説明

アシルグリセリド及び脂肪酸エステルの分析方法

【課題】トリアシルグリセリド(TG)、ジアシルグリセリド(DG)、モノアシルグリセリド(MG)及び脂肪酸エステル(FE)等が混在する試料において、各化合物群を定量する方法を提供する。
【解決手段】TG、DG、MG及びFEの4種類の化合物群より選ばれる異なる2種以上の化合物を含む試料を定量するに当たり、(A)試料の不飽和率を測定する工程、(B)液体クロマトグラフィーにより分離した化合物群を屈折率検出器により出力値を得る工程、(C)不飽和率と所定の関係式により屈折率感度比を求める工程、(D)出力値と屈折率感度比を用いて試料中の化合物群の含有量を算出する工程を含むアシルグリセリド及び脂肪酸エステルの分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオディーゼル燃料油製造工程等のアシルグリセリド及び/または脂肪酸エステルの化合物が混在する試料において、化合物群の含有量を測定する分析方法に関し、詳しくはアシルグリセリドとアルコールのエステル交換により得られた反応混合物中の脂肪酸エステル、アシルグリセリドを定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼル燃料は、動植物油脂のアルコリシス(メタノリシス)によって生成する脂肪酸のメチルエステルに代表されるように、油脂中のグリセロールとアルコールとをエステル交換して得られる脂肪酸エステルを指称するものである。
脂肪酸エステルの製造方法としては、一般的にはアルカリ触媒を用いて行われるが、その他にもリパーゼを用いた酵素反応やアルコールを超臨界または亜臨界状態で油脂と接触させる無触媒反応が知られている。
【0003】
バイオディーゼル燃料を製造する際、すなわち動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程の反応混合物中には、脂肪酸エステル(FE)、トリアシルグリセリド(TG)、ジアシルグリセリド(DG)、モノアシルグリセリド(MG)、グリセリン、アルコールが含まれており、それぞれ用途に適した純度まで反応が進んでいるかを知ることは重要である。しかし、これらは動植物油を原料としているため様々な構造の脂肪酸基を有するため、反応終了後の反応混合物中には、様々な構造の脂肪酸基を有する反応中間体や脂肪酸エステルが存在することになり、組成は複雑である。
【0004】
反応混合物中の組成の分析方法としては、脂肪酸エステルは比較的揮発性が高いためガスクロマトグラフィー(GC)分析で、グリセリドは難揮発性物質であるため液体クロマトグラフィー(LC)分析で測定することが行われている。
これらの分析方法においても、各化合物群を分取したり、複数の前処理を施して分析をしたり、様々な分析方法を組合せて測定しなくてはならなかった。また、種々の分析はその化合物毎に標準化合物において検量線を作成して補正するなど手間のかかる作業であった。
【0005】
LCを用いた例としては、界面活性剤を構成する親油基の測定(特許文献1)や芳香族化合物を含む炭化水素油の分析方法(特許文献2)、ポリグリセリンの分析方法(特許文献3)等様々な方法が提案されてはいるが、動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程での反応液のように、揮発性の高い化合物から難揮発性の低い化合物までが混在する系において、各化合物群の含有量を測定する方法は提案されていなかった。
【0006】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などで用いる屈折率(RI)検出器は、物質に特有の値である屈折率を検出するため汎用性が高い検出器であるが、紫外吸光光度(UV)検出器と比較すると、感度が低いが化合物間の感度差が少ないといわれている。RI検出器は移動相溶媒と試料成分との屈折率の差にほぼ比例した感度を持ち、目的成分濃度に比例した応答を示すため、例えば、HPLCにおいて、移動相溶媒の極性を変化させてグラジエント分離により各化合物を分離することは可能であり、その溶離液の処理方法も提案されている(特許文献4)が、その際、移動相の屈折率も変化するため、RI検出器での定量分析は困難であった。
【特許文献1】特開平10−73578号公報
【特許文献2】特許第3073757号公報
【特許文献3】特許第3339147号公報
