説明

アクリル酸の精製方法

【課題】 アクリル酸水溶液の脱水蒸留時におけるアクリル酸の重合を防止することによる蒸留塔の安定運転が可能な操作条件の提供。
【解決手段】 アクリル酸の水溶液から脱水蒸留塔を用いて脱水蒸留を行ってアクリル酸を精製するに際して、該脱水蒸留塔として理論段数が3段以上の蒸留塔を使用し、かつその理論段2段目に相当する部位の操作温度を50〜78℃とするアクリル酸の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアクリル酸の精製方法に関するものである。詳しくはアクリル酸の重合を防止しつつ、アクリル酸の水溶液からアクリル酸を精製する方法に関するものであり、特にプロピレン等の接触酸化によって得られる粗アクリル酸水溶液から、脱水蒸留塔を用いて水、酢酸等の低沸点成分を除去する際の、蒸留塔内におけるアクリル酸の重合を防止して、長期間にわたって安定してアクリル酸の精製操作を行なうことができる方法に関している。
【0002】
【従来の技術】アクリル酸を製造する代表的な方法としてプロピレン及び/又はアクロレインを水蒸気の存在下、分子状酸素含有ガスにより、酸化触媒を用いて酸化する方法がある。このようにして得られた反応ガスを冷却及び/又は水で吸収すると粗アクリル酸水溶液が得られる。この粗アクリル酸水溶液はアクリル酸の他、酢酸、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の副生成物を含有している。これらの副生成物で最も多量に生成し、従って精製に際して特に重要なのは酢酸である。水、酢酸及びアクリル酸はそれぞれの化学的類似性、気液平衡などの物理化学的性質から、直接蒸留により分離することは、一般にはあまり効率的ではないとされている。そのため、アクリル酸の精製方法としては、水と共沸する有機溶剤(以下「共沸溶剤」と記すことがある)を用いて水を脱水蒸留し、更に酢酸を蒸留分離する方法が広く用いられている。この水及び酢酸の分離を行うための蒸留プロセスとしては、その両者を単一の蒸留塔で同時に分離する方法(以下「一塔法」と記す)と、それぞれ1本ずつの蒸留塔を用いて分離する方法(以下「二塔法」と記す)が考えられ、それぞれ下記のように多くの提案がなされている。
【0003】(1)一塔法関係特公昭46−18967号公報、特公昭46−29372号公報、特公昭46−22456号公報、特公昭46−34692号公報、特公昭49−21124号公報、特開平5−246941号公報など。
(2)二塔法関係特公昭41−15569号公報、特公昭46−18966号公報、特公昭50−25451号公報、特公昭63−10691号公報、特開平3−181440号公報、特公平6−15495号公報、特公平6−15496号公報、特開平8−40974号公報など。この2つの方法においては、次のような長所・短所がある。一塔法では、水と酢酸を同時に、一本の蒸留塔で分離しようとするため、多くの段数を有する蒸留塔を用い、大きな還流比が必要とされる。従って、エネルギー的に不利である。また段数が多くなると塔底圧力も高くなり、したがって塔底の温度も高くなるが、極めて重合しやすいアクリル酸をこのような高温にさらすことは好ましくない。
【0004】一方、二塔法では、水と酢酸をそれぞれ別の蒸留塔を用いて分離するので、最適な蒸留条件及び蒸留塔を用いることができ、エネルギー的にも有利である。また、主な副生成物である酢酸を、酢酸分離用の蒸留塔から回収できるという利点もある。更に、それぞれの塔の段数を少なくすることができるので、塔底温度を低くすることが可能で、アクリル酸の重合防止の面からも好ましい方法である。しかしながら、この二塔法によるアクリル酸精製プロセスにおいても、特に脱水蒸留塔の塔底付近ではアクリル酸の重合が発生しやすく、安定した運転はやはり困難であった。これを改良するために、特開平8−40974号公報には、共沸脱水蒸留塔の缶出液中の水及び共沸溶剤の濃度を制御する方法が提案されているが、数ケ月の連続運転を安定して行うためには、依然不十分なものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】アクリル酸水溶液を、脱水蒸留塔を用いて脱水蒸留するに際して、アクリル酸の重合を防止して、長期間安定に蒸留塔を運転することが可能となる操作条件を提供することが本発明の目的である。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記のようなアクリル酸の重合体が特定の部位に堆積して脱水蒸留塔の長期連続運転が不可能になるという点に着目し蒸留条件を種々検討した結果、脱水蒸留塔の特定部位の温度を特定の範囲内に制御することによりアクリル酸の該蒸留塔内での重合を防止できることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は、アクリル酸の水溶液から脱水蒸留塔を用いて脱水蒸留を行いアクリル酸を精製するに際して、該脱水蒸留塔として理論段数が3段以上の蒸留塔を使用し、かつその理論段2段目に相当する部位の操作温度を50〜78℃とすることを特徴とするアクリル酸の精製方法、に存している。
