説明

アクティブマトリクス型表示装置及びその駆動方法

【課題】 アクティブマトリクス型の表示装置において、残像現象を抑制し、表示品位の向上を図る。
【解決手段】 保持容量線電位切換回路101が保持容量線217の電位を第1の電位Vsc1から当該第1の電位Vsc1より高い第2の電位Vsc2に切り換えると同時に、電源電位切換回路102が電源線215の電位を第1の電源電位PVdd1から当該第1の電源電位PVdd1より低い第2の電源電位PVdd2に切り換える。これらの相乗効果により、駆動用TFT214のゲート電位Vgが、そのソース電位に対して、当該TFTの閾値Vtp以上に高くなる。ここで、駆動用TFT214のゲート絶縁膜に、前回の表示信号Dの書き込みにより正孔がトラップされていたとすると、正孔はゲート絶縁膜からソースあるいはドレインに引き抜かれる。これにより、駆動用TFT214の電気的特性が初期化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブマトリクス型表示装置及びその駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CRTやLCDに代わる表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス素子(Organic Electro Luminescent Device:以降、「有機EL素子」と略称する)素子を用いた有機EL表示装置が開発されている。特に、有機EL素子を駆動させるスイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以降、「TFT」と略称する)を備えたアクティブマトリクス型の有機EL表示装置が開発されている。
【0003】
以下で、アクティブマトリクス型の有機EL表示装置について、図面を参照して説明する。図8は、この有機EL表示装置の等価回路図である。図8では、表示パネルにマトリクス状に配置された複数の表示画素の中から、1つの表示画素210だけを示している。
【0004】
行方向に延びた画素選択信号線211と列方向に延びた表示信号線212の交差点の付近に、Nチャネル型の画素選択用TFT213が配置されている。この画素選択用TFT213のゲートは、画素選択信号線211に接続されており、そのドレインは、表示信号線212に接続されている。画素選択信号線211には垂直駆動回路301から出力されるハイレベルの画素選択信号Gが印加され、それに応じて画素選択用TFT213がオンする。表示信号線212には水平駆動回路302から表示信号Dが出力される。
【0005】
画素選択用TFT213のソースは、Pチャネル型の駆動用TFT214のゲートに接続されている。駆動用トランジスタ214のソースには、正電源電位PVddを供給する電源線215が接続されている。駆動用トランジスタ214のドレインは有機EL素子216の陽極に接続されている。有機EL素子216の陰極には負電源電位CVが供給されている。
【0006】
また、駆動用TFT214のゲートと保持容量線217の間には保持容量218が接続されている。保持容量線217は一定の電位に固定されている。保持容量218は、画素選択用TFT213を通して駆動用TFT214のゲートに印加される表示信号Dを一水平期間保持する。
【0007】
次に、上述した有機EL表示装置の動作について説明する。ハイレベルの画素選択信号Gが1水平期間にわたって画素選択信号線211に印加されると、画素選択用TFT213がオンする。すると、表示信号線212の出力された表示信号Dが画素選択用TFT213を通して、駆動用TFT214のゲートに印加されると共に、保持容量218によって保持される。即ち、表示信号Dが表示画素210に書き込まれる。
【0008】
そして、駆動用TFT214のゲートに印加された表示信号Dに応じて、駆動用TFT214のコンダクタンスが変化して、駆動用トランジスタ214がオン状態となる場合には、そのコンダクタンスに応じた電流が駆動用TFT214を通して有機EL素子216に供給され、有機EL素子216がそれに応じた輝度で点灯する。一方、当該ゲートに供給された表示信号Dに応じて、駆動用TFT214がオフ状態となる場合には、駆動用TFT214には電流が流れないため、有機EL素子216は消灯する。
【0009】
上述した動作を、1フィールド期間にわたって、全ての行の表示画素210に対して行うことにより、表示パネル全体に所望の画像を表示することができる。
【0010】
なお、本願に関連する技術文献としては、以下の特許文献が挙げられる。
【特許文献1】特開2004−341435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した有機EL表示装置では、有機EL素子216の発光による残像が表示パネルの一部に生じることがあり、そのため表示品位が劣化するという問題があった。これは、同一の表示画素について、前回に表示信号Dが書き込まれた時の駆動用TFT214の導通状態(オン状態もしくはオフ状態)によっては、今回に書き込まれた時の駆動用TFT214に、今回の表示信号Dに応じて期待される電流値とは異なる電流値の電流が流れてしまうためである。即ち、駆動用TFT214に流れる電流にヒステリシスがあるという現象である。この現象は、特に表示信号Dがハイレベルとロウレベルの中間レベルの信号である場合に顕著である。
【0012】
本発明者の検討によれば、このヒステリシス現象は、前回の表示信号Dの書き込み時に、駆動用TFT214に流れるキャリア(正孔)がそのゲート絶縁膜中にトラップされ、そのトラップされたキャリアが駆動用TFT214の閾値を変動させているためと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、上述のような表示パネルの残像を抑制し、表示品位の向上を図ったアクティブマトリクス型表示装置を提供するものである。
【0014】
