械的用途に使用できるアクチュエータ素子とその使用に関する。この使用に関して、本発明によるアクチュエータ素子を用いる際には、例えば動作を開始させる、又は力を印加するために、その形状及びサイズを変更することができる。本発明によるアクチュエータ素子は、特に圧電素子に類似した形で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
しかし、圧電素子はその機械的特性と伸縮性に限りがあることから、使用頻度が少なかったり、使用が不十分であったりする。また、製造コストも高すぎる。
【0003】
したがって、従来では誘電エラストマー樹脂を用いたアクチュエータを提供する試みがなされてきた。しかし、伸びが大きいために、必要な電極の電気接点と電気接続を全ての使用状況において予め設定しなければならないという問題がある。
【0004】
必要な接触電圧は100kV程度であり、多くの場合、制御又は使用することができない。
【0005】
誘電部分及び電極に対する材料の特性は多くの点でかなり異なり、この点は使用状況又は環境が変わると特に好ましくない影響を及ぼす。
【0006】
しかし、通常は、比較的柔軟なエラストマーとは全く異なる機械的特性を有する金属電極を使用する。従って電極が不具合を生じると、通常はかかるアクチュエータの動作も不具合を生じる。
【0007】
エラストマーは伸縮性が高いため、電極も同様の伸縮挙動を示すはずである。従って、シリコンオイルをポリマの表面に塗布した導電性の片状黒鉛を用いて電極を製造する。ただし、この際には実際に乾燥した「アクチュエータ」を部分的に液体コーティングする。これは、電極とポリマ層を交互に積層した構造の場合、非常に好ましくない。このように形成した電極は非常に滑りやすいため、機械的な弱点を呈する。さらに、光透過性が相当損なわれる。
【0008】
例えば有機発光ダイオード(OLED)で使用できる光透過性電極を形成する場合には、カーボンナノチューブ(CNT)を分散した状態で適用して乾燥させ、それらを有機発光層において層状に形成して導電性とすることが知られている。CNTは有機母材に比較的高い割合で含まれるが、CNTのそれぞれの割合と電極の厚さに関しては、導電性と光透過性との間で妥協を図ることが必要である。
【0009】
このように製造した電極も、かかるOLEDの他の要素とは大いに異なる特性を有する。
【0010】
非特許文献1から、導電性であると共に伸長可能なプラスチックから導電性の柔軟な素子を製造することが知られている。イオンの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビスイミドを添加した液体のビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレンにCNTを添加し、得られた混合物をガラス担体に塗布する。得られた複合材料は、伸長可能なシリコンゴムに接続することができる。CNTが20重量パーセントという高い割合であることにより、導電率を増すことができる。しかし、CNTとシリコンゴムを有する導電性部品は相互に異なる特性を有すると共に、異なる機械的特性を有する異なる材料から材料複合体を形成することで、かかるアクチュエータ素子は耐用年数が短かったり、特性が低下したりする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T.セキタニら“A Rubberlike Stretchable Active Matrix Using Elastic Conductors(伸縮性導体を用いたゴムのように伸縮性のあるアクティブマトリックス)”(Science Express Online,2008年8月7日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は特性を向上させ、安価に製造できるアクチュエータ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、かかる目的は請求項1の特徴を有するアクチュエータ素子によって達成される。請求項16にかかる素子の使用を示す。有利な実施形態及び更なる展開は、従属請求項に示す特徴を用いることで達成できる。
【0014】
本発明によるアクチュエータ素子は、少なくとも1つの誘電分離層を2つの導電性電極が包囲するように形成したものである。ここで、電極と分離層は同一のエントロピー弾性(ゴム弾性)により変形可能なプラスチックで形成する。かかる適切なプラスチックは、エラストマー又は熱可塑性エラストマーとも称する。プラスチックは、少なくとも電極においてカーボンナノチューブを埋め込む母材を形成する。カーボンナノチューブの割合は0.001から30重量パーセントの範囲、好ましくは最大で1重量パーセントに保持すべきである。
【0015】