【特許文献4】特開平9−229920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイオディーゼル燃料製造時には、各化合物の生成量を捉える必要はないが、反応生成物であるFEや原料であるTGの化合物群毎の量を、反応中間生成物であるMG、DGも含めて把握することは重要である。これら各化合物群が混在する試料を簡易な分析法により化合物群の含有量を測定する分析方法は提案されていなかった。本発明はこれらの課題を解決し、簡易な方法によりTG,DG、MG、FEを定量する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、TG、DG、MG及びFEが混在する試料の分析をRI検出器で定量する場合に、各化合物群のRI検出感度が試料の不飽和率と良い相関があることを見出した。これにより、個々の各化合物毎のRI感度を検量することなしに各化合物群の定量が行えることを発見し本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、トリアシルグリセリド(TG)、ジアシルグリセリド(DG)、モノアシルグリセリド(MG)及び脂肪酸エステル(FE)の4種類の化合物群より選ばれる異なる2種以上の化合物を含む試料を定量するに当たり、(A)試料の不飽和率を測定する工程、(B)液体クロマトグラフィーにより分離した化合物群を屈折率検出器により出力値を得る工程、(C)不飽和率と所定の関係式により屈折率感度比を求める工程、(D)出力値と屈折率感度比を用いて試料中の化合物群の含有量を算出する工程を含むアシルグリセリド及び脂肪酸エステルの分析方法である。
【0010】
また、動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程において、その反応生成物を前述の方法により分析し、前記エステル交換反応のモニタリングをする脂肪酸エステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリアシルグリセリド(TG)、ジアシルグリセリド(DG)、モノアシルグリセリド(MG)及び脂肪酸エステル(FE)の4種類の化合物群が混在する試料中の化合物群毎の定量を、各化合物毎のRI感度の測定をすることなしに行うことができ、この分析方法を動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程のモニタリングに適用することにより、脂肪酸エステルの製造工程の反応制御や製品の品質管理にも応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、TG、DG、MG及びFEの4種類の化合物群より選ばれる異なる2種以上の化合物を含む試料を定量する方法に関する。分析に供する試料は上記化合物群の異なる化合物群に含まれる2種以上の化合物が含まれていれば、天然由来の動植物油脂でも、特定のアシルグリセリドとアルコール(メタノール、エタノール等の低級アルコール)のエステル交換反応の反応液でも構わない。
【0013】
本発明の(A)工程での不飽和率とは、不飽和率(X)=脂肪酸基の炭素・炭素二重結合の数/分子量で定義され、複数の化合物からなる混合物では、分子量は試料の平均分子量と、脂肪酸基の炭素・炭素二重結合の数は試料中に含まれる脂肪酸基の炭素・炭素二重結合の平均の数と読み替えて構わない。
【0014】
ここで、不飽和率を測定する工程に特に制限はなく、どのような方法から不飽和率を求めて構わない。原料トリアシルグリセリドの不飽和率が予め特定できる反応系ならば、生成物の不飽和率を測定をせずに原料の不飽和率を用いることもできる。種々の化合物の混合系である場合は、既知の方法によりその不飽和率を求めるために必要な分析を行う。例えば、試料中の二重結合の数を求めるには、試料中の脂肪酸組成を測定すればよく、油脂をアルカリケン化分解し、三フッ化ホウ素−メタノール法等によりメチルエステル化してGC分析するなどの従来法を使用して求めればよい。
【0015】
不飽和率は各化合物群毎に求めることが好ましいが、各化合物群への分画操作や、各化合物の揮発性に応じた前処理操作等の作業が煩雑になるため、バイオディーゼル燃料製造時のように、原料の脂肪酸組成が一定とみなせる場合には、反応工程液の全化合物群の不飽和率を測定しなくても、一つの化合物群の不飽和率を測定して、他の化合物群の不飽和率として用いることができる。
【0016】
(B)工程の、LCにより分離した化合物群をRI検出器により出力値を得る工程とは、LCにより分離した化合物群毎のRI検出器の出力信号を積分し、相対面積値等の化合物群の量に相関した出力値を得る工程をいう。
【0017】
