説明

アクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラム

【課題】
強い海底反射波などが入ってきた場合においても、エコー信号のS/Nの低下を抑制することができる、アクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラムを提供する。
【解決手段】
本発明のアクティブソーナー装置10は、所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段20と、目標物から反射されたエコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段30と、受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段40と、区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出する抽出手段50と、抽出した信号を用いて正規化する正規化手段60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブソーナー装置に関し、特にアクティブソーナーの正規化方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブソーナー装置は、送波器から音波を発振し、目標物からの反射波を受波器にて受波し、受波信号のレベル、周波数、方位などの情報に基づいて目標物の位置、速度、進行方向などの計測を行う。ここで、受波信号には目標物からの反射されたエコー信号の他に、残響信号等が含まれる。一般に残響信号はエコー信号と比較して帯域に広がりを持ち、強いエネルギーを持つ場合が多い。そのため、受波信号に対してエコー信号の検出処理を行う場合、残響信号の影響を取り除くことが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、受波信号を所定経過時間毎に区分し、その区分した所定経過時間毎の各時刻における受波信号をそれぞれ所定送信回数だけ積分して各所定経過時間毎の平均残響特性を取得し、取得した平均残響特性を用いて受波信号から残響信号の影響を取り除くアクティブソーナー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-116488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のアクティブソーナー装置のように、平均残響特性を積分によって取得する場合、強い海底反射波などが入ってきた場合、平均残響特性がこの海底反射波に影響を受け、エコー信号のS/Nが低下する。
【0006】
本発明の目的は、強い海底反射波などが入ってきた場合においても、エコー信号のS/Nの低下を抑制することができる、アクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係るアクティブソーナー装置は、所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段と、目標物から反射されたエコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段と、受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段と、区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出する抽出手段と、抽出した信号を用いて正規化する正規化手段と、を備える。
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係るアクティブソーナー装置における信号正規化方法は、所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信し、目標物から反射されたエコー信号を含む反射波を受信信号として受信し、受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割し、区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出し、抽出した信号を用いて正規化する。
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係るプログラムは、アクティブソーナー装置において信号の正規化を行うコンピュータが実行可能なプログラムであって、所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信する機能、目標物から反射されたエコー信号を含む反射波を受信信号として受信する機能、受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する機能、区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出する機能、抽出した信号を用いて正規化する機能、を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にアクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラムは、強い海底反射波などが入ってきた場合においても、エコー信号のS/Nの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアクティブソーナー装置10のブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るアクティブソーナー装置100のブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る受波部130において受波される(a)エコー信号、(b)残響信号、(c)雑音信号、(d)受信信号の波形である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る時間方向正規化処理部150のブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る時間方向正規化処理部150の処理手順である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る時間方向正規化処理部150の(a)正規化前、(b)正規化後の信号波形である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るコンピュータ400のブロック図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るアクティブソーナー装置500のブロック図である。
【図9】PDAGCによる正規化処理で用いられる信号の波形である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。本実施形態に係るアクティブソーナー装置のブロック図を図1に示す。図1において、本実施形態に係るアクティブソーナー装置10は、送信手段20、受信手段30、区分手段40、抽出手段50および正規化手段60を備える。
【0013】
送信手段20は、所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する。受信手段30は、目標物から反射されたエコー信号を含む反射波を、受信信号として受信する。
【0014】
区分手段40は、受信手段30が受信した受信信号を時間軸方向や周波数軸方向等の所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する。本実施形態に係る区分手段40は、隣接する区間同士が重なるように受信信号から複数の区間を切り出し、さらに、切り出した各区間内の受信信号を複数のセルに分割する。
【0015】
抽出手段50は、区分手段40が分割した複数セルを、セル内に含まれる信号の大きさ順に並びかえる。本実施形態において、抽出手段50は、区分手段40が分割したセル内に含まれる信号の信号レベルをそれぞれ数値化し、区間内のセルを、信号レベルの大きい順に並び替える。らに、抽出手段50は、送信手段20が生成したエコー信号の長さに対応するセル数分、並びかえた大きい方からセルを削除し、残ったセル内の信号を残響信号として抽出し、正規化手段60へ出力する。
【0016】
正規化手段60は、抽出手段50から出力された残響信号を用いて正規化処理を行う。本実施形態において、正規化手段60は、出力された残響信号を残響信号の減衰特性曲線やスペクトル特性曲線等の特性曲線に内挿してフロアレベルを決定する。さらに、正規化手段60は、決定したフロアレベルを、区分手段40が切り出した区間の中心位置の信号レベルで除算することにより、正規化を行う。ここで、フロアレベルとは、エコー信号を除いた残響信号および雑音信号を含む信号のレベルである。
【0017】
以上のように、本実施形態に係るアクティブソーナー装置10は、積分や平均値を用いるのではなく、信号レベルを並び替えることにより、エコー信号と残響信号とを区分する。目標物以外からの強い反射波が混入している場合、積分値や平均値を適用する場合は演算結果にこの反射波に引っ張られて影響を受けるのに対し、並び替えを適用する場合はこの反射波の影響を最低限に抑えることができる。従って、強いレベル変動によってS/N比が低下することを抑制することができる。
【0018】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態に係るアクティブソーナー装置のブロック図を図2に示す。図2において、本実施形態に係るアクティブソーナー装置100は、送信信号生成部110、送波部120、受波部130、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理部140および時間方向正規化処理部150を備える。
【0019】
送信信号生成部110は、パルス状の送信信号310を生成して送波部120へ出力する。
【0020】
送波部120は、送信信号生成部110から出力された送信信号310を音波320に変換し、外部へ送波する。
【0021】
受波部130は、送波部120から送波された音波320が目標物200で反射して生じた目標物200エコーを含む反射波330を受波し、受信信号340としてFFT処理部140へ出力する。
【0022】
FFT処理部140は、受波部130から出力された受信信号340に対して周波数解析および正規化を行い、処理結果を周波数分析結果350として時間方向正規化処理部150へ出力する。
【0023】
時間方向正規化処理部150は、FFT処理部140から出力された周波数分析結果350からエコー信号を取り除き、残響の減衰特性曲線を用いてフロアレベルを決定し、決定したフロアレベルを正規化して計測結果360として出力する。時間方向正規化処理部150の機能については後述する。
