説明

アクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置

【課題】生産性を維持しつつ、製造コストを抑えると共に、クラックの発生を抑制し、変形を防止できるアクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体を成形した後、該アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断するアクリル系樹脂切断物の製造方法、およびアクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体30を賦形する成形手段10と、該アクリル系樹脂帯状体30を(Tg−40℃)以上の温度に保持し、アクリル系樹脂帯状体30を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断する切断手段20とを具備するアクリル系樹脂切断物40の製造装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスリット状吐出口を有するダイを用いて溶融押出成形により成形されたアクリル系樹脂帯状体を切断する、アクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系樹脂のシートまたはフィルム(以下、「アクリル系樹脂帯状体」という場合がある。)を切断する際にはフライス、回転ノコ刃、回転カッター、レザーカッターなどによる加工を行っていた。しかし上述の方法では、刃の押込み時にクラックが容易に発生し、クラックがアクリル系樹脂帯状体や、該アクリル系樹脂帯状体を切断して得られるアクリル系樹脂切断物(以下、「切断物」という場合がある。)に伝播しやすかった。特にゴムが添加されていない靭性の低いアクリル系樹脂より成形されるアクリル系樹脂帯状体を切断する場合に顕著であった。クラックが伝播すると破断につながり、例えば連続的に搬送されるアクリル系樹脂帯状体を進行方向に切断する場合は、得られる切断物の巻き取りを中断せざるを得なかった。また、クラックによる破片が切断物に付着すると、切断物は破片を付着したままの状態で回収されるため、破片の凹凸でアクリル系樹脂切断物の品質が低下するといった問題があった。
【0003】
このような問題に対し、良好な切断面を得ることを目的とした切断方法として、例えば、特許文献1には、切断刃を被加工材の軟化点以上に加熱してプラスチック基板を切断する方法が開示されている。
また、特許文献2には、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの素材からなる非結晶プラスチックフィルムの被切断部を50〜150℃で切断する、あるいは80〜150℃に加熱したスリットローラーに非結晶プラスチックフィルムを通過させて加熱した後に切断する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭64−5799号公報
【特許文献2】特開昭59−214610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、加熱した切断刃を用いアクリル系樹脂帯状体を局部的に加熱軟化させて切断する場合、生産性を上げるため製造ライン速度を増速すると、切断に必要とする熱量を被切断部に与える前に、すなわちアクリル系樹脂帯状体の被切断部が軟化する前に切断が行われるため、クラックが発生することがあった。
また、特許文献2に記載のように、被切断部を予め加熱した状態で切断する場合、切断を実施するに際し加熱を行う必要があるため、加熱設備の設置など加熱に要する費用がかることがあった。さらにアクリル系樹脂帯状体を切断する場合、該アクリル系樹脂帯状体の被切断部を50〜150℃に加熱して切断したり、80〜150℃に加熱した切断刃を用いて切断したりすると、アクリル系樹脂帯状体や切断物が熱変形したり、切断の際の切断刃との接触により切断部が変形したりすることがあり、品質上の問題が発生することがあった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、生産性を維持しつつ、製造コストを抑えると共に、クラックの発生を抑制し、変形を防止できるアクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアクリル系樹脂切断物の製造方法は、アクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体を成形した後、該アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断することを特徴とする。
【0007】
また、本発明のアクリル系樹脂切断物の製造装置は、アクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体を賦形する成形手段と、該アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断する切断手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記切断手段が、前記アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する保温手段を備えたことが好ましい。