長さ対外径の比率が大きいことと単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を使用することは、有利な効果を有する。長さ対外径の比率は少なくとも8:1、好ましくは100:1と選択すべきである。最大外径は100nmを超えてはならない。
【0016】
誘電分離層は100nmから5mmの範囲の層厚を有し、電極は100nmから5mmの範囲の層厚を有するべきである。
【0017】
使用する温度で限界点に到達するまでに少なくとも5%伸長できる、弾性的に変形可能なプラスチックを使用できる。この点に関して、エントロピー弾性により変形可能なプラスチックのガラス転移温度は使用温度未満であるものと理解すべできあるが、使用温度は原則として室温とし、ガラス転移温度は0℃未満とすべきである。
【0018】
本発明によるアクチュエータ素子では、電極と分離層を実質的に同一材料から形成し、電極と分離層を互いに離間する境界又は障壁層が存在しないため、それらは相互に直接結合することとなり、特に有利である。少なくとも電極に含まれるカーボンナノチューブによる材料の特性の変化は、仮に変化させるとしてもかなりわずかである。導電率のみが桁違いに増大する。
【0019】
電極内より小さい割合で誘電分離層にカーボンナノチューブを埋め込むこともでき、これにより特性をさらに一致させることができる。この点に関して、浸透閾値を超えないようにするべきである。
【0020】
埋め込むカーボンナノチューブの所要比率が小さいために、プラスチックを適切に選択すれば可視光線の波長スペクトルの少なくとも一部の範囲において光透過性、あるいは半透過性を達成することができる。ここで、透過性は少なくとも50%とするべきである。光透過性アクチュエータ素子は、屈折率及び/又は焦点距離を変更できる光学素子として使用することができる。
【0021】
2つ以上の電極と誘電分離層が存在する積層体としてアクチュエータ素子を形成することは特に有利である。かかる積層体は、少なくとも1つの端面で開口したハウジング要素、例えば中空シリンダで使用することができる。唯一の軸方向における変形を利用することができる。電極を電気的に接続させる電気コネクタを、ハウジング要素の内壁に設けることができる。ハウジング要素内へとアクチュエータ素子を挿入するが、この際エラストマープラスチックに力を働かせてアクチュエータ素子を圧縮及び付勢する。
【0022】
一方、相互接続した電極と誘電分離層をらせん状に巻いてアクチュエータ素子を形成することもできる。このように形成したアクチュエータ素子はシリンダ形状を有する。それはシリンダ軸の方向に圧縮力を及ぼすことができる。
【0023】
機能化表面を有するカーボンナノチューブを使用することがさらに好適である。この点に関して、導電率を増大させるドーピングのタイプを選択することができる。この目的のために適切な金属素子と金属イオンを使用することができる。しかし、それぞれのプラスチックと共に湿潤性に関して改良された表面特性を達成するように、カーボンナノチューブを化学的に機能化できることで、重合又は湿潤前にプラスチック母材へ埋め込むことが容易化される。
【0024】
適切なプラスチックの例としては、ポリウレタン、ポリアクリレート、又はシリコン(例えば、シリコンゴム又はシリコン樹脂)がある。
【0025】
それぞれの用途に対して望ましい特性に非常に適したポリマ混合物、即ち、いわゆるポリブレンドを使用することができる。また、緩和可能な粘弾性変形を達成できるプラスチックを使用してもよい。
【0026】
しかし、基本的な動的原理を使用すれば、アクチュエータ素子をセンサ素子として、又はアクチュエータとセンサを適切に組み合わせたものとして使用して、力や圧力を検知すること、及び/又はかかる効果を発揮することができる。
【0027】
また本発明によるアクチュエータ素子を使用して、振動の減衰や励起を行うことも可能である。これに関して、ノイズ減衰も行うことができ、構造に起因するノイズも減衰可能である。音響の分野に使用することも可能である。
【0028】
変更可能な触覚的な使用に加え、例えば人工筋肉として医療工学(生体工学)の分野でも、アクチュエータ素子を使用することができる。
【0029】
カーボンナノチューブを選択する際に長さ対外径比に関して選択を行うことで、電気的特性に影響を及ぼすことができる。このことは、誘電分離層の比誘電率が最大となる周波数にも関連する。他方では、比誘電率を最大に保つことのできる周波数間隔の幅にも影響を及ぼすことができる。この点に関して、より厚く短いものよりも厚くて長いカーボンナノチューブの方が、より小さい周波数を達成することができる。埋め込んだカーボンナノチューブの外径の分布幅は、比誘電率を最大にできる周波数間隔の幅に影響を及ぼす。外径分布をより狭くすれば、外径分布をより広くした場合よりも周波数間隔がより小さくなる。