本発明のアクティブマトリクス型表示装置は、マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、表示信号を保持する保持容量とを備え、さらに、保持容量線の電位を第1の電位から該第1の電位と異なる第2の電位に切り換えて駆動用トランジスタをオフ状態とし、保持容量線の電位を第2の電位から第1の電位に戻すように切り換える保持容量線電位切換回路を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のアクティブマトリクス型表示装置は、上記構成に加えて、電源線の電位を第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換え、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換える電源電位切換回路を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のアクティブマトリクス型表示装置は、マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、表示信号を保持する保持容量とを備え、さらに、電源線の電位を、第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換えて駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換える電源電位切換回路を備えることを特徴とする。
【0017】
上述した構成によれば、駆動用トランジスタのゲート絶縁膜中にトラップされたキャリアをソースあるいはドレインに抜くことができるので、表示画素に表示信号を書き込む前に、駆動用トランジスタの電気的特性(特に、閾値電圧)を元の状態に戻すことができる。これにより、駆動用トランジスタには、常に表示信号に応じた適正な電流値の電流が流れるようになり、表示パネルの残像現象を抑制することができる。
【0018】
また、本発明のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法は、マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、表示信号を保持する保持容量とを備えたアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法において、保持容量線の電位を該第1の電位から該第2の電位に切り換えて駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び保持容量線の電位を該第2の電位から該第1の電位に戻すように切り換え、その後、画素選択信号に応じて画素選択用トランジスタを通して表示信号を駆動用トランジスタに印加することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法は、上記駆動方法において、電源線の電位を第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換え、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法は、マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、表示信号を保持する保持容量とを備えたアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法において、電源線の電位を該第1の電源電位から該第2の電源電位に切り換えて駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換え、その後、画素選択信号に応じて画素選択用トランジスタを通して表示信号を駆動用トランジスタに印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アクティブマトリクス型の表示装置において、表示パネルの残像を抑制し、表示品位の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置及びその駆動方法について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。図1では、表示パネルにマトリクス状に配置された複数の表示画素の中から、1つの表示画素210Aのみを示している。なお、図1において、図8と同一の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
図1に示すように、この有機EL表示装置は、表示画素210Aの保持容量線217に接続された保持容量線電位切換回路101を備えている。この保持容量線電位切換回路101は、保持容量線217の電位を、第1の電位Vsc1から、当該第1の電位Vsc1より高い第2の電位Vsc2に切り換えて駆動用TFT214をオフ状態とし、再び保持容量線217の電位を第2の電位Vsc2から第1の電位Vsc1に戻すように切り換える。
【0024】
さらに、本実施形態の有機EL表示装置は、表1に示すような仕様であることが好ましい。表1は、正電源電位PVdd、負電源電位CV、表示信号Dの電位Vsig、上記第1の電位Vsc1及び第2の電位Vsc2のとり得る値を示している。また、表1において、チャネル幅W、チャネル長L、キャリア移動度μ、ゲート容量Coxは、駆動用TFT214の仕様を示すパラメータである。
【0025】
また、Tsc1は、保持容量線217の電位が第1の電位Vsc1となる期間を表し、Tsc2は、保持容量線217の電位が第2の電位Vsc2となる期間を表している。ここで、保持容量線217の電位が第2の電位Vsc2となる期間Tsc2において、駆動用TFT214のゲート電位Vgと当該TFTの閾値Vtpが数1の式を満たすように、表1の各電位やパラメータが設定される必要がある。
【0026】
【表1】

【0027】
【数1】

【0028】