【0024】
次に、受波部130が音波320として海中へ出力されたパルス状の送信信号310が目標物において反射されて反射波330として受波された場合に、受波部130から出力される受信信号340について説明する。
【0025】
音波320として出力されたパルス状の送信信号310は目標物200で反射され、図3(a)に示すパルス状のエコー信号341として、受波部130で受波される。ここで、エコー信号341の継続時間長は、送信信号生成部110が送信信号310を生成した時間により決まるため、既知である。
【0026】
また、音波320として出力されたパルス状の送信信号310が海中へ出力された場合、送信信号310は、海底や水中に分布している不均一物質によって多重反射され、図3(b)に示す残響信号342として、受波部130で受波される。一般的に、残響信号342の継続時間は、目標物200からの反射波(エコー信号341)の継続時間に比べて長く、徐々に減衰する。
【0027】
さらに、受波部130は、図3(c)に示す雑音信号343を受波する。従って、パルス状の送信信号310を含む音波320が出力されることにより、受波部130は図3(d)に示す受信信号340を出力する。残響信号342がエコー信号341と比較して帯域に広がりを持ち、強いエネルギーを持つことから、受信信号340からエコー信号341を検出する場合、誤って残響信号342を検出してしまう場合がある。この場合、アクティブソーナー装置100の目標物200の検出性能が低下する。本実施形態に係るアクティブソーナー装置100は、時間方向正規化処理部150が、エコー信号341と、残響信号342および雑音信号343と、を切り分けることにより、アクティブソーナー装置100の目標物200の検出性能が低下することを抑制する。
【0028】
時間方向正規化処理部150の機能について詳細に説明する。本実施形態に係る時間方向正規化処理部150のブロック図を図4に示す。図4において、時間方向正規化処理部150は、フロアレベル算出部151および正規化部155を備える。フロアレベル算出部151は、信号切出部152、並替部153およびフロアレベル決定部154を備え、FFT処理部140から出力された周波数分析結果350からエコー信号341を取り除き、フロアレベルを決定する。正規化部155は、フロアレベル算出部151が決定したフロアレベルを正規化し、計測結果360を出力する。
【0029】
時間方向正規化処理部150の動作について図5を用いて説明する。フロアレベル算出部151は、信号切出部152を用いて、FFT処理部140から出力された周波数分析結果350を、ある時刻を中心とする一定時間区間で切り出す。本実施形態において、信号切出部152は、隣接する区間同士の一部が重なり合うように、中心時刻および区間長さを設定し、周波数分析結果350全体を複数の時間区間で切り出す。図5(a)に、エコー信号341付近の3区間(区間a、区間b、区間c)を例示する。図5(a)において、区間aの一部と区間bの一部が、区間bの一部と区間cの一部がそれぞれ重なり合う。
【0030】
次に、フロアレベル算出部151は、並替部153を用いて、信号切出部152が切り出した時間区間毎に区間を複数のセルに分割し、このセル内の信号の強度レベルを数値化し、時間区間内のセルを信号の強度レベル順に並び替える。並替部153が、区間c内の複数のセルを信号の強度レベル順に並びかえた例を図5(b)に示す。図5(b)において、左側が並びかえる前のセル、右側が並びかえた後のセルである。また、上段がセルの番号、下段が信号の強度レベルである。図5(b)に示すように、並替部153は、区間cを11のセル(セル(1)−セル(11))に分割する。そして、各セル内の信号の強度レベルを数値化し、昇順に並びかえる。例えば、セル(1)の信号レベルは「16」であり、並びかえによりセル(1)は右から4番目に配置される。
【0031】
さらに、並替部153は、エコー信号341の継続時間長が既知であることから、エコー信号341の継続時間長分に対応する範囲をエコー信号出現範囲と設定し、エコー信号出現範囲内の信号を取り除く。すなわち、エコー信号出現範囲内の信号をエコー信号341、それ以外の範囲(残響信号出現範囲と記載する。)の信号を残響信号342および雑音信号343とする。
【0032】
すなわち、図5(b)において、並替部153は、昇順にエコー信号出現範囲に含まれる信号(信号レベルが25−16まで)をエコー信号341とする。そして、並替部153は、残響信号出現範囲に含まれる信号(信号レベルが15以下)を残響信号342および雑音信号343として抽出し、フロアレベル決定部154へ出力する。
【0033】
さらに、フロアレベル算出部151は、フロアレベル決定部154を用いて、抽出された残響信号342および雑音信号343を、図5(c)に示した残響の減衰特性曲線に内挿することにより、フロアレベルを求める。残響の減衰特性曲線は、残響の時間経過に伴う減衰特性を表す雑音を加味した曲線である。残響の減衰特性曲線は、実環境で音波を送波し、残響レベルを測定することにより得ることができる。
【0034】
次に、時間方向正規化処理部150の正規化部155は、フロアレベル算出部151が算出したフロアレベルを正規化し、計測結果360として出力する。本実施形態において、正規化部155は、フロアレベル算出部151で決定したフロアレベルを、時間方向正規化処理部150に入力した元信号(すなわち、周波数分析結果350)の、信号切り出しを行った中心時刻の信号の強度レベルで除算することにより正規化する。