さらに、前記切断手段が、前記アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する温調手段を備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置によれば、生産性を維持しつつ、製造コストを抑えると共に、クラックの発生を抑制できる。
また、本発明によれば、アクリル系樹脂を溶融押出しする際の熱を利用してアクリル系樹脂帯状体を切断するので、切断時においてアクリル系樹脂帯状体の被切断部には切断に必要な熱量が付与されているため、製造ラインの速度を上げても生産性を維持しつつ、クラックの発生を抑制できる。また、室温から切断可能な温度まで昇温させるための加熱設備など、加熱に要する費用がかからず、製造コストを抑えることができると共に、製造設備の小型化が可能となる。
さらに、本発明によれば、アクリル系樹脂帯状体をアクリル系樹脂のTg温度未満の低温域、かつ(Tg−40℃)以上の温度に保持して切断を行うので、アクリル系樹脂帯状体は固化した状態で切断されるため、熱軟化による切断刃との接触での変形がなく良好な切断面を有したアクリル系樹脂切断物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明により得られるアクリル系樹脂切断物(以下、「切断物」という場合がある。)は、アクリル系樹脂帯状態(以下、「帯状体」という場合がある。)を切断することで得られる。
前記帯状体の構造は、アクリル系樹脂よりなる単層構造であってもよく、アクリル系樹脂を少なくとも1層積層した多層構造であってもよい。なお、帯状体が多層構造の場合、アクリル系樹脂からなる層はスキン層(表層)、およびコア層(内層)のいずれに存在していてもよい。
【0011】
アクリル系樹脂としては、公知の材料が使用可能である。例えばメタクリル酸メチルの共重合体をアクリル系樹脂として用いる場合、透明性の観点からメタクリル酸メチル単位の含有量は50質量%以上とすることが好ましい。また、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、n−アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類、マレイミド類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、スチレン等が例示できる。
【0012】
帯状体が多層構造の場合、アクリル系樹脂からなる層以外の層を形成する樹脂としては、例えばビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ素化メタクリレート系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等が例示できる。
【0013】
帯状体は、単層構造の場合、アクリル系樹脂を溶融押出しし、ロール等で所望の厚みに賦形して成形される。溶融押出しの際は、例えばスリット状吐出口を有するTダイよりアクリル系樹脂を溶融押出しするのが好ましい。
帯状体が多層構造の場合は、共押出成形法により多層構造となるように上述した樹脂を溶融押出しし、所望の厚みに賦形して形成される。得られた多層構造の帯状体において、アクリル系樹脂の占める厚みは、該帯状体全体の厚みの50%以上であることが好ましい。
【0014】
帯状体の形状は、シート状またはフィルム状であり、厚みは0.05〜2mmであることが好ましい。厚みが0.05mm以上であれば、機械的強度が十分なものとなる。一方、厚みが2mm以下であれば、切断に要する力(圧力)を低く設定できるため、切断刃の磨耗を抑制したり、切断に要する時間が短縮できるため、生産性を向上したりできる。
【0015】
本発明では、上述した帯状体を成形した後、該帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断する。切断時の温度は、(Tg−30℃)〜(Tg−20℃)が好ましい。(Tg−40℃)以上の温度で切断すれば、切断部にクラックが発生することを抑制でき、良好な切断面を有するアクリル系樹脂切断物が得られる。一方、(Tg−15℃)以下の温度で切断すれば、切断時に帯状体は固化された状態であるため、切断刃との接触による切断部の変形が抑制できる。さらに帯状体の押出し成形時に生じた成形歪みが解除される温度に至らないため、熱変形をも抑制することができる。
【0016】
本発明においてアクリル系樹脂のTgは、下記式(1)を用いて算出した値である。
1/Tg=Σ(w/Tg)・・・(1)
式(1)中、wは単量体iの質量分率を表し、Tgは単量体iのホモポリマーのTgを表す。尚、式(1)中のTg及びTgは、絶対温度(K)で表した値であり、Tgは、「POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION、VI/193〜VI/253」に記載されている値である。
【0017】
帯状体を(Tg−40℃)以上の温度に保持し、帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断するためには、シート状またはフィルム状に溶融押出しされ、所望の厚みに賦形された成形後の帯状体の温度を保有した状態下で切断すればよい。そのためには、図1に示すような装置を用いればよい。なお、前記各温度は、帯状体の表面温度のことをいう。
【0018】
ここで、本発明の切断物の製造装置を説明する。
