説明

アグリカナーゼ産生阻害剤

【課題】 アグリカナーゼの産生を阻害する薬剤を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)、
【化1】


【化2】


【化3】


(前記各式中、Rは、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ハロゲン、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示し、それらはヘテロ原子で置換されていてもよい;RおよびR2’は、水素、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す。構造式中のアルケン水素はハロゲン原子で置換されていてもよい。)で示される化合物、その治療上許容し得る塩、エーテル、エステル及び異性体からなる群から選択される少なくとも一種類のカロテノイドを含有するアグリカナーゼ産生阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアグリカナーゼ阻害剤に関する。更に詳細には、本発明は天然物由来カロテノイド色素を含有するアグリカナーゼ産生阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
平成16年国民生活基礎調査の結果では、特に女性の有訴者の症状として「肩こり」、「腰痛」に続いて「手足の関節が痛む」が3位であり(人口千人あたり72.7人)、極めて多くの人が関節痛を訴えていることが分かる。
【0003】
関節疾患としては、主に関節リウマチや変形性関節症などが挙げられるが、特に変形性関節症は中年期以降にもっとも多く見られる関節疾患である。これらの疾患においては炎症を抑えるために非ステロイド性抗炎症剤やステロイド製剤が一般的に使用され、また関節痛を抑える目的でヒアルロン酸製剤の関節内注射が用いられるが、その薬物療法は現在でも十分満足できるものとは言い難い。
【0004】
関節表面を覆う軟骨はII型コラーゲンならびに主にヒアルロン酸とアグリカンにより形成されるプロテオグリカン会合体により構成され、この構造が関節の滑らかな可動に寄与していると考えられている。関節リウマチや変形性関節症においては、この関節軟骨の分解が亢進し、激しい痛みとともに関節可動が制限される。関節軟骨の分解に深く関わる酵素としてコラゲナーゼに代表されるマトリックスメタロプロテアーゼが挙げられるが、関節リウマチや変形性関節症の関節液中にはむしろマトリックスメタロプロテアーゼ以外のタンパク質分解酵素によるアグリカン分解産物が多く検出される(例えば、非特許文献1参照)ことから、アグリカンを分解する新たな酵素がこれら疾患に深く関わっているものと考えられていた。
【0005】
1999年にアグリカンを特異的に分解する2種類のアグリカナーゼが発見された(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。2種類のアグリカナーゼ(アグリカナーゼ−1およびアグリカナーゼ−2)は、いずれもA disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)と呼ばれる酵素群に属し、一般的にアグリカナーゼ−1はADAMTS-4、アグリカナーゼ−2はADAMTS-5と呼ばれる。また両アグリカナーゼは同時に産生されるTissue inhibitor of metalloproteinases (TIMP)-3により活性が阻害される(例えば、非特許文献3参照)。ADAMTS-5については最近変形性関節症や関節炎における関節破壊に中心的な役割を担っていることがADAMTS-5ノックアウトマウスを用いた実験で証明されている(例えば、非特許文献4および非特許文献5参照)。
【0006】
アグリカナーゼは、アグリカンのみならず脳の構成プロテオグリカンであるブレビカンをも分解し、脳神経系のがん細胞である神経膠芽腫細胞の浸潤・転移にも深く関わっていることが報告されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0007】
一方、これらアグリカナーゼの活性を抑制する薬剤については既に幾つか報告されている。例えば、特許文献1には、(2R, 3R)1-[4-(2, 4-ジクロロ-ベンジルオキシ)-ベンゼンスルホニル]-3-ヒドロキシ-3-メチル-ピペリジン-2-カルボン酸ヒドロキシアミドなどのカルボン酸ヒドロキシアミド誘導体からなるアグリカナーゼ阻害剤が、また、特許文献2にはフィブロネクチン,またはフィブロネクチンのCOOH末端に位置する約40キロダルトンの断片からなるアグリカナーゼ阻害剤が、更に、特許文献3には、N-ヒドロキシ-Nα-メチル-Nα-(4-フェノキシベンゼンスルフォニル)-2-[2-(ピリミジン-2,4-ジオン-1イル)エチル]グリシンアミドなどのスルホンアミド誘導体からなるアグリカナーゼ阻害剤が記載されている。しかし、これらのアグリカナーゼ阻害剤は何れも薬物治療あるいは予防に応用されるまでには至っていない。また、これら疾患は長年にわたって徐々に進行して行くことからも、予防を含めて長期的に治療を続ける必要があり、高い安全性が要求される。
【0008】
【特許文献1】特開2001−114765号公報
【特許文献2】特開2004−256436号公報
【特許文献3】特開2001−163885号公報
【非特許文献1】Tottorella MD, Burn TC, Pratta MA et al.; Science; vol. 284:1664-1666; 1999
【非特許文献2】Abbaszade I, Liu R-Q, Yang F et al.; J Biol Chem; vol. 274:23443-23450; 1999
【非特許文献3】Kashiwagi M, Tortorella M, Nagase H et al.; J Biol Chem; vol. 276:12501-12504; 2001
【非特許文献4】Glasson SS, Askew R, Sheppard B et al.; Nature; vol.434:644-648; 2005
【非特許文献5】Stanton H, Rogerson FM, East CJ et al.; Nature; vol.434:648-652; 2005
【非特許文献6】Nakada M, Miyamori H, Kita D et al.; Acta Neuropathol (Berl); vol. 110:239-246; 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的はアグリカナーゼの産生を阻害する薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、天然物由来カロテノイド色素が、ヒト滑膜細胞および軟骨細胞において、軟骨基質アグリカンを特異的に分解するアグリカナーゼ-1(ADAMTS-4)および-2(ADAMTS-5)の発現を極めて効果的に抑制することを発見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、前記課題を解決するための手段として本発明は、天然物由来カロテノイド色素を含有するアグリカナーゼ産生阻害剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、アグリカナーゼによるアグリカンの分解に起因すると思われる関節リウマチや変形性関節症などの疾患の予防及び/又は治療用薬剤として利用できるばかりか、がん細胞の浸潤・転移の抑制及び肺癌、子宮頸部癌、食道癌、膀胱癌、大腸癌、皮膚癌などの発癌リスクの低減にも有用である。更に、本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を含有する機能性食品はこれら疾患の予防にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、天然物由来カロテノイド色素を含有する。カロテノイド色素は様々な野菜類及び果物類に含有されるが、特に温州ミカン、パパイヤ、柿、桃、枇杷などの果物類及びピーマン(特に、赤ピーマン)、トマト、人参、カボチャなどの緑黄色野菜類に豊富に含まれる。
【0013】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、下記の一般式(1)、(2)及び(3)、
【化1】


