説明

アクリル酸の精製方法

【課題】アクリル酸の抽出工程で排出される廃水中に未回収のアクリル酸および酢酸が含まれており、廃水を処理するための設備やユーティリティ等が必要となっている。
【解決手段】触媒の存在下、分子状酸素によりプロピレンを酸化させてアクロレインを生成させ、さらにアクロレインを酸化させて得られる反応混合ガス、あるいは、プロパンを酸化させて得られる反応混合ガスを冷却凝縮して得られるアクリル酸含有水溶液から、下記溶剤(A)および溶剤(B)のそれぞれのグループから1種類以上の溶剤を選択した混合溶剤を用いてアクリル酸を抽出し、次いで、得られた抽出液を蒸留することを特徴とするアクリル酸の精製方法。
溶剤(A):炭素数が1〜4のアルコールと酢酸あるいはアクリル酸とのエステル
溶剤(B):ベンゼン、n−へキサン、シクロへキサン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸の精製方法に関するものである。より詳しくは、アクリル酸の抽出工程においてアクリル酸と酢酸の抽出効率を上げることにより、後工程の蒸留操作において、加熱に必要なエネルギーを低く抑えることができ、アクリル酸精製工程での用役コストの削減および蒸留操作での重合等によるトラブルの減少など、高収率で工業的に有利なアクリル酸の精製方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸はプロピレンあるいはプロパンを分子状酸素により酸化させることにより製造される。酸化反応により、主反応生成物であるアクリル酸、未反応物であるプロパン、プロピレンおよびアクロレイン、副反応生成物である酢酸、プロピオン酸、ギ酸、その他有機酸類、アルデヒド類、ケトン類、二酸化炭素、一酸化炭素、炭酸ガス、水蒸気等を含有する反応混合ガスが得られる。
次に、該反応混合ガスを水を使用して冷却凝縮させると、窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、プロピレン、アクロレイン等を含むガス相とアクリル酸、酢酸、プロピレン酸、ギ酸、その他の有機酸類、アルデヒド類、ケトン類等を含むアクリル酸含有水溶液が得られる。
該アクリル酸含有水溶液からアクリル酸を精製分離する方法としては、溶剤と水および酢酸による共沸混合物の形成を利用する共沸蒸留操作による精製方法とアクリル酸水溶液に溶剤を加え抽出操作を行い、アクリル酸を含む抽出液を得て、それを蒸留精製する方法がある。
共沸蒸留操作による精製方法としては、特公平6−15495号公報などが挙げられ、一方、溶剤を使用した抽出と蒸留を組み合わせた精製方法としては、特公昭41−15569号公報、特公昭50−11364号公報、特公昭49−34966号公報などに示されている様々な抽出溶剤を使用したアクリル酸の精製方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−15495号公報
【特許文献2】特公昭41−15569号公報
【特許文献3】特公昭50−11364号公報
【特許文献4】特公昭49−34966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術における共沸蒸留操作による精製方法では、アクリル酸を加熱し、高温下に晒すため、アクリル酸の着色や重合が起こるなどの問題がある。また、得られるアクリル酸含有水溶液の濃度によっては、スチーム等の用役が多量に必要となるという問題もある。
一方、抽出操作と蒸留操作を組み合わせた精製方法では、抽出操作は常温(20〜50℃)および常圧(1atm)付近での操業が可能であり、かつ、アクリル酸水溶液の大部分の水を分離できるため、加熱による重合など副生成物の生成による不純物の増加、あるいはプラントの操業停止などのトラブルの可能性を低減することができる。また、スチームなどの加熱に伴うエネルギーの消費を低減することができるため、抽出操作と蒸留操作を組み合わせた精製方法の方が有利である。
しかしながら、上記先行技術文献2〜4に記載された精製方法では、酢酸を抽出残液すなわち廃水中に分配する性質をもつ抽出溶媒が使用されているため、抽出操作で排出される廃水中に未回収のアクリル酸および酢酸が含まれており、廃水を処理するための設備や用役等が必要となっている。
