説明

アクリル系多層構造重合体混合粉末、その製造方法および樹脂組成物

【課題】ゴム成分を多量に含むアクリル系多層構造重合体の耐衝撃性、光学特性を損なうこと無く、粉体特性、特に嵩比重と耐ブロッキング性を改良したアクリル系多層構造重合体混合粉末を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体層を有するアクリル系多層構造重合体(α)およびガラス転移温度Tg40〜85℃かつ重量平均分子量150万〜800万の硬質非弾性重合体(β)を含むアクリル系多層構造重合体混合粉末により、上記課題は達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系多層構造重合体の粉体特性を改良した混合粉末、その製造方法および樹脂組成物に関する。特に、本発明は、優れた粉体特性を有するアクリル系多層構造重合体の混合粉末および耐衝撃性、光学特性を低下させることの無い耐衝撃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粉体の自動計量や輸送ラインの大型化が進められ、それに伴い、粉体には耐ブロッキング性などの特性への改良要求が強くなってきている。また、ユーザーも世界的な広がりとなっていることから、粉体が製造された後に、輸送や貯蔵の間に熱履歴を受けるので、粉体特性をさらに改良する方法も検討されている。
【0003】
例えば、ゴム成分を多量に含むグラフト共重合体スラリーに対し、メチルメタクリレートを必須成分とした硬質多段重合体を添加したり(特許文献1)、メチルメタクリレート30〜60重量%、芳香族ビニル単量体65〜35重量%、架橋性単量体0.1〜25重量%および共重合可能なその他の単量体0〜30重量%からなる重合体を添加したりして(特許文献2)、粉体特性を改良する方法が開発されている。
【0004】
ゴム質重合体が30〜80質量%であるグラフト共重合体に重量平均分子量が100万以下であるビニル系重合体粉体を含む粉体組成物が開示されている(特許文献3)が、粉体特性は改良されているものの十分ではない。
【0005】
更に、グラフト共重合体に硬質の共重合体を添加して、耐ブロッキング性に優れた粉体を得る方法も開発されている(特許文献4、特許文献5)。
【0006】
これら特許文献1〜4に示されている方法を用いた場合、高いレベルの耐ブロッキング性を達成しようとすると、得られるグラフト共重合体の微粉の比率が高くなり易かった。そして、微粉は飛散し易いため、乾燥時の収率低下を招いたり、グラフト共重合体使用の際の作業環境を著しく損なったりすることがあった。また、特許文献5はブタジエン系グラフト共重合体を使用しているため耐侯性が不十分であった。
【0007】
以上のごとく、最終的に得られるグラフト重合体粉末の粉体特性および樹脂組成物の耐衝撃性、光学特性を損なうことなく、粉体の嵩比重を高め、しかも高いレベルの耐ブロッキング性を得る方法は未だ見出されていないのが実情であった。
【特許文献1】特開平04−300947号公報
【特許文献2】特開平07−003106号公報
【特許文献3】特開平04−335052号公報
【特許文献4】特開平03−119030号公報
【特許文献5】特開2002−309056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、ゴム成分を多量に含むアクリル系多層構造重合体の耐衝撃性、光学特性を損なうこと無く、粉体特性、特に嵩比重と耐ブロッキング性を改良したアクリル系多層構造重合体混合粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アクリル系多層構造重合体の耐衝撃性、光学特性を低下させること無く粉体特性を改良した混合樹脂粉末を得る方法に関して鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ゴム質重合体層を有するアクリル系多層構造重合体(α)およびガラス転移温度Tg40〜85℃かつ重量平均分子量150万〜800万の硬質非弾性重合体(β)を含むアクリル系多層構造重合体混合粉末である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタクリル樹脂が持つその優れた耐衝撃性、光学特性を損なうこと無く、粉体特性を改良した樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0013】
まずアクリル系多層構造重合体(α)について説明する。このアクリル系多層構造重合体(α)は、ゴム質重合体を有していれば、その構造は特に限定されないが、例えば2層構造のアクリル系多層構造重合体(α−1)、3層構造のアクリル系多層構造重合体(α−2)が挙げられる。以下、それぞれについて説明する。
【0014】
(2層構造のアクリル系多層構造重合体(α−1))
本発明のアクリル系多層構造重合体(α)は、少なくとも内層にゴム質重合体a(以下、「内層重合体」という)および外層重合体bの2層を有する多層構造重合体である。そして、その多層構造重合体における各層は、特に制限されるものではないが、例えば、以下に示される組成からなる単量体成分の重合体によって構成される。
【0015】
内層重合体aは、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート70〜90質量%、好ましくは75〜85質量%、芳香族ビニル化合物10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部とからなる単量体成分を重合して得られる。
【0016】
単量体成分の組成を上述の各範囲内にすることにより、優れた耐衝撃性及び透明性を持つ樹脂組成物が得られるようになる。特に、上記単量体混合物における炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの使用量が70質量%以上であると、高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られる。
【0017】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0018】
芳香族ビニル化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等があげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、スチレンを使用することが好ましい。
【0019】
その他の共重合可能な単量体としては、上記の単量体と共重合可能なモノビニル化合物であれば特に制限されないが、例えば、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
多官能単量体として、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、アリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、フマル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、アリルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0021】