【化2】


【化3】


(前記各式中、Rは、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ハロゲン、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示し、それらはヘテロ原子で置換されていてもよい;RおよびR2’は、水素、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す。構造式中のアルケン水素はハロゲン原子で置換されていてもよい。)で示される化合物、その治療上許容し得る塩、エーテル、エステル及び異性体からなる群から選択される少なくとも一種類のカロテノイドを含有する。
【0014】
前記一般式(1)、(2)及び(3)の定義における「異性体」という用語は、立体異性、幾何異性、光学異性、平面異性、配位異性、配位位置異性などの全ての異性体を含む意味で使用されている。
【0015】
前記一般式(1)で示される化合物の代表例を挙げる。
=CH,R=H,R2’=H:α−カロテン;
=CH,R=OH,R2’=H:α−クリプトキサンチン(α−カロテン−3−オール);
=CH,R=OH,R2’=OH:ルテイン(α−カロテン−3,3’−ジオール)
【0016】
前記一般式(2)で示される化合物の代表例を挙げる。
=CH,R=H,R2’=H:β−カロテン;
=CH,R=OH,R2’=H:β−クリプトキサンチン(β−カロテン−3−オール);
=CH,R=OH,R2’=OH:ゼアキサンチン(β,β−カロテン−3,3’−ジオール)
【0017】
前記一般式(3)で示される化合物の代表例を挙げる。
=CH,R=H,R2’=H:カンタキサンチン(β,β−カロテン−4,4’−ジオン);
=CH,R=OH,R2’=OH:アスタキサンチン(3,3’−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4’−ジオン)
【0018】
前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物は全て天然物に由来するものであり、細胞毒性が極めて低いという利点を有し、当業者に公知、慣用の方法により野菜類、果物類などの植物群から容易に抽出、分離することができる。
【0019】
従来の薬剤が単にアグリカナーゼの酵素活性を抑制する薬理効果しか有しなかったのに対して、前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物からなる本発明の薬剤は、ヒト滑膜細胞および軟骨細胞において、軟骨基質アグリカンを特異的に分解するアグリカナーゼ-1(ADAMTS-4)および-2(ADAMTS-5)の遺伝子の発現を抑制する薬理効果を有する点で画期的である。すなわち、従来の薬剤が、既に発生してしまったアグリカナーゼの酵素活性を抑制する対処療法的薬剤であるのに対して、本発明の薬剤はアグリカナーゼ自体の発現を阻止する根治的薬剤である点で明確に相違する。
【0020】
前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物からなる本発明の薬剤は、関節リウマチや変形性関節症などの疾患の他、癌細胞の浸潤・転移抑制にも有用である。特に、肺癌、子宮頸部癌、食道癌、膀胱癌、大腸癌、皮膚癌に対して有意な発癌抑制効果を発揮する。更に、骨関節症、関節損傷、若年性関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎、神経病性関節症(シャルコー関節)、血友病性関節症、感染性関節炎、強直性脊椎炎、ライター症候群、痛風、急性ピロリン酸関節炎(偽性通風)、炎症性腸疾患、クローン病、歯周疾患、骨粗鬆症及び人工関節インプラントの弛みなどの疾患に対しても有用である。機能性食品とした場合、これら疾患の予防効果が期待できる。
【0021】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を医薬品として使用する場合、疾患の治療及び/又は予防の目的のために、薬理学的に有効量の前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物を、製剤学的に許容され得る他の成分と共に製剤化することができる。製剤学的に許容され得る他の成分は、例えば、担体、希釈剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、溶解補助剤、等張化剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、着色剤、香料、甘味料などである。
【0022】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を医薬品として使用する場合、有効成分である前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物の配合量は、製剤学的に許容され得る他の成分を含めた総重量を基準にして、一般的に、0.01重量%〜15重量%の範囲内であり、0.1重量%〜5重量%であることが好ましい。
【0023】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を医薬品として使用する場合、任意の剤形で使用することができる。例えば、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、噴霧剤、溶液剤、懸濁液剤などの剤形である。投与経路としては、経口、経腸経鼻、及び経皮投与の他、静注、皮下注、筋肉注、関節膣注などの注射投与を含む全ての投与経路が利用できる。
