説明

アクリル酸の製造方法、アクリル酸製造用装置、およびアクリル酸製造用組成物

【課題】アクロレイン含有組成物からアクリル酸を収率良く製造できるアクリル酸の製造方法、装置、およびアクロレイン含有組成物の提供。
【解決手段】アクリル酸の製造方法は、アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製工程と、この該精製工程後のアクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化工程とを有する方法であり、この方法で使用される装置は、精製工程で使用される精製器と、アクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化反応器とを有する。そして、アクロレイン含有組成物は、フェノールの質量/(アクロレインの質量)が0.020以下、(1−ヒドロキシアセトンの質量)/(アクロレインの質量)が0.020以下の組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸の製造方法、アクリル酸製造用装置、およびアクリル酸製造用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクロレインは、1,3−プロパンジオール、メチオニン、アクリル酸、3−メチルチオプロピオンアルデヒド等のアクロレイン誘導体の原料として使用されている。そして、アクロレインは、グリセリンを脱水して製造できることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、グリセリンを脱水するとアリルアルコール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、1−ヒドロキシアセトンを副生成物として含むアクロレイン含有組成物を製造できることが開示されており、更に、これを蒸留精製してアクロレイン濃度を高めた当該組成物を原料とし、この原料中のアクロレインを還元して1,3−プロパンジオールを製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、グリセリンの気相脱水反応により製造した組成物中のアクロレインを気相酸化させてアクリル酸を製造する方法が開示されている。
【0004】
上述の通り、アクロレインから様々な化合物がアクロレイン誘導体として製造されるが、何れの誘導体を製造する場合であっても、これを収率良く製造することが望まれる。アクリル酸を製造する場合においても、収率の良い製造方法が望まれるのは、例外ではない。
【特許文献1】特開平6−211724号公報
【特許文献2】特開2005−213225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、アクロレイン含有組成物からアクリル酸を収率良く製造できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アクロレイン含有組成物中の化合物がアクリル酸の収率に影響を与えるかについて検討を重ねた。その結果、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンがアクリル酸の収率低下の要因になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製工程と、該精製工程後の前記アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化工程とを有するアクリル酸の製造方法である。ここで、本製造方法発明における「アクロレイン含有組成物」は、アクロレイン、およびフェノールを有する組成物;アクロレイン、および1−ヒドロキシアセトンを有する組成物;または、アクロレイン、フェノール、および1−ヒドロキシアセトンを有する組成物;であって、液状またはガス状の組成物である。
【0008】
前記アクリル酸の製造方法は、グリセリンを脱水してアクロレインを製造する脱水工程を前記精製工程の前に有していても良い。この脱水工程は、例えば、気相中でグリセリンを脱水する工程である。
【0009】
また、本発明は、アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製器と、該精製器で精製された前記アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化反応器とを有するアクリル酸製造用装置である。
【0010】
また本発明は、前記アクリル酸の製造方法を使用してアクリル酸を製造する工程を有するアクリル酸誘導体の製造方法である。ここで「アクリル酸誘導体」とは、アクリル酸を原料とする化合物であり、例えば、アクリル酸エステル、並びに、ポリアクリル酸およびその塩がある。
【0011】