【0007】本発明の要旨は、理論段2段目に相当する部位の操作温度を60〜73℃とする前記のアクリル酸の精製方法、及び脱水蒸留塔の塔底温度を60〜90℃とする前記のアクリル酸の精製方法、にも存している。更に、本発明の他の要旨は、アクリル酸水溶液がプロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素によって接触酸化して生成した反応ガスから得られた水溶液である上記のアクリル酸の精製方法、及びアクリル酸水溶液の質量濃度が40%以上である上記のアクリル酸の精製方法、にも存しており、また本発明のもう一つの要旨は、脱水蒸留に際して水と共沸する有機溶剤を用いる上述のアクリル酸の精製方法、にも存している。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明を詳細に説明する。
(1)アクリル酸水溶液本発明の対象となるアクリル酸の水溶液としては、特に限定されるものではないが、プロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素を用いて接触酸化して生成した反応ガスを冷却及び/又は水に吸収して得られた粗アクリル酸水溶液に適用するのが最も効果の得られる態様である。以下、このようにして得られた粗アクリル酸水溶液を精製する場合を例にとって説明を加える。既に述べた通りプロピレン等の接触酸化により得られる粗アクリル酸水溶液中には、目的物質であるアクリル酸の他、酢酸、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の副生成物を含有している。上記の酸化反応の転化率が高い場合は、得られた粗アクリル酸水溶液にそのまま本発明の方法を適用してもよいが、転化率が低い場合は、未反応のアクロレインが水溶液中に混入して来るので、予めこれをストリッピング等によって除去しておくことが望ましい。
【0009】(2)アクリル酸精製プロセス本発明方法を適用するプロセスとしては、前述のような、脱水蒸留塔と酢酸分離塔とを有する、二塔法のプロセスが好適である。このようなプロセスの一例のフローシートを図1に示す。以下、このフローシートに基づいてプロセスの概要を説明する。プロピレン及び/又はアクロレインを水蒸気の存在下、分子状酸素含有ガスにより、酸化触媒で接触酸化して得られた反応生成ガスを導管1により、アクリル酸吸収塔(A)に導き、導管7にて導入される水を主成分とする吸収液と接触させてアクリル酸を吸収し、アクリル酸吸収塔の缶出液(導管2)として粗アクリル酸水溶液が得られる。一般的には、アクリル酸の吸収効率を上げるため、導管2の缶出液の一部を冷却してアクリル酸吸収塔にリサイクルされることが多い(図示せず)。吸収液としては脱水蒸留塔の塔頂留出液を用いるのが、排水量を少なくする上で好適である。この粗アクリル酸水溶液はアクリル酸の他、酢酸、ギ酸、ホルムアルデヒド等の酸化反応の副生成物や、未反応のアクロレインを含むことがあるので、必要に応じて、アクロレイン放散塔に供給し、アクロレインを除去する(図示せず)。
【0010】アクリル酸吸収塔の缶出液である粗アクリル酸水溶液は、導管2により脱水蒸留塔(B)に導入される。脱水蒸留塔では、必要に応じ共沸溶剤を導管(図示せず)から導入して(共沸)脱水蒸留により塔頂から共沸溶剤、水及び酢酸の一部を含む塔頂ガスを発生させ、これを冷却して塔頂留出液を得る。この留出液は相分離され、共沸溶剤相は導管4を経て還流され、水相の大部分はアクリル酸吸収塔の酸化反応ガスの吸収液として再利用される(導管7)が、水相の一部は、水のバランスを取るために系外へ排出されることがある(導管8)。脱水蒸留塔の缶出液中の水濃度は共沸溶剤の還流量によって制御できる。共沸溶剤の還流量は水と共沸溶剤との共沸組成から決定され、缶出液中の水の質量濃度は1%以下に保つように運転するのが好ましい。共沸溶剤の質量濃度は40%以下とするのがよい。
