説明

アクチュエータ

【課題】圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有するアクチュエータを提供する。
【解決手段】振動板2及びこの振動板2を支持するフレーム3を備え、振動板2が、一方の電極膜4と、この一方の電極膜4の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6とを有するアクチュエータ1である。有機圧電膜5がフッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体を主成分として含む。また、一方の電極膜4が表面に凹凸形状及び/又は複数の貫通孔を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電膜を用いたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料を用いたアクチュエータは、磁石とコイルとを備える動電変換器や、コンデンサ変換器を用いたものと比べて構造を単純にすることができるという利点を有している。このため、圧電材料を用いたアクチュエータは、マイクロホンやスピーカなどの音響部品等として様々な構造のものが開発されている(特開2002−112391号公報、特開2003−219499号公報、特許4203911号公報及び特開2005−57414号公報参照)。
【0003】
従来の上記アクチュエータにおいては、圧電材料としてPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなる無機圧電膜が用いられ、この無機圧電膜の両面に電極を積層することで、振動板が形成され、この振動板が、上記無機圧電膜の伸縮により振動するよう構成されている。しかしながら、このような無機圧電膜を用いたアクチュエータは、無機圧電膜と電極との密着性が不十分である。従って、上記アクチュエータにおいては、長期間使用した場合などに、圧電膜と電極との間で剥離が生じるおそれがある。このように、従来のアクチュエータは、振動板の耐久性が十分ではないという不都合を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−112391号公報
【特許文献2】特開2003−219499号公報
【特許文献3】特許4203911号公報
【特許文献4】特開2005−57414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有するアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、
振動板及びこの振動板を支持するフレームを備え、
上記振動板が一方の電極膜と、この一方の電極膜の表面に直接積層される有機圧電膜と、この有機圧電膜の表面側に積層される他方の電極膜とを有するアクチュエータである。
【0007】
当該アクチュエータは、圧電膜として有機圧電膜を用いているため、この圧電膜と接する一方の電極膜との密着性に優れている。従って、当該アクチュエータは、圧電膜の剥離が抑制され、高い耐久性を有する。また、当該アクチュエータによれば、圧電膜と一方の電極膜とが、接着剤等を介することなく直接接合されているため、接着剤等の影響による周波数特性のバラツキが無く、温度変化に対しても安定である。
【0008】
加えて、当該アクチュエータは、圧電膜が有機物からなるため、PZT等の無機物を用いた場合と比べて成膜の際の加熱温度が低く抑えられる。従って、当該アクチュエータによれば、フレーム等の材料の選択の幅が広がり、例えばフレキシブルなアクチュエータ等とすることも可能である。また、有機圧電材料はPZT等に比べ比誘電率が低いため、有機圧電膜は静電容量が低い。従って、当該アクチュエータは、高周波使用時のインピーダンスが高いため、超音波の発振に有効であり、かつ消費電力も抑えることができる。
【0009】
上記有機圧電膜が有機圧電材料を含む溶液の塗布により形成されているとよい。このように、有機圧電膜を塗布により形成することで、一方の電極膜との密着性をより高めることができる。また、当該アクチュエータは、塗布により圧電膜を形成することで、この圧電膜を電極膜のあらゆる表面形状に対応し、密着して積層させることができるため、様々な形状に形成することができる。加えて、当該アクチュエータによれば、塗布により圧電膜を形成することで、薄膜化及びパターニングを容易に行うことができる。従って、当該アクチュエータによれば、薄型化・小型化が可能であり、かつ、パターニングにより一方の電極膜を微細に露出させることができるため、ボンディングスペースを最小限に設計できる。
【0010】
上記有機圧電膜が、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体(以下、「P(VDF−TrFE)」ともいう。)を主成分として含むことが好ましい。このように、上記有機圧電膜としてP(VDF−TrFE)を用いることで、電極膜との密着性をさらに高めることができ、加えて、塗布による形成の場合の成形性が向上する。
