説明

アクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物混合体

【課題】分子中に電荷輸送機能を持つ構造単位と良好な連鎖重合性を持つ官能基を有し、他のモノマーとの相溶性や成膜性にも優れ、連鎖反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立できる新規なアクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物混合体を提供する。
【解決手段】例えば、4-ヒト゛ロキシ-4’-(シ゛-p-トリルアミノ)スチルヘ゛ンとク゛リシシ゛ルメタクリレートとの反応生成物を精製して得た2-ヒト゛ロキシ-3-[4’-(シ゛-p-トリルアミノ)スチルヘ゛ン-4-イルオキシ]フ゜ロヒ゜ルメタクリレートと塩化アクリロイルを反応させ2-アクリロイルオキシ-3-[4’-(シ゛-p-トリルアミノ)スチルヘ゛ン-4-イルオキシ]フ゜ロヒ゜ルメタクリレートを得る。あるいは副生物を含む反応生成物に塩化アクリロイルを反応させアクリル酸エステル化合物混合体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等に用いられる有機半導体材料として有用である新規なアクリル酸エステル化合物に関し、詳しくは分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を発現する構造単位とアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル官能基を併せ持ち、ラジカル重合等の連鎖反応により架橋密度の高い熱可塑性樹脂あるいは架橋硬化樹脂を形成することが可能なアクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物混合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷輸送機能を有する有機半導体材料は、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等の有機デバイス用半導体膜形成材料として有用である。このような電荷輸送機能を樹脂に持たせる方法としては、機能膜形成等においてバインダーとして使用される樹脂中に電荷輸送性材料を分散させる方法が最も一般的であり、特に電子写真感光体では広く使用されている。
しかしながら、単に電荷輸送性材料を樹脂中に混合、分散させるだけでは電荷輸送機能膜の機械的強度や耐熱性を確保するのが難しく、特性として十分なものが得られない。したがって、これらの特性を向上するためには、電荷輸送性材料とバインダーとして使用される樹脂を結合させて一体化させることが有効である。
【0003】
このため、近年、電荷輸送性材料と樹脂を一体化させる取り組みが行われており、電荷輸送性構造体にラジカル重合性基を結合した電荷輸送性モノマー及びその重合体が種々提案されている。
例えば、二つ以上の連鎖重合性官能基を有する種々の電荷輸送性モノマーが提案されており、これらを電子写真感光体に応用することが提案されている。電荷輸送性モノマーの中でも特にアクリル酸エステル系化合物は架橋性が良好であり多数提案されている(例えば、特許文献1、2、3、4参照。)。このような電荷輸送性モノマーを用いることにより、耐析出性、耐摩耗性、耐傷性、感度、残留電位などが改善されるとしている。
【0004】
また、本出願人は先に、芳香族三級アミン骨格を有するアクリル酸エステル類及びその重合体、ならびに電子写真感光体を提案した(例えば、特許文献5、6、7参照。)。このアクリル酸エステル類を用いることにより、電子写真感光体の感度と耐久性の向上が図れる。
【0005】
電荷輸送性を示すホールの移動度に着目した場合、単純なトリフェニルアミン構造よりも共役系の拡大したアミノビフェニル構造体やアミノ置換スチルベン構造体が高い移動度を示すことが知られており、上記開示電荷輸送性モノマーの内、これらの構造を有したものは特に有用な材料である。
このような電荷輸送性モノマーを用いてラジカル重合等により連鎖重合し、十分に架橋密度の高い3次元架橋膜を形成すれば、傷が付きにくく、硬度や耐熱性の高い膜が得られるので、各種有機半導体素子に用いた際に耐久性向上を図ることができる。しかしながら、架橋密度を高めることによって、本来必要とされる電荷輸送性が低下し、十分な機能が得られないという問題がある。
【0006】
すなわち、これまで提案されてきた多数の電荷輸送性モノマーの場合には、摩耗や傷などに対する耐久性や耐熱性の要求に対応できる高架橋密度構造の形成と同時に、良好な電荷輸送特性の発現を両立して達成できるものはなく、両者を満足することのできる新規な化合物の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−66424号公報
【特許文献2】特開2000−66425号公報
【特許文献3】特開2000−206716号公報
【特許文献4】特開2004−212959号公報
【特許文献5】特許第3164426号明細書
【特許文献6】特許第3194392号明細書
【特許文献7】特許第3286704号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位と、良好な連鎖重合性(例えば、ラジカル重合性)を持つ官能基を有し、他のモノマーとの相溶性や成膜性にも優れ、連鎖反応により摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立することができる新規なアクリル酸エステル化合物、及びアクリル酸エステル化合物混合体を提供することを目的とする。
なお、本発明における「アクリル酸エステル化合物」は、「アクリル酸エステル官能基及び/又はメタクリル酸エステル官能基を有する化合物」を指すものと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、分子中にスチルベン構造を含み芳香族三級アミン構造からなる電荷輸送機能を有するヒドロキシ化合物にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル官能基を導入することにより、上記課題のアクリル酸エステル化合物及びアクリル酸エステル化合物混合体が得られることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
本発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物である。
【0011】
【化15】