次に、上述した有機EL表示装置の駆動方法について、図面を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【0029】
図2に示すように、保持容量線電位切換回路101は第1の電位Vsc1を出力しているが、所定のタイミングで、第1の電位Vsc1を第2の電位Vsc2に切り換えて、保持容量線217の電位を第2の電位Vsc2へ上昇させる。
【0030】
すると、保持容量218の容量結合効果により、駆動用TFT214のゲートの電位Vgが、第1の電位Vsc1から第2の電位Vsc2への電圧変化分ΔVに応じて上昇する。これにより、駆動用TFT214のゲート電位Vgが、そのソース電位PVddに対して、当該駆動用TFT214の閾値Vtp以上に高くなり、当該駆動用TFT214はオフ状態となる。ここで、VsigMINを表示信号Dの電位の最小値、Csを保持容量218の容量値、Cpを駆動用TFT214のゲートに接続される配線の寄生容量219の容量値とすると、数2の式が成立する。
【0031】
【数2】

【0032】
このとき、駆動用TFT214のゲート絶縁膜に、前回の表示信号Dの書き込みにより、キャリア(正孔)がトラップされていたとすると、そのキャリア(正孔)は、ゲートからソースあるいはドレインへ向かう電界によりトンネル電流となって、ゲート絶縁膜からソースあるいはドレインに引き抜かれる。これにより、駆動用TFT214の電気的特性が初期化される。
【0033】
次に、駆動用TFT214の電気的特性が初期化された後、保持容量線電位切換回路101は、保持容量線217の電位を第2の電位Vsc2から第1の電位Vsc1に戻すように切り換える。これにより、駆動用TFT214のゲート電位Vgは元に戻り、保持容量218にも元の表示信号Dが保持された状態となる。
【0034】
なお、駆動用TFT214の電気的特性を初期化するためには、表1に示すように、保持容量線217の電位が第2の電位Vsc2となる期間Tsc2は、保持容量線217の電位が第1の電位Vsc1となる期間Tsc1の300分の1以上とする。このとき、表1に示した仕様の有機EL表示装置において、例えば1フレーム期間が16.6msである場合には、駆動用TFT214がオフして有機EL素子216が消灯とする期間が5ms以上となる。
【0035】
その後、垂直駆動回路301からハイレベルの画素選択信号Gが出力され、これに応じて画素選択用TFT213が1水平期間オンする。そして、この1水平期間中に、水平駆動回路302から表示画素210の表示信号線212に表示信号Dが出力され、この表示信号Dが画素選択用TFT213を通して、駆動用TFT214のゲートに印加されると共に、保持容量218に保持される。そして、表示信号Dに応じた電流が駆動用TFT214から有機EL素子216に供給され、有機EL素子216が発光する。
【0036】
このように、本実施形態によれば、表示信号Dに応じた有機EL素子217の発光の前に、駆動用TFT214のゲート絶縁膜中のキャリア(正孔)を抜き取り、その電気的特性を初期化しているので、表示パネルの残像現象を抑制し、その表示品位を向上させることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、保持容量線217の電位が第2の電位Vsc2となる期間Tsc2は第1の電位Vsc1となる期間Tsc1の300分の1以上としたが、この根拠は、図3の特性図に示す消灯比率(有機EL素子216の発光時間に対する消灯時間の比率)と残像時間との関係から導かれたものである。
【0038】
この図では、消灯比率が零(即ち有機EL素子216が非消灯)のときにおける残像時間(a.u.)を1とする。また、本発明者による実験に基づく知見によれば、消灯比率が零のときの残像時間がそれよりも0.01以上の範囲で低下する場合、有機EL素子216の残像低減効果として認識できることが判明している。
【0039】
即ち、消灯比率が300分の1以上となる範囲では、残像時間は1(消灯比率が零のとき)よりも0.01以上の範囲で低下しており、残像抑制の効果が得られることが分かる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置及びその駆動方法について、図面を参照して説明する。図4は、本実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。図4では、表示パネルにマトリクス状に配置された複数の表示画素の中から、1つの表示画素210Bのみを示している。なお、図4において、図1及び図8と同一の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
図4に示すように、本実施形態の有機EL表示装置は、第1の実施形態とは異なり、表示画素210Bの保持容量線217の電位は固定電位Vscに保持されている。また、この有機EL表示装置は、電源線215に接続された電源電位切換回路102を備えている。この電源電位切換回路102は、電源線215の電位を、第1の電源電位PVdd1から、当該第1の電源電位PVdd1より低い第2の電源電位PVdd2に切り換えて駆動用TFT214をオフ状態とし、再び電源線215の電位を第2の電源電位PVdd2から第1の電源電位PVdd1に戻すように切り換える。
【0042】
さらに、本実施形態の有機EL表示装置は、表2に示すような仕様であることが好ましい。表2において、表記が表1と共通する各項目は、表1と同様の各電位やパラメータを表している。
【0043】
また、Tv1は、電源線215の電位が第1の電源電位PVdd1となる期間を表し、Tv2は、電源線215の電位が第2の電源電位PVdd2となる期間を表している。ここで、駆動用TFT214のゲート電位Vgと当該TFTの閾値Vtpが数3の式を満たすように、表2の各電位やパラメータが設定される必要がある。
【0044】
【表2】

【0045】
【数3】

【0046】
次に、上述した有機EL表示装置の駆動方法について、図面を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【0047】