【0011】
上記一方の電極膜が表面に凹凸形状及び/又は複数の貫通孔を有するとよい。このように、有機圧電膜と接触する一方の電極膜が表面に上記形状を有することで、この形状から生じる圧電膜のアンカー効果等により、圧電膜の密着性をさらに高めることができる。
【0012】
上記フレームを樹脂製又は金属製とすることができる。当該アクチュエータによれば、フレームを樹脂製又は金属製とすることで、高い衝撃耐久性を備えることができる。また、当該アクチュエータによれば、フレームの厚み等を調整することで、フレキシブルなアクチュエータとすることができる。
【0013】
上記振動板が、一方の電極膜の裏面側に積層される下地膜をさらに有するとよい。当該アクチュエータによれば、振動板が下地膜を有することで、音圧を高めることができるなど、用途の拡大や機能の向上を図ることができる。
【0014】
上記下地膜及びフレームが樹脂製であるとよい。このように、下地膜及びフレームを樹脂製にすることで、フレキシブルなアクチュエータとすることができる。また、当該アクチュエータによれば、電極膜以外を樹脂製とすることができるため、熱応力が低減され、反りの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明のアクチュエータは、一方の電極膜の表面に有機圧電材料を含む溶液を塗布し、有機圧電膜を形成する工程を有する方法で製造することができる。このようなアクチュエータの製造方法によれば、圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有するアクチュエータを得ることができる。
【0016】
本発明のアクチュエータを備えるスピーカによれば、備わる振動板において、圧電膜と電極膜との密着性が高いため、長期使用等によってもこの密着性が維持され、優れた耐久性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のアクチュエータは、圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態に係るアクチュエータを示す模式的断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、図1のアクチュエータの製造過程を示す模式的断面図である。
【図3】(a)〜(e)は、それぞれ第二〜第六実施形態に係るアクチュエータを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明のアクチュエータ、この製造方法及びこれを備えるスピーカの実施の形態を詳説する。
<第一実施形態>
図1のアクチュエータ1は、振動板2及びこの振動板2を支持するフレーム3を備えている。
【0020】
上記振動板2は、一方の電極膜4と、この一方の電極膜4の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6と、一方の電極膜4の裏面に積層される下地膜7とを有する。
【0021】
当該アクチュエータ1は、圧電膜として有機圧電膜5を用いているため、この圧電膜5と接する一方の電極膜4との密着性に優れている。従って、当該アクチュエータ1は、圧電膜5の剥離が抑制され、高い耐久性を有する。また、当該アクチュエータ1によれば、有機圧電膜5と一方の電極膜4とが、接着剤等を介することなく直接接合されているため、接着剤等の影響による周波数特性のバラツキが無く、温度変化に対しても安定である。
【0022】
加えて、当該アクチュエータ1は、圧電膜5が有機物からなるため、PZT等の無機物を用いた場合と比べて成膜の際の加熱温度が低く抑えられる。従って、当該アクチュエータ1によれば、フレーム3等の材料の選択の幅が広がり、例えばフレキシブルなアクチュエータ等とすることも可能である。また、有機圧電材料はPZT等に比べ比誘電率が低いため、有機圧電膜5は静電容量が低い。従って、当該アクチュエータ1は、高周波使用時のインピーダンスが高いため、超音波の発振に有効であり、かつ消費電力も抑えることができる。
【0023】
振動板2は平面視矩形状を有している。この振動板のサイズとしては特に限定されず、出力する振動の周波数や、使用するスピーカ等のサイズなどに応じて適宜設定することができる。例えば、このアクチュエータ1を超音波スピーカに用いる場合は、振動板のサイズを縦横0.5〜4cm程度にすることができる。
【0024】
一方の電極膜4は薄膜である。この一方の電極膜4の厚みとしては特に限定されないが、例えば0.1μm以上1μm以下とすることができる。
【0025】
一方の電極膜4の材料としては、導電性を有し、かつ常温で固体であれば特に限定されない。この電極膜4の材料としては例えば、金属単体、合金等が挙げられ、また、金属やカーボン等のフィラーを含有する導電樹脂であってもよい。上記金属単体及び合金に用いられる金属としては、白金、金、アルミニウム等を挙げることができる。
【0026】