外層重合体bは、上述した内層重合体aの存在下に、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート50〜100質量%、好ましくは60〜85質量%、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート0〜50質量%、好ましくは15〜40質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%からなる単量体成分を重合して得られるものである。また、この単量体成分を重合した時のTgが20〜80℃であることが好ましい。より好ましくは20〜70℃である。Tgが20℃以上であると、アクリル系多層重合体を粉体として回収した時にブロッキング性、取り扱い性が良好となる。一方、80℃以下であると、高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られる。
【0022】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとして、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、メチルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0023】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、上述した内層重合体aの重合に用いうる炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの例として挙げたものと同様のものが使用できる。これらの中では、n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0024】
また、その他の共重合可能な単量体としても、上述した内層重合体aの重合に用いうる芳香族ビニル化合物及びその他の共重合可能な単量体の例として挙げたものと同様のものが使用できる。
【0025】
また、これらの単量体成分の重合、特に外層重合体bを得るための単量体成分の重合では、得られるアクリル系多層構造重合体(α−1)を他のマトリックス樹脂(例えば、メタクリル樹脂)と配合したときの相溶性、流動性、耐衝撃性を良好にするために、アルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが好ましい。アルキルメルカプタンとして、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられ、用いられる単量体成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部を用いる。
【0026】
内層重合体aの質量平均粒子径は、200〜300nmが好ましく、より好ましくは230〜260nmである。内層重合体aの質量平均粒子径が200nm以上であると樹脂組成物の耐衝撃性が十分なものとなり、300nm以下であると樹脂組成物の透明性が良好となる。
【0027】
内層重合体aを100質量部としたとき、外層重合体bは30〜100質量部が好ましく、より好ましくは50〜80質量部である。30質量部以上又は100質量部以内であれば樹脂組成物の耐衝撃性が十分なものとなる。
【0028】
(少なくとも3層からなるアクリル系多層構造重合体(α−2))
また、本発明のアクリル系多層構造重合体(α)としては、少なくとも最内層重合体A、中間層重合体Bおよび外層重合体Cの3層を有する多層構造重合体からなるものがより好ましく、その多層構造重合体における各層は以下に示される組成からなる単量体成分によって構成される。
【0029】
3層からなるアクリル系多層構造重合体(α−2)については、ゴム質重合体を有するものであれば、とくに限定されないが、例えば以下のようなものが好ましい。すなわち、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート40〜100質量%、炭素数1〜8のアルキルを有するアルキルアクリレート0〜60質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜10質量部とからなる単量体成分を重合して得られる最内層重合体Aと、該最内層重合体Aの存在下に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート70〜90質量%、芳香族ビニル化合物10〜30質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体1〜3質量部とからなる単量体成分を重合して得られる中間層重合体Bと、該中間層重合体Bまで形成した重合体の存在下に、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート50〜100質量%、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート0〜50質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなる単量体成分を重合して得られ、Tgが20〜80℃である外層重合体Cとを有し、前記中間層重合体Bまで形成した重合体の質量平均粒子径が200〜300nmであり、前記最内層重合体Aと前記中間層重合体Bの質量比(A/B)が10/90〜40/60であり、前記最内層重合体Aおよび前記中間層重合体Bの合計を100質量部としたときの前記外層重合体Cが30〜100質量部である多層構造グラフト共重合体である。なお、単一の単量体からなるものであっても、便宜的に「単量体混合物」という。
【0030】
最内層重合体Aは、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート40〜100質量%、好ましくは40〜94質量%、より好ましくは50〜69質量%、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート0〜60質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%、好ましくは1〜10質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体0.1〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部とからなる単量体成分を重合して得られるものである。
【0031】
単量体成分の組成を上述の各範囲内にすることにより優れた耐衝撃性及び透明性を持つ樹脂組成物が得られるようになる。上記単量体混合物における炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの使用量が40質量%未満では、高度な透明性を持つ樹脂組成物が得られない。