【0035】
時間方向正規化処理部150は、時間区間ごとに一連の正規化処理を行う。すなわち、一つの時間区間についての正規化処理までの処理が終了したら、信号切り出しの中心時刻、および信号切り出し時間区間を次の時刻に移し、次の時間区間の正規化処理を開始する。そして、時間方向正規化処理部150は、切り出した全ての時間区間のフロアレベルに対して正規化を行った結果を、計測結果360として出力する。
【0036】
ここで、内挿に用いる残響の減衰特性曲線は、実測値の他、海域ごとの海底地形や水温構造を考慮した、実測値を基に構築した実験式、季節毎に集計して得られる統計データ、残響減衰の理論モデル、等により得られる減衰特性曲線を用いても良い。また、信号切り出し区間の長さに対して、エコー信号の継続時間長が十分短い場合、あるいは切り出し区間内において残響の減衰が小さく、エコー信号を除去した前後でのレベル差が小さい場合、残響の減衰特性曲線への内挿を行わず、並び替えにより得られた残響・雑音部分の信号の中から、フロアレベルを選択しても良い。選択の際には、平均値や中央値、エコー信号除去の前後の特定の位置などにより決定しても良い。
【0037】
また、図5(a)に示した、区間a等のエコー信号が含まれない区間のフロアレベルを決定する場合、エコー信号出現範囲内に残響信号が配置され、エコー信号出現範囲内の残響信号を削除し、残響信号範囲内の信号のみを用いてフロアレベルを決定する。残響信号範囲内の信号は影響を受けないため、残響信号342および雑音信号343として抽出された残響信号範囲内の信号を残響の減衰特性曲線に内挿することにより、フロアレベルを求めることができる。また、区間内に強い海底反射波が入射した場合、エコー信号範囲内にこの海底反射波のデータが配置され、削除される。残響信号範囲内のデータは影響を受けないため、残響の減衰特性曲線に内挿することによりフロアレベルを求めることができる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るアクティブソーナー装置100は、切り出した時間区間内において信号の強度レベルを並び替え、エコー信号341を取り除いた信号からフロアレベルを決定し、正規化する。決定したフロアレベルにエコー信号341の成分が混入しないことから、正規化におけるS/N比の低下を最小限に留めることが出来る。
【0039】
さらに、本実施形態に係るアクティブソーナー装置100は、エコー信号を劣化させること無く信号の正規化を行うことができる。すなわち、正規化処理後の出力結果では、見かけ上、残響信号および雑音信号が除去されるため、エコー信号以外(残響信号および雑音信号)のレベルを正規化することができる。正規化する前の信号波形を図6(a)に、正規化した後の信号波形を図6(b)に示す。
【0040】
ここで、時間方向正規化処理部150の機能を正規化処理プログラムとして実現し、この正規化処理プログラムをコンピュータ400によって実行することもできる。コンピュータ400のブロック図を図7に示す。図7において、コンピュータ400は、CPU410、RAM420、ROM430、入出力インターフェース440等を備える。コンピュータ400にFFT処理部140から周波数分析結果350が入力されることにより、CPU410は、RAM420またはROM430に記憶されている正規化処理プログラムを読み出し、切り出し処理、並び替え処理、フロアレベルの決定処理および正規化処理を実行し、計測結果360を出力する。なお、本正規化処理プログラムは、光ディスク、半導体メモリなどなどの非一時的な記録媒体(non-transitory storage medium)に記録されてもよい。その場合、正規化処理プログラムは、記録媒体からコンピュータ400によって読み出され、実行される。
【0041】
なお、上述の正規化処理は、海中に音波を送波する場合に限らず、空中に音波を送波した場合も同様の効果が得られる。空中に電波を送波した場合、残響は主に地面反射波または海面反射波になるので、本実施形態に係る時間方向正規化処理部150を用いることにより、同様の効果が得られる。空中から空中へ電波を送波した場合、特に、空中から更に低い空中へ電波を送波した場合、地面反射波または海面反射波が多くなり、効果がより顕著に現れる。すなわち、時間方向正規化処理部150をレーダ装置へ適用することもできる。
【0042】
また、音波、電波の代わりに光を用いるLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)への適用も可能である。ここで、空中に音波を送波する場合およびLIDARへ適用した場合においても、正規化手法は、時間軸方向への正規化に限らず、周波数軸方向への正規化に対して適用しても良い。
【0043】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本実施形態に係るアクティブソーナー装置のブロック図を図8に示す。図8において、本実施形態に係るアクティブソーナー装置500は、送信信号生成部511、送信信号増幅部512、送波部513、受波部521、受信信号増幅部522、帯域濾波部523、A/D変換部524、FFT処理部525、周波数方向正規化処理部526、信号検出部531および表示部532を備える。
【0044】
送信信号生成部511は、時刻と共に周波数が変化する周波数変調波のパルス信号を送信信号610として生成し、送信信号増幅部512へ出力する。この送信信号610は電気信号であり、周波数が直線状に変化する周波数変調波の信号である。