【0024】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を医薬品として使用する場合、有効成分である前記一般式(1)〜(3)で示されるカロテノイド色素化合物の量に換算して、通常、0.05mg〜1000mgの投与量で、一日に1〜数回程度投与することができる。例えば、β−カロテンの場合、3.11mg/日の投与量で、21.0μg/dlの血清濃度が、また、β−クリプトキサンチンの場合、0.07mg/日の投与量で、12.3〜13.3μg/dlの血清濃度が得られる。特に、β−クリプトキサンチンは吸収されやすく、低投与量でも高い血清濃度が得られるので好ましい。この投与量は、患者の年齢、体重、性別に応じて適宜変化させることができ、また、投与経路及び患者の病状の程度に応じて適宜変更することができる。
【0025】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤を機能性食品として使用する場合、その食品の形状としては、当業者に周知の全ての固体状、半固体状、液状、懸濁液状、ゲル状、糊状、粉末状、顆粒状食品を含むことができる。
【実施例1】
【0026】
温州ミカンの全形をミキサーにかけて粉砕し、これをアセトンと混合し、上層を粗カロテノイド色素化合物抽出液として得た。これをロータリーエバポレータで濃縮、乾固した後、50%エタノールに再溶解し、オクタデシルシリカゲルを担体とする逆相系カラム、溶離液としてメタノール/10mM燐酸(4:6→6:4)を用い、紫外線吸収検出器(波長:340nm)でモニターしながら分取を行った。得られた分画を濃縮、乾固することにより目的のカロテノイド色素化合物を得た。
【0027】
α−カロテン:
融点:187.5℃
【0028】
β−クリプトキサンチン(β−カロテン−3−オール):
融点:158℃〜159℃
【0029】
ゼアキサンチン(β,β−カロテン−3,3’−ジオール):
融点:207℃
【0030】
カンタキサンチン(β,β−カロテン−4,4’−ジオン):
融点:217℃
【0031】
アスタキサンチン(3,3’−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4’−ジオン):
融点:182℃〜183℃
【実施例2】
【0032】
ヒト滑膜細胞およびヒト関節軟骨細胞のアグリカナーゼ−1(ADAMTS−4)およびアグリカナーゼ−2(ADAMTS−5)発現に対するβ−クリプトキサンチンの作用を検証した。
【0033】
[実験材料及び実験方法]
1. 培養器具および試薬
細胞培養用プラスチック器具は旭テクノグラス社製; Dulbeco's modified Eagle's medium (DMEM) はInvirtogen社製; Ca2+ and Mg2+-free phosphate buffered saline (PBS (-)) は日水製薬社製; fetal bovine serum (FBS) はBioWhittaker社製; penicillin Gは万有製薬社製; streptomycin sulfate は明治製菓社製; trypsin は DIFCO Laboratories Co.製; lactalbumin hydrolysate (LAH), bovine serum albumin (BSA), peroxydase-conjugated goat anti-(sheep IgG) IgG, dimethyl sulphoxide (DMSO) および diethyl pyrocarbonate (DEPC)はSigma社製; Isogen はニッポンジーン社製; mouse anti-[human cyclooxygenase (COX-1)] monoclonal antibody, mouse anti-(human COX-2) monoclonal antibodyはCayman社製を各々購入し使用した。
Recombinant human interleukin-1β (rhIL-1β, 2 x 107 units/mg) は大塚製薬より提供を受けた。
その他の試薬は全て特級試薬を使用した。
2.ヒト関節滑膜細胞および軟骨細胞の培養および薬物処理
ヒト滑膜細胞(Applied Cell Biology Research Instituteより購入)および軟骨細胞(Cambrex Bio Science Walkersville社より購入)をそれぞれ 6-multiwell plate に播種し、DMEM/10% (v/v) FBS中でコンフルエントまで培養した。この細胞をDMEM/0.2% (w/v) LAH で洗浄後、DMEM/0.2% (w/v) LAH中に薬物を添加し、 細胞培養系に添加した。なお、β-cryptoxanthinは、すべて DMSO溶液として DMSOの終濃度が 0.1% (v/v)になるように添加した。また、β-cryptoxanthin無添加群にも同濃度のDMSOを添加した。5% CO2 -95% air 気相下、37℃で24時間インキュベーション後、培養液ならびに細胞画分を回収し実験に供するまで -20℃で保存した。
3.リアルタイムRT-PCR法
1) 総RNAの抽出