【0032】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとして、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、メチルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0033】
また、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0034】
その他の共重合可能な単量体としては、上記の単量体と共重合可能なモノビニル化合物であれば特に制限されないが、例えば、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート等の他、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、スチレンを使用することが好ましい。
【0035】
多官能単量体として、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、アリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、フマル酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、1,3−ブタンジオールジメタクリレートやアリルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0036】
中間層重合体Bは、最内層重合体Aの存在下に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート70〜90質量%、好ましくは75〜85質量%、芳香族ビニル化合物10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%からなる単量体混合物100質量部と、多官能単量体1〜3質量部、好ましくは1.5〜2.5質量部とからなる単量体成分を重合して得られるものである。
【0037】
単量体成分の組成を上述の各範囲内にすることにより優れた耐衝撃性と耐衝撃白化性を持つ樹脂組成物が得られるようになる。上記単量体混合物における炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの使用量が70質量%以上であると、高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られる。
【0038】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、上述した最内層重合体Aに用いうる炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと同様のものが使用できる。これらの中では、n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0039】
芳香族ビニル化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、スチレンを使用することが好ましい。
【0040】
その他の共重合可能な単量体として、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、グリシジルメタクリレート等のモノビニル化合物が挙げられる。
【0041】
多官能単量体としては、上述した最内層重合体Aに用いうる多官能単量体と同様のものが使用できる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、1,3−ブタンジオールジメタクリレートやアリルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0042】
外層重合体Cは、上述した中間層重合体Bまで形成した重合体の存在下、より正確には最内層重合体Aおよび中間層重合体Bを含んだ状態で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート50〜100質量%、好ましくは60〜85質量%、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート0〜50質量%、好ましくは15〜40質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%からなる単量体成分を重合して得られるものである。また、この単量体成分を重合した時のTgが20〜80℃であることが好ましく、より好ましくは30〜70℃である。Tgが20℃以上であれば、アクリル系多層重合体を粉体として回収した時のブロッキング性、取り扱い性が良好となる。一方、80℃以下であれば、高度な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られる。
【0043】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、上述した最内層重合体Aに用いうるアルキル基の炭素数が1〜4のアルキルメタクリレートと同様のものが使用できる。これらの中では、メチルメタクリレートを使用することが好ましい。
【0044】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、上述した最内層重合体Aに用いうるアルキル基の炭素数が1〜8のアルキルアクリレートと同様のものが使用できる。これらの中では、n−ブチルアクリレートを使用することが好ましい。
【0045】
また、その他の共重合可能な単量体としては、上述した最内層重合体Aに用いうる芳香族ビニル化合物及びその他の共重合可能な単量体と同様のものが使用できる。
【0046】
また、これらの単量体成分の重合、特に外層重合体Cを得るための単量体成分の重合では、得られるアクリル系多層構造重合体(α−2)を他のマトリックス樹脂(例えば、メタクリル樹脂)と配合したときの相溶性、流動性、耐衝撃性を良好にするためにアルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが好ましい。アルキルメルカプタンとして、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられ、用いられる単量体成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部を用いる。
【0047】
中間層重合体Bまで形成した重合体の質量平均粒子径は200〜300nmが好ましく、より好ましくは230〜260nmである。中間層重合体Bまで形成した重合体の質量平均粒子径が200nm以上であると樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものとなり、300nm以下であると樹脂組成物の透明性が良好となる。
【0048】