【0045】
送信信号増幅部512は、送信信号生成部511から出力された送信信号610を電力増幅して送波部120出力する。送波部513は、送信信号増幅部512において電力増幅された送信信号610を音響信号に変換し、音波620として水中へ出力する。
【0046】
水中に出力された音波620は、目標物200で反射され、受波部521において受波される。なお、目標物200が移動している場合、反射波はドップラーシフトして雑音信号とともに受波部521において受波される。受波部521は、エコー信号を含む反射波630を受波し、受波した反射波630を電気信号に変換し、受信信号640として受信信号増幅部522へ出力する。
【0047】
受信信号増幅部522は、受波部521から入力した受信信号640を電力増幅して帯域濾波部523へ出力する。帯域濾波部523は、受信信号増幅部522から入力した電力信号から、不要な帯域の信号を除去する。例えば、送信信号生成部511が、中心周波数が1000Hz、帯域幅が50Hzの送信信号610を生成した場合、ドップラーシフトによる周波数の変動を考慮し、例えば、925−1075Hz間の信号を通過させる。
【0048】
A/D変換部524は、帯域濾波部523から出力された925−1075Hz間のアナログ信号を、予め決められたサンプリング周波数でA/D変換する。A/D変換されたデジタル信号は、FFT処理部525へ出力される。
【0049】
FFT処理部525は、A/D変換部524から出力されたデジタル信号を高速フーリエ変換して周波数解析および正規化を行い、周波数分析結果650として周波数方向正規化処理部526へ出力する。
【0050】
周波数方向正規化処理部526は、FFT処理部525から出力された周波数分析結果650を周波数方向に切り出し、切り出した区間内の信号をさらに複数セルに分割する。周波数方向正規化処理部526は、複数セル内の信号をスペクトルレベルが大きい順に信号を並び替え、エコー信号641に対応する範囲内に位置する信号をエコー信号641として削除する。すなわち、周波数方向正規化処理部526は、エコー信号出現範囲に入った信号をエコー信号641と見なして削除することにより、残響信号642および雑音信号643を抽出する。
【0051】
さらに、周波数方向正規化処理部526は、抽出した残響信号642および雑音信号643を、スペクトル特性曲線に内挿することによりフロアレベルを決定し、決定したフロアレベルを切り出した区間の中心位置のスペクトルレベルで除算することにより正規化を行う。そして、信号を切り出す位置をシフトさせながら連続的に上記の信号処理を繰り返し、計測結果660を信号検出部531および表示部532へ出力する。
【0052】
なお、実測値のスペクトル特性曲線に内挿することによってフロアレベルを求める他、実験式、統計データ、理論モデル、切り出した信号内からの選択等によって周波数方向のフロアレベルを決定することもできる。
【0053】
信号検出部531は、S/Nによる閾値判定処理を行った後、判定結果を表示部532へ出力する。表示部532は、信号検出部531から入力した判定結果に基づき、周波数方向正規化処理部526から入力した計測結果660を周波数分析結果として、図示しないモニタ部へ表示する。本実施形態において、モニタ部には、信号を時間−周波数の2軸を有し、信号のレベルを輝度等で表現するグラフが表示される。なお、S/Nが良好であることから、残響信号がエコー信号よりも強く表示されたり、時間経過に伴う輝度変化によってエコー信号の識別がしづらくなる等の不具合が低減される。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るアクティブソーナー装置500は、周波数方向に切り出した信号の並び替えを行い、エコー信号と残響信号の分離を行った上で、スペクトル特性に合わせたフロアレベルを決定し、除算することで、S/N低下を起こすことなく、信号の正規化を行う。これにより、アクティブソーナー装置500における、検出性能を向上させ、信号の表示におけるエコー信号641の識別性を向上させることが出来る。
【0055】
なお、信号切り出しの際、時間と周波数の2次元データとして切り出し、残響の減衰特性曲線およびスペクトル特性曲線を用いて、第2の実施形態で説明した時間方向正規化と、本実施形態で説明した周波数方向正規化と、を同時に行うこともできる。
【0056】
ここで、アクティブソーナー装置における一般的な正規化処理として、入力信号を自身の積分値で正規化し、誤警報確率を一定にするPDAGC(Post Detection Automatic Gain Control)処理が広く用いられている。このPDAGC処理等を用いる信号正規化方法では、正規化によるS/N低下や、海底反射波の受信など大きなレベル変動の前後で、フロアレベルの変動が生じてS/Nが低下するため、アクティブソーナー装置の検出性能の低下、および、表示のエコー視認性の低下が発生する。その理由を図9を用いて説明する。
【0057】
図9において、651は周波数分析結果650を短積分した信号、652は周波数分析結果650を長積分した信号、653は短積分した信号651を長積分した信号652で除算した正規化信号である。PDAGCでは、短積分信号651を長積分信号652によって除算することにより周波数分析結果650を正規化するが、図9から分かるように、正規化信号653は、積分値の除算によってS/Nの低下が生じる。これは、フロアレベルとして除算している長積分信号652自体に、エコー信号641の成分が含まれているためである。