図5に示すように、電源線電位切換回路102は、第1の電源電位PVdd1を出力しているが、所定のタイミングで、第1の電源電位PVdd1を第2の電源電位PVdd2に切り換えて、電源線215の電位を第2の電源電位PVdd2へ低下させる。
【0048】
これにより、駆動用TFT214のゲート電位Vgが、そのソース電位PVdd2に対して、駆動用TFT214の閾値Vtp以上に高くなり、当該駆動用TFT214はオフ状態となる。即ち、数4の式が成立する。
【0049】
【数4】

【0050】
このとき、駆動用TFT214のゲート絶縁膜に、前回の表示信号Dの書き込みにより、キャリア(正孔)がトラップされていたとすると、そのキャリア(正孔)は、ゲートからソースあるいはドレインへ向かう電界によりトンネル電流となって、ゲート絶縁膜からソースあるいはドレインに引き抜かれる。これにより、駆動用TFT214の電気的特性が初期化される。
【0051】
次に、駆動用TFT214の電気的特性が初期化された後、電源電位切換回路102は、電源線215の電位を第2の電源電位PVdd2から第1の電源電位PVdd1に戻すように切り換える。これにより、駆動用TFT214のゲート電位Vgは元に戻り、保持容量218にも元の表示信号Dが保持された状態となる。そして、第1及び第2の実施形態と同様に、当該表示信号Dに応じた電流が駆動用TFT214から有機EL素子216に供給され、有機EL素子216が発光する。
【0052】
なお、表2に示すように、駆動用TFT214の電気的特性を初期化するためには、電源線215の電位が第2の電源電位PVdd2となる期間Tv2は、電源線215の電位が第1の電源電位PVdd1となる期間Tv1の300分の1以上とする(第1の実施形態と同様に図3を根拠とする)。このとき、表1に示した仕様の有機EL表示装置において、例えば1フレーム期間が16.6msである場合には、駆動用TFT214がオフして有機EL素子216が消灯とする期間が5ms以上となる。
【0053】
このように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、表示信号Dに応じた有機EL素子217の発光の前に、駆動用TFT214のゲート絶縁膜中のキャリア(正孔)を抜き取り、その電気的特性を初期化しているので、表示パネルの残像現象を抑制し、その表示品位を向上させることができる。
【0054】
なお、本発明は、上述した第1及び第2の実施形態を同時に実施した場合についても適用できる。次に、そのような本発明の第3の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置及びその駆動方法について、図面を参照して説明する。
【0055】
図6は、本実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。図6では、表示パネルにマトリクス状に配置された複数の表示画素の中から、1つの表示画素210Cのみを示している。なお、図6において、図1、図4及び図8と同一の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図6に示すように、この有機EL表示装置は、表示画素210Cの保持容量線217に接続された保持容量線電位切換回路101、及びその電源線215に接続された電源電位切換回路102を備えている。保持容量線電位切換回路101及び電源電位切換回路102は、第1の実施形態及び第2の実施形態で示したものと同様の電位切換回路である。
【0057】
さらに、本実施形態の有機EL表示装置は、表3に示すような仕様であることが好ましい。表3において、表記が表1及び表2と共通する各項目は、表1及び表2と同様の各電位やパラメータを表している。
【0058】
【表3】

【0059】
次に、上述した有機EL表示装置の駆動方法について、図面を参照して説明する。図7は、本実施形態に係る表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【0060】
図7(A)に示すように、保持容量線電位切換回路101が保持容量線217の電位を第1の電位Vsc1から第2の電位Vsc2に切り換えると同時に、電源電位切換回路102が電源線215の電位を第1の電源電位PVdd1から第2の電源電位PVdd2に切り換える。
【0061】
すると、駆動用TFT214のゲートの電位Vgが、第1の電位Vsc1から第2の電位Vsc2への電圧変化分ΔVに応じて上昇すると同時に、駆動用TFT214のソース電位はPVdd2に下降する。これらの相乗効果により、駆動用TFT214のゲート電位Vgが、そのソース電位PVdd2に対して、駆動用TFT214の閾値Vtp以上に高くなり、当該駆動用TFT214はオフ状態となる。即ち、数5の式が成立する。
【0062】
【数5】

【0063】
このとき、駆動用TFT214のゲート絶縁膜に、前回の表示信号Dの書き込みにより、キャリア(正孔)がトラップされていたとすると、そのキャリア(正孔)は、ゲートからソースあるいはドレインへ向かう電界によりトンネル電流となって、ゲート絶縁膜からソースあるいはドレインに引き抜かれる。これにより、駆動用TFT214の電気的特性が初期化される。
【0064】
次に、駆動用TFT214の電気的特性が初期化された後、保持容量線電位切換回路101が保持容量線217の電位を第2の電位Vsc2から第1の電位Vsc1に戻すように切り換えると同時に、電源電位切換回路102が電源線215の電位を第2の電源電位PVdd2から第1の電源電位PVdd1に戻すようにして切り換える。これにより、駆動用TFT214のゲート電位Vgは元に戻り、保持容量218にも元の表示信号Dが保持された状態となる。そして、第1及び第2の実施形態と同様に、当該表示信号Dに応じた電流が駆動用TFT214から有機EL素子216に供給され、有機EL素子216が発光する。
【0065】