LCとしては、シリカゲルカラムを用いた吸着カラムクロマトグラフィー(順相クロマトグラフィーともいう)やオクタデシルシラン結合型カラムを用いた分配カラムクロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィーともいう)などあるが、様々な高分子充填剤の分子ふるい効果を利用して、溶質サイズ(分子量)によって分離する方法であるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が好ましく用いられる。
【0018】
化合物群毎の分離には、排除限界が分子量2000以下のポリスチレン系カラムを使用することが好ましい。カラムの例としては、ポリマーラボラトリー社製、50Åカラム、東ソー製のTSKgel G1000H8などの排除限界が分子量2000以下のカラムが挙げられる。
【0019】
LCの移動相としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、クロロホルムなどの汎用の有機系溶媒を使用することができる。
【0020】
LC分析装置としてヒューレットパッカード社製1050を用い、データ処理システムにシステムインスツルメンツ480データ処理システム、RI検出器にWaters社製410を備えた分析装置を用い、カラムにポリマーラボラトリー社製50Åを、移動相としてTHFを1.0mL/分、カラム温度25℃、試料注入量100μLの測定条件下で、SIGMA社製の各試薬をサイズ排除クロマトグラフィー分析した際のクロマトグラムを図1に示す。リテンションタイムの早い方から順にTG、DG、MG、FEの各化合物群が分画できる。ここでは図示していないが、FEのリテンションタイムのよりさらに後にグリセンリン、メタノールが分離される。
【0021】
(C)工程における所定の関係式について説明する。
RI感度はその化合物構造により異なるため、各化合物毎の感度補正を行うことなく、正確な含有量を求めることはできない。そこで、各化合物のRI感度を予め求めて補正することが必要となるが、多様な化合物の混合物からなる試料に対し、夫々の化合物に対してRI感度を測定するのは困難であり、実用的でない。本発明者は化合物群毎の含有量を測定する場合において、そのRI感度比を容易に算出できる方法を見出した。
【0022】
以下にその背景となる実験経緯を説明する。
まず、脂肪酸構造が異なる各化合物を試薬で入手し、そのRI感度を前記同条件でSECを行い、その出力値(相対面積値)から、特定の基準化合物に対するRI感度比を求めた。
ここでは、炭素数18の不飽和脂肪酸であるリノール酸から構成されるトリアシルグリセリドであるトリリノレイン(C5798分子量)を基準化合物とした方法を一例として示す。各化合物のトリリノレインを基準としたRI感度比(Y)を表1に示す。例えば、トリオレイン(C57104)では0.87、1,3−ジオレイン(C3972)では0.92、1−モノオレイン(C2140)では0.90、オレイン酸メチル(C1936)では0.63である。
【0023】
【表1】

【0024】
これら実験結果から、各化合物単体のRI感度比(Y)は、前述した不飽和率(X)と相関があり、所定の関係式、本例では、(1)式に示すように、RI感度比(Y)は不飽和率(X)の2次関数として整理されることを見出した。
Y=0.47+(Z×0.23)+54.2X−1595X・・・・・(1)
ここでZは化合物群におけるグリセリン骨格の数である。
【0025】
本例では、グリセリン骨格に結合する脂肪酸は同一の物を用いたが、上記結果より、不飽和率とRI感度に所定の関係式があることが判明したことにより、結合する脂肪酸が複数種類であっても、前述した不飽和率(X)と上記の所定の関係式(1)により、各化合物群毎のRI感度比(Y)を容易に算出することができることがわかる。
【0026】
不飽和率(X)とRI感度比(Y)は高い相関があるため、測定条件等が異なっても測定系毎にこの所定の関係式、特には2次関数を定めることにより、不飽和率(X)からRI感度比(Y)を求めることができる。
【0027】
(D)工程は、(B)工程で求めた出力値と(C)工程で求めたRI感度比を用いて試料中の化合物群の含有量を算出する工程である。通常は、各化合物群毎に(B)工程で求めた出力値を(C)工程で求めたRI感度比で除して補正した値を、全試料に対する分率として算出する。
【0028】
また、本発明は、動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程において、その反応生成物を前述の分析方法により分析し、前記エステル交換反応のモニタリングをすることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法である。