【0030】
本発明によるアクチュエータ素子は、例えば適切な粘性を有するそれぞれのプラスチック内にカーボンナノチューブを分散させるように、製造することができる。この点に関して、プラスチックに適した溶剤を使用できる。誘電分離層用のフィルムの製造は、含有するカーボンナノチューブの割合を任意に少なくしたプラスチックを用いて行うことができ、また更にはカーボンナノチューブの割合を多くしてフィルムを製造することもできる。重合、重縮合、あるいは架橋の前にこれらのフィルムを相互に接続することができる。均一な重合体としてアクチュエータ素子を得ることができる。
【0031】
しかし、かかるフィルムの表面を機能化して、圧縮力をかけながら電極用フィルムと誘電分離層用フィルムを接合できるため、分離層と電極を強力に合体することができる。それぞれのプラスチックに対する溶剤を塗布すると、表面で溶剤が溶け始め、表面の機能化が行われる。
【0032】
本発明によるアクチュエータ素子は、理想的なケースにおいては完全重合プロセスにおいて製造することができるため、非常に安価に製造することができる。電極及び分離層の少なくとも機械的特性、そして実質的には熱的特性は、少なくともほとんど同じである。これにより、耐用年数にも良い影響が及ぼされる。
【0033】
分離層において薄く長いカーボンナノチューブを使用することで電極同士の間の有効離間が減少し、電極同士の間に不完全な電気経路が形成されることにより、所要電圧を十分に減じることができる。個々のケースと周波数によっては、医用工学、または生体工学等の生体適合的な条件下で使用することもできる。
【0034】
周知であると共にカーボンナノチューブを用いることで達成できる自己修復効果と、アクチュエータ素子における引っ張り歪み及び圧縮歪みの効果を使用することができるが、これはチャネルの切断が生じても、エラストマープラスチックの粘塑性部分によって閉止することができることによる。プラスチック材料を同一とすることと組み合わせて、電極において、そして任意に分離層においてナノチューブ同士を同様に強くかみ合わせることで、電極と分離層の間の境界層効果を回避できるか、もしくは大きく低減させることができる。
【0035】
各プラスチックを適切に選択することにより、例えば弾性率等のプラスチックの特性をそれぞれの用途に適応させることができる。適切なサイズと幾何学的設計でアクチュエータ素子を提供することができる。
【0036】
圧電アクチュエータに比べて非常に大きい動作経路又は変形を達成することができる。定電流を必要としないため、動作に対するエネルギー必要量もわずかである。動作に必要な電流が少量であるため、熱損失も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるアクチュエータ素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】アクチュエータ素子を製造する1つの可能な例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下において本発明を例示し、より詳細に説明する。
【0039】
アクチュエータ素子の一例の構造を図1に示す。図1では、電圧源の異なる極に接続した2つの電極1及び1’が誘電分離層を囲んでいる。電極1及び1’、そして2つの分離層2のプラスチック母材には、カーボンナノチューブが埋め込まれていることが明らかである。体積単位あたりのカーボンナノチューブの割合は、電極1及び1’で非常に高く、0.5重量パーセントに達する。従って電極1及び1’では浸透閾値を超える。分離層2の領域ではカーボンナノチューブの割合はより少なく、0.05重量パーセントであるため、浸透閾値を超えない。この例と共に、より多くの数の電極1及び1’と分離層2を有する積層体を作製できることに留意されたい。電極1及び1’は、その間に配置した分離層2と共に電力用コンデンサを形成する。
【0040】
アクチュエータ素子を製造する一例を図2に示す。電極1用のフィルムBを誘電分離層2用のフィルムAと同様に塗布する。この点に関して、フィルムA及びBは、少なくとも表面で接続するのに十分な粘性を有しているため、両フィルムA及びBを接続することができる。その後フィルム複合体を巻き上げることができる。事前に、あるいは巻き上げた後で、電極1及び分離層2を形成するプラスチックを考慮して、完全な重合、重縮合、硬化、架橋、あるいは溶剤の蒸発を行って、永久的で強力な複合体とすることができる。電極1と同様の形態の、図示しない第2電極1’を分離層2の対向する側に接続させて、アクチュエータ素子を製造することができる。
【符号の説明】
【0041】
1、1’ 電極
2 誘電分離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ素子であって、