【0012】
(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)
【0013】
また本発明は、下記一般式(1):
【0014】
【化16】

【0015】
(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(2):
【0016】
【化17】

【0017】
(式中の表示、Ra、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(1)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体である。
【0018】
また本発明は、下記一般式(3)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物である。
【0019】
【化18】

【0020】
(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)
【0021】
さらに本発明は、下記一般式(3):
【0022】
【化19】

【0023】
(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(4):
【0024】
【化20】

【0025】
(式中の表示、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(3)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体である。
【0026】
そして本発明は、下記一般式(5)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物である。
【0027】
【化21】

【0028】
(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)
【0029】
また本発明は、下記一般式(5):
【0030】
【化22】

【0031】
(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(6):
【0032】
【化23】

【0033】
(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(5)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(7):
【0034】
【化24】

【0035】
(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(5)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体である。
【0036】
また本発明は、下記一般式(8)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物である。
【0037】
【化25】

【0038】
(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)
【0039】
さらに本発明は、下記一般式(8):
【0040】
【化26】

【0041】
(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(9):
【0042】
【化27】

【0043】
(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(8)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(10):
【0044】
【化28】

【0045】
(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(8)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体である。
【発明の効果】
【0046】
本発明のアクリル酸エステル化合物あるいはアクリル酸エステル化合物混合体は、電荷輸送性と、ラジカル重合等の連鎖重合性を有し、成膜性や他のモノマーとの相溶性にも優れるため、UV(紫外線)、電子線、放射線等の照射やラジカル開始剤の使用により容易に重合して高密度の架橋膜形成が可能であり、しかも高密度架橋構造を有しながら良好な電荷輸送特性を示す。このため、良好な電荷輸送性と機械的耐久性や耐熱性の要求される各種有機半導体デバイス、例えば前出の有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等用の有機機能材料として極めて有用に用いることができる。
本発明のアクリル酸エステル化合物あるいはアクリル酸エステル化合物混合体は、分子中にスチルベン構造を含むトリアリールアミン骨格を有するヒドロキシ化合物にグリシジルアクリレート(またはグリシジルメタクリレート)あるいはエピクロルヒドリンを開環付加反応させた後アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル官能基を導入することにより容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明のアクリル酸エステル化合物またはアクリル酸エステル化合物混合体は前記一般式(1)〜(10)のいずれかで表されることを特徴とする。
一般式(1)〜(4)におけるR、Rは水素原子またはメチル基を表し、同一でも異なってもよい。一般式(5)〜(10)におけるRは水素原子またはメチル基を表す。なお、水素原子とメチル基では、使用環境により連鎖重合性、例えばラジカル重合性に違いが生ずるので適宜選択して使用される。
【0048】
また、一般式(1)、(2)、(5)、(6)、(7)におけるAr1、Ar2の置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ピレニル基、フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、アズレニル基、アントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基等が挙げられ、また、下記一般式(11)で表される基も挙げることができる。
【0049】
【化29】