従って、廃水の処理コストを考慮すると、なるべく多くの量の酢酸をアクリル酸とともに抽出液中に分配し、その後の蒸留操作で酢酸を分離することが好ましい。また、抽出操作後の蒸留操作で加熱に要するエネルギーは抽出操作の有機相中に溶解、同伴される水分量に依存するため、この水分量を出来るだけ少なくすることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者は、アクリル酸水溶液を抽出操作して、次いで、該抽出液を蒸留するアクリル酸の精製方法において、溶剤によるアクリル酸および酢酸の分配係数、溶剤と水との相互溶解度、溶剤と水との共沸混合物の組成等について鋭意検討を行った結果、アクリル酸の精製工程の抽出操作に用いる最適な混合溶剤を組み合わせることにより、上記抽出操作に伴う従来の課題を解決することができ、かつ、蒸留操作が効率的に行えることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
上記課題を解決する手段は、以下に記載するものである。
第1発明は、触媒の存在下、分子状酸素によりプロピレンを酸化させてアクロレインを生成させ、さらにアクロレインを酸化させて得られる反応混合ガス、あるいは、プロパンを酸化させて得られる反応混合ガスを冷却凝縮して得られるアクリル酸含有水溶液から、下記溶剤(A)および溶剤(B)のそれぞれのグループから1種類以上の溶剤を選択した混合溶剤を用いてアクリル酸を抽出し、次いで、得られた抽出液を蒸留することを特徴とするアクリル酸の精製方法である。
溶剤(A):炭素数が1〜4のアルコールと酢酸あるいはアクリル酸とのエステル
溶剤(B):ベンゼン、n−へキサン、シクロへキサン
第2発明は、前記溶剤(A)と溶剤(B)の混合割合が、重量比で、溶剤(A)/溶剤(B)=0.2〜5.0である第1発明に記載のアクリル酸の精製方法である。
さらに、第3発明は、前記溶剤(A)から選択される溶剤が酢酸イソプロピルである第1発明または第2発明に記載のアクリル酸の精製方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアクリル酸の精製方法によれば、アクリル酸の精製工程における用役コストの削減、蒸留操作でのアクリル酸の重合等によるトラブルが減少するなど、高収率で工業的に有利にアクリル酸を製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の精製方法に用いられるアクリル酸水溶液は、公知の方法により製造されたものが使用できる。例えば、触媒の存在下に、分子状酸素によりプロピレンを酸化させてアクロレインを生成させ、さらにアクロレインを酸化させて得られる反応混合ガスを冷却凝縮させて得られるアクリル酸含有水溶液、すなわちプロピレンの二段階気相接触酸化反応で得られるアクリル酸水溶液が挙げられる。さらに、触媒の存在下、分子状酸素によりプロパンを酸化して得られるアクリル酸水溶液も使用できる。
上記反応条件は特に限定されず、従来知られている、プロピレンを二段階の気相接触酸化反応により酸化させて、アクリル酸を製造する一般的な反応条件が適用される。例えば、原料ガスであるプロピレン1〜12容量%、分子状酸素3〜20容量%、水蒸気0〜60容量%、不活性ガス(窒素、二酸化炭素等)20〜80容量%等からなる混合ガスを多管式固定床反応器の反応官内を流通させて、アクロレインを生成させる。
【0009】
その後、出口ガスに必要に応じて分子状酸素および不活性ガス等を追加し、上記「原料ガス」として二段目反応管に供給し、反応原料ガスに含有されるアクロレインを酸化させてアクリル酸を製造する。反応温度は250℃〜450℃、反応圧力は20〜100kPaが好ましい範囲であり、混合ガスおよび反応原料ガスの空間速度(ガス流量/充填した触媒のみかけ容量)は300〜5000hr−1とすることが好ましい。
【0010】
アクロレインを生成させるためのプロピレンの気相接触反応には、この用途に用いられる一般的な触媒を特に限定されることなく使用することができる。この触媒としては、モリブデン、ビスマスおよびニッケル等を必須成分として含有する複合金属酸化物を用いることができ、このような触媒としては、例えば、式(1)により表わされる組成を有する触媒が挙げられる。
【0011】
Mo12BiaNibCocFedYeZfOg (1)
[上記式(1)において、Mo、Bi、Ni、Co、FeおよびOは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄および酸素を表わす。また、Yは錫、亜鉛、タングステン、クロム、マンガン、カリウム、マグネシウム、セリウム、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。さらに、a、b、c、d、e、fおよびgは各々の元素の原子比を表わし、モリブデン原子12に対して、aは0.1≦a≦7、b+cは0.5≦b+c≦20、dは0.5≦d≦8、eは0≦e≦2、fは0≦f≦1である。また、gはそれぞれの元素の酸化状態により定まる数値である。]