図1は、切断物の製造装置1の一例を示す概略構成図である。この例の切断物の製造装置1は、帯状体を成形する成形手段10と、該成形手段10に近接して配置された、帯状体を切断する切断手段20とを具備する。
ここで、「成形手段に近接して配置する」とは、成形手段10により成形される帯状体30が、(Tg−40℃)以上の温度に保持されている場所に配置することを意味する。
【0019】
成形手段10は、アクリル系樹脂を溶融押出しするダイ11と、賦形ロール12とを備える。
ダイ11としては、例えばスリット状吐出口を有するTダイなどが挙げられる。
賦形ロール12としては、公知のものが使用可能である。賦形ロール12を通過することで、所望の厚みに賦形されたアクリル系樹脂帯状体30が成形されると共に、帯状体30が冷却される。
成形手段10をこのような構成とすることにより、帯状体30を連続して成形することができる。
【0020】
切断手段20は、前記成形手段10に近接して配置され、切断刃21を備える。
切断刃21としては、公知の切刃が使用可能であり、例えばレザー刃やシェアー刃などが挙げられる。
また、切断刃21の温度は、室温であってもよく、加熱した状態であってもよく、特に限定しないが、切断時に帯状体30の被切断部の温度低下を防止するため、帯状体30の温度と同程度の温度になるよう設定することが好ましい。
【0021】
切断刃21は、成形手段10から搬送される帯状体30を、その進行方向に切断するように設置してもよく、進行方向に対して直交して切断するように設置してもよい。帯状体30を進行方向に対して直交して切断する場合、切断刃21は、搬送される帯状体30に連動して移動させることが好ましい。
なお、帯状体30をその進行方向に切断するように切断刃21を設置する場合は、帯状体30に対して、1つの切断刃21を備えれば、2本のアクリル系樹脂切断物40が得られることになるが、本発明はこれに限定されず、一度に複数本の切断物が得られるように、例えば複数の切断刃を備えでもよい。
【0022】
切断手段20を成形手段10に近接して配置することで、アクリル系樹脂を溶融押出しする際の熱を利用して帯状体30を切断できるので、切断時において帯状体30の被切断部には切断に必要な熱量が付与されている。従って、製造ラインの速度を上げても帯状体30を(Tg−40℃)以上の温度に保持し、帯状体30を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断できるので、生産性を維持しつつ、クラックの発生を抑制できる。
また、室温から切断可能な温度まで昇温させるための加熱設備など、加熱に要する費用がかからず、製造コストを抑えることができると共に、製造設備の小型化が可能となる。
【0023】
なお、切断手段20は、帯状体30を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する保温手段22を備えることが好ましい。
保温手段22の材質としては特に制限されないが、例えばガラス繊維、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォームなどが挙げられる。
【0024】
保温手段22は、帯状体30を所望の温度に保持できれば、その設置場所については特に制限されず、例えば成形手段から切断手段へ搬送された帯状体が、保温手段で形成されるハウジング内を通過して切断刃に到達するように設置してもよく、図1に示すように帯状体30と切断刃21を保温手段22で囲むように設置してもよい。
図1に示すように保温手段22を設置すれば、保温手段22で囲まれた空間(すなわち、保温手段で形成されるハウジングの内部)の雰囲気温度が所望の温度に保持されるので、帯状体30はもちろんのこと切断刃21も帯状体30と同じ温度に保持される。なお、図1に示す例では、帯状体30と切断刃21に加えて、成形手段10に備わる賦形ロール12の一部も囲むように保温手段22が設置されている。
【0025】
また、切断手段20は、図2に示すように、帯状体30を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する温調手段23備えることが好ましい。
温調手段23としては、空気などの温調風を循環させる装置や、赤外線ヒータなどが挙げられる。またこれらを併用することも可能である。
【0026】
温調手段23は、帯状体30を所望の温度に保持できれば、その設置場所については特に制限されず、例えば成形手段から切断手段へ搬送された帯状体のみに温調風などが当たるように設置してもよく、切断刃にも温調風などが当たるように設置してもよい。また、温調手段23として温調風を循環させる装置を用いる場合は、温調風が帯状体30の面に対し垂直方向に噴出されるように設置するのが好ましい。
【0027】
なお、保温手段22と温調手段23の両方を備える場合は、図2に示すように保温手段22で形成されるハウジングの内部に温調手段23を設置するのが好ましい。図2に示す例では、帯状体30と切断刃21に加えて、成形手段10に備わる賦形ロール12の一部にも温調風などが当たるように温調手段23が設置されている。
【0028】
本発明では、切断手段における切断時の帯状体のパスラインは、図1、2に示すような直線切であってもよく、屈曲切であってもよい。