【0050】
〔式中、R26は水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表し、Xは−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−及び下記一般式(12)、(13)で表される2価基を表す。
【0051】
【化30】

【0052】
【化31】

【0053】
(ここで、R27は水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表し、aは1〜12の整数、bは1〜3の整数を表す。)〕
【0054】
置換基を有してもよいアリール基の置換基、及びR26、R27における置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。また、炭素数1〜6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等であり、その置換基としては、ハロゲン原子、フェニル基が挙げられる。
【0055】
また、置換基を有してもよいアルコキシ基としては、上記置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を有するアルコキシ基を表し、その置換基を有してもよいアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0056】
一般式(1)、(2)、(5)〜(7)におけるRc、Rd、及び一般式(3)、(4)、(8)〜(10)におけるRc、Rd、Re、Rfは、それぞれ置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよい。
置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。その置換基としては、ハロゲン原子、フェニル基が挙げられる。例えば、置換基を有する炭素数1〜6のアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基等が挙げられる。
また、アルコキシ基は、上記置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を有するアルコキシ基を表し、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
また、置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ピレニル基、フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、アズレニル基、アントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基等が挙げられる。これらの置換基としては、ハロゲン原子や炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基は、上記記載と同様である。
ここまでのハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0057】
本発明のアクリル酸エステル化合物の具体例を、前記一般式(1)においてRa、Rbが水素原子の場合を代表として以下の例示化合物No.1〜No.40に記載するが、本発明は何らこれら例示化合物に限定されるものではなく、Raがメチル基でRbが水素原子の場合、または、Raが水素原子でRbがメチル基の場合、あるいは、Ra、Rbが共にメチル基の場合も同様に記載することができる。また、前記一般式(2)で表される前記一般式(1)の類似構造体についても同様に記載することができる。当然、前記一般式(3)、(4)で表されるアクリル酸エステル化合物も同様である。
【0058】
【化32】

【0059】
【化33】

【0060】
【化34】

【0061】
【化35】

【0062】
【化36】

【0063】
さらに、前記一般式(5)〜(10)についても、前記一般式(1)において一方のアクリル酸エステル基またはメタクリル酸エステル基が導入されていない(OH基またはCH2OH基である)構造であること以外は前述のA、B、Dを同様に記載することができる。
【0064】
本発明のアクリル酸エステル化合物は新規物質であり、例えば、先ず下記反応式(a)に示す手順でヒドロキシ化合物を合成し(A−1工程)、次に下記反応式(b)に示すように、A−1工程で得られたヒドロキシ化合物とグリシジルアクリレート(またはグリシジルメタクリレート)を開環付加反応させて、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート誘導体を得る(A−2工程)。本発明の前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物が得られる。
【0065】
【化37】

【0066】
【化38】

【0067】
この開環付加反応(A−2工程)の際、グリシジルアクリレートのエポキシ環の開環方向により、下記一般式(6)、(7)で表される前記一般式(5)の類似構造体が副生する。
したがって、前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物を得るには、分離操作が必要である。これらの分離は必ずしも容易では無く、分離操作によって収率の減少が伴う。なお検討の結果、一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物と一般式(6)、(7)で表されるアクリル酸エステル化合物を混合体として使用することもできる。混合体のまま用いても特性に影響は無く、コスト的に有利である。
【0068】
【化39】

【0069】
さらに下記反応式(c)に示すように上記で得られた2−ヒドロキシプロピルメタクリレート誘導体(前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物)とアクリル酸クロリドあるいはメタクリル酸クロリドを反応させることにより、前記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル化合物を容易に合成することができる(A−3工程)。
【0070】
【化40】

【0071】
前記A−2工程を下記反応式(d)で示す工程(B−1工程)に変えても前記2−ヒドロキシプロピルメタクリレート誘導体(本発明の前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物)が容易に合成できる。
【0072】
【化41】