【0012】
また、二段階目のアクロレインの酸化反応に用いる触媒としては、アクロレインの気相接触酸化反応の用途に用いられる一般的な触媒を特に限定なく使用することができる。この触媒としては、モリブデン、バナジウム、銅およびアンチモンを必須成分として含有する複合金属酸化物を用いることができ、このような触媒としては、例えば、式(2)により表わされる組成を有する触媒が挙げられる。
【0013】
Mo12VhWiCujSbkXlYmZnOo (2)
[上記式(2)において、Mo、V、W、Cu、SbおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表わす。また、Xはアルカリ金属およびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよび砒素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。さらに、h、i、j、k、l、m、nおよびoは各々の元素の原子比を表わし、モリブデン原子12に対して、hは0<h≦10、iは0≦i≦10、jは0<j≦6、kは0<j≦10、lは0≦l≦0.5、mは0≦m≦1、nは0≦n≦6である。また、oはそれぞれの元素の酸化状態により定まる数値である。]
【0014】
また、分子状酸素によりプロパンを酸化してアクリル酸を製造する時に使用する触媒についても、上記(1)または上記(2)式で表わされる組成を有する触媒あるいはその類似の触媒が用いられる。
【0015】
上記いずれかの方法で製造すると、まず、主反応生成物であるアクリル酸、未反応物であるプロパン、プロピレンおよびアクロレイン、副生成反応物である酢酸、プロピオン酸、ギ酸、その他有機酸類、アルデヒド類、ケトン類、二酸化炭素、一酸化炭素、炭酸ガス、水蒸気等を含有する反応混合ガスが得られる。
次に、該反応混合ガスを水を使用して冷却凝縮させると、窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、プロピレン、アクロレイン等を含むガス相とアクリル酸、酢酸、プロピレン酸、ギ酸、その他の有機酸類、アルデヒド類、ケトン類等を含むアクリル酸含有水溶液が得られる。
【0016】
次に、上記アクリル酸含有水溶液から、下記に記載する特定な混合溶剤にてアクリル酸を抽出し、得られた抽出液を蒸留処理してアクリル酸を精製する。一方、抽出残液については、廃液として適切な処理を行なう。
【0017】
本発明の精製方法で用いられる抽出溶剤は、下記溶剤(A)および溶剤(B)のそれぞれのグループから1種類以上の溶剤を選択し、それらを混合した混合溶媒である。
溶剤(A):炭素数が1〜4のアルコールと酢酸あるいはアクリル酸とのエステル
溶剤(B):ベンゼン、n−ヘキサン、シクロヘキサン
【0018】
溶剤(A)としては、アクリル酸および酢酸に対する抽出力が高く、言い換えれば、抽出液中の重量分率と抽出残液中の重量分率の比で表わされる分配係数が大きくて、水と共沸混合物を形成する酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチルおよびアクリル酸tert−ブチルが挙げられ、これらの1種類あるいは2種類以上を併用することが出来る。
これらの中でも、分岐のアルコールエステルの方が直鎖のアルコールエステルより好ましく、特に好ましくは酢酸イソプロピルである。酢酸イソプロピルは、アクリル酸および酢酸の分配係数が高いだけでなく、さらに、通常の蒸留分離操作では分離が極めて困難なアクリル酸と酢酸を蒸留分離させる際に、アクリル酸と酢酸の相対揮発度を高め、分離を容易にする効果を発現する。さらに、溶剤回収工程において蒸留分離を行う場合にもアクリル酸の重合が起こりにくい効果もある。
【0019】
一方、溶剤(B)は、水との相互溶解性が小さい溶剤であり、安定性および後工程の蒸留により分離しやすい溶剤である。
【0020】
本発明における溶剤(A)と溶剤(B)からなる混合溶剤は、以下に記載する効果を発現するため、アクリル酸の精製において、アクリル酸の収率の向上、廃水処理負荷の軽減、蒸留工程での加熱および冷却に必要なエネルギーコストの低減、重合などによるトラブルの減少がもたらされる。
・ アクリル酸および酢酸に対する抽出力が高い。
・ 水との相互溶解度が小さい。
・ 蒸留分離の際に水および酢酸を容易に分離できる。