総RNAの抽出はIsogenを用いて添付文書に従い実施した。Ribonucleaseの混入を防ぐため操作は清潔なディスポーザブルのグローブを着用して行った。乾熱滅菌可能な器具については 180℃ で9時間以上乾熱滅菌し、不可能な器具については未使用のものをオートクレーブで3回処理した。使用した水はオートクレーブで3回処理した0.2% DEPC溶液を用いた。
2) 逆転写反応
総RNA (1 μg)からcDNAを合成するためQuantitect Reverse Transcription kit (Qiagen社製)を用いて添付文書に従い逆転写反応を実施した。
3) リアルタイムPCR法
逆転写反応により得られたcDNA(総RNA量として25 ngに相当する量)を用いて ADAMTS-4 mRNA、ADAMTS-5 mRNAならびにglyceraldehyde-3-phospate dehydrogenase (GAPDH) mRNAに特異的なpolymerase chain reaction (PCR)用Primer (Quantitect Primer Assay, Qiagen社製)を用いて, ABI Prism sequence detection 7000 (Applied Biosystems社製)によりPCR反応ならびにデータ解析を行った。データはGAPDH mRNA発現量により補正した後、無処理群の遺伝子発現量を1とした相対値として表した。
4.プロスタグランジンE2量の測定
培養液中プロスタグランジンE2量の定量は、Prostaglandin E2 EIA kit-Monoclonal (Cayman社製)を用いて添付文書に従って実施した。
5.ウエスタンブロット法
細胞質画分(タンパク質量として10μg)に20% (w/v) trichloroacetic acid (TCA) 溶液を終濃度 3.3% (w/v)となるよう加え、4℃で12 時間以上放置した後、8,000 x gで 5 分間遠心分離した。得られた沈殿を diethyletherで1回洗浄し、風乾後sample 溶液(63 mM Tris-HCl (pH6.8)/2% sodium dodecylsulfate (SDS)/10% glycerol/1% 2-mercaptoethanol/0.001% bromophenol blue)に溶解した。SDS-polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE)にて試料中タンパク質を分離後、ゲルを転写用緩衝液 (20 mM Tris /150 mM glycine/20% (w/v) methanol/0.1% (w/v) SDS (pH 9.2))に浸したニトロセルロース膜に密着させ、セミドライ型転写装置を用い2 mA/cm2で1 時間タンパク質の転写を行った。転写後、ニトロセルロース膜をブロッキング溶液[10% (w/v) fatty-free dry milk/10 mM Tris-HCl/0.9% NaCl/0.02% NaN3 (pH 7.5)]に浸し、10 分間ブロッキングを行った。続いてニトロセルロース膜をイオン交換水およびPBS-T 緩衝液 [0.1% Tween 20/PBS(-)]にて数回洗浄し、1% (w/v) BSA/PBS (-) で希釈した1次抗体[mouse anti-(human COX-1)モノクローナル抗体またはmouse anti-(human COX-2)モノクローナル抗体]溶液に4℃で12時間以上浸した。1次抗体結合後、ブロッキングおよび洗浄を同様に行い、peroxydase-conjugated goat anti -(mouse IgG)IgGに室温で1 時間浸した。2次抗体結合後、PBS-T 緩衝液にて数回洗浄し、ECL-Western blot detection reagents (アマシャム社製)に浸し、正確に1分間反応させた。反応終了後、直ちにImage Analyzer LAS-1000 plus (富士写真フィルム社製)を用いて検出した。
6.生細胞数の測定
細胞増殖能はCell counting kit-8 (Dojindo社製) を用いて、添付の操作方法に従って測定した。すなわち、ヒト滑膜細胞を96-well plate に細胞数 1 x 104 cells/100μL/well で播種し、DMEM/10% (v/v) FBS中で5% CO2 - 95% air 気相下、37℃で24 時間培養後、βクリプトキサンチンを含むDMEM/10% (v/v) FBSで24時間処理を行った。次にCell couting kit-8を10μL/well添加し、5% CO2 - 95% air 気相下、37℃で2時間インキュベーションし 430 nm の吸光度を測定した。
【0034】
[結果]
ヒト滑膜細胞においてADAMTS−4 mRNA発現(図1参照)およびADAMTS−5 mRNA発現(図2参照)はIL−1β(10ng/mL)により促進した。これに対して、β−クリプトキサンチン(β−CPX)は1μMから10μMにかけて濃度依存的にADAMTS−4 mRNA発現およびADAMTS−5 mRNA発現を抑制した。軟骨細胞においてもADAMTS−4 mRNA発現はIL−1βにより促進し、β−CPXは濃度依存的にADAMTS−4 mRNA発現を抑制した(図3参照)。ADAMTS−5 mRNA発現は滑膜細胞の場合と異なりIL−1βによる影響を受けなかったが,β−CPXはADAMTS−5 mRNA発現を濃度依存的に抑制した(図4参照)。また、ヒト滑膜細胞におけるPGE産生とCOX−1およびCOX−2の発現に対するβ−CPXの影響を検討した結果、IL−1βによるPGE産生促進に対してβ−CPXは濃度依存的に抑制し(図5参照)、さらにβ−CPXはCOX−1の産生には影響を与えずにIL−1βにより誘導されたCOX−2産生を抑制した(図6参照)。一方、β−CPXの細胞毒性について調べた結果、50μMのβ−CPXは細胞毒性を示したが、1μMから20μMの間では全く細胞毒性を示さなかった(図7参照)。