一方の電極膜4表面の算術平均粗さ(Ra)としては、0.005μm以上1μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.3μm以下であることがさらに好ましい。このように一方の電極膜4の表面の算術平均粗さ(Ra)を上記範囲とすることで、直接積層される有機圧電膜5との密着性をさらに高めることができる。このRaが上記下限未満の場合は、十分な密着性を発揮できないおそれがあり、逆に、このRaが上記上限を超えると、有機圧電膜5の振動にムラが生じるおそれがある。なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601−1994に準じて測定され、カットオフλc2.5mm、評価長さ12.5mmの値である。
【0027】
有機圧電膜5は、一方の電極膜4の表面ほぼ全面に積層されている。なお、有機圧電膜5は、一方の電極膜4の一部には積層されず、この一方の電極膜4の露出部分を接続箇所として用いることができる。また、この有機圧電膜5の厚みとしては特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0028】
有機圧電膜5の材質としては、圧電効果等の電界誘起歪みを引き起こす材料であれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。この有機圧電膜5の具体的材質としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、P(VDF/TrFE)、VDF(フッ化ビニリデン)とTeFE(四フッ化エチレン)との共重合体(P(VDF/TeFE))、VDCN(シアン化ビニリデン)とVAc酢酸ビニルとの共重合体(P(VDCN/VAc)、ポリ尿素等を挙げることができる。なお、有機圧電膜5においては、複数の有機圧電材料を用いてもよく、有機圧電材料以外の成分が含まれていてもよい。
【0029】
上記有機圧電膜5としては、P(VDF/TrFE)を主成分として含むものが好ましい。当該アクチュエータ1によれば、上記有機圧電膜5の主成分として、P(VDF−TrFE)を用いることで、電極膜(特に一方の電極膜4)との密着性をさらに高めることができ、また、塗布による形成の場合の成形性が向上する。なお、この主成分として含むとは、含有量が50質量%以上であることをいい、80質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
上記有機圧電膜5を形成する有機圧電材料の比誘電率としては、4以上10以下が好ましい。また、上記有機圧電膜5の静電容量としては、1pF以上1μF以下であることが好ましい。有機圧電膜5において、上記範囲の比誘電率を有する有機圧電材料を用い、有機圧電膜5の静電容量を上記範囲とすることで、高周波使用時のインピーダンスを高くすることができる。従って、このような電気特性を有する有機圧電膜5を備えるアクチュエータ1は、超音波の発振により効果的であり、かつ消費電力をより抑えることができる。
【0031】
他方の電極膜6は薄膜である。この他方の電極膜6の厚みとしては特に限定されないが、例えば0.1μm以上1μm以下とすることができる。
【0032】
他方の電極膜6の材料としては、上述した一方の電極膜4と同様のものを挙げることができる。なお、一方の電極膜4の材料と他方の電極膜6の材料とは、同一でも異なっていてもよい。
【0033】
下地膜7は平面視矩形状の薄膜である。この下地膜7の縦及び横のサイズは、振動板2の縦及び横のサイズと同一である。当該アクチュエータ1によれば、振動板2がこの下地膜7を有することで、音圧を高めることができるなど、用途の拡大や機能の向上を図ることができる。
【0034】
下地膜7の材質としては特に限定されず、例えば酸化ケイ素、ケイ素、酸化ジルコニウム、アルミニウム、銅、ステンレス等の無機材料や、ポリイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、エポキシ樹脂等の有機材料を用いることができる。
【0035】
下地膜7の厚みとしては特に限定されないが、この下地膜7が無機材料からなる場合は、例えば0.1μm以上10μm以下程度であり、この下地膜7が有機材料からなる場合は、例えば1μm以上100μm以下程度である。
【0036】
上記フレーム3は、扁平な四角筒状形状を有している。このフレーム3の上面が振動板2(下地膜7)の縁を固定し、振動板2を振動可能にしている。
【0037】
上記フレーム3の外枠縦及び横のサイズとしては、振動板2の縦及び横のサイズと略同一である。上記フレーム3の四角筒状形状を形成する側壁の厚みとしては、例えば0.2mm以上3mm以下程度である。なお、この側壁の厚みは均一であってもよく、図1のように、開口方向(振動板2と離れる方向)に薄くなった形状であってもよい。また、フレーム3の高さ(振動板2の厚み方向の長さ)としては、例えば、0.5mm以上10mm以下程度である。
【0038】