また、帯状体30をその進行方向に切断する場合、切断手段には、図1、2に示すように切断刃21の上流と下流に、帯状体30、および切断物40の走行を規制するニップロール24(上流ニップロール:24A、下流ニップロール:24B)を設けてもよい。切断手段20に保温手段22を備える場合、ニップロール24は保温手段22に囲まれてもよく、囲まれなくてもよい。また、いずれか一方のニップロール24(図1、2に示す例では上流ニップロール24A)が保温手段22に囲まれていてもよい。
【0029】
以上、説明したように本発明によれば、アクリル系樹脂帯状体を特定の温度に保持し、特定の温度で切断するので、クラックの発生を抑制し、変形を防止できる。また、本発明は、アクリル系樹脂を溶融押出しする際の熱を利用して帯状体を切断するので、切断時において帯状体の被切断部には切断に必要な熱量が付与されているため、製造ラインの速度を上げても生産性を維持しつつ、クラックの発生を抑制できる。さらに、室温から切断可能な温度まで昇温させるための加熱設備など、加熱に要する費用がかからず、製造コストを抑えることができると共に、製造設備の小型化が可能となる。
また、本発明によれば、アクリル系樹脂帯状体をアクリル系樹脂のTg温度未満の低温域、かつ(Tg−40℃)以上の温度に保持して切断を行うので、アクリル系樹脂帯状体は固化した状態で切断されるため、熱軟化による切断刃との接触での変形がなく良好な切断面を有したアクリル系樹脂切断物が得られる。
【0030】
さらに、切断手段に保温手段を備えれば、帯状体の賦形から切断に至る間において帯状体を所望の温度に保持できるので、切断時の帯状体の温度変化を抑制し、特定の温度でより容易に切断できる。
また、切断手段に温調手段を備えれば、帯状体の賦形から切断に至る間において帯状体を所望の温度に保持できるので、切断時の帯状体の冷熱制御がより容易に行える。従って、特定の温度でより容易に帯状体を切断できる。
【0031】
本発明により得られるアクリル系樹脂切断物は、クラックの発生などに起因する破片が付着しにくく、また、切断部が変形しにくいので、高品質が求められる光伝送体等の光学用途に特に好適である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
切断物の製造装置としては、図2に示す製造装置を用いた。各手段について以下に示す。
【0033】
(成形手段)
Tダイ共押出成形により、スキン層がビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイキン工業株式会社製、「商品名:ネオフロン、品番:VP50」、融点:125〜140℃)、コア層がアクリル系樹脂(三菱レイヨン株式会社製、「商品名:アクリペットMF」、Tg=93.7℃)樹脂よりなり、コア層の両方の面上にスキン層を積層させた2種3層のシートを成形し、スキン層の厚みが0.025mm、コア層の厚みが0.2mmとなるように、賦形ロールを用いてアクリル系樹脂帯状体を成形した。該アクリル系樹脂帯状体の幅は250mmであった。
アクリル系樹脂帯状体全体の厚みは0.25mm、各層の厚みの比はスキン層:コア層:スキン層=1:8:1であった。
なお、ダイ11としては、フィードブロックタイプの2種3層成形用のTダイを使用し、引取り速度を5m/分に設定した。また、賦形ロール12として、アクリル系樹脂帯状体の厚みを調整する第1の賦形ロール12Aおよび第2の賦形ロール12B、ならびに第3の賦形ロール12Cを用い、第1の賦形ロール12Aおよび第2の賦形ロール12Bの表面温度を90℃に設定した。なお、第1の賦形ロール12Aおよび第2の賦形ロール12Bは、前記温度設定に限らず、帯状体を(Tg−40℃)以上の温度に保持できる範囲で適宜設定することができる。
【0034】
(切断手段)
図2に示すように、成形手段10の一部と、帯状体と、切断刃とを、保温手段22(厚さ75mm、ガラス繊維)で囲んだ。
切断刃21は、上刃φ100mm、下刃φ80mmのシェアー刃を使用した。なお、切断刃21は保温手段22により保温されたため、切断刃21の温度は保温手段22で囲まれた空間(すなわち、保温手段22で形成されたハウジングの内部)の雰囲気温度と同一温度とみなす。また、パスラインは直線切で実施した。ここで、2組の切断刃21を使用して、幅250mmの帯状体を2箇所(各々端部から50mmの位置)で切断して、幅が50mmの切断物を2つと、幅が150mmの切断物を1つ得た。
また、ハウジングの内壁の上面および底面に沿うように、5本の温調気体噴出ノズル23Aを備えた温調手段23を設置した。温調気体噴出ノズル23Aは、130mm間隔で配置し、各温調気体噴出ノズル23Aには、温調気体がアクリル系樹脂帯状体30の面に対し垂直方向に噴出されるようなφ1のノズル孔を30mm間隔で設けた。温調気体としては、空気を用いた。また、温調気体の昇温およびハウジング内への温調気体の供給には、熱風発生機(株式会社竹綱製作所製、「電気式熱風発生機 型式:TSK−61」)(図示略)を用いた。なお、該熱風発生機からハウジング内への温調気体の供給量は約15m/分に設定した。また、測定器として日本カノマックス株式会社製の風速計「型式:6511」を用いて測定した、温調気体噴出ノズル15A付近の風速は、4m/秒であった。
さらに、温調手段として、セラミックスヒータ(図示略)を設置した。
【0035】
(ハウジング内雰囲気温度、および切断物表面温度の測定方法)