また本発明は、アクロレインを含有するアクリル酸製造用組成物であって、アクロレインの質量(A)とフェノールの質量(P)との比(P/A)が0.020以下、アクロレインの質量(A)と1−ヒドロキシアセトンの質量(H)との比(H/A)が0.020以下であるアクリル酸製造用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る製造方法および装置によれば、フェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンをアクロレイン含有組成物から除去するので、高収率でアクリル酸を製造することができる。
【0013】
また、本発明に係る組成物によれば、アクロレインに対するフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンの量が所定量以下であるので、収率良くアクリル酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態のアクリル酸の製造方法は、アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製工程と、精製工程後のアクリル酸を酸化する酸化工程を有する方法である。以下、本実施形態の方法を工程毎に説明する。
【0015】
先ず、精製工程について説明する。
精製工程で使用されるアクロレイン含有組成物は、フェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを含有する。そして、当該アクロレイン含有組成物は、グリセリンガスを使用するグリセリンの気相脱水反応または液状グリセリンを使用するグリセリンの液相脱水反応により製造される。これらの脱水反応では、触媒が使用される。
【0016】
脱水反応において使用できる触媒としては、H−ZSM5を代表例とするゼオライト、カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイトなどの天然または合成粘土化合物;硫酸、リン酸またはリン酸塩(リン酸のアルカリ金属塩、リン酸マンガン、リン酸ジルコニウム等)をアルミナ等に担持させた触媒;Al23、TiO2、ZrO2、SnO2、V25、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、TiO2−WO3などの無機酸化物または無機複合酸化物;MgSO4、Al2(SO4)3、K2SO4、AlPO4、Zr3(SO4)2等の金属の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの固体酸性物質;が例示される。その他、リン酸、硫酸、または酸化タングステンを担持している酸化ジルコニウムや、国際公開WO2006/087083号公報およびWO2006/087084号公報に開示されている固体酸をグリセリンの脱水反応用触媒に使用することができる。これら脱水反応に使用する触媒の形状は、限定されるものではなく、球形、柱状、リング状、または、鞍状であると良い。
【0017】
グリセリンの気相脱水反応を例に挙げて、アクロレイン含有組成物の製造条件を更に詳述する。気相脱水反応では、固定床反応器、移動床反応器等から任意に選択した反応器内でグリセリンを含んだ反応ガスと触媒を接触させて行われる。
【0018】
反応ガスは、グリセリンのみで構成されているガスであっても良く、反応ガス中のグリセリン濃度を調整するためのガスを含んでいるものであっても良い。この濃度調整のためのガスとしては、水蒸気、窒素、空気を例示することができる。また、反応ガスにおけるグリセリン濃度は、0.1〜100モル%であると良く、好ましくは1モル%以上であり、経済的かつ高効率にアクロレインを生成させるためには10モル%以上である。
【0019】
気相脱水反応は、反応ガスを反応器内に流通させることが生産効率の観点から好ましく、このときの反応ガスの流量は、単位触媒容積あたりの反応ガス流量(GHSV)で表すと100〜10000hr-1であると良い。好ましくは、5000hr-1以下であり、経済的かつ高効率にアクロレインを生成させるためには、3000hr-1以下である。また、気相脱水反応温度は、特に限定されるものではないが、200〜500℃であると良く、好ましくは、250〜450℃、更に好ましくは、300〜400℃であり、反応ガスの圧力は、グリセリンガスが凝縮しない範囲の圧力であれば良く、通常、0.001〜1MPaであると良く、好ましくは、0.01〜0.5MPaである。
【0020】
グリセリンの気相脱水反応によれば、ガス状のアクロレイン含有組成物が生成する。このガス状組成物を捕集するためには、ガス状のアクロレイン含有組成物を冷却して液化させる方法や、アクロレイン溶解能を有する水等の溶剤に吸収させる方法を用いれば良い。
【0021】
ところで、上述の通り、フェノールまたは1−ヒドロキシアセトンを除去したアクロレイン含有組成物がアクリル酸製造用組成物として好適であることを、本発明者が探求の結果が見出したのである。この経緯について述べれば、次の通りである。