ここで、駆動用TFT214の電気的特性を初期化するためには、第1の実施形態と同様に、保持容量線217の電位が第2の電位Vsc2となる期間Tsc2は、保持容量線217の電位が第1の電位Vsc1となる期間Tsc1の300分の1以上とする(第1の実施形態と同様に図3を根拠とする)。このとき、表3に示した仕様の有機EL表示装置において、例えば1フレーム期間が16.6msである場合には、駆動用TFT214がオフして有機EL素子216が消灯とする期間が5ms以上となる。
【0066】
なお、保持容量線217の電位と電源線215の電位を切り換えるタイミングは、必ずしも一致する必要はない。即ち、図7(B)に示すように、保持容量線217の電位が第1の電位Vsc1(もしくは第2の電位Vsc2)となる期間と、電源線215の電位が第1の電源電位PVdd1(もしくは第2の電源電位Vc2)となる期間とは、互いに同期していれば、一部重なり合うようにシフトされてもよい。もしくは、上記両期間は、図7(C)に示すように、互いに同期していれば、互いに重ならないようにシフトされていてもよい。ただし図7(C)に示した駆動方法を実施する場合、有機EL表示装置は、表3に示した仕様に限定されない。
【0067】
このように、本実施形態によれば、保持容量線217の電位及び電源線215の電位の両者を切り換えて、駆動用TFT214のゲート電位をそのソース電位より高く上昇させて、駆動用TFT214のゲート絶縁膜中のキャリア(正孔)を抜き取っている。これにより、駆動用TFT214のゲート電位が第1及び第2の実施形態に比して高くなるため、駆動用TFT214の電気的特性を初期化を、第1及び第2の実施形態に比してより確実に行うことが可能となる。
【0068】
なお、上述した第1乃至第3の実施形態では、発光素子として有機EL素子216を用いているが、その替わりに、有機EL素子以外の発光素子、例えば、無機EL素子や発光ダイオードを用いてもよい。
【0069】
また、上述した第1乃至第3の実施形態では、画素選択用TFT213は例えばNチャネル型TFTであり、駆動用TFT214は例えばPチャネル型TFTであるとしたが、これらのTFTは他の導電チャネル型であってもよい。駆動用TFT214がNチャネル型TFTである場合には、上記実施形態とは逆に、第2の電位Vsc2は第1の電位Vsc1より低く設定される。また、第2の電源電位PVdd2は第1の電源電位PVdd1より低く設定される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【図3】有機EL素子の残像時間と消灯比率との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る有機EL表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る有機EL表示装置の等価回路図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る有機EL表示装置の駆動方法を説明するタイミング図である。
【図8】従来例に係る有機EL表示装置の等価回路図である。
【符号の説明】
【0071】
101 保持容量線切換回路 102 電源電位切換回路
210,210A,210B,210C 表示画素 211 画素選択信号線
212 表示信号線 213 画素選択用TFT 214 駆動用TFT
215 電源線 216 有機EL素子 217 保持容量線
218 保持容量 219 寄生容量 301 垂直駆動回路
302 水平駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、
各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、前記画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて前記発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、前記駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、前記表示信号を保持する保持容量とを備え、
さらに、前記保持容量線の電位を第1の電位から該第1の電位と異なる第2の電位に切り換えて前記駆動用トランジスタをオフ状態とし、前記保持容量線の電位を第2の電位から第1の電位に戻すように切り換える保持容量線電位切換回路を備えることを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項2】
前記保持容量線の前記第2の電位が前記第1の電位より高いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項3】
前記電源線の電位を、第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換え、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換える電源電位切換回路を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項4】
前記電源線の前記第2の電源電位が、前記第1の電源電位より低いことを特徴とする請求項3記載のアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項5】
マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、
各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、前記画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて前記発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、前記駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、前記表示信号を保持する保持容量とを備え、