最内層重合体Aと中間層重合体Bの質量比(A/B)は10/90〜40/60が好ましく、より好ましくは15/85〜25/75である。この質量比が10/90未満では樹脂組成物の耐衝撃白化性を十分なものにするのが、また、40/60を超える場合には樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものにするのが困難となることがある。
【0049】
中間層重合体Bまで形成した重合体(すなわち、最内層重合体Aと中間層重合体Bをあわせたもの)を100質量部としたときの外層重合体Cは30〜100質量部が好ましく、より好ましくは50〜80質量部である。30質量部以上又は100質量部以下であれば樹脂組成物の耐衝撃性を十分なものにすることが可能となる。
【0050】
本発明におけるアクリル系多層構造重合体(α−2)は、最内層重合体A、中間層重合体Bおよび外層重合体C以外に、層間に上記で規定する以外の単量体構成を有する層が形成されていても良く、その際は当該層の両方の単量体組成の中間として、組成移動層とすることもできる。また、各層はそれぞれ多層とすることも可能である。
【0051】
なお、アクリル系多層構造重合体(α)を構成する各層の重合体の質量は、当該層を形成するために使用する単量体成分の質量の総和を意味する。
【0052】
本発明では、上記単量体成分を順次乳化重合して、アクリル系多層構造重合体のラテックスを得、そこからアクリル系多層構造重合体を回収する。なお、乳化重合は公知の方法にしたがって行えばよい。
【0053】
乳化重合に用いる乳化剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの乳化剤も使用できるが、特にアニオン系の乳化剤が好ましい。アニオン系の乳化剤として、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0054】
乳化剤の使用量は、使用する乳化剤、単量体成分の種類や配合比、重合条件によって適宜決めればよいが、通常、単量体成分100質量部に対して0.1質量部以上、特に0.5質量部以上であることが好ましい。また、重合体への残存量を抑えるため、単量体成分100質量部に対して10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0055】
アクリル系多層構造重合体(α)の各層を形成するための重合反応に用いる重合開始剤は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物;過塩素酸化合物;過ホウ酸化合物;過酸化物と還元性スルホキシ化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤の使用量は、用いるラジカル重合開始剤や単量体成分の種類や配合比によって異なるが、通常、単量体成分100質量部に対して0.01〜10質量部程度が適当である。
【0056】
アクリル系多層構造重合体(α)の製造において、単量体成分、重合開始剤等は、一括添加法、分割添加法、連続添加法、モノマー添加法、エマルション添加法等各種の方法で添加することができる。反応を円滑に進めるために反応系を窒素置換することが好ましく、また、反応終了後に残存単量体を減らすために適当な触媒を添加しても良い。
【0057】
また、各層を形成する重合を行う際には、pH調整剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を共存させることもできる。
【0058】
このようにして得られるアクリル系多層構造重合体(α)のラテックス中の固形分量は、重合体の生産性を高くするために、10質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、ラテックスの安定性を損なわないために、60質量%以下、特に50質量%以下であることが好ましい。
【0059】
次に硬質非弾性重合体(β)について説明する。
【0060】
硬質非弾性重合体(β)は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル、ビニルシアン化合物等の単量体の1種をまたは2種以上を組み合わせて乳化重合して得られる分子中に二重結合を含まない硬質の非弾性重合体であり、通常、液中に乳化、分散したラテックスとして用いられる。
【0061】
本発明における硬質非弾性重合体(β)は、そのTgが、ラテックスを凝析させて当該硬質非弾性重合体(β)を単離する際の凝析工程の温度よりも高いことが望ましく、そのために、単量体組成を、このTgを満たすように適宜選択することが望ましい。
【0062】
単量体としては、メタクリル酸エステルとしてメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が、芳香族ビニルとしてスチレン、α−メチルスチレン等が、アクリル酸エステルとしてメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が、ビニルシアン化合物としてアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できるが、メタクリル樹脂との相溶性を良くするためにメチルメタクリレートを主成分、すなわち50重量%以上とするのが好ましく、これとブチルアクリレート、スチレン等の単量体を適宜使用することによって、得られる硬質非弾性重合体(β)のTgを調節することができる。
【0063】
硬質非弾性重合体(β)の乳化重合に際し使用する乳化剤として、オレイン酸、ステアリン酸、ロジン酸、アルキリコハク酸等の弱酸系のカルボン酸ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、使用量としてはラテックスの単量体合計100質量部に対して3.0質量部以下が適当である。また、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のカルボン酸系以外の乳化剤を使用することもできる。
【0064】
本発明の硬質非弾性重合体(β)の乳化重合の開始の方法も特に限定されないが、ラジカル重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物、過塩素酸化合物、過ホウ酸化合物、過酸化物と還元性スルホキシ化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤等が使用される。これらのラジカル重合開始剤の使用量は、用いるラジカル重合開始剤や単量体によって異なるが、通常、単量体合計100質量部に対して0.01〜10質量部程度が適当である。
【0065】
また、この硬質非弾性重合体(β)を他のマトリックス樹脂(例えば、メタクリル樹脂)と配合したときの相溶性、流動性、耐衝撃性を良好にするためにアルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが好ましい。アルキルメルカプタンとして、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられ、硬質非弾性重合体(β)に用いられる単量体合計100質量部に対して、好ましくは0〜0.02質量部を用いる。
【0066】