【0022】
本発明者は、アクロレインの製造において副生するフェノール、1−ヒドロキシアセトン、またはアリルアルコールをアクロレインに添加した組成物を調製し、この組成物を原料に使用したアクリル酸生成実験を行った。
【0023】
なお、上記実験は、次の通り行ったものである。20ccのアクリル酸製造用触媒(後記実施例1におけるアクリル酸製造用触媒)を充填したステンレス製反応管に反応ガスを流通(GHSV:2000hr-1)させ、反応温度230℃でアクリル酸を生成させた。そして、流通開始から60〜80分の間に反応管から流出したガスを捕集し、この成分をガスクロマトグラフィーで分析した。この実験での反応ガスとしては、水蒸気33.36容量部(実験No.1);水蒸気33.18容量部、およびフェノール0.18容量部(実験No.2);水蒸気33.00容量部、および1−ヒドロキアセトン0.36容量部(実験No.3);または、水蒸気33.00容量部、およびアリルアルコール0.36容量部(実験No.4);と、窒素54.4容量部、酸素10.44およびアクロレイン1.8容量部とを成分に有するガスを使用した。
【0024】
この実験結果は、次表1の通りである。
【表1】

【0025】
表1に示す通り、フェノール(実験No.2)または1−ヒドロキシアセトン(実験No.3)を含むアクロレイン含有組成物を原料に使用した場合、これらの化合物が添加されていないアクロレイン組成物を使用するよりも、アクロレインの転化率、およびアクリル酸の収率の点で悪い。このことから、アクロレイン含有組成物からフェノールまたは1−ヒドロキシアセトンを除去することとした。
【0026】
なお、上記実験結果から、1−ヒドロキシアセトンを除去した場合、酢酸の副生を抑制できることが分かっている。
【0027】
上記の通り、アクロレイン含有組成物にフェノールまたは1−ヒドロキシアセトンが含まれている場合、アクリル酸の収率が悪化するが、これは次の理由であると推定される。フェノールとアクロレインは、酸又は塩基が存在していると、重合して高分子化することと同様に、アクリル酸製造用触媒の酸または塩基点でも高分子化した化合物が生成すると推定される。そして、アクリル酸製造用触媒の酸点などでも前記化合物が生じた結果、この触媒の活性点が被覆され、アクリル酸の収率が悪化すると推定される。また、1−ヒドロキシアセトンが含まれている場合には、酢酸が多量に生成するので、アクリル酸製造用触媒の酸化作用を受けた1−ヒドロキシアセトンが酢酸に転化していると推測される。このような転化は、アクロレインをアクリル酸に転化するための触媒活性点を減少させることになって、アクリル酸の収率を悪化させると推定される。
【0028】
フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンはアクリル酸の収率を低下させる化合物であるので、両化合物の除去量は、多いほど好ましい。そして、除去後のアクロレイン含有組成物中のフェノールの量は、アクロレインの質量(A)とフェノールの質量(P)との比(P/A)で表せば、P/Aが0.020以下であることが好ましく、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下である。また、除去後のアクロレイン含有組成物中の1−ヒドロキシアセトンの量は、アクロレインの質量(A)と1−ヒドロキシアセトンの質量(H)との比(H/A)で表せば、H/Aが0.020以下であることが好ましく、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下である。
【0029】
上記の通り、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンの除去量が多いほど好ましいが、この除去量を多くすることに伴って、アクロレインの損失量が増大する問題および精製工程煩雑化の問題が生じやすくなる。これらの問題は、フェノールの除去を蒸留操作などの加熱を伴う精製方法により行う場合に生じやすい。このことを考慮すれば、P/Aが1×10-9以上であると良く、好ましくは1×10-7以上、更に好ましくは1×10-5以上である。また、1−ヒドロキシアセトンの除去においても上記の問題が生じる場合には、H/Aが1×10-9以上であると良く、好ましくは1×10-7以上、更に好ましくは1×10-5以上である。
【0030】
そして、アクロレイン含有組成物のH/AおよびP/Aを上記範囲とするために精製工程を行うことになる。この精製工程では、公知の精製器から適宜に選択した精製器が使用される。なお、精製工程では、精製器を使用したアクロレイン含有組成物の精製前に、溶剤抽出によるアクロレイン含有組成物中の水分等の分離が必要に応じて行われる。
【0031】