【0073】
上記B−1の際、エピクロルヒドリンのエポキシ環の開環方向により、下記一般式(6)、(7)で表される前記一般式(5)の類似構造体が副生する。
したがって、前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物を得るには、前記と同様に分離操作が必要であり、分離操作によって収率の減少を伴う。検討の結果、一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物と一般式(6)、(7)で表されるアクリル酸エステル化合物を混合体のまま用いても特性に影響は無く、混合体として使用した方がコスト的に有利である。
【0074】
【化42】

【0075】
上記混合体を使用し、前記A−3工程によりアクリル酸エステル化合物を合成した場合に、RaとRbが異なる場合は、アクリル酸エステル化合物混合体が得られる。
【0076】
また、下記反応式(e)に示すように、前記B−1工程(反応式(d))におけるエポキシ化合物または前記2−ヒドロキシプロピルメタクリレート誘導体(前記一般式(5)で表されるアクリル酸エステル化合物)の加水分解物(ジヒドロキシ化合物)を原料として用い、この原料とアクリル酸クロリドあるいはメタクリル酸クロリドを反応(C−1工程)させて、前記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル化合物(Rb=Ra)が合成できる。すなわち、この合成法は、一般式(1)のRaとRbを同じにする場合に適用しやすい。
【0077】
【化43】