【0058】
また、長積分信号652は周波数分析結果650よりも信号レベルの低下が遅れるため、強い海底反射波などの信号の直後にエコー信号が入ってきた場合、正規化信号653の信号レベルが低下する。これは、エコー信号641のレベルを低下させる要因となる。
【0059】
従って、PDAGC処理によって、信号のフロアレベルが時系列で一定とするような正規化処理を行った場合、急激な信号レベル変化の前後におけるフロアレベル変動や、積分による平滑化が生じ、正規化処理によりエコー信号のS/Nを低下させ、アクティブソーナー装置の検出性能、およびグラフ表示におけるエコー視認性が低下する。
【0060】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 アクティブソーナー装置
20 送信手段
30 受信手段
40 区分手段
50 抽出手段
60 正規化手段
100 アクティブソーナー装置
110 送信信号生成部
120 送波部
130 受波部
140 FFT処理部
150 時間方向正規化処理部
151 フロアレベル算出部
152 信号切出部
153 並替部
154 フロアレベル決定部
155 正規化部
200 目標物
310、610 送信信号
320、620 音波
330、630 反射波
340、640 受信信号
341 エコー信号
342 残響信号
343 雑音信号
350、650 周波数分析結果
360、660 計測結果
400 コンピュータ
410 CPU
420 RAM
430 ROM
440 入出力インターフェース
500 アクティブソーナー装置
511 送信信号生成部
512 送信信号増幅部
513 送波部
521 受波部
522 受信信号増幅部
523 帯域濾波部
524 A/D変換部
525 FFT処理部
526 周波数方向正規化処理部
531 信号検出部
532 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段と、
目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段と、
前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出した信号を用いて正規化する正規化手段と、
を備えるアクティブソーナー装置。
【請求項2】
前記区分手段は、前記受信信号を時間方向に切り出し、
前記抽出手段は、前記セルをセル内に含まれる信号の強度レベル順に並びかえる、
請求項1記載のアクティブソーナー装置。
【請求項3】
前記正規化手段は、前記抽出した信号を残響信号の減衰特性曲線へ内挿してフロアレベルを決定し、前記切り出した区間の中心位置の強度レベルで除算することにより、正規化を行う、請求項2記載のアクティブソーナー装置。
【請求項4】
前記区分手段は、前記受信信号を周波数方向に切り出し、
前記抽出手段は、前記セルをセル内に含まれる信号のスペクトルレベル順に並びかえる、
請求項1記載のアクティブソーナー装置。
【請求項5】
前記正規化手段は、前記抽出した信号をスペクトル特性曲線へ内挿してフロアレベルを決定し、前記切り出した区間の中心位置のスペクトルレベルで除算することにより、正規化を行う、請求項4記載のアクティブソーナー装置。
【請求項6】
前記区分手段は、隣接する区間同士が重なるように前記受信信号から複数の区間を切り出す、請求項1乃至5のいずれか1項記載のアクティブソーナー装置。
【請求項7】
前記送信手段は、前記エコー信号として、時刻と共に周波数が変化する周波数変調波のパルス信号を生成する、請求項1乃至6のいずれか1項記載のアクティブソーナー装置。
【請求項8】
所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信し、
目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信し、
前記受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割し、
前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出し、
前記抽出した信号を用いて正規化する、
アクティブソーナー装置における信号正規化方法。
【請求項9】
アクティブソーナー装置において信号の正規化を行うコンピュータが実行可能なプログラムであって、
所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信する機能、
目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する機能、
前記受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する機能、
前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号の長さに対応する範囲に位置するセル内の信号を抽出する機能、
前記抽出した信号を用いて正規化する機能、
を、前記コンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−68553(P2013−68553A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208262(P2011−208262)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】