本実施形態の精製工程で使用することができる精製器としては、例えば、液状のアクロレイン含有組成物における低沸点のアクロレインを分留する蒸留塔、ガス状のアクロレイン含有組成物における高凝縮温度のフェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンを凝縮分離する凝縮塔、貯留されている液状アクロレイン含有組成物にガスを吹き込んで低沸点のアクロレインを気化させる蒸散塔を備える精製器を例示することができる。上記例示した精製器は、アクロレイン(沸点:53℃)、フェノール(沸点:182℃)、及び1−ヒドロキシアセトン(沸点146℃)に沸点差があることを利用するものであり、フェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを容易に除去することができる。
【0032】
図1は、本発明の実施形態における精製器の一例を説明するための概略構成図であり、図1を参照しつつ、先に例示した放散塔を備える精製器について更に説明する。図示の精製器は、冷却によりガス状アクロレイン含有組成物を凝縮液化するための捕集塔1と、液状アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを気化させるための放散塔2とにより構成されている。これらのうち捕集塔1においては、その塔底部からガス状アクロレイン含有組成物(図1における「組成物ガス」)が供給され、また、塔上部から捕集塔1の冷却により凝縮液化しなかった排出ガスを放出する。一方、放散塔2においては、その塔底部から液状アクロレイン含有組成物を気化させるための放散用ガスが供給され、また、塔上部からガス状アクロレイン含有組成物ガスを放出する。そして、捕集塔1と放散塔2とは、次の通り、配管で接続されている。捕集塔1の塔底部と放散塔2の塔上部とは送出管3で接続され、放散塔2の塔底部と捕集塔1の塔上部とは返送管4で接続されている。
【0033】
上記図1の構成の精製器におけるアクロレイン含有組成物の精製過程について説明する。捕集塔1において冷却されて液化した液状アクロレイン含有組成物は、送出管3を通じて放散塔2に供給される。放散塔2内には所定量の液状アクロレイン含有組成物が貯留され、供給過多により所定量を超えた液状アクロレイン含有組成物は返送管4を通じて捕集塔1に戻される。その一方で、放散塔2内に貯留されている液状アクロレイン含有組成物には放散用ガスが供給されることになるので、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンよりも沸点が低いアクロレインが優先して気化し、この気化したアクロレインを含むガスが組成物ガスとして放散塔2の塔上部から放出される。なお、この放出された組成物ガスを、後記の酸化反応器に直接導入しても良い。
【0034】
上記の通り、放散塔2には放散用ガスが供給されることになる。この放散用ガスは、アクロレインを気化させることができる程度の温度であれば良い。そして、放散用ガスには、空気、窒素、水蒸気を使用することができる他、経済的に好ましい後記アクリル酸吸収塔から排出されたガスを使用することができる。また、経済的に好ましい放散用ガスとして、捕集塔1からの排出ガスを使用することもできる。図2は、捕集塔1からの排出ガスを放散用ガスとして使用する精製器の概略構成図であり、この精製器は、図1の精製器における捕集塔1の塔上部と放散塔2の塔底部をガス導入管5で接続したものである。図2に示す構成の精製器を使用すれば捕集塔1からの排出ガスを放散用ガスとして使用することが可能であり、その上、捕集塔1で捕集することができなかった排出ガス中における全てのアクロレインを放散塔2に供給することができる。
【0035】
次に、酸化工程について説明する。
本実施形態における酸化工程では、固定床反応器、移動床反応器等から任意に選択した酸化反応器内に触媒と精製工程後のアクロレイン含有組成物のガスとを共存させ、200〜400℃でアクロレインを気相酸化して、アクリル酸が製造される。
【0036】
上記酸化反応で使用する触媒は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガス、および分子状酸素又は分子状酸素を含有するガスを用いた接触気相酸化法によってアクリル酸を製造する場合に用いられる触媒であれば、特に限定されない。例えば、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化アンチモン、酸化錫、および酸化銅等の金属酸化物の混合物;金属酸化物の複合物;を例示することができる。これら例示した触媒のうち、モリブデンおよびバナジウムが構成金属の主体となっているモリブデン‐バナジウム系触媒が好適である。また、触媒は、担体(例えば、ジルコニア、シリカ、アルミナ、およびこれらの複合物、並びに、炭化珪素)に前述の混合物および/または複合物を担持させたものであっても良い。
【0037】