【0011】脱水蒸留塔の缶出液は、導管6により酢酸分離塔(C)に供給される。ここで、軽沸点不純物の実質的に全量が除去され、精製アクリル酸が塔底缶出液(導管10)として得られる。該精製アクリル酸は次工程(図示せず)にてアクリル酸エステルの原料等として用いることができる。酢酸分離塔の塔頂から得られる酢酸、共沸溶剤及びアクリル酸から実質的になる留出液(導管9)は、含有するアクリル酸を回収するため脱水蒸留塔にリサイクルされるのが一般的である。この酢酸分離塔の留出液を、脱水蒸留塔にリサイクルする場合は、脱水蒸留塔への供給位置も重要である。一般的には、酢酸とアクリル酸の濃度比率により、最適な供給段が存在するが、酢酸とアクリル酸はその構造的類似性のため、その沸点の差から考えられるよりは蒸留分離が困難で、酢酸分離塔の留出液にはアクリル酸が相当多量に含まれることが多い。アクリル酸製造設備においては、この酢酸分離塔の留出液を脱水蒸留塔へリサイクルする前に、別途設けた酢酸の分離回収設備によって、精製酢酸を分離し、残ったアクリル酸及び共沸溶剤を主成分とする液をリサイクルしてもよい。
【0012】(3)脱水蒸留塔本発明においては脱水蒸留塔として理論段数3段以上のものを使用する。理論段数の上限は特に限定されるものではないが、設備費用等を考えて通常は50段以下のものを使用する。より好ましい理論段数は5〜20段である。本発明に用いられる脱水蒸留塔は、その形成に特に制限はなく、棚段塔や充填塔などが使用できる。棚段塔の場合、上記の好ましい理論段数を与えるためには、通常10〜50段程度のトレイが用いられる。本発明においては、脱水蒸留塔の濃縮部に相当する、理論段2段目に相当する部位の操作温度を50〜78℃という特定の範囲に制御する。脱水蒸留塔の運転圧力は、アクリル酸を高温にさらすことのないよう、塔頂圧力を絶対圧で13.3〜40.0kPa程度の減圧とするのが一般的である。
【0013】本発明の方法を適用するのに好適な脱水蒸留塔のトレイもしくは充填物としては、差圧が小さく、効率が高いもの、そして重合しやすいものを蒸留するという点からは、構造が単純で突起等の少ないものが好ましい。このようなトレイ、充填物の具体例としては、シーブトレイ、デュアルトレイ、リップルトレイ、充填物では、IMTP(インターロックスメタルタワーパッキング(ノートン社))、CMR(カスケードミニリング(ドッドウエル マーケッティング社))、メラパック(住友重機械工業(株))が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】(4)理論段2段目に相当する部位の温度とその制御方法本発明においては、脱水蒸留塔の理論段2段目に相当する部位の温度を、前述の通り50〜78℃に制御する。この温度を超えた場合は、脱水蒸留塔の内部にアクリル酸の重合体が生成・蓄積し、工業的に実施可能な程の長期間にわたり、安定した運転を行なうことが困難となる。この温度より低い温度では蒸発速度が低下し、減圧のための設備が過大なものとなったり、或は塔内での滞留時間が長くなり、蒸留塔自体の容量が大きなものが必要となる傾向となる。より好ましい理論段2段目に相当する部位の操作温度は60〜73℃である。蒸留塔において、理論段数は塔底部から数えられるので、理論段2段目に相当する部位は、塔底のリボイラー(理論段1段目)の次の理論段に相当する、トレイ又は充填物の位置のことになる。棚段塔の場合、トレイの種類、蒸留対象物質等によりトレイ効率が異なり、一般には理論段一段に対する実トレイ段は2〜5段に相当する。このように、複数の実トレイが理論段一段に相当する場合は、本発明では、「理論段の温度」として、該当する実トレイの最上段の温度を用いる。
【0015】例えば、トレイ効率25%のトレイを使用するとき、理論段1段は実トレイ数4段に相当する。この場合の“理論段2段目の温度”は、実トレイ段の下から4段目の温度を意味する。充填物の場合は、理論段1段に相当する充填高さが“h”の場合、充填物底部より“1h”の位置の温度が“理論段2段目の温度”に該当する(塔底のリボイラーが第1段であるので)。また脱水蒸留塔の塔底温度は60〜90℃、好ましくは65〜86℃とするのがよい。この温度が90℃を超えた場合、塔底部にアクリル酸の重合体が生成しやすくなり、一方、60℃未満では蒸発速度の低下等、設備面、運転面で経済性が悪化する傾向となる。
【0016】なお、後述のように重合禁止剤を脱水蒸留塔に供給した場合は、重合禁止剤の効果により塔底部での重合体生成はかなり抑制される。しかし、理論段2段目の温度を上記の範囲とすることにより、塔底部から発生する蒸気の温度が制御でき、従って重合禁止剤が存在しないトレイ最下部における重合防止が期待できるという効果も得られる。本発明の条件は脱水蒸留塔の運転開始から維持されることが好ましい。運転途中から本発明条件に移行したり、運転途中で本発明条件を逸脱し再び本発明条件に復帰したりする操作を行なうと、本発明による効果はあるものの本発明の条件を外れている間に形成された重合体による重合促進効果を抑制することが困難で、好ましくない。1ケ月間以上にわたるような長期連続運転のためには本発明条件からの逸脱時間は120時間以内であることが重要で、この時間以上逸脱した場合は脱水蒸留塔内にアクリル酸重合体が生成・蓄積する傾向となるので好ましくない。
