説明

アクリルエラストマー組成物

【課題】有機過酸化物によって架橋されるアクリルエラストマー組成物であって、ホース等を成形するためスチーム加硫した場合にあっても黄色ブルームなどを発生させず、これによる外観不良を発生させないものを提供する。
【解決手段】5〜80重量%のアルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマー、少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤および有機過酸化物を含有するアクリルエラストマー組成物。少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤としては、好ましくは4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、ビスフェノールA・ジフェニルエーテルビスマレイミドまたは3,3′-ジメチル-5,5′-ジエチル-4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルエラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、スチーム加硫が適用された加硫成形品に着色ブルームを発生させないアクリルエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートを共重合させたアクリルエラストマーは、そこにビスマレイミド化合物および有機過酸化物を添加することにより、熱プレス、スチーム等による架橋が可能であることが知られている。すなわち、アルコキシアルキル基というエーテル基を有する共重合体であるアクリルエラストマーは、ビスマレイミド化合物のエーテル基に対する反応により過酸化物架橋を可能としている。
【特許文献1】特開平10−231386号公報
【0003】
過酸化物架橋は、(水素化)NBR等でも一般的に行われる加硫システムであるため、アクリルエラストマーについても過酸化物架橋が可能であれば、(水素化)NBR等とアクリルエラストマーとの積層成形が可能となるため、昨今注目されている加硫方法であるといえる。
【0004】
前記特許文献1には、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートを共重合させた過酸化物架橋性アクリルエラストマーにあっては、N,N′-m-フェニレンジマレイミドを共架橋剤としてスチーム加硫することにより、加硫性、加硫物物性、耐熱老化性などにすぐれたホース等の加硫物が得られるとされている。しかしながら、ホース等の押出成形や大型ロールの一次加硫として主に用いられているスチーム加硫においては、その加硫時にN,N′-m-フェニレンジマレイミドに起因する黄色ブルームが発生し、外観不良となるという問題がみられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有機過酸化物によって架橋されるアクリルエラストマー組成物であって、ホース等を成形するためスチーム加硫した場合にあっても黄色ブルームなどを発生させず、これによる外観不良を発生させないものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、5〜80重量%のアルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマー、少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤および有機過酸化物を含有するアクリルエラストマー組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るアクリルエラストマー組成物は、ホース等の押出成形や大型ロールの一次加硫として主に用いられているスチーム加硫においても、マレイミド共架橋剤に起因する黄色ブルームなどを発生させず、これによる外観不良を発生させない加硫物を提供する。このため、スチーム加硫を実施する各種ホース類、各種シール材、ダイヤフラム、各種ロール等の加硫成形材料として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
アクリルエラストマーとしては、5〜80重量%、好ましくは10〜70重量%のアルコキシアルキル基の炭素数が2〜6のアルコキシアルキルアクリレート、例えばメトキシメチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート、3-エトキシプロピルアクリレート等、好ましくは2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマーが用いられる。アルコキシアルキルアクリレートの共重合割合がこれよりも少ないと、耐寒性、耐油性のバランスが悪くなり、また架橋密度も低くなり、一方これよりも多い割合で共重合させると、耐熱性および常態物性を低下させるようになり、より具体的には架橋密度が非常に高くなり、伸びが低下してゴムとしての機能が失われるようになる。
【0009】
これらのアルコキシアルキルアクリレートは、80〜5重量%、好ましくは70〜10重量%のアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリレートまたはこれらに対応するメタクリレートの少なくとも一種、好ましくはエチルアクリレート、n-ブチルアクリレートまたはこれらの両者を共重合させたアクリレートが耐油性および耐寒性のバランスの点で好んで用いられる。一般に、アルキル基の鎖長が長くなると耐寒性の点では有利となるが、耐油性の点では不利となり、鎖長が短くなるとその逆の傾向となる。
【0010】
アクリルエラストマー共重合体中には、約30重量%以下の割合で他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー、例えばスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、(メタ)アクリロニトリル、アクリル酸アミド、酢酸ビニル、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、エチレン、プロピレン、ピペリレン、イソプレン、ペンタジエン、ブタジエン等を共重合させることができる。
【0011】
さらに、側鎖にエーテル結合を有する(メタ)アクリレート、例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を約10重量%以下の割合で共重合させることができる。
【0012】
また、必要に応じて、混練加工性、押出加工性などを改善する目的で、アクリルエラストマー共重合体中約5重量%以下の多官能性不飽和モノマーまたはオリゴマー、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、3-アクリロイルオキシグリセリンモノメタクリレート等を共重合させることができる。
【0013】
これら各モノマー成分の共重合反応は、溶液重合、乳化重合、けん濁重合などの各種重合法によって行われ、重合転化率が90%またはそれ以上に達する迄共重合反応が行われるので、各モノマー成分の仕込み重量比がほぼ共重合重量比となる。
【0014】
少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤としては、例えば4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、