酸化工程で使用するアクロレイン含有組成物のガスは、酸素が添加されていることが酸化反応促進の観点から好ましいが、酸素添加量が過ぎた場合には燃焼が生じて爆発の危険を伴う恐れが生じるので、その上限値を適宜設定することになる。
【0038】
上記酸化工程でアクリル酸が製造されるが、気相酸化工程で生成したアクリル酸は、気体のアクリル酸となる。このアクリル酸を回収するためには、アクリル酸を冷却または水等の溶剤に吸収させることができる吸収塔が用いられる。
【0039】
製造されたアクリル酸は、アクリル酸エステル、ポリアクリル酸等のアクリル酸誘導体の原料として使用可能であることは公知となっていることから、上記アクリル酸の製造方法を、アクリル酸誘導体の製造方法におけるアクリル酸製造工程にすることが可能である。
【0040】
そして、得られたアクリル酸を使用してポリアクリル酸を製造する場合、水溶液重合法や逆相懸濁重合法を使用して、吸水性樹脂として使用することができるポリアクリル酸を製造することができる。ここで、水溶液重合法は、分散溶媒を使用せずにアクリル酸水溶液中のアクリル酸を重合する方法であり、米国特許公報第4625001号、4873299号、4286082号、4973632号、4985518号、5124416号、5250640号、5264495号、5145906号、および5380808号、並びに、欧州特許公報第0811636号、0955086号、および0922717号等に開示されている。また、逆相懸濁重合法は、単量体であるアクリル酸の水溶液を疎水性有機溶媒に懸濁させる重合法であり、米国特許公報第4093776号、4367323号、4446261号、4683274号、および5244735号に開示されている。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
アクロレイン製造用触媒を使用してアクロレイン含有組成物を調製し、この調製した組成物から精製した。そして、当該精製後の組成物を原料として、アクリル酸を製造した。この製造過程の詳細は、以下の通りである。
【0043】
(アクロレイン製造用触媒)
0.4387gのCs2CO3、および3.0629gのリン酸二水素アンモニウムを350gの水に溶解し、これに40gのSiO2粉末を常温含浸した後、蒸発乾固させて触媒前駆体を得た。次に、大気中で、600℃、5時間の条件で触媒前駆体を焼成した後、粉砕および分級し、粒径が0.7〜2.0mmであるアクロレイン製造用触媒を調製した。
【0044】
(アクロレイン含有組成物の調製)
上記アクロレイン製造用触媒15mlを充填したステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)を固定床反応器として準備し、この反応器を360℃の塩浴に浸漬した。その後、反応器内に窒素を61.5ml/minの流量で30分間流通させた後、反応ガス(反応ガス組成:グリセリン27mol%、水34mol%、窒素39mol%)を流量632hr-1で流通させた。反応器から流出したガスを冷却液化回収して、アクロレイン含有組成物を調製した。なお、液化回収量は、使用したグリセリン水溶液の94質量%であった。
【0045】
調製した上記アクロレイン含有組成物をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−14B(検出器:FID)、信和化工株式会社製パックドカラムZT−7)で定量分析した結果、アクロレイン31.0質量%、フェノール1.3質量%、1−ヒドロキシアセトン7.5質量%、グリセリン0.1質量%、アリルアルコール0.1質量%との分析値が得られた。また、カールフィッシャー法により分析した結果、水54質量%との分析値が得られた。
【0046】
(アクロレイン含有組成物の精製)
理論段数が5段相当であるディクソンパッキンを充填した充填塔を用い、塔頂温度46℃、塔底温度100℃、還流比3.3、常圧の条件で、上記アクロレイン含有組成物を蒸留精製した。
【0047】
精製したアクロレイン含有組成物をガスクロマトグラフィーで定量分析した結果、アクロレイン96.7質量%、フェノール0.05質量%との分析結果が得られ、1−ヒドロキシアセトン、グリセリンおよびアリルアルコールは、検出されなかった。
【0048】
(アクリル酸の製造)
20mlのアクリル酸製造用触媒を充填したステンレス製反応管(内径25mm、長さ500mm)を固定床酸化反応器として準備し、この反応器を230℃のナイターバス中に設置した。その後、アクロレイン含有ガスを反応器内に流通させた。ここでアクロレイン含有ガスとして、精製したアクロレイン含有組成物1質量部と水5.75質量部との混合物(流量0.209g/min)、空気(流量331.4ml/min)、および窒素(流量31.2ml/min)の混合ガスを使用した。アクロレインガスの流通開始から24時間後に、反応器から流出するガスを冷却液化回収して、アクリル酸含有組成物を得た。
【0049】