【0017】本発明の範囲内に理論段2段目の温度を抑制するためには、蒸留塔における塔底部の温度と理論段2段の温度の相関を実験的に、もしくはコンピュータを用いたシミュレーション等によって確認して、これに基いて塔底部の温度を制御する方法を用いることができる。また、この際、理論段2段目に相当する部位に温度計を設けて、所定の温度範囲から外れないよう監視する方法を併用することが望ましい。塔底部の温度を調節する方法としては、リボイラの加熱負荷を変更するのが最も簡便であるが、共沸溶剤等を塔底部等から脱水蒸留塔内に供給する方法を用いてもよい。
【0018】本発明方法を適用するアクリル酸精製プロセスにおいて、例えば下記のようなエネルギー回収や生成物回収のプロセスを組み合わせることは、本発明の目的・効果を阻害しない限り、何ら制約されるものではない。
(a)酢酸分離塔の塔頂留出液の一部或いは全量を脱水蒸留塔にリサイクルする。
(b)脱水蒸留塔の塔頂留出液の一部或いは全量をアクリル酸吸収塔の吸収水として再利用する(得られた粗アクリル酸水溶液は脱水蒸留塔に供給されることになる)。
(c)脱水蒸留塔缶出液中に含まれる重合防止剤を再利用するため、缶出液の一部を脱水蒸留塔にリサイクルする。
【0019】(5)共沸溶剤及び重合防止剤本発明のアクリル酸精製方法においては、脱水蒸留を効率よく行うために水と共沸する有機溶剤(共沸溶剤)を用いるのが好ましい。本発明において用いることができる共沸溶剤としては、水、及び酢酸と共沸するトルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソブチルエーテル、酢酸とは共沸しないが水と共沸する酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、メチルイソブチルケトン等があり、これらは単独、或いは二種以上の混合物で使用される。本発明では、共沸溶剤の種類には特に制限はない。
【0020】一般に、共沸溶剤はアクリル酸の希釈剤となるので、重合防止の観点からは脱水蒸留塔内部や缶出液中の共沸溶剤の濃度は高い方がよいが、その濃度は蒸留に要するエネルギー負荷とのバランスで定めればよい。また、本発明方法においては、アクリル酸の重合防止のために、蒸留塔の缶底液中に重合防止剤を共存させておくのが好ましい。本発明方法に用いることのできる重合防止剤としては特に制限はなく、例えばハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン等のフェノール系、アミン系、或いは酢酸銅等の銅系の重合防止剤を用いることができる。これらの重合防止剤はアクリル酸、共沸溶剤、水、及び/又はこれらの混合液として塔頂、及び/又は蒸留用の液供給段から供給すればよい。また周知の通り、酸素もラジカル重合防止剤として作用するので、分子状酸素を含有するガスを蒸留塔の塔底から吹き込む方法も用いることができる。
【0021】
【実施例】以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>底部にリボイラー、塔頂部にコンデンサーを有し、このコンデンサーの出口は真空装置に接続された直径1000mmの蒸留塔に、リップルトレイを30段設置した。(トレイの番号は塔底側から1段目、2段目、…とし、最も塔頂部寄りのトレイを30段目と呼ぶ。)この30段のトレイは理論段数9段に相当する。(従って蒸留塔としては、リボイラーの1段を加えて、理論段数10段に相当する。)
【0022】蒸留用の原料液として用いたアクリル酸水溶液(以下(A)液と略記する)は、質量濃度でアクリル酸55%、酢酸1.5%、ホルムアルデヒド0.3%及び若干のギ酸を含んでいた。共沸溶剤としてはトルエンを用い、脱水蒸留塔の運転を行った。始めにトルエンを用いて蒸留塔を安定させた後、(A)液を16段トレイに毎時1100kg、トルエンを蒸留塔の30段トレイに毎時3,100kg供給した。塔頂圧力は14.0kPaに制御し、塔頂部から重合防止剤としてハイドロキノン及びフェノチアジンを供給して缶出液中の重合防止剤濃度をハイドロキノン800ppm、フェノチアジン500ppmになるように供給量を調整した。塔底には空気を毎時500リットル供給した。
【0023】塔頂のコンデンサーで凝縮された留出液はデカンターで静置分離された後、共沸溶剤相は全量還流し、水相は抜き出した。リボイラーの加熱源はゲージ圧で196kPaのスチームを使用した。このようにして、トレイ3段目(理論段2段目)の温度を71℃、塔底液の温度を83℃、塔頂温度を44℃として、この脱水蒸留塔を3ケ月間連続して運転した。運転中に塔底から抜き出した缶出液の質量組成は、アクリル酸の他に酢酸2.3%、水0.6%、トルエン15%及び重合防止剤が含まれていた。3ケ月後に運転を停止し蒸留塔を開放点検したところアクリル酸の重合体は発見されなかった。