この硬質非弾性重合体(β)のTgは40〜85℃が適当であり、より好ましくは50〜85℃である。40℃以上であれば十分な粉体特性が得られる。85℃以下であると凝固が容易であり超微粉が発生し難い。
【0067】
また、硬質非弾性重合体(β)の重量平均分子量は150万以上であるとより高いレベルの粉体特性が得られ、800万以下であると凝固が容易であり超微粉が発生し難い。
【0068】
以上のようにして得られたアクリル系多層構造重合体(α)と硬質非弾性重合体(β)を混合する方法としては特に限定されないが、例えば、両重合体のラテックスを同時に凝析剤に接触させて共凝固(凝析)することにより、本発明の重合体混合粉末を製造する方法が好ましい。
【0069】
そして、この凝析工程時には硬質非弾性重合体(β)として、そのTgが当該凝析工程での温度、すなわち凝析温度、よりも高いものを使用することが望ましい。また、凝析工程の後には、通常、2次凝集を促すための固化工程を行う。
【0070】
凝析工程を行う具体的方法は特に制限はないが、例えば、三方後退翼、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、ディスク翼などの攪拌翼を備えた撹拌槽が3槽連続した連続撹拌槽等を使用し、第1槽を凝析槽とし、第2槽以降を固化槽として使用すると、凝析工程と固化工程とを連続的に行うことができ、生産性や設備コストの点から好ましい。
【0071】
そして凝析槽に、アクリル系多層構造重合体(α)のラテックス、硬質非弾性重合体(β)のラテックスおよび凝析剤溶液をそれぞれ加え、凝析槽中でこれらを接触させて凝析を行う。
【0072】
これらを凝析槽に加える方法として、例えば凝析剤溶液のみを予め凝析槽内に供給しておき、そこへアクリル系多層構造重合体(α)のラテックスと硬質非弾性重合体(β)のラテックスをそれぞれ連続的に添加する方法や凝析剤溶液、アクリル系多層構造重合体(α)のラテックスおよび硬質非弾性重合体(β)のラテックスをそれぞれ同時に凝析槽に連続的に添加する方法が挙げられる。
【0073】
また、重合体のラテックスの添加方法として、ノズル先端を凝析槽中に浸漬、設置し、このノズルから連続的に吐出させる方法や、槽の上方から滴下する法等が挙げられる。
【0074】
ここで、凝析工程の温度は、硬質非弾性重合体(β)のTgより低くすることが好ましい。そうすると、凝析工程において硬質非弾性重合体(β)はガラス状態で硬く、脆いため、破壊されやすい状態になるため、硬質非弾性重合体(β)のラテックスが攪拌されつつ凝析剤と接触して、凝析されることによって、硬質非弾性重合体(β)粒子が凝集するととともに、攪拌翼のせん断力によって凝集粒子が細かく破壊される。その結果、硬質非弾性重合体(β)粒子が微粒子となって、凝析したアクリル系多層構造重合体(α)粒子のまわりを密に被覆する。そして、ついで行われる固化工程により、アクリル系多層構造重合体(α)粒子自体が固化するとともに、そのまわりの硬質非弾性重合体(β)粒子がアクリル系多層構造重合体(α)粒子に固着して、被覆層を形成する。このように、硬質非弾性重合体(β)として凝析工程の温度よりも高いTgを有するものを使用し、攪拌しつつ凝析を行うと、攪拌翼のせん断力によって凝集粒子が細かく破壊され、これがアクリル系多層構造重合体(α)粒子のまわりを密に、かつ、強固に覆った状態となる。
【0075】
その結果、アクリル系多層構造重合体(α)粒子は、そのブロッキングが抑制され、嵩密度に優れたものとなる。そしてさらに、固化工程を、硬質非弾性重合体(β)のTgより高い温度条件で行うことによって、アクリル系多層構造重合体(α)粒子面により強く硬質非弾性重合体(β)を固着させることができる。
【0076】
該凝析工程の温度は、重合体ラテックスが凝析する温度であれば特に制限はないが、好ましくは30〜70℃である。30℃以上であればでは凝析が十分に進行し、70℃以下であれば粗粉が増加することを防止できる。
【0077】
また、固化工程の温度は、上記理由により、硬質非弾性重合体(β)のTgより10〜30℃高いことが好ましい。このような温度で固化工程を行うことによって、硬質非弾性重合体(β)のアクリル系多層構造重合体(α)粒子への固着がより進行する。また、固化工程は、一定の温度で操作する1段で行っても、段階的に温度を上げる2段以上で行っても良いが、より確実に固化が進行することから2段階以上で行うことが好ましい。
【0078】
また、凝析工程におけるアクリル系多層構造重合体(α)と硬質非弾性重合体(β)の割合は、固形分質量比(アクリル系多層構造重合体(α)/硬質非弾性重合体(β))を97.0/3.0〜99.9/0.1とすることが好ましい。硬質非弾性重合体(β)が固形分中0.1質量%以上であるとアクリル系多層構造重合体(α)粒子表面への硬質非弾性重合体(β)の被覆が十分となり、重合体混合粉末の嵩密度、耐ブロッキング性の改良が十分な傾向にある。また、3.0重量%以下であると、得られるアクリル系多層構造重合体混合粉末をメタクリル樹脂等に添加した場合の透明性の悪化、この凝析工程において大量の微粉が生成して粉立ちするという取り扱い性の不良等の問題が発生することがない。
【0079】
また、アクリル系多層構造重合体混合粉末を得るために、凝析工程に使用する凝析剤として、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、酢酸カルシウム等の無機塩が挙げられるが、回収されるアクリル系多層構造重合体混合粉末を耐衝撃性改質剤として用いた樹脂組成物を成形して得られる成形物の着色を抑えるためには酢酸カルシウムが特に好ましい。これらは通常水溶液として使用される。
【0080】
凝析剤水溶液の濃度は0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。濃度が低すぎると安定してアクリル系多層構造重合体混合粉末を回収できない場合があり、濃度が高すぎると回収したアクリル系多層構造重合体混合粉末に多量の凝析剤が残存し、着色が大きくなるなどの成形物の性能を低下させることがあり望ましくない。
【0081】
アクリル系多層構造重合体(α)ラテックスと硬質非弾性重合体(β)ラテックスを凝析剤と接触させるときに、予め粒子径の小さい硬質非弾性重合体(β)の分散液としておくと、得られるアクリル系多層構造重合体混合粉末はブロッキングしにくくなり、取り扱い性が良くなる。この際のラテックスを凝析剤水溶液に接触させるときの温度は30〜100℃が適当である。析出したアクリル系多層構造重合体混合粉末は各種の方法で洗浄、脱水、乾燥される。
【0082】
また、本発明においては、アクリル系多層構造重合体(α)と硬質非弾性重合体(β)を混合する方法として、スラリーブレンドによっても可能である。なお、スラリーブレンドは凝固させたスラリー同士を混合する方法で、あれば特に制限はなく、連続的に混合する方法、バッチ式で混合する方法などのいかなる方法でも構わない。
【0083】
上記のようにして得られ、乾燥されたアクリル系多層構造重合体混合粉末に、シリカゲル微粒子などの滑剤を添加すると、アクリル系多層構造重合体混合粉末がブロッキングしにくくなり、より取り扱いが良くなる。
【0084】