なお、上記アクリル酸製造用触媒を次の通り調製した。加熱攪拌している水2500mlにパラモリブデン酸アンモニウム350g、メタバナジン酸アンモニウム116gおよびパラタングステン酸アンモニウム44.6gを溶解した後、三酸化バナジウム1.5gを添加した。これとは別に、加熱攪拌している水750mlに硝酸銅87.8gを溶解した後、酸化第一銅1.2gおよび三酸化アンチモン29gを添加した。これら2つの液を混合した後、担体である直径3〜5mmの球状α−アルミナ1000mlを加え、攪拌しながら蒸発乾固させて触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を400℃で6時間焼成してアクリル酸製造用触媒を調製した。なお、当該アクリル酸製造用触媒の担持金属組成は、Mo126.11Cu2.3Sb1.2である。
【0050】
また、上記実施例の比較としてのアクリル酸の製造を行った(比較例)。この比較例では、(1)蒸留を行わなかった未精製のアクロレイン含有組成物を使用したこと、および(2)アクリル酸の製造における反応器内に流通させるアクロレイン含有ガスとして、未精製のアクロレイン含有組成物1質量部と水1.3質量部との混合物(流量0.209g/min)、空気(流量331.4ml/min)、および窒素(流量31.2ml/min)との混合ガスを使用したこと以外は、実施例と同様にした。
【0051】
以上の実施例および比較例で製造したアクリル酸含有組成物のアクロレインおよびアクリル酸を、ガスクロマトグラフィーで定量し、アクロレインの転化率、アクリル酸の収率、およびアクリル酸の選択率を算出した。これらの算出結果を表2に示す。ここで表2において、収率、選択率共に、反応ガス中におけるアクロレインを基準に算出した値である。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示す通り、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンが除去されたアクロレイン組成物を使用した実施例は、アクロレイン転化率、アクリル酸収率、およびアクリル酸選択率の全ての点で、比較例よりも優れる。また、1−ヒドロキシアセトンの除去を行った実施例では、副生成物である酢酸の収率および選択率が低く抑えられていることを確認することができる。
【0054】
上記実施例に準じた方法により製造したアクリル酸を原料にして吸水性樹脂を製造した。この吸水性樹脂の製造方法および物性は以下の通りである。
【0055】
(吸水性樹脂の製造)
実施例と同様にして調製したアクロレイン含有ガスを、実施例と同様にして固定床酸化反応器(固定床:アクリル酸製造用触媒)内に流通させた。当該流通開始から24時間後以降に反応器から流出するガスを水に吸収させて、アクリル酸水溶液を得た。このアクリル酸水溶液を溶剤分離塔に供給し、共沸蒸留によりアクリル酸水溶液から水や酢酸等の低沸点不純物を除去した。その後、アクリル酸水溶液を50段の無堰多孔板を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給し、還流比を2に設定して蒸留した。この高沸点不純物分離塔での蒸留では、分離塔の塔頂からp−メトキシフェノールを投入すると共に、分離塔の下から25段目の無堰多孔板上にヒドラジンヒドラートを投入することにより、アクリル酸と質量基準で20ppmのp−メトキシフェノールを含有するアクリル酸含有組成物を塔頂から得た。
【0056】
72.07gの上記アクリル酸含有組成物、293.06gのイオン交換水、および全単量体に対して0.05モル%のポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数:8.2)を混合し、アクリル酸濃度が20質量%、p−メトキシフェノールが質量基準で4ppm、中和率が0モル%の単量体水溶液を調製した。
【0057】
温度が20℃である上記調製した単量体水溶液の全量を重合用容器(容積が1Lのポリプロピレン製円筒状容器)に投入した後に窒素ガスを吹き込み、単量体水溶液の溶存酸素を1ppm以下にした。その後、重合用容器を断熱状態にし、重合開始剤として過硫酸ナトリウムを0.12g含有する水溶液、L−アスコルビン酸を0.0018g含有する水溶液を添加した。その後、単量体水溶液の温度がピーク温度となってから30分間経過するまでアクリル酸の重合を進行させて、含水ゲル状重合体を得た。含水ゲル状重合体を約1mmに細分化し、これに62.5gの48質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、含水ゲル状重合体の酸基の75モル%を中和した。この中和後に算出した含水ゲル状重合体の重合率は、98.4%であった。次に、含水ゲル状重合体を、目開き850μmの金網上に広げ、60℃の気体(露点160℃)の熱風中で60分間乾燥し、振動ミルで粉砕し、更に、目開きが850μmのJIS標準篩で分級した。この分級により篩を通過した粉末を、吸水性樹脂として得た。