【0024】<実施例2,3、比較例1>実施例1において塔頂圧力を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして脱水蒸留の実験を行った。トレイ3段目(理論段2段目)及び缶出液温度と併せて、運転結果を表1に示す。
【0025】
【表1】


【0026】<実施例4〜7、比較例2>実施例1において共沸溶媒の種類、及び塔頂圧力を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして脱水蒸留を行った。トレイ3段目(理論段2段目)及び缶出液温度と併せて、運転結果を表2に示す。
<実施例8>実施例1で用いた蒸留塔からトレイを取り去って、メラパック(住友重機械工業(株)製)を充填した。その他の条件は実施例1と同じとして、脱水蒸留を実施した。理論段2段目に相当する部位の温度、及び缶出液温度と併せて運転結果を表3に示す。
【0027】
【表2】


【0028】
【表3】


【0029】<結果の評価>上記の実施例1〜7より、本発明方法で蒸留操作を行った場合は、3ケ月以上、最長6ケ月間にわたって、安定した運転が継続できることが判る。一方、理論段2段目の温度が本発明の範囲外となる比較例1、2では1ケ月又は2.5ケ月で差圧が上昇して運転の継続ができなくなってしまった。更に、充填塔とした実施例においては、一般に重合体の生成により充填塔内の気液分散が乱れ工業的実用化は困難とされていたが、本発明方法を用いることにより、重合体の発生を抑制できたので、通常の蒸留と同様に実施できるようになった。
【0030】
【発明の効果】本発明の方法を用いることにより、アクリル酸の精製プロセスの脱水蒸留塔において、アクリル酸の重合を効果的に防止することが可能となり、長期間にわたって安定した運転を行なうことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を適用することができるアクリル酸精製プロセスの一例を示すフローシート
【符号の説明】
A アクリル酸吸収塔
B 脱水蒸留塔
C 酢酸分離塔
1 導管(酸化反応生成ガス)
2 導管(アクリル酸吸収塔缶出液)
3 導管(脱水蒸留塔塔頂ガス)
4 導管(塔頂留出液から分離された共沸溶剤相)
5 導管(塔頂留出液から分離された水相)
6 導管(脱水蒸留塔缶出液)
7 導管(アクリル酸吸収塔吸収液)
8 導管(水相(排水))
9 導管(酢酸分離塔留出液)
10 導管(酢酸分離管缶出液(精製アクリル酸))

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アクリル酸の水溶液から脱水蒸留塔を用いて脱水蒸留を行いアクリル酸を精製するに際して、該脱水蒸留塔として理論段数が3段以上の蒸留塔を使用し、かつその理論段2段目に相当する部位の操作温度を50〜78℃とすることを特徴とするアクリル酸の精製方法。
【請求項2】 理論段2段目に相当する部位の操作温度を60〜73℃とする請求項1に記載のアクリル酸の精製方法。
【請求項3】 脱水蒸留塔の塔底温度を60〜90℃とする請求項1又は2に記載のアクリル酸の精製方法。
【請求項4】 アクリル酸水溶液がプロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素によって接触酸化して生成した反応ガスから得られた水溶液である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル酸の精製方法。
【請求項5】 アクリル酸水溶液の質量濃度が40%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル酸の精製方法。
【請求項6】 脱水蒸留に際して水と共沸する有機溶剤を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル酸の精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2000−281617(P2000−281617A)
【公開日】平成12年10月10日(2000.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−12995(P2000−12995)
【出願日】平成12年1月21日(2000.1.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】