上記フレーム3の材質としては特に限定されず、シリコン、金属、樹脂等を用いることができるが、金属又は樹脂を用いることが好ましい。フレーム3を樹脂製又は金属製とすることで、高い衝撃耐久性を備えることができる。また、当該アクチュエータ1によれば、フレーム3の厚み(四角筒状形状を形成する側壁の厚み)等を調整することで、フレキシブルなアクチュエータとすることができる。
【0039】
フレーム3の材料として用いられる上記金属としては、例えばアルミニウム、銅、ステンレス等をあげることができ、樹脂としては、ポリイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0040】
なお、当該アクチュエータ1において、下地板7及びフレーム3を共に樹脂製とすることで、電極膜以外を全て樹脂製とすることができる。このような準樹脂製のアクチュエータ1によれば、より柔軟性を高めることができる。また、このようなアクチュエータによれば、電極膜以外を樹脂製とすることで、熱応力が低減され、反りの発生を抑制することができる。
【0041】
<アクチュエータ1の製造方法>
アクチュエータ1は、例えば一方の電極膜4の表面に有機圧電材料を含む溶液を塗布し、有機圧電膜5を形成する工程を有する。
【0042】
当該アクチュエータの製造方法によれば、圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有するアクチュエータを得ることができる。また、このように塗布により有機圧電膜5を形成することで、この圧電膜5を一方の電極膜4のあらゆる表面形状に対応し、密着して積層させることができるため、様々な形状のアクチュエータを得ることができる。加えて、塗布により圧電膜5を形成することで、薄膜化及びパターニングを容易に行うことができる。従って、当該アクチュエータ1によれば、薄型化・小型化が可能であり、また、パターニングにより一方の電極膜4を微細に露出させることができるため、ボンディングスペースを最小限に設計できる。以下、アクチュエータ1の具体的製造方法の一例について、図2を参照に詳説する。
【0043】
(下地膜の形成:図2(a))
上面が略平面であるシリコン基板101の表面を酸化処理することにより二酸化ケイ素膜を形成する。この二酸化ケイ素膜が下地膜7となる。なお、酸化処理以外に、スパッタリングや蒸着により二酸化ケイ素膜(下地膜7)を形成してもよい。また、樹脂製の下地膜7を形成する場合は、樹脂溶液の塗布(スピンコート、ディッピング等)の後、熱処理(乾燥)すること等により形成することができる。
【0044】
(一方の電極膜及び有機圧電膜の形成:図2(b))
上記下地膜7の上側表面にスパッタリング、蒸着、印刷等の公知の方法により一方の電極膜4を形成する。
【0045】
続いて、この一方の電極膜4の表面に有機圧電材料を含む溶液を塗布する。この溶液に用いられる溶媒としては、有機圧電材料を溶解させることができるものであれば特に限定されないが、得られる有機圧電膜の密着性の点からは、DMSO(ジメチルスルホキシド)が好ましい。この溶液の塗布の方法としては特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、スプレー、キャスティング、印刷等により行うことができる。
【0046】
塗布後に、加熱乾燥させることで、有機圧電膜5が形成される。この加熱温度としては例えば100℃以上180℃以下程度であり、具体的には溶媒としてDMSOを用いた場合は140℃程度で行うことができる。
【0047】
また、印刷以外の塗布等により有機圧電膜5を形成する場合は、一方の電極膜4をレジスト等でマスクし、有機圧電膜を形成する。この後、酸素プラズマエッチングで有機圧電膜5をパターニングし、一方の電極膜4の一部を露出させる。なお、印刷の場合は、一方の電極膜4の一部を露出させるように印刷を行えばよい。なお、上記塗布の他、有機圧電材料の蒸着等により有機圧電膜5を形成することもできる。
【0048】
(他方の電極膜の形成:図2(c))
上記有機圧電膜5の表面にスパッタリング、蒸着、印刷等の公知の方法で他方の電極膜6を積層する。この他方の電極膜6を形成することで、下地膜7、一方の電極膜4、有機圧電膜5及び他方の電極膜6をこの順に備える振動板2が完成される。
【0049】
(フレームの形成:図2(d))
上記シリコン基板101の下側表面(裏面)において、フレーム3として残る部分以外をマスクし、その他の中央部分の酸化ケイ素膜(下地膜7)を除去する。ついで、上記シリコン基板101の裏面側の中央部をエッチングすることで、フレーム3を形成する。このエッチング方法としては、例えばウエットエッチングや、D−RIE等を用いることができる。
【0050】
(その他の製造方法)
上記とは異なるシリコン製以外のフレームを有するアクチュエータの製造方法としては、銅基板等の他の材質からなる基板や、犠牲材料が埋め込まれた基板を用いる方法を挙げることができる。犠牲材料が埋め込まれた基板としては、フレームとして残す部分はステンレスからなり、他の部分は銅が埋め込まれた基板が挙げられる。この場合、銅用のエッチング液でエッチングすることで銅を除去し、ステンレス製のフレームを形成することができる。