【0021】
混合溶剤の混合割合としては、溶剤(A)と溶剤(B)の混合割合が、重量比で、溶剤(A)/溶剤(B)=0.2〜5.0の範囲にあることが好ましい。この範囲で混合することにより、上記の効果がより強く発現する。
更に好ましくは、溶剤(A)/溶剤(B)=1.0〜3.0の範囲である。
【0022】
本発明の精製方法におけるアクリル酸水溶液の抽出操作は、抽出塔を用いて行なうことが好ましい。抽出塔としては、棚段塔、不規則充填物塔、規則充填物塔などが用いられ、メンテナンスの可否や分離の難易により、塔の種類および段数または充填高さが適宜選択される。
また、抽出操作は、一般的には常温(20〜50℃)および常圧の条件で行われる。
【0023】
上記抽出操作により、アクリル酸水溶液からアクリル酸を抽出した抽出液は、通常の減圧下での蒸留により、抽出溶剤、酢酸、高沸点不純物などを除去することで、高純度のアクリル酸を得ることが出来る。
一方、少量の有機物を含む抽出残液(水相)は、常圧あるいは減圧下の蒸留により、有機分を回収した後、廃水として廃棄するが、必要に応じて廃水の処理を行なう。
【0024】
本発明における抽出操作および蒸留操作において、重合防止剤を併用することにより、アクリル酸の重合などの工程トラブルを未然に防止することが出来る。重合防止剤としては、重合性液体の取り扱いの際に、一般的に用いられているフェノチアジン等の芳香族アミン類、ハイドロキノンおよびその誘導体等のフェノール類化合物などの重合防止剤が例示される。また、重合防止剤として分子状酸素も有効であり、空気あるいは酸素含有窒素を蒸留操作の際に用いることが出来る。
【0025】
本発明のおける抽出に用いる混合溶剤が、従来の混合溶剤と比較して優れている理由は、性質の異なった溶剤(A)と溶剤(B)を混合することにより、両方の溶剤の性質を兼ね備えた、アクリル酸および酢酸に対する抽出力が高く、水との相互溶解度が小さく、蒸留分離の際に水および酢酸を容易に分離できるなどの従来の混合溶剤にはない特異的な性質が得られるからであると推定している。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、特にことわりのない限り、「%」は質量%を意味する。
実施例1
プロピレンを空気および水蒸気とともに、公知のプロピレン接触気相酸化触媒(Mo12Bi1.7Ni2.8Co5.2Fe1.80.1)の存在下に反応させてアクロレイン含有ガスを生成し、次いで、アクロレイン含有ガスを、公知のアクロレイン接触気相酸化触媒(Mo121.2Cu1.2Sb0.5)の存在下に反応させて、アクリル酸を含有する反応ガスを得た。次に、この反応ガスを急冷し水に吸収させて、アクリル酸水溶液を得た。アクリル酸水溶液の組成はアクリル酸が57%、酢酸が3%、残りの主成分は水であり、重合防止剤としてハイドロキノンを添加した。
塔径50mm、段数10段の棚段抽出塔の塔頂部から上記で得たアクリル酸水溶液を1.13kg/hrで供給し、塔底部から抽出溶剤として酢酸イソプロピル(溶剤A)とn−ヘキサン(溶剤B)を質量比(溶剤A/溶剤B)1.5の割合で合計1.48kg/hr供給し向流抽出を行った。
塔頂からアクリル酸を含む抽出液を2.29kg/hr、塔底から抽残液を0.32kg/hr得られ、それぞれの組成は下記表1の通りであった。
アクリル酸および酢酸の抽出率はそれぞれ99.5%、98.3%と非常に高い抽出率が得られた。ここで、抽出率は次の式で求めた。
抽出率(%)=抽出液中の目的成分の流量(kg/hr)÷供給液中の目的成分の流量(kg/hr)×100
抽出液中の水の組成、抽残液中のn−ヘキサンおよび酢酸イソプロピルの組成は少なく即ち溶剤と水との相互溶解度が小さく、後工程の蒸留工程に要するエネルギーコストや排水処理コストにおいて有利となる。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
アクリル酸水溶液を1.17kg/hr、抽出溶剤として酢酸イソプロピル(溶剤A)とベンゼン(溶剤B)を質量比0.67の割合で合計1.58kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。塔頂および塔底の流量および組成は下記表2の通りであった。
アクリル酸および酢酸の抽出率はそれぞれ99.4%、98.3%と非常に高い抽出率が得られ、溶剤と水との相互溶解度が充分小さかった。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例3