【0078】
なお、A−1工程で用いるトリアリールアミン骨格を有するスチルベン構造のメトキシ化合物(例えば、4−メトキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン)は、そのホスホン酸ジアルキル(例えば、4−メトキシベンジルホスホン酸ジエチル)またはその誘導体と種々のベンズアルデヒド誘導体(例えば、4−(ジ−p−トリルアミノ)ベンズアルデヒド)を金属アルコラート(例えば、tert-ブトキシカリウム)の存在下に合成することができる。
【0079】
上記A−3工程及びC−1工程のアクリル化工程においては、従来のヒドロキシ体のエステル化と同様にして合成することができる。すなわち、アルコール誘導体に(メタ)アクリル酸またはそのエステル化合物を反応させる。例えば、アルコール誘導体と(メタ)アクリル酸とをパラトルエンスルフォン酸等のエステル化触媒と共に有機溶媒中で脱水しながら加熱撹拌することによりアクリル酸エステル化合物を合成することができる。また、アルコール誘導体とアクリル酸クロリドとを有機溶媒中アルカリ存在下で反応させることによってもアクリル酸エステル化合物を容易に合成することができる。
アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ水溶液やトリエチルアミン、ピリジン等のアミン系塩基を使用することができる。有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素系溶媒やテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や酢酸エチル等のエステル系溶媒等が使用できる。
【0080】
また、C−1工程でのエステル化では、アクリル酸クロリドを使用する代りに3−クロロプロパン酸クロリドを使用し、先ず3−クロロプロパン酸エステル誘導体とした後にトリエチルアミンのような塩基触媒を加えて加熱撹拌し、脱塩化水素によりアクリル酸エステル誘導体を合成することもできる。この方法を使用することにより、高収率でアクリル化を行うことが可能である。この場合の好ましい溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられ、反応温度としては0〜100℃、好ましくは10〜80℃である。
【0081】
本発明のアクリル酸エステル化合物は、分子中にスチルベン構造単位とアリール基が結合した共役系の拡大した芳香族系のトリアリールアミン構造を有するため、ホールの移動度が高く良好な電荷輸送機能を発揮すると共に、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル官能基が導入されているため、良好な連鎖重合性、例えばラジカル重合性を示す。したがって、紫外線(UV)、電子線、放射線等の照射やラジカル開始剤の使用により容易に高い架橋密度の硬化樹脂膜の形成が可能であり成膜性にも優れ、摩耗等の機械的耐久性や耐熱性の要求にも対応でき、しかもこれと両立して良好な電荷輸送特性を発揮することが可能である。このような優れた性質により、有機電子写真感光体、有機EL、有機TFT、有機太陽電池等各種有機半導体デバイス用の有機機能材料として極めて有用である。
また、本発明のアクリル酸エステル化合物は、他のモノマーとの相溶性も良好であり、例えば、他のモノマーとしてメチルメタアクリレート、2 −エチルヘキシルアクリレート、2 −ヒドロキシエチルアクリレート、2 −ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2 −エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3 −メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、1 ,3 −ブタンジオールジアクリレート、1 ,4 −ブタンジオールジアクリレート、1 ,4 −ブタンジオールジメタクリレート、1 ,6 −ヘキサンジオールジアクリレート、1 ,6 −ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートビスフェノールA −EO 変性ジアクリレート、ビスフェノールF −EO 変性ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2 −パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2 −パーフルオロイソノニルエチルアクリレート、アクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチル、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA )、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシ変性(以後EO 変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパプロピレンオキシ変性(以後PO 変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパンカプロラクトン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA )、グリセロールトリアクリレート、グリセロールエピクロロヒドリン変性(以後ECH 変性)トリアクリレート、グリセロールEO 変性トリアクリレート、グリセロールPO 変性トリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA )、ジペンタエリスリトールカプロラクトン変性ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA )、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、リン酸EO 変性トリアクリレート、2 ,2 ,5 ,5 ,−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレート等が挙げられる。
これらの他のモノマーは単一あるいは複数用いて本発明のアクリル酸エステル化合物に混合してもよく、目的の要求特性等に合せて選択することができる。これら他のモノマーの混合量は目的によっても異なるが、例えば電子写真感光体の電荷輸送層に応用する場合、通常本発明のアクリル酸エステル化合物との混合比(重量%)で1〜80%、好ましくは10〜70%、さらに好ましくは30〜70%である。
本発明のアクリル酸エステル化合物は、上記他のモノマーと混合して使用可能であり、その場合の硬化後の表面平滑性を保った成膜性に優れている。硬化速度が遅く、均一に硬化が進まない場合は、例え硬化前の塗工時に良好な膜が形成されていても硬化時の硬化収縮による歪で膜に凹凸が発生し塗工欠陥となるが本発明のアクリル酸エステル化合物は、反応部位の運動性が高く、また、2官能化されていることより、速やかに膜全体に重合が進行し、塗工欠陥が発生しにくいものと考えられる。
【実施例】
【0082】
以下、合成例及び評価例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
以下の手順で4−メトキシベンジルホスホン酸ジエチルの合成、4−メトキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンの合成、4−ヒドロキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンの合成を順次行い、これを用いて2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレート[一般式(5)、(8)で表されるアクリル酸エステル化合物に相当]を合成した後、目的とする2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレート[一般式(1)、(3)で表されるアクリル酸エステル化合物に相当]を合成した。
【0084】
〔4−メトキシベンジルホスホン酸ジエチルの合成〕
4−メトキシベンジルクロリドと亜リン酸トリエチルを150℃で5時間反応させた。その後、減圧蒸留により、過剰な亜リン酸トリエチルと副生物のエチルクロリドを留去し、4−メトキシベンジルホスホン酸ジエチルを得た。
【0085】
〔4−メトキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンの合成〕
等モルの4−メトキシベンジルホスホン酸ジエチルと4−(ジ−p−トリルアミノ)ベンズアルデヒドをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、水冷下撹拌しながらtert−ブトキシカリウムを少しづつ添加した。室温で5時間撹拌後、水を添加し、酸性にして析出した目的物の粗収物を得た。さらに、シリカゲルによるカラムクロマトグラフにより精製して目的物の4−メトキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンを得た。
【0086】
〔4−ヒドロキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンの合成〕
4−メトキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンと2倍当量のナトリウムエタンチオラートとをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させ、130℃で5時間反応させた。その後、冷却して水に入れ、塩酸で中和し、酢酸エチルで目的物を抽出した。抽出液を水洗、乾燥、溶媒留去して粗収物を得た。さらに、シリカゲルによるカラムクロマトグラフにより精製して目的物の4−ヒドロキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベンを得た。
【0087】
〔2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートの合成〕
かき混ぜ装置、温度計、冷却管、滴下漏斗をつけた反応容器に、4−ヒドロキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン6.4g、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム1.8g、テトラヒドロフラン40mlを入れ、窒素気流下室温でグリシジルメタクリレート3.3ml/テトラヒドロフラン10mlの溶液を滴下した。その後、40時間加熱還流した。
反応終了後、酢酸エチルで希釈し、シリカゲルを通してから溶媒を留去して粗収物8.5gを得た。さらに、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフ(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(2/1))により精製して2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートを得た(収量1.0g、黄色水飴状)。得られた目的物の赤外吸収スペクトルを図1に示す。この合成物質の質量分析を行った結果、大気圧化学イオン化法によりイオン化してポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=534であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
【0088】
なお、上記粗収物から2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートと、その構造類似体(反応副生物)である2−ヒドロキシメチル−2−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]エチルメタクリレートとの混合物を得た(収量3.0g、黄色水飴状)。
【0089】
〔2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートの合成〕
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレート5.4g、テトラヒドロフラン50ml、トリエチルアミン2gを入れ、窒素気流下15℃で塩化アクリロイル1.9gとテトラヒドロフラン5mlの混合溶液を滴下した。その後、室温で5時間反応させた。反応終了後、トルエン100mlにて希釈し、水洗して有機層を得た。その濃縮液をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフ(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(3/1))により精製して下記構造式(1−1)で示される2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートを得た(収量3.2g、黄色オイル状)。得られた目的物の赤外吸収スペクトルを図2に示す。この合成物質の質量分析を行った結果、大気圧化学イオン化法によりイオン化してポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=588であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
【0090】
【化44】