上記のアクリル系多層構造重合体混合粉末は、単独で各種成形品に使用可能であるが、メタクリル樹脂等の樹脂の耐衝撃性改質剤として使用することもでき、特に、メタクリル樹脂等の硬質透明樹脂の耐衝撃性改質剤として有用である。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、メチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂と、上記のアクリル系多層構造重合体混合粉末を含有するものである。このような樹脂組成物は、メタクリル樹脂が持つその優れた透明性、硬度を損なうことなく、耐衝撃性に優れたものとなる。
【0086】
本発明の樹脂組成物は、メタクリル樹脂とアクリル系多層構造重合体混合粉末とを所定の配合比でブレンドすることにより得られる。
【0087】
メタクリル樹脂とアクリル系多層構造重合体混合粉末との混合割合は用途により異なるが、メタクリル樹脂とアクリル系多層構造重合体混合粉末との合計100質量部中、アクリル系多層構造重合体混合物の使用量が10〜80質量部であることが好ましい。この使用量を10質量部以上とすることで、耐衝撃性をより十分なものにすることが可能となり、80質量部以下とすることで、射出成形等の成形が容易な流動性を確保でき、かつ、成形品の外観(透明性など)がより優れたものとなる。より好ましくは、アクリル系多層構造重合体混合粉末の使用量は20〜50質量部である。
【0088】
本発明で使用するメチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂は、メチルメタクリレート50〜100質量%、好ましくは80〜99質量%、およびその他のビニルまたはビニリデン単量体0〜50質量%、好ましくは1〜20質量%からなる単量体成分の重合体であることが好ましい。その他のビニルまたはビニリデン単量体として、例えば、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0089】
本発明の樹脂組成物には、上述したメタクリル樹脂およびアクリル系多層構造重合体混合粉末以外に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を配合してもよい。このようなアクリル樹脂組成物の成形品は、耐衝撃性が優れるとともに、透明性も維持されたものとなり、幅広い用途に使用可能である。
【実施例】
【0090】
実施例中、特に断らない限り、「部」、「%」はそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。また、各種物性測定は以下の方法で行った。
【0091】
[分子量]
(株)島津製作所製のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC) LC−6A(溶媒クロロホルム)を使用して、ポリスチレン換算で求めた。
【0092】
[質量平均粒子径]
粒度分布測定装置CHDF2000型(商品名、Matec Applied Sciences社製)を用いて、カラム温度35℃、キャリア液流速1.4ml/minで測定した。
【0093】
[平均粒度]
JIS・Z8801のふるいを使用し、ふるい分け試験JIS・Z8815に従ってふるい分けし、積算量50%の粒子径を求めた。
【0094】
[ガラス転移温度Tg]
Tgは、当該層を構成する重合体の原料単量体組成物の内、単官能性単量体のみを用い、重合体のガラス転移温度Tgを求めるFOXの式(下記)により計算したものである。なお、単量体の単独重合体のガラス転移温度はPOLYMER HANDBOOK THIRD EDITIONよる。
1/Tg=Σ(wi/Tgi
式中、wiは単量体iの質量割合、Tgiは単量体iの単独重合体のガラス転移温度である。
【0095】
[嵩比重]
重合体混合粉末の嵩比重(g/cm3)はJIS−K7370−2000に基づいて測定した。
【0096】
[耐ブロッキング性]
円筒の容器に重合体混合粉末20gを入れ、50℃で70kPaの圧力を2時間かけて作製したブロックにミクロ型電磁振動ふるい器(筒井理化(株)製)で振動を与え、ブロックが60%破壊する時間(秒)を測定した。
【0097】
[Izod衝撃強度]
射出成形機PS60E9ASE(商品名、日精樹脂工業(株)製)を用い、シリンダー温度260℃で127×12.7×6.35mmの試験片を作製した。それを長さ63.5mmの二つに切断し、自動ノッチングマシーン(東洋精機製作所(株)製のノッチングツール(商品名)、型番:A−3)でノッチを付け、ASTM−D256に準じて測定した。
【0098】
[全光線透過率およびヘイズ]
射出成形機PS60E9ASE(商品名)を用い、シリンダー温度260℃で100×50×2mmの試験片を作製し、ASTM−D1003に準じる色彩研究所(株)製のHR−100ヘイズメーター(商品名)を使用して、全光線透過率およびヘイズを測定した。
【0099】
[YI(イエローインデックス)]
射出成形機PS60E9ASE(商品名)を用い、シリンダー温度260℃で100×50×2mmの試験片を作製し、ASTM−D1925に準じるマクベス色差計(商品名)にて測定した。
【0100】
参考例1[アクリル系多層構造重合体(α−1)の製造]
撹拌機、還流冷却器、窒素吹き込み口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、脱イオン水250部、SFS(ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.5部、硫酸第1鉄1.3×10-4部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)3.9×10-4部および炭酸ナトリウム0.035部を入れた。
【0101】
次に、上記混合液を撹拌しながら、窒素置換と昇温(80℃まで)し、スチレン18.5部、n−ブチルアクリレート81.5部、アリルメタクリレート0.9部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.3部および乳化剤A(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩:フォスファノールRS−610NA、商品名、東邦化学(株)製)3.2部からなる混合物(a−1)を4時間かけて投入し、80℃で2時間保持して、内層重合体を得た。得られたラテックスの重合率(未反応の単量体をガスクロマトグラフィーで測定、以下同様)は99%以上で、内層重合体の質量平均粒子径は240nmであった。
【0102】
引き続き、SFS0.14部を脱イオン水5.0部に溶解したものを、上記ラテックスに加えて、15分間保持した後、メチルメタクリレート56.6部、n−ブチルアクリレート10.4部、スチレン2.0部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.11部、n−オクチルメルカプタン0.29部および乳化剤A0.47部の混合物(b−1)を1時間30分かけて滴下し、1時間保持して外層重合体を形成した。得られた最終ラテックス(α−1)の重合率は99%以上であった。外層重合体のTgは67℃、固形分は39.9%であった。