【0035】
[考察]
以上の結果から、天然物由来カロテノイド色素が、ヒト滑膜細胞および軟骨細胞において、軟骨基質アグリカンを特異的に分解するアグリカナーゼ−1(ADAMTS−4)および−2(ADAMTS−5)の発現を濃度依存的に抑制することが判明した。ADAMTS−4およびADAMTS−5は関節リウマチや変形性関節症における軟骨基質の破壊と密接に関連していることからして、天然物由来カロテノイド色素が関節破壊防御薬として有効であることが確認できる。
前掲の非特許文献6に記載されるように、アグリカナーゼは、アグリカンのみならず脳の構成プロテオグリカンであるブレビカンをも分解し、脳神経系のがん細胞である神経膠芽腫細胞の浸潤・転移にも深く関わっている。従って、本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、これら脳神経系のがん細胞である神経膠芽腫細胞の浸潤・転移を抑制するための薬剤として有効であることが確認できる。
また、炎症メディエーターであるPGE産生に対しても濃度依存的に抑制することが判明した。これらの事実は、本発明による天然物由来カロテノイド色素が、関節破壊防止物質として有効であることを立証している。
更に、本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、COX−1の産生を抑制せず、COX−2の産生を選択的に抑制することができる。COX−1は正常組織において恒常的に産生され、例えば消化管粘膜保護作用に働くプロスタグランジンの産生に関与するのに対して、COX−2は炎症組織(変形性関節症,関節リウマチ等)や癌組織において産生誘導されることから、COX−2産生を選択的に阻害することは胃腸障害等の副作用が低い抗炎症薬となることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアグリカナーゼ産生阻害剤は、関節リウマチや変形性関節症などの疾患の他、脳神経系のがん細胞である神経膠芽腫細胞の浸潤・転移の抑制及び肺癌、子宮頸部癌、食道癌、膀胱癌、大腸癌、皮膚癌などの発癌リスクの低減にも有用である。更に、骨関節症、関節損傷、若年性関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎、神経病性関節症(シャルコー関節)、血友病性関節症、感染性関節炎、強直性脊椎炎、ライター症候群、痛風、急性ピロリン酸関節炎(偽性通風)、炎症性腸疾患、クローン病、歯周疾患、骨粗鬆症及び人工関節インプラントの弛みなどの疾患に対しても有用である。更に、機能性食品としてこれら疾患の予防にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ヒト滑膜細胞におけるADAMTS−4 mRNA発現に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示す。
【図2】ヒト滑膜細胞におけるADAMTS−5 mRNA発現に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示す。
【図3】ヒト関節軟骨細胞におけるADAMTS−4 mRNA発現に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示す。
【図4】ヒト関節軟骨細胞におけるADAMTS−5 mRNA発現に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示す。
【図5】ヒト滑膜細胞におけるプロスタグランジン(PG)E産生に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示し、また、レーン2における##はレーン1に対して有意差(p<0.01)がある事を示し、レーン3〜6における**はレーン2に対して有意差(p<0.01)がある事を示す。
【図6】ヒト滑膜細胞におけるシクロオキシゲナーゼ(COX)−1及び−2産生に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はIL−1β(10ng/mL)、3はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(1μmol/L)、4はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(5μmol/L)、5はIL−1β(10ng/mL)+β−クリプトキサンチン(10μmol/L)、6はIL−1β(10ng/mL)+デキサメタゾン(1μmol/L)をそれぞれ示す。
【図7】ヒト滑膜細胞の生存率に対するβ−クリプトキサンチンの効果を説明する特性図であり、図中、レーン1は無処理(対照)、2はβ−クリプトキサンチン(1μmol/L)、3はβ−クリプトキサンチン(5μmol/L)、4はβ−クリプトキサンチン(10μmol/L)、5はβ−クリプトキサンチン(20μmol/L)、6はβ−クリプトキサンチン(50μmol/L)をそれぞれ示し、レーン6における***はレーン1に対して有意差(p<0.001)がある事を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)、
【化1】