【0091】
(実施例2)
〔2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートと2−アクリロイルオキシメチル−2−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]エチルメタクリレートとの混合体の合成〕
上記実施例1で得られた2−ヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレートと、その構造類似体である2−ヒドロキシメチル−2−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]エチルメタクリレートとの混合物3gを用い、実施例1におけるアクリル酸エステル化合物の合成条件と同様にして合成を行ない、目的のアクリル酸エステル化合物混合体を得た(収量2.75g、黄色オイル)。
このようにして得られたアクリル酸エステル化合物混合体は、2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルメタクリレート単独の場合と同様の特性を有することから精密な分離操作をせずに混合物として使用するのがコスト的に有利である。
【0092】
(実施例3)
以下に示す1、2−ジヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロパンを合成し、これを経由して2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルアクリレート(例示化合物No.2に該当)を合成した。
【0093】
〔1、2−ジヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロパンの合成〕
かき混ぜ装置、温度計、冷却管、滴下漏斗をつけた反応容器に、4−ヒドロキシ−4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン11.75g、グリシジルメタクリレート4.35g、トルエン8mlを入れ、90℃に昇温した後、トリエチルアミン0.16gを加え、95℃で8時間加熱撹拌した。その後、トルエン16ml、10%水酸化ナトリウム水溶液20mlを加え、さらに95℃で8時間加熱撹拌した。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、酸洗浄後水洗してから溶媒を留去して粗収物19gを得た。さらに、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフ(溶媒:酢酸エチル)により精製して、下記構造式(1−2)の1、2−ジヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロパンを得た(収量9.85g、黄色結晶、融点127〜128.7℃、赤外吸収スペクトルを図3に示す。)この合成物質の質量分析を行った結果、大気圧化学イオン化法によりイオン化してポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=466であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
【0094】
【化45】