さらに、前記電源線の電位を、第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換えて前記駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換える電源電位切換回路を備えることを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項6】
前記電源線の前記第2の電源電位が、前記第1の電位より低いことを特徴とする請求項5記載のアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項7】
前記発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載のアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項8】
マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、
各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、前記画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて前記発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、前記駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、前記表示信号を保持する保持容量とを備えたアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法において、
前記保持容量線の電位を該第1の電位から該第2の電位に切り換えて前記駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び前記保持容量線の電位を該第2の電位から該第1の電位に戻すように切り換え、
その後、前記画素選択信号に応じて前記画素選択用トランジスタを通して前記表示信号を前記駆動用トランジスタに印加することを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項9】
前記保持容量線の前記第2の電位が前記第1の電位より高いことを特徴とする請求項8記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項10】
前記保持容量線の電位が前記第2の電位となる期間は、前記保持容量線の電位が前記第1の電位となる期間の300分の1以上であることを特徴とする請求項9記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項11】
前記電源線の電位を第1の電源電位から該第1の電源電位と異なる第2の電源電位に切り換え、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換えることを特徴とする請求項8、9、10のいずれかに記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項12】
前記電源線の前記第2の電源電位が、前記第1の電源電位より低いことを特徴とする請求項11記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項13】
前記電源線の電位が前記第2の電源電位となる期間は、前記電源線の電位が前記第1の電源電位となる期間の300分の1以上であることを特徴とする請求項12記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項14】
マトリクス状に配置された複数の表示画素を備え、
各表示画素は画素選択信号に応じてオンする画素選択用トランジスタと、発光素子と、電源線に接続され、前記画素選択用トランジスタを通して印加される表示信号に応じて前記発光素子を駆動する駆動用トランジスタと、前記駆動用トランジスタのゲートと保持容量線の間に接続され、前記表示信号を保持する保持容量とを備えたアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法において、
前記電源線の電位を該第1の電源電位から該第2の電源電位に切り換えて前記駆動用トランジスタをオフ状態とし、再び前記電源線の電位を該第2の電源電位から該第1の電源電位に戻すように切り換え、
その後、前記画素選択信号に応じて前記画素選択用トランジスタを通して前記表示信号を前記駆動用トランジスタに印加することを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項15】
前記電源線の前記第2の電源電位が、前記第1の電源電位より低いことを特徴とする請求項14に記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項16】
前記電源線の電位が前記第2の電源電位となる期間は、前記電源線の電位が前記第1の電源電位となる期間の300分の1以上であることを特徴とする請求項請求項15に記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。
【請求項17】
前記発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16のいずれかに記載のアクティブマトリクス型表示装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−251454(P2006−251454A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68812(P2005−68812)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】