【0103】
参考例2[アクリル系多層構造重合体(α−2)の製造]
撹拌機、還流冷却器、窒素吹き込み口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、脱イオン水200部、SFS0.4部、硫酸第1鉄0.4×10-4部およびEDTA1.2×10-4部を入れた。
【0104】
次に、上記混合液を撹拌しながら、窒素置換と昇温(80℃まで)し、メチルメタクリレート11.2部、スチレン0.8部、n−ブチルアクリレート8.0部、1,3−ブタンジオールジメタクリレート0.6部、アリルメタクリレート0.08部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.04部および乳化剤A0.72部の混合物(c−1)の1/10を投入し、80℃で15分保持した。その後混合物(c−1)の残りを50分かけて投入し、80℃で1時間保持して、最内層重合体を得た。得られたラテックスの重合率(未反応の単量体をガスクロマトグラフィーで測定、以下同様)は99%以上であった。
【0105】
引き続き、SFS0.27部を脱イオン水5.0部に溶解したものを、上記ラテックスに加えて、15分間保持した後、スチレン14.0部、n−ブチルアクリレート66.0部、1,3−ブタンジオールジメタクリレート0.2部、アリルメタクリレート1.4部、クメンハイドロパーオキサイド0.23部および乳化剤A2.4部の混合物(d−1)を4時間かけて滴下し、2時間保持して中間層重合体を形成した。得られたラテックスの重合率は99%以上で、中間層重合体まで形成した重合体の質量平均粒子径は250nmであった。
【0106】
その後、さらにSFS0.23部を脱イオン水5.0部に溶解したものを上記ラテックスに加えて、15分間保持した後、メチルメタクリレート48.0部、n−ブチルアクリレート17.3部、スチレン3.7部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.12部およびn−オクチルメルカプタン0.14部の混合物(e−1)を2時間20分かけて滴下し、1時間保持して最外層重合体を形成した。得られた最終ラテックス(α−2)の重合率は99%以上であった。最外層重合体のTgは45.7℃、固形分は44.6%であった。
【0107】
実施例1
(硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製)
攪拌機付反応容器に、アルケニルコハク酸ジカリウム1部、n−オクチルメルカプタン0.0175部、メチルメタクリレート86.7部、n−ブチルアクリレート9.7部、スチレン3.6部および水260部を仕込み、過硫酸カリウム0.15部を加えて60℃で2時間重合させた。さらに80℃に昇温し、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.1部とホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート0.12部を加えて3時間重合を行い、硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスを得た。得られた硬質非弾性重合体(β−1)のTgは79.5℃、重量平均分子量は150万であった。
【0108】
(アクリル系多層構造重合体混合粉末のスラリーの調製)
3.6Lオーバーフローの攪拌槽(凝析槽)の下流に5.0Lオーバーフローの攪拌槽2基(固化槽)を直列に連結した3槽からなる凝析、固化装置に攪拌翼として三方後退翼を装着した。
【0109】
この凝析槽にオーバーフロー口から時計回り(攪拌回転方向と同方向)に45度の位置に、槽上面から、液面に垂直になるように、かつ、吐出口の深さが液面から50mmの深さになり、吐出口が吐出液の吐出方向を攪拌槽内の主な流れ方向と一致するように、壁面に沿わせてノズルを設置し、また、90度および180度の位置に壁面より50mm離し、液面に吐出液を供給できるようにそれぞれノズルを設置した。45度に設置したノズル(45度ノズル)からはアクリル系多層構造重合体(α−1)ラテックスを、90度に設置したノズル(90度ノズル)からは硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスを、180度に設置したノズル(180度ノズル)には凝析剤水溶液をそれぞれ供給した。
【0110】
また、凝析槽、固化1槽および固化2槽の温度/攪拌回転数を順に60℃/365rpm、70℃/365rpm、88℃/324rpmに設定した。
【0111】
アクリル系多層構造重合体(α−1)ラテックスを11.5kg/hrで、1.0%酢酸カルシウム水溶液を17.25kg/hrで(アクリル系多層構造重合体(α−1)ラテックス希釈液/0.1%酢酸カルシウム水溶液=1/1.5(凝析槽内の重合体固形分濃度16%))および硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスを水で4倍に希釈した液を0.066kg/hr(アクリル系多層構造重合体固形分99.9部に対して固形分換算で0.1部)でそれぞれ独立に凝析槽内に連続添加し、連続凝固を行った。定常状態になった後、最終槽出口から凝固液スラリーのサンプリングを行った。
【0112】
(アクリル系多層構造重合体混合粉末の回収)
得られた凝固液スラリーを遠心脱水機(田辺鉄鋼(株)製、上部排出型、型番:O−20型)で脱水処理(1800rpm:3分間)した後、静置乾燥機で乾燥し、アクリル系多層構造重合体混合粉末を得た。このアクリル系多層構造重合体混合粉末の嵩比重、耐ブロッキング性、平均粒度を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
(アクリル系多層構造重合体混合粉末を配合した樹脂組成物の調製及び評価)
上記アクリル系多層構造重合体混合粉末400部とメタクリル樹脂アクリペットVH(商品名、三菱レイヨン(株)製)600部の混合物を外形30mmφの2軸スクリュー型押し出し機((株)池貝製PCM−30型(商品名)、スクリュー長径比L/D=25)を使用し、シリンダー温度230〜260℃、ダイ温度260℃で溶融混練して、樹脂組成物のペレットを作製した。続いて、このペレットを用いて成形体を作製し、Izod衝撃強度、全光線透過率、ヘイズおよびYIを評価し、その結果を表1に示した。
【0114】
実施例2
硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの4倍希釈液の添加速度を2.04kg/hr(アクリル系多層構造重合体固形分97.0部に対して固形分換算で3.0部)に変更した以外は実施例1と同様にしてアクリル系多層構造重合体混合粉末を得、それを用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示めす。
【0115】
実施例3
n−オクチルメルカプタンを使用しなかった以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−2)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスに代えて用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0116】