アクリル酸水溶液を1.11kg/hr、抽出溶剤として酢酸イソプロピル(溶剤A)とシクロヘキサン(溶剤B)を質量比1.5の割合で合計1.66kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。塔頂および塔底の流量および組成は下記表3の通りであった。
アクリル酸および酢酸の抽出率はそれぞれ99.9%、98.3%と非常に高い抽出率が得られ、溶剤と水との相互溶解度が充分小さかった。
【0031】
【表3】

【0032】
比較例1
アクリル酸水溶液を1.13kg/hr、抽出溶剤として酢酸エチル(溶剤A)とn−ヘプタン(溶剤Bに該当しない)を質量比1.5の割合で合計1.58kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。塔頂および塔底の流量および組成は下記表4の通りであった。
アクリル酸の抽出率は99.2%と高かったが、酢酸の抽出率が71.7%と低いため廃水処理工程でのコストがかかってしまう。
【0033】
【表4】

【0034】
比較例2
アクリル酸水溶液を1.13kg/hr、抽出溶剤としてアクリル酸エチル(溶剤A単独)を1.13kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。
塔頂および塔底の流量および組成は下記表5の通りであった。
アクリル酸および酢酸の抽出率はそれぞれ71.5%、0.0%と低かった。また、抽残液中の溶剤濃度が実施例に比べて高かった。
【0035】
【表5】

【0036】
比較例3
アクリル酸水溶液を1.00kg/hr、抽出溶剤として酢酸エチル(溶剤A)とトルエンを質量比2.5の割合で合計1.04kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。塔頂および塔底の流量および組成は下記表6の通りであった。
アクリル酸および酢酸の抽出率はそれぞれ99.3%、94.9%と高かったが、抽出液中の水分濃度が10.8%と高く蒸留工程で水分を分離するためのエネルギーコストがかかるため工業的に不利となる。
【0037】
【表6】

【0038】
比較例4
アクリル酸水溶液を1.02kg/hr、抽出溶剤として酢酸エチル(溶剤A)と酢酸オクチルを質量比1.0の割合で合計1.02kg/hrで供給した以外は実施例1と同様に向流抽出を行った。塔頂および塔底の流量および組成は下記表7の通りであった。
アクリル酸の抽出率は99.3%と高いが酢酸の抽出率が88.7%と低いため廃水処理工程でのコストがかかってしまう。
【0039】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のアクリル酸の精製方法は、アクリル酸の抽出工程においてアクリル酸と酢酸の抽出効率を上げることにより、後工程の蒸留操作において、加熱に必要なエネルギーを低く抑えることができ、アクリル酸精製工程での用役コストの削減および蒸留操作での重合等によるトラブルの回避など、高収率で工業的に有利にアクリル酸を精製する方法であり、工業的にアクリル酸を製造する化学プラントに利用され得るものである。





























【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、分子状酸素によりプロピレンを酸化させてアクロレインを生成させ、さらにアクロレインを酸化させて得られる反応混合ガス、あるいは、プロパンを酸化させて得られる反応混合ガスを冷却凝縮して得られるアクリル酸含有水溶液から、下記溶剤(A)および溶剤(B)のそれぞれのグループから1種類以上の溶剤を選択した混合溶剤を用いてアクリル酸を抽出し、次いで、得られた抽出液を蒸留することを特徴とするアクリル酸の精製方法。
溶剤(A):炭素数が1〜4のアルコールと酢酸あるいはアクリル酸とのエステル
溶剤(B):ベンゼン、n−へキサン、シクロへキサン
【請求項2】
前記溶剤(A)と溶剤(B)の混合割合が、重量比で、溶剤(A)/溶剤(B)=0.2〜5.0である請求項1記載のアクリル酸の精製方法。
【請求項3】
前記溶剤(A)から選択される溶剤が酢酸イソプロピルである請求項1または請求項2に記載のアクリル酸の精製方法。





【公開番号】特開2010−163383(P2010−163383A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5978(P2009−5978)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】