【0058】
(吸水性樹脂の物性)
吸水性樹脂の物性は、生理食塩水に対する吸収倍率が50倍、人工尿に対する吸収倍率が48倍、水可溶成分が9質量%であった。なお、吸水性樹脂の各物性の測定方法は、以下の通りとした。
【0059】
(生理食塩水に対する吸収倍率)
米国特許第5164459号公報に開示されている無加重下での吸収倍率算出方法に則して、次の通り吸収倍率を算出した。
ティーバックタイプの不織布製袋(40mm×150mm)に吸水性樹脂0.2gを投入し、次いで不織布製袋の開口部を閉口シールした。この不織布製袋を、温度が25±3℃である100gの生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム水溶液)に30分間浸漬した。この浸漬後、水切りした。この一連の作業において測定した生理食塩水に浸漬する前の吸水性樹脂と不織布製袋との質量(W2)および浸漬後に水切りを行った吸水性樹脂と不織布製袋との質量(W1)から、吸水性樹脂の生理食塩水に対する吸収倍率((W1−W2)g/0.2g)を算出した。
【0060】
(人工尿に対する吸収倍率)
米国特許第5164459号公報に開示されている無加重下での吸収倍率算出方法に則して、次の通り吸収倍率を算出した。
ティーバックタイプの不織布製袋(60mm×60mm)に吸水性樹脂0.2gを投入し、次いで不織布製袋の開口部を閉口シールした。この不織布製袋を、温度が25±3℃である100gの人口尿に60分間浸漬した。この浸漬後、遠心分離機を使用して250Gで3分間水切りした。この一連の作業において測定した人口尿に浸漬する前の吸水性樹脂と不織布製袋との質量(W4)および浸漬後に水切りを行った吸水性樹脂と不織布製袋との質量(W3)から、吸水性樹脂の人口尿に対する吸収倍率((W3−W4)g/0.2g)を算出した。
なお、人口尿には、Jayco社から販売されている人口尿(塩化カリウム2.0g、硫酸ナトリウム2.0g、リン酸2水素アンモニウム0.85g、リン酸1水素アンモニウム0.15g、塩化カルシウム0.19g、および塩化マグネシウム0.23gを蒸留水1Lに溶解した溶液)を使用した。
【0061】
(水可溶成分)
室温の脱イオン水1000mlに吸水性樹脂500mgを分散し、マグネティックスターラーで16時間攪拌した後、膨潤したゲル状の吸水性樹脂を濾紙(東洋濾紙社製No.6)を使用して濾過した。次に、濾液中の吸水性樹脂をコロイド滴定することにより、吸水性樹脂における水可溶成分を求めた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態における精製器の一例を説明するための概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態における精製器の他の例を説明するための概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製工程と、該精製工程後の前記アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化工程とを有することを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
グリセリンを脱水してアクロレインを製造する脱水工程を、前記精製工程の前に有する請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記脱水工程において、気相中でグリセリンを脱水する請求項2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法を使用してアクリル酸を製造する工程を有するアクリル酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1−ヒドロキシアセトンを除去する精製器と、該精製器で精製された前記アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化反応器とを有することを特徴とするアクリル酸製造用装置。
【請求項6】
アクロレインを含有するアクリル酸製造用組成物であって、アクロレインの質量(A)とフェノールの質量(P)との比(P/A)が0.020以下、アクロレインの質量(A)と1−ヒドロキシアセトンの質量(H)との比(H/A)が0.020以下であることを特徴とするアクリル酸製造用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115103(P2008−115103A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299462(P2006−299462)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】