【0051】
また、樹脂製のフレームを有するアクチュエータの製造方法としては、例えば以下の製造方法(A)及び製造方法(B)等を挙げることができる。
【0052】
製造方法(A)
フレームとして残す部分は樹脂(例えばポリイミド)からなり、他の部分は銅が埋め込まれた基板を用いる。上述した製造方法に準じて振動板を形成する。なお、この際、有機圧電膜の加熱乾燥を例えば140℃で行った場合も、ポリイミド製のフレームに与える影響は小さい。振動板形成後、基板において銅用のエッチング液で銅部分を除去することで、樹脂製のフレームを得ることができる。
【0053】
製造方法(B)
シリコンやガラス製の基板を用い、この上に上述した製造方法に準じて振動板を形成する。この後、フッ酸等を用い、振動板を基板から剥離する。この振動板を別途形成した樹脂製のフレームに貼り合わせることにより、樹脂製のフレームを有するアクチュエータを得ることができる。
【0054】
<第二〜第六実施形態>
図3(a)のアクチュエータ11を第二実施形態、(b)のアクチュエータ21を第三実施形態、(c)のアクチュエータ31を第四実施形態、(d)のアクチュエータ41を第五実施形態、及び(e)のアクチュエータ51を第六実施形態として、以下説明する。
【0055】
図3(a)〜(e)のアクチュエータ11、21、31、41及び51は、それぞれ振動板12、22、32、42及び52並びにフレーム3を備える。フレーム3は、図1のアクチュエータ1が備えるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0056】
図3(a)のアクチュエータ11における振動板12は、一方の電極膜14と、この一方の電極膜14の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6と、一方の電極膜14の裏面に積層される下地膜7とを有する。有機圧電膜5、他方の電極膜6及び下地膜7は、図1のアクチュエータ1が備えるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0057】
一方の電極膜14は、略全面に設けられた複数の貫通孔18を有している。この貫通孔18の直径としては、例えば数μm〜数100μm程度である。当該アクチュエータ11においては、一方の電極膜14が複数の貫通孔18を有しているため、有機圧電膜5と下地膜7とがこの貫通孔18を介して直接接する。当該アクチュエータ11によれば、有機圧電膜5と下地膜7とが直接接するため、また、貫通孔18によるアンカー効果等のため、有機圧電膜5の密着性をより高めることができる。
【0058】
図3(b)のアクチュエータ21における振動板22は、一方の電極膜24と、この一方の電極膜24の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6と、一方の電極膜24の裏面に積層される下地膜27とを有する。有機圧電膜5及び他方の電極膜6は、図1のアクチュエータ1が備えるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。一方の電極膜24は、略全面に設けられた複数の貫通孔28を有している。また、下地膜27は、上記貫通孔28に対応した部分の表面に、凹部29が形成されている。
【0059】
図3(c)のアクチュエータ31における振動板32は、一方の電極膜34と、この一方の電極膜34の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6と、一方の電極膜34の裏面に積層される下地膜37とを有する。有機圧電膜5及び他方の電極膜6は、図1のアクチュエータ1が備えるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。下地膜37の表面には複数の凹部39が形成されている。この凹部39のサイズとしては、例えば直径数μm〜数100μm、深さ数μm〜数100μm程度である。また、一方の電極膜34は、下地膜37の表面形状に追従するように密着して積層されている。従って、一方の電極膜34の表面には、凹凸形状が形成される。
【0060】
図3(d)のアクチュエータ41における振動板42は、一方の電極膜44と、この一方の電極膜44の表面に直接積層される有機圧電膜5と、この有機圧電膜5の表面側に積層される他方の電極膜6と、一方の電極膜44の裏面に積層される下地膜47とを有する。有機圧電膜5及び他方の電極膜6は、図1のアクチュエータ1が備えるものと同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。下地膜47には複数の貫通孔48が形成されている。また、一方の電極膜44は、下地膜47の表面に、上記貫通孔48を埋めるように積層されている。従って、一方の電極膜44の表面には、凹凸形状が形成される。
【0061】
当該アクチュエータ21、31及び41のいずれにおいても、一方の電極膜及び/又は下地膜の形状から生じるアンカー効果により、有機圧電膜5の一方の電極膜との密着性を高めることができる。