なお、この硬質非弾性重合体(β−2)のTgは79.5℃であり、重量平均分子量は780万であった。
【0117】
実施例4
硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスに代えて硬質非弾性重合体(β−2)ラテックスを使用した以外は実施例2と同様にアクリル系多層構造重合体混合粉末を得、これを用いて、実施例2と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0118】
実施例5
メチルメタクリレート86.7部、n−ブチルアクリレート9.7部およびスチレン3.6部をメチルメタクリレート70部およびブチルアクリレート30部に変更した以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−3)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの代わりに用いて、実施例2と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0119】
なお、この硬質非弾性重合体(β−3)のTgは40℃であり、重量平均分子量は150万であった。
【0120】
実施例6
アクリル系多層構造重合体(α−1)ラテックスを参考例2で作製したアクリル系多層構造重合体(α−2)ラテックスに変更した以外は実施例2と同様にしてアクリル系多層構造重合体混合粉末を得、これを用いて、実施例2と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0121】
実施例7
アクリル系多層構造重合体(α−1)ラテックスを参考例2で作製したアクリル系多層構造重合体(α−2)ラテックスに変更した以外は実施例4と同様にしてアクリル系多層構造重合体混合粉末を得、これを用いて、実施例4と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0122】
実施例8
硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの4倍希釈液の添加速度を3.14kg/hrに変更した(アクリル系多層構造重合体固形分95.0部に対して固形分換算で5.0部)以外は実施例1と同様にしてアクリル系多層構造重合体混合粉末を得、これを用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。なお、このアクリル系多層構造重合体混合粉体を用いた樹脂組成物のYIは1.5と高かった。
【0123】
比較例1
硬質非弾性重合体(β−1)を添加しないでアクリル多層構造重合体(α−1)のみを実施例1と同様にして粉末で得、この粉末をアクリル系多層構造重合体混合粉末に代えて用い、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0124】
比較例2
n−オクチルメルカプタンの使用量を0.03部にした以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−4)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスに代えて用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0125】
なお、硬質非弾性重合体(β−4)のTgは79.5℃、重量平均分子量は79万であった。
【0126】
比較例3
過硫酸カリウムの添加量を0.075部に変更した以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−5)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスに代えて用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0127】
なお、硬質非弾性重合体(β−5)のTgは79.5℃、重量平均分子量は900万であった。
【0128】
比較例4
メチルメタクリレート86.7部、n−ブチルアクリレート9.7部およびスチレン3.6部をメチルメタクリレート65部およびn−ブチルアクリレート35部に変更した以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−6)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの代わりに用いて、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0129】
なお、硬質非弾性重合体(β−6)のTgは27.1℃、重量平均分子量は150万であった。
【0130】
比較例5
メチルメタクリレート86.7部、n−ブチルアクリレート9.7部およびスチレン3.6部をメチルメタクリレート95部およびn−ブチルアクリレート5部に変更した以外は実施例1の硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの調製と同様にして硬質非弾性重合体(β−7)ラテックスを得、これを硬質非弾性重合体(β−1)ラテックスの代わりに用いて、実施例2と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0131】
なお、硬質非弾性重合体(β−7)のTgは91.5℃、重量平均分子量は150万であった。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体を有するアクリル系多層構造重合体(α)およびガラス転移温度Tg40〜85℃かつ重量平均分子量150万〜800万の硬質非弾性重合体(β)を含むアクリル系多層構造重合体混合粉末。
【請求項2】
アクリル系多層構造重合体(α)と硬質非弾性重合体(β)の質量比が97.0/3.0〜99.9/0.1である請求項1に記載のアクリル系多層構造重合体混合粉末。
【請求項3】
ゴム質重合体を有するアクリル系多層構造重合体(α)およびTg40〜85℃かつ重量平均分子量150万〜800万の硬質非弾性重合体(β)を質量比97.0/3.0〜99.9/0.1で共凝固またはスラリーブレンドするアクリル系多層構造重合体混合粉末の製造方法。
【請求項4】
メチルメタクリレートを主要構成単位とするメタクリル樹脂と、請求項1または2に記載のアクリル系多層構造重合体混合粉末とを含有する樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−306961(P2006−306961A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129641(P2005−129641)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】