【0029】
前記エステル交換反応のモニタリングをするとは、前述の分析方法により分析し、反応生成物の生成量を把握し、所望する反応率に達しているかを判別し、反応温度や反応時間、撹拌条件などの反応に関与する諸条件を変更するかどうかの判断を行うことをいう。
例えば、バッチ式で動植物油脂とメタノールとのエステル交換反応を行う際に、経時的に反応液を前記分析法により分析し、脂肪酸エステルの生成量が所定量に達していない場合、反応時間を延長したり、反応温度を変更したりする脂肪酸エステルの製造方法である。
【0030】
以下に例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1、比較例1)
トリリノレイン30.3重量部、トリオレイン13.5重量部、トリパルミチン6.2重量部からなるトリグリセリド(TG)を50.0重量%、リノール酸メチル30.3重量部、オレイン酸メチル13.5重量部パルミチン酸メチル6.2重量部からなる脂肪酸エステル(FE)を50.0重量%からなる試料1を調整した。
【0032】
この試料1を、RI検出器(Waters社製410)を備えた液体クロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製1050、データ処理システム:システムインスツルメンツ480データ処理システム)を用い、カラムにポリマーラボラトリー社製50Å(300mm×7.5mmφ)を使用して、移動相としてTHFを1.0mL/分、カラム温度25℃、試料注入量100μLの測定条件下で、SEC分析を行った。
SECによる相対面積値より求めた測定結果を比較例1として表2に示した。
【0033】
本実施例1ではトリリノレインのRI感度を基準としたRI感度比(Y)に基づく関係式(1)を使用した。また、不飽和率(X)は試料中のFEの組成であるリノール酸メチル30.3重量部、オレイン酸メチル13.5重量部パルミチン酸メチル6.2重量部からなる試料2を無極性のキャピラリーカラム(DB−1:J&W Science社製0.25mmφ×30m)を備えたGC(島津製作所製GC−17A:検出器FID)を用いて脂肪酸組成を分析し、その測定結果より不飽和率(X)を求めた。不飽和率(X)は0.0050であった。
【0034】
資料中のFEの平均分子量は292.07であり、RI感度比(YFE)は(1)式においてZ=0、先に求めた不飽和率(X)=0.0050を用いて、YFE=0.70と算出される。理論値より不飽和率を計算すると不飽和率(XFE)は0.0051であった。
同様にTGの平均分子量は872.13であり、RI感度比(YTG)は(1)式においてZ=1、不飽和率(X)は脂肪酸組成比がTGとFEで一定とみなせるため、FEの不飽和率(X)を代用して算出し、YTG=0.94となる。理論値より算出した不飽和率(XTG)は0.0051であった。
【0035】
SECによる面積値より求めた各化合物群の出力値(比較例1)でのTG、FEの各濃度はATG:57.6重量%、AFE:42.4重量%であった。この各出力値と各RI感度比(Y)を用い演算処理することにより各化合物群の含有量を求めると、TG:50.3重量%、FE:49.7重量%となった。
【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】各化合物のSEC分析のクロマトグラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリド及び脂肪酸エステルの4種類の化合物群より選ばれる異なる2種以上の化合物を含む試料を定量するに当たり、(A)試料の不飽和率を測定する工程、(B)液体クロマトグラフィーにより分離した化合物群を屈折率検出器により出力値を得る工程、(C)不飽和率と所定の関係式により屈折率感度比を求める工程、(D)出力値と屈折率感度比を用いて試料中の化合物群の含有量を算出する工程を含むアシルグリセリド及び脂肪酸エステルの分析方法。
【請求項2】
動植物油脂とアルコールとのエステル交換により脂肪酸エステルを製造する工程において、その反応生成物を請求項1記載の方法により分析し、前記エステル交換反応のモニタリングをすることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−205757(P2007−205757A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22431(P2006−22431)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】