各導電性電極(1、1’)が少なくとも1つの誘電分離層(2)をその両面から包囲し、エントロピー弾性により変形可能なプラスチック母材を用いて前記分離層(2)と前記電極(1、1’)をそれぞれ同様に使用温度で形成し、少なくとも前記電極(1、1’)を形成する前記プラスチックにカーボンナノチューブを埋め込む、
アクチュエータ素子。
【請求項2】
前記プラスチック母材に埋め込む電極のカーボンナノチューブの割合を0.01から30重量パーセントの範囲に維持すること、を特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ素子。
【請求項3】
少なくとも8:1の長さ対外径比を有するカーボンナノチューブを埋め込むこと、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項4】
使用する前記プラスチックが、使用温度で限界点に到達するまでに少なくとも5%伸長できること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項5】
単層カーボンナノチューブを埋め込むこと、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項6】
100nmの最大外径を有するカーボンナノチューブを使用すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項7】
前記電極(1、1’)と前記分離層(2)が相互に直接結合すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項8】
複数のアクチュエータ素子が積層体を形成すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項9】
前記分離層(2)が、前記電極(1、1’)における割合よりも少ない割合でカーボンナノチューブを含むこと、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項10】
可視光線の波長範囲の少なくとも一部の範囲において、少なくとも50%の透過性を有すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項11】
カーボンナノチューブが規定の長さ対外径比を有すること、及び/又は、前記カーボンナノチューブが、前記誘電分離層の比誘電率を最大とする周波数に直接影響する分布及び/又は前記比誘電率を最大にできる周波数間隔の幅に直接影響する分布を有すること、
を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項12】
前記誘電分離層(2)が100nmから5mmの層厚を有し、前記電極(1、1’)が100nmから5mmの層厚を有すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項13】
電極(1、1’)と分離層(2)を積層した積層体を、端面で開口したハウジング要素内に配置し、電極(1、1’)を接続する電気コネクタを、前記ハウジング要素の内壁に設けること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項14】
表面を機能化したカーボンナノチューブを使用すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項15】
前記分離層(2)と前記電極(1、1’)の前記エントロピー弾性により変形可能なプラスチック母材を、ポリウレタン、ポリアクリレート、又はシリコンから形成すること、を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項16】
センサ素子、アクチュエータ/センサ素子、光学素子、振動減衰及び/又は励起素子としての、先行する請求項のうちの一項に記載のアクチュエータ素子の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−500611(P2012−500611A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523303(P2011−523303)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001198
【国際公開番号】WO2010/020242
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(597159765)フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー. (68)
【Fターム(参考)】