【0095】
〔2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルアクリレート(例示化合物No.2に該当)の合成〕
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、1、2−ジヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロパン1.0g、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを入れ、窒素気流下3℃で3−クロロプロパン酸クロリド1.09gを滴下した。その後、室温で8時間反応させた。次に、トリエチルアミン1.74gを加え、さらに60℃で4時間反応させた。終了後、塩化メチレンで抽出し、水洗して有機層を得た。その濃縮液をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフ(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(2/1))により精製して目的物を得た。(収量1.1g、黄色オイル、赤外吸収スペクトルを図4に示す。)この合成物質の質量分析を行った結果、大気圧化学イオン化法によりイオン化してポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=574であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
【0096】
[評価例1]
<硬化膜からの溶出量>
上記実施例1で合成した構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物、実施例2で合成したアクリル酸エステル化合物混合体、実施例3で合成した2−アクリロイルオキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロピルアクリレート(例示化合物No.2に該当)、及び下記比較用の化合物(I)[Ref−1]〜(VII) [Ref−7]を用いて以下の塗工液(A)〜塗工液(J)を調製し、これら塗工液10種をアルミ板上にブレード塗工して指触乾燥後、下記条件にて紫外線を照射し、それぞれ厚さ5μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜をテトラヒドロフランに7日間浸漬し、硬化膜からの溶出量を測定した。評価結果を下記表1に示す。
以下、「部」は全て「重量部」を示す。
【0097】
〈塗工液A〉
実施例1のアクリル酸エステル化合物[構造式(1−1)] : 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート : 10部
重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン): 1部
テトラヒドロフラン : 84部
【0098】
〈塗工液B〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、実施例2で得られたアクリル酸エステル化合物混合体を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Bを調製した。
【0099】
〈塗工液C〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、実施例3で得られた例示化合物No.2のアクリル酸エステル化合物を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Cを調製した。
【0100】
〈塗工液D〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(I)[Ref−1]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Dを調製した。
【0101】
【化46】

【0102】
〈塗工液E〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(II)[Ref−2]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Eを調製した。
【0103】
【化47】

【0104】
〈塗工液F〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(III)[Ref−3]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Fを調製した。
【0105】
【化48】

【0106】
〈塗工液G〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(IV)[Ref−4]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Gを調製した。
【0107】
【化49】

【0108】
〈塗工液H〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(V)[Ref−5]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Hを調製した。
【0109】
【化50】

【0110】
〈塗工液I〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(VI)[Ref−6]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Iを調製した。
【0111】
【化51】

【0112】
〈塗工液J〉
塗工液Aにおいて用いた構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物に代えて、比較化合物として下記化合物(VII)[Ref−7]を使用する以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Jを調製した。
【0113】
【化52】

【0114】
<硬化膜形成のための紫外線照射条件>
ランプ:メタルハライドランプ 160W/cm
照射距離:120mm
照射強度:500mW/cm2
照射時間:60秒
【0115】
【表1】

【0116】
上記評価結果から、本発明のアクリル酸エステル化合物あるいはアクリル酸エステル化合物混合体は、比較例に示した従来知られている電荷輸送性モノマーと比べて溶出量が少なく、連鎖重合により架橋密度の高い硬化膜が形成されていることが分る。このような高密度架橋構造により、各種有機半導体デバイス用の有機機能材料として適用する場合に要求される摩耗や傷等に対する機械的耐久性や耐熱性の向上に応えることができる。
【0117】
[評価例2]
<電荷輸送性評価>
アルミ板上に下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、0.3μmの下引き層、0.3μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成して10種類の感光体(1)〜(10)を作製した。電荷輸送層用塗工液の場合には、塗布、乾燥後に連鎖重合により架橋構造を形成した。
なお、10種類の感光体における下記電荷輸送層用塗工液(1)〜(10)の組成分として、それぞれ前記実施例1〜3において合成した本発明の構造式(1−1)のアクリル酸エステル化合物、実施例2で合成したアクリル酸エステル化合物混合体、実施例3で合成した例示化合物No.2のアクリル酸エステル化合物、及び上記硬化性評価において用いた比較用の化合物(I)[Ref−1]〜(VII) [Ref−7]の各アクリル化合物を用いた。
【0118】
〈下引き層用塗工液〉
ポリアミド樹脂(CM−8000:東レ社製): 2部
メタノール : 49部
ブタノール : 49部
【0119】
〈電荷発生層用塗工液〉
下記構造式(VIII)のビスアゾ顔料 : 2.5部
ポリビニルブチラール(XYHL:UCC社製): 0.5部
シクロヘキサノン : 200部
メチルエチルケトン : 80部
【0120】
【化53】