ハウジング内雰囲気温度、およびアクリル系樹脂切断物の表面温度を、温度計(安立計器株式会社製、「商品名:デュアルサーモ、型番:AR−1501」)を用いて測定した。なお、プローブとして、ハウジング内の雰囲気温度(雰囲気下に設置)を測定する場合は510Kモデルを用い、切断物の表面温度(表面接触)を測定する場合はN形シリーズモデルを用い、賦形ロールの表面温度(表面接触)を測定する場合はU形シリーズモデルを用いた。
【0036】
[実施例1]
セラミックスヒータの設定温度を60℃に設定し、アクリル系樹脂帯状体を、その進行方向に沿って切断し、アクリル系樹脂切断物を得た。
ハウジング内の雰囲気温度、および切断手段出口付近のアクリル系樹脂切断物の表面温度を測定した。結果を表1に示す。なお、切断手段出口付近のアクリル系樹脂切断物の表面温度は、アクリル系樹脂帯状体を切断する際の温度と同じ温度であるとみなす。
【0037】
<評価>
(クラック発生状況の評価)
アクリル系樹脂切断物の切断部における、切断刃による1mm以上のクラックの発生状況について、目視および顕微鏡にて確認し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:クラック発生無し。
×:クラック発生有り。
【0038】
(変形状況の評価)
アクリル系樹脂帯状物の切断部における、切断刃による1mm以上の変形状況について、目視にて確認し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:変形無し。
×:変形有り。
【0039】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
セラミックスヒータの設定温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にし、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、アクリル系樹脂帯状体を構成するPMMAのTg93.7℃に対し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度に保持し、(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の範囲内にてアクリル系樹脂帯状体を切断した実施例では、切断時にクラックの発生がなかった。また、得られたアクリル系樹脂切断物は、表面状態が良好であった。
一方、PMMAのTg93.7℃に対し、(Tg−68.7℃)にてアクリル系樹脂帯状体を切断した比較例1では、切断時の温度が低かったため、クラックが発生した。
また、PMMAのTg93.7℃に対し、(Tg−13.7℃)にてアクリル系樹脂帯状体を切断した比較例2では、切断時の温度が高かったため、切断部が変形したアクリル系樹脂切断物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によるアクリル系樹脂切断物の製造方法、および製造装置によれば、クラックの発生を抑制し、変形を防止できる。従って、本発明により得られるアクリル系樹脂切断物は、クラックの発生などに起因する破片が付着しにくく、また、切断部が変形しにくいので、高品質が求められる光伝送体等の光学用途に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の切断物の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の切断物の製造装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1:アクリル系樹脂切断物の製造装置
10:成形手段
11:ダイ
12:賦形ロール
20:切断手段
21:切断刃
22:保温手段
23:温調手段
24:ニップロール
30:アクリル系樹脂帯状体
40:アクリル系樹脂切断物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体を成形した後、該アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断するアクリル系樹脂切断物の製造方法。
【請求項2】
アクリル系樹脂を溶融押出ししてアクリル系樹脂帯状体を賦形する成形手段と、該アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)以上の温度(ただし、Tgは前記アクリル系樹脂のガラス転移点である。)に保持し、アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度で切断する切断手段とを具備するアクリル系樹脂切断物の製造装置。
【請求項3】
前記切断手段が、前記アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する保温手段を備えた請求項2に記載のアクリル系樹脂切断物の製造装置。
【請求項4】
前記切断手段が、前記アクリル系樹脂帯状体を(Tg−40℃)〜(Tg−15℃)の温度に保持する温調手段を備えた請求項2または3に記載のアクリル系樹脂切断物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−107093(P2009−107093A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283774(P2007−283774)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】