ビスフェノールA・ジフェニルエーテルビスマレイミドまたは3,3′-ジメチル-5,5′-ジエチル-4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドが用いられ、これらの例にみられるようにフェニル基は低級アルキル基等で置換されていてもよい。これらのマレイミド共架橋剤は、アクリルエラストマー 100重量部当り0.2〜15重量部、好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。これ以上の割合で共架橋剤が用いられると、加硫物の強度、伸び等の一般物性が損なわれるようになり、一方これ以下の割合では、加硫物の一般物性が不十分なものとなる。
【0015】
アルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマーと共にエチレン-アクリレート共重合体ゴムを併用することもでき、その場合にはこれらの合計量100重量部当り上記割合の共架橋剤が用いられる。エチレン-アクリレート共重合体ゴムは、アルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマーとの合計量中50重量%以下、好ましくは30重量%以下の割合で用いられる。
【0016】
エチレン-アクリレート共重合体ゴムは、エチレン 20〜75重量%、好ましくは30〜65重量%と残部が前記の如きアルキルアクリレート、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレートとを共重合させた共重合体ゴムであり、そこにはさらに前記の如きアルコキシアルキルアクリレートを共重合させることができる。かかる共重合体ゴム中には、30重量%以下、好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは3〜5重量%の架橋サイトモノマーを共重合させることができる。
【0017】
また、有機過酸化物としては、ジ第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が、アクリルエラストマー 100重量部当り0.2〜10重量部、好ましくは0.75〜2重量部の割合で用いられる。
【0018】
組成物の調製は、有機過酸化物架橋剤および共架橋剤を除く各成分をバンバリーミキサ、ニーダ等の混練機で混練した後、架橋剤および共架橋剤を加えてオープンロールで混練し、調製された組成物は約150〜230℃、約1〜40分間の一次加硫が行われ、一次加硫は好ましくは押出スチーム加硫によって行われるが、熱プレス等の成形法を適用することもでき、必要に応じて約150〜200℃、約0.5〜20時間の二次加硫が行われる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0020】
実施例1
アクリルエラストマーA 注) 100重量部
ステアリン酸 1 〃
4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン 2 〃
2,2′-メチレンビス(4-エチル-6-第3ブチルフェノール) 0.75 〃
FEFカーボンブラック(N550) 55 〃
1,3-ジ(第3ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン 0.5 〃
4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド 6 〃

注) エチルアクリレート 30重量%、n-ブチルアクリレート 35重量%および2-メ トキシエチルアクリレート 35重量%を重合転化率90%に達する迄乳化重合反 応を継続して得られた3元共重合体ゴム
【0021】
以上の各成分(架橋剤および共架橋剤を除く)をバンバリーミキサを用いて混練し、混練物にオープンロールを用いて架橋剤および共架橋剤を添加し、得られた組成物をホース状に押出成形した後、加硫缶内で160℃、30分間のスチーム加硫(一次加硫)を行い、次いで175℃、4時間のオーブン加硫(二次加硫)を行った。
【0022】
得られた二次加硫ホースについて加硫物物性(JIS K-6253、JIS K-6251準拠)の測定を行い、またスチーム加硫ホースについて目視による外観状況(黄色ブルームの有無)の確認を行った。
【0023】
実施例2
実施例1において、4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドの代りに、同量のポリフェニレンメタンマレイミドが用いられた。
【0024】
実施例3
実施例1において、4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドの代りに、同量のビスフェノールA・ジフェニルエーテルビスマレイミドが用いられた。
【0025】
実施例4
実施例1において、4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドの代りに、同量の3,3′-ジメチル-5,5′-ジエチル-4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドが用いられた。
【0026】
実施例5
実施例1において、アクリルエラストマー 100重量部中の25重量部がエチレン-アクリレート共重合体ゴム(デュポン社製品Vamac DP)で置換して用いられた。
【0027】
実施例6
実施例1において、アクリルエラストマーA中の2-メトキシエチルアクリレートを同割合の2-エトキシエチルアクリレートを置き換えて共重合させたアクリルエラストマーBが、アクリルエラストマーAの代りに同量用いられた。
【0028】
比較例
実施例1において、4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドの代りに、同量のN,N′-m-フェニレンジマレイミドが用いられた。
【0029】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較
測定・評価項目
〔加硫物物性〕
硬度 (デュロA) 55 58 53 47 56 55 51
引張強さ (MPa) 9.0 8.7 8.0 6.8 9.8 8.8 9.8
破断時伸び (%) 230 210 250 360 260 230 250
〔スチーム加硫物外観状況〕
黄色ブルーム なし なし なし なし なし なし あり


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜80重量%のアルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマー、少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤および有機過酸化物を含有してなるアクリルエラストマー組成物。
【請求項2】
少なくとも2個のフェニル基を有するマレイミド共架橋剤が、4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、ビスフェノールA・ジフェニルエーテルビスマレイミドまたは3,3′-ジメチル-5,5′-ジエチル-4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミドである請求項1記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項3】
アクリルエラストマー 100重量部当り0.2〜15重量部のマレイミド共架橋剤が用いられた請求項1または2記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項4】
アルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリルエラストマーと共にエチレン-アクリレート共重合体ゴムが用いられた請求項1記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項5】
エチレン-アクリレート共重合体ゴムがアルコキシアルキルアクリレートを共重合させたアクリレートとの合計量中50重量%以下の割合で用いられた請求項4記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項6】
一次加硫としてスチーム加硫が適用される請求項1、2、3、4または5記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項7】
実施例6記載のアクリルエラストマー組成物に一次加硫としてスチーム加硫が適用され、加硫成形されたホース。
【請求項8】
実施例6記載のアクリルエラストマー組成物に一次加硫としてスチーム加硫が適用され、加硫成形されたロールまたはシール材。

【公開番号】特開2007−327004(P2007−327004A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161276(P2006−161276)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】