【0121】
〈電荷輸送層用塗工液:(1)〜(10)〉
ビスフェノールZポリカーボネート
(パンライトTS−2050、帝人化成社製) : 10部
電荷輸送性モノマー(表2に示すアクリル酸エステル化合物): 10部
テトラヒドロフラン : 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液
(KF−50−100CS、信越化学工業社製) :0.2部
【0122】
上記により得られた感光体(1)〜(10)について、市販の静電複写紙試験装置[(株)川口電機製作所製EPA−8200型]を用い、半減露光量と残留電位から電荷輸送性を評価した。
すなわち、暗所で−6kVのコロナ放電により−800Vに帯電せしめた後、タングステンランプ光を感光体表面での照度が4.5luxになるように照射して、電位が1/2になるまでの時間(秒)を求め、半減露光量E1/2 (lux・sec)を算出した。また、露光30秒後の残留電位(−V)を求めた。なお、半減露光量が小さいほど感度が良く、残留電位が小さいほど電荷のトラップが少ないことを表す。
評価結果を下記表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
上記評価結果から、従来のアクリル化合物を用いた比較の感光体(4)〜(10)に比べて、本発明のアクリル酸エステル化合物を用いた感光体(1)〜(3)は、半減露光量が小さく感度が良好であり、残留電位が無く電荷のトラップの無いことが明確であり良好な電荷輸送性を示すことが分る。
【0125】
以上の評価例1(硬化膜からの溶出量)及び評価例2(電荷輸送性評価)から、連鎖反応により機械的耐久性や耐熱性に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立することができるのは本発明のアクリル酸エステル化合物であり、従来公知の電荷輸送性モノマーの場合にはいずれも両立を達成することができない。
したがって、本発明のアクリル酸エステル化合物は前記各種有機半導体デバイスを提供するための材料として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施例1において合成した2-ヒドロキシ-3-[4’-(ジ-p-トリルアミノ)スチルベン-4-イルオキシ]プロピルメタクリレートの赤外吸収スペクトル図である。
【図2】実施例1において合成した2-アクリロイルオキシ-3-[4’-(ジ-p-トリルアミノ)スチルベン-4-イルオキシ]プロピルメタクリレートの赤外吸収スペクトル図である。
【図3】実施例3において合成した1、2-ジヒドロキシ−3−[4’−(ジ−p−トリルアミノ)スチルベン−4−イルオキシ]プロパンの赤外吸収スペクトル図である。
【図4】実施例3において合成した2-アクリロイルオキシ-3-[4’-(ジ-p-トリルアミノ)スチルベン-4-イルオキシ]プロピルアクリレートの赤外吸収スペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物。
【化1】


(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】


(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(2):
【化3】


(式中の表示、Ra、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(1)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体。
【請求項3】
下記一般式(3)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物。
【化4】


(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)
【請求項4】
下記一般式(3):
【化5】


(式中、Ra、Rbは同一または異なってもよく、水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(4):
【化6】


(式中の表示、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(3)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体。
【請求項5】
下記一般式(5)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物。
【化7】


(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)
【請求項6】
下記一般式(5):
【化8】


(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rdは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。Ar1、Ar2は同一または異なってもよく、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(6):
【化9】


(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(5)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(7):
【化10】


(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Ar1、Ar2及びi、jは、いずれも上記一般式(5)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体。
【請求項7】
下記一般式(8)で表されることを特徴とするアクリル酸エステル化合物。
【化11】


(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)
【請求項8】
下記一般式(8):
【化12】


(式中、Rbは水素原子またはメチル基を表す。Rc、Rd、Re、Rfは同一または異なってもよく、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基を表す。i、jは同一または異なってもよく0〜4の整数を、k、lは同一または異なってもよく0〜5の整数を表す。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(9):
【化13】


(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(8)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
下記一般式(10):
【化14】


(式中の表示、Rb、Rc、Rd、Re、Rf及びi、j、k、lは、いずれも上記一般式(8)と同義である。)で表されるアクリル酸エステル化合物と、
からなることを特徴とするアクリル酸エステル化合物混合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−316011(P2006−316011A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141686(P2005−141686)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】