【0062】
図2(e)のアクチュエータ51における振動板52は、一方の電極膜54と、この一方の電極膜54の表面に直接積層される有機圧電膜55と、この有機圧電膜55の表面側に積層される他方の電極膜56と、一方の電極膜54の裏面に積層される下地膜57とを有する。振動板52は、凹状に湾曲している。詳細には、振動板52の中心部分がフレーム3側に湾曲している。また、振動板52が有する一方の電極膜54、有機圧電膜55、他方の電極膜56及び下地膜57がそれぞれ凹状に湾曲した形状となっている。当該アクチュエータ51は、このように振動板52が凹状に湾曲しているため、振幅の線形性を高めることができる。従って、当該アクチュエータ51によれば、振幅幅を大きくすることができ、その結果、音圧を向上させることができる。
【0063】
なお、当該アクチュエータ21〜51のいずれも、上記アクチュエータ1の製造方法に準じて製造することができる。例えば、図2(e)のアクチュエータ51においては、下地膜を形成する前に基板の表面を公知の方法でエッチングすることで湾曲させ、この表面に下地膜等を形成することで湾曲した振動板を得ることができる。
【0064】
<スピーカ>
当該アクチュエータ1を備えるスピーカは、振動板2において、有機圧電膜5と電極膜(特に一方の電極膜4)との密着性が高いため、長期使用等によってもこの密着性が維持され、優れた耐久性を発揮することができる。
【0065】
当該アクチュエータ1を備えるスピーカは、超音波を発振するスピーカとして特に有用である。当該スピーカの発信する超音波の周波数は、振動板2のサイズや、各材質等を調整することで適宜設定することができるが、例えば、1kHz以上100kHz以下の周波数を発信させることができる。
【0066】
<その他の実施形態>
本発明のアクチュエータ及びスピーカは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、当該アクチュエータにおいて、振動板は下地膜を有していなくてもよい。このようなアクチュエータにおいても、一対の電極膜及び有機圧電膜を備える振動板が振動することで、例えば超音波スピーカ等に好適に用いることができる。
【0067】
また、一方の電極膜の表面に微細な凸形状を設けてもよい。この凸形状としては、平面視で円形状、多角形状やストライプ状等、特に限定されない。また、一方の電極膜の表面に、凸形状、凹形状及び貫通孔が二種以上設けられていてもよい。いずれの形状においても、この電極膜の表面に積層される有機圧電膜との密着性が高まり、アクチュエータの耐久性を向上させることができる。
【0068】
さらに、フレームは、振動板の縁全体を固定していなくてもよく、例えば、振動板の一辺を支持する構造であってもよい。このような片側支持構造の場合、振動板の振幅をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明のアクチュエータは、圧電膜と電極との密着性に優れ、高い耐久性を有し、例えば超音波スピーカ等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1、11、21、31、41、51 アクチュエータ
2、12、22、32、42、52 振動板
3 フレーム
4、14、24、34、44、54 一方の電極膜
5、55 有機圧電膜
6、56 他方の電極膜
7、27、37、47、57 下地膜
18、28、48 貫通孔
29、39 凹部
101 シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板及びこの振動板を支持するフレームを備え、
上記振動板が、一方の電極膜と、この一方の電極膜の表面に直接積層される有機圧電膜と、この有機圧電膜の表面側に積層される他方の電極膜とを有するアクチュエータ。
【請求項2】
上記有機圧電膜がフッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体を主成分として含む請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
上記一方の電極膜が表面に凹凸形状及び/又は複数の貫通孔を有する請求項1又は請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
上記振動板が、一方の電極膜の裏面側に積層される下地膜をさらに有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
上記下地膜及びフレームが樹脂製である請求項4に記載のアクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−199872(P2012−199872A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63977(P2011−63977)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】