【化2】


【化3】


(前記各式中、Rは、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ハロゲン、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示し、それらはヘテロ原子で置換されていてもよい;RおよびR2’は、水素、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す。構造式中のアルケン水素はハロゲン原子で置換されていてもよい。)で示される化合物、その治療上許容し得る塩、エーテル、エステル及び異性体からなる群から選択される少なくとも一種類のカロテノイドを含有するアグリカナーゼ産生阻害剤。
【請求項2】
前記カロテノイドが、α−カロテン、α−クリプトキサンチン、ルテイン、β−カロテン、β−クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン及びアスタキサンチンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載のアグリカナーゼ産生阻害剤。
【請求項3】
前記カロテノイドがβ−クリプトキサンチンであることを特徴とする請求項1又は2記載のアグリカナーゼ産生阻害剤。
【請求項4】
アグリカナーゼ関連疾患の治療及び/又は予防薬として使用することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のアグリカナーゼ産生阻害剤。
【請求項5】
アグリカナーゼ関連疾患が、関節リウマチ、変形性関節症、癌、骨関節症、関節損傷、若年性関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎、神経病性関節症(シャルコー関節)、血友病性関節症、感染性関節炎、強直性脊椎炎、ライター症候群、痛風、急性ピロリン酸関節炎(偽性通風)、炎症性腸疾患、クローン病、歯周疾患、骨粗鬆症及び人工関節インプラントの弛みからなる群から選択されることを特徴とする請求項4記載のアグリカナーゼ産生阻害剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−254411(P2007−254411A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82606(P2006−82606)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月30日 社団法人 日本薬学会主催の「日本薬学会第126年会」において文書をもって発表